【文献】
THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,1986年,V261 N26,P11938−11941
【文献】
Natrue Biotechnology, 2006, Vol.24, No.10, pp.1241−1252
【文献】
Mol. Endocrinol., 2010.09, Vol.24, No.9, pp.1805−1821
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ペプチジルグリシンαアミド化モノオキシゲナーゼ(PAM)インヒビターが細胞培養培地の1成分として使用される、タンパク質の異種発現のための細胞培養プロセスであって、そして、PAMインヒビターが、アミド化アミノ酸残基の形成量を減少させる、細胞培養プロセス。
【背景技術】
【0002】
タンパク質は主にそれらのアミノ酸配列(一次構造)により特徴決定されるが、翻訳後修飾のような他の側面もタンパク質の特徴に寄与し、二次、三次及び四次構造に影響を与える。これらの翻訳後修飾の幾つかは、バイオ医薬品の安全性及び効能を含む後のタンパク質活性に有意な役割を果たす。
【0003】
タンパク質の異質性の1つの主な側面は、例えば、アスパラギンのようなアミノ酸の脱アミド化により、糖化により又はピログルタミン酸へのN末端グルタミンのプロセシングにより形成される酸性変種、並びに例えばC末端リシン変種及びアミド化アミノ酸を有する、特にC末端プロリンアミド残基を有する塩基性変種を含む電荷パターンである。
【0004】
しかし、C末端プロリンアミド残基の形成は、幾つかの場合において、必要とされない。例えば、望ましくない異質性の供給源として又は前記変種がタンパク質活性若しくは免疫原性に潜在的に影響を与える場合又は産生されるべきタンパク質におけるアミド化アミノ酸、例えばプロリンアミノ酸の量が標準タンパク質よりも多い若しくは少ないとき、不必要である。
【0005】
高度に制御可能な物理化学的条件下で生成される小分子薬と対照的に、タンパク質、特にバイオ医薬として使用されるタンパク質の産生は、産生が生きている細胞培養系を使用するので、制御することが困難で極めて複雑である。したがって、一定の産物品質及び一貫した高収率を提供すること、産生プロセスの効率を増加すること、産生されるタンパク質の生理学的活性及び誘導される薬剤の安全性を増加する及び/又は微調整すること、並びに/或いは産生されたタンパク質の翻訳後特性を標準タンパク質と適合させることができるために、産生されるタンパク質の特に翻訳後修飾の制御を可能にする道具を手にすることが重要である。
【0006】
これらの必要性に対処するタンパク質発現のためのプロセス及び培地を提供することが、本発明の目的である。
【0007】
これらの目的は、本発明の独立クレームによる方法及び手段によって満たされる。従属クレームは好ましい実施態様に関連する。数値により範囲設定された値の範囲は、前記範囲設定値を含むと理解されるべきである。
【発明の概要】
【0008】
本発明を詳細に記載する前に、本発明は、記載された特定のデバイスの構成部分又は記載された方法の特定のプロセス工程に限定されないことが理解されるべきであり、それはそのようなデバイス及び方法が変わりうるからである。本明細書に使用される用語は、特定の実施態様を記載する目的のみであり、限定的であることを意図しないことも理解されるべきである。明細書及び添付の請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈から明白に示される場合を除いて、単数及び/又は複数対象を含むことに注意しなければならない。数値で範囲設定されたパラメーター範囲が提示される場合、範囲はこれらの限定値を含むと見なされることが、更に理解されるべきである。
【0009】
本発明の第1の態様によると、タンパク質を発現するための細胞培養培地が提供され、この培地はPAMインヒビター又はその生理学的同等物を含む。本発明の別の態様によると、タンパク質を発現するための細胞培養プロセスが提供され、このプロセスにおいて、PAMインヒビター又はその生理学的同等物が使用される。
