(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基板のレジスト膜を形成する表面が、反応性スパッタリング法により形成された薄膜の表面であり、前記薄膜が、少なくとも、Cr、Ta、Si、Mo、Ti、V、Nb及びWからなる群から選択される1以上の元素を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載のマスクブランクの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マスクブランク基板の表面には、金属化合物及びケイ素化合物等を材料とする薄膜が形成され、その薄膜の表面にレジスト膜が形成される。一般に、金属化合物及びケイ素化合物等を材料とする薄膜の表面エネルギーが低いため、その薄膜表面は、塗布したレジスト液をはじきやすい。レジスト液の濡れ性が悪い場合には、レジスト液がその薄膜の表面に密着する前に乾き始めてしまい、被塗布面とレジスト膜との間に気泡状の空間が形成されることがある。このような気泡は、例えば100nm以下の微細な欠陥となる。
【0008】
また、マスクパターンの微細化の要請、例えば、半導体デバイスにおけるハーフピッチ45nmノードに適合できるというような要請により、微小な異物の付着も許容できなくなってきた。例えば、静止又は例えば回転速度200rpm以下の低回転速度状態でレジスト液を滴下する場合、非常に細かな異物が遠心力によって飛ばされることなく定着し、例えば1000nm以下の微細な異物が表面に残る現象が生じることがある。また、静止又は低回転速度状態でレジスト液を滴下する場合、滴下時の環境を減圧状態にすると、レジスト液の滴下の際にレジスト液の溶媒揮発が促進されるため、異物が定着しやすくなる。
【0009】
このような異物を抑制するために、界面活性剤が添加されたレジスト液が用いられる。しかしながら、現像時に生じる微細な欠陥のうち、レジスト液に添加された界面活性剤が発生要因であると考えられるものもある。このようなことから、界面活性剤に起因する欠陥の発生を避けるため、界面活性剤成分の添加がされていない、又は、界面活性剤成分を少量に抑えたレジスト液が使用されている。界面活性剤の添加がされていないレジスト液を低表面エネルギーの被塗布面に塗布しようとすると、当然のことながら濡れ性が悪くなり、微細な気泡に起因する欠陥が発生することになる。
【0010】
そこで、本発明は、レジスト膜を形成するためのレジスト塗布工程において、レジスト膜に微細な欠陥の発生、特に微細な気泡に起因する欠陥の発生を抑制することのできる、マスクブランク及び転写用マスクの製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記の構成1〜14のマスクブランクの製造方法、及び構成15の転写用マスクの製造方法である。
【0012】
(構成1)
本発明は、基板上にレジスト材料からなるレジスト膜を形成するためのレジスト塗布工程を含むマスクブランクの製造方法であって、前記レジスト塗布工程が、四角形状の前記基板上に、レジスト材料及び溶剤を含むレジスト液を滴下するための滴下工程を含み、滴下工程が、時間tのときの前記基板の回転速度をR(t)、前記レジスト液の滴下開始時間をt
A、前記レジスト液の滴下終了時間をt
Bとしたときに、t
A≦t≦t
Bの時間範囲において、(1)R(t
A)<R(t
B)の関係と、(2)t
AからR(t
B)に達するまでの間、t
1<t
2である任意の時間t
1及びt
2に対して、R(t
1)≦R(t
2)の関係と、(3)0≦R(t
A)<700rpmの関係と、(4)t
AからR(t
B)に達するまでの時間が0.1秒以上である関係と、を満たすように、前記基板の回転速度R(t)が変化することを含む、マスクブランクの製造方法である。
【0013】
(構成2)
本発明のマスクブランクの製造方法では、(2)の関係において、t
1<t
2である任意の時間t
1及びt
2に対して、R(t
1)<R(t
2)の関係であることが好ましい。
【0014】
(構成3)
本発明のマスクブランクの製造方法では、前記回転加速度dR(t)/dtが、一定であることが特に好ましい。
【0015】
(構成4)
本発明のマスクブランクの製造方法では、前記基板の回転速度R(t)が、t
AからR(t
B)に達するまでの時間範囲において変化するとき、回転速度R(t)の加速度である回転加速度dR(t)/dtが、10rpm/≦dR(t)/dt≦1000rpm/秒であることが好ましい。
【0016】
(構成5)
本発明のマスクブランクの製造方法では、前記滴下工程が、t
A≦t≦t
Yの時間範囲において、前記基板の回転速度R(t)を加速する回転加速段階と、t
Y<t≦t
Zの時間範囲において、前記基板の回転速度R(t)が一定である回転速度維持段階とを含み、前記回転速度維持段階を開始する時間t
Yと、前記レジスト液の滴下終了時間t
Bとの関係が、t
Y≦t
Bであり、前記回転速度維持段階の回転速度R(t)(t
Y<t≦t
Z)が、R(t)≧300rpmであり、前記回転加速段階での前記回転加速度dR(t)/dt(t
A≦t≦t
Y)が、10rpm/秒≦dR(t)/dt≦1000rpm/秒を満たし、一定の前記回転加速度により前記基板の回転速度が加速されることが好ましい。
【0017】
(構成6)
本発明のマスクブランクの製造方法では、前記回転速度維持段階の前記基板の回転速度R(t)(t
Y<t≦t
Z)が、500rpm≦R(t)≦1000rpmであることが好ましい。
【0018】
(構成7)
本発明のマスクブランクの製造方法では、前記レジスト塗布工程が、前記滴下工程の次に、前記基板の回転速度を低くするか又は回転を停止する休止工程をさらに含むことが好ましい。
【0019】
(構成8)
本発明のマスクブランクの製造方法では、前記レジスト塗布工程が、前記滴下工程の後に、R(t
B)より速い基板の回転速度で基板を回転する均一化工程をさらに含むことが好ましい。
【0020】
(構成9)
本発明のマスクブランクの製造方法では、前記休止工程と、前記均一化工程との間に、均一化工程の高速回転速度に向けて段階的に回転速度を上げるプレ回転工程を含むことが好ましい。
【0021】
(構成10)
本発明のマスクブランクの製造方法では、前記均一化工程において、前記基板に向かう気流を生起させるように排気を行うための排気手段を稼働させることを含むことが好ましい。
【0022】
(構成11)
本発明のマスクブランクの製造方法は、前記基板のレジスト膜を形成する表面が、反応性スパッタリング法により形成された薄膜の表面であり、前記薄膜が、少なくとも、Cr、Ta、Si、Mo、Ti、V、Nb及びWからなる群から選択される1以上の元素を含む表面にも好ましく適用することができる。
【0023】
(構成12)
本発明のマスクブランクの製造方法は、前記基板のレジスト膜を形成する表面が、反応性スパッタリング法により形成された薄膜の表面であり、前記薄膜が、少なくともCrを含み、前記薄膜に含まれるCrの割合が少なくとも50原子%以上の表面にも特に好ましく適用することができる。
【0024】
(構成13)
本発明のマスクブランクの製造方法は、前記基板のレジスト膜を形成する表面が、反応性スパッタリング法により形成された薄膜の表面であり、前記薄膜が、少なくともSiを含む表面にも特に好ましく適用することができる。
【0025】
(構成14)
本発明のマスクブランクの製造方法では、前記レジスト液が、界面活性剤が実質的に含まない場合にも適用することができる。
【0026】
(構成15)
