特許第6298360号(P6298360)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6298360
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】二酸化炭素分離システム
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/08 20060101AFI20180312BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20180312BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20180312BHJP
【FI】
   B01D53/08ZAB
   B01D53/62
   C01B32/50
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-110030(P2014-110030)
(22)【出願日】2014年5月28日
(65)【公開番号】特開2015-223558(P2015-223558A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2017年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西部 祥平
(72)【発明者】
【氏名】野中 嘉治
(72)【発明者】
【氏名】荻野 智行
(72)【発明者】
【氏名】奥村 雄志
(72)【発明者】
【氏名】庄司 恭敏
【審査官】 佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−121562(JP,A)
【文献】 特開2012−071246(JP,A)
【文献】 特開昭61−082825(JP,A)
【文献】 特開平5−220321(JP,A)
【文献】 特開昭59−142824(JP,A)
【文献】 特開2000−102719(JP,A)
【文献】 特公昭37−009667(JP,B1)
【文献】 特開昭56−150413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/02−53/12
B01D 53/34−53/62
C01B 32/50
B01J 8/00− 8/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着剤を用いて対象ガス中の二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離システムであって、
脱着用水蒸気を二酸化炭素吸着後の前記吸着剤に接触させて前記吸着剤から二酸化炭素を放出させる再生処理室と、乾燥用ガスを前記脱着用水蒸気と接触後の前記吸着剤に接触させて前記吸着剤を乾燥させる乾燥処理室と、前記対象ガスを前記吸着剤に接触させて前記吸着剤に前記対象ガス中の二酸化炭素を吸着させる吸着処理室とを有する処理塔を備え、
前記処理塔が、頂部から前記吸着剤が投入され、底部から前記吸着剤が排出される塔型の処理容器であって、前記吸着剤の層状流れを維持しつつ前記吸着剤の下向きの移動を妨げる障害物によって内部空間が前記乾燥処理室と前記吸着処理室とに仮想的に分けられた処理容器と、
前記乾燥処理室と前記吸着処理室のそれぞれの下部へ各処理室の処理に対応した気体を噴出する噴出口が形成された第1流路部材と、
前記乾燥処理室と前記吸着処理室のそれぞれの上部から前記吸着剤と接触したあとの前記気体を排出する排気口が形成された第2流路部材とを有し、
前記吸着処理室において、前記排気口が前記障害物の下方に形成された前記吸着剤が存在しない空隙に開口している、
二酸化炭素分離システム。
【請求項2】
吸着剤を用いて対象ガス中の二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離システムであって、