【0010】
PAM(ペプチジルグリシンアルファアミド化モノオキシゲナーゼ)は、順番に作用してペプチドのC末端切断及びアルファアミド化を触媒する2つの酵素活性を含有する、多機能タンパク質である。ペプチジルグリシンアルファヒドロキシル化モノオキシゲナーゼ(PHM)は、反応の第1工程を触媒し、銅(Cu)又は銅イオン、アスコルビン酸塩及び分子酸素に依存する。亜鉛依存性ペプチジルアミド−グリコレートリアーゼ(PAL)は、C末端プロリンになったものをアミド化してプロリンアミドにする反応の第2工程を触媒する。
【0011】
PAMインヒビターは、PAM複合体の触媒速度を低下する物質である。Chew(2003)は、PAMインヒビターが抗増殖薬(anti-proliferative drug)として有用でありうることを示唆しおり、一方、Bauerら(2007)は、幾つかのPAMインヒビターが抗炎症効果を有することを示唆している。しかしこれまでのところ、細胞培養培地又はプロセス、特にタンパク質発現、とりわけ異種タンパク質の発現におけるPAMインヒビターの使用は、記載されていない。
【0012】
PAMインヒビターの幾つかの例が下記のリストに記述されている:
●S−(チオベンゾイル)チオグリコール酸
●N−(フェニルチオアセチル)アラニン
●S−(4−メチルチオベンゾイル)チオグリコール酸
●4−シアノ−4−メチル−4−チオベンゾイル−スルファニル酪酸
●S−(4−メチルチオベンゾイル)チオグリコール酸エチルエスエル
●S−(N−フェニルチオカルバモイル)−3−メルカプトプロピオン酸
●S−(フェニルチオアセチル)チオグリコール酸
●S−(N−フェニルチオカルバモイル)チオグリコール酸
●S−(3−フェニルチオプロピオニル)チオグリコール酸
●N−グリコール酸フェニルウレタン
●(D,L)−チオルファン
●(フェニルチオ)酢酸
●(2−ニトロフェニルチオ)酢酸
●S−(チオラウロイル)チオグリコレート
●ジスルフィラム
●亜硫酸ナトリウム
●4−フェニル−3−ブテン酸(PBA)
●チオプロニン
●カプトプリル
●EDTA
●亜硫酸アンモニウム
●ヒドロシンナモイル−フェニルアラニル−ホモシステイン
【0013】
上記に記述されたように、上記のPAMインヒビターの生理学的同等物も本発明に包含される。
【0014】
本発明の好ましい実施態様において、前記発現は異種タンパク質発現である。
【0015】
本発明の別の好ましい実施態様において、前記異種発現は、哺乳類細胞に基づいた発現系において生じる。好ましくは、発現したタンパク質は、下記:
●抗体又はそのフラグメント若しくは誘導体、
●融合タンパク質及び/或いは
●非抗体タンパク質
からなる群より選択される少なくとも1つのタンパク質である。
【0016】
好ましくは、本発明のプロセス及び培地は、以下のタンパク質の1つの全て又は一部と同一である又は実質的に類似しているアミノ酸配列を含むタンパク質の(組み換え)産生に適している:Flt3リガンド、CD40リガンド、エリスロポエチン(EPO)のような赤血球生成促進タンパク質、ダルベポエチンアルファおよびトロンボポエチンを含むダルベポエチン、、カルシトニン、レプチン、Fasリガンド、NF−カッパB(RANKL)のレセプターアクチベーターのためのリガンド、腫瘍壊死因子(TNF)関連アポトーシス誘発性リガンド(TRAIL)、胸腺間質由来リンパ球新生因子、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、マスト細胞増殖因子、幹細胞増殖因子、上皮増殖因子、ケラチノサイト増殖因子、メガカリオーテ(megakaryote)増殖及び発生因子を含む増殖因子、RANTES、成長ホルモン、インスリン、インスリノトロピン、インスリン様成長因子、副甲状腺ホルモン、α−インターフェロン、β−インターフェロン及びγ−インターフェロンを含むインターフェロン、神経成長因子、脳由来神経栄養因子、シナプトタグミン様タンパク質(SLP1−5)、ニューロトロフィン−3”グルカゴン、IL−1、IL−1a、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、IL−14、IL−15、IL−16、IL−17及びIL−18を含むインターロイキン、コロニー刺激因子、リンホトキシン−p、腫瘍壊死因子(TNF)、白血病抑制因子、オンコスタチン−M、並びに細胞表面分子ELK及びHeKのための多様なリガンド(例えば、eph関連キナーゼ又はLERKSのリガンド)。
