(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
対向し、かつ互いの距離が変更可能な円錐面を有する2個のプーリと、前記2個のプーリに巻き渡され、前記円錐面に挟持されるチェーンと、を有する無段変速機を設計する方法であって、
チェーンは、開口を有する板形状のリンクがチェーンの周方向に沿って配置され、かつチェーンの幅方向に複数枚が配列されて構成されたリンクユニットと、リンクの両端において開口をそれぞれ貫通する2本のピンであって、両端が前記円錐面に当接する2本のピンとを有するチェーンエレメントを、チェーン周方向に隣接するチェーンエレメントのうち一方のエレメントのピンを他方のエレメントのリンクの開口に通して連結して形成され、
隣り合うチェーンエレメントが直線状態にあるとき、各々のチェーンエレメントのピン同士が接触するピン−ピン接触点を基準点とし、ピンがプーリに接触するピン−プーリ接触点の、前記基準点からのチェーンの厚さ方向における有向距離をオフセットとし、チェーンエレメントが直線状態とプーリに巻付いた屈曲状態との間で曲げ伸ばしする際、ピン−プーリ接触点がプーリに対し移動する距離を接触点すべり距離としたとき、
チェーンの直線状態と最大屈曲状態の間の接触点すべり距離を最小とする2本のピンのそれぞれのオフセットのうち大きい方と、チェーンの直線状態と最小屈曲状態の間の接触点すべり距離を最小とする2本のピンのそれぞれのオフセットのうち小さい方との間の値に、2本のピンのオフセットをそれぞれ設定するステップ
を有する方法。
対向し、かつ互いの距離が変更可能な円錐面を有する2個のプーリと、前記2個のプーリに巻き渡され、前記円錐面に挟持されるチェーンと、を有する無段変速機を設計する方法であって、
チェーンは、開口を有する板形状のリンクがチェーンの周方向に沿って配置され、かつチェーンの幅方向に複数枚が配列されて構成されたリンクユニットと、リンクの両端において開口をそれぞれ貫通する2本のピンであって、両端が前記円錐面に当接する2本のピンとを有するチェーンエレメントを、チェーン周方向に隣接するチェーンエレメントのうち一方のエレメントのピンを他方のエレメントのリンクの開口に通して連結して形成され、
隣り合うチェーンエレメントが直線状態にあるとき、各々のチェーンエレメントのピン同士が接触するピン−ピン接触点を基準点とし、ピンがプーリに接触するピン−プーリ接触点の、前記基準点からのチェーンの厚さ方向における有向距離をオフセットとし、チェーンエレメントが直線状態とプーリに巻付いた屈曲状態との間で曲げ伸ばしする際、ピン−プーリ接触点がプーリに対し移動する距離を接触点すべり距離としたとき、
2本のピンのうち第1のピンのオフセットを、チェーンの直線状態と最大屈曲状態の間の第1のピンの接触点すべり距離を最小とするオフセットとチェーンの直線状態と最小屈曲状態の間の第1のピンの接触点すべり距離を最小とするオフセットの間の値とするステップと、
2本のピンのうち第2のピンのオフセットを、チェーンの直線状態と最大屈曲状態の間の第2のピンの接触点すべり距離を最小とするオフセットとチェーンの直線状態と最小屈曲状態の間の第2のピンの接触点すべり距離を最小とするオフセットの間の値とするステップと、
を有する方法。
対向し、かつ互いの距離が変更可能な円錐面を有する2個のプーリと、前記2個のプーリに巻き渡され、前記円錐面に挟持されるチェーンと、を有する無段変速機を設計する方法であって、
チェーンは、開口を有する板形状のリンクがチェーンの周方向に沿って配置され、かつチェーンの幅方向に複数枚が配列されて構成されたリンクユニットと、リンクの両端において開口をそれぞれ貫通する2本のピンであって、一方のピンのみ両端が前記円錐面に当接する2本のピンとを有するチェーンエレメントを、チェーン周方向に隣接するチェーンエレメントのうち一方のエレメントのピンを他方のエレメントのリンクの開口に通して連結して形成され、
隣り合うチェーンエレメントが直線状態にあるとき、各々のチェーンエレメントのピン同士が接触するピン−ピン接触点を基準点とし、ピンがプーリに接触するピン−プーリ接触点の、前記基準点からのチェーンの厚さ方向における有向距離をオフセットとし、チェーンエレメントが直線状態とプーリに巻付いた屈曲状態との間で曲げ伸ばしする際、ピン−プーリ接触点がプーリに対し移動する距離を接触点すべり距離としたとき、
ピンのオフセットを、チェーンの直線状態と最大屈曲状態の間の接触点すべり距離を最小とするオフセットとチェーンの直線状態と最小屈曲状態の間の接触点すべり距離を最小とするオフセットの間の値とするステップ、
を有する方法。
対向し、かつ互いの距離が変更可能な円錐面を有する2個のプーリと、前記2個のプーリに巻き渡され、前記円錐面に挟持されるチェーンと、を有する無段変速機を設計する方法であって、
当該チェーンは、開口を有する板形状のリンクがチェーンの周方向に沿って配置され、かつチェーンの幅方向に複数枚が配列されて構成されたリンクユニットと、前記リンクの両端において開口をそれぞれ貫通する2本のピンであって、少なくとも一方のピンの両端が前記円錐面に当接するピンとを有するチェーンエレメントを、チェーン周方向に隣接するチェーンエレメントのうち一方のエレメントのピンを他方のエレメントのリンクの開口に通して連結して形成され、
隣り合うチェーンエレメントが直線状態にあるとき、各々のチェーンエレメントのピン同士が接触するピン−ピン接触点を基準点とし、ピンがプーリに接触するピン−プーリ接触点の、前記基準点からのチェーン厚さ方向における有向距離をオフセットとし、ピンのプーリに対向する端面のチェーン厚さ方向に直交する各断面におけるプーリに向けて最も突出した点を結んだ線を幅方向に直交する断面に投影した投影稜線としたとき、
