特許第6298462号(P6298462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6298462Si基板上に成長した閃亜鉛鉱型(立方晶とも言う。)AlyInxGa1−y−xN結晶(y≧0、x>0)からなる母結晶にナノドット(「量子ドット」とも言う。)を有する活性領域及びこれを用いた発光デバイス(LED及びLD)
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6298462
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】Si基板上に成長した閃亜鉛鉱型(立方晶とも言う。)AlyInxGa1−y−xN結晶(y≧0、x>0)からなる母結晶にナノドット(「量子ドット」とも言う。)を有する活性領域及びこれを用いた発光デバイス(LED及びLD)
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/343 20060101AFI20180312BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20180312BHJP
   H01L 33/06 20100101ALI20180312BHJP
   H01L 33/12 20100101ALI20180312BHJP
【FI】
   H01S5/343 610
   H01L33/32
   H01L33/06
   H01L33/12
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-521429(P2015-521429)
(86)(22)【出願日】2014年5月30日
(86)【国際出願番号】JP2014064448
(87)【国際公開番号】WO2014196471
(87)【国際公開日】20141211
【審査請求日】2017年5月15日
(31)【優先権主張番号】特願2013-118851(P2013-118851)
(32)【優先日】2013年6月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227375
【氏名又は名称】日東光器株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504319035
【氏名又は名称】有限会社ソラテス・ラボ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】寺嶋 一高
(72)【発明者】
【氏名】西村 鈴香
(72)【発明者】
【氏名】平井 宗幸
【審査官】 大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−288388(JP,A)
【文献】 特開2000−012961(JP,A)
【文献】 特開2000−349335(JP,A)
【文献】 特開2008−258561(JP,A)
【文献】 特開2009−010168(JP,A)
【文献】 特開2010−010678(JP,A)
【文献】 特表2011−503893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 − 5/50
H01L 33/00 − 33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si基板と、
前記Si基板の上に形成されたBP結晶を含むバッファ層と、
前記BP結晶を含むバッファ層の上に形成されたn型GaN系結晶と、
前記n型GaN系結晶上に形成された閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶と前記閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶内に形成された前記閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶よりもIn濃度の高いAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)のナノドットとを有する活性領域と、
を有することを特徴する発光デバイス。
【請求項2】
前記n型GaN系結晶はケイ素が不純物として添加されていることを特徴する請求項1に記載の発光デバイス。
【請求項3】
前記n型GaN系結晶に添加されているケイ素の濃度は5×1018個cm−3以上5×1020個cm−3以下であることを特徴する請求項2に記載の発光デバイス。
【請求項4】
前記Si基板は、その(100)面から(110)面方向に5度以上10度以下の範囲で傾けて加工した結晶基板であることを特徴する請求項1に記載の発光デバイス。
【請求項5】
前記Si基板は、その(100)面から(110)面方向に5度以上10度以下の範囲及び(100)面から(111)面方面に5度以上10度以下の範囲で傾けて加工した結晶基板であることを特徴する請求項1に記載の発光デバイス。
【請求項6】
前記n型GaN系結晶はケイ素が不純物として添加されていることを特徴する請求項5に記載の発光デバイス。
【請求項7】
前記n型GaN系結晶に添加されているケイ素の濃度は5×1018個cm−3以上5×1020個cm−3以下であることを特徴する請求項6に記載の発光デバイス。
【請求項8】
Si基板と、
前記Si基板の上に形成されたBP結晶を含むバッファ層と、
前記BP結晶を含むバッファ層の上に形成されたn型GaN系結晶と、
前記n型GaN系結晶上に形成された閃亜鉛鉱型構造のAlGa1−yN結晶と、
前記閃亜鉛鉱型構造のAlGa1−yN結晶の上に形成された閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶と前記閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶の上に形成された前記閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶よりもIn濃度の高いAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)のナノドットとを有する活性領域とを有し、
前記活性領域は前記AlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)のナノドット間の隙間に前記隙間を埋めるように形成された結晶性の不完全なアモルファスライクのInGa1−xNによって表面が平坦化されていることを特徴とする発光デバイス。
【請求項9】
