【実施例】
【0044】
(実施例1)
抵抗溶接用電極の一例として、熱カシメ用溶接電極を選択した例を示す。
【0045】
図1の1に示すような、溶接面に円柱状のタングステン材1を有する、「F型(平面形)」と呼ばれる円柱の先端部が平面形状の電極10を製作した。タングステン材の溶接面を含む面Aは表面が炭化タングステンである。
【0046】
以下にその製法を説明する。
【0047】
タングステン材は公知の方法により得られたタングステンの焼結体を用いる。
【0048】
タングステン焼結体を切断および機械加工し、F形の(円柱状)のチップ部とした。
【0049】
このチップ部をシャンク部となる銅材と共に炉中で埋設固着を行なった。埋設固着の条件は下記である。
シャンク部の材質:純銅(C1020)
チップ部とシャンク部の接合条件:1150℃、Ar雰囲気にて埋設固着
こうして、チップ部とシャンク部とが一体となった電極材が得られた。
【0050】
この電極材の溶接面を含むチップ部が露出した面に、コロイド状のカーボンを分散したカーボンスプレーにて噴霧し、乾燥機にて乾燥させた。
【0051】
乾燥後に再び炉に投入し、水素ガス雰囲気中、1000℃で熱処理を行なった。この熱処理により、チップ部の表面にあるカーボンがチップ部のタングステンに取り込まれ、表面に炭化タングステンが生成した。
【0052】
カーボンスプレーを塗布したチップ表面は、タングステンが一様に表面から40〜50μm程度炭化しており、炭化タングステンとなっていた。X線回折にて観察したところ、W
2CとWCが観察され、Wは観察されなかった。この熱処理を行なった部分の断面写真を
図3に示す。表面から約50μmの比較的色の薄い部分が炭化タングステンであり、内部(図面下方)のやや濃い灰色部分はWのままである。
【0053】
以上の工程にて本発明の一形態である、チップ部とシャンク部を有する、F形の抵抗溶接用電極を得た。これを電極1とする。
【0054】
電極1を得るための最後の工程、すなわちタングステン表面を炭化する工程を行わなかった従来の円柱状電極を比較電極1とする。
【0055】
比較電極1は電極1と、炭化タングステン層を有していないことのみが異なる。
【0056】
電極1と比較電極1にて
図5に要部を示す溶接装置にて、抵抗溶接方法の1種である熱カシメの試験を行った。溶接装置は1対の電極(チップ部は円柱状)と、被溶接材である10本の銅製のワイヤー、ワイヤーの束をまとめるスズメッキをした銅製の銅線用裸圧着端子(R型)丸型からなる。圧着端子内に挿入された複数のワイヤーを抵抗溶接にて一体化するのが目的である。圧着端子の筒内にワイヤーを挿入し、その部分を一対の抵抗溶接用電極にて挟み、電流を流してワイヤー部より発熱させることによりワイヤーを軟化させ、更に電極にて加圧することで全ワイヤーと圧着端子とを一体化させる。
【0057】
この試験を一対の電極1と、一対の比較電極1を用いて行なった。
【0058】
比較電極1の結果について先に述べる。
【0059】
寿命については、再研磨など無しで3000ショットの使用が可能であった。使用直後からタングステンの表面部分に黄色い粉状の付着物(WO
3)7が生成し始め、それは寿命に至るまで発生し続けた。電気抵抗は特に初期段階での変化が大きく、数ショットごとに電圧値を調整する必要があった。また、3000ショット使用後に電極C部は特に径方向に酸化消耗の現象が起こっており、直径が約1mm減少していた。
【0060】
先端部の再研磨にて再利用は可能だが、2、3回の再研磨後には酸化消耗による径の縮小により、強度が保てなくなると予想できる。
【0061】
次に電極1の結果について述べる。
【0062】
寿命は再研磨無しで10000ショットの使用が可能であった。使用直後から寿命まで、電気抵抗の大きな変化は無く、安定していた。炭化タングステンの被膜を有する表面部分は酸化がほとんど起こっておらず、粉状の酸化物の付着も見られなかった。また、先端部は若干のひび割れが入っていたが、C部を含む電極側面に径の変化は殆ど現れなかった。
(実施例2)
抵抗溶接用電極の一例として、スポット溶接電極を選択した例を示す。
【0063】
図6の20に示すような、弾丸状のモリブデン材1を有する、「DR型(ドームラジアス形)」と呼ばれる円柱の先端部がなだらかなR曲面である電極20を製作した。モリブデン材の溶接面を含む面Aは表面が炭化モリブデンである。
【0064】
以下にその製法を説明する。
【0065】
モリブデン材は公知の方法により得られたモリブデンの焼結体を用いる。
【0066】
モリブデン焼結体を切断および機械加工し、DR形の(ドームラジアス形)の抵抗溶接用電極形状とした。
【0067】
この電極材料の溶接面を含む全面に、コロイド状のカーボンを分散したカーボンスプレーを噴霧し、乾燥機にて乾燥させた。
【0068】
乾燥後に再び炉に投入し、水素ガス雰囲気中、750℃で熱処理を行なった。この熱処理により、電極材料の表面にあるカーボンが、電極材料のモリブデンに取り込まれ、表面に炭化モリブデンが生成した。
【0069】
カーボンスプレーを塗布した電極材料は、モリブデンが一様に表面から100〜120μm程度炭化しており、炭化モリブデンとなっていた。X線回折にて観察したところ、MoCが観察され、Moは観察されなかった。
【0070】
以上の工程にて本発明の一形態である、電極表面に炭化物層(MoC)を有する、DR形の抵抗溶接用電極を得た。これを電極2とする。
【0071】
電極2を得るための最後の工程、すなわちモリブデン表面を炭化する工程を行わなかった従来のDR形電極を比較電極1とする。
【0072】
比較電極2は電極2と、炭化モリブデン層を有していないことのみが異なる。
【0073】
電極2と比較電極2にて
図6に要部を示す溶接装置にて、抵抗溶接方法の1種であるスポット溶接の試験を行った。溶接装置は1対のDR形の電極、被溶接材は2枚のアルミ板であり、2枚のアルミ板を溶接して接合する。
【0074】
この試験を一対の電極2と、一対の比較電極2を用いて行なった。
【0075】
比較電極2の結果について先に述べる。
【0076】
寿命については、再研磨など無しで1500ショットの使用が可能であった。使用直後からモリブデンの表面に粉状の付着物(MoO
3)が生成し始め、それは寿命に至るまで発生し続けた。電気抵抗は特に初期段階での変化が大きく、数ショットごとに電圧値を調整する必要があった。また、表面で被溶接材から最も遠いB部以外の部分は、酸化消耗により、表面から深さ方向に100μm以上寸法が減少していた。
【0077】
表面全体の再研磨にて再利用は可能だが、径方向に小さくなってしまう為に、数回の再研磨後にはDR形としての形状が保持できなくなり、完全に使用できなくなると考える。
【0078】
次に電極2の結果について述べる。
【0079】
寿命は再研磨無しで5000ショットの使用が可能であった。使用直後から寿命まで、大きな電気抵抗の変化は無く、安定していた。炭化モリブデンの被膜を有する表面部分は酸化がほとんど起こっておらず、粉状の酸化物の付着も見られなかった。また、先端部は若干のひび割れが入っていたが、C部を含む電極側面に径の変化は殆ど現れなかった。