(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
[透明導電層付きフィルムの構成]
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、透明フィルム基板10上にアンダーコート層20、さらにその上に透明導電層30を形成した透明導電層付きフィルム100を示している。
図2は、透明導電層付きフィルム100を方形にカットした際の概略斜視図を示している。
図3は、透明導電層付きフィルム100をロール状態における長手方向に直交する幅方向に沿って切断した際の概略断面図を示している。
【0012】
本願発明では、
図1〜3に示すように、フィルムの幅方向の端部が、透明電極付きフィルムの透明導電層側(上側)に向かって先細りとなる略テーパー状にカットされ、その部分に傾斜領域が形成されるよう端部処理されている。そして、傾斜領域を、透明電極付きフィルムの面方向を基準として30〜60°の傾斜を有するように特定することで、フィルムのカールを抑制する効果を奏するものである。
【0013】
透明導電層付きフィルム100は、ロール・トゥ・ロール方式で搬送される柔らかさを有し、且つ、少なくとも可視光領域において無色透明であるものが好ましい。透明導電層付きフィルム100の厚みは10〜100ミクロン(μm)が好ましく、さらには15〜70ミクロン、特には20〜55ミクロンが好ましい。フィルム100の膜厚が100ミクロン以上では、一般に、フィルムの剛性によりカールを抑制することが可能であるため、本願においては、100μm以下であることが好ましい。一方、フィルム100の膜厚が10ミクロン以下であれば、フィルムの剛性が働きにくいため、本願の端部処理を適用しても、カールを抑制することが困難になる傾向がある。また、透明導電層付きフィルムは一辺の長さが300mm以上であると端部処理による効果を発揮し易いため好ましく、300mm未満であると、本願の端部処理を施しても効果を確認しづらい傾向がある。
【0014】
透明導電層付きフィルム100透明フィルム基板を構成する透明フィルム基板10は、少なくとも可視光領域で無色透明であり、ロール・トゥ・ロール方式で搬送され、透明電極層形成温度における耐熱性を有していれば、その材料は特に限定されない。透明フィルムの材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフテレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース系樹脂等が挙げられる。中でも、ポリエステル系樹脂が好ましく、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましく用いられる。
【0015】
また、延伸フィルムは、延伸による歪が分子鎖に残留するため、加熱された場合に熱収縮する性質を有している。このようなフィルムの熱収縮を低減させ、基材の熱収縮による不具合を抑止する方法としては、延伸の条件調整や延伸後の加熱によって応力を緩和し、熱収縮率を0.8%程度あるいはそれ以下に低減させることや、熱収縮開始温度が高められた二軸延伸フィルム(低熱収縮フィルム)を用いることが知られている。したがって、透明導電層付きフィルムの製造工程における基材の熱収縮による不具合を抑止する観点から、このような低熱収縮フィルムを基材として用いることが好ましい。
【0016】
本発明にかかる透明導電層付きフィルムには、その薄さによって生じる取扱いの困難さを解消することと、傷などを防ぐ目的から保護フィルムが貼り合わされていても良い。保護フィルムは透明導電層付きフィルムのどちらの面に貼り合わされても構わないし、両面に貼り合わされても構わない。片面に貼り合わせる場合には、透明導電層付きフィルムと保護フィルムの厚みの和が150〜200μmとなるように保護フィルムの厚みを設定することで、既存のフィルム基板と同じ取扱いができるようになり、生産性の面から好ましく、特に、保護フィルムが透明導電層付きフィルムの底面に形成されると、カールを防ぐ効果が向上し好ましい。また、両面に貼り合わせる場合は、透明導電層付きフィルムと2枚の保護フィルムの厚みの合計が200〜350μmであるのが好ましい。保護フィルムは、粘着材を介して透明導電層付きフィルムに貼り合わされる。粘着材は、保護フィルムを透明導電層付きフィルムから剥離した後に、透明導電層付きフィルムに残らないものが良く、アクリル樹脂からなる粘着材が好ましく使用できる。