前記結晶性の不完全なアモルファスライクのInGa1−xNのInの濃度は前記AlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)のナノドットのIn濃度よりも低いことを特徴する請求項8に記載の発光デバイス。
【請求項10】
Si基板と、
前記Si基板の上に形成されたBP結晶を含むバッファ層と、
前記BP結晶を含むバッファ層の上に形成されたn型GaN系結晶と、
前記n型GaN系結晶上に形成された閃亜鉛鉱型構造のAlGa1−yN結晶と、
前記閃亜鉛鉱型構造のAlGa1−yN結晶の上に形成された閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶と前記閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶内に形成された前記閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶よりもIn濃度の高いAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)のナノドットとを有する活性領域とを有し、
前記AlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)のナノドットの先端部は前記閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶に埋没されていないことを特徴する半導体レーザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Si基板上に成長した閃亜鉛鉱型AlInGa1−y−xN結晶(y≧0、x>0)からなる母結晶にナノドット(「量子ドット」とも言う。)を有する活性領域及びこれを用いた発光デバイス(LED及びLD)に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN系結晶は短波長発光デバイスとして知られている。通常、GaN系結晶はサファイア基板上にバッファ層を介してエピタキシャル成長により形成される。しかしながら、Si基板上にエピタキシャル成長できれば、発光デバイスと半導体集積回路との複合デバイスが可能となる。
【0003】
GaN系結晶には結晶構造として圧電特性に優れたウルツ鉱構造と圧電特性がほとんど無く発光特性、情報伝達機能、情報処理機能に優れた閃亜鉛鉱型結晶の2種類がある。結晶構造の違いと特性の変化については、後述する先行技術文献1に現時点での詳細な結果が示されている。
【0004】
一般的に、ウルツ鉱型構造は安定的な結晶構造である。しかしながら、準安定型の閃亜鉛鉱型結晶は良好なキャリアの再結合を促すため、発光効率が著しく高くなる。したがって、閃亜鉛鉱型結晶は発光素子の材料として強く要求されている。なお、閃亜鉛鉱構造はGaAs結晶、Si結晶と同じ構造である。
【0005】
また、ナノドットに関しては、後述する先行技術文献2乃至4に示すとおり、多くの研究論文が報告されている。
【0006】
さらにGaとInを混合して成長させる場合、結晶として混合するか否かはGaとInの濃度の比に依存する。結晶として混合しない領域を非混合領域(Immiscibility gap)とここでは呼んでおく。特に低温で結晶成長を実施する場合や基板結晶に大きな歪みが残っている場合には、GaとInの濃度の比によって非混合領域が形成されるか否かが左右されやすい傾向が顕著となる。いずれの先行技術文献におけるGaとInの混合成長に関する内容は、ほとんどがこの非混合領域でのガスの供給を示している。
【0007】
しかし成長温度が700℃以下であって、Inの濃度を90%以上含む領域ではIn元素を多く含んだ均一結晶領域が成長する。この領域では活性層として量子井戸(QW構造)が作製可能となる。しかしながら多くの文献で示されている実験結果はすべてウルツ鉱型結晶に関するものである。立方晶結晶(閃亜鉛鉱型結晶)に関するものはまったく無く、技術的に評価し得る立方晶結晶は得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2011−523206号
【特許文献2】特開2011−3803号
【特許文献3】特開2011−44539号
【特許文献4】特開2010−245491号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】文献1.Journal of Applied Physics (3675)Vol.94、No.6. I.Vurgaftman and J.R.Meyer ;Band parameters for nitrogen−containing semiconductors.
【非特許文献2】Journal of Crystal Growth、 255 (2003) 68−80 N.N. Ledentsov and D.Bimberg、 “Growth of self−organaized quantum dots for Optoelevtronics applications: nanostructures、 nonaepitaxy、defect engineering”
【非特許文献3】Applied Physics letters 89、161919(2006)P.Rinke 、et al “ Band Gap and band parameters of InN and GaN from quasiparticle energy calculations based on exact−exchange density−functional theory”
【非特許文献4】Physica Status Solidi C6、No52 、S561−S564(2009)/DOI 10.1002/pssc.2008801913; Christian Tessarek et.al”Improved capping layer growth towards increased stability of InGaN quantum dots”
【非特許文献5】I.Ho and G.B.Stringfellow、Appl.Phys.Lett.69、2701(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、Si基板上に中間結晶であるBP結晶を介して閃亜鉛鉱型GaN系結晶を形成して高輝度LED、高輝度LDの構造を提供することを課題とする。
【0011】