本発明は、構成1〜14のいずれか1項に記載のマスクブランクの製造方法によって製造されたマスクブランクの前記レジスト膜をパターニングしてレジストパターンを形成し、前記レジストパターンをマスクにしてマスクパターンを形成して転写用マスクを製造することを特徴とする転写用マスクの製造方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、レジスト膜を形成するための前記レジスト塗布工程において、レジスト膜に微細な欠陥の発生、特に微細な気泡に起因する欠陥の発生を抑制することのできる、マスクブランク及び転写用マスクの製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明のマスクブランクの製造方法は、基板上にレジスト液を滴下して、レジスト材料からなるレジスト膜を形成するための滴下工程において、レジスト液の滴下を、基板の回転速度を加速させながら行うことに特徴がある。本発明者らは、基板の回転速度を加速させながらレジスト液を滴下するという塗布方法により、レジスト液の滴下初期の段階で緩やかにレジスト液を被塗布面に塗り拡げることができることを見出した。本発明者らは、さらに、この塗布方法を用いるならば、表面エネルギーの比較的低い被塗布面であっても、被塗布面全体をレジスト液で濡らすことができるため、微細な気泡に起因する欠陥が生じにくいことを見出し、本発明に至った。
【0030】
本発明のマスクブランク10の製造方法では、まず、基板11の表面に所定の薄膜14が形成された薄膜付き基板15を用意する(
図4(A))。次に、薄膜付き基板15の薄膜14の表面に、所定の方法でレジスト液26を滴下・塗布し、レジスト膜16を形成することによって、本発明のマスクブランク10を製造することができる(
図4(B))。本発明のマスクブランク10の薄膜14に対して所定のパターニングを施すことにより、被転写体へ転写するためのマスクパターン13を有する転写用マスク18を製造することができる(
図4(C))。
【0031】
本発明のマスクブランク10の製造方法に用いる基板11としては、ガラス基板を用いることができる。ガラス基板としては、マスクブランク10として用いられるものであれば、特に限定されない。例えば、合成石英ガラス、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、無アルカリガラスなどが挙げられる。また、反射型マスクブランク用(EUVマスクブランク用)のガラス基板の場合は、露光時の熱による被転写パターンの歪みを抑えるために、約0±1.0×10
−7/℃の範囲内、より好ましくは約0±0.3×10
−7/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するガラス材料が使用される。さらに、EUVマスクブランクは、ガラス基板上に多数の薄膜が形成されるため、膜応力による変形を抑制できる剛性の高いガラス材料が使用される。基板11としては、特に、65GPa以上の高いヤング率を有するガラス材料が好ましい。例えば、SiO
2−TiO
2系ガラス、合成石英ガラスなどのアモルファスガラスや、β−石英固溶体を析出した結晶化ガラスが用いられる。
【0032】
本発明のマスクブランク10の製造方法に用いる基板11の形状は、四角形状であることが好ましい。一般的に、基板11の角の部分に対しても均一にレジスト液26を塗布することは容易ではない。一方、本発明のマスクブランク10の製造方法を用いるならば、基板11の角の部分に対しても、均一にレジスト液26を塗布し、欠陥の抑制されたレジスト膜16を得ることができる。
【0033】
本発明のマスクブランク10の製造方法に用いる薄膜付き基板15は、四角形状の基板11の主表面に、スパッタリング法、蒸着法又はCVD法などを用いて薄膜14を成膜することにより、製造することができる。
【0034】
薄膜14は、露光光(例えばArFエキシマレーザーなど)に対して光学的変化をもたらすものである。薄膜14としては、具体的には、露光光を遮光する遮光膜や、露光光の位相を変化させる位相シフト膜(この位相シフト膜には、遮光機能及び位相シフト機能を有するハーフトーン膜も含む)、反射型マスクブランクに用いられる積層構造(例えば、多層反射膜、吸収体及びエッチングマスクからなる積層構造)の薄膜などを挙げることができる。
【0035】
遮光膜としては、例えばCr系化合物、Ta系化合物、W系化合物や、MoSi等の遷移金属シリサイド、MoSiN等の遷移金属シリサイド化合物の膜が挙げられる。
【0036】
位相シフト膜としては、例えば、MoSiO、MoSiON、MoSiNといった遷移金属シリサイド化合物の膜が挙げられる。
【0037】
位相シフトマスクブラック及びバイナリーマスクブランクの薄膜14は、単層に限らず、上記の遮光膜や位相シフト膜に加えてエッチングストッパー層やエッチングマスク層等の複数の層を積層した積層膜を用いることができる。薄膜14の積層膜としては、例えば遮光膜の積層膜及び位相シフト膜と遮光膜とを積層した積層膜などを挙げることができる。
【0038】
多層反射膜は、EUV光に適用可能な多層反射膜であり、Si/Ru周期多層膜、Be/Mo周期多層膜、Si化合物/Mo化合物周期多層膜、Si/Nb周期多層膜、Si/Mo/Ru周期多層膜、Si/Mo/Ru/Mo周期多層膜及びSi/Ru/Mo/Ru周期多層膜等が挙げられる。多層反射膜の表面には、Ta系材料等からなる吸収体層が形成され、さらにその上にCr系化合物からなるエッチングマスク膜が形成される。
【0039】
本発明のマスクブランク10の製造方法によって製造できるマスクブランク10としては、バイナリーマスクブランク、位相シフト型マスクブランク及び反射型マスクブランクを挙げることができる。
【0040】
バイナリーマスクブランク及び位相シフト型マスクブランクの場合には、基板11として合成石英ガラスからなる透光性基板が用いられる。バイナリーマスクブランクとしては、薄膜14として遮光膜が形成されたマスクブランクが挙げられ、位相シフトマスクブランクとしては、薄膜14として位相シフト膜(ハーフトーン膜も含む)が形成されたマスクブランクを挙げることができる。
【0041】
また、反射型マスクブランクの場合には、基板11として熱膨張係数の小さい低熱膨張ガラス(SiO
2−TiO
2ガラス等)が用いられる。反射型マスクブランクは、この基板11上に、光反射多層膜と、マスクパターン13となる光吸収体膜とを順次形成したものである。反射型マスクブランクの場合には、これらの光反射多層膜、光吸収体膜及びエッチングマスク膜が、薄膜14である。
【0042】
本発明のマスクブランク10の製造方法は、基板11(薄膜付き基板15)上にレジスト材料からなるレジスト膜16を形成するためのレジスト塗布工程を含む。尚、本発明のマスクブランク10の製造方法では、基板11上に直接レジスト膜16を形成することが可能である。しかしながら、一般的には、薄膜付き基板15の表面にレジスト膜16を形成するので、以下では、薄膜付き基板15の薄膜14の表面にレジスト液26を塗布する形態について説明する。ただし、本明細書において、例えば、「薄膜付き基板15」のことを単に「基板」という場合もある。特に「基板の回転速度」及び「薄膜付き基板15の回転速度」は、どちらも回転塗布装置20の回転速度を示すものなので、両者は同義である。
【0043】
図1に、本発明の製造方法のレジスト塗布工程における時間と、薄膜付き基板15の回転速度との関係を示す。また、
図2に、本発明の製造方法のレジスト塗布工程の手順の一例を示すフロー図を示す。また、
