特許第6298580号(P6298580)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6298580白金コロイドの製造方法およびその方法によって製造された白金コロイド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6298580
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】白金コロイドの製造方法およびその方法によって製造された白金コロイド
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20180312BHJP
【FI】
   B22F9/24 E
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-545759(P2017-545759)
(86)(22)【出願日】2016年12月22日
(86)【国際出願番号】JP2016088419
(87)【国際公開番号】WO2017111046
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2017年8月30日
(31)【優先権主張番号】特願2015-253592(P2015-253592)
(32)【優先日】2015年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】396020408
【氏名又は名称】アイノベックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】岩城 廣至
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−079382(JP,A)
【文献】 特開平10−176207(JP,A)
【文献】 特開2001−122723(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/023467(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/24
B22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金イオン溶液、水、非イオン系界面活性剤、pH補償剤および還元剤を用いて、白金イオンを還元することにより白金コロイドを製造する方法であって、
白金イオン溶液が20w/v%の白金を含み、非イオン系界面活性剤がポリソルベート80であり、pH補償剤がアルカリ金属塩であり、還元剤が低分子アルコールであり、
白金イオン溶液1容量に対して、水を600〜660容量、非イオン系界面活性剤を0.20〜0.30容量、pH補償剤を5w/v%の水溶液で10〜30容量、還元剤を27〜37容量用い
水、非イオン系界面活性剤、および還元剤を含む処理液を加温し、50〜75℃に達した後に前記処理液に白金イオン溶液およびpH補償剤を同時に添加することを特徴とする、方法。
【請求項2】
pH補償剤が炭酸水素ナトリウムであり、還元剤がエタノールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
白金イオン溶液が塩化白金酸の水溶液である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
白金イオン溶液が塩化白金酸の水溶液であり、pH補償剤が炭酸水素ナトリウムであり、還元剤がエタノールである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
白金イオン溶液1容量に対して、水を620〜630容量、非イオン系界面活性剤を0.26〜0.28容量、pH補償剤を5w/v%の水溶液で19〜21容量、還元剤を32〜35容量用いる、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
処理液が65〜75℃に達した後に白金イオン溶液およびpH補償剤を添加する、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の方法により製造された白金コロイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金コロイドの製造方法およびその方法によって製造された白金コロイドに関する。