特に結晶成長技術の困難な閃亜鉛鉱型構造の結晶を母結晶とし、バンドギャップの小さいIn原子の濃度の高いナノドット構造を有する高輝度な発光デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態として、本発明においては、Si基板上に形成された閃亜鉛鉱型のBP結晶層上に閃亜鉛鉱型の結晶構造を維持する母結晶であるAlInGaN結晶(y≧0、x>0)と母結晶であるAlInGa1−y−xN結晶(y≧0、x>0)よりもInの濃度が高いInドットを有することを特徴とする発光デバイスが提供される。
【0013】
AlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)のナノドットのxの値は0.15以上0.9以下の範囲であることが望ましい。
【0014】
AlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)のナノドットの直径は100nm以下であることが望ましい。
【0015】
AlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)のナノドットの密度は、10個/cm以上10個/cm以下あることが望ましい。
【0016】
本発明の実施形態として、本発明にかかる発光デバイスはSi基板であってその(100)面から(110)面方向に5度以上10度以下の範囲で傾けて加工した結晶基板と、前記結晶基板の上に形成されたBP結晶を含むバッファ層と、BP結晶を含むバッファ層の上に形成されたn型GaN系結晶と、n型GaN系結晶上に形成された閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶と閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶内に形成された閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶よりもIn濃度の高いAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)のナノドットとを有する活性領域とを有することが望ましい。
【0017】
n型GaN系結晶はケイ素が不純物として添加されていることが望ましい。
【0018】
n型GaN系結晶に添加されているケイ素の濃度は5×1018個cm−3以上5×1020個cm−3以下であることが望ましい。
【0019】
本発明の他の実施形態として、本発明にかかる発光デバイスは、Si基板であってその(100)面から(110)面方向に5度以上10度以下の範囲で及び(100)面から(111)面方面に5度以上10度以下の範囲で傾けて加工した結晶基板と、前記結晶基板上に形成されたBP結晶を含むバッファ層と、BP結晶を含むバッファ層の上に形成されたn型GaN系結晶と、n型GaN系結晶上に形成された閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶と閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶内に形成された閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶よりもIn濃度の高いAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)のナノドットとを有する活性領域と、を有することが望ましい。
【0020】
本発明の他の実施形態として、本発明にかかる発光デバイスは、Si基板と、Si基板の上に形成されたBP結晶を含むバッファ層と、BP結晶を含むバッファ層の上に形成されたn型GaN系結晶と、n型GaN系結晶上に形成された閃亜鉛鉱型構造のAlGa1−yN結晶の上に形成された閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶と閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶の上に形成された閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶よりもIn濃度の高いAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)のナノドットとを有する活性領域であって、活性領域はAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)のナノドット間の隙間に隙間を埋めるように形成された結晶性の不完全なアモルファスライクのInGa1−xNによって表面が平坦化されている活性領域を有することが望ましい。
【0021】
結晶性の不完全なアモルファスライクのInGa1−xNのInの濃度はAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)のナノドットのIn濃度よりも低いことが望ましい。
【0022】
本発明の他の実施形態として、本発明にかかる半導体レーザは、Si基板と、Si基板の上に形成されたBP結晶を含むバッファ層と、BP結晶を含むバッファ層の上に形成されたn型GaN系結晶と、n型GaN系結晶上に形成された閃亜鉛鉱型構造のAlGa1−yN結晶の上に形成された閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶と閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶内に形成された閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶よりもIn濃度の高いAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)のナノドットとを有する活性領域であって、AlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)のナノドットの先端部は閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶に埋没されていない活性領域を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、結晶成長技術の困難な閃亜鉛鉱型構造の結晶を母結晶とし、バンドギャップの小さいIn原子の濃度の高いナノドット構造を有する高輝度な発光デバイスを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施例に係る発光デバイスの構造の概略図。
図2】ガス成長圧力を500mbarとした場合における、複数の実験から導き出されInGa1−xNを母結晶とするInドット6のドット直径とドットの密度とInの濃度とGaNの濃度の比率を成長温度の関係をまとめた表。