脱着用水蒸気を二酸化炭素吸着後の前記吸着剤に接触させて前記吸着剤から二酸化炭素を放出させる再生処理室と、乾燥用ガスを前記脱着用水蒸気と接触後の前記吸着剤に接触させて前記吸着剤を乾燥させる乾燥処理室と、前記対象ガスを前記吸着剤に接触させて前記吸着剤に前記対象ガス中の二酸化炭素を吸着させる吸着処理室とを有する処理塔を備え、
前記処理塔が、頂部から前記吸着剤が投入され、底部から前記吸着剤が排出される塔型の処理容器であって、前記吸着剤の層状流れを維持しつつ前記吸着剤の下向きの移動を妨げる上下複数の障害物によって内部空間が上方から前記再生処理室と前記乾燥処理室と前記吸着処理室とに仮想的に分けられた処理容器と、
前記再生処理室と前記乾燥処理室と前記吸着処理室のそれぞれの下部へ各処理室の処理に対応した気体を噴出する噴出口が形成された第1流路部材と、
前記再生処理室と前記乾燥処理室と前記吸着処理室のそれぞれの上部から前記吸着剤と接触したあとの前記気体を排出する排気口が形成された第2流路部材とを有し、
前記乾燥処理室と前記吸着処理室において、前記排気口が前記障害物の下方に形成された前記吸着剤が存在しない空隙に開口している、
二酸化炭素分離システム。
【請求項3】
前記障害物が、前記吸着剤の流路面積を下方に向かって減少させるテーパ形成体により形成されている、請求項1又は2に記載の二酸化炭素分離システム。
【請求項4】
前記テーパ形成体のテーパ面の母線と鉛直方向とが0°より大きく60°より小さい範囲の角度を成している、請求項3に記載の二酸化炭素分離システム。
【請求項5】
前記障害物が、前記吸着剤の移動方向と略直交する方向に並べられた複数の棒状体により形成されている、請求項1又は2に記載の二酸化炭素分離システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭燃焼排ガス等の二酸化炭素(CO)を含む対象ガスから二酸化炭素を分離する、二酸化炭素分離システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、吸着剤を用いて対象ガス中の二酸化炭素を分離し回収するシステムが知られている。例えば、特許文献1には、図4に示すような従来の二酸化炭素分離回収システム100が開示されている。この従来の二酸化炭素分離回収システム100は、上方から下方へ並んで配置されたホッパ110、吸着塔120、再生塔130、乾燥塔140、及び冷却塔150と、冷却塔150からホッパ110へ吸着剤を移送するコンベア160とを備えている。ホッパ110に収容された吸着剤は、吸着塔120、再生塔130、乾燥塔140、及び冷却塔150の順に、自重で下方へ移動する。
【0003】
吸着塔120では、対象ガスが吸着剤と接触させられ、対象ガス中の二酸化炭素が吸着剤に吸着される。再生塔130には乾燥塔140から水蒸気が供給され、その水蒸気が二酸化炭素吸着後の吸着剤に凝縮することによって、吸着剤から二酸化炭素が放出される。放出された二酸化炭素は、二酸化炭素回収路135を通じて回収ポンプ170に吸引され、回収ポンプ170で圧縮された後に二酸化炭素ホルダ180に貯留される。乾燥塔140は、吸着剤に付着した凝縮水を間接加熱により蒸発させる。凝縮水の蒸発に由来する水蒸気は、再生用の水蒸気として再生塔130に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−121562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図4に示す従来の二酸化炭素分離回収システム100では、少なくとも吸着塔120、再生塔130、及び乾燥塔140の各塔の下部に、各塔からの吸着剤の排出量を調整する排出装置が設けられている。そのため、従来の二酸化炭素分離回収システム100は、ホッパ110、吸着塔120、再生塔130、乾燥塔140、及び冷却塔150を上下方向に並べるうえに、複数の排出装置を備えるために、システムの高さを抑えることが困難であり、システムの大型化が避けられなかった。また、システムに複数の排出装置を備えることにより、各排出装置のための設備、運転、保守に係るコストが嵩むので、経済的ではなかった。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、吸着剤を用いて対象ガス中の二酸化炭素を分離及び回収する二酸化炭素分離システムであって、設備、運転、保守に係るコストの増大を回避しつつ、システムの小型化を実現可能なもの提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る二酸化炭素分離システムは、
