(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2溶着粉末材料が、前記第1溶着粉末材料よりフラックスの含有率が高くなるよう構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の農業機械用爪刃の製造方法。
予め前記溶着母材のうち周縁に向かって傾斜されている刃部に、その長さ方向に沿った前記溶着粉末材料を留めるための段差部を設ける段差部形成工程を施すことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の農業機械用爪刃の製造方法。
前記段差部形成工程のとき、前記溶着母材の先端側に前記段差部を設けない端縁部を形成し、溶融された前記溶着粉末材料の流出を前記端縁部によって防止することを特徴とする請求項4又は5に記載の農業機械用爪刃の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示されている技術では、反転した後に溶着させる溶着粉末材料は、反転させる前に溶着させる溶着粉末材料と比べて、融点が75度の違いであった(特許文献1の明細書段落番号「0006」参照。)。このため、溶着母材を反転させた後に融点の低い溶着粉末材料を溶着させるとき、最初に溶着させた溶着粉末材料が下を向いていることもあって、溶融して流出してしまうことがあり、生産性に難があるという課題があった。ここで、溶着粉末材料の組成のうち、炭素の含有率をさらに変更して融点の差を広げることは可能であるものの、炭素の含有率が大幅に異なると、金属としての性質も変化してしまい、耐摩耗性等の農業機械用爪刃としての性能に優れるという目的に叶う溶着粉末材料ではなくなってしまうおそれがあった。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みなされたもので、溶着粉末材料の組成のうち炭素の含有率を大幅に変更せずに、結果として溶着される耐摩耗層の性能を損なうことがなく、第1溶着粉末材料と第2溶着粉末材料との溶融温度の差を広げ、第2溶着工程において既に溶着されている第1溶着粉末材料が溶融して流出するのを防止することができる農業機械用爪刃の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の農業機械用爪刃の製造方法は、
溶着母材の多面に溶着粉末材料を溶着させる農業機械用爪刃の製造方法において、
溶着母材の上を向いた面に鉄をベースとしながら少なくとも炭素及びクロムを含有する第1溶着粉末材料を積層させる第1積層工程と、
前記溶着母材と前記第1溶着粉末材料とを加熱して溶着させる第1溶着工程と、
前記溶着母材を回転させる回転工程と、
前記溶着母材の前記第1溶着工程を施した面とは異なる上を向いた面に、鉄をベースとしながら少なくとも炭素及びクロムを含有する第2溶着粉末材料を積層させる第2積層工程と、
前記溶着母材と前記第2溶着粉末材料とを前記第1溶着工程より低い温度で加熱して溶着させる第2溶着工程と、を含み、
前記第1溶着粉末材料は、高クロム合金であり、
前記第2溶着粉末材料は、少なくともその一部を共晶組成とすること及びクロムの含有率を前記第1溶着粉末材料より低くして前記第1溶着粉末材料より低融点とした低クロム合金であることを特徴とする。
【0007】
本発明の農業機械用爪刃の製造方法によれば、第1溶着粉末材料が高クロム合金であるため、溶融温度が比較的高くなる。一方、第2溶着粉末材料は低クロム合金であるとともに、少なくともその一部を共晶組成としているため、溶融温度が比較的低くなる。このため、第1溶着粉末材料と第2溶着粉末材料との溶融温度の差を広げることができる。これにより、第2溶着工程において第1溶着粉末材料の溶融を防止することができ、第1溶着粉末材料が脱落することがない。なお、少なくともその一部を共晶組成とするとは、第2溶着粉末材料に含有されている炭素、クロム、及び鉄が共晶組成そのものの比率となる配合のみならず、共晶となる付近で合金の一部のみが共晶組成となる配合が含まれることを意図する。
【0008】
また、第1溶着粉末材料が高クロム合金であり、第2溶着粉末材料が低クロム合金であることから、これらの溶着粉末材料の組成の差が、主にクロムの含有率の差である。このため、炭素の組成を大幅に変更する必要がなく、第1溶着粉末材料及び第2溶着粉末材料ともに、溶着後において耐摩耗層としての優れた性質を得ることができる。