各ピンのオフセットの絶対値をそれぞれ、そのピンの端面稜線の長さの0.085倍以下とする、方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
図1には、チェーン式無段変速機10の要部が示されている。チェーン式無段変速機10は2個のプーリ12,14とこれらのプーリに巻き渡されたチェーン16を有する。2個のプーリの一方を入力プーリ12、他方を出力プーリ14と記す。入力プーリ12は、入力軸18に固定された固定シーブ20と、入力軸18上を入力軸に沿ってスライドして移動可能な移動シーブ22を有する。固定シーブ20と移動シーブ22の互いに対向する面は、円錐側面の形状を有する。これらの面を円錐面24,26と記す。この円錐面24,26によりV字形の溝が形成され、この溝内に、円錐面24,26に側面を挟まれるようにしてチェーン16が位置する。出力プーリ14も、入力プーリ12と同様に、出力軸28に固定された固定シーブ30と、出力軸28上を出力軸に沿ってスライドして移動可能な移動シーブ32を有する。固定シーブ30と移動シーブ32の互いに対向する面は、円錐側面の形状を有する。これらの面を円錐面34,36と記す。この円錐面34,36によりV字形の溝が形成され、この溝内に、円錐面34,36に側面を挟まれるようにしてチェーン16が位置する。
【0021】
入力プーリ12と出力プーリ14の固定シーブと移動シーブの配置は逆となっている。すなわち、入力プーリ12において移動シーブ26が
図1で右側であるのに対し、出力プーリ14において移動シーブ32は左側に配置される。移動シーブ22,32をスライドさせることにより、互いに対向する円錐面24,34、26,36の距離が変化し、これらの円錐面で形成されるV字溝の幅が変化する。この溝幅の変化により、チェーンの巻き掛かり半径(以下、掛かり径と記す。)が変わる。すなわち、移動シーブ22,32が固定シーブ20,30から離れると溝幅が広がり、チェーン16は溝の深い位置に移動して、掛かり径が小さくなる。逆に、移動シーブ22,32が固定シーブ20,30に近づくと溝幅が狭くなり、チェーン16は溝の浅い位置に移動して、掛かり径が大きくなる。掛かり径の変化を、入力プーリ12と出力プーリ14で逆にすることにより、チェーン16がたるまないようにされている。移動シーブ22,32がスライドすることにより、V字溝の幅は連続的に変化し、掛かり径も連続的に変化する。これにより、入力軸18から出力軸28への伝達における変速比を連続的に変化させることができる。
【0022】
図2〜4は、チェーン16の構造の詳細を示す図である。以降の説明において、チェーン16が延びる方向に沿う方向を周方向、周方向に直交し、かつ入力軸18および出力軸28に平行な方向を幅方向、周方向と幅方向に直交する方向を厚さ方向と記す。
図2は、チェーン16の一部を幅方向より視た図、
図3は一部を抜き出して分解して示す図、
図4はチェーン16の一部を外周側から厚さ方向に視た図である。
【0023】
図2において、左右方向が周方向であり、上下方向が厚さ方向である。チェーン16は、開口38を有する板形状のリンク40と、棒形状のピン42a,42bを組み合わせて形成される。個々のリンク40は厚さも含めて同一形状であり、棒形状のピン42aおよびピン42bは、それぞれに同一形状である。リンク40は、幅方向に所定パターンで配列され(
図4参照)、2本のピン42a,42bがリンクの両端において開口を貫通している。2本のピン42a,42bの両端、またはいずれか1本のピンの両端が入力および出力プーリ12,14の円錐面24,26、34,36に当接する。この2本のピン42a,42bとピンに貫通されたリンクの組をチェーンエレメント44と記す。
図3には、二つのチェーンエレメント44-1,44-2が示されている。添え字「-1」「-2」「-3」は、チェーンエレメントおよびチェーンエレメントに属するリンク、ピンを他のエレメントから区別する場合に用いる。チェーンエレメント44-1は、複数のリンク40-1とこれを貫く2本のピン42a-1,42b-1から構成される。2本のピン42a-1,42b-1は、リンク40-1の両端において、それぞれ開口38-1に圧入、または位置固定されて結合されている。チェーンエレメント44-2も同様に、複数のリンク40-2とこれを貫く2本のピン42a-2,42b-2から構成される。また、一つのチェーンエレメント44に属するリンク40の全体をリンクユニット46と記す。リンクユニット46においても、属するチェーンエレメントを区別する必要がある場合には、前述の添え字「-1」「-2」「-3」を用いて説明する。
【0024】
隣接するチェーンエレメント44-1,44-2の連結は、ピン42a,42bを、互いに相手側のリンク40の開口38に通すことにより達成される。
図3に示すように、左側のチェーンエレメント44-1のピン42b-1は、右側のチェーンエレメント44-2のピン42a-2の右側に位置するように、開口38-2内に配置される。逆に、右側のチェーンエレメント44-2のピン42a-2は、左側のチェーンエレメント44-1のピン42b-1の左側に位置するように、開口38-1内に配置される。この2本のピン42b-1,42a-2が係合し、これらの間でチェーン16の張力が伝達される。チェーン16が曲がるときには、隣接するピン、例えばピン42b-1,42a-2同士が互いの接触面において転がるように動き、曲げが許容される。
【0025】
図4には、3個のチェーンエレメント44に属するリンク40およびピン42a,42bが示され、これら3個のチェーンエレメントに隣接するエレメントについては、省略されている。リンク40は、幅方向(