吸着剤を用いて対象ガス中の二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離システムであって、
脱着用水蒸気を二酸化炭素吸着後の前記吸着剤に接触させて前記吸着剤から二酸化炭素を放出させる再生処理室と、乾燥用ガスを前記脱着用水蒸気と接触後の前記吸着剤に接触させて前記吸着剤を乾燥させる乾燥処理室と、前記対象ガスを前記吸着剤に接触させて前記吸着剤に前記対象ガス中の二酸化炭素を吸着させる吸着処理室とを有する処理塔を備え、
前記処理塔が、頂部から前記吸着剤が投入され、底部から前記吸着剤が排出される塔型の処理容器であって、前記吸着剤の層状流れを維持しつつ前記吸着剤の下向きの移動を妨げる障害物によって内部空間が前記乾燥処理室と前記吸着処理室とに仮想的に分けられた処理容器と、
前記乾燥処理室と前記吸着処理室のそれぞれの下部へ各処理室の処理に対応した気体を噴出する噴出口が形成された第1流路部材と、
前記乾燥処理室と前記吸着処理室のそれぞれの上部から前記吸着剤と接触したあとの前記気体を排出する排気口が形成された第2流路部材とを有し、
前記吸着処理室において、前記排気口が前記障害物の下方に形成された前記吸着剤が存在しない空隙に開口しているものである。
【0008】
上記構成の二酸化炭素分離システムでは、乾燥処理室と吸着処理室とが1つの処理容器に形成されている。そのため、乾燥処理室の下方にも排出装置が設けられていた従来のシステムと比較して、処理容器及び排出装置の数を減らすことができる。処理容器及び排出装置の数の低減により、設備、運転、及び保守に係るコストを削減することができる。さらに、排出装置の設置スペースを減少させることが可能であり、システムの高さを低く抑えることにより、システムの小型化を図ることができる。
【0009】
また、本発明の別の態様に係る二酸化炭素分離システムは、
吸着剤を用いて対象ガス中の二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離システムであって、
脱着用水蒸気を二酸化炭素吸着後の前記吸着剤に接触させて前記吸着剤から二酸化炭素を放出させる再生処理室と、乾燥用ガスを前記脱着用水蒸気と接触後の前記吸着剤に接触させて前記吸着剤を乾燥させる乾燥処理室と、前記対象ガスを前記吸着剤に接触させて前記吸着剤に前記対象ガス中の二酸化炭素を吸着させる吸着処理室とを有する処理塔を備え、
前記処理塔が、頂部から前記吸着剤が投入され、底部から前記吸着剤が排出される塔型の処理容器であって、前記吸着剤の層状流れを維持しつつ前記吸着剤の下向きの移動を妨げる上下複数の障害物によって内部空間が上方から前記再生処理室と前記乾燥処理室と前記吸着処理室とに仮想的に分けられた処理容器と、
前記再生処理室と前記乾燥処理室と前記吸着処理室のそれぞれの下部へ各処理室の処理に対応した気体を噴出する噴出口が形成された第1流路部材と、
前記再生処理室と前記乾燥処理室と前記吸着処理室のそれぞれの上部から前記吸着剤と接触したあとの前記気体を排出する排気口が形成された第2流路部材とを有し、
前記乾燥処理室と前記吸着処理室において、前記排気口が前記障害物の下方に形成された前記吸着剤が存在しない空隙に開口しているものである。
【0010】
上記構成の二酸化炭素分離システムでは、吸着処理室、再生処理室及び乾燥処理室が1つの処理容器内に形成され、処理容器の下部に1つの排出装置が設けられている。よって、各処理室の下部に排出装置が設けられていた従来のシステムと比較して、排出装置の数を削減することができる。排出装置の数の削減により、排出装置に係る製造コスト及び運転コストを削減することができる。さらに、排出装置の設置スペースを減少させることが可能であり、システムの高さを低く抑えることにより、システムの小型化を図ることができる。