【0017】
本発明のプロセス及び培地を使用して産生することができる更なるタンパク質には、上記に記述されたタンパク質のいずれかのレセプターのアミノ酸配列の全て又は一部を含むタンパク質、そのような上記に記述されたタンパク質のいずれかのレセプターのアンタゴニスト及びそのようなレセプター又はアンタゴニストに実質的に類似しているタンパク質が含まれる。
【0018】
また、本発明の方法及び培地を使用して産生することができるタンパク質には、分化抗原のアミノ酸配列の全て若しくは一部を含むタンパク質(CDタンパク質と呼ばれる)又はこれらのリガンド、或いはこれらのどちらかに実質的に類似しているタンパク質が含まれる。そのような抗原の例は、CD20、CD22、CD27、CD30、CD39、CD40及びこれらのリガンドを含む分化抗原である。
【0019】
酵素的に活性なタンパク質又はこれらのリガンドも、本発明のプロセス及び培地を使用して産生することができる。例には、以下のタンパク質の1つの全て若しくは一部を含むタンパク質又はこれらのリガンド、或いはこれらのうちの一方に実質的に類似しているタンパク質が含まれる:メタロプロテイナーゼ−ディスインテグリンファミリーメンバー、キナーゼ、グルコセレブロシダーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、組織プラスミノーゲンアクチベーター、第VIII因子、第IX因子、アポリポタンパク質E、アポリポタンパク質A−1、グロビン、IL−2アンタゴニスト、アルファ−1アンチトリプシン、TNF−アルファ変換酵素、上記に記述された酵素のいずれかのリガンド及び多数の他の酵素、並びにこれらのリガンド。
【0020】
本発明の方法及び培地は、また、特定の標的タンパク質に結合し、その活性を修飾するインビトロで選択されるキメラタンパク質、抗体又はその一部、キメラ抗体、すなわち1つ以上のネズミ可変部抗体免疫グロブリンドメインと結合しているヒト定常部抗体免疫グロブリンドメインを有する抗体、そのフラグメント又は実質的に類似しているタンパク質を産生するために使用することができる。本発明のプロセスを使用して、抗体及び細胞毒性又は発光性物質を含む複合体を産生することもできる。本発明の方法及び培地を使用して産生することができる抗体、インビトロ選択キメラタンパク質又は抗体/細胞毒素若しくは抗体/発光団複合体の例には、上記に記述されたタンパク質及び/又は以下の抗原のいずれかが含まれるが、これらに限定されないタンパク質のいずれか1つ又は組み合わせを認識するものが含まれる:CD2、CD3、CD4、CD8、CD11a、CD14、CD18、CD20、CD22、CD23、CD25、CD33、CD40、CD44、CD52、CD80(B7.1)、CD86(B7.2)、CD147、IL−1a、IL−1、IL−2、IL−3,IL−7、IL−4、IL−5、IL−8、IL−10、IL−2レセプター、IL−4レセプター、IL−6レセプター、IL−13レセプター、IL−18レセプターサブユニット、PDGF−β及びこれらの類似体、VEGF、TGF、TGF−β2、TGF−p1、EGFレセプターVEGFレセプター、肝細胞増殖因子、オステオプロテゲリンリガンド、インターフェロンガンマ、Bリンパ球刺激因子、補体C5、IgE、腫瘍抗原CA125、腫瘍抗原MUC1、PEM抗原、ErbB2/HER−2、患者の血清中に高レベルで存在する腫瘍関連エピトープ、乳房、結腸、扁平上皮、前立腺、膵臓、肺及び/若しくは腎臓の癌細胞において、並びに/又は黒色腫、神経膠腫若しくは神経芽細胞腫の細胞において発現する癌関連エピトープ又はタンパク質、腫瘍の壊死性コア、インテグリンアルファ4ベータ7、インテグリンVLA−4、B2インテグリン、TRAILレセプター1、2、3及び4、RANK、RANKリガンド、TNF−α、接着分子VAP−1、上皮細胞接着分子(EpCAM)、分子間接着分子3(ICAM−3)、ロイコインテグリン(leukointegrin)アドヘシン、血小板糖タンパク質gp IIb/IIIa、心筋ミオシン重鎖、副甲状腺ホルモン、MHC I、癌胎児性抗原(CEA)、アルファ−フェトプロテイン(AFP)、腫瘍壊死因子(TNF)、Fc−y−1レセプター、HLA−DR10ベータ、HLA−DR抗原、L−セレクチン、並びにIFN−γ。