図4中、左右方向)に複数枚が配列され、周方向にも適宜ずらして配置されている。これにより、チェーンエレメント44が周方向に連なり一つのチェーンを構成している。図示する、リンク40の配置は一例であり、他の配置を採ることも可能である。
【0026】
図5および
図6は、チェーン16がプーリ12,14の一方に噛み込むときのチェーン16,特にピン42a,42bの挙動を示す図である。簡単のために、以下では入力プーリ12に関して説明する。
図5,6共に、入力プーリ12上に固定された視点から見た状態を示している。
図5は、リンク40-3が入力プーリ12に噛み込み始めたとき、
図6は噛み込みが終わり噛み込まれた状態となったときを示している。
図5,6において、黒丸「●」および白丸「○」はピン42a,42bが入力プーリ12に挟まれたとき、プーリ12の円錐面に接触する点(以下、ピン−プーリ接触点と記す。)48を示す。黒丸で表されるピン−プーリ接触点48は、そのピンが属するチェーンエレメント44が完全に入力プーリ12に噛み込まれた状態となったときの接触点を示す。
図5において、チェーンエレメント44-1は完全に噛み込まれた状態であり、このエレメントに属する2本のピン42a-1,42b-1のピン−プーリ接触点48が黒丸で示されている。白丸は、完全に噛み込まれる前のピン−プーリ接触点48を示す。ピンがプーリに進入する前ではピンとプーリは接触していないが、説明の便宜上、将来的にプーリに接触する点も含め、ピン−プーリ接触点と記す。
【0027】
図5,6において、二重丸「◎」は、ピン同士が接触する点(以下、ピン−ピン接触点と記す)50を示す。ピン−ピン接触点50は、チェーン16が入力プーリ12に巻き付いていく過程で移動する。
図5,6に示すピン−ピン接触点50Aは、巻き付き開始(
図5)と巻き付き終了(
図6)を示している。チェーンエレメント44-3のピン42b-3が、ピン42a-1の側面上を転がるよう動くのにつれ、ピン−ピン接触点50は、チェーン16の厚さ方向において、外側に向けて移動する。ピン−ピン接触点50は、チェーンエレメント44-3が入力プーリ12に完全に噛み込まれた状態になるまで移動する。
【0028】
ピンとピン、およびピンとプーリは、現実には、部材の変形のために面積を持った領域で接触するが、ここでは、ピン、プーリ等の構成部材の変形を考慮せず、完全な剛体であり、点接触するものとして説明する。
【0029】
ピン−プーリ接触点48は、ピン42の端面上においては動かない点であるが、チェーンの巻き付き過程で入力プーリ12の円錐面上を移動する。
図5において、チェーンエレメント44-3は、入力プーリ12への巻き付きを開始したときの状態である。このとき、チェーンエレメント44-3に属する2本のピンのうち前方のピン42b-3のピン−プーリ接触点48Aの入力プーリ12の円錐面上の位置は、黒丸で示されるピン−プーリ接触点48を通る円弧(図中、破線で示す。)より内側にある。ピン−プーリ接触点48Aは、チェーンエレメント44-3が入力プーリ12に巻き付くにつれて入力プーリ12の径方向外側へ移動し、後方のピン42a-3が入力プーリ12に挟持されると、つまりチェーンエレメント44-3の巻き付きが終了すると、破線で示す円弧に達する。このように、ピン−プーリ接触点48Aは、チェーンエレメント44-3が入力プーリ12に巻き付く過程において、入力プーリ12の円錐面上を移動する。このときのすべりによる摩擦がチェーン式無断変速機の損失の一因となっている。チェーン16が出力プーリ14に巻き付くときにも同様に、ピン−プーリ接触点48は、出力プーリ14の円錐面上をすべる。
【0030】
チェーン16がプーリ12,14から繰り出されるときにも、ピン−プーリ接触点48のすべりが発生する。このときには、繰り出されつつあるチェーンエレメント44の後方のピン42のピン−プーリ接触点48がプーリ12,14の円錐面上を移動する。
【0031】
このように、チェーン16がプーリ12,14に巻き付き、また繰り出されるとき、つまりのチェーン16が直線状態と屈曲状態の間で曲げ伸ばされるとき、ピン−プーリ接触点48は、プーリ12,14の円錐面上をすべって移動する。このときの、チェーンの厚さ方向における移動距離を「接触点すべり距離S」と記す。接触点すべり距離Sが大きいほど、損失が大きくなる。また、チェーン16が大きく屈曲する場合、つまり掛かり径が小さい場合の方が接触点すべり距離は大きくなる。チェーン式無段変速機10においては、チェーン16の巻き掛かり半径は、変速比が1のとき以外において入力プーリ12と出力プーリ14では異なるので、接触点すべり距離も異なる。したがって、チェーン16とプーリ12,14の摩擦損失は、一つのチェーンエレメント44が1周したときの、2本のピン42a,42bとプーリ12,14の間の接触点すべり距離Sの合計の値に対して評価する必要がある。この接触点すべり距離Sの合計を「総合接触点すべり距離T」と記す。
【0032】
図7から
図9は、総合接触点すべり距離Tを横軸に、効率を縦軸にとった図である。各図にプロットされた点は、諸元が異なるチェーンによる結果を示している。具体的には、ピン同士が接触する面の形状(後述する作用曲線の形状)、チェーンの直線状態におけるピン−ピン接触点の位置、ピン−プーリ接触点の位置が異なるチェーンによる結果を示している。また、
図5,6の例では、一つのチェーンエレメント44の2本のピンがプーリと接触したが、
図7〜9では、1本のピンのみプーリと接触する例も示している。また、
図7,8,9は、それぞれ変速比が0.5、0.7、1.0の場合を示している。