図3に、薄膜付き基板15の薄膜14の表面にレジスト液26を塗布してレジスト膜16を形成するための回転塗布装置20の一例の側断面図を示す。
【0044】
本発明のマスクブランク10の製造方法におけるレジスト塗布工程について、
図1、
図2及び
図3を参照しながら説明する。
図2に示すように、本発明のマスクブランク10の製造方法におけるレジスト塗布工程は、回転加速段階(S1)を含む滴下工程を含む。滴下工程は、回転速度維持段階(S2)をさらに含むことができる。また、本発明のマスクブランク10の製造方法におけるレジスト塗布工程は、休止工程(S3)、プレ回転工程(加速)(S4)、プレ回転工程(維持)(S5)、均一化工程(S6)及び乾燥工程(S7)を必要に応じて含むことができる。また、レジスト塗布工程は、回転加速段階(S1)の前に、初期回転段階(S0)をさらに含むことができる。
【0045】
回転塗布装置20は、
図3に示すように、四角形状の基板11上に、例えば遮光膜を形成した薄膜付き基板15を載置し回転可能に保持するスピンナーチャック21と、薄膜付き基板15上にレジスト液26を滴下するためのノズル22と、滴下されたレジスト液26が薄膜付き基板15の回転により薄膜付き基板15外方に飛散した後に回転塗布装置20の周辺に飛散するのを防止するためのカップ23と、カップ23の上方に、薄膜付き基板15外方に飛散したレジスト液26をカップ23の外側下方へと誘導するインナーリング24と、薄膜付き基板15に向かう気流34を生起させるように排気を行う排気手段30とを備えている。
【0046】
上述のスピンナーチャック21には、薄膜付き基板15を回転させるためのモーター(図示せず。)が接続されており、このモーターは後述する回転条件に基づいてスピンナーチャック21を回転させる。
【0047】
また、カップ23の下方には、排気量を制御する排気量制御手段が備えられた排気手段30と、回転中に薄膜付き基板15外に飛散したレジスト液26を回収し排液する排液手段(図示せず。)が設けられている。
【0048】
上記回転塗布装置20を用いたレジスト塗布工程では、最初に、薄膜付き基板15を基板搬送装置(図示せず。)によって回転塗布装置20のスピンナーチャック21へ移送し、このスピンナーチャック21上に薄膜付き基板15を保持する。
【0049】
レジスト塗布工程は、次に、
図1及び
図2に示すように、四角形状の薄膜付き基板15上に、レジスト材料及び溶剤を含むレジスト液26を滴下するための滴下工程を含む。具体的には、レジスト液26は、回転塗布装置20のノズル22から、薄膜付き基板15の薄膜14の表面に滴下される。
【0050】
滴下工程は、薄膜付き基板15の回転速度が加速的に変化する回転加速段階(S1)を含む。本発明のマスクブランク10の製造方法は、滴下工程の際に、モーターによりスピンナーチャック21を介して薄膜付き基板15を所定の回転速度で回転させ、かつその回転速度を加速させながら、レジスト液26を滴下することに特徴がある。
【0051】
本発明のマスクブランク10の製造方法では、時間tのときの基板11(薄膜付き基板15)の回転速度をR(t)、レジスト液26の滴下開始時間をt
A、レジスト液26の滴下終了時間をt
Bとしたときに、t
A≦t≦t
Bの時間範囲において、次の4つの条件を満たすように、基板11(薄膜付き基板15)の回転速度R(t)を変化させる。
(1)R(t
A)≦R(t
B)の関係
(2)t
1<t
2である任意の時間t
1及びt
2に対して、R(t
1)≦R(t
2)の関係
(3)0≦R(t
A)<700rpmの関係、及び
(4)t
AからR(t
B)に達するまでの時間が0.1秒以上である関係。
【0052】
条件(1)の関係は、滴下終了時間t
Bのときの基板の回転速度R(t
B)が、滴下開始時間t
Aのときの基板の回転速度R(t
A)より速いことを意味する。
図1に示す例では、レジスト液26の滴下開始時間t
Aと同じ時間t
Xに基板の回転速度の加速が開始され、レジスト液26の滴下終了時間t
Bより前の時間t
Yに回転速度R(t
B)に達したことを示す。基板11の加速開始時間t
Xから加速終了時間t
Yにまでの間が、回転加速段階(S1)である。尚、
図1に示す例では、t
A=t
Xであるが、条件(1)〜(4)の関係をすべて満たすのであれば、必ずしもt
A=t
Xである必要はない。また、加速終了時間t
Yは、レジスト液26の滴下終了時間t
Bより前であることもできる。
【0053】
条件(2)の関係は、滴下開始時間t
Aと、滴下終了時間t
Bとの間、基板の回転速度R(t)は減速せず、単調増加して加速することを意味する。基板の回転速度R(t)が加速しているときに、レジスト液26を滴下することにより、レジスト液26の滴下初期の段階で緩やかにレジスト液26を薄膜付き基板15の表面に塗り拡げることができる。その結果、表面エネルギーの比較的低い薄膜付き基板15の表面であっても、表面全体をレジスト液26で濡らすことができるため、レジスト液26の気泡に起因する欠陥が生じにくい。
図1に示す例では、加速開始時間t
Xから加速終了時間t
Yまでの間、基板の回転速度は、一定の回転加速度で加速されている。しかしながら、条件(1)〜(4)の関係をすべて満たすのであれば、必ずしも一定の回転加速度で加速される必要はなく、短時間の間、同じ回転速度を維持することもできる。また、条件(1)の関係によると、滴下開始時間t
Aと、滴下終了時間t
Bとの間、基板の回転速度R(t)は減速しないので、基板の回転速度が回転速度R(t
B)に達した後、すなわち、回転速度が回転速度R(t
B)に達する加速終了時間t
Yより後は、少なくともレジスト液26の滴下終了時間t
Bまで、回転速度R(t
B)を維持することが必要となる。
【0054】
尚、「回転速度R(t
B)を維持する」とは、本発明の方法によるレジスト液26の塗布に対して悪影響を及ぼさない程度の回転速度の変動、例えば±30%の回転速度の変動、好ましくは±20%の回転速度の変動、より好ましくは±10%の回転速度の変動、及びさらに好ましくは±5%の回転速度の変動を含む。
【0055】
回転速度R(t
B)を維持する時間t
Yから時間t
Zまでの時間範囲を、回転速度維持段階(S2)という。
図1に示す例では、t
B=t
Zであるが、条件(1)〜(4)の関係をすべて満たすのであれば、必ずしもt
B=t
Zである必要はない。すなわち、回転速度維持段階(S2)の終了時間t
Zにより前に、レジスト液26の滴下を終了することもできる。回転速度維持段階(S2)は、必ずしも必須ではない。しかしながら、回転速度維持段階(S2)を有することにより、基板の回転速度を高速で保持しつつ継続してレジスト液26を滴下することで、滴下工程における過度な乾燥を抑制することができるので、膜厚変動が生じにくくなる。また、高速回転により、異物を効率よく被塗布面の外に排除することができる。そのため、本発明のマスクブランク10の製造方法の滴下工程は、回転速度維持段階(S2)を含むことが好ましい。
【0056】
また、条件(2)の関係において、滴下開始時間t
Aから滴下終了時間の基板の回転速度R(t
B)に達するまでの間、t
1<t
2である任意の時間t
1及びt
2に対して、R(t
1)<R(t
2)の関係であることが好ましい。すなわち、滴下開始時間t
Aから滴下終了時間の基板の回転速度R(t
B)に達するまでの間、基板の回転速度を一定にすることなく、常に加速的に変化させて、加速し続けることが好ましい。基板の回転速度が加速し続けることにより、レジスト液26の気泡に起因する欠陥の発生を、より確実に抑制することができる。