【背景技術】
【0002】
白金微粒子がコロイドとして水中に分散すると、還元能、即ち抗酸化能を有することが知られている(特許文献1〜3、10)。かかる白金コロイドは、飲料、医薬品、化粧品などの原料として有用である(特許文献3〜14)。白金コロイドの製造方法としては、コロイド保護剤の存在下で白金イオンを還元して白金コロイドを得る金属塩還元反応法が知られており、コロイド保護剤として、ポリソルベート80(特許文献1〜3)の他、グリセリン脂肪酸エステル(特許文献7)、レシチン、サポニン(特許文献11)、またはエーテル型非イオン界面活性剤(特許文献13)を用いる方法も開発されている。しかしながら、白金コロイドの有用性から、より優れた抗酸化能を有する白金コロイドを提供する方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−068008号公報
【特許文献2】特開平10−176207号公報
【特許文献3】特開2001−079382号公報
【特許文献4】特開2001−122723号公報
【特許文献5】特開2002−212102号公報
【特許文献6】特開2002−356415号公報
【特許文献7】特開2005−163117号公報
【特許文献8】特開2005−270938号公報
【特許文献9】特開2005−298730号公報
【特許文献10】特開2007−297281号公報
【特許文献11】特開2008−169151号公報
【特許文献12】特開2009−001525号公報
【特許文献13】特開2009−167478号公報
【特許文献14】国際公開第2006/038528号公報
【発明の概要】
【0004】
本発明は、優れた抗酸化能を有する白金コロイドの製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
一態様において、本発明は、白金イオン溶液、水、非イオン系界面活性剤、pH補償剤および還元剤を用いて、白金イオンを還元することにより白金コロイドを製造する方法であって、
白金イオン溶液が20w/v%の白金を含み、非イオン系界面活性剤がポリソルベート80であり、pH補償剤がアルカリ金属塩であり、還元剤が低分子アルコールであり、
白金イオン溶液1容量に対して、水を600〜660容量、非イオン系界面活性剤を0.20〜0.30容量、pH補償剤を5w/v%の水溶液で10〜30容量、還元剤を27〜37容量用いることを特徴とする方法を提供する。
さらなる態様において、本発明は、前記方法により製造された白金コロイドを提供する。
【0006】
本発明により、従来よりも優れた抗酸化能を有する白金コロイドおよびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本発明の方法により得られる白金コロイドの状態を説明する図である。
図2図2は、実施例1の白金コロイドを透過電子顕微鏡で観察した画像である。
図3図3は、実施例1の白金コロイドの粒度分布測定結果を示す。
図4図4は、参考例1の白金コロイドを透過電子顕微鏡で観察した画像である。
図5図5は、参考例1の白金コロイドの粒度分布測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の方法は、白金イオン溶液、水、非イオン系界面活性剤、pH補償剤および還元剤を用いて、白金イオンを還元することにより白金コロイドを製造する方法である。
【0009】
本明細書において、「約」とは、±10%、好ましくは±5%の範囲を意味する。
【0010】
白金イオン溶液は、白金ハロゲン化物の水溶液であり、市販の白金ハロゲン化物を水に溶解することにより調製することができる。好ましくは、白金イオン溶液は、塩化白金酸の水溶液である。白金イオン溶液としては、20w/v%の白金を含むものを使用する。
【0011】
本発明の方法においては、白金イオン溶液1容量に対して、600〜660容量、好ましくは620〜650容量の水を使用する。好ましい一態様においては、白金イオン溶液1容量に対して、620〜630容量の水を使用する。
【0012】
非イオン系界面活性剤は、コロイド保護剤としての役割を果たす。非イオン系界面活性剤としては、ポリソルベート80を使用する。本発明に使用可能なポリソルベート80は、日油株式会社などの多くの供給元から入手可能である。本発明の方法においては、白金イオン溶液1容量に対して、0.20〜0.30容量、好ましくは0.24〜0.30容量の非イオン系界面活性剤を使用する。好ましい一態様においては、白金イオン溶液1容量に対して、0.26〜0.28容量の非イオン系界面活性剤を使用する。