【0021】
本発明のプロセス及び培地を使用して、上記に記述されたタンパク質又は実質的に類似しているタンパク質のいずれかを含む組み換え融合タンパク質を産生することもできる。例えば、上記に記述されたタンパク質の1つと、ロイシンジッパー、コイルドコイル、抗体のFc部分又は実質的に類似しているタンパク質のようなmultimerisation domainを含む組み換え融合タンパク質は、本発明の方法及び培地を使用して産生することができる。そのような組み換え融合タンパク質のうちで特に含まれるものは、TNFR又はRANKの少なくとも一部が抗体のFc部分と融合しているタンパク質である。
【0022】
別の好ましい実施態様において、前記哺乳類細胞に基づいた発現系は、下記:
●仔ハムスター腎細胞株(例えば、BHK21)
●チャイニーズハムスター卵巣細胞株(例えば、CHO−K1、CHO−DG44、CHO−DXB若しくはCHO−dhfr
-)
●ネズミ骨髄腫細胞株(例えば、SP2/0)
●マウス骨髄腫細胞株(例えば、NS0)
●ヒト胎児腎細胞株(例えば、HEK−293)
●ヒト網膜由来細胞株(例えば、PER−C6)及び/又は
●羊膜細胞株(例えば、CAP)
からなる群より選択される少なくとも1つである。
【0023】
好ましくは、ハムスター細胞に基づいた発現系が使用される。BHK21(「仔ハムスター腎臓」)細胞は、新生ハムスター腎臓組織の異常に急速に増殖している初代培養のクローンの子孫であるシリアンハムスター細胞の準二倍体樹立株に属する。市販されており、本発明の文脈に使用することができるBHK−21細胞株の非限定例は、BHK−21(C−13);BHK21−pcDNA3.1−HC;BHK570;Flp−In−BHK細胞株;及び/又はBHK 21(クローン13)ハムスター細胞株である。
【0024】
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、チャイニーズハムスターの卵巣に由来する細胞株である。これらは、多くの場合、生物学的及び医学的な研究に使用され、治療タンパク質の産生において商業的に使用されている。これらは1960年代に導入され、当初は単層培養で増殖された。現在は、CHO細胞は、組み換えタンパク質治療薬の産業生産に最も一般的に使用される哺乳類宿主であり、通常は懸濁培養で増殖される。
【0025】
市販されており、本明細書の文脈で使用することができるCHO細胞株の非限定例は、FreeStyle CHO−S細胞;ER−CHO細胞株;CHO 1−15 500 CHINESE HAM;CHO−DXB、CHO−dhfr−、CHO DP−12クローン番号1934;CHO−CD36;CHO−ICAM−1;CHO−K1;Ovary;HuZP3−CHOLec3.2.8.1;xrs5;CHO−K1/BB2細胞;CHO−K1/BB3細胞;CHO−K1/EDG8/Galpha15細胞;CHO−K1/M5細胞;CHO−K1/NK1細胞;CHO−K1/NK3細胞;CHO−K1/NMUR1細胞;CHO−K1/NTSR1細胞;CHO−K1/OX1細胞;CHO−K1/PAC1/Gα15細胞;CHO−K1/PTAFR細胞;CHO−K1/TRH1細胞;CHO−K1/V1B細胞;5HT1A Galpha−15−NFAT−BLA CHO−K1細胞株;AVPR2 CRE−BLA CHO−K1細胞株;CHO−S細胞SFM適応;DG44細胞;Flp−In−CHO細胞株;GeneSwitch−CHO細胞株;NFAT−bla CHO−K1細胞株;T−REx−CHO細胞株;GenoStat CHO K−1安定細胞株;GenoStat CHO K−1安定細胞株キット;CHO−K1細胞株ハムスター、CHO−PEPT1細胞株である。特に好ましい実施態様において、ハムスター細胞に基づいた発現系はCHO−dhfr細胞株である。