【0057】
条件(3)の関係は、滴下開始時間t
Aのときの基板の回転速度が700rpm未満であり、滴下開始のときに基板の回転が停止(R(t
A)=0)していてもよいことを意味する。滴下開始時間t
Aのときの基板の回転速度を、所定の低回転速度とすることにより、滴下したレジスト液26を薄膜付き基板15の表面全体を漏れなく濡らして、レジスト液26の気泡発生を防止することができる。滴下開始時間t
Aのときの基板の回転速度は、700rpm未満、好ましくは500rpm以下、より好ましくは100rpm以下、さらに好ましくは50rpm以下、特に好ましくは滴下開始の瞬間に基板の回転が停止していることにより、レジスト液26の気泡に起因する欠陥の発生を防止することができる。
【0058】
条件(4)の関係は、滴下開始時間t
Aから、滴下終了時間t
Bのときの基板の回転速度R(t
B)と同じ回転速度に達するまでの時間、すなわち、滴下開始時間t
Aから基板の回転速度の加速が終了するまでの時間が0.1秒以上であることを意味する。
【0059】
条件(4)の関係において、具体的には、基板の回転速度R(t)が、t
AからR(t
B)に達するまでの時間範囲において変化するとき、基板の回転速度R(t)の加速度である回転加速度dR(t)/dtが、10rpm/秒≦dR(t)/dt≦1000rpm/秒であることが好ましい。また、基板の回転速度R(t)の加速度dR(t)/dtは、一定であることが好ましい。基板の回転速度が所定の回転加速度で一定に加速することにより、レジスト液26の気泡に起因する欠陥の発生を、さらに確実に抑制することができる。
【0060】
図1及び
図2を参照して、発明のマスクブランク10の製造方法におけるレジスト塗布工程について、好ましい態様について述べる。
【0061】
図1及び
図2に示すように、滴下工程は、t
A≦t≦t
Yの時間範囲において、基板の回転速度R(t)を加速する回転加速段階(S1)と、t
Y<t≦t
Zの時間範囲において、基板の回転速度R(t)が一定である回転速度維持段階(S2)とを含むことが好ましい。尚、この場合、回転速度維持段階(S2)を開始する時間t
Yと、レジスト液26の滴下終了時間t
Bとの関係が、t
Y≦t
Bである。すなわち、レジスト液26の滴下は、回転加速段階(S1)に加えて、回転速度維持段階(S2)の開始時間t
Yから、終了時間t
Zまで行うことができる。滴下工程における過度な乾燥を抑制し、薄膜付き基板15の表面に異物が定着しづらくするために、レジスト液26の滴下は、回転速度維持段階(S2)の終了時間t
Zまで行うことが好ましい。
【0062】
回転速度維持段階(S2)の回転速度R(t)(t
Y<t≦t
Z)は、レジスト液26の種類によって調整することができる。レジスト液26の滴下終了後の形状を安定させ、かつ過度な乾燥を抑制するために、一般的には、R(t)≧300rpmであることが好ましく、500rpm≦R(t)≦1000rpmであることがさらに好ましい。
【0063】
回転加速段階(S1)での回転加速度dR(t)/dt(t
A≦t≦t
Y)が、10rpm/秒≦dR(t)/dt≦1000rpm/秒を満たし、一定の回転加速度により基板の回転速度が加速されるとが好ましい。これにより、レジスト液26の気泡に起因する欠陥の発生を、より確実に防止することができ、また、回転加速段階(S1)における回転速度の制御が容易になる。
【0064】
本発明のマスクブランク10の製造方法では、レジスト塗布工程が、初期回転段階(S0)を含むことができる。
図1において、レジスト塗布工程が回転初期段階(S0)を有する場合の基板の回転速度の時間変化を点線で示している。レジスト液26の滴下前に薄膜付き基板15を回転することにより、基板11の表面の異物を回転の遠心力によって排除することができる。初期回転段階(S0)での基板の回転速度は、700rpm未満、好ましくは500rpm以下、より好ましくは100rpm以下、さらに好ましくは50rpm以下であることにより、薄膜付き基板15の表面の異物の排除と、レジスト液26の気泡に起因する欠陥の発生防止とをともに行うことができる。
【0065】
本発明のマスクブランク10の製造方法では、レジスト塗布工程が、滴下工程の次に、基板の回転速度を低くするか又は回転を停止する休止工程(S3)をさらに含むことができる。また、本発明のマスクブランク10の製造方法は、休止工程(S3)と、均一化工程(S6)との間に、均一化工程(S6)の高速回転速度に向けて段階的に回転速度を上げるプレ回転工程(S4及びS5)を含むことができる。
【0066】
回転速度維持段階(S2)での高速回転を継続した状態で均一化工程(S6)に移行すると、薄膜付き基板15の縁部に偏ったレジスト液26の液だまりが生じることがある。レジスト塗布工程が、均一化工程(S6)に移行する前に、基板の回転速度を一度減速若しくは停止する休止工程(S3)を含むことにより、縁部分のレジスト液26に加わっていた遠心力を減少させることができるので、薄膜付き基板15の縁部の液だまりを抑制することができる。さらに、レジスト塗布工程がプレ回転工程(S4及びS5)を含むことによって、高速回転に向けて段階的に加速させ(S4)、均一化工程(S6)の回転速度よりも回転速度が低い状態で保持する(S5)ことができる。プレ回転工程を有することにより、均一化工程の高速回転速度に向けて段階的に基板の回転速度を上げることができる。その結果、薄膜付き基板15の表面でレジスト液26が均された状態で均一化工程(S6)に移行することができるため、液だまりの現象を特に効果的に抑制することができる。
【0067】
本発明のマスクブランク10の製造方法では、レジスト塗布工程が、滴下工程の後に、滴下終了時間t
Bのときの基板の回転速度R(t
B)より速い基板の回転速度で基板を回転する均一化工程(S6)を含むことができる。レジスト塗布工程が均一化工程(S6)を有することにより、薄膜付き基板15上のレジスト膜の膜厚を均一化することができる。レジスト塗布工程が休止工程(S3)及びプレ回転工程(S4及びS5)を含む場合には、均一化工程(S6)は、それらの工程(S3〜S5)の後に行われる。均一化工程(S6)における基板の回転速度及び回転時間は、レジスト液26の種類によって設定される。一般的には、均一化工程(S6)の基板の回転速度は、好ましくは850〜2000rpmであり、回転時間は1〜15秒であることが好ましい。
【0068】
本発明のマスクブランク10の製造方法は、均一化工程(S6)において、薄膜付き基板15に向かう気流34を生起させるように排気を行うための排気手段30を稼働させることを含むことが好ましい。滴下工程において塗布環境を積極的に減圧すると含まれる溶媒の揮発を促進し、レジスト液26が被塗布面に密着する前に乾いてしまう現象や、異物を巻き込んだ状態でレジスト液26が乾燥凝集することを抑制することができる。
【0069】
均一化工程(S6)の際に、排気量を制御する排気量制御手段が備えられた排気手段30により、薄膜付き基板15が回転している間、薄膜付き基板15の上面に沿って薄膜付き基板15の中央側から外周方向に気流34が流れるように、気流34を発生することができる。気流34により、薄膜付き基板15外周部(基板11主表面端部)に生じるレジスト液26の液溜まりを効果的に薄膜付き基板15外に飛散させることができ、又、薄膜付き基板15の四隅や薄膜付き基板15外周部に生じるレジスト液26の液溜まりが薄膜付き基板15中央部へと引き戻されるのを効果的に抑制できるので、薄膜付き基板15の四隅及び周縁部に形成されるレジスト膜16の厚膜領域を低減させることができ、あるいはその領域の膜厚の盛り上がりを低減させる(厚膜化を抑制する)ことができる。具体的には、薄膜付き基板15の上面に当たる気流34の速度が、0.5m/秒以上5m/秒以下となるように排気量を制御することが好ましい。