【0009】
本発明の農業機械用爪刃の製造方法の好ましい例は、
前記第2溶着粉末材料が、前記第1溶着粉末材料より粗く構成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の農業機械用爪刃の製造方法の好ましい例によれば、第1溶着粉末材料に対して第2溶着粉末材料の粒を粗くしている。これにより、第2溶着粉末材料が溶融し易くなり、第1溶着工程での温度に対して第2溶着工程をより低い温度で行なうことが可能となる。なお、第2溶着粉末材料を粗くすることによる溶融温度の変化のメカニズムであるが、第2溶着粉末材料の粒子同士の隙間が広くなるため、溶融し始めの液相となった部分が当該隙間に浸透しやすくなり、その浸透によって熱伝導が速やかになされるためと考えられる。
【0011】
本発明の農業機械用爪刃の製造方法の好ましい例は、
前記第2溶着粉末材料が、前記第1溶着粉末材料よりフラックスの含有率が高くなるよう構成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の農業機械用爪刃の製造方法の好ましい例によれば、第1溶着粉末材料よりも第2溶着粉末材料に含まれるフラックスの含有率を高くしているため、溶融した第2溶着粉末材料の流動性を促進させることができる。これにより、溶融し始めた第2溶着粉末材料同士の熱の伝達が速やかになされ、さらに溶融温度を下げることができると考えられる。また、溶融温度が低い第2溶着粉末材料と溶着母材との密着性を高め、両者の接合を良好なものとすることができる。
【0013】
本発明の農業機械用爪刃の製造方法の好ましい例は、
予め前記溶着母材のうち周縁に向かって傾斜されている刃部にその長さ方向に沿った、前記溶着粉末材料を留めるための段差部を設ける段差部形成工程を施すことを特徴とする。
【0014】
本発明の農業機械用爪刃の製造方法の好ましい例によれば、段差部形成工程によって、刃部に溶着粉末材料を留めるための段差部を設けるため、傾斜した刃部にも溶着粉末材料を溶着させることができる。
【0015】
本発明の農業機械用爪刃の製造方法の好ましい例は、
前記第1溶着工程を施す面を前記溶着母材のうち平らな面とし、
前記第2溶着工程を施す面を前記溶着母材のうち前記刃部が設けられた面とすることを特徴とする。
【0016】
本発明の農業機械用爪刃の製造方法の好ましい例によれば、刃部が設けられた面を第2溶着工程として後から溶着させるため、傾斜して溶着が不安定となりやすい刃部の耐摩耗層が後から再溶融するようなことがなく、刃部の溶着を安定させることができる。
【0017】
本発明の農業機械用爪刃の製造方法の好ましい例は、
前記段差部形成工程のとき、前記溶着母材の先端側に前記段差部を設けない端縁部を形成し、溶融された前記溶着粉末材料の流出を前記端縁部によって防止することを特徴とする。
【0018】
本発明の農業機械用爪刃の製造方法の好ましい例によれば、溶融された溶着粉末材料の流出を端縁部によって防止するため、刃部の溶着を安定させることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上、説明したように、本発明に係る農業機械用爪刃の製造方法によれば、溶着粉末材料の組成のうち炭素の含有率を大幅に変更せずに、結果として溶着される耐摩耗層の性能を損なうことがなく第1溶着粉末材料と第2溶着粉末材料との溶融温度の差を広げ、第2溶着工程において既に溶着されている第1溶着粉末材料が溶融して流出するのを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1実施形態]
以下、本発明に係る農業機械用爪刃1の製造方法の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。また、本発明に係る農業機械用爪刃1としては、耕運機に装着される耕耘爪、草刈り機に装着されるハンマーナイフ等の草刈り刃等があるが、ここでは耕耘爪の製造方法を例にして説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の農業機械用爪刃1の製造方法による耕耘爪の製造方法は、第1積層工程S1000と、第1溶着工程S1010と、回転工程S1020と、第2積層工程S1030と、第2溶着工程S1040と、成形工程S1050とを含む。
