【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の請求項1に係る堤体は、「基礎部の上にプレキャスト堅壁を堤体連続方向に並べて壁面を形成した堤体であって、該基礎部は、二列に配列された鋼管杭と該鋼管杭に支持され堤体連続方向に所定の間隔をあけて並設される鋼・コンクリート複合フーチングと該鋼・コンクリート複合フーチング間に配置される鋼・コンクリート複合接続部とからなり、前記鋼・コンクリート複合フーチング上に立設される前記プレキャスト堅壁は、該鋼・コンクリート複合フーチングにおける壁面直角方向の中央部に設けられていることを特徴とする堤体」である。
【0011】
本発明の堤体は、大別して基礎部と堤体の壁面を形成するプレキャスト堅壁とからなり、これらは工場で製作されるユニットを主体としたものである。そして、該ユニットは各々施工現場に運ばれた後組み立てられ、前記基礎部の上に前記プレキャスト堅壁を堤体連続方向に並べることにより堤体が構築される。
【0012】
各ユニットは工場で製作されるので安定した高品質のものとなる。また、施工現場での作業は、作業マニュアルに沿ってこれらユニットを組み立てたり一部に場所打ちコンクリートを打設するだけなので、熟練工の技能や勘に頼ることなく堤体を構築できる。
【0013】
前記基礎部は、鋼管杭と鋼・コンクリート複合フーチングと鋼・コンクリート複合接続部とからなる。鋼管杭は従来から杭施工に用いられているものであり、堤体連続方向(堤体の壁面方向)に所定の間隔で二列に配列される。
【0014】
前記鋼・コンクリート複合フーチングは、二列に配列された鋼管杭の各列1本づつの2本で支持される形で、これら鋼管杭の堤体連続方向の間隔に合せて所定の間隔で、鋼管杭の上の堤体連続方向に並設される。
【0015】
この鋼・コンクリート複合フーチングは、工場で製作される鋼製箱枠からなるユニット(フーチングユニット)を主体としてなるものであり、該フーチングユニットをコンクリートで被覆してなる鋼・コンクリート複合構造のハイブリッド型のものである。このようなハイブリッド型のものにすることにより、強固な基礎部が簡便な施工で得られると共に場所打ちコンクリートによる施工を少なくして施工現場でコンクリート使用量をできるだけ抑制できる。
【0016】
前記鋼製箱枠は、鋼板やH形鋼等の鋼材を用いて箱状に枠組みしたものであり、施工現場に設置した際の並設方向(堤体連続方向)に対する直角方向の長さが長い縦長のものである。該箱枠の横幅(並設方向の長さ)は前記鋼管杭の杭頭径より大きい。
【0017】
この鋼製箱枠の寸法は、一般的には、高さ1〜2m、幅1.5〜2.5m、長さ5〜10m程度であるが、荷重条件により適宜決定されるものである。
【0018】
また、この鋼製箱枠は、長さの長い縦方向に複数の区画に区分けされており、前記鋼管杭と連結するための区画と前記プレキャスト堅壁と連結するための区画が設けられている。このように区分けすることによって、強固なフーチングユニットにすることができるとともに、役割のない区画を中空にすることによりコンクリートの使用量を減らしてフーチングユニットの軽量化が図れる。
【0019】
鋼・コンクリート複合接続部も、上記鋼・コンクリート複合フーチングと同様、工場で製作される鋼製箱枠からなるユニット(接合ユニット)を主体としてなるものであり、該接合ユニットをコンクリートで被覆してなる鋼・コンクリート複合構造のハイブリッド型のものである。
【0020】
この鋼・コンクリート複合接続部は、前記プレキャスト堅壁に作用する荷重を受け持ち、鋼・コンクリート複合フーチングにその荷重を伝達するといった役割を果たすため、堤体連続方向に所定の間隔で敷設される隣設した鋼・コンクリート複合フーチング間に設けられる。該鋼・コンクリート複合接続部と前記鋼・コンクリート複合フーチングとの接続は、例えば、高力ボルトを用いた添接継手や引張継手、もしくは孔明き鋼板と鉄筋を用いたコンクリートの付着による接合などにより行われる。
【0021】
上記接合ユニットの鋼製箱枠も鋼板やH形鋼等の鋼材を用いて箱状に枠組みしたものである。該箱枠の寸法は、前記フーチングユニットの寸法、隣り合う前記フーチングユニット間の距離に基づいて決められ、鋼・コンクリート複合接続部の高さは前記鋼・コンクリート複合フーチングの高さと同じである。
【0022】
前記鋼・コンクリート複合フーチングと前記鋼・コンクリート複合接続部の上に立設され堤体の壁面を形成するプレキャスト堅壁は、鉄筋コンクリート製のプレキャスト部材からなる。
【0023】
コンクリートの種類は特に限定されない。通常、普通コンクリートであるが、高強度コンクリート、重量骨材を用いた重量コンクリート、海水の塩分による腐食や劣化を考慮したポリマーコンクリート、耐酸コンクリート、耐硫酸塩コンクリートなどを用いることもできる。