【0011】
上記二酸化炭素分離システムにおいて、前記障害物が、前記吸着剤の流路面積を下方に向かって減少させるテーパ形成体であってよい。この場合、前記テーパ形成体のテーパ面の母線と鉛直方向とが0°より大きく60°より小さい範囲の角度を成していることが望ましい。また、二酸化炭素分離システムにおいて、前記障害物が、前記吸着剤の移動方向と略直交する方向に並べられた複数の棒状体であってよい。
【0012】
上記二酸化炭素分離システムによれば、下側の処理室から上側の処理室への気体の移動を制限しつつ、上側の処理室から下側の処理室への吸着剤の移動を維持することのできる障害物を、単純な構造で、運転動力を必要しないで実現することができる。よって、二酸化炭素分離システムの設備、運転、及び保守に係るコストの増大を抑えることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、設備コストを抑え、且つ、小型化の可能な二酸化炭素分離システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係る二酸化炭素分離システムの概略構成図である。
図2】本発明の第2実施形態に係る二酸化炭素分離システムの概略構成図である。
図3】絞り部の変形例を示す二酸化炭素分離回収システムの概略構成図である。
図4】従来の二酸化炭素分離回収システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の二酸化炭素分離システムは、固体吸着剤を用いて対象ガス中の二酸化炭素を選択的に分離し、分離に利用した固体吸着剤を再生する、一連のシステムである。このシステムは、分離した二酸化炭素を回収することを更に加えた、二酸化炭素分離回収システムであってもよい。対象ガスは、例えば、燃焼排ガスである。吸着剤は、例えば、アミン化合物を担持する多孔性物質である。多孔性物質としては、シリカゲル、活性炭、活性アルミナ、金属酸化物などを用いることができる。以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
【0016】
[第1実施形態]
図1に、本発明の第1実施形態に係る二酸化炭素分離システム1Aを示す。この二酸化炭素分離システム1Aは、吸着剤への二酸化炭素の吸着、吸着剤の再生、及び吸着剤の乾燥を行う処理塔91と、処理塔91の底部から頂部へ吸着剤を移送するコンベア92と備えている。
【0017】
処理塔91は、上下方向を長手方向とする塔型の処理容器10を有する。処理容器10の頂部には吸着剤を内部に投入するための投入口13が設けられており、この投入口13へコンベア92により吸着剤が送給される。処理容器10の底部には吸着剤の排出口14が設けられている。排出口14には、吸着剤を連続的又は間欠的に排出するための排出装置93が設けられている。本実施形態に係る排出装置93は、処理容器10内からコンベア92へ吸着剤を定量排出するテーブルフィーダであって、回転軸が垂直なロータと、ロータを回転駆動する駆動手段とを備えている。但し、排出装置93は、テーブルフィーダに限定されず、例えばロータリフィーダなどの、公知の粒体排出手段を排出装置93として用いることができる。
【0018】
処理容器10では、コンベア92と排出装置93の動作により、排出口14から吸着剤を連続的に抜き出すとともに、投入口13から新しく吸着剤を供給して、処理容器10の頂部から底部まで吸着剤を自重により降下させている。
【0019】
処理容器10の投入口13と排出口14との間には、吸着剤の流れを制限する上下方向に2つの絞り部6が設けられている。絞り部6によって、下向きの距離に対し処理容器10の内部空間の断面積が減少する。各絞り部6は、吸着剤の移動層の層状流れを維持しつつ、一部の吸着剤の下方への移動が妨げる障害物60で形成されている。移動が妨げられた吸着剤は、障害物60を避けて又は当接して横にそれて下方へ移動する。そのため、障害物60の下方には吸着剤が存在しない空隙Vが生じる。
