【実施例】
【0034】
以下では、図面を参照して呼吸音解析装置及び呼吸音解析方法、並びにコンピュータプログラム及び記録媒体の実施例について詳細に説明する。
【0035】
<全体構成>
先ず、本実施例に係る呼吸音解析装置の全体構成について、
図1を参照して説明する。ここに
図1は、本実施例に係る呼吸音解析装置の全体構成を示すブロック図である。
【0036】
図1において、本実施例に係る呼吸音解析装置は、主な構成要素として、生体音センサ110と、信号記憶部120と、信号処理部125と、音声出力部130と、表示部140と、処理部200とを備えて構成されている。
【0037】
生体音センサ110は、生体の呼吸音を検出可能に構成されたセンサである。生体音センサ110は、例えばECM(Electret Condenser Microphone)やピエゾを利用したマイク、振動センサ等で構成されている。
【0038】
信号記憶部120は、例えばRAM(Random Access Memory)等のバッファとして構成されており、生体音センサ110で検出された呼吸音を示す信号(以下、適宜「呼吸音信号」と称する)を一時的に記憶する。信号記憶部120は、記憶した信号を、音声出力部130及び処理部200に夫々出力可能に構成されている。
【0039】
信号処理部125は、生体音センサ110で取得した音を加工して音声出力部130に出力する。信号処理部125は、例えばイコライザーやフィルターとして機能し、取得した音を人が聴き易い状態に加工する。
【0040】
音声出力部130は、例えばスピーカやヘッドホンとして構成されており、生体音センサ110で検出され、信号処理部125で加工された呼吸音を出力する。
【0041】
表示部140は、例えば液晶モニタ等のディスプレイとして構成されており、処理部200から出力される画像データを表示する。
【0042】
処理部200は、複数の演算回路やメモリ等を含んで構成されている。処理部200は、周波数解析部210、連続性ラ音検出部220、ピーク周波数検出部230、笛声音/類鼾音判定部240、及び画像生成部250を備えている。
【0043】
処理部200の各部の動作については後に詳述する。
【0044】
<動作説明>
次に、本実施例に係る呼吸音解析装置の動作について、
図2を参照して説明する。ここに
図2は、本実施例に係る呼吸音解析装置の動作を示すフローチャートである。
【0045】
図2において、本実施例に係る呼吸音解析装置の動作時には、先ず生体音センサ110において呼吸音が検出され、処理部200による呼吸音信号の取得が行われる(ステップS101)。
【0046】
呼吸音信号が取得されると、周波数解析部210において周波数解析(例えば、高速フーリエ変換)が実行される(ステップS102)。周波数解析が実行されると、その結果を用いて、連続性ラ音検出部220において、呼吸音信号に含まれる連続性ラ音を含む成分が検出される(ステップS103)。なお、連続性ラ音を検出する処理は、連続性ラ音以外の呼吸音(例えば、正常呼吸音や、他の異常呼吸音等)を検出する処理と並行して行われてもよい。ここまでの各処理については、周知の技術を利用して行うことが可能であるため、詳細な説明は省略する。
【0047】
連続性ラ音が検出されると(ステップS104:YES)、周波数ピーク検出部230において、連続性ラ音に対応する成分のピーク(極大値)の検出が実行され、ピーク位置に対応する周波数がピーク周波数として検出される(ステップS105)。ピーク検出する場合には、例えば所定の時間間隔(例えば、FFTをかける時間間隔等)で、周波数特性の領域において最大値をとる周波数を求めればよい。
【0048】
本実施例に係る呼吸音解析装置は、ここで検出されたピーク周波数に基づいて、連続性ラ音が笛声音であるか、又は類鼾音であるかを判定する。具体的には、ピーク周波数と、所定の閾値との大小を比較して、ピーク周波数が所定の周波数より高い場合には笛声音であると判定し、ピーク周波数が所定の周波数より低い場合には類鼾音であると判定する。ただし、本実施例では特に、笛声音及び類鼾音を判定するための閾値として、ピーク周波数に応じて変動する値を用いる。このため本実施例では、ピーク周波数が検出されると、笛声音及び類鼾音の判定に先立って、ピーク周波数に応じた閾値の決定が実行される(ステップS106)。
【0049】
ここで、上述した閾値の決定方法について、
図3から
図5を参照して具体的に説明する。ここに
図3は、比較例に係る連続性ラ音判定における問題点を示す概念図である。また
図4は、本実施例に係る閾値の変動を示すグラフであり、
図5は、本実施例に係る閾値の具体的な値を示す表である。なお、
図3に示されるスペクトルは、正常呼吸音に加えて笛声音を顕著に含む呼吸音のスペクトルである。
【0050】
図3において、笛声音は高音性連続性ラ音、類鼾音は低音性連続性ラ音と呼ばれるように、笛声音と類鼾音とは音の高さ(即ち、周波数)で判別することが可能である。しかしながら、笛声音及び類鼾音は、ピーク周波数が時間的に変化する。このため、図に示すような単一の閾値(即ち、値が変動しない一つの閾値)を利用して笛声音及び類鼾音を判定しようとする比較例では、時間の経過により、判定結果が変化してしまうことがある。例えば、図中に示す笛声音成分のように、ピーク周波数が判定閾値を跨ぐように変化してしまうと、それまでは正確に笛声音と判定されていたものが、誤って類鼾音として判定されることになってしまう。このため本実施例に係る呼吸音解析装置では、ピーク周波数に応じて閾値を変動させる。
【0051】
図4及び