図7〜9から、総合接触点すべり距離Tが短いほど、効率が高くなることが理解される。
【0033】
次に、接触点すべり距離Sを短くするためのピンの形状について説明する。説明のために、
図10,11に示すように座標系およびパラメータを定める。
図10は、チェーン16の直線状態を示す図である。直線状態のピン−ピン接触点50を座標軸の原点に定める。x軸はチェーンの周方向、チェーンの進行方向を正方向に定め、y軸はチェーンの厚さ方向、輪になったチェーンの外側に向かう方向を正方向に定める。また、チェーンの幅方向、つまりx軸およびy軸に直交する軸をz軸として説明する。z軸の正方向は、当該座標系が右手系となるように決定する。また、隣り合うピン−ピン接触点50の距離を「接触点ピッチP」とする。ピン−ピン接触点50は、チェーンの屈曲により移動するので、チェーン16の屈曲状態により接触点ピッチは変化する。
【0034】
図11は、接触する2本のピン42a,42bを抜き出して示した図である。各ピンは、両端部を除き、z方向において同一の断面形状を有する。ピンの端面は、プーリ12,14の円錐面に合わせて傾斜しており、このため端面に掛かる部分の断面形状は一定ではない。簡単のために、z軸に直交する平面への投影図によってピン42a,42bの形状を説明する。ピン−ピン接触点50は、実際には、z軸に平行に延びる線となって現れる。2本のピン42a,42bの相対する側面のy座標が正の範囲を「作用曲線」と記し、その符号を52とする。2本のピンの作用曲線を区別する場合には、ピン42aの作用曲線を符号52aで示し、ピン42bの作用曲線を符号52bで示す。以下の説明においても、2本のピンに関して区別が必要なときには、ピン42aに関連する符号には「a」、ピン42bに関連する符号には「b」を付す。チェーンの曲げ伸ばしの際、ピン−ピン接触点50は、作用曲線52上を移動する。
【0035】
ピン42a,42bの端面は凸に湾曲している。ピン42a,42bは、y軸に直交する断面において、プーリの円錐面に向けて凸となっている。ピン42a,42bの端面において、y軸に直交する各断面ごとの最も突出した点を結んだ線を「端面稜線」と記す。端面稜線がxy平面に投影された線を「投影稜線」と記し、符号を54とする。また、投影稜線の長さを「投影稜線長さL」と記す。2本のピンの投影稜線を区別する場合には、ピン42aの投影稜線を符号54a、その長さをLaで示し、ピン42bの投影稜線を符号54b、その長さをLbで示す。投影稜線54(54a,54b)のy軸に対する傾きをα(αa,αb)とする。また、投影稜線54(54a,54b)のx軸との交点と原点の距離をd(da,db)とする。投影稜線54(54a,54b)の中点をピン中心C(Ca,Cb)とする。ピン−プーリ接触点48のx軸からの距離、つまりピン−プーリ接触点48のy座標を「オフセットh」とする。言い換えれば、オフセットは、ピン−ピン接触点50を基準点とし、ピン−プーリ接触点48の、基準点からのチェーンの厚さ方向における有向距離である。有向距離であるオフセットhの正負の向きは、y軸の正方向を正とする。
【0036】
表1は、チェーン16、特にピン42の一実施形態についての上記各パラメータの具体的な数値を示している。この諸元を、以下「諸元1」と記す。この例においては、2本のピン42a,42bは同形状であり、
図10,11に示すように、その断面形状はy軸に関し対称となる。このため、チェーンエレメント44がプーリ12,14に進入する際のピン42bの挙動と、プーリから退出する際のピン42aの挙動は対称となり、接触点すべり距離は等しい。よって、一方のピンについて説明する。ピンの作用曲線52は、原点で接する半径9.5mmの円弧である。また、この実施形態のチェーン16は、チェーンエレメントを90個を連ねて無端に形成されている。
【0038】
図12は、表1に記載された諸元1を有するチェーン16において、掛かり径に対する接触点すべり距離が最小となるオフセットhを示す図である。ピン42a,42b上のピン−プーリ接触点48の位置は、ピン42が接するプーリ12,14の面が円錐面であるから掛かり径が変化しても変わらない。
図12から理解できるように、接触点すべり距離を最小にするオフセットhは、掛かり径が大きくなるともに単調に減少する。したがって、その無段変速機の取り得る変速範囲、つまり掛かり径の範囲に対応するオフセットの範囲内で、オフセットhを定めれば、いずれかの掛かり径で運転されるとき、接触点すべり距離が最小となる。特に、運転頻度が高い変速比に対応した掛かり径のときのオフセット値とすることが好ましい。また、接触点すべり距離が小さいことは、摩耗に対しても有利に働く。
【0039】
例えば、使用する掛かり径が30〜73mmの範囲とした場合のオフセットhは、次のように定めることができる。掛かり径30mmと73mmのとき、接触点すべり距離を最小にするオフセットは、それぞれ0.340mmと0.0126mmである。オフセットhを0.340mmと0.0126mmの間で設定することで、変速範囲のいずれかの変速比の掛かり径において接触点すべり距離を最小にすることができ、すべりによる損失を低減することができる。
0.0126mm≦h≦0.340mm ・・・(1)
【0040】
図13は、掛かり径と接触点すべり距離Sの最小値の関係を示す図である。ある掛かり径において、接触点すべり距離Sが最小になるオフセットhを探し、このときの接触点すべり距離Sを示している。掛かり径が小さいほど、つまりチェーンの屈曲が大きくなるほど、接触点すべり距離Sが長くなることが理解できる。
【0041】