【0020】
本実施形態に係る絞り部6は、処理容器10の内壁に形成されたテーパ形成体61を障害物60としている。テーパ形成体61の入口61aは、処理容器10の内壁面と一致しているか近接している。また、テーパ形成体61は下窄まりのテーパ面61cを有し、入口61aの下方に当該入口61aよりも小径の出口61bを有している。
【0021】
障害物60(ここでは、テーパ形成体61)を境界として、処理容器10は上側の障害物60により上側の再生処理室3と下側の乾燥処理室4とに仮想的に分けられ、下側の障害物60により上側の乾燥処理室4と下側の吸着処理室2とに仮想的に分けられている。ここで、「仮想的に分けられている」とは、実際には処理室同士を区分する実体(例えば、シャッターなど)がなく、上側と下側の処理室が直接的に連通していることを言う。
【0022】
吸着処理室2は、対象ガスを吸着剤に接触させる処理室である。吸着処理室2の下部には対象ガスを噴出する噴出口が形成された流路部材24が設けられており、この流路部材24が対象ガス供給路21と接続されている。吸着処理室2の上部には、対象ガスを排出する排気口が形成された流路部材25が設けられており、流路部材25は対象ガス排出路22と接続されている。吸着処理室2の上部に設けられた排気口は、障害物60の下方に形成された吸着剤が存在しない空隙Vに開口している。
【0023】
吸着処理室2には、対象ガス供給路21を通じて対象ガスが供給される。吸着処理室2内では、吸着剤が下向きに移動するとともに、この吸着剤の流れと逆向きに下から上へ対象ガスが流れる。このように吸着処理室2内には向流式移動層が形成されており、吸着剤と対象ガスの接触が連続的に行われる。吸着剤と対象ガスの接触により、対象ガス中の二酸化炭素が吸着剤に吸着される。
【0024】
吸着処理室2と乾燥処理室4との間に絞り部6が設けられているため、障害物60の下方には吸着剤が存在しない空隙Vが存在しており、障害物60より下方の気体は圧力損失の小さい空隙Vへ流れるように誘導される。したがって、吸着処理室2を上昇した対象ガスの殆どは空隙Vへ流れて、吸着処理室2の排気口から対象ガス排出路22を通じて外部へ排出される。つまり、吸着処理室2の吸着剤と接触することにより二酸化炭素が除去された対象ガスは、吸着処理室2から乾燥処理室4へ殆ど流入しない。二酸化炭素吸着後の吸着剤は、再生処理室3へ移送される。
【0025】
絞り部6において上記のような対象ガスの流れを形成するために、円錐状のテーパ形成体61のテーパ面61cの母線と鉛直方向とが成す角度γは、0°より大きく60°より小さい範囲の角度であることが望ましい(0°<γ<60°)。角度γが0°以下であるときは、テーパ形成体61が絞り部6として機能することができず、空隙Vと乾燥処理室4との間に圧力損失差が生じない。その結果、乾燥処理室4では対向流となるガス量が減少し、また、対象ガスが吸着処理室2から流入するので、乾燥効率が低下する。一方、角度γが60°以上であるときは、テーパ面61cと水平面とのなす角度が安息角よりも小さくなり、テーパ形成体61で吸着剤の滞留や偏析が生じるおそれがある。安息角は粒子の大きさと粒子の角の丸みや形状により決まることが知られているが、参考例として、平均粒子径が直径3mmの吸着剤(例えば、シリカゲル)の安息角はおよそ30°であるので、この場合に角度γが60°を超えるとテーパ面61cと水平面との成す角度が安息角より小さくなり吸着剤の滞留や偏析が生じるおそれがある。上記において平均粒子径とは、レーザー回折・散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて、試料を測定し、粒度分布(累積分布)を求めたときの体積基準の相対粒子量が50%になる粒子径(メジアン径)とする。明示するまでもないが、吸着剤やその平均粒子径は上記参考例に限定されない。なお、本実施形態に係るテーパ形成体61のテーパ面61cは距離に対し径が線形に変化する線形テーパであるが、テーパ面61cは指数関数形や放物線形のテーパであってもよい。