図3】ガス成長圧力を800mbarとした場合における、複数の実験から導き出されInGa1−xNを母結晶とするInドット6のドット直径とドットの密度とInの濃度とGaNの濃度の比率を成長温度の関係をまとめた表。
図4】一方向に傾斜した成長基板を用いた場合において、ステップのキンク上に成長したInドットを示す図。
図5】複数方向に傾斜した成長基板を用いた場合において、Inドットがステップの交点に集まり、点状の0次元活性領域が形成されることを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するためのいくつかの実施例を説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に何ら限定されることはない。以下に説明する実施例を種々に変形して本発明を実施することが可能である。また、本明細書において「○○の上」と記載している場合、○○の直接上にあるという意味と○○の上に複数の層を介して上にあるという意味の2つの意味を有するものとする。
【0026】
(実施例1)
図1は、本発明の一実施例に係る発光デバイスの構造の概略図を示す。符号1は、GaN系半導体結晶成長用のSi基板である。GaN半導体結晶成長用の基板としては、サファイア基板、炭化シリコン基板、ガリウムナイトライド基板、窒化アルミニウム基板等様々な基板を用いることが可能である。しかしながら、Si基板を成長用基板とした場合、発光デバイスと半導体集積回路との複合デバイスが可能となる。
【0027】
符号2は、BP結晶を有するバッファ層である。バッファ層をBP結晶で構成すると、その上に成長するGaN系結晶を閃亜鉛鉱型の結晶とすることが可能となる。
【0028】
符号3は、Siがドープされたn型GaN系結晶である。バッファ層がBP結晶であるため、n型GaN系結晶3は閃亜鉛鉱型結晶である。n型GaN系結晶3の上にはn電極(符号9)が設けられる。符号4及び符号7は、AlGa1−yN結晶である。AlGa1−yN結晶も閃亜鉛鉱型結晶となっている。AlGa1−yN結晶4及び5は以下に説明する活性領域を挟む層である。活性領域を挟む層にAlを含ませることにより、活性領域を挟む層のバンドギャップを活性領域よりも十分に大きくすることが可能となる。但し、AlGa1−yN結晶4は省略可能である。正孔は、移動度が電子に比べて低い。したがって、正孔のストッパーとしての役割を有するAlGa1−yN結晶4が無くても発光効率に大きく影響しないためである。
【0029】
符号5は母結晶である閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)であり、符号6は該母結晶内に形成されるAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)のナノドット(以下、「Inドット」と言う。)である。つまり、該母結晶5の下地の上にInドット6が形成され、Inドット6の間も該母結晶5によって埋め尽くされている。Inドット6は本発明の活性領域を構成する。Inドット6は、母結晶であるAlInGaN(y≧0、x>0)結晶に含有されるInよりも高濃度のInを含む。Inドット6は直径が100nm以下であることが望ましい。100nm以下とすることにより、電流集中を効率的に行うことが可能となるためである。さらに量子効果を得るにはInドット6の直径を25nm以下に制御することが望ましい。
【0030】
また、Inドット6の密度は、10個/cm以上10個/cm以下が望ましい。このようにInドット6の密度を制御することにより、高い発光効率を得ることを可能とする電流密度となる。
【0031】
また、Inドット6のInの濃度は、これを調整することにより発光する波長を制御することが可能となる。例えば、AlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)のxの値を0.15から0.9まで変化させることにより、波長を450nmから850nmに制御することが可能となる。
【0032】
符号8は、p型GaN系結晶である。p型とするために、GaN系結晶に例えばMgが添加されている。図示していないが、p型GaN系結晶8の上には、例えば電流拡散層を介してp型電極が形成される。
【0033】
次に、本発明にかかる発光デバイスの製造方法を説明する。
【0034】
結晶成長はすべてMOCVD法を用いる。GaN系結晶を成長させるための成長基板としてSi基板1を用意し、その表面にバッファ層2としてBP結晶をエピタキシャル成長させる。Si基板は,より具体的には,P(リン)をドープしたn型のSi基板である。BP結晶のエピタキシャル成長には、例えば、原料ガスとしてPCl(三塩化リン)とBCl(三塩化ホウ素)の混合ガス、キャリアガスとしてHを用いる。他の原料ガスの例としては,PH(ホスフィン)とB(ジボラン)の混合ガスが挙げられる。
【0035】
BP結晶をバッファ層とすると、その上に成長するGaN系結晶はいずれも閃亜鉛鉱型結晶となる。BP結晶の厚さは、結晶欠陥(転位)の導入を考慮して100nm以上できれば150nm以上が望ましい。なお、図1に記載はないが,BP結晶からなるバッファ層の上にさらに(CIn(トリメチルインジウム)ガスを用い,1原子層程度(0.5nm程度)のIn膜を積層させた後、その上にGaN系結晶を成長させることが望ましい。1原子層程度(0.5nm程度)のIn膜をBP結晶からなるバッファ層とGaN系結晶の間に挿入させると、GaN系結晶は良好な閃亜鉛鉱型結晶となる。BP結晶からなるバッファ層の上に積層される1原子層程度(0.5nm程度)のIn膜は薄いので閃亜鉛鉱型の結晶構造を維持する。
【0036】
1原子層程度(0.5nm程度)のIn膜は、その上にGaN系結晶が成長するとInのスポットとして検出される。
【0037】
BP結晶からなるバッファ層の上にさらに1原子層程度(0.5nm程度)のIn膜を積層し,その上にGaN系結晶を積層させた場合、GaN系結晶が転位密度の低い良好な閃亜鉛鉱型となる理由は定かではない。しかしながら、BP結晶の格子定数は約0.454nmであり、GaN結晶の格子定数は約0.451nmである。InGaN結晶はInの比率が高くなると格子定数が大きくなるので、上記成長方法で挿入したIn膜が、その上のGaN膜とともに、実効的にはあたかもIn含有量の比較的大きなInGaNが存在するかのごとく格子定数のミスマッチを解消していると考えられる。
【0038】
したがって,1原子層程度(0.5nm程度)のIn膜に代えて1〜数原子層程度(0.5〜2nm程度)のIn含有量の比較的大きなInGaN,または1原子層程度(0.5nm程度)のIn含有量の比較的大きなInAl混合膜にしても同様の作用効果を奏する。