図14は、変速比およびオフセットhと総合接触点すべり距離Tの関係を示す図である。横軸はオフセットh、縦軸が変速比、等高線のように示された線が等しい総合接触点すべり距離Tを結んだ線である。オフセットhが0近傍、すなわちピン−プーリ接触点48が原点の近傍にあるほど総合接触点すべり距離Tが小さくなっている。したがって、オフセットhを原点近傍のある範囲に定めることにより、変速範囲において総合接触点すべり距離を小さくすることができる。変速比1.0(掛かり径51.5mm)の場合、オフセットhが0.102のときに総合接触点すべり距離Tが最小となる。
【0042】
図15から
図19には、ある変速比におけるオフセット量と総合接触点すべり距離の関係を示す図である。
図15は変速比0.417のとき、
図16は変速比0.714のとき、
図17は変速比1.000のとき、
図18は変速比1.600のとき、
図19は変速比2.400のときを示す。これらの図は、
図14における、ある変速比に沿った断面図と理解できる。これらの図からも、原点近傍に総合接触点すべり距離が小さい範囲があることが理解できる。
図15から
図19には、その変速比における最大、最小の総合接触点すべり距離Tの範囲の小さい方の30%の範囲を示す線が破線で示されている。例えば、
図15において、総合接触点すべり距離Tの最大値は2.097mm、最小値は1.031mmであり、その範囲の下から30%は、1.351mmとなる。オフセットhが−0.5mmから0.5mmの範囲で、総合接触点すべり距離Tは1.134mm以下であり、総合接触点すべり距離が上記の30%を示す線以下の小さい範囲にある。
図16から
図19においても、オフセットhが−0.5mmから0.5mmの範囲において、総合接触点すべり距離Tを上記の30%を示す線以下の小さい範囲となっている。これらから、オフセットhを−0.5mmから0.5mmの範囲とすることによって、実際に用いられる変速比の範囲全体にわたって、総合接触点すべり距離Tが小さい範囲で運転することができる。0.5mmは、投影稜線長さL(=5.9mm)に対して0.085倍であり、オフセットhの絶対値を投影稜線長さの0.085倍以下とすることで、変速範囲全体にわたって総合接触点すべり距離が小さい範囲で運転することができる。
−0.085×Lmm≦h≦0.085×Lmm ・・・(2)
【0043】
以上は、すべり損失、つまり効率の観点からオフセットを定めたものであるが、騒音の観点からの検討も要する。チェーン式無段変速機において、ピンがプーリに噛み込まれるときの衝撃が騒音の一因となる。チェーンが、弦の部分からプーリに進入する過程で加速される場合、プーリに衝突する衝撃が大きくなる。したがって、ピンがプーリに進入する際に加速しないようにすることが望まれる。
【0044】
図20は、チェーン16がプーリ12,14に巻き付いたときの状態を模式的に示した図であり、ピン−ピン接触点50が示されている。隣接するピン−ピン接触点50を両端とする円弧がプーリ12,14の中心を見込む角度をθとし、ピン−ピン接触点50とプーリ12,14の距離(掛かり径)をR(θ)とする。このとき、隣接するピン−ピン接触点50の距離(ピッチ)pitch(θ)と、掛かり径R(θ)の関係は次式(1)で表される。
【0046】
チェーン16が、プーリに巻き付いたときのピッチpitch(θ)が、直線状態のときのピッチP(=7.14mm)以上であれば、ピン42a,42bは、プーリ12,14に進入するときに、加速されない。諸元1において、最小掛かり径のときにも、上記の条件を満たすオフセットhは、0.346mm以上である。
0.346≦h ・・・(4)
【0047】
最大掛かり径と最小掛かり径における接触点すべり距離を最小にするオフセットhから求めたオフセットhの範囲である0.0126mm以上0.340mm以下(式(1))と、騒音の観点から求めたオフセットhの範囲である0.346以上(式(4))は、重なる範囲がない。そこで、騒音対策を重視する場合、接触点すべり距離から定まる範囲にできる限り近い、0.346にオフセットhを設定する。
h=0.346mm ・・・(5)
【0048】
総合接触点すべり距離Tが小さい範囲で運転されるように定めたオフセットhの範囲である投影稜線長さLの−0.085倍以上、0.085倍以下(式(2))と、騒音の観点から求めたオフセットhの範囲である0.346以上(式(4))の双方を考慮すると、オフセットhを0.346mm以上、0.085×Lmm以下の値に設定することで、すべり損失を小さくし、騒音を低くすることができる。
0.364mm≦h≦0.085×Lmm ・・・(6)
【0049】
上記したオフセットhは、2本のピン42a,42bで共通として説明したが、ピンごとに異なる値に設定することもできる。つまり、式(1)、(2)、(6)に示された範囲で2本のピン42a,42bのオフセットha,hbを異なる値に設定することができる。
【0050】
次に、表2に示された諸元2を有するチェーンについて考察する。諸元2は、諸元1に対し、チェーンが直線状態のときのピン−ピン接触点(原点)を、投影稜線の中点Cに近づけたものである。
【0052】
図21は、諸元2を有するチェーン16において、掛かり径に対する接触点すべり距離Sが最小となるオフセットhを示す図である。諸元2において、ピンの形状は諸元1と同じであるので、接触点すべり距離Sが最小となるオフセットhは、諸元1と同じになる。つまり、2本のピンのオフセットhは、0.0126以上、0.340以下の範囲で設定することにより、いずれかの掛かり径において接触点すべり距離Sを最小とすることができる。
0.0126mm≦h≦0.340mm ・・・(7)
【0053】
