(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一方の表面に500〜2000nmの厚みで撥水層が形成された、凸形状高さが30〜100μmの凹凸形状を有する凹凸形状層を備えた樹脂シートであって、前記凹凸形状層の少なくとも前記撥水層側の表面が、延伸倍率0.05〜2.5倍の加熱延伸成形後も撥水性を維持するように加速電圧110〜210kV、線量120〜400kGyでの電子線照射により架橋処理されており、前記撥水層が疎水性酸化物微粒子を含有するオレフィン系共重合体樹脂からなり、凹凸形状層が熱可塑性樹脂から製造される、撥水性を備えた樹脂シート。
前記凹凸形状層と前記スチレン系樹脂層との間に酸素バリア性樹脂層が設けられ、該酸素バリア性樹脂層と前記凹凸形状層との間と、前記酸素バリア性樹脂層と前記スチレン系樹脂層との間に、それぞれ変性オレフィン系重合体樹脂層が形成されてなる、請求項2に記載の樹脂シート。
前記凹凸形状層が、20〜85質量%のポリエチレン樹脂と80〜15質量%のスチレン−共役ジエンブロック共重合体樹脂を含有してなる樹脂組成物、あるいは20〜85質量%のポリエチレン樹脂と80〜15質量%のポリスチレン樹脂を含有してなる樹脂組成物から形成されてなる、請求項1から4の何れか一項に記載の樹脂シート。
前記凹凸形状層の前記微細な凹凸形状の凸形状が六角錐台形であり、凸形状高さが30μm〜100μmであり、凸形状底面径が30μm〜150μmであり、アスペクト比(凸形状高さ/凸形状底面径)が0.5〜1.0である、請求項1から5の何れか一項に記載の樹脂シート。
スチレン系樹脂層が、60〜15質量%のポリスチレン樹脂と40〜85質量%の耐衝撃性ポリスチレン樹脂を含有してなるスチレン系樹脂組成物、あるいは該スチレン系樹脂組成物100質量部に対して5〜10質量部の水添スチレン系熱可塑性エラストマーを更に含有してなるエラストマー含有スチレン系樹脂組成物から形成されてなる、請求項1から13の何れか一項に記載の樹脂シート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る熱可塑性樹脂シートは、凹凸形状層と撥水層を必須に備えた層構成を有するが、別の層を備えるか否か、別の層を備える場合には如何なる層を備えるかによって、様々な実施形態を採る。以下、熱可塑性樹脂シートの種々の実施形態を説明し、ついで熱可塑性樹脂シートの製造及び成形容器について説明するが、一実施形態について記載した特定の説明が他の実施形態についても当てはまる場合には、他の実施形態においてはその説明を省略している。
【0018】
[第一実施形態]
本発明の第一実施形態に係る熱可塑性樹脂シートは、
図1に示すように、一方の表面側に微細な凹凸形状を有する凹凸形状層(1)と、前記凹凸形状層(1)の前記一方の表面側にほぼ一定厚みで形成された撥水層(2)とを備え、凹凸形状層(1)の前記一方の表面側の少なくとも表面部が、加熱延伸後も微細な凹凸形状を維持する架橋体であり、撥水層(2)は疎水性酸化物微粒子を含有するオレフィン系共重合体樹脂からなる、撥水性を備えたシートである。本実施形態に係る熱可塑性樹脂シートでは、後述するように通常は塗工により薄い厚みの撥水層を凹凸形状層上に形成した構造であるが、凹凸形状層の厚みは、凹凸形状を含めた厚みとし、撥水層の塗工厚(500nm〜2000nm)を加えたものが後述するシート厚に等しくなるように調整される。
【0019】
ここで、本発明に係る熱可塑性樹脂シートでは、凹凸形状層が「加熱延伸後も微細な凹凸形状を維持する」が、これは本発明に係る熱可塑性樹脂シートが、加熱延伸されても微細な凹凸形状を維持できるというシートの性質を規定しているのであって、加熱延伸されるシートでなければならないことを意味するものではない。よって、本発明に係る熱可塑性樹脂シートには、延伸シートと共に、非延伸シートも包含されるが、好ましくは延伸シートである。
またここで言う「延伸」とは、シートを延伸処理して幅広のシートを形成する場合の他、シートを成形して容器を形成する際に特に容器の隅部の成形に際してシートが延伸される場合も含む。
更に、本発明において、撥水性を有する樹脂シートの「撥水性」とは、樹脂シートへの食品の付着を防止するのに十分な程度の撥水性を意味し、具体的には、樹脂シートに対する液体の接触角が100°以上であることを意味するものとする。また、好ましくは、本発明に係る熱可塑性樹脂シートにおいて、「撥水性」とは、液体の転落角が70°以下であること、及び/又は、液体の転落速度が、傾斜角70°での転落速度として、0.01m/sec〜0.2m/secであることを意味するものとする。
【0020】
<凹凸形状層(1)>
凹凸形状層は、微細な表面の凹凸形状により撥水性を発現させるために設けられるもので、樹脂成分として、ポリエチレン樹脂とスチレン−共役ジエンブロック共重合体樹脂を含有する樹脂組成物、あるいはポリエチレン樹脂とポリスチレン樹脂を含有する樹脂組成物から形成されるのが好ましい。
【0021】