【0023】
本実施形態の農業機械用爪刃1の製造方法では、溶着母材10の複数の面に溶着粉末材料を溶着させて、溶着母材10の表面に耐摩耗層を形成している。先ず、耕耘爪に用いられる溶着母材10について説明する。この溶着母材10としては、耕耘爪に求められる耐衝撃性、耐摩耗性、強度等を備える材料が好ましく、例えば、SUP6等のばね鋼鋼材が用いられる。このばね鋼鋼材の一方の面13を平らな面として、他方の面14に側面視でその周縁に向かって傾斜された刃部20を設けて、耕耘爪の材料としている(
図2参照)。
【0024】
第1積層工程S1000は、
図2(A)及び(B)に示すように、溶着母材10の上を向いた平らな一方の面13のうち、耐摩耗層を形成したい部分に、第1溶着粉末材料11を所定量敷き詰めて積層させるものである。この第1溶着粉末材料11は、鉄をベースとしながら少なくとも炭素、ボロン、及びクロムを含有し、溶着母材10よりも融点が低い高クロム合金が用いられる。また、第1溶着粉末材料11にはフラックスが含まれる。このフラックスとしては、溶接に用いられるものと同様のフラックスが採用され、作用として酸化膜除去、濡れ性改善等が期待できる。なお、本実施形態では、第1溶着粉末材料にボロンを含有させているが、これは、焼入れ性の向上のためである。
【0025】
次に、
図2(B)に示すように、第1溶着工程S1010として、上記の第1積層工程S1000で積層させた溶着母材10と第1溶着粉末材料11とを加熱して溶着させる。このときの加熱であるが、本実施形態に係る耕耘爪では、第1溶着粉末材料11に用いられる高クロム合金の組成にもよるが、1200〜1300℃程度まで加熱して第1溶着粉末材料11を溶融させ、溶着母材10と第1溶着粉末材料11とを溶着させる。また、加熱の方法は、公知の様々な方法や装置を用いることができるが、本実施形態では高周波加熱を採用している。
【0026】
次に、
図2(C)に示すように回転工程S1020として、第1溶着工程S1010を経た溶着母材10を回転させる。ここでは、溶着母材10の刃部20が設けられた他方の面14を上に向けるため、180度反転される。もっとも、この反転させる角度は180度に限られず、溶着母材10の形状及び溶着を施したい面の位置によって適宜変更される。
【0027】
次に、
図2(D)に示すように、第2積層工程S1030として、溶着母材10のうち、第1溶着工程S1010を施した面とは異なる上を向いた面である他方の面14うち、耐摩耗層を形成したい部分に、第2溶着粉末材料12を所定量敷き詰めて積層させる。この第2溶着粉末材料12は、鉄をベースとしながら少なくとも炭素、ボロン、及びクロムを含有する低クロム合金が用いられる。なお、第2溶着粉末材料12の溶融温度が第1溶着粉末材料11よりも低くなるよう、融点が比較的高いクロムの含有率を第1溶着粉末材料11より低くした低クロム合金を用いる。また、第2溶着粉末材料12は、さらに溶融温度を低くするため、その組成のうち炭素、ボロン、クロム、及び鉄で共晶組成又は共晶組成となる付近の配合としている。また、第2溶着粉末材料12にもフラックスが含まれる。なお、第2溶着粉末材料にボロンを含有させる理由は、第1溶着粉末材料同様に焼き入れ性向上のためであるが、ここでは第2溶着粉末材料の溶融温度を下げるために、ボロンを含めた組成で共晶又は共晶組成となる付近の配合としている。
【0028】
次に、第2溶着工程S1040として、上記の第2積層工程S1030で積層させた溶着母材10と第2溶着粉末材料12とを加熱して溶着させる。このときの加熱であるが、本実施形態の農業機械用爪刃1の製造方法では、低クロム合金の組成にもよるが、1050〜1200℃程度まで加熱して第2溶着粉末材料12を溶融させ、溶着母材10と第2溶着粉末材料12とを溶着させる。このとき、第1溶着工程S1010より約100℃以上低い温度で溶着母材10と第2溶着粉末材料12が加熱される。このため、既に溶着されている第1溶着粉末材料11は溶融することなく、第1溶着粉末材料11によって形成された耐摩耗層が下向きとされていながら溶着母材10から剥離又は流出することがない。なお、ここでも加熱方法としては高周波加熱を採用している。