【0013】
還元剤としては、低分子アルコールを使用する。本明細書において、低分子アルコールとは、炭素数1〜6のアルコールを意味する。還元剤は、好ましくはエタノールである。本発明の方法においては、白金イオン溶液1容量に対して、27〜37容量、好ましくは30〜37容量、より好ましくは30〜35容量の還元剤を使用する。好ましい一態様においては、白金イオン溶液1容量に対して、32〜35容量の還元剤を使用する。
【0014】
pH補償剤としては、アルカリ金属塩を使用する。アルカリ金属塩としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、および炭酸水素ナトリウムが例示される。pH補償剤は、好ましくは炭酸水素ナトリウムである。pH補償剤は、水溶液として、好ましくは5w/v%の水溶液として、処理液に添加される。本発明の方法においては、白金イオン溶液1容量に対して、5w/v%の水溶液で10〜30容量、好ましくは16〜24容量、より好ましくは18〜22容量のpH補償剤を使用する。好ましい一態様においては、白金イオン溶液1容量に対して、5w/v%の水溶液で19〜21容量のpH補償剤を使用する。
【0015】
具体的には、本発明の方法は、白金イオン溶液1容量に対して、水を600〜660容量、非イオン系界面活性剤を0.20〜0.30容量、pH補償剤を5w/v%の水溶液で10〜30容量、還元剤を27〜37容量用いる。
【0016】
好ましい一態様において、本発明の方法は、白金イオン溶液1容量に対して、水を620〜630容量、非イオン系界面活性剤を0.26〜0.28容量、pH補償剤を5w/v%の水溶液で19〜21容量、還元剤を32〜35容量用いる。
【0017】
本発明の方法は、例えば、以下のように実施される。まず、水を攪拌しつつ加温し、一定の温度(例えば、45〜65℃、好ましくは45〜55℃、より好ましくは約50℃)に達したのち非イオン系界面活性剤と還元剤とを添加する。次いで、この液をさらに攪拌しながら加温し、還元処理温度に達した後に白金イオン溶液とpH補償剤とを同時に添加する。還元処理温度は50〜75℃の範囲であり、好ましくは65〜75℃、より好ましくは約70℃である。還元剤が白金イオンに作用し、水中で白金イオンの還元反応が進行する。液の温度を一定に保持したまま攪拌を続け、白金イオンが還元された時点で加温および攪拌を終了する。白金イオンの還元は、液色の黒色への変色より確認できる。還元処理の結果、反応液中に白金コロイドが得られる。
【0018】
本明細書の実施例では、水が一定の温度に達した後に非イオン系界面活性剤と還元剤とを添加し、その後白金イオン溶液を添加しているが、まず水の温度を上げて非イオン系界面活性剤を添加し、一定温度に達した後に白金イオン溶液とpH補償剤とを添加し、その後還元剤を添加してもよい。
【0019】
還元反応終了後、埃などの混入防止のためろ過処理を行う。ろ過処理は、保留粒子径0.5〜5μm、好ましくは1μmの濾紙を用いればよい。つづいて、脱塩などのために処理液に精製水を添加しながら限外ろ過を行う。限外ろ過には、分画分子量5,000〜50,000の限外ろ過膜、好ましくは分画分子量10,000〜30,000の限外ろ過膜を用いればよい。好ましい一態様においては、分画分子量30,000の限外ろ過膜を用いる。通常、その後、殺菌処理および再度ろ過処理を行う。
【0020】
本発明の方法により得られる白金コロイドは、白金微粒子の単一粒子径が約2〜10nmの範囲であり、約−20mV〜−50mVのゼータ電位を有する。
【0021】
実施例において、本発明の方法により得られた白金コロイドは、白金微粒子の単一粒子径や粒度分布、ゼータ電位、および酸化還元電位は従来の方法で得られる白金コロイドと大きく相違しないにもかかわらず、DCIPまたはDPPHを用いた抗酸化試験において顕著に優れた還元能を示した。すなわち、本発明の方法によれば、優れた抗酸化能を有する白金コロイドを製造することができる。
【0022】
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0023】
1.白金コロイドの製造
実施例1 (ロット番号:5016)