「ポリエチレン樹脂」とは、そのモノマーの主成分がエチレンであるポリマーを意味し、ここで、「主成分」とはモノマー全量の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上を意味し、全量がエチレンであっても勿論よい。よって、ポリエチレン樹脂を例示すると、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状中密度ポリエチレン等が挙げられ、また、それらの構造を有する共重合物やグラフト物やブレンド物が含まれる。後者の樹脂としては、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体や更に酸無水物との3元共重合体等とブレンドしたもののようにポリエチレン鎖に極性基を有する樹脂を共重合及びブレンドしたものが挙げられる。
【0022】
好ましいポリエチレン樹脂は、樹脂層における凹凸形状の賦形性及び電子線による架橋性の観点から、特に直鎖状低密度ポリエチレンや直鎖状中密度ポリエチレンである。直鎖状低密度ポリエチレン及び直鎖状中密度ポリエチレンには、チグラー型触媒で重合されたもの(t−LLDPE)、及びメタロセン系触媒で重合されたもの(m−LLDPE)があるが、m−LLDPEは、コモノマーとして炭素数3以上のオレフィン、好ましくは炭素数3〜18の直鎖状、分岐状、芳香核で置換されたα−オレフィンとエチレンとの共重合樹脂である。直鎖状のモノオレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン等が挙げられる。また、分岐状モノオレフィンとしては、例えば、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ヘキセン等を挙げることができる。また、芳香核で置換されたモノオレフィンとしては、スチレン等が挙げられる。これらのコモノマーは、単独または2種以上を組み合わせて、エチレンと共重合することができる。この共重合では、ブタジエン、イソプレン、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン等のポリエン類を共重合させてもよい。この共重合樹脂中におけるα−オレフィン含有量は、1〜20モル%であることが一般的である。
【0023】
「スチレン−共役ジエンブロック共重合体」とは、その構造中にスチレン系単量体を主体とする重合体ブロックと共役ジエン単量体を主体とする重合体ブロックを含有する重合体を意味する。スチレン系単量体を主体とする重合体ブロックとは、スチレン系単量体に由来する構造のみからなる重合体ブロックと、スチレン系単量体に由来する構造を50質量%以上含有する重合体ブロックの何れをも意味する。同様に、共役ジエン単量体を主体とする重合体ブロックとは、共役ジエン単量体に由来する構造のみからなる重合体ブロックと、共役ジエン単量体に由来する構造を50質量%以上含有する重合体ブロックの何れをも意味する。
【0024】
ここで、使用されるスチレン系単量体としては、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1−ジフェニルエチレン等がある。本発明においては、スチレンが主体であるが、これらの他の成分を微量成分として1種以上含むものであってもよい。また、共役ジエン単量体とは、その構造中に共役二重結合を有する化合物であり、例えば1,3−ブタジエン(ブタジエン)、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2−メチルペンタジエン等があり、なかでもブタジエン、イソプレンは好適である。共役ジエン単量体は一種類あるいは二種類以上を用いることができる。
【0025】
また、スチレン−共役ジエンブロック共重合体は、共役ジエン含有量が、12〜30質量%(より好ましくは18〜27質量%)であるものが好ましい。ここで、共役ジエン含有量とは、共役ジエン単量体に由来する構造が全共重合体中に占める質量の割合を意味する。スチレン−共役ジエンブロック共重合体は一種類あるいは二種類以上を用いることができる。本発明において、スチレン−共役ジエンブロック共重合体とは、例えば共役ジエンがブタジエンである場合、スチレン−ブタジエン(SB)の二元共重合体及びスチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)の三元共重合体(SBS)のいずれであってもよく、スチレンブロックが3つ以上でブタジエンブロックが2つ以上の複数のブロックで構成される樹脂であってもよい。更に、各ブロック間のスチレンとブタジエンの組成比が連続的に変化するようないわゆるテーパーブロック構造を有するものであってもよい。また、スチレン−共役ジエンブロック共重合体は市販のものをそのまま用いることもできる。
【0026】
「ポリスチレン樹脂」とは、単量体としてスチレンが主体であるが、微量成分としてo−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1−ジフェニルエチレン等の芳香族ビニル化合物の1種以上を含有するものであっても良く、一般にGPPSと言われている樹脂であり、市販の樹脂を用いることもできる。