【0026】
再生処理室3は、脱着用水蒸気を吸着剤と接触させる処理室である。再生処理室3の下部には脱着用水蒸気を噴出する噴出口が形成された流路部材34が設けられており、この流路部材34が脱着用水蒸気供給路31と接続されている。再生処理室3の上部には、二酸化炭素を含む気体を排出する排気口が形成された流路部材35が設けられており、流路部材35は二酸化炭素回収路32と接続されている。再生処理室3には、脱着用水蒸気供給路31を通じて、常圧で100℃以上の脱着用水蒸気が供給される。
【0027】
再生処理室3内では、供給された脱着用水蒸気が、吸着剤の流れと逆向きに下から上へ流れる。このように再生処理室3内には向流式移動層が形成されており、吸着剤と脱着用水蒸気の接触が連続的に行われる。吸着剤と脱着用水蒸気の接触により脱着用水蒸気中の水蒸気が吸着剤に凝縮し、これにより吸着剤から二酸化炭素が放出される。なお、脱着用水蒸気中の水蒸気の量は、脱着用水蒸気中の水蒸気のほぼ全てが吸着剤に凝縮する程度である。吸着剤から放出された二酸化炭素及び脱着用水蒸気中の二酸化炭素は、二酸化炭素回収路32を通じて排出される。凝縮水が付着した吸着剤は、乾燥処理室4へ移送される。
【0028】
乾燥処理室4は、脱着用水蒸気と接触後の吸着剤を乾燥させる処理室である。本実施形態では、吸着剤の乾燥が、乾燥用ガスを吸着剤に接触させる直接加熱により行われる。ただし、吸着剤の乾燥は、乾燥処理室4内に通された熱媒体が流れる配管に間接加熱により行われてもよい。例えば、間接加熱用の熱媒体としては、再生処理室3から排出される二酸化炭素、再生処理室3へ供給される前の脱着用水蒸気などを用いてもよい。
【0029】
乾燥処理室4の下部には乾燥用ガス供給路41が接続されており、乾燥処理室4の上部には乾燥用ガス排出路42が接続されている。乾燥処理室4の下部には乾燥用ガスを噴出する噴出口が形成された流路部材44が設けられており、この流路部材44が乾燥用ガス供給路41と接続されている。乾燥処理室4の上部には、乾燥用ガスを排出する排気口が形成された流路部材45が設けられており、流路部材45は乾燥用ガス排出路42と接続されている。乾燥処理室4の上部に設けられた排気口は、障害物60の下方に形成された吸着剤が存在しない空隙Vに開口している。
【0030】
乾燥処理室4には、乾燥用ガス供給路41を通じて乾燥用ガスが供給される。乾燥処理室4内では、供給された乾燥用ガスが、吸着剤の流れと逆向きに下から上へ流れる。このように乾燥処理室4内には向流式移動層が形成されており、吸着剤と乾燥用ガスの接触が連続的に行われる。吸着剤と乾燥用ガスの接触により、吸着剤に付着した凝縮水が蒸発する。
【0031】
乾燥処理室4と再生処理室3との間に絞り部6が設けられているため、障害物60の下方には吸着剤が存在しない空隙Vが存在しており、障害物60より下方の気体は圧力損失の小さい空隙Vへ流れるように誘導される。したがって、乾燥処理室4を上昇した乾燥用ガスの殆どは空隙Vへ流れる。そして、凝縮水の蒸発に由来する水蒸気は、乾燥用ガスと共に乾燥処理室4の排気口から乾燥用ガス排出路42を通じて外部へ排出される。つまり、乾燥処理室4の吸着剤と接触した乾燥用ガスは、乾燥処理室4から再生処理室3へ殆ど流入しない。
【0032】
乾燥処理室4で吸着剤の乾燥が進むにつれて、吸着剤の温度は、吸着剤に付着した凝縮水の蒸発により、乾燥用ガスの湿球温度まで徐々に下がる。その後、吸着剤の温度は、凝縮水の蒸発中は乾燥用ガスの湿球温度に維持される。乾燥用ガスの湿球温度が吸着処理室2への投入温度(例えば、約40℃)となるように、乾燥用ガスが調製される。乾燥後の吸着剤は、吸着処理室2へ移送される。
【0033】