【0070】
さらに、薄膜付き基板15上面とカップ23上方に設けられたインナーリング24(開口部32)までの高さ(距離)と、インナーリング24の開口径を制御することによって、薄膜付き基板15上面から薄膜付き基板15外周部に当たる気流34の流速を制御することで、薄膜付き基板15外周部(基板11主表面端部)に生じるレジスト液26の液溜まりを効果的に薄膜付き基板15外に飛散させ、又、薄膜付き基板15の四隅や薄膜付き基板15外周部に生じるレジスト液26の液溜まりが薄膜付き基板15中央部へと引き戻されるのを効果的に抑制できるに必要な流速に維持することが可能である。
【0071】
尚、排気手段30による気流34の発生は、均一化工程(S6)のみならず、他の工程、例えば乾燥工程(S7)においても行うことができる。
【0072】
本発明のマスクブランク10の製造方法では、レジスト塗布工程が、乾燥工程(S7)を含むことができる。乾燥工程(S7)では、均一化工程(S6)の後、均一化工程(S6)での回転速度よりも低い回転速度で薄膜付き基板15を回転させることにより、均一化工程(S6)により得られたレジスト膜16の膜厚の均一性を保持しながら、レジスト膜16を乾燥させることができる。
【0073】
本発明のマスクブランク10の製造方法では、上述の乾燥工程(S7)終了後に、薄膜付き基板15上に形成されたレジスト膜16に含まれる溶剤を完全に蒸発させるため、このレジスト膜16を加熱して乾燥処理する加熱乾燥処理工程を有してもよい。この加熱乾燥処理工程は、通常、レジスト膜16が形成された薄膜付き基板15を加熱プレートにより加熱する加熱工程と、レジスト膜16が形成された薄膜付き基板15を冷却プレートにより冷却する冷却工程とを含む。これらの加熱工程における加熱温度及び時間、冷却工程における冷却温度及び時間は、レジスト液26の種類に応じて適宜調整される。
【0074】
本発明のマスクブランク10の製造方法では、上記レジスト液26は特に限定されない。レジスト液26としては、粘度が10mPa・s(Pa・秒)を超え、平均分子量が10万以上である高分子量樹脂からなる高分子型レジスト、粘度が10mPa・s未満で、平均分子量が10万未満であるノボラック樹脂と溶解阻害剤などからなるノボラック系レジスト、及びポリヒドロキシスチレン系樹脂と酸発生剤などからなる化学増幅型レジストなどを用いることができる。
【0075】
例えば、化学増幅型レジスト及びノボラック系レジストでは、粘度が低いので(10mPa・s以下)、均一化工程(S6)では、基板の回転速度は850〜2000rpmに、基板11の回転時間は1〜10秒にそれぞれ設定され、乾燥工程(S7)では、基板11の回転速度は100〜450rpmに設定される。また、高分子型レジストでは、粘性が高いので(10mPa・s超)、均一化工程(S6)では、基板の回転速度は850〜2000rpmに、基板11の回転時間は2〜15秒にそれぞれ設定され、乾燥工程(S7)では、基板の回転速度は50〜450rpmに設定される。乾燥工程(S7)での基板11の回転時間は、レジスト膜16が完全に乾燥するまでに要する時間が設定される。「レジスト膜16が完全に乾燥するまでに要する時間」とは、乾燥工程(S6)の開始から、それ以上乾燥回転を続けてもレジスト膜16の膜厚が減少しなくなるまでの時間をいう。
【0076】
レジスト塗布工程におけるレジスト液26の最終的な吐出量は、1.5〜8mlであることが好ましい。1.5mlを下回ると、レジスト液が基板表面に十分にいきわたらず、成膜状態が悪くなる恐れが生じる。8mlを超えると、コーティングに用いられずにスピン回転によって外方に飛散するレジスト液の量が多くなり、レジスト液の消費量が増大するので好ましくない。また、飛散したレジスト液が塗布装置内部を汚染する懸念が生じる。
【0077】
また、レジスト液26の吐出速度は、0.5〜3ml/秒であることが好ましい。吐出速度が0.5ml/秒を下回ると、基板上にレジスト液を供給する時間が長くなってしまうという問題が生じる。吐出速度が3ml/秒を超えると、レジスト液が基板に強く接触してしまい、レジスト液が基板を濡らさずに、はじき出されてしまう恐れがあるため好ましくない。
【0078】
本発明のマスクブランク10の製造方法では、レジスト液26が、界面活性剤を実質的に含まないことが好ましい。レジスト液26に添加された界面活性剤が微細な異物の発生要因の一つと考えられる欠陥が現像時に生じることがある。レジスト液26が、界面活性剤を実質的に含まないことにより、異物の発生を低減することができる。
【0079】
本発明のマスクブランク10の製造方法は、薄膜付き基板15のレジスト膜16を形成する表面が、反応性スパッタリング法により形成された薄膜14の表面であり、薄膜14が、少なくとも、Cr、Ta、Si、Mo、Ti、V、Nb及びWからなる群から選択される1以上の元素を含むことが好ましい。これらの元素を含む薄膜14の表面の表面エネルギーが低いため、レジスト液26を薄膜付き基板15の表面(薄膜14の表面)に滴下する際に、レジスト液26を特にはじきやすい。本発明のマスクブランク10の製造方法を用いるならば、薄膜14の表面でレジスト液26がはじかれることを防止することができるので、微細な気泡に起因する欠陥が発生を抑制した好ましいレジスト膜16を形成することができる。
【0080】
本発明のマスクブランク10の製造方法は、レジスト膜16を形成する表面(被塗布面)を有する薄膜14が、少なくともCrを含み、薄膜14に含まれるCrの割合が少なくとも50原子%以上であることが好ましい。被塗布面がCrを含む薄膜、例えばCrN、CrON、CrOC及びCrOCN等の場合には、被塗布面のレジスト液26に対する濡れ性が悪いため、微細な気泡に起因する欠陥が発生しやすい。本発明のマスクブランク10の製造方法を用いるならば、被塗布面がCrを含む薄膜である場合にも、欠陥が低減されたレジスト膜16を形成することができる。
【0081】
尚、
図5に示すように、Crを含む薄膜は、遮光膜2の上面のエッチングマスク膜3として設けられる場合がある。このエッチングマスク膜は、クロムに、窒素、酸素のうち少なくともいずれかの成分を含み、このエッチングマスク膜中のクロムの含有量が50原子%以上である。このようなマスクブランク10は、
図5に示すように、透光性の基板11の上に遮光膜2を備え、さらにこの遮光膜2の上に、エッチングマスク膜3を備えたマスクブランク10であることができる。
【0082】
図5に示す例においては、上記エッチングマスク膜3は、転写パターンを形成するためのパターニング時のドライエッチングに対して遮光膜2とのエッチング選択性を確保できるように、例えば、クロムに、窒素、酸素のうち少なくともいずれかの成分を含む材料を用いることが好ましい。このようなエッチングマスク膜3を遮光膜2の上に設けることにより、マスクブランク10上に形成するレジスト膜16の薄膜化を図ることができる。また、エッチングマスク膜3中にさらに炭素等の成分を含んでもよい。具体的には、例えば、CrN、CrON、CrOC、CrOCN等の材料が挙げられる。
【0083】
近年、レジスト膜16に電子線描画露光用のレジストを適用し、電子線を照射して描画する(電子線露光描画)ことで設計パターンを露光する方法が使用されている。この電子線描画露光では、描画位置精度やチャージアップの観点から、遮光膜2及びエッチングマスク膜3の少なくともいずれか一方には、ある程度以上の導電性が必要とされている。すなわち、遮光膜2及びエッチングマスク膜3のうち少なくとも一方の膜には、シート抵抗値が1.0×10