【0026】
別の好ましい実施態様において、前記プロセスは、下記:
●振とうフラスコ
●T型フラスコ
●バッグ
●回転ビン
●バイオリアクター及び/又は
●撹拌フラスコ
からなる群より選択される少なくとも1つのバイオリアクター又は培養容器において生じる。
【0027】
好ましくは、前記バイオリアクター又は培養容器は、50ml〜40000lの容積を有することができる。標準的なバイオリアクター又は培養容器のサイズの例は、50ml(例えば、振とうフラスコ又はT型フラスコ)、500ml、2l、5l、15l、100l及び300l(例えば、バイオリアクター又はバッグ)、並びに1000l、2000l、5000l、10000l、25000l及び40000l(大型バイオリアクター)である。
【0028】
別の好ましい実施態様において、細胞の培養は接着培養、例えば単層培養で実施される。なお別の好ましい実施態様によると、細胞の培養は懸濁培養において行うこともできる。
【0029】
連続及び非連続細胞培養プロセスを本発明に利用することができる。他の既知の反応器技術、例えば灌流技術などを利用することもできる。バッチプロセス及び流加プロセスが特に好ましい実施態様である。
【0030】
PAMインヒビターがアミド化アミノ酸残基、特にC末端プロリンアミド残基の形成に影響を与えるのに役立つことが、特に好ましい。
【0031】
ほとんどの場合において、産生されるタンパク質のアミノ酸鎖毎のアミド化アミノ酸残基量を、<1%まで低減させることが望ましい。
【0032】
本発明の特に好ましい実施態様において、PAMインヒビターは4−フェニル−3−ブテン酸(PBA)又はその生理学的同等物である。
【0033】
PBA(トランス−スチリル酢酸又は4−PBAとしても知られている)は、とりわけ、放線菌のストレプトマイセスコヤンゲンシス(Streptomyces koyangensis)により産生される作用物質であり、抗炎症性及び抗真菌性効果を有することが報告されている。更に、血管拡張を抑制すると思われる。
【0034】
本発明の文脈において、PBAはC末端グリシン残基の切断を抑制すると思われ、すなわち、PAM複合体の1つの酵素であるペプチジルグリシンアルファヒドロキシル化モノオキシゲナーゼ(PHM)のインヒビターである。
【0035】
全く驚くべきことに、本発明の発明者たちは、PAMインヒビター、すなわち4−フェニル−3−ブテン酸(PBA)を、細胞培養プロセス、タンパク質発現プロセス、細胞培養培地及び/又はタンパク質発現培地において単独で又は1つ以上の他の作用物質と組み合わせて使用して、アミド化アミノ酸残基、特にC末端プロリンアミドの量を用量依存的に制御及び/又は調整できることを初めて示した。これらの所見を支持するデータが本明細書において、例えば
図1、
図2及び
図3、並びに対応する記載により開示されている。
【0036】
好ましくは、4−フェニル−3−ブテン酸(PBA)又はその生理学的同等物は、≧0.01μMから≦300μM(=μMol l
-1)の濃度で使用される。より好ましくは、前記濃度範囲は≧5μM〜≦200μM、さらにより好ましくは≧10μM〜≦150μM、最も好ましくは≧45μM〜≦110μMである。他のPAMインヒビター又はその生理学的同等物には、他の濃度範囲が当てはまることがある。
【0037】
供給液(「ショット(shot)液」とも呼ばれる)では、濃度は細胞培養培地又は細胞培養液よりも有意に高くなる、例えば3M(=Mol l
-1)までになりうることに留意するべきである。
【0038】
細胞集団と比較したとき、4−フェニル−3−ブテン酸(PBA)又はその生理学的同等物を、細胞集団の≧0.01mmol/kgから細胞集団の≦1mmol/kgの濃度で使用することができる。より好ましくは、前記濃度範囲は、細胞集団の≧0.03mmol/kgから細胞集団の≦0.5mmol/kgである。