【0039】
1〜数原子層程度(0.5〜2nm程度)のIn含有量の比較的大きなInGaNを積層する場合には,CH−NH−NH(モノメチルヒドラジン)、(CGa(トリメチルガリウム)及び(CIn(トリメチルインジウム)の混合ガスを用いる。InGaN膜は、1〜数原子層程度(0.5〜2nm程度)の厚さが望ましい。InGaN膜は薄いので閃亜鉛鉱型の結晶構造を維持する。
【0040】
1原子層程度(0.5nm程度)のIn含有量の比較的大きなInAl混合膜を積層する場合には,(CIn(トリメチルインジウム)と(CAl(トリメチルアルミニウム)び混合ガスを用いる。InAl混合膜は1〜数原子層程度(0.5〜2nm程度)の厚さが望ましい。InAl混合膜は薄いので閃亜鉛鉱型の結晶構造を維持する。
【0041】
さらに,BP結晶からなるバッファ層とGaN系結晶の間に形成される層としては、GaInN/GaN/GaInN/GaN/GaInN/GaN/GaInN/GaN/GaInN/GaNの積層構造からなる膜厚合計14nmの閃亜鉛鉱型を維持した超格子層としてもよい。製造方法は、(1)CH−NH−NH(モノメチルヒドラジン)、(CGa(トリメチルガリウム)及び(CIn(トリメチルインジウム)の混合ガスを用いて1.4nmのInGaN層を形成し、(2)CH−NH−NH(モノメチルヒドラジン)及び(CGa(トリメチルガリウム)の混合ガスを用いて1.4nmのGaN層を形成する。さらに、(1)及び(2)の工程を4回繰り返すことにより、BP結晶からなるバッファ層上に、GaInN/GaN/GaInN/GaN/GaInN/GaN/GaInN/GaN/GaInN/GaNの積層構造からなる膜厚合計14nmの閃亜鉛鉱型を維持した超格子層が積層される。
【0042】
なお、上記実施の形態において、窒素源としてはCH−NH−NH(モノメチルヒドラジン)を用いたが、DMHy(ジメチルヒドラジン)を用いてもよい。
【0043】
BP結晶の上にn型GaN系結晶3を形成する。GaNの原料ガスとして、例えばトリメチルガリウム(Ga(CH、TMG)とアンモニア(NH)を用いる。n型の不純物としてSiをドープする。n型GaN系結晶3は閃亜鉛鉱型結晶である。
【0044】
n型GaN系結晶3の上にAlGa1−yN結晶4を成長させる。AlGa1−yN結晶4の原料ガスとしては、例えば、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA;(CHAl)及びシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)アンモニア(NH)を用いる。原料を運搬するキャリアガスは、例えば、Hを用いる。
【0045】
AlGa1−yN結晶4の上にAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)母結晶5及び母結晶5よりも高濃度のInを含有するInドット6を形成する。母結晶5は閃亜鉛鉱型結晶である。AlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)のxは0.01以上0.9の範囲で調整可能である。発光する光を緑色とする場合には0.4になるように原料供給を行うことが望ましい。発光する光を青色とする場合には0.3以上0.35以下になるように原料供給を行うことが望ましい。
【0046】
次に、Inドット6の形成方法を説明する。結論から言えば、発明者は、実験により、Inドット6のInの濃度、ドットの直径及びドットの密度の制御は、成長温度、Inの原料ガスの供給量及び原料ガス圧の制御によって可能であることを見出した。
【0047】
例えば、InGa1−xN結晶の成長温度を700℃に設定する。Inの濃度xを0.40になるように原料濃度を設定する。成長雰囲気ガスとしては窒素ガスを用いる。Inの濃度の高い領域であるInドット6は、成長直後はInドット核として10個/cm程度の密度で成長する。直径は10nm以上50nm以下の範囲の大きさである。Inドット6の密度として10個/cmは高すぎる。したがって、次にInの原料ガス量は同じで基板温度を800℃に上昇させる。この状態で、Inの含有量が過剰な領域(以下、「In過剰領域」と言う。)とInの含有量が少ない領域(以下、「In減少領域」と言う。)との分離がより一層大きくなる。また、Inドット6の合併等がおこる。直径の比較的大きなInドット6が成長し、直径の比較的小さなInドット6は直径の比較的大きなInドット6に吸収される。
【0048】
この後、Inドット6の密度は10個/cm程度になる。10個/cmは高い発光効率を得ることを可能とする電流密度である。こうしてInドット6を有する光学的な活性領域が完成する。所望の光学波長にするために、Inドット6内のIn濃度の制御としては、雰囲気ガスの濃度を変化させるとよい。供給するTMIガス(トリメチルインジウムガス)あるいはDMIガス(ジメチルインジウムガス)の供給量を変化させる。窒素ガス中ではTMI(トリメチルインジウム)ガスの流量[分圧]を増加させるとInドット内のIn濃度は増加する傾向があるためである。または、例えば窒素ガスに水素ガスを混入させてもよい。5%程度の水素ガス量を窒素ガスに加えるだけで結晶内のInの濃度は減少する。なぜなら、基板温度が高温(例えば、700℃以上)の条件下では水素ガスへのIn原子の溶解度が高い。したがって、基板温度が高温(例えば、700℃以上)の条件下において、温度及び圧力条件を一定にして窒素ガスに水素ガスを混入させると、Inドット6内のIn濃度が減少するためである。このように雰囲気ガスの濃度を変化させることによりInドット6内のInの濃度を減少させることが可能である。Inドット6内のInの濃度を調整すると、高輝度LEDの波長を250nmから420nmまでの紫外光に相当する波長に制御可能となる。なお、InGa1−xNの母結晶は、xの値に関係なく閃亜鉛鉱型結晶を保って成長する。
【0049】
InGa1−xNのxを0.2以下とする場合、In減少領域とIn過剰領域との分離が容易ではない。この場合、InGa1−xN結晶の成長後に基板温度を800℃程度から650℃程度まで温度降下を行う熱処理を15分程度行うとよい。その結果、In過剰領域とIn減少領域との分離が起こる。少なくとも1回の降下温度熱処理によっても、In過剰領域とIn減少領域の分離の効果がある。なお、基板温度の温度降下を行う熱処理を結晶層成長中に実施してもほぼ同効果が得られる。つまり、InGa1−xNを700℃で成長させているときに基板温度を650℃以下に下げる。そうすると、かかる温度降下によって、In過剰領域とIn減少領域の分離が起こりIn過剰領域を成長させることが可能となる。
【0050】