6Ω/□以下であることが望まれている。
【0084】
遮光膜2のシート抵抗値が、1.0×10
6Ω/□以下である場合、エッチングマスク膜3はシート抵抗値が高くても、チャージアップを起こさずに電子線描画することができる。レジスト膜16の薄膜化には、エッチングマスク膜3の塩素と酸素の混合ガスに対するドライエッチングのエッチングレートを向上させることがより望ましい。そのためには、金属成分(クロム)の含有量を50原子%未満、好ましくは45原子%以下、さらには40原子%以下とすることが好ましい。
【0085】
一方、遮光膜2のシート抵抗値が、1.0×10
6Ω/□よりも大きい場合、エッチングマスク膜3のシート抵抗値を、1.0×10
6Ω/□以下とする必要がある。この場合、エッチングマスク膜3が単層構造の場合には、エッチングマスク膜3中のクロム含有量は50原子%以上であることが好ましく、60原子%以上であることがより好ましい。また、エッチングマスク膜3が複数層の積層構造の場合には、少なくともレジスト膜16に接する側の層のクロム含有量は50原子%以上(好ましくは60原子%以上)とし、遮光膜2側の層のクロム含有量は50原子%未満(好ましくは45原子%以下、さらには40原子%以下)とすることが好ましい。さらに、エッチングマスク膜3は、遮光膜2側からレジスト膜16に接する側(ただし、表面酸化によるクロム含有量の低下が避けられないレジスト膜16に接する表層は除く)に向かってクロム含有量が増加していく組成傾斜構造としてもよい。この場合、エッチングマスク膜3のクロム含有量が最も少ないところでは50原子%未満(好ましくは45原子%以下、さらには40原子%以下)であり、クロム含有量が最も多いところでは50原子%以上(好ましくは60原子%以上)であることが好ましい。
【0086】
また、上記エッチングマスク膜3は、膜厚が5nm以上、20nm以下であることが好ましい。膜厚が5nm未満であると、エッチングマスク膜3パターンをマスクとして遮光膜2に対するドライエッチングが完了する前にエッチングマスク膜3のパターンエッジ方向の減膜が進んでしまい、遮光膜2に転写されたパターンの設計パターンに対するCD精度が大幅に低下してしまう恐れがある。一方、膜厚が20nmよりも厚いと、エッチングマスク膜3に設計パターンを転写するときに必要なレジスト膜16の膜厚が厚くなってしまい、微細パターンをエッチングマスク膜3に精度よく転写することが困難になる。
【0087】
本発明のマスクブランク10の製造方法を用いるならば、被塗布面が、上述のようなCrを含むエッチングマスク膜3である場合にも、欠陥が低減されたレジスト膜16を形成することができる。
【0088】
本発明のマスクブランク10の製造方法では、被塗布面を有する薄膜14が、少なくともSiを含むことが好ましい。Siを含む薄膜14の表面は、Crを含む薄膜の表面よりもレジスト液の濡れ性が悪いため、レジスト液26を薄膜付き基板15の表面(薄膜14の表面)に滴下する際に、レジスト液26を特にはじきやすい。本発明のマスクブランク10の製造方法を用いるならば、ケイ素が含まれている薄膜14が被塗布面である場合にも、薄膜14の表面でレジスト液26がはじかれることを防止することができるので、好ましいレジスト膜16を形成することができる。
【0089】
Siを含む薄膜14の材料として、例えば、MoSi、MoSiO、MoSiN、MoSiON、Si単体、SiO、SiN、SiON、WSi及びTaSiなどが挙げられる。
【0090】
本発明のマスクブランク10の製造方法では、被塗布面を有する薄膜14が、フッ素系ドライエッチングでエッチング可能な金属又は金属化合物からなる遮光膜2と、遮光膜2との所定のエッチング選択比を有する材料のエッチングマスク膜3との積層膜であることができる。
【0091】
フッ素系ドライエッチングでエッチング可能な金属又は金属化合物からなる遮光膜2として、例えば、ケイ素含有材料を挙げることができる。その場合、この遮光膜2との所定のエッチング選択比を有する材料として、クロムを含む材料を挙げることができる。クロムを含む材料としては、例えば、クロム単体、又はクロムと、酸素、窒素及び炭素から選ばれる1種以上とを含有するクロム化合物を挙げることができる。さらにその材料は、ケイ素を含有しないものが好ましい。具体的には、クロム化合物として、クロム酸化物、クロム窒化物、クロム酸窒化物、クロム酸化炭化物、クロム窒化炭化物又はクロム酸窒化炭化物等を挙げることができる。これらの材料は、フッ素系ドライエッチングに対し高い耐性を有することが知られている。
【0092】
クロムを含む材料のクロム含有率が50原子%以上、特に60原子%以上である場合には、フッ素系ドライエッチング耐性がよく、遮光膜2及び/又は透明基板11に十分なエッチング選択性を与えることができると同時に、エッチングマスク膜3を、塩素と酸素とを含有するドライエッチング条件でドライエッチングして、パターンを形成することができるため好ましい。
【0093】
クロムを含材料としては、例えば、クロムが50原子%以上100原子%以下、特に60原子%以上100原子%以下、酸素が0原子%以上50原子%以下、特に0原子%以上40原子%以下、窒素が0原子%以上50原子%以下、特に0原子%以上40原子%以下、炭素が0原子%以上20原子%以下、特に0原子%以上10原子%以下とすることで、エッチングマスク膜3として、遮光膜2及び/又は透明基板に十分なエッチング選択性を与える膜とすることができる。
【0094】
本発明のマスクブランク10の製造方法を用いるならば、被塗布面が、上述のようなCrを含むエッチングマスク膜3である場合にも、欠陥が低減されたレジスト膜16を形成することができる。
【0095】
上述のように、本発明のマスクブランク10の製造方法は、四角形状の基板11の主表面に、被転写体へ転写するためのマスクパターン13となる薄膜14を、スパッタリング法や蒸着法、CVD法などを用いて成膜し、この薄膜付き基板15の薄膜14の表面に、レジスト塗布工程によってレジスト膜16を形成してマスクブランク10を製造する。
【0096】
また、マスクブランク10には、薄膜付き基板15の薄膜14における中心部の領域にマスクパターン13形成領域を有する。このマスクパターン13形成領域は、薄膜付き基板15をパターニングして転写用マスク18としたときに、半導体基板などの被転写体の回路パターンを転写して形成するためのマスクパターン13が形成されることになる領域である。このマスクパターン13形成領域は、マスクブランク10のサイズなどによって異なるが、例えばマスクブランク10が152mm×152mmのサイズの場合には、薄膜付き基板15の薄膜14における中心部の132mm×132mmの領域である。
【0097】
本発明は、上述のマスクブランク10の製造方法によって製造されたマスクブランク10のレジスト膜16をパターニングしてレジストパターンを形成し、レジストパターンをマスクにしてマスクパターン13を形成して転写用マスク18を製造することを特徴とする転写用マスク18の製造方法である。
【0098】
上述のレジスト塗布工程を実施することで、
図4(A)に示す薄膜付き基板15の薄膜14の表面にレジスト膜16を形成して、
図4(B)に示すマスクブランク10を作製することができる。このマスクブランク10のレジスト膜16に所定パターンを描画・現像処理してレジストパターンを形成し、このレジストパターンをマスクにして薄膜14(例えば遮光膜)をドライエッチングしてマスクパターン13(