【0039】
供給液(「ショット液」とも呼ばれる)では、濃度は細胞培養培地又は細胞培養液よりも有意に高くなりうる、すなわち、供給液の≧0.1から≦10mmol/kg、好ましくは供給液の≧0.4から≦5mmol/kgになりうることに留意するべきである。
【0040】
以下の表は、PBAが5つの異なる治療タンパク質の産生においてどのように実験的に適用されたかを示す。
【0042】
PAMインヒビター又はその生理学的同等物を、細胞培養プロセスの開始時に培地に添加することができる。あるいは、PAMインヒビター又はその生理学的同等物を、細胞培養プロセスの際に、例えば供給培地(「供給液」又は「ショット液」とも呼ばれる)の成分として補充することができる。
【0043】
そのような細胞培養プロセルにより得られるタンパク質を、医薬調合剤の調製に使用することができる。加えて、そのような細胞培養プロセルにより得られるタンパク質を、薬学的に許容される界面活性剤、添加剤、担体、希釈剤及びビヒクルのような生物学的活性剤の他の成分と一緒に投与することができる。
【0044】
定義
用語「PAMインヒビター」は、本明細書で使用されるとき、PAM酵素複合体の触媒速度を低下させる作用物質に関する。したがって前記PAMインヒビターは、PAM酵素複合体それ自体に影響を与えること又はC末端グリシン残基を切断することに関わるペプチジルグリシンアルファヒドロキシル化モノオキシゲナーゼ(PHM)若しくは実際のアミド化反応に関わるペプチジルアミド−グリコレートリアーゼ(PAL)に影響を与えることができる。
【0045】
本明細書で使用されるとき、用語「PAMインヒビターの生理学的同等物」は、生理学的設定(例えば、細胞培養液)において前記PAMインヒビターと同じ潜在的効果を有する化学PAMインヒビター誘導体に関する。例えば前記同等物は、培地において溶解して又は遍在性エステラーゼにより加水分解されて実際のPAMインヒビターを形成する前記PAMインヒビターの(化学的に適切なときには)塩又はエステルである。
【0046】
用語「医薬調合剤」は、本明細書で使用されるとき、哺乳動物、特にヒトへの投与に適した又は適合された組成物を示す。
【0047】
用語「融合ペプチド」と本明細書において同義的に使用される、用語「融合タンパク質」に関しては、初めは別々のタンパク質をコードしている2つ以上の遺伝子を結合することによって作り出されるタンパク質が意味される。この融合遺伝子の翻訳は、元々のタンパク質それぞれから誘導される機能性を有する単一のポリペプチドをもたらす。この用語の意味は、キメラ及びヒト化抗体、並びに例えばレセプタードメイン及びIgG Fcセグメントからなる作成物を包含する。
【0048】
本明細書で使用されるとき、用語「異種タンパク質発現」又は「異種タンパク質」は、発現系、例えば宿主により天然に産生されないタンパク質及びペプチドの両方を意味する。後者は、前記異種タンパク質を発現するために、遺伝子的に修飾される必要がある。
【0049】
本明細書で使用されるとき、用語「抗体」は、モノクローナル抗体(mAbs)、多特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、合成抗体、キメラ抗体、ポリクローナル抗体、ラクダ化(camelized)抗体、単鎖Fvs(scFv)、単鎖抗体、免疫学的に活性な抗体フラグメント(例えば、エピトープに結合することができる抗体フラグメント、例えばFabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)
2フラグメント、Fvフラグメント、VL若しくはVHドメイン又は抗原に免疫特異的に結合する相補性決定領域(CDR)のいずれかを含有するフラグメントなど)、二機能性又は多機能性抗体、ジスルフィド結合二特異性Fvs(sdFv)、細胞内抗体(intrabodies)及び二重特異性抗体(diabodies)、並びに上記のいずれかのエピトープ結合フラグメントを意味する。特に、用語「抗体」は、免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子の免疫学的に活性なフラグメント、すなわち抗原結合部位を含有する分子を包含することが意図される。免疫グロブリン分子は、任意の種類(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA及びIgY)、クラス(例えば、IgG