A.原料の配合
【表1】
【0024】
B.還元反応
水をガラス容器に入れ、撹拌しながら加温した。50℃になった時点で還元剤と保護剤を添加し、更に撹拌しながら加温して70℃になった時点でpH補償剤と白金イオン溶液を同時に添加した。70℃で撹拌しながら還元反応を行った。白金イオンが還元されて白金微粒子が形成された時点(溶液の色が褐色から黒色に変化した時点)で加温および撹拌を停止し、還元反応を終了した。
【0025】
還元反応については、3段階の過程があり、次の反応式で説明することができる。
第1段階:還元による白金微粒子の生成
PtCl2−+2CHCHOH → Pt+2CHCHO+6Cl+4H
第2段階:白金微粒子に水素が付加
mPt+CHCHOH → Pt+CHCHO
第3段階:白金微粒子から水素の解離
Pt → Ptx−1 + H(nは100以下)
Ptx−1 : 負の電荷を有する白金微粒子
上記の反応式のように、第1段階は白金イオン溶液を還元剤の水素基で還元させ、白金微粒子を生成させる。第2段階は生成した粒子表面に、還元剤の水素(H)が付加して、白金微粒子+水素のコロイドとなる。さらに、第3段階は水素(H)が解離され、白金微粒子+水素のコロイドは負(−)に荷電する。また、解離されたプロトン(H)は水(HO)へ離脱して、H+HO=Hの状態となる(図1)。ここで、保護剤は、白金イオン溶液からの白金微粒子の生成を制御し、さらに生成した白金微粒子を保護する役割を果たす。また、pH補償剤は、pHを中性付近に保ち、還元反応の安定化を図るために添加する。
【0026】
C.洗浄精製および充填
還元反応終了後12時間静置し、白金コロイドを濾紙(定量濾紙No.5C、保留粒子径1μm、アドバンテック株式会社)でろ過した。ろ過後の白金コロイドを限外ろ過膜(分画分子量:10,000、日本ミリポア株式会社)を用いて、精製水を加えながら脱塩し、透過液の導電率が低下するまで濃縮および洗浄精製を行った。限外ろ過後、白金濃度500ppmを目安に精製水を用いて濃度を調整した。濃度調整後のpHは3.93であった。その後、殺菌処理および濾紙によるろ過を行い、容器に充填した。
【0027】
D.白金コロイドの分析結果
白金コロイド中の白金濃度は、ICP発光分析法による測定の結果、510ppmであった。
電気泳動法(ガラスセル)によるゼータ電位計測結果は、(−)44.22mVであった。
EM−002BF電界放出型分析透過電子顕微鏡(FE−TEM:トプコンテクノハウス)で観察した画像を図2に示す。この画像から粒子径分析ソフト(ImageJ)で解析した白金コロイドの単一平均粒子径は、3.53nmであった。
また、コロイド中の白金微粒子に電場を掛け、泳動させて計測した動的光散乱法(マルバーン社製ゼータサイザーナノZS)による粒度分布測定の結果を図3に示す。この結果では、粒径が10.49nm前後の粒子の割合が90.3%、174.7nm前後の粒子の割合が6%、Z平均粒子径が10.11nmであった。したがって、溶液中では、電子顕微鏡観察で示した3.53nmの単一の粒子によって、10nm程度の集団が形成され、さらにこの集団がいくつか纏まった170nm程度の大きな集団が移動しているものと考えられる。
【0028】
参考例1 (ロット番号:0793)
(特開2001−079382号公報(特許文献3)に記載の方法)
A.原料の配合
【表2】
【0029】
B.還元反応
水をガラス容器にいれ、撹拌しながら加温した。60℃になった時点で還元剤と保護剤を添加し、更に撹拌しながら加温して70℃になった時点で白金イオン溶液とpH補償剤とを同時に添加した。70℃で撹拌しながら還元反応を行った。白金イオンが還元されて白金微粒子が形成された時点(溶液の色が褐色から黒色に変化した時点)で加温および撹拌を停止し、還元反応を終了した。
【0030】
C.濃縮および洗浄精製
還元反応終了後の白金コロイドを濾紙(定量濾紙No.5C、保留粒子径1μm、アドバンテック株式会社)でろ過した。ろ過後の白金コロイドを12時間静置し、限外ろ過膜(分画分子量:10,000、日本ミリポア株式会社)を用いて、精製水8,000mlを加えながら濃縮および洗浄精製を行った。限外ろ過後、白金濃度500ppmを目安に精製水を用いて濃度を調整した。濃度調整後のpHは3.82であった。その後、殺菌処理および濾紙によるろ過を行い、容器に充填した。
【0031】
D.白金コロイドの分析結果