【0017】
保護フィルムの貼り合わせは公知のラミネーター等を使用することができ、ロールトゥロールによるプロセスも可能である。保護フィルム貼り合わせ後にスリット加工する場合には、本発明のスリット角度を保護フィルム側にも延長して、相似形とすることで、カール抑制が可能となる。また、透明導電層付きフィルムの傾斜領域の形状と、保護フィルムの傾斜領域の形状を異なるものとすることも出来、その場合、両者を剥がす作業が容易になり好ましい。
【0018】
アンダーコート層20は、フィルム基板10の保護、フィルム基板10からの低分子量成分の拡散抑制などの役割を果たす。さらに、アンダーコート層20の屈折率を制御することで、例えばタッチパネルに用いる場合の「骨見え性」を解消することが可能となる。また、アンダーコート層20は図中ではフィルム基板10の片面に構成されているが、両面に形成されていてもよい。それぞれの構成において表面粗さを制御することで、フィルムロールのゲージバンドや巻き出し時の剥離放電を抑制することが可能となる。
【0019】
アンダーコート層20と透明導電層30との間には、結晶性制御層を設けることができる。結晶性制御層の役割は、アニール処理による透明導電層30の結晶成長を促し、電気特性や光学特性を良好にすることである。結晶性制御層は、その上に形成する透明導電層30が金属酸化物であることから、酸化物であることが好ましく、例えばケイ素やチタンやニオブ、ジルコニウムなどの酸化物を用いることができる。
【0020】
結晶性制御層の膜厚は2〜30nmが好ましく、さらには3〜18nm、特に3〜10nmが好ましい。この膜厚の範囲とすることで、結晶成長に必要な下地機能と併せて、光学特性も良好な透明導電層付きフィルムを作製できる。
【0021】
透明導電層30としては、導電性を有し、電極として作用する金属や酸化物であれば良いが、酸化インジウムが主成分の酸化物が好ましい。その場合、酸化インジウムを、87.5質量%〜99.0質量%含有するのが好ましい。結晶質透明電極層は、膜中にキャリア密度を持たせて導電性を付与するためのドープ不純物を含有する。このようなドープ不純物としては、酸化スズまたは酸化亜鉛、酸化チタン、酸化タングステンが好ましい。ドープ不純物が酸化スズである場合の透明電極層は酸化インジウム・スズ(ITO)であり、ドープ不純物が酸化亜鉛である場合の透明電極層は酸化インジウム・亜鉛(IZO)である。透明電極層中の前記ドープ不純物の含有量は、4.5質量%〜12.5質量%であることが好ましく、5質量%〜10質量%であることがより好ましい。また、製膜時には透明性を有していなくても、例えば、細線化処理を施すことで略透明となる、銅などの導電材料を透明導電性30として用いることもできる。透明導電層を低抵抗かつ高透過率とする観点から、透明導電層30の膜厚は、15nm〜30nmが好ましく、17nm〜27nmがより好ましく、20nm〜25nmがさらに好ましい。
【0022】
透明導電層30がITOやIZOなどの金属酸化物の場合は、結晶化度が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。結晶化度が上記範囲であれば、透明導電層による光吸収を小さくできるとともに、環境変化等による抵抗値の変化が抑制される。なお、結晶化度は、顕微鏡観察時において観察視野内で結晶粒が占める面積の割合から求められる。
【0023】
また、タッチパネル用の透明導電層付きフィルムとして用いることを考慮すると、透明導電層30は抵抗率が3.5×10
−4Ωcm以下であることが好ましく、透明導電層30が結晶質の場合、表面抵抗は150Ω/□以下であることが好ましく、130Ω/□以下であることがより好ましい。透明導電層が低抵抗であれば、静電容量方式タッチパネルの応答速度向上や、有機EL照明の面内輝度の均一性向上、各種光学デバイスの省消費電力化等に寄与し得る。
【0024】
透明導電層30のキャリア密度は、4×10
20cm
−3〜9×10
20cm
−3であることが好ましく、6×10
20cm
−3〜8×10
20cm
−3であることがより好ましい。キャリア密度が上記範囲内であれば、透明導電層30を低抵抗化できる。
【0025】