bIgG
2、IgG
3、IgG
4、IgAi及びIgA
2)又はサブクラスのものでありうる。
【0050】
本明細書で使用されるとき、用語「非抗体タンパク質」は、抗体ではない、生理学的に活性なタンパク質に関する。そのような定義は、とりわけ、インスリン、ソマトロピン、エリスロポエチン、インターフェロンアルファ若しくはG−CSF、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)、第VIII因子及び/又はインターロイキン2、或いはこれらのフラグメント又は誘導体を包含する。
【0051】
本明細書で使用されるとき、用語「抗体のフラグメント」は、幾つかの場合において特定の抗体特性、例えば標的結合能力を保持するそのような抗体のフラグメントを意味する。そのようなフラグメントの例は、下記:
●CDR(相補性決定領域)
●超可変部領域
●可変部ドメイン(Fv)
●IgG重鎖(VH、CH1、ヒンジ、CH2及びCH3領域からなる)
●IgG軽鎖(VL及びCL領域からなる)、並びに/又は
●Fab及び/若しくはF(ab)2
である。
【0052】
本明細書で使用されるとき、用語「抗体の誘導体」は、一般的な抗体の概念と構造的に異なるが依然として幾つかの構造的な関係を有し、幾つかの機能的特性を保持するタンパク質作成物、例えばscFv、また、二、三又はそれ以上の特異性の抗体作成物、ペグ化抗体作成物などを意味する。
【0053】
同様の概念が、本発明の意味において「タンパク質のフラグメント又は誘導体」に当てはまる。
【0054】
本明細書で使用されるとき、用語「細胞培養培地」は、細胞を培養する文脈において使用される全ての種類の培地を意味する。典型的には、細胞培養培地は、アミノ酸、エネルギー供給源として少なくとも1つの炭水化物、微量元素、ビタミン、塩及び可能であれば追加の成分を(例えば、細胞増殖及び/又は生産性及び/又は産物の品質に影響を及ぼすために)含む。
【0055】
本明細書で使用されるとき、用語「供給」、「供給培地」又は「供給液」は、通常、細胞増殖及び/又は生産性及び/又は産物の品質に影響を及ぼすためにプロセスの際に細胞培養に補充として添加される、ある種の細胞培養培地又は特定の成分の溶液を意味する。
【0056】
本明細書で使用されるとき、用語「細胞培養液」は、細胞が培養される実際の液体を意味する。これは、前記液が、上記の定義による細胞培養培地又は供給と対照的に、細胞により産生される代謝産物、細胞片、細胞タンパク質(例えば、酵素若しくは組み換えタンパク質)及び/又は前記PAMインヒビターの分解産物を含有しうること、並びにその栄養分が更に低減されうることを意味する。
【0057】
本明細書で使用されるとき、用語「アミド化アミノ酸残基の量」は、タンパク質のC末端でのタンパク質発現の際又は後に形成されたアミド化アミノ酸残基に関する。これは、特にアミド化プロリンの量に関する。特定の状況下では、タンパク質のプロリン残基を翻訳後にアミド化することができ、例えばプロリンアミド(Pro−NH
2)の形成をもたらす。このことは、幾つかの場合において、例えば産生されるべきタンパク質におけるプロリンアミドの量が標準タンパク質よりも多い又は少ない場合に望ましくない。
【0058】
PAM酵素複合体により影響を受けたプロリンアミド化は、翻訳タンパク質のProとRの間のC末端ペプチド結合の加水分解及び酸化に基本的に依存しており、ここでRは、1つ又は2つ以上のアミノ酸残基、例えばGly、Leu、Ile、Val若しくはPhe又はGly−Lysでありうる。反応は、ほとんどの場合、PAM酵素複合体(上記を参照すること)により触媒される。発現宿主及びタンパク質発現条件に応じて、少なくとも1つの翻訳後Pro−NH
2を担持する翻訳タンパク質の共有は、≧0〜≦100%の範囲でありうる。前記のアミド化は、タンパク質pHの上昇をもたらし、したがって塩基性変種である。