【0027】
凹凸形状層は、好ましくは、ポリエチレン樹脂が20〜85質量%(より好ましくは20〜80質量%)で、スチレン−共役ジエンブロック共重合体樹脂が80〜15質量%(より好ましくは80〜20質量%)の樹脂組成物、あるいはポリエチレン樹脂が20〜85質量%(より好ましくは20〜80質量%)で、ポリスチレン樹脂が80〜15質量%(より好ましくは80〜20質量%)の樹脂組成物から形成されてなる。この範囲の組成にすることによって、シート表面へ凹凸形状を付与するための熱転写方法等における凹凸形状の賦形性(転写性)、架橋性、シール性(剥離強度の発現)の何れも満足できる凹凸形状層が得られる。これに対して、ポリエチレン樹脂が85質量%を超えると剥離強度が発現しない場合や、加熱成形容器の打ち抜き時に樹脂ヒゲが発生する場合がある一方、ポリエチレン樹脂が20質量%未満では、加熱成形後の凹凸形状の維持ができない場合がある。
【0028】
また、このような樹脂組成物からなる層は、熱可塑性樹脂シートを成形容器に成形した場合に成形容器の開口上縁部の上面を構成する層となるが、ポリエチレン樹脂を20〜85質量%、スチレン−共役ジエンブロック共重合体樹脂を80〜15質量%含有してなる樹脂組成物、あるいはポリエチレン樹脂が20〜85質量%で、ポリスチレン樹脂が80〜15質量%の樹脂組成物により形成した場合、包装用の蓋材、例えばヨーグルト容器の蓋材等にホットメルト接着剤(ワックス、ロジン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等からなる組成物)やラッカーコート剤(アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等からなる組成物)を介してヒートシール可能である。尚、ヒートシールに際しては、蓋材が凹凸形状層の上面に熱コテで押しつけられると、凹凸形状層の凸部が潰されて適度の接着性によって剥離可能にシールされる。
【0029】
凹凸形状は、シートに撥水性を付与するために設けられるものであり、シートに撥水性を付与することができる起伏の微細な凹凸形状を意味するが、その形状は任意である。例えば凹凸部の凸形状は三角錐、四角錐、六角錐、八角錐、円錐などの錐形状、角錐台形状、円錐台形状でもよいが、本発明者が本実施形態に係るシート構成において種々検討した結果、六角錐台形状の凸形状が特に好ましいことが分かった(
図2参照)。また、凹凸形状の凸形状は、その高さhが30μm〜100μm、その径D(底面径で、六角形の対角線長さ)が30μm〜150μm、そのアスペクト比(凸形状高さ/凸形状底面径)が0.5〜1.0であるものがより好ましいことが分かった。この範囲を外れた場合でも、凹凸形状としない場合に比べると優れた撥水性が得られるが、この範囲の凹凸形状にすることによって、加熱成形後でも凹凸形状を十分に維持し、撥水性を高く維持することができる。これに対して、凸形状高さが30μm未満では、加熱成形後には撥水性を十分には確保できない場合があり、凸形状高さが100μmを超えると凹凸形状を付与するための金型での凹凸形状寸法が不安定になる場合がある。凸形状底面径が30μm未満では凹凸形状を付与するための金型での凹凸形状寸法が不安定になる場合があり、凸形状底面径が150μmを超えると加熱成形後の凹凸形状面の見た目が悪くなる場合がある。
【0030】
更に、凹凸形状の凸形状において、凸形状底面径Dに対する凸形状頂点部の径dの比(凸形状頂点部の径/凸形状底面径)が0.05〜0.40であるのが好ましい。この範囲の凹凸形状にすることによって、加熱成形後でも凹凸形状を十分に維持し、撥水性を高く維持することができる。これに対して、比が0.05未満では、比が0.05未満となる凹凸金型の作製が困難な場合があり、比が0.40以上では加熱成形後の撥水性を維持できなくなる場合がある。
【0031】
凸形状の配置は特に限定はされず、縦横に配置した碁盤目配置、千鳥配置がある。加熱成形後、より撥水性を維持したければ、千鳥配置が好ましい。
【0032】
<撥水層(2)>
撥水層は、凹凸形状層の凹凸形状がシート表面にほぼそのまま維持されるように凹凸形状層の上部にほぼ一定厚みで形成され、凹凸形状層の凹凸形状に基づく撥水性を、更に撥水層自体の撥水性によって増強するためや容器などへの加熱成形後でも撥水性を維持するために設けられ、疎水性酸化物微粒子を含有するオレフィン系共重合体樹脂からなる。
【0033】