図4(C))を形成して、転写用マスク18を作製することができる。
【0099】
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、マスクブランク10の製造方法によっては、四角形状の基板11の主表面に直接レジスト膜16を形成して、マスクブランク10を製造する場合もある。その場合でも、四角形状の基板11の主表面に直接レジスト膜16を形成するために、上述のレジスト塗布工程を含む本発明の製造方法を好ましく用いることができる。
【実施例】
【0100】
次に、マスクブランク10の製造方法及び転写用マスク18の製造方法について、実施例に基づき具体的に説明する。
【0101】
(実施例1)
サイズが152.4mm×152.4mmの合成石英ガラス基板上に、スパッタリング法により、MoSiN膜(遮光層)及びMoSiN膜(表面反射防止層)からなる遮光膜2と、エッチングマスク膜3とを順次形成し、薄膜付き基板15を得た。遮光膜2及びエッチングマスク膜3の形成は、具体的には、次のように行った。尚、実施例2、比較例1及び比較例2のマスクブランク10でも、同様の薄膜を形成した。
【0102】
合成石英ガラスからなる透光性の基板11上に、枚葉式スパッタ装置を用いて、スパッタターゲットにモリブデン(Mo)とシリコン(Si)との混合ターゲット(原子%比 Mo:Si=13:87)を用い、アルゴンと窒素との混合ガス雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、MoSiN膜(下層(遮光層))を膜厚47nmで成膜した。引き続いて、Mo/Siターゲット(原子%比 Mo:Si=13:87)を用い、アルゴンと窒素との混合ガス雰囲気で、MoSiN膜(上層(表面反射防止層))を膜厚13nmで成膜した。これらのMoSiN膜及びMoSiN膜の成膜により、下層(膜組成比 Mo:9.9原子%,Si:66.1原子%,N:24.0原子%)と、上層(膜組成比 Mo:7.5原子%,Si:50.5原子%,N:42.0原子%)との積層からなるArFエキシマレーザー(波長193nm)用の遮光膜2(総膜厚60nm)を形成した。尚、遮光膜2の各層の元素分析は、ラザフォード後方散乱分析法を用いた。
【0103】
次に、この遮光膜2を備えた薄膜付き基板15に対して450℃で30分間加熱処理(アニール処理)を行い、遮光膜2の膜応力を低減させる処理を行った。
【0104】
次に、遮光膜2の上面に、エッチングマスク膜3を形成した。具体的には、枚葉式スパッタ装置で、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴンと窒素との混合ガス雰囲気で、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、CrN膜(膜組成比 Cr:75.3原子%,N:24.7原子%)を膜厚5nmで成膜した。さらに、エッチングマスク膜3(CrN膜)を遮光膜2のアニール処理よりも低い温度でアニールすることにより、遮光膜2の膜応力に影響を与えずにエッチングマスク膜3の応力を極力低くなるように(好ましくは膜応力が実質ゼロになるように)調整した。以上の手順により、実施例1の薄膜付き基板15を得た。
【0105】
次に、薄膜付き基板15上に、レジスト塗布工程によりレジスト液26を回転塗布し、薄膜14の表面にレジスト膜16を形成した。レジスト液26に含まれるレジスト及び溶剤は、下記のものを用いた。
レジスト:ポジ型化学増幅型レジストFEP171(富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ社製)
溶剤:PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート)とPGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)の混合溶剤
【0106】
レジスト塗布工程中のレジスト液26の滴下及び基板の回転速度を、表1に示す。表1の「開始時間」及び「終了時間」は、レジスト液の滴下を開始したときを0秒として示している。また、「継続時間」は、それぞれの工程の開始時間から終了時間までの時間を示す。尚、「レジスト液の滴下」の開始時間及び開始時間は、それぞれ
図1の時間t
A及び時間t
Bに対応する。
図1の「S1.回転加速段階」の開始時間は、時間t
Xに対応する。「S2.回転速度維持段階」の開始時間は、
図1の時間t
Yに対応する。「S2.回転速度維持段階」の終了時間は、
図1の時間t
Zに対応する。表2〜8についても同様である。
【0107】
【表1】
【0108】
尚、均一化工程(S6)及び乾燥工程(S7)において、薄膜付き基板15が回転している間、常時連続して強制排気を行い、薄膜付き基板15の上面に沿って薄膜付き基板15の中央側から外周方向に気流34が流れるように気流34を発生させた。そのため、薄膜付き基板15の回転により薄膜付き基板15外周部(基板11主表面端部)に生じるレジスト液26の液溜まりを効果的に薄膜付き基板15外に飛散させ、又、薄膜付き基板15の四隅や薄膜付き基板15外周部に生じるレジスト液26の液溜まりが薄膜付き基板15中央部へと引き戻されるのを効果的に抑制させ、薄膜付き基板15の四隅及び周縁部に形成されるレジスト膜16の厚膜領域を低減させることができ、あるいはその領域の膜厚の盛り上がりを低減させる(厚膜化を抑制する)ことができた。
【0109】
次に、加熱乾燥装置及び冷却装置に、レジスト膜16が形成された薄膜付き基板15を搬送し、所定の加熱乾燥処理を行ってレジスト膜16を乾燥させ、マスクブランク10を作製した。
【0110】
上記のようにして、製造したマスクブランク10の遮光膜2の表面に対し、レーザー干渉コンフォーカル光学系による60nm感度の欠陥検査装置(レーザーテック社製 M6640)を用いて、欠陥検査を行った。欠陥検査の欠陥を表9に示す。尚、実施例2〜5及び比較例1〜3のマスクブランクに対しても、同様に、欠陥検査を行った。
【0111】
(実施例2)
実施例1におけるレジスト塗布工程中のレジスト液26の滴下及び基板の回転速度を、表2に示すようにした以外は、実施例1と同様にして実施例2のマスクブランク10を作製した。具体的には、実施例1では、回転加速段階(S1)の回転加速度が1000rpm/秒だったものを、実施例2では500rpm/秒とした。
【0112】
【表2】
【0113】
(実施例3)
実施例1におけるレジスト塗布工程中のレジスト液26の滴下及び基板の回転速度を、表3に示すようにしたことと、基板11上に形成した薄膜14が、MoSiNからなる位相シフト膜、所定の遮光膜2及びMoSiONからなるエッチングマスク膜3であったこと以外は、実施例1と同様にして実施例3のマスクブランク10を作製した。尚、所定の遮光膜2とは、CrOCNからなる裏面反射防止層、CrNからなる遮光層及びCrOCNからなる反射防止層の三層からなる遮光膜2である。尚、実施例3では、レジスト液の滴下は、回転加速段階のときに行い、このときの薄膜付き基板15の回転加速度は125rpm/秒だった。実施例3では、休止工程(S3)及びプレ回転工程(S4及びS5)は行わなかった。
【0114】
【表3】
【0115】
実施例3の位相シフト膜、遮光膜2及びエッチングマスク膜3の形成は、具体的には、次のように行った。尚、比較例3のマスクブランク10でも、同様の薄膜を形成した。
【0116】