図22は、諸元2のチェーン16において、掛かり径と接触点すべり距離Sの最小値の関係を示す図である。諸元1,2を比較すると、投影稜線の原点からの距離dが諸元2の方が若干大きくなっている。このため、
図13と
図22を比較したとき、1ピンあたりの接触点すべり距離の最小値は、
図22の場合、つまり諸元2の方が若干長くなっている。
【0054】
図23は、諸元2において、変速比およびオフセットhと総合接触点すべり距離Tの関係を示す図である。横軸はオフセットh、縦軸が変速比、等高線のように示された線が等しい総合接触点すべり距離Tを結んだ線である。オフセットhが0近傍、すなわちピン−プーリ接触点48が原点の近傍にあるほど総合接触点すべり距離Tが小さくなっていることは、諸元1の場合(
図14参照)と同様である。諸元2の場合、変速比1.0のとき、オフセットhが0.094mmのときに総合接触点すべり距離Tが最小となる。
【0055】
図14,23において、横軸の範囲は投影稜線の範囲を示しており、つまり横軸上の位置は投影稜線上の位置を示している。二つの図の違いは、原点、つまりチェーン直線状態のピン−ピン接触点50を投影稜線上のどの位置にあるかの違いである。
図23は、投影稜線の中点付近に原点がある。
図23のグラフは、
図14のグラフを原点の移動に伴って右方向に移動させたものと類似していることがわかる。これは、接触点すべり距離を小さくする要因は、ピン−プーリ接触点48を投影稜線上のどこに位置させるかではなく、ピン−ピン接触点50(原点)近くに位置させることであることを示している。したがって、諸元1の例で定めたオフセットhの範囲(投影稜線長さLの−0.085倍以上、0.085倍以下)と同じに定めることで、変速範囲全体にわたって総合接触点すべり距離が小さい範囲で運転することができる。
−0.085×Lmm≦h≦0.085×Lmm ・・・(8)
【0056】
騒音を考慮する場合、改めて式(3)を適用し、ピンがプーリ進入時に加速しない条件を求める。諸元2においては、オフセットhを0.340mm以上とする必要がある。
0.340mm≦h ・・・(9)
【0057】
最大掛かり径と最小掛かり径における接触点すべり距離を最小にするオフセットhから求めたオフセットhの範囲である0.0126mm以上0.340mm以下(式(7))と、騒音の観点から求めたオフセットhの範囲である0.340mm以上(式(9))の重なる範囲は0.340mmであり、この値をオフセットhに設定する
h=0.340mm ・・・(10)
【0058】
総合接触点すべり距離Tが小さい範囲で運転されるように定めたオフセットhの範囲である投影稜線長さLの−0.085倍以上、0.085倍以下(式(8))と、騒音の観点から求めたオフセットhの範囲である0.340mmの双方を考慮すると、オフセットhを0.340mm以上、0.085×Lmm以下の値に設定することで、すべり損失を小さくし、騒音を低くすることができる。
0.340mm≦h≦0.085×Lmm ・・・(11)
【0059】
諸元1,2の上記したオフセットhは、2本のピン42a,42bで共通として説明したが、ピンごとに異なる値に設定することもできる。つまり、式(7)、(8)、(11)に示された範囲で2本のピン42a,42bのオフセットha,hbを異なる値に設定することができる。
【0060】
次に、表3に示された諸元3を有するチェーンについて考察する。
【0062】
諸元3は、2本のピン42a,42bの形状が異なる例である。また、一方のピン42aのみプーリ12,14に接触する。よって、ピン42aのプーリに対するすべりのみを考慮すればよい。
図24に、チェーン16が直線状態のときのピン42a,42bの位置関係が示されている。座標系は
図10,11のものと同様、チェーン16の直線状態のときのピン−ピン接触点50を座標軸の原点に定め、チェーンの周方向をx軸、チェーンの厚さ方向をy軸、チェーンの幅方向をz軸とする。また、接触点ピッチ等のパラメータ、作用曲線、投影稜線等は、
図10,11に関連して説明したものと同様の意味で用いる。ピン42aの作用曲線52aは、ピン−ピン接触点50を原点として基礎円半径52mmのインボリュート曲線である。ピン42bの作用曲線52bはy軸に平行な直線である。
【0063】
図25は、諸元3を有するチェーン16において、掛かり径に対する接触点すべり距離Sが最小となるオフセットhを示す図である。使用する掛かり径が30〜73mmの範囲であれば、接触点すべり距離を最小にするオフセットは、掛かり径が30mmのとき0.275mm、掛かり径73mmのとき−0.135mmである。オフセットhを0.275mmと−0.135mmの間の値に設定することで、いずれかの掛かり径において接触点すべり距離を最小にすることができ、すべりによる損失を低減することができる。
−0.135mm≦h≦0.275mm ・・・(12)
【0064】
図26は、掛かり径と1ピンあたりの接触点すべり距離Sの最小値の関係を示す図である。ある掛かり径において、接触点すべり距離Sが最小になるオフセットを探し、このときの接触点すべり距離Sを示している。掛かり径が小さいほど、つまりチェーンの屈曲が大きくなるほど、接触点すべり距離Sが長くなることが理解できる。
【0065】
図27は、変速比およびオフセットhと総合接触点すべり距離Tの関係を示す図である。横軸はオフセットh、縦軸が変速比、等高線のように示された線が等しい総合接触点すべり距離Tを結んだ線である。オフセットhが0近傍、すなわちピン−プーリ接触点48が原点の近傍にあるほど総合接触点すべり距離Tが小さくなっている。したがって、オフセットhを原点近傍のある範囲に定めることにより、変速範囲において総合接触点すべり距離Tを小さくすることができる。変速比1.0(掛かり径51.5mm)の場合、オフセットhが−0.056mmのときに総合接触点すべり距離Tが最小値となる。