なお、InGa1−xN結晶の成長においてx=0.2となる成長を試みる場合、InGa1−xN結晶の成長途中でTMIガスの供給量を増加させて成長結晶のIn過剰領域とIn減少領域の分離が容易に生じるように組成の調整を行ってもよい。例えばTMIの量をx=0.5程度になるように10分間ガス量の変化を加えるとIn過剰領域とIn減少領域の分離が起こる。
【0051】
このように、成長過程に温度降下を行う熱処理、成長後に温度降下を行う熱処理、または供給ガス量を変化させることによりInドット6のInの濃度、ドットの直径及びドットの密度を制御することが可能である。成長過程に温度降下を行う熱処理及び供給ガス量の変化の組み合わせ、または成長後に温度降下を行う熱処理及び供給ガス量の変化の組み合わせでInドット6のInの濃度、ドットの直径及びドットの密度を制御しても構わない。
【0052】
図2の表1及び図3の表2は、複数の実験から導き出された、InGa1−xNを母結晶とするInドット6のドット直径とドットの密度とInの濃度とGaNの濃度の比率を成長温度及びガス成長圧力との関係でまとめた表である。なお、この表において、原料ガスの供給量は一定である。Inドット6の密度は、原料ガス圧が500mbarよりも800mbarのほうが高くなる。成長温度は、550℃以上600℃以下では、Inドット6の形状は糸状で上に伸びやすい。650℃以上700℃以下では、ドット状となる。750℃以上では、Inが液体または液的状態となり形状が不安定となるため、Inドット6の直径を測定することはできなかった。
【0053】
図2の表1及び図3の表2に基づけば、原料ガス圧が高い方がInドット6の密度も高くなることが理解できる。
【0054】
Alがさらに添加されたAlInGa1−y−xN結晶を母結晶としたInドット6のInの濃度、ドット径及びドットの密度の制御も可能である。AlAlInGa1−y−xN結晶を母結晶としたAlを含有するInドット6の場合、活性層であるAlを含有するInドット6の周辺の結晶がバンドギャップの大きいAlInGa1−y−xN結晶となり、発光効率が一層高まる。以下にAlInGa1−y−xN結晶を母結晶とした場合のAlを含有するInドット6のInの濃度、ドットの径及びドットの密度の制御について説明する。なお、本発明にかかるAlInGa1−y−xN結晶はBP結晶の上に成長するため閃亜鉛鉱型結晶である。
【0055】
AlInGa1−y−xN結晶の成長を実施する場合、Alの原料ガスは結晶内の割合(y)がほぼ0.3程度の値となるようにAlの原料ガスを供給する。さらに結晶内でのInの量はxが0.1を下回る程度のガスを流す。成長温度を770℃で行うとAlがある程度混入したInドット6(以下、単に「Inドット6」と言う。)が形成される。Inドット6は、成長直後はおおよそ10個/cm程度の密度でInドット核として成長する。このとき、Inドット6の直径は10nm以上20nm以内の大きさである。Inドット6の密度として、10個/cm程度は高すぎる。
【0056】
次にAlの原料ガスやInの原料ガスの量は変えずに基板温度を900℃程度に上昇させる。この状態にすると、In過剰領域とIn減少領域との分離がより大きくなる。つまり、Inドット6の合併が生じる。直径の比較的大きなInドット6が成長し、直径の比較的小さなInドット6はこれに吸収される。この後、Inドット6の密度は10個/cm程度になる。Inドット6の密度を10個/cmにすると高い発光効率を得ることを可能とする電流密度が得られる。こうして、Inドットを有する光学的な活性領域が完成する。
【0057】
所望の光学波長を有する発光とすべく、Inドット内のInの濃度は、雰囲気ガスを変化させることにより制御可能である。例えば、供給するTMIガスの供給量を変化させてもよい。窒素ガス中ではTMI(トリメチルインジウム)ガスの流量[分圧]を増加させるとInドット内のIn濃度は増加する傾向があるためである。または、窒素ガスに水素ガスを5%程度混入させても、Inドット6内のInの濃度をほぼ半減させることが可能である。なぜなら、基板温度が700℃等の比較的高温の条件下では水素ガスへのIn原子の溶解度が高い。したがって、基板温度が高温(例えば、700℃以上)の条件下において、温度及び圧力条件を一定にして窒素ガスに水素ガスを混入させると、Inドット6内のIn濃度が減少するためである。
【0058】
AlInGa1−y−xNを母結晶とするInドット6のドット直径とドット密度とInの濃度とGaNの濃度の比率の、成長温度及びガス成長圧力との関係は、InGa1−xNを母結晶とするInドット6の場合とほぼ同じである。したがって、原料ガスの供給量が一定の場合、AlInGa1−y−xNを母結晶とするInドット6の密度は,原料ガス圧が500mbarよりも800mbarのほうがが高くなる。但し、AlInGa1−y−xNの場合は、成長温度がInGa1−xNに比べて100℃以上200℃以下程度高くなる。したがって、成長温度が650℃以上800℃以下では、Inドット6の形状は糸状で上に伸びやすい。750℃以上900℃以下では、ドット状となり,1000℃以上では、Inが液体または液的状態となり形状が不安定となるため,Inドット6の直径を測定することはできなかった。
【0059】
AlInGa1−y−xNを母結晶とするInドット6の場合も,原料ガス圧が高い方がInドット6の密度も高くなる。
【0060】
以上のとおり、Inドット6のInの濃度、ドットの直径及びドットの密度の制御は、成長温度、Inの原料ガスの供給量及び原料ガス圧によって、制御することが可能である。さらに安定的にInドット6を形成する方法について以下に説明する。
【0061】
(変形例1)
GaN系結晶の成長基板であるSi基板を(100)面から(110)面方向に5度以上10度以下の範囲で傾けて加工した結晶基板を用いてエピタキシャル成長を行う。該Si基板にBP結晶を成長させた後、Siをドープしてn型GaN系結晶を成長した。n型GaN系結晶は閃亜鉛鉱型である。n型GaN系結晶面にはほぼ等間隔にステップが成長する。ステップ間隔は面の傾斜程度、添加した不純物量等が関係する。例えば、不純物の濃度が1018個cm−3を超えると成長速度が遅くなり、バンチング効果によってステップが高く(数十原子)なりステップ間隔も広くなる。望ましくは、n型GaN系結晶にケイ素を5×1018個cm−3以上5×1020個cm−3以下添加するとよい。本実施例では、不純物の濃度を5×1018個cm−3とした。n型GaN系結晶の成長後、基板温度を750℃以下に降下し、AlInGa1−y−xN結晶(y≧0、x>0)を成長するための原料ガスを供給する。
【0062】