【0024】
このプレキャスト堅壁は、壁面部とその下方の基礎連結部とからなる。壁面部の面は、通常、前記鋼・コンクリート複合フーチングや鋼・コンクリート複合接続部に対し垂直な直面であるが、必ずしもこれには限定されず、曲面を有するものであってもよい。
【0025】
また、壁面を補強するために壁面部の表面に鋼板を貼ったりクッション材等のエネルギー吸収材を貼ったりしてもよい。耐久性を向上させるために遮塩性の被覆材でコーティングすることもできる。景観、美観の観点から、壁面に文字や模様や色を施したり緑化したりすることもできる。
【0026】
プレキャスト堅壁における前記基礎連結部には、予め機械式継手方式における雌継手部材(例えば、継手パイプ)が仕込まれており、モルタル充填方式などの機械式継手方式により前記鋼・コンクリート複合フーチングや鋼・コンクリート複合接続部と連結される。
【0027】
前述の通り、上記プレキャスト堅壁は上記鋼・コンクリート複合フーチングと上記鋼・コンクリート複合接続部の上に立設されるが、鋼・コンクリート複合フーチング上に立設されるプレキャスト堅壁は、鋼・コンクリート複合フーチングとプレキャスト堅壁とで縦断面が逆T型になるように、鋼・コンクリート複合フーチングにおける壁面直角方向の中央部に設けられる。
【0028】
前述の通り、プレキャスト堅壁は直壁に限らず曲壁や直壁と曲壁の組み合わせであったりする場合もあるので、ここでいう「逆T型」とは、プレキャスト堅壁が鋼・コンクリート複合フーチングにおける壁面直角方向の中央部で立設されているもののすべてをいう。
【0029】
このように、鋼・コンクリート複合フーチングとプレキャスト堅壁との連結構造を逆T型にすることにより、例えば、津波における押波と引波のどちらにも対応できるといった効果が得られる。
【0030】
プレキャスト堅壁の寸法は特に限定されないが、トラックでの陸上輸送を考えると、長さ(高さ)15m以下、重さ25t以下となるようにするのが好ましい。
【0031】
本願の請求項2に係る堤体は、「前記鋼・コンクリート複合フーチングは、H形鋼を用いて形成した箱枠からなるフーチングユニットを用いたものであり、該フーチングユニットの周囲をコンクリートで被覆したものであることを特徴とする請求項1に記載の堤体」である。
【0032】
前述の通り、本発明では、鋼・コンクリート複合フーチングは、工場で製作される鋼製箱枠からなるユニット(フーチングユニット)を主体としてなるものであり、該フーチングユニットをコンクリートで被覆してなる鋼・コンクリート複合構造のハイブリッド型のものである。
【0033】
上記鋼製箱枠は鋼板やH形鋼等の鋼材を用いて作られるが、H形鋼を用いて作るのが好ましい。H形鋼を用いることによって、鋼材の鋼重が削減、鋼材加工が容易、現場で部材連結が容易、プレキャスト堅壁への接続鉄筋の定着が容易といったメリットが生まれる。
【0034】
本願の請求項3に係る堤体は、「前記鋼・コンクリート複合接続部は、H形鋼を用いて形成した箱枠からなる接合ユニットを用いたものであり、該接合ユニットの周囲をコンクリートで被覆したものであることを特徴とする請求項1または2に記載の堤体」である。
【0035】
前述の通り、本発明では、鋼・コンクリート複合接続部も、上記鋼・コンクリート複合フーチングと同様、工場で製作される鋼製箱枠からなるユニット(接合ユニット)を主体としてなるものであり、該接合ユニットをコンクリートで被覆してなる鋼・コンクリート複合構造のハイブリッド型のものである。
【0036】
したがって、上記フーチングユニットと同様、H形鋼を用いることによって、鋼材の鋼重が削減、鋼材加工が容易、現場で部材連結が容易、プレキャスト堅壁への接続鉄筋の定着が容易といったメリットが生まれるので、H形鋼を用いて箱枠を形成するのは好ましい。
【0037】
本願の請求項4に係る堤体は、「前記フーチングユニットは長さ方向に5つに区画されており、この区画は、前記プレキャスト堅壁が立設される該フーチングユニット中央部の区画と、該区画に対して対称的に両外側に設けられ二列に配列された各列の前記鋼管杭の上端部を差し込むための挿入孔が設けられた2つの区画と、これら区画と前記中央部の区画との間に設けられる中空の2つの区画とからなることを特徴とする請求項
2に記載の堤体」である。
【0038】
本発明では、高さ方向において、鋼・コンクリート複合フーチングは鋼管杭とプレキャスト堅壁との間に設置され、これら鋼管杭とプレキャスト堅壁は各々フーチングユニットと連結される。
【0039】