図5に示すように、本実施例に係る呼吸音解析装置では、笛声音と判定する割合及び類鼾音と判定する割合がピーク周波数に応じてなめらかに変化するように閾値が変動する。例えば、ピーク周波数が200Hzの場合には、笛声音が7%含まれ、類鼾音が93%含まれると判定する。ピーク周波数が250Hzの場合には、笛声音が50%含まれ、類鼾音が50%含まれると判定する。ピーク周波数が280Hzの場合には、笛声音が78%含まれ、類鼾音が22%含まれると判定する。なお、ここでの具体的な数値はあくまで一例であり、異なる値を設定してもよい。また、測定対象である生体の性別、年齢、身長、体重等によって異なる変動特性を有するようにしてもよい。
【0052】
上述した変動する閾値を利用することで、
図3で示したような場合に発生し得る誤判定を好適に防止することができる。即ち、本実施例に係る呼吸音解析装置では、笛声音及び類鼾音を判定するための閾値がピーク周波数に応じて適切な値にとなるよう変動するため、例えば変動しない単一の閾値を用いる場合と比較して、より正確な判定が行える。
【0053】
図2に戻り、笛声音/類鼾音判定部240では、上述したように変動する閾値を用いて、連続性ラ音が笛声音であるのか、又は類鼾音であるのかが判定される(ステップS107)。そして、画像生成部250では判定結果に基づく画像が生成され、表示部140において判定結果が表示される(ステップS108)。なお、解析結果を表示した後は、解析を継続するか否かが判定される(ステップS109)。解析を継続すると判定された場合(ステップS109:YES)、上述した処理がステップS101から再開される。一方、解析を継続しないと判定された場合(ステップS109:NO)、一連の処理は終了する。
【0054】
ここで、表示部140における解析結果の表示について、
図6及び
図7を参照して具体的に説明する。ここに
図6及び
図7は夫々、本実施例に係る連続性ラ音判定結果の表示例を示すグラフである。
【0055】
図6に示すように、解析結果である笛声音及び類鼾音の割合は、棒グラフとして表示部150に表示される。ただし、この表示方法は一例であり、他の表示態様で表示を行ってもよい。例えば、笛声音及び類鼾音の割合を円グラフとして表示してもよい。或いは、笛声音及び類鼾音の強度を数値化して表示してもよい。
【0056】
図7に示すように、笛声音及び類鼾音以外の音種(例えば、正常呼吸音、水泡音、捻髪音等)についても判定可能な場合には、それらの音種の割合も合わせて表示するようにしてもよい。
【0057】
なお、上述した画像としての出力に代えて或いは加えて、音声データによる出力も可能である。具体的には、笛声音と類鼾音とで別々に音声を出力することができる。或いは、笛声音及び類鼾音の一方だけを強調して音声を出力することができる。
【0058】
<判定結果の具体例>
最後に、
図8及び
図9において解析結果の具体例を挙げて、本実施例の利点について詳細に説明する。ここに
図8は、本実施例及び比較例に係る呼吸音解析装置により笛声音を解析する例を示す概念図である。また
図9は、本実施例及び比較例に係る呼吸音解析装置により類鼾音を解析する例を示す概念図である。なお、以下では、変動する閾値(
図4及び
図5を参照)を用いる本実施例に係る呼吸音解析装置、と、単一閾値(250Hz)を用いる比較例に係る呼吸音解析装置とで、笛声音及び類鼾音の各々スペクトルを解析する場合を考える。なお、笛声音及び類鼾音の判定は、所定の時間間隔ごと(時刻t1〜t7)で行われるものとする。
【0059】
図8に示すように、ピーク周波数が約350Hzから約200Hzまで低下するような笛声音が解析対象であるとする。この場合、比較例に係る呼吸音解析装置では、時刻t1からt6においては、解析対象である連続性ラ音が笛声音であると正確に判定されている。しかしながら、時刻t7においては、笛声音のスペクトルのピーク周波数が低下している(即ち、閾値である250Hzを下回っている)ため、類鼾音と誤って判定されている。
【0060】
一方、本実施例に係る呼吸音解析装置では、時刻t1からt4においては、解析対象である連続性ラ音が100%笛声音であると正確に判定されている。そして、時刻t5からは類鼾音の割合が少しずつ増加するが、時刻t7においても笛声音が含まれるものと判定され続ける。即ち、時刻t7において完全に誤った判定をしてしまった比較例に対して、本実施例は笛声音も含まれる可能性があるという結果を提示することができる。
【0061】
図9に示すように、ピーク周波数が約240Hzから約260Hzまで上昇し、その後約180Hzまで低下するような類鼾音が解析対象であるとする。この場合、比較例に係る呼吸音解析装置では、時刻t1、及びt4からt7において、解析対象である連続性ラ音が類鼾音であると正確に判定されている。しかしながら、時刻t2及びt3においては、類鼾音のスペクトルのピーク周波数が一時的に上昇している(即ち、閾値である250Hzを上回っている)ため、笛声音と誤って判定されている。
【0062】
一方、本実施例に係る呼吸音解析装置では、ピーク周波数が上昇する時刻t2及びt3においても類鼾音が含まれるものと判定され続ける。即ち、時刻t2及びt3において完全に誤った判定をしてしまった比較例に対して、本実施例は類鼾音も含まれる可能性があるという結果を提示することができる。
【0063】
以上説明したように、本実施例に係る呼吸音解析装置によれば、ピーク周波数に応じて変動する閾値を利用することで、より好適に笛声音及び類鼾音を判定することができる。
【0064】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う呼吸音解析装置及び呼吸音解析方法、並びにコンピュータプログラム及び記録媒体もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。