【0029】
次に、成形工程S1050として、第2溶着工程S1040を経て、第1溶着粉末材料11及び第2溶着粉末材料12によって、多面に耐摩耗層が形成された溶着母材10を、プレス加工等によって、農業機械用爪刃1の形状に成形するのである。なお、耕耘爪と草刈り刃とでは、溶着母材10の形状と成形工程S1050での形状が異なるのみで、その他の製造方法は略同じであることから、草刈り刃の製造方法については省略する。
【0030】
ここで、第1溶着粉末材料11と第2溶着粉末材料12との溶融温度の差について説明する。第1溶着粉末材料11には高クロム合金が用いられ、第2溶着粉末材料12には低クロム合金が用いられることは既に述べたとおりである。この高クロム合金のクロムの含有率は、重量比で25〜35%が好ましく、25〜31%がより好ましい。これは、クロムの含有率が25%未満であると、第1溶着粉末材料11として求められる高融点を確保することがし難くなるからである。一方、クロムの含有率が31%を超えると、硬度が高くなり過ぎて脆くなるからであり、特に35%を超えるとビッカス硬度(HV)で1000を超え、その傾向がより顕著になるからである。このようなクロムの含有率が35%を超えた場合、耕耘爪としては硬くなり、割れやカケが発生してしまうため不向きである。さらに、クロム材料は高額なため、不必要にクロムの含有率を高めることは経済的に不利になりやすいということもある。
【0031】
また、第2溶着粉末材料12に用いられる低クロム合金のクロムの含有率は、重量比で2〜12%が好ましく、4〜8%がより好ましい。これは、クロムの含有率が4%未満であると硬度が低くなり、農業機械用爪刃1の耐摩耗層としての性能を発揮し難くなるからであり、2%未満であるとその傾向がより顕著になるからである。一方、クロムの含有率が8%を超えると、第2溶着粉末材料12として求められる低融点が確保し難くなるからであり、12%を超えるとその傾向がより顕著になるからである。
【0032】
これらの高クロム合金及び低クロム合金の組成としては、例えば、
図3に示す表のものが採用される。この表から明らかなように、第1溶着粉末材料11と第2溶着粉末材料12とでは、炭素及びボロンの含有率は大きく変更されておらず、クロムの含有率のみが大きく変更されている。また、既に述べたように、第2溶着粉末材料12は、炭素、ボロン、クロム及び鉄で共晶組成又は共晶組成となる付近の配合の低クロム合金としている。これらにより、形成された耐摩耗層の性能を損ねることなく、第1溶着粉末材料11と第2溶着粉末材料12とで溶融温度の差を広げることができる。なお、
図3における第1溶着粉末材料11と第2溶着粉末材料12は、フラックスを含まず、かつ粒径は同じに構成されている。
【0033】
また、
図4に示すように、第1溶着粉末材料11と第2溶着粉末材料12とは、含有させるフラックスの量を変えることによっても溶融温度に差を付けている。
図4(A)(B)からも明らかなように、フラックスの含有率が増加するに従い、溶融温度が下がる傾向がある。このフラックスによって溶融温度が下がる原因は、溶着粉末材料の流動性が促進されることで、溶融し始めた一部の溶着粉末材料が隣接する溶着粉末材料に付着して、熱の伝達が速やかになされることにあると推考される。なお、
図4における第1溶着粉末材料11と第2溶着粉末材料12は、
図3に示す表の組み合わせ2の組成のものを使用し、粒径が同じに構成されている。
【0034】
ここで、第1溶着粉末材料11は、このフラックスを重量比で7〜12%、好ましくは8〜10%含んでいる。これは、フラックスが多すぎると、溶融した第1溶着粉末材料11の流動性が促進されることで、溶融温度が下がり過ぎるからである。一方、フラックスの含有率が少なすぎると、第1溶着粉末材料11の組成によっては溶融温度が高くなり、溶着母材10自身が熱によって変形等してしまうおそれがあること、及びフラックス本来の作用が発揮できなくなり、第1溶着粉末材料11と溶着母材10との接合が良好になされなくなるおそれがあるからである。
【0035】