上記構成の二酸化炭素分離システム1Aでは、吸着処理室2、再生処理室3及び乾燥処理室4が1つの処理容器10内に形成され、処理容器10の下部に1つの排出装置93が設けられている。このように、1つの処理容器10内を複数の処理室として利用することで、処理塔91に複数の処理容器を設ける従来の場合と比較して、処理容器の数を減らすことができる。処理容器の数の低減により、処理塔91に係る設備コストを削減することができるとともに、高さを抑えた処理塔91を形成することが可能となる。また、処理容器の数の低減に伴い、上記従来の場合と比較して、排出装置の数も減らすことができる。この排出装置の数の低減により、排出装置に係る設備、運転、及び保守に係るコストを削減することができる。さらに、排出装置の数の低減により、高さを抑えた処理塔91を形成することが可能となり、ひいてはシステムの小型化を実現することができる。
【0034】
また、上記二酸化炭素分離システム1Aでは、処理容器10の再生処理室3、乾燥処理室4及び吸着処理室2に連続する移動層が形成されている。つまり、絞り部6によって気体の移動は制限されるが、吸着剤の移動は制限されない。よって、吸着剤による移動層の層状の流れが維持されて、吸着剤の詰まりなどの不具合が発生しない。
【0035】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を説明する。図2に、本発明の第2実施形態に係る二酸化炭素分離システム1Bを示す。前述の第1実施形態に係る二酸化炭素分離システム1Aでは、常圧の脱着用水蒸気が再生処理室3に供給されており、吸着処理室2、再生処理室3、及び乾燥処理室4に差圧が生じない。そのため、吸着処理室2、再生処理室3、及び乾燥処理室4を一つの連続する空間に形成することが可能であった。これに対し、第2実施形態に係る二酸化炭素分離システム1Bでは、脱着用水蒸気を温度が約60[℃]で絶対圧が約20[kPa]の飽和水蒸気としている。そのため、常圧の乾燥処理室4及び吸着処理室2が一つの処理容器に形成され、ゲージ圧で負圧の再生処理室3が他の処理容器に形成されている。以下では、第2実施形態に係る二酸化炭素分離システム1Bについて詳細に説明する。なお、本実施形態の説明においては、前述の第1実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0036】
図2に示されるように、二酸化炭素分離システム1Bは、吸着剤への二酸化炭素の吸着、吸着剤の再生、及び吸着剤の乾燥を行う処理塔91と、処理塔91の底部から頂部へ吸着剤を移送するコンベア92と備えている。
【0037】
処理塔91は、上下方向に2つの塔型の処理容器101,102を有する。各処理容器101,102の頂部には吸着剤を内部に投入するための投入口13が設けられている。各処理容器101,102の底部には吸着剤の排出口14が設けられている。各排出口14には、吸着剤を連続的または間欠的に排出するための排出装置93が設けられている。本実施形態に係る排出装置93は、処理容器10内からコンベア92へ吸着剤を定量排出するテーブルフィーダであって、回転軸が垂直なロータと、ロータを回転駆動する駆動手段とを備えている。但し、排出装置93は、テーブルフィーダに限定されず、例えばロータリフィーダなどの、公知の粒体排出手段を排出装置93として用いることができる。
【0038】
第1処理容器101の投入口13へ、第2処理容器102の排出口14から排出された吸着剤がコンベア92により送給される。処理容器101の排出口14から排出された吸着剤は、移送管94を通じて第2処理容器102の投入口13へ送給される。このようにして、各処理容器101,102では、コンベア92と排出装置93の動作により、排出口14から吸着剤を連続的に抜き出すとともに、投入口13から新しく吸着剤を供給して、処理容器10の頂部から底部まで吸着剤を自重により降下させている。
【0039】
第1処理容器101の投入口13と排出口14との間には、処理容器10の内部空間の断面積を減少させる絞り部6が設けられている。絞り部6には、吸着剤の移動層の層状流れを維持しつつ吸着剤の下向きの移動を妨げる障害物60としてテーパ形成体61が設けられている。テーパ形成体61の出口61bを境界として、第1処理容器101内は上側の乾燥処理室4と下側の吸着処理室2とに仮想的に分けられている。