雰囲気ガスとして窒素ガス100%を用いたAlInGa1−y−xN結晶(y≧0、x>0)は、xがほぼ0.15程度でまばらに成長させ、その後さらに同一雰囲気下で基板温度を850℃以上に上昇させた後、結晶表面でInを含む粒子のマイグレーションを約10分間、水素ガスを3%含む窒素雰囲気下で実施する。その後、図4に示すとおり、Inを含む結晶は互いに5〜8μm離れたステップに集まり線状の1次元活性層が形成される。
【0063】
本成長方法では最初のn型GaN系結晶に形成されるステップ間隔を正確に制御するために、成長速度、成長温度の制御が重要である。ステップ間隔が広く結晶の表面が平坦に近ければ、AlInGa1−y−xN結晶(y≧0、x>0)を成長する段階で成長温度を上げると、Inドットが優先的に成長する傾向がある。一方、成長温度を下げると量子細線となる。Inドットとなるか量子細線となるかは成長速度に大きく依存し、成長速度が早ければ量子細線となり、成長速度が遅くなればInドットとなる。結晶の成長条件を制御すれば、本変形例1ではInドットとInの量子細線とを用途に応じてつくり分けることが可能となる。
【0064】
(変形例2)
Si基板の(100)面から(110)面方位に5度以上10度以下の範囲で、及び(100)面から(111)面方向に5度以上10度以下の範囲で傾けて加工した結晶基板を用いてエピタキシャル成長を行う。該Si基板にBP結晶を成長させた後、Siをドープしてn型GaN系結晶を成長させた。n型GaN系結晶は閃亜鉛鉱型である。n型GaN系結晶の結晶面にほぼ等間隔にステップ格子が成長する。ステップ間隔としては面の傾斜程度、添加した不純物量等が関係する。面の傾斜角度が大きくなればステップの間隔は狭くなる。添加する不純物量の濃度が高くなるとステップ間隔はやや広がり高さが高くなる(バンチング効果)。添加する不純物量の濃度としては,望ましくは、n型GaN系結晶にケイ素を5×1018個cm−3以上5×1020個cm−3以下添加するとよい。本実施例においてはn型不純物としてGaN系結晶にケイ素を5×1018個cm−3添加した。n型GaN系結晶の成長後、基板温度を750℃以下に降下し、AlInGa1−y−xN結晶(x=0.15)を成長させるためにAlInGa1−y−xNの原料ガスを約1分間供給する。雰囲気ガスは窒素ガス100%を用いる。次に同一雰囲気下で基板温度を850℃以上に上昇させた後、AlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)の表面におけるInを含む粒子のマイグレーションを水素ガスを10%含む窒素ガスと水素ガスの混合雰囲気下で約15分間実施する。その後、Inを含む結晶、すなわちInドットがステップの交点に集まり、点状の0次元活性領域が形成される。その様子を図5に示す。
【0065】
(変形例3)
変形例3は,InGa1−xNを母結晶とするInドット6を成長させた後の活性領域の構造に関するものである。InGaN(y≧0、x>0)の母結晶5を成長させ、その上に母結晶5よりも高濃度のInを含有するInドット6を成長させた(未だ、Inドット6はInGaN(y≧0、x>0)の母結晶5によって埋め尽くされていない状態。)後,基板温度を800℃から100℃乃至200℃下げてGaの原料ガスの供給量を2倍程度増やす。そうすると,In濃度がInドット6に比べて低い結晶性の不完全なアモルファスライクのInGa1−xNがInドット6間の隙間を埋めるように成長し,Inドット6間の隙間が結晶性の不完全なアモルファスライクのInGa1−xNで埋まり表面が平坦化する。つまり、本変形例では、Inドット6の隙間はInGa1−xNからなる母結晶ではなく、In濃度がInドット6に比べて低い結晶性の不完全なアモルファスライクのInGa1−xNによって埋め尽くされるようにした。
【0066】
Inドット6が電気的抵抗の大きいアモルファスのInGa1−xNで埋まるため,Inドットに正孔と電子が集中し,再結合が優先的に起こり効率的に発光する。また,結晶性の不完全なアモルファスライクのInGa1−xNはIn濃度がInドット6に比べて低いため,結晶性の不完全なアモルファスライクのInGa1−xNのバンドギャップはInドットに比べて大きくなる点も発光効率を高める要因となる。
【0067】
発光デバイスによってはより再現性のある結晶成長プロセスが必要になる場合がある。例えば、高輝度半導体レーザ、多色半導体レーザ等は複数回のエピタキシャルプロセス、化学エッチング、及び加工プロセス等を繰り返す必要が生じる製品である。このような製品の場合、より安定した量子ドットを生成する必要が生じる。特に熱処理等に耐えるためには結晶構造上安定した量子ドットが必要である。
【0068】
(変形例4)
そこで、(100)面のSi結晶基板を(110)面方向に3度以上10度以下の範囲で、(111)方向に3度以上10度以下の範囲で傾けた複数方向傾斜型基板を用いる。2方向に傾斜するSi基板結晶を用いる。該基板上にBP結晶膜を成長させ、その上にn型GaN系結晶をエピタキシャル成長させる。n型GaN系結晶を1μm程度成長させた後、基板を成長炉から取り出す。例えば、該成長炉から取り出した基板を水酸化カリウム(KOH)溶液を用いて150℃で約10分間エッチングを施す。その後、カリウム元素が基板に残らないように洗浄を実施する。この段階で基板の表面を顕微鏡観察すると、約100nm四方間隔で(100)面が傾斜型ステップに囲まれて発生している。図5で示したステップをさらに深くした構造である。
【0069】
さらに該基板をエピタキシャル成長炉内にセットし、窒素ガスまたは窒素ガスに水素ガスが1%以上5%以下含まれた雰囲気ガスでIn0.25Ga0.75N結晶の成長を実施する。成長温度は、面方向の違いによる成長速度の違いが強く現れるように300℃以上550℃以下の範囲内とする。例えば、初期の段階で成長温度を500℃で設定し、母結晶であるIn0.25Ga0.75Nが10以上70原子層の厚み、例えば30nm以上100nm以下の厚さ成長した後、400℃に設定して、よじれ(キンク)の交叉点にInドット6が集まるように10分間程度熱処理を実施する。
【0070】
かかる10分間の熱処理により、母結晶であるIn0.25Ga0.75Nの表面のキンクの交叉点に母結晶であるIn0.25Ga0.75Nよりも高濃度のInを含有するInドットが成長する。Inドット6は母結晶と同じ閃亜鉛鉱型のInドット6として成長する。この場合、Inドット6の最大直径は約20nmとなり、活性領域が完成する。
【0071】
なお、本実施例においては、水酸化カリウム(KOH)溶液を用いて150℃で約10分間エッチングを施したが、エッチングを行う前にInドット6が形成されるであろう位置に予めレーザ照射を実施し、エッチング率を増加しておくことが望ましい。傾斜型ステップを深くすることが可能となり、Inドット6が傾斜型ステップに囲まれたところに成長し易くなるためである。