また、第2溶着粉末材料12に含まれるフラックスは、第1溶着粉末材料11に含まれるフラックスと同様なものが採用されるが、その含有率が第1溶着粉末材料11より多くされていることが好ましい。具体的には、フラックスを重量比で8〜18%含むことが好ましく、11〜15%含むことがより好ましい。これは、フラックスが多すぎると、第2溶着粉末材料12の流動性が促進され、溶着母材10の上から垂れて流出してしまうおそれがあるからである。一方、フラックスの含有率が少なすぎると、第2溶着粉末材料12の溶融温度が高くなり、第1溶着粉末材料11との溶融温度の差が小さくなってしまうからである。
【0036】
また、
図5に示すように、第1溶着粉末材料11と第2溶着粉末材料12とは、その金属粉の粗さ(粒径)を変えている。これは、第1溶着粉末材料11より第2溶着粉末材料12の粒子を粗く構成することで、第2溶着粉末材料12の溶融温度を下げるためである。この、粒度分布の例として、フラックスを含まない状態で、
図5に示すものが挙げられる。ここから、第1溶着粉末材料11は、30メッシュ、すなわち目開きが500マイクロメートルのふるいを略全量が通過する粒径であることがわかる。そして、60メッシュのふるいに残るものが重量比で11.9%、100メッシュのふるいに残るものが22.3%と続き、330メッシュのふるいを通過する45マイクロメートル以下の粒子が9.8%含まれていることもわかる。
【0037】
一方、第2溶着粉末材料12は、30メッシュのふるいを略全量通過して、全体として粒子の大きさが500マイクロメートル以下であることは同じであるが、330メッシュを通過する45マイクロメートル以下の粒子を略除去して、第1溶着粉末材料11と比較して粗く構成している。なお、第2溶着粉末材料12の粒径を粗くすることによって溶融温度が下がることについて、温度の測定はしていないが、同じ加熱条件で45マイクロメートル以下の粒子を含むものと、含まないものとを比較した結果、明らかに後者の方が溶けがよかったとの経験に基づいたものである。
【0038】
この第1溶着粉末材料11よりも第2溶着粉末材料12を粗く構成することによって、第2溶着粉末材料12の溶融温度が下がる原因は、第2溶着粉末材料12の粒径を粗くすることによって、第2溶着粉末材料12同士の隙間が大きくなる。すると、加熱して溶融し始めた第2溶着粉末材料12が、第2溶着粉末材料12同士の隙間に浸透し易くなり、溶融した液相のものが他の固相の溶着粉末材料に接触することで熱が伝達されさらに溶融し易くなることにあると推考される。なお、第1溶着粉末材料11及び第2溶着粉末材料12は、アトマイズ法によって製造される。
【0039】
このように、第1溶着粉末材料11と比較して、第2溶着粉末材料12は、低クロム合金かつ共晶組成又は共晶組成となる付近の配合であること、フラックスの含有率を高くしていること、及び粒子を粗く構成していることによって、溶融温度の差をさらに広げることができ、第2溶着工程S1040において、既に溶着した第1溶着粉末材料11の脱落を防止することができるのである。
【0040】
[第2実施形態]
次に、
図6及び
図7(A)〜(D)を参照して、刃部120に段差部121を形成する農業機械用爪刃100の製造方法の実施形態を説明する。
図6は第1積層工程S1000前の耕耘爪(農業機械用爪刃100)の平面図、
図7(A)は
図6の矢印Aの方向から見た耕耘爪の側面図の一部、
図7(B)は第1溶着工程S1010の後に
図6のB−B線で見た端面図、
図7(C)は回転工程S1020の後に
図6のB−B線で見た端面図、
図7(D)は第2溶着工程S1040後に
図3のB−B線で見た端面図である。ここでも、農業機械用爪刃100の例として耕耘爪の製造方法を説明する。また、第1溶着工程S1010から成形工程S1050までは、上述の第1実施形態で既に説明しているため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0041】
本実施形態に係る農業機械用爪刃100の製造方法では、
図6及び
図7(A)に示すように、第1積層工程S1000(