フーチングユニットが一つの箱枠からなるものであると、鋼管杭やプレキャスト堅壁との連結作業がし難くなる。箱枠を複数の区画に区切っておけば、フーチングユニットと鋼管杭との連結作業、フーチングユニットとプレキャスト堅壁との連結作業が別々に行えるので堤体の構築施工がし易くなる。また、コンクリートの使用量を減らしたり、軽量化して陸上輸送し易くすることもできる。
【0040】
フーチングユニットの区画構造は特に限定されないが、前記プレキャスト堅壁が立設される該フーチングユニット中央部の区画と、該区画に対して対称的に両外側に設けられ二列に配列された各列の前記鋼管杭の上端部を差し込むための挿入孔が設けられた2つの区画と、これら区画と前記中央部の区画との間に設けられる中空の2つの区画の5つの区画に区分けされているのが好ましい。
【0041】
プレキャスト堅壁をフーチングユニット中央部の区画で連結することにより、鋼・コンクリート複合フーチングとプレキャスト堅壁との逆T型構造が容易に得られる。
【0042】
二列に配列された鋼管杭における各列の鋼管杭とフーチングユニットとの連結は、フーチングユニットの両外側の区画を用いて行い、該区画内に各々鋼管杭の上端部(杭頭部)を挿入しコンクリートで固めることにより行うのが好ましい。そのため、前記両外側の区画には鋼管杭の上端部が挿入できる程度の挿入孔が設けられているのが好ましい。
【0043】
これら両外側の区画と前記中央部の区画との間は、上記のような他部材との連結といった役割もないので、中空にしておくのが好ましい。中空部があっても、H形鋼等の剛性の高い鋼材で箱枠を形成し被覆が必要な部分をコンクリートで被覆しておけば強度や耐久性で問題になることはない。中空部(中空の区画)を設けることで、コンクリートの使用量を低減できるとともにフーチングユニットの軽量化が図れ、陸上輸送し易くなる。
【0044】
なお、上記「中空」は、モルタルやコンクリート等のセメント硬化体が存在しないということであり、空間だけでなく、土砂、軽量充填材、エネルギー吸収材などが充填されている場合も含む。
【0045】
本願の請求項5に係る堤体は、「前記プレキャスト堅壁は鉄筋コンクリートからなり、壁面部と該壁面部の下方にあって該壁面部より厚みの厚い基礎連結部とで構成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の堤体」である。
【0046】
前述の通り、プレキャスト堅壁は、鉄筋コンクリートを主体としたものであり、堤体の壁面を形成する壁面部とその下方にあって鋼・コンクリート複合フーチングや鋼・コンクリート複合接続部との連結に寄与する基礎連結部とが一体的に形成されたものからなる。
【0047】
これら壁面部と基礎連結部は、厳密に区分けされるものではないが、基礎連結部の厚みを壁面部の厚みより厚くし、墓石のように、基礎台の上に壁面部が立設している形態にするのが好ましい。基礎連結部の最大厚みは壁面部の最大厚みに対して1.5〜3.0倍が好ましい。
【0048】
このような形態にすることによって、プレキャスト堅壁が安定して立設できるとともに、基礎部との連結も強固にできる。
【0049】
本願の請求項6に係る堤体は、「堤体連続方向における前記プレキャスト堅壁の壁幅は、前記鋼・コンクリート複合フーチングの幅よりも大きく、前記プレキャスト堅壁が前記鋼・コンクリート複合フーチングから隣設される前記鋼・コンクリート複合接続部に跨って設置されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の堤体」である。
【0050】
前述の通り、プレキャスト堅壁は鋼・コンクリート複合フーチングと鋼・コンクリート複合接続部の上に交互に立設され堤体の壁面を形成するが、プレキャスト堅壁の堤体連続方向への壁幅は、通常、堤体連続方向に各々鋼・コンクリート複合フーチングと鋼・コンクリート複合接続部の幅に合せて作られ、一つの鋼・コンクリート複合フーチング上に一つのプレキャスト堅壁が、一つの鋼・コンクリート複合接続部上に一つのプレキャスト堅壁が各々立設するようにして堤体の壁面が構築される。
【0051】
しかし、このような堤体構造に限定されるものではなく、例えば、堤体連続方向における前記プレキャスト堅壁の壁幅を鋼・コンクリート複合フーチングの幅よりも大きくし、プレキャスト堅壁が鋼・コンクリート複合フーチングから隣設される鋼・コンクリート複合接続部に跨って立設した堤体構造にすることもできる。プレキャスト堅壁の壁幅は、例えば、鋼・コンクリート複合フーチングの幅に鋼・コンクリート複合接続部の幅の半分を足した長さである。
【0052】
上記のように、プレキャスト堅壁が鋼・コンクリート複合フーチングから隣設される鋼・コンクリート複合接続部に跨って立設している堤体構造にすることによって、二列に配列された鋼管杭における対応する一対の鋼管杭に渡る長手方向の鋼製箱枠材に直接的に荷重が流れるようにし、荷重負担の分散化が図れるといった効果を得ることができる。