石英ガラスからなる透光性の基板11上に、DCマグネトロンスパッタ装置を用いて、スパッタターゲットとしてMoとSiを含む混合ターゲット(MoとSiの合計含有量に対するMo含有量が9.5%)を使用し、アルゴンと窒素とヘリウムとの混合ガス雰囲気(Ar:9sccm、N
2=81sccm、He:76sccm)中で、電力2.8kWの反応性スパッタリングを行うことによって、膜厚69nmのMoSiNからなる位相シフト膜を形成した。尚、この位相シフト膜は、ArFエキシマレーザー(波長193nm)でおいて、透過率は6%、位相シフト量が略180度となっている。
【0117】
次に、上記位相シフト膜上に、同じくDCマグネトロンスパッタ装置を用いて、スパッタターゲットにクロムターゲットを使用し、アルゴンと二酸化炭素と窒素とヘリウムとの混合ガス雰囲気(Ar:20sccm、CO
2:35sccm、N
2:5sccm、He:30sccm)中で、電力1.5kWの反応性スパッタリングを行い、膜厚30nmのCrOCNからなる裏面反射防止層を形成した。
【0118】
続いて、クロムターゲットを使用し、アルゴンと窒素との混合ガス雰囲気(Ar:25sccm、N
2:5sccm)中で、電力1.7kWの反応性スパッタリングを行い、膜厚4nmのCrNからなる遮光層を形成した。
【0119】
さらに続いて、クロムターゲットを使用し、アルゴンと二酸化炭素と窒素とヘリウムとの混合ガス雰囲気(Ar:20sccm、CO
2:35sccm、N
2=10sccm、He:30sccm)中で、電力1.7kWの反応性スパッタリングを行うことによって、膜厚14nmのCrOCNからなる反射防止層を形成した。このようにして、総膜厚が48nmの裏面反射防止層と遮光層と反射防止層とからなる遮光膜2が形成された。
【0120】
次に、遮光膜2の上にSiONからなるエッチングマスク膜3を形成した。具体的には、スパッタターゲットとしてSiターゲットを使用し、アルゴンと一酸化窒素とヘリウムとの混合ガス雰囲気(Ar:8sccm、NO=29sccm、He:32sccm)中で、電力1.8kWの反応性スパッタリングを行うことによって、膜厚15nmのSiONからなるエッチングマスク膜3を形成し、実施例3の薄膜付き基板15を得た。
【0121】
(実施例4)
実施例1におけるレジスト塗布工程中のレジスト液26の滴下及び基板の回転速度を、表4に示すようにした。尚、実施例4では、初期回転段階(S0)を実施して、回転加速段階(S1)の開始時に、500rpmになるようにした。レジスト液の滴下は、回転加速段階(S1)のときに行った。このときの薄膜付き基板15の回転加速度は125rpm/秒だった。実施例4では、休止工程(S3)及びプレ回転工程(S4及びS5)は行わなかった。
【0122】
【表4】
【0123】
(実施例5)
実施例3におけるレジスト塗布工程中のレジスト液の滴下及び基板の回転速度を、表5に示すようにした。尚、実施例5では、初期回転段階(S0)を実施して、回転加速段階(S1)の開始時に、50rpmになるようにした。レジスト液の滴下は、回転加速段階(S1)の時に行った。このときの薄膜付基板15の回転加速度は、50rpm/秒だった。また、実施例5では、休止工程(S3)及びプレ回転工程(S4及びS5)を行った。
【0124】
【表5】
【0125】
(比較例1)
実施例1におけるレジスト塗布工程中のレジスト液26の滴下及び基板の回転速度を、表6に示すようにした以外は、実施例1と同様にして比較例1のマスクブランク10を作製した。尚、比較例1では、レジスト液26の滴下を基板11の回転が停止した状態で行い、その後、休止工程(S3)を2秒行った。比較例1では、回転加速段階(S1)及び回転速度維持段階(S2)は行わなかった。
【0126】
【表6】
【0127】
(比較例2)
実施例1におけるレジスト塗布工程中のレジスト液26の滴下及び基板の回転速度を、表7に示すようにした以外は、実施例1と同様にして比較例2のマスクブランク10を作製した。尚、比較例2では、回転加速段階(S1)における加速を、回転加速度20000rpm/秒で0.05秒間とした。
【0128】
【表7】
【0129】
(比較例3)
実施例3におけるレジスト塗布工程中のレジスト液26の滴下及び基板の回転速度を、表8に示すようにした以外は、実施例3と同様にして比較例3のマスクブランク10を作製した。尚、比較例3では、レジスト液26の滴下開始時間(0秒)の2秒前から2秒間、すなわち−2秒から0秒まで、回転速度700rpmで回転する初期回転段階(S0)を設けた。したがって、レジスト液26の滴下開始の際の基板の回転速度は、700rpmだった。また、比較例3では、休止工程(S3)及びプレ回転工程(加速)(S4)は、行わなかった。
【0130】
【表8】
【0131】
(実施例及び比較例のマスクブランク10の欠陥数)
表9に示すように、本発明の実施例1〜5のマスクブランク10では、レジスト膜16形成後の欠陥数が、比較例1〜3のマスクブランク10と比べて大幅に減少した。
【0132】
実施例1では、回転加速段階(S1)が1秒間(1000rpm/秒)と速かったことから、微小欠陥がやや多くなる結果となった。このことから、回転加速段階(S1)の回転加速度は1000rpm/秒以下が好ましいと考えられる。また、実施例4では、微小欠陥数がやや多く出る結果となった。これは、滴下工程の滴下開始段階(S0)で既に回転速度が500rpmと高めであったためであると推測される。実施例5は、欠陥数は少なかったものの、膜厚均一成を得るために、他の実施例よりも回転速度維持段階(S2)に時間を要した。
【0133】
比較例1では回転加速段階(S1)の際にレジスト液26を滴下しなかったことから、レジスト膜16形成後の欠陥数を減少させるためには、回転加速段階(S1)の際にレジスト液を滴下することが必要であるといえる
【0134】
比較例2では、回転加速段階(S1)が0.05秒と短時間であったことから、回転加速段階(S1)は、少なくとも0.1秒以上必要であると推測される。比較例3では、レジスト液26の滴下開始の際の薄膜付き基板15の回転速度が700rpmであったことから、滴下開始の際の薄膜付き基板15の回転速度は、700rpm未満であることが必要であると推測される。
【0135】
【表9】
【0136】
(実験例)
レジスト液に類似した組成で界面活性剤の添加量が異なる試験液1〜5を調合し、実施例3の条件(実験例1)及び比較例3の条件(実験例2)でレジスト膜を形成する比較実験を行った。試験液は、分子量Mv5000のアルカリ可溶ノボラック樹脂100質量部を、PGMEAとPGMEとの混合溶剤780重量部に溶解して調合した。界面活性剤はフッ素−ケイ素系界面活性剤を用いた。界面活性剤の添加量は、ノボラック樹脂100質量部に対して0〜1.0質量部の割合で添加し、試験液1の添加量を0、試験液2の添加量を0.2、試験液3の添加量を0.4、試験液4の添加量を0.8、試験液5の添加量を1.0とした。評価は、実施例と同様の方法でいった。本実験例の評価結果を表10に示す。
【0137】
【表10】
【0138】
実験例1のように回転加速段階(S1)で回転速度を徐々に上げていく方法で塗布した場合は、界面活性剤が含まれていなくても、気泡による塗布欠陥が少ないことが分かった。このことから、回転数を徐々に上げていく方法で塗布すれば、界面活性剤の添加量が少ないレジスト液でも基板に濡れ広げることができることが分かった。その一方で、実験例2のようにレジスト滴下開始時にすでに700rpmの回転数であると、界面活性剤の添加量が少ない場合には試験液がうまく濡れ広がらず、気泡による欠陥が生じたものと考えられる。