【0066】
諸元3においても、諸元1,2にならって、総合接触点すべり距離Tが小さい範囲、つまり、総合接触点すべり距離Tの最小値から最大値までの範囲の、小さい方から30%以下の範囲となるように、オフセットhを定める。この場合もオフセットの絶対値が0.5mm以下(0.085×L以下)とすることで総合接触点すべり距離Tを小さい範囲とすることができる。
−0.085×Lmm≦h≦0.085×Lmm ・・・(13)
【0067】
諸元3において、騒音を考慮した場合、最小掛かり径のときのピッチがチェーンが直線状態の接触点ピッチP(=7,14mm)以上とするためのオフセットhを諸元1,2のときと同様に求める。このオフセットhは、0.279mm以上である。
0.279mm≦h ・・・(14)
【0068】
最大掛かり径と最小掛かり径における接触点すべり距離を最小にするオフセットhから求めたオフセットhの範囲である−0.135mm以上0.275mm以下(式(12))と、騒音の観点から求めたオフセットhの範囲である0.279以上(式(14))は、重なる範囲がない。そこで、騒音対策を重視する場合は、接触点すべり距離から定まる範囲にできる限り近い、0.279mmにオフセットhを設定する。
h=0.279mm ・・・(15)
【0069】
総合接触点すべり距離Tが小さい範囲で運転されるように定めたオフセットhの範囲である投影稜線長さLの−0.085倍以上、0.085倍以下(式(13))と、騒音の観点から求めたオフセットhの範囲である0.279mm以上(式(14))の双方を考慮すると、オフセットhを0.279mm以上、0.085×Lmm以下の間の値に設定することで、すべり損失を小さくし、騒音を低くすることができる。
0.279mm≦h≦0.085×Lmm ・・・(16)
【0070】
次に、表4に示された諸元4を有するチェーンについて考察する。
【0072】
諸元4は、2本のピン42a,42bの形状が異なる例である。両方のピン42a,42bがプーリ12,14に接触する。
図28に、チェーン16が直線状態のときのピン42a,42bの位置関係が示されている。座標系は
図10,11のものと同様、チェーン16の直線状態のときのピン−ピン接触点50を座標軸の原点に定め、チェーンの周方向をx軸、チェーンの厚さ方向をy軸、チェーンの幅方向をz軸とする。また、接触点ピッチ等のパラメータ、作用曲線、投影稜線等は、
図10,11に関連して説明したものと同様の意味で用いる。ピン42aの作用曲線52aは、ピン−ピン接触点50を原点として基礎円半径52mmのインボリュート曲線である。ピン42bの作用曲線52bはy軸に平行な直線である。
【0073】
図29は、諸元4を有するチェーン16において、掛かり径に対する接触点すべり距離Sが最小となるオフセットhを示す図である。2本のピン42a,42bの形状が異なるため、それぞれのピン42a,42bの挙動が異なり、最小の接触点すべり距離Sを与えるオフセットha,hbも異なる。使用する掛かり径が30〜73mmの範囲の場合、ピン42aについては、接触点すべり距離Sを最小にするオフセットhaは、掛かり径30mmのとき0.275mm、掛かり径73のとき−0.135mmである。また、ピン42bについて、接触点すべり距離を最小にするオフセットhbは、掛かり径30mmのとき0.498mm、掛かり径73mmのとき0.084mmである。2本のピンのオフセットha,hbを異なる値とする場合には、ピン42aについてはオフセットhaを0.275mmと−0.135mmの間の値に設定し、ピン42bについてはオフセットhbを0.498mmと0.084mmの間の値に設定する。このように設定することで、いずれかの掛かり径において接触点すべり距離を最小にすることができ、すべりによる損失を低減することができる。
−0.135mm≦ha≦0.275mm ・・・(17a)
0.084mm≦hb≦0.498mm ・・・(17b)
【0074】
また、2本のピンのオフセットha,hbを共通に設定する場合には、2本のピンのオフセットのそれぞれの最小値のうち小さい方である−0.135mmと、最大値のうち大きい方である0.498mmの間の値に設定する。この範囲に設定することで、いずれか一方のピンについて、いずれかの掛かり径において接触点すべり距離を最小にすることができ、すべりによる損失を低減することができる。
−0.135mm≦ha≦0.498mm ・・・(18a)
−0.135mm≦hb≦0.498mm ・・・(18b)
【0075】
また、2本のピンのオフセットha,hbを共通に設定する場合の他の例として、式(17a),(17b)の共通の範囲、つまり0.084mm以上0.275mmとすることもできる。
0.084mm≦ha≦0.275mm ・・・(19a)
0.084mm≦hb≦0.275mm ・・・(19b)
【0076】
図30は、掛かり径と1ピンあたりの接触点すべり距離Sの最小値の関係を示す図である。2本のピン42a,42bの形状が異なるため、それぞれのピン42a,42bの挙動が異なり、最小の接触点すべり距離Sもピンごとに異なっている。ある掛かり径において、接触点すべり距離Sが最小になるオフセットを探し、このときの接触点すべり距離Sを示している。掛かり径が小さいほど、つまりチェーンの屈曲が大きくなるほど、接触点すべり距離Sが長くなることが理解できる。
【0077】