【0059】
モノクローナル抗体又はこれらの誘導体において、プロリンアミド(PA)は、典型的には、C末端リシン及びグリシンの翻訳後除去により、並びにC末端プロリン残基になったものの、例えばタンパク質の重鎖でのアミド化により作り出される。
【0060】
プロリンアミド化は、多様なタンパク質、例えばカルシトニンの機能にとって重要である。mAbsにおけるその機能は、今までのところ知られていない。
【0061】
プロリンアミドの量は、電荷、疎水性又は質量のような物理化学的な差によりアミド化変種を非アミド化のものと区別する多様な分析方法により、同定及び定量化することができる。最も一般的な方法は、プロリンアミド化による電荷変更を利用するCEX−CPB法(カルボキシペプチダーゼBによる消化後のカチオン交換クロマトグラフィー)のようなイオン交換クロマトグラフィーである。抗体では、プロリンアミド変種とリシン変種の共溶出は、クロマトグラフィー分離の前にカルボキシペプチダーゼBの消化を使用してリシン残基を除去することによって回避される。しかし、他の塩基性変種との追加的な共溶出が、数パーセント(例えば4%)の定量化バックグラウンドでもたらされうる。プロリンアミド変種とバックグラウンドは、1つのC末端リシン残基を有する抗体変種のクロマトグラフィー位置で溶出するので「Pseudo1K」と呼ばれる。「Pseudo2K」は、2つのC末端リシン残基を有する抗体変種のクロマトグラフィー位置で溶出する、プロリン変種とバックグラウンドを包含する。CEX法との差(すなわち、CPB消化によるリシン除去のないCEX)は、「リアル1K」及び「リアル2K]と呼ばれる、リシン残基を有する抗体変種の量を示している。CEX(−CPB)による定量化は、溶液中の全ての抗体分子に対してプロリンアミド化抗体の率を戻す。アミド化プロリン変種を明白に同定及び定量化することができる分析試験方法は、UV(紫外線)又はMS(質量分析)検出を使用する、いわゆるペプチドマッピングである、エンドペプチダーゼ(例えば、LysC、トリプシン)消化タンパク質のRP−HPLC(逆相高速液体クロマトグラフィー)である。RP−HPLCペプチドマッピングによる定量化は、抗体において、全ての重鎖に対するプロリンアミド化重鎖の率を戻す。
【0062】
「Pseudo1K」は、抗体(IgG)の2つの重鎖の1つがそのC末端にプロリンアミドを有する、CEX−CPBにより決定された変種である。「Pseudo2K]は、モノクローナル抗体の両方の重鎖がそれらのC末端にプロリンアミドを有する、CEX−CPBにより決定された変種である。
【0063】
本明細書で使用されるとき、所定の作用物質の「濃度」という用語は、細胞培養培地(例えば、細胞培養培地若しくは供給培地若しくは供給液)における又は細胞培養液における濃度に関する。
【0064】
免責条項
明細書を過度に長くすることなく包括的な開示を提供するため、出願者は、上記に参照された特許及び特許出願をそれぞれ参照として本明細書に組み込む。
【0065】
上記に詳述された実施態様の要素及び特性の特定の組み合わせは、例示のためのみであり、本明細書及び参照として組み込まれる特許/出願における他の教示によるこれらの教示の交換又は置換も、明確に考慮される。当業者には認識されるように、本明細書に記載されたものの変形、変更及び他の実施が、主張される発明の精神及び範囲を逸脱することなく当業者によって生じうる。したがって、前記の記載は、例としてのみであり、限定的であることを意図しない。本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲及びその同等物において定義される。更に、記載及び特許請求の範囲に使用される参照符号は、主張される発明の範囲を限定しない。
【0066】
本発明の目的の追加的な詳細、特性、特徴及び利点は、下位クレームにおいて、並びに例示的な様式で本発明の好ましい実施態様を示す対応する図及び実施例の以下の記載において開示されている。しかし、これらの図は、本発明の範囲を限定するものとしていかようにも理解されるべきではない。