【0040】
乾燥処理室4には、乾燥用ガス供給路41を通じて乾燥用ガスが供給され、吸着剤に付着した凝縮水が蒸発する。凝縮水の蒸発に由来する水蒸気は、乾燥用ガスと共に乾燥用ガス排出路42を通じて排出される。乾燥後の吸着剤は、吸着処理室2へ移送される。
【0041】
吸着処理室2には、対象ガス供給路21を通じて対象ガスが供給され、対象ガス中の二酸化炭素が吸着剤に吸着される。二酸化炭素が除去された対象ガスは、対象ガス排出路22を通じて排出される。二酸化炭素吸着後の吸着剤は、再生処理室3へ移送される。なお、吸着処理室2から再生処理室3へ、即ち、第1処理容器101から第2処理容器102へ、吸着剤は自重により移動する。
【0042】
第1処理容器101内には、再生処理室3が形成されている。再生処理室3には、脱着用水蒸気供給路31を通じて、温度が約60[℃]で絶対圧が約20kPaの飽和水蒸気が供給される。再生処理室3内は、飽和水蒸気によって凝縮水が蒸発し得る負圧(ゲージ圧)となるように、吸引ポンプ33で吸引されている。このため、第1処理容器101と第2処理容器102の間には、大気圧に対する圧力差を保つための差圧保持装置96(例えば、ロックホッパ)が設けられる。吸着剤から放出された二酸化炭素及び脱着用水蒸気中の二酸化炭素は、二酸化炭素回収路32を通じて排出される。凝縮水が付着した吸着剤は、乾燥処理室4へコンベア92によって移送される。
【0043】
上記構成の二酸化炭素分離システム1Bでは、乾燥処理室4と吸着処理室2とが1つの第1処理容器101に形成されている。そのため、乾燥処理室4の下方にも排出装置が設けられていた従来のシステムと比較して、処理容器及び排出装置の数を減らすことができる。処理容器及び排出装置の数の低減により、設備、運転、及び保守に係るコストを削減することができる。さらに、高さを抑えた処理塔91を形成することが可能となり、ひいてはシステムの小型化を実現することができる。
【0044】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0045】
例えば、上記実施の形態では、絞り部6を形成している障害物60はテーパ形成体61であるが、障害物60はこれに限定されない。例えば、図3に示されるように、障害物60が、吸着剤の移動方向と略直交する方向(ここでは水平方向)に並べられた複数の棒状体62であってもよい。この場合、吸着処理室2及び乾燥処理室4の排気口及びその近傍に、吸着剤が存在しない空隙Vが形成されるように、吸着処理室2及び乾燥処理室4の排気口の直ぐ上方に少なくとも1本の棒状体62が配置される。
【0046】
各棒状体62は、上向きの面が上から下へ向かう傾きを有している。これにより棒状体62に上方から当接した吸着剤は、棒状体62の表面に沿って下方へ移動することができる。図2に示す各棒状体62の縦断面形状は円形であるが、棒状体62の縦断面形状は半円形、三角形、又は四角形であってもよい。
【0047】
なお、図3では複数の棒状体62を上下一段に並べているが、絞り部6に上下複数段の複数の棒状体62が設けられていてもよい。また、複数の棒状体62は一方向に並べられているが、複数の棒状体62が平面視で網目状となるように交差して並べられていてもよい。
【0048】
また、例えば、上記実施の形態では、吸着処理室2、再生処理室3、及び乾燥処理室4はそれぞれ1つずつ設けられている。但し、これらのうち少なくとも1つの処理室において、更なる絞り部6が設けられることによって、絞り部6を形成している障害物60を境界として複数の領域に仮想的に分けられていてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1A,1B 二酸化炭素分離システム
2 吸着処理室
3 再生処理室
4 乾燥処理室
10 処理容器
101 第1処理容器
102 第2処理容器
6 絞り部
60 障害物
61 テーパ形成体
62 棒状体
91 処理塔
92 コンベア
93 排出装置
94 移送管
図1
図2
図3
図4