図31は、変速比およびオフセットhと総合接触点すべり距離Tの関係を示す図である。横軸はオフセットh、縦軸が変速比、等高線のように示された線が等しい総合接触点すべり距離Tを結んだ線である。2本のピン42a,42bのオフセットha,hbは等しいとして(ha,hb=h)計算を行っている。オフセットhが0近傍、すなわちピン−プーリ接触点48が原点の近傍にあるほど総合接触点すべり距離Tが小さくなっている。したがって、オフセットhを原点近傍のある範囲に定めることにより、変速範囲において総合接触点すべり距離を小さくすることができる。変速比1.0(掛かり径51.5mm)の場合、オフセットhが0.072mmのときに総合接触点すべり距離が最小値となる。
【0078】
図32から
図36には、前述の
図15から
図19と同様、ある変速比におけるオフセット量と総合接触点すべり距離Tの関係を示す図である。
図32は変速比0.417のとき、
図33は変速比0.714のとき、
図34は変速比1.000のとき、
図35は変速比1.600のとき、
図36は変速比2.400のときを示す。これらの図は、
図31における、ある変速比に沿った断面図と理解できる。これらの図からも、原点近傍に総合接触点すべり距離が小さい範囲があることが理解できる。
図32から
図36には、その変速比における最大、最小の総合接触点すべり距離Tの範囲の小さい方の30%の範囲を示す線が破線で示されている。例えば、
図32において、総合接触点すべり距離の最大値は1.968mm、最小値は0.818mmであり、その範囲の下から30%は、1.163mmとなる。オフセットhが−0.5mmから0.5mmの範囲では、総合接触点すべり距離Tは最大で0.961mmであり、総合接触点すべり距離が上記の30%を示す線以下の小さい範囲にある。
図33から
図36においても、オフセットhが−0.5mmから0.5mmの範囲において、総合接触点すべり距離を上記の30%を示す線以下の小さい範囲となっている。これらから、オフセットhを−0.5mmから0.5mmの範囲とすることによって、実際に用いられる変速比の範囲全体にわたって、総合接触点すべり距離Tが小さい範囲で運転することができる。0.5mmは、投影稜線長さL(=5.9mm)に対して0.085倍であり、オフセットhの絶対値を投影稜線長さの0.085倍以下とすることで、変速範囲全体にわたって総合接触点すべり距離が小さい範囲で運転することができる。
【0079】
諸元4においても、前述の各諸元にならって、総合接触点すべり距離Tが小さい範囲、つまり、総合接触点すべり距離Tの最小値から最大値までの範囲の、小さい方から30%以下の範囲となるように、オフセットhを定める。この場合もオフセットの絶対値が0.5mm以下(0.085×L以下)とすることで総合接触点すべり距離を小さい範囲とすることができる。
−0.085×Lmm≦ha≦0.085×Lmm ・・・(20a)
−0.085×Lmm≦hb≦0.085×Lmm ・・・(20b)
【0080】
諸元4において、騒音を考慮した場合、前述の各諸元と同様にして、最小掛かり径のときのピッチがチェーンが直線状態の接触点ピッチP(=7,14mm)以上とするための、ピン42aのオフセットhaは0.279以上、ピン42bのオフセットhbは0.372mm以上である。
0.279mm≦ha ・・・(21a)
0.372mm≦hb ・・・(21b)
【0081】
最大掛かり径と最小掛かり径における接触点すべり距離を最小にするオフセットに基づき定めた範囲と、騒音の観点から定めた範囲を考慮したオフセットについて検討する。2本のピン42a,42bで異なるオフセットを設定する場合は、ピン42aのオフセットhaについては、最大、最小掛かり径のときの接触点すべり距離から求めた範囲である、−0.135mm以上0.275mm以下(式(17a))と、騒音の観点から求めた範囲である0.279mm以上(式(21a))との重なる範囲はないので、接触点すべり距離から定まる範囲にできる限り近い0.279mmにオフセットhaを設定する。ピン42bのオフセットhbについては、最大、最小掛かり径のときの接触点すべり距離から求めた範囲である、0.084mm以上0.498mm以下(式(17b))と、騒音の観点から求めた範囲である0.372mm以上(式(21b))との重なる範囲、0.372mm以上0.498mm以下にオフセットhbを設定する。
ha=0.279mm ・・・(22a)
0.372mm≦hb≦0.498mm ・・・(22b)
【0082】
2本のピン42a,42bのオフセットを共通にする場合は、式(18a),(18b)と式(21b)からオフセットha,hbをともに0.372mm以上0.498mm以下の値に設定する。
0.372mm≦ha≦0.498mm ・・・(23a)
0.372mm≦hb≦0.498mm ・・・(23b)
【0083】
また、式(19a),(19b)と式(21b)の組み合わせから共通のオフセットを設定する場合には、これらの式の共通範囲はないので、式(19)の範囲にできる限り近い0.372mmに設定する。
ha,hb=0.372mm ・・・(24)
【0084】
総合接触点すべり距離Tが小さい範囲で運転されるように定めたオフセットhの範囲である投影稜線長さLの−0.085倍以上、0.085倍以下(式(20a)(式(20b))と、騒音の観点から求めたオフセットhaの範囲である0.279mmおよびオフセットhbの範囲である0.372mmの双方を考慮すると、これらの範囲の共通範囲である0.372mm以上0.085×Lmm以下の値で設定することで、すべり損失を小さくし、騒音を低くすることができる。
0.372mm≦ha≦0.085×Lmm ・・・(25a)
0.372mm≦hb≦0.085×Lmm ・・・(25b)