本発明における透明導電層付きフィルムは、長手方向に直交する幅方向の両端に、透明電極付きフィルムの透明導電層側に向かって先細りとなる、すなわち、底面側に向かって広幅となる傾斜領域が形成されており、上記傾斜領域における基板と傾斜とのなす角度(スリット角度)ωは、透明電極付きフィルムの面方向を基準として30〜60°の傾斜を有しているのが好ましい。ωとしては、35〜55°がさらに好ましく、40〜50°が特に好ましい。
【0026】
上記範囲が好ましい理由は以下のように説明できる。アンダーコート層20と透明導電層30の厚みを合わせて薄膜層の厚みとした。
図1のように横軸をxとした場合、基板の厚みb、と薄膜層の厚みdは
b=b(x)(bの最大値、即ちフィルムの厚みはb
0)
d=d(x)(dの最大値、即ち薄膜層の厚みはd
0)
とあらわせる。この時、曲率半径Δr(x)は応力σを用いて、Storneyの式より下記のように表せる。
【0028】
ここで、γ
sは基板のポアソン比、E
sは基板のヤング率を示している。ここで、フィルムのカールの角度をθとし、xの変位、即ちΔxが、基板の厚みに対して十分に小さいとすれば、
d(x)〜Δx・tanω
Δx〜Δr・θ
と近似できることから、Δr(x)は
【0030】
と表すことができる。これより、曲率半径変位、即ちフィルムのカールはωに依存していることがわかる。これより曲率半径変位を小さくするには、tanωを1に近づけることが有効である。このような理由から、基板と傾斜とのなす角度ωは30〜60°であることが好ましいと言える。ここで、傾斜領域の形状は、一例として、
図1のωに示すように、透明フィルム10の端と最表面に形成された透明導電層30の端とを結ぶ線における、透明フィルム10の面方向に対する傾きを示す。
【0031】
略テーパー状の傾斜領域の形状としては、曲面や直線等を取り得るが、カールの発生、すなわち応力を効果的に抑制する点や加工のし易さの点では、面一であり、且つ、直線であるのが好ましい。また、傾斜領域の形状を透明導電層側(上側)が略凸になる曲面状にした場合、透明フィルム10の端部が鋭角に加工されないため、フィルムを載置する場合の作業性が確保されたり、安全性が確保されたりして好ましい。また、傾斜領域の形状は透明導電層側(上側)が略凹になる曲面状であると、製膜した透明導電層等が剥離しにくいため好ましい。
【0032】
さらに、傾斜領域は、フィルムの幅方向の両端部分の全体にわたって形成されてもよいし、部分的に形成されてもよいが、全体にわたって形成された方がカールの発生をより効果的に抑制できるため好ましい。なお、傾斜領域を両端部分あるいは一端部分の一部のみに形成すると、傾斜領域が形成されていない部分により、フィルムを積層する際のズレを防止することができ、好ましい。
【0033】
またさらに、傾斜領域の形状を波状にすると、端部を支持する際の滑り止めになり好ましい。保護フィルムが貼り合わされている場合に、透明導電層付きフィルムと保護フィルムの傾斜領域の形状を異なるものとすると、両者を剥離し易いほか、上述した効果を奏することが期待できる。さらに別の形態として、両者の剥離し易さの観点で、保護フィルムには傾斜領域を設けず、透明導電層付きフィルムに傾斜領域を設けることも出来る。さらに別の形態として、透明導電層付きフィルムの幅方向のみならず、長手方向(搬送方向)に傾斜領域を設けることもできる。
【0034】
[透明導電層付きフィルムの製造方法]
以下、本発明の好ましい実施の形態について、透明導電層付きフィルムの製造方法に沿って説明する。本発明の製造方法では、透明フィルム10上にアンダーコート層20が備えられる(基材準備工程)。透明導電層はスパッタリング法により形成され(製膜工程)、その後、透明電極層が結晶化される(結晶化工程)。一般に、酸化インジウムを主成分とする非晶質の透明電極層を結晶化するためには、150℃程度の加熱処理を実施する。このように加熱処理(アニール処理)を施すことで、フィルムはカールされ易くなることから、本願発明は、加熱工程によって透明導電層が結晶化されたものに対して、特に好ましい。
【0035】
(製膜工程)
透明フィルム基板10のアンダーコート層20上に、スパッタリング法により透明導電層30が形成される。
【0036】