白金コロイド中の白金濃度は、ICP発光分析法による測定の結果、520ppmであった。
電気泳動法(ガラスセル)によるゼータ電位計測結果は、(−)21.97mVであった。EM−002BF電界放出型分析透過電子顕微鏡(FE−TEM:トプコンテクノハウス)で観察した画像を図4に示す。白金コロイドの単一平均粒子径は、画像解析によると3.55nmであった。
また、動的光散乱法(マルバーン社製ゼータサイザーナノZS)による粒度分布測定の結果、粒径が16.01nm前後の粒子の割合が91.2%、2128nm前後の粒子の割合が8.8%、Z平均粒子径が14.51nmであった(図5)。
【0032】
参考例2 (ロット番号:0795)
A.原料の配合
【表3】
【0033】
B.還元反応
水をガラス容器にいれ、撹拌しながら加温した。50℃になった時点で還元剤と保護剤を添加し、更に撹拌しながら加温して70℃になった時点でpH補償剤と白金イオン溶液を同時に添加した。70℃で撹拌しながら還元反応を行った。白金イオンが還元されて白金微粒子が形成された時点(溶液の色が褐色から黒色に変化した時点)で加温および撹拌を停止し、還元反応を終了した。
C.洗浄精製および充填
還元反応終了後12時間静置し、白金コロイドを濾紙(定量濾紙No.5C、保留粒子径1μm、アドバンテック株式会社)でろ過した。ろ過後の白金コロイドを限外ろ過膜(分画分子量:10,000、日本ミリポア株式会社)を用いて、透過液の導電率が低下するまで濃縮および洗浄精製を行った。限外ろ過後、白金濃度500ppmを目安に精製水を用いて濃度を調整した。濃度調整後のpHは3.97であった。その後、殺菌処理および濾紙によるろ過を行い、容器に充填した。
【0034】
D.白金コロイドの分析結果
白金コロイド中の白金濃度は、ICP発光分析法による測定の結果、510ppmであった。
電気泳動法(ガラスセル)によるゼータ電位計測結果は、(−)22.67mVであった。
【0035】
実施例2 (ロット番号:5021)
A.原料の配合
【表4】
【0036】
B.還元反応
実施例1と同じ。
【0037】
C.洗浄精製および充填
実施例1と同じ。濃度調整後のpHは3.85であった。
【0038】
D.白金コロイドの分析結果
白金コロイド中の白金濃度は、ICP発光分析法による測定の結果、510ppmであった。
電気泳動法(ガラスセル)によるゼータ電位計測結果は、(−)34.86mVであった。
【0039】
実施例3 (ロット番号:5022)
A.原料
【表5】
【0040】
B.還元反応
実施例1と同じ。
【0041】
C.洗浄精製および充填
実施例1と同じ。濃度調整後のpHは3.95であった。
【0042】
D.白金コロイドの分析結果
白金コロイド中の白金濃度は、ICP発光分析法による測定の結果、510ppmであった。
電気泳動法(ガラスセル)によるゼータ電位計測結果は、(−)31.15mVであった。
【0043】
実施例4 (ロット番号:5023)
A.原料の配合
【表6】
【0044】
B.還元反応
実施例1と同じ。
C.洗浄精製および充填
【0045】
実施例1と同じ。濃度調整後のpHは3.85であった。
【0046】
D.白金コロイドの分析結果
白金コロイド中の白金濃度は、ICP発光分析法による測定の結果、510ppmであった。
電気泳動法(ガラスセル)によるゼータ電位計測結果は、(−)28.28mVであった。
【0047】
実施例5 (ロット番号:5024)
A.原料の配合
【表7】
【0048】
B.還元反応
実施例1と同じ。
【0049】
C.洗浄精製および充填
実施例1と同じ。濃度調整後のpHは3.85であった。
D.白金コロイドの分析結果
白金コロイド中の白金濃度は、ICP発光分析法による測定の結果、500ppmであった。
電気泳動法(ガラスセル)によるゼータ電位計測結果は、(−)31.58mVであった。
【0050】
実施例6 (ロット番号:5025)
A.原料の配合
実施例1と同じ。
【0051】
B.還元反応
実施例1と同じ。
【0052】
C.洗浄精製および充填
分画分子量30,000の限外ろ過膜(日本ミリポア株式会社)を用いた点を除き、実施例1と同じ。濃度調整後のpHは3.96であった。
D.白金コロイドの分析結果
白金コロイド中の白金濃度は、ICP発光分析法による測定の結果、500ppmであった。
電気泳動法(ガラスセル)によるゼータ電位計測結果は、(−)57.86mVであった。

【0053】
2.性能の評価