図1参照)の前に、段差部形成工程として、溶着粉末材料を留めるための段差部121を、溶着母材110のうち周縁に向かって傾斜されている刃部120にその長さ方向に沿って設ける。また、この段差部形成工程では、溶着母材110のうち先端側に段差部121を設けない端縁部122を形成し、溶融された溶着粉末材料の流出をこの端縁部122によって防止している。これらにより、傾斜された刃部120において、溶着粉末材料を積層させる第1積層工程S1000又は第2積層工程S1030、及び溶着粉末材料を加熱して溶着させる第1溶着工程S1010又は第2溶着工程S1040における溶着粉末材料の流出を防止でき、刃部120にも耐摩耗層を形成することができる。
【0042】
次に、具体的な製造方法を説明する。上述のように、先ず、段差部形成工程で、予め溶着母材110の刃部120に端縁部122を残して段差部121を設ける。この段差部形成工程では、プレス加工、切削加工等が用いられる。次に、
図7(B)に示すように、溶着母材S110の平らな面である一方の面113を上にして、第1積層工程S1000、及び第1溶着工程S1010を施す。次に、
図7(C)に示すように、回転工程S1020で溶着母材110を反転させて、刃部120が設けられている他方の面114が上を向くようにする。
【0043】
そして、
図7(D)に示すように、第2積層工程S1030では、溶着母材110の刃部120にも第2溶着粉末材料12を積層させる。このとき、段差部121によって、第2溶着粉末材料12は落下することなく刃部120に留まる。次に、第2溶着工程S1040を施すが、このときも溶融された第2溶着粉末材料12が段差部121と端縁部122によって流出することがなく、刃部120にも耐摩耗層が形成される。次に、成形工程S1050として、プレス加工等によって所定の形状に溶着母材110を成型すれば良い。
【0044】
なお、ここでは、溶着母材110の平らな面に第1溶着工程S1010を施し、刃部120が設けられた面に第2溶着工程S1040を施しているが、第1溶着工程S1010を溶着母材110のうち刃部120が設けられた面として、第2溶着工程S1040を平らな面としてもよい。
【0045】
以上、説明したように、これらの実施形態の農業機械用爪刃の製造方法によれば、第1溶着粉末材料と第2溶着粉末材料の組成において、それぞれ高クロム合金と低クロム合金を用いている。また、第2溶着粉末材料では共晶組成又は共晶組成となる付近の配合となるよう炭素、ボロン、及びクロムを配合しているため、炭素及びボロンの含有率を大幅に変更せずに、第1溶着粉末材料と第2溶着粉末材料との溶融温度の差を広げることができる。これらによって、形成される耐摩耗層の性能を犠牲にすることなく、第1溶着粉末材料と第2溶着粉末材料との溶融温度の差を広げることができ、第2溶着工程で既に溶着させた第1溶着粉末材料が再溶融して流出又は脱落するのを防止することができる。
【0046】
また、第2溶着粉末材料に含まれるフラックスの含有率を第1溶着粉末材料と比較して高くしていること、及び第2溶着粉末材料の金属粉を第1溶着粉末材料と比較して粗くしているため、さらに第1溶着粉末材料と第2溶着粉末材料との溶融温度の差を広げることができ、より効果的に第2溶着工程での第1溶着粉末材料の脱落を防止することができる。
【0047】
また、溶着母材の刃部に段差部及び端縁部を設ける態様では、従来は傾斜しているため耐摩耗層の形成が困難であった刃部にも耐摩耗層を設けることができ、農業機械用爪刃の耐摩耗性能をより向上させることができる。
【0048】
なお、以上説明した農業機械用爪刃の製造方法は、本発明の例示であり、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、その構成を適宜変更することができる。
【課題】溶着母材の多面に溶着粉末材料を溶着させる農業機械用爪刃の製造方法において、溶着粉末材料の組成のうち炭素とボロンの含有率を大幅に変更せずに第1溶着粉末材料と第2溶着粉末材料との溶融温度の差を広げる。
【解決手段】溶着母材の上を向いた面に鉄をベースとしながら少なくとも炭素及びクロムを含有する第1溶着粉末材料を積層させる第1積層工程と、第1溶着工程と、回転工程と、前記溶着母材の前記第1溶着工程を施した面とは異なる上を向いた面に、鉄をベースとしながら少なくとも炭素及びクロムを含有する第2溶着粉末材料を積層させる第2積層工程と、第2溶着工程と、を含み、前記第1溶着粉末材料は、前記第2溶着粉末材料よりクロムを多く含有する高クロム合金であり、前記第2溶着粉末材料は、少なくともその一部を共晶組成とする低クロム合金とする。