スパッタ電源としては、DC,RF,MF電源等が使用できる。スパッタ製膜に用いられるターゲットとしては金属や、金属酸化物等が用いられる。スパッタ製膜は、製膜室内に、アルゴンや窒素等の不活性ガスおよび酸素ガスを含むキャリアガスが導入されながら行われる。導入ガスは、アルゴンと酸素の混合ガスが好ましい。混合ガスは、酸素を0.4体積%〜2.0体積%含むことが好ましく、0.7体積%〜1.5体積%含むことがより好ましい。上記体積の酸素を供給することで、透明電極層の透明性および導電性を向上させることができる。なお、混合ガスには、本発明の機能を損なわない限りにおいて、その他のガスが含まれていてもよい。製膜室内の圧力(全圧)は、0.1Pa〜1.0Paが好ましく、0.25Pa〜0.8Paがより好ましい。
【0037】
本発明において、製膜時の製膜室内の酸素分圧は、1×10
−3Pa〜5×10
−3Paであることが好ましく、2.3×10
−3Pa〜4.3×10
−3Paであることがより好ましい。上記酸素分圧範囲は、一般的なスパッタ製膜における酸素分圧よりも低い値である。すなわち、本発明においては、酸素供給量が少ない状態で製膜がおこなわれる。そのため、製膜後の非晶質膜中には、酸素欠損が多く存在していると考えられる。
【0038】
製膜時の基板温度は、透明フィルム基板が耐熱性を有する範囲であればよく、60℃以下であることが好ましい。基板温度は、−20℃〜40℃であることがより好ましく、−10℃〜20℃であることがさらに好ましい。基板温度を60℃以下とすることで、透明フィルム基板からの水分や有機物質(例えばオリゴマー成分)の揮発等が起こり難くなり、酸化インジウムの結晶化が起こりやすくなるとともに、非晶質膜が結晶化された後の結晶質透明導電層の抵抗率の上昇を抑制することができる。また、基板温度を前記範囲とすることで、透明電極層の透過率の低下や、透明フィルム基板の脆化が抑制されるとともに、製膜工程においてフィルム基材が大幅な寸法変化を生じることがない。
【0039】
透明導電層は、15nm〜40nmの膜厚で製膜されることが好ましい。製膜厚みは、18nm〜35nmがより好ましい。製膜厚みを前記範囲とすることで、透明導電層を、低温加熱あるいは室温で結晶質膜に転化され得るものとすることができる。
【0040】
本発明においては、巻取式スパッタリング装置を用いて、ロールトゥロール法により製膜が行われることが好ましい。ロールトゥロール法により製膜が行われることで、非晶質の透明電極層が形成された透明フィルム基板の長尺シートのロール状巻回体が得られる。透明フィルム10上への結晶性制御層40の形成が巻取式スパッタリング装置を用いて行われる場合、結晶性制御層40と透明導電層30とが、連続して製膜されてもよい。
【0041】
(結晶化工程)
非晶質の透明導電層が形成された基材は、結晶化工程に供される。結晶化工程では、当該基材が120〜170℃に加熱される。
【0042】
膜中に酸素を十分に取り込み、結晶化時間を短縮するためには、結晶化は大気中等の酸素含有雰囲気下で行われることが好ましい。真空中や不活性ガス雰囲気下でも結晶化は進行するが、低酸素濃度雰囲気下では、酸素雰囲気下に比べて結晶化に長時間を要する傾向がある。
【0043】
長尺シートのロール状巻回体が結晶化工程に供される場合、巻回体のままで結晶化が行われてもよく、ロールトゥロールでフィルムが搬送されながら結晶化が行われてもよく、フィルムが所定サイズに切り出されて結晶化が行われてもよい。
【0044】
巻回体のまま結晶化が行われる場合、透明電極層形成後の基材をそのまま常温・常圧環境に置くか、加熱室等で養生(静置)すればよい。ロールトゥロールで結晶化が行われる場合、基材が搬送されながら加熱炉内に導入されて加熱が行われた後、再びロール状に巻回される。なお、室温で結晶化が行われる場合も、透明電極層を酸素と接触させて結晶化を促進させる等の目的で、ロールトゥロール法が採用されてもよい。
【0045】
[透明導電層付きフィルムの用途]
本発明の透明導電層付きフィルムは、ディスプレイや発光素子、光電変換素子等の透明電極として用いることができ、タッチパネル用の透明電極として好適に用いられる。中でも、透明電極層が低抵抗であることから、静電容量方式タッチパネルに好ましく用いられる。
【0046】