白金コロイドの還元能を比較するために、文献(Biol. Pharm, Bull, 27(5), p.736-738 (2004))の方法にしたがって、試験を行った。
【0054】
1)DCIPを使用した抗酸化試験
2,6−ジクロロインドフェノールナトリウムn水和物(2,6-Dichloroindophenol Sodium Salt:関東化学社製)0.05gを、エタノール(Etanol:99.5%濃度:和光純薬工業社製)70mLに溶解し、その溶液1mLにさらにエタノール24mLを加えてDCIP溶液を調製した。
また、pH緩衝液として、リン酸水素2ナトリウム(Disodium Hydrogenphosphate:和光純薬工業社製)2.13gを精製水180mLに溶解したものを調製した。
【0055】
DCIP溶液を用いる試験は還元能の測定方法のひとつである。DCIPは、還元状態ではDCIPHとなるが、Oで再酸化され易く、DCIPの状態で安定する。DCIP溶液の色はpHにより変化するが、色調の変化を確認し易くするため、pH緩衝液を加えてアルカリ性を示す青色に調製した。但し、還元状態のDCIPHはpHに関係無く、透明となる。
試験では、DCIP溶液5mLとpH緩衝液15mLを混合して、DCIP試験溶液20mLを調製した。このDCIP試験溶液に白金コロイド各1mLを添加して、透明に脱色するまでの時間を計測した。還元に要する時間が短い程、コロイド溶液としての還元能(抗酸化能)が高いと考えられる。
【0056】
結果を表8に示す。
【表8】

表8に示すように、実施例1〜6の還元速度は参考例1および2より顕著に早かった。実施例1および実施例6の還元速度が最も早く、参考例1および参考例2は、実施例1と比較して還元までに60倍以上の時間を要した。実施例2〜5の還元速度は、参考例1の還元速度の1/4〜1/6であった。
【0057】
2)DPPHを使用した抗酸化試験
2,2−ジフェニル−1−ピクリルヒドラジル(2,2-Diphenyl-1-picrylhydrazyl:SIGMA ALDRICH社製)0.005gを、エタノール(Etanol:99.5%濃度:和光純薬工業社製)600mLに溶解してDPPHラジカル溶液を調製した。このDPPHラジカル溶液20mLに各白金コロイド1mLを加えて、脱色までの時間を計測した。DPPHラジカルは赤紫色を示し、ラジカルが消去されたDPPHの状態では、薄黄色を示す。還元時間が短い程、コロイド溶液としての還元能(抗酸化能)が高いと考えられる。
【0058】
結果を表9に示す。
【表9】

表9に示すように、実施例1〜6の還元速度は参考例1および2より顕著に早かった。実施例1および実施例6の還元速度が最も早く、参考例1および参考例2は、実施例1と比較して還元までに80倍〜120倍以上の時間を要した。実施例2〜5の還元速度は、参考例1の還元速度の1/6〜1/7であった。
【0059】
3)活性酸素の一種である過酸化水素の分解試験
過酸化水素水(Hydrogen peroxide:30%濃度:国産化学社製)5mLに白金コロイド各50μLを添加してから、分解反応終了までの時間を計測した。分解反応は添加後すぐに始まり、はじめ激しく泡立ち、やがて泡立ちが無くなった時点で終了と判断した。反応時間が短い程、白金微粒子の触媒能が高いと考えられる。
【0060】
結果を表10に示す。
【表10】

表10に示すように、実施例1〜6および参考例1および2において、過酸化水素の分解反応には大きな差は見られなかった。過酸化水素を分解するための触媒能は金属の種類や表面積に依存するため、還元後の白金微粒子の表面積には大きな差が無いと考えられる。したがって、表8および表9に示される還元能の相違は、白金微粒子自体ではなく、還元反応により得られた白金微粒子を含めたコロイド溶液の相違に起因するものと考えられる。
【0061】
4)酸化還元電位の測定
酸化還元電位計(HORIBA社製ORP計 D−72)を使用して、酸化還元電位を測定した。電極には比較電極(3.33mol/L KCl−AgCl)を用いた。
【0062】
結果を表11に示す。
【表11】

表11に示すように、実施例1〜6および参考例1および2において、酸化還元電位には大きな差は見られなかった。
【0063】