【0072】
また、水酸化カリウム(KOH)あるいは高温のオキソ酸(HPO)によるエッチングでは(100)面に現れるキンクの交叉点が出にくい場合には、成長基板の表面の傾斜角度とは無関係にn型GaN結晶成長後、その表面にSiNの結晶膜を20nmほど堆積し、さらにプラズマエチング法等で例えば、直径30nm以上100nm以下の間隔で穴を開けることにより量子ドットが成長し易くなるように加工してもよい。
【0073】
(変形例5)
AlGa1−yN結晶を母結晶とするGa過剰なドット(以下、「Gaドット」と言う。)の製造方法について説明する。なお、AlGa1−yN結晶の結晶構造が閃亜鉛鉱型であり、y=0.8より小さい値ではAlGa1−yN結晶は直接遷移結晶の性質を有する。
【0074】
AlGa1−yN結晶のAlの成分とGaの成分がそれぞれ0.5になるようにAlGa1−yNの原料ガスを供給する。成長温度は、例えば900℃である。次に、基板温度を例えば1000℃に上昇させると、Al過剰領域と、Ga過剰領域とに分離して成長し始める。Gaドットは、成長直後は10個/cm程度のGaドット核として成長する。このとき、Gaドットの直径は、50nm以上100nm以下の大きさである。この状態ではGaドットの密度は高すぎる。したがって、次にGaの原料ガス量は同じで基板温度を1100℃程度に上昇させる。この状態で、Ga過剰領域とAl過剰領域との分離はより大きくなり、Gaドットの合併が始まる。直径が比較的大きなGaドットが成長し、直径が比較的小さなGaドットはこれに吸収される。その後、Gaドットの密度は10個/cm程度になる。10個/cmは、効率的な発光を得ることを可能とする電流密度である。このようにして、Gaドットを有する光学的な活性領域が完成する。
【0075】
所望の光学波長を発光させるために、Gaドット内のGa濃度を制御するとよい。Ga濃度の制御は、雰囲気ガスを変化させるとよい。例えば、供給するGaガスの供給量を増加させてもよい。例えば、供給するGaガスの供給量を70000cc/sから100000cc/sに増加させてGaドット内のGa濃度をより高くしてもよい。またはGaドットのバンドギャップを母結晶のAlGa1−yN結晶と比べてより小さくするためにGaドットの成長過程においてInの原料ガスも流して母結晶のAlGa1−yN結晶よりもよりInが導入されたGaドットを成長させてもよい。Gaドット内のGa濃度を0.4以上0.9以下の範囲で制御することにより、発光デバイスの波長を200nm、300nm及び350nmとすることが可能となる。
【0076】
(半導体レーザ)
本発明にかかるInドット6を半導体レーザの活性領域として用いる場合、Inドット6は周期性を有して形成されることが望ましい。したがって、変形例1乃至4で示したとおり、成長基板の表面に傾斜面を設け、その上に成長させたn型GaN系結晶の表面に形成されるほぼ等間隔のステップやキンク等を利用してInドット6を形成することが望ましい。
【0077】
また、Inドット6の最先端部は母結晶であるAlInGa1−y−xN結晶(y≧0、x>0)に埋没させずに母結晶の結晶上に残すことが望ましい。その上で、さらにMgをドープしたp型GaNを成長させ、次にAlGa1−xNをAlの濃度を変え2種類以上のAlGa1−xN層を成長させる。このような構成により、消費電力の少ない半導体レーザが製造することが可能となる。なお、Inドット6の最先端部を母結晶であるAlInGa1−y−xN結晶に埋没させずに母結晶の結晶上に残し、その上で、さらにMgをドープしたp型GaNを成長させるという構成は、LEDにも応用できる。かかる構成を有するLEDは、低電圧の引加で発光可能であり、消費電力が少ないという利点を有する。
【0078】
(キャリア再結合を促進する構造)
これまで説明してきたInドットまたはGaドットを活性領域とする発光デバイスの構成において、よりキャリア再結合を促進する構造を以下に説明する。
例えば、(100)面から(110)面方向に8度傾いたSi基板を成長基板とする。該Si基板上にSi元素を添加したn型BP結晶を成長させる。BP結晶の厚みは、結晶欠陥[転位]を導入させることを考慮して少なくとも200nm以上で成長させる。BP結晶を約300nm成長させても成長基板の傾斜角度はほぼ保つことができる。しかる後、BP結晶上にTMA(トリメチルアルミニウム)、TMI(トリメチルインジウム)の混合ガスを基板温度470℃とし窒素雰囲気内で基板に供給して、AlとInの混合金属層を1原子層以上15原子層以下の原子層を堆積させる。なお、AlとInの混合金属層は2原子層以上5原子層以下堆積させることが望ましい。InあるいはAlを2原子層以上5原子層以下の厚みで全面に付着させるとその後積層される層の成長が順調となる。
【0079】
AlとInの混合金属層のAlとInの堆積比率はAlが80%、Inが20%である。このときもSi元素を不純物として添加するとよい。その後、約600℃でn型GaN系結晶を成長させる。このときBP結晶直上ではAl濃度が高くGaN結晶よりもバンドギャップの大きいAlInGa1−y−xN結晶が成長する。結果として光学デバイス作製時に活性領域でのキャリア再結合を促進させることを可能とする構造となる。
【0080】
本願発明のこれまでの説明では、活性領域を構成する層は単層として説明してきたが、活性領域を構成する層は一層だけではなく複数層作製する場合があり、このような活性層を作成する場合に本発明の請求事項が適用できるのは当然である。
【0081】
また、成長基板として、Si基板を中心に説明してきたが、SiC基板結晶、GaAs基板結晶、サファイア基板等を用いたSi以外の結晶基板を用いてもよい。サファイア基板等を利用した場合でも基板表面の傾斜効果は十分期待できる。
【0082】
また、光学デバイスに関して説明してきたが、本願発明にかかる量子ドットを有する活性領域は、電界効果トランジスターやpnp型やnpn型トランジスター、これらを含む集積デバイス等に適用可能であることは言うまでも無い。特に電子デバイスと光学デバイスの融合型では本報告の構造及び特徴が有用であることは当然である。
【符号の説明】
【0083】
1 GaN系半導体結晶成長用のSi基板
2 BP結晶を有するバッファ層
3 Siがドープされたn型GaN系結晶
4 AlGa1−yN結晶
5 母結晶である閃亜鉛鉱型のAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)
6 母結晶内に形成されるAlInGa1−y−xN(y≧0、x>0)のナノドット
7 AlGa1−yN結晶
8 p型GaN系結晶
9 n型電極
図1
図2
図3
図4
図5