タッチパネルの形成においては、透明導電層付きフィルム上に、導電性インクやペーストが塗布されて、熱処理されることで、引き廻し回路用配線としての集電極が形成される。加熱処理の方法は特に限定されず、オーブンやIRヒータ等による加熱方法が挙げられる。加熱処理の温度・時間は、導電性ペーストが透明電極に付着する温度・時間を考慮して適宜に設定される。例えば、オーブンによる加熱であれば120〜150℃で30〜60分、IRヒータによる加熱であれば150℃で5分等の例が挙げられる。なお、引き廻し回路用配線の形成方法は、上記に限定されず、ドライコーティング法によって形成されてもよい。また、フォトリソグラフィによって引き廻し回路用配線が形成されることで、配線の細線化が可能である。上記の加熱工程において、フィルムのカールを抑制することが、本発明の目的である。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
各透明誘電体層および透明電極層の膜厚は、透明導電層付きフィルムの断面の透過型電子顕微鏡(TEM)観察により求めた値を使用した。透明電極層の表面抵抗は、低抵抗率計ロレスタGP(MCP‐T710、三菱化学社製)を用いて四探針圧接測定により測定した。フィルム端部のスリット角度については、断面を光学顕微鏡で観察の上、画像解析により角度を測定した。
【0049】
[実施例1]
(透明フィルム基板の作製)
透明フィルム基板として、厚み50μmの2軸延伸PETフィルムを用いた。
【0050】
このPETフィルム上にアンダーコート層を形成した。アンダーコート層は、紫外線硬化型ポリメチルメタクリレート(PMMA)系樹脂にシリカ微粒子(1次粒径:0.5μm)を10質量%混ぜ、混練した後に、ロールトゥロール方式塗工装置を用いて塗工した。塗工にはグラビア印刷法を用い、乾燥・硬化後の膜厚が2μmとなるように調整した。
【0051】
(非晶質透明電極層の製膜)
透明電極の製膜は、ロールトゥロール型のスパッタ装置を用いて実施した。フィルムの幅は1100mmとし、長さ1000mに対して製膜を実施した。酸化インジウム・スズ(酸化スズ含量5質量%)をターゲットとして用い、酸素とアルゴンの混合ガスを装置内に導入しながら、酸素分圧10×10
−3Pa、製膜室内圧力0.5Pa、基板温度0℃、パワー密度4W/cm
2の条件で行った。
【0052】
(結晶化)
この透明導電層付きフィルムについて150℃で1時間熱処理を行った。表面について顕微鏡観察を行うと、ほぼ完全に結晶化されていることが確認された(結晶化度100%)。
【0053】
(スリット工程)
ロールトゥロール方式のスリット加工には、シャースリット方式やギャングスリット方式などが代表として挙げられるが、本発明においては、端部処理の容易さからシャースリット方式が好ましく採用される。
図4に、本発明におけるシャースリット方式の模式図を示す。1010は透明導電層付きフィルムを1つのフィルムとして模したものであり、紙面上側が透明電極層が形成されている側である。フィルムは紙面垂直方向に搬送される。透明導電層付きフィルム1010は下刃1020と上刃1030によりせん断されることでスリットされる。スリッターの上刃の形状は片刃であることが加工プロセスの観点から広く採用されている。本発明では、両刃の上刃を用いることで、効率よくスリット加工を実施することができる。
【0054】
実施例1では、スリット角度を45°とした。スリット角度はMD方向にのみ形成されており、TD方向は90°(通常のカッターナイフによる裁断)とした。
【0055】
(カール評価)
カールの評価は、スリット加工後のものと、スリット加工後に結晶化処理を施したものとについて実施した。それぞれのフィルムは1辺400mmの正方形にカットし、透明電極層を上側として、水平な台の上に固定することなく載置し、ハイトゲージを用いてカール量を測定した。なお、測定は気温と湿度が一定に保たれた恒温室で行い、その際の室温は23度、湿度は50%であった。フィルムが凹型(中央部分が下側に凹んでいる)にカールしている場合を+、凸型に変形している場合を−として値付けした。
【0056】
[実施例2〜4、比較例1〜3]
表1に示すように、スリット角度を変更してスリット加工した。スリット角度はMD方向にのみ形成されており、TD方向は90°(通常のカッターナイフによる裁断)とした。
【0057】
【表1】
【0058】
表1より、スリット角ωを30〜60°、より好ましくは35〜55°にすることで、カール量が±15mmよりも小さくなることがわかった。フィルムをベースとしたデバイス作製の場合、装置の仕様にも依存するが、カール量が小さい方が精度・確度の点から好ましく、実施例の範囲であれば好適に使用可能と考えられる。