表12および13に実施例1〜6および参考例1および2の比較結果を示す。ゼータ電位の結果で示されるように、還元反応により、白金微粒子に吸着した水素(Pt−H)がプロトン(H+)として一部解離して白金微粒子に電子が残るため、白金微粒子はマイナスに荷電している。コロイド溶液としての抗酸化能は、白金微粒子の周囲からコロイド中を電子が移動することで発現するため、水素の吸着や溶液の状態が製造時の原料の配合により変化したことで、得られた白金コロイドの還元能が向上したと考えられる。
【表12】
【表13】
【0064】
本発明は、例えば、以下を提供する。
(1)白金イオン溶液、水、非イオン系界面活性剤、pH補償剤および還元剤を用いて、白金イオンを還元することにより白金コロイドを製造する方法であって、
白金イオン溶液が20w/v%の白金を含み、非イオン系界面活性剤がポリソルベート80であり、pH補償剤がアルカリ金属塩であり、還元剤が低分子アルコールであり、
白金イオン溶液1容量に対して、水を600〜660容量、非イオン系界面活性剤を0.20〜0.30容量、pH補償剤を5w/v%の水溶液で10〜30容量、還元剤を27〜37容量用いることを特徴とする、方法。
(2)pH補償剤が炭酸水素ナトリウムであり、還元剤がエタノールである、前記1に記載の方法。
(3)白金イオン溶液が塩化白金酸の水溶液である、前記1または2に記載の方法。
(4)白金イオン溶液が塩化白金酸の水溶液であり、pH補償剤が炭酸水素ナトリウムであり、還元剤がエタノールである、前記1に記載の方法。
(5)白金イオン溶液1容量に対して、水を620〜650容量用いる、前記1〜4のいずれかに記載の方法。
(6)白金イオン溶液1容量に対して、水を620〜630容量用いる、前記1〜5のいずれかに記載の方法。
(7)白金イオン溶液1容量に対して、非イオン系界面活性剤を0.24〜0.30容量用いる、前記1〜6のいずれかに記載の方法。
(8)白金イオン溶液1容量に対して、非イオン系界面活性剤を0.26〜0.28容量用いる、前記1〜7のいずれかに記載の方法。
(9)白金イオン溶液1容量に対して、pH補償剤を5w/v%の水溶液で16〜24容量用いる、前記1〜8のいずれかに記載の方法。
(10)白金イオン溶液1容量に対して、pH補償剤を5w/v%の水溶液で18〜22容量用いる、前記1〜9のいずれかに記載の方法。
(11)白金イオン溶液1容量に対して、pH補償剤を5w/v%の水溶液で19〜21容量用いる、前記1〜10のいずれかに記載の方法。
(12)白金イオン溶液1容量に対して、還元剤を30〜37容量用いる、前記1〜11のいずれかに記載の方法。
(13)白金イオン溶液1容量に対して、還元剤を30〜35容量用いる、前記1〜12のいずれかに記載の方法。
(14)白金イオン溶液1容量に対して、還元剤を32〜35容量用いる、前記1〜13のいずれかに記載の方法。
(15)白金イオン溶液1容量に対して、水を600〜660容量、非イオン系界面活性剤を0.20〜0.30容量、pH補償剤を5w/v%の水溶液で16〜24容量、還元剤を27〜37容量用いる、前記1〜4のいずれかに記載の方法。
(16)白金イオン溶液1容量に対して、水を600〜660容量、非イオン系界面活性剤を0.24〜0.30容量、pH補償剤を5w/v%の水溶液で18〜22容量、還元剤を27〜37容量用いる、前記1〜4のいずれかに記載の方法。
(17)白金イオン溶液1容量に対して、水を620〜650容量、非イオン系界面活性剤を0.24〜0.30容量、pH補償剤を5w/v%の水溶液で18〜22容量、還元剤を30〜37容量用いる、前記1〜4のいずれかに記載の方法。
(18)白金イオン溶液1容量に対して、水を620〜650容量、非イオン系界面活性剤を0.24〜0.30容量、pH補償剤を5w/v%の水溶液で18〜22容量、還元剤を30〜35容量用いる、前記1〜4のいずれかに記載の方法。
(19)白金イオン溶液1容量に対して、水を620〜630容量、非イオン系界面活性剤を0.26〜0.28容量、pH補償剤を5w/v%の水溶液で19〜21容量、還元剤を32〜35容量用いる、前記1〜4のいずれかに記載の方法。
(20)水、非イオン系界面活性剤、および還元剤を含む処理液に白金イオン溶液およびpH補償剤を同時に添加する、前記1〜19のいずれかに記載の方法。
(21)水、非イオン系界面活性剤、および還元剤を含む処理液を加温し、65〜75℃に達した後に前記処理液に白金イオン溶液およびpH補償剤を添加する、前記1〜20のいずれかに記載の方法。
(22)前記1〜21のいずれかに記載の方法により製造された白金コロイド。
図1
図2
図3
図4
図5