疎水性酸化物微粒子としては、疎水性を有するものであれば特に限定されず、表面処理により疎水化されたものであってもよい。例えば、親水性酸化物微粒子をシランカップリング剤等で表面処理を施し、表面状態を疎水性とした微粒子を用いることもできる。酸化物の種類も、疎水性を有するものであれば限定されない。例えばシリカ(二酸化ケイ素)、アルミナ、チタニア等の少なくとも1種を用いることができる。これらは公知又は市販のものを採用することができる。例えば、シリカとしては、製品名「AEROSIL R972」、「AEROSIL R972V」、「AEROSIL R972CF」、「AEROSIL R974」、「AEROSIL RX200」、「AEROSIL RY200」(以上、日本アエロジル株式会社製)、「AEROSIL R202」、「AEROSIL R805」、「AEROSIL R812」、「AEROSIL R812S」、(以上、エボニック デグサ社製)等が挙げられる。チタニアとしては、製品名「AEROXIDE TiO2 T805」(エボニック デグサ社製)等が例示できる。アルミナとしては、製品名「AEROXIDE Alu C」(エボニック デグサ社製)等をシランカップリング剤で処理して粒子表面を疎水性とした微粒子が例示できる。
【0034】
このなかでも、疎水性シリカ微粒子を好適に用いることができる。とりわけ、より優れた撥水性が得られるという点において、表面にトリメチルシリル基を有する疎水性シリカ微粒子が好ましい。これに対応する市販品としては、例えば前記「AEROSIL R812」、「AEROSIL R812S」(何れもエボニック デグサ社製)等が挙げられる。
【0035】
撥水層の基材となるオレフィン系共重合体は、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン(エチレンとα−オレフインとの共重合体)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アルキルアクリレート共重合体、エチレン−アルキルメタクリレート共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、低密度ポリエチレン等のアイオノマ、プロピレン系エラストマ材料等が使用可能であり、エチレン−酢酸ビニル共重合体が好適に用いられる。
【0036】
撥水層は、好ましくは、疎水性酸化物微粒子の含有量が40〜80質量%(より好ましくは40〜70質量%)、オレフィン系共重合体樹脂の含有量が60〜20質量%(より好ましくは60〜30質量%)である。この範囲の組成とすることによって、多層樹脂シート及び加熱成形後でも撥水性、液体の転落性を得ることができる。これに対して、疎水性酸化物微粒子の含有量が40質量%未満では、満足できる撥水性、液体の転落性を得られない場合があり、疎水性酸化物微粒子の含有量が80質量%を超えると、疎水性酸化物微粒子が剥がれ落ちる場合がある。
【0037】
[第二実施形態]
本発明の第二実施形態に係る熱可塑性樹脂シートは、
図3に示すように、一方の表面側に微細な凹凸形状を有する凹凸形状層(1)と、前記凹凸形状層(1)の前記一方の表面側にほぼ一定厚みで形成された撥水層(2)と、前記凹凸形状層(1)の他方の表面側にシーラント樹脂層(3)を介して積層されたスチレン系樹脂層(4)(基材層)とを備え、凹凸形状層(1)の前記一方の表面側の少なくとも表面部が、加熱延伸後も微細な凹凸形状を維持する架橋体であり、撥水層(2)は疎水性酸化物微粒子を含有するオレフィン系共重合体樹脂からなる、撥水性を備えたシートである。すなわち、第二実施形態に係る熱可塑性樹脂シートの層構成は、上から下に向かって、撥水層(2)/凹凸形状層(1)/シーラント樹脂層(3)/スチレン系樹脂層(4)である。ここで、撥水層と凹凸形状層は、第一実施形態において説明したものと同じであるので、説明を省略する。但し、凹凸形状層の厚みは、好ましくは50〜250μm(より好ましくは50〜200μm)である。50μm未満であると、熱成形を経て引き伸ばされる際に凹凸形状層が切れてシーラント樹脂層(3)が剥き出しになる場合がある。また、250μmを超えると、加熱成形容器の打ち抜き時に樹脂ヒゲが発生する場合がある。
【0038】
<スチレン系樹脂層(4):基材層>
基材層となるスチレン系樹脂層を構成するスチレン系樹脂としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジメチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン系モノマーの単独又は共重合体、それらスチレン系モノマーと他のモノマーとの共重合体、例えばスチレン−アクリルニトリル共重合体(AS樹脂)、あるいは前記スチレン系モノマーとさらに他のポリマー、例えば、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等のジエン系ゴム質重合体の存在下にグラフト重合したグラフト重合体、例えばハイインパクトポリスチレン(HIPS樹脂)、スチレン−アクリルニトリルグラフト重合体(ABS樹脂)等が挙げられる。
【0039】
なかでもポリスチレン(GPPS樹脂)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS樹脂)が成形容器の剛性、成形性の観点から好ましい。
【0040】
スチレン系樹脂層は、ポリスチレン樹脂が60〜15質量%(より好ましくは55〜15質量%)、耐衝撃性ポリスチレン樹脂が40〜85質量%(より好ましくは45〜85質量%)の樹脂組成物から形成されるのが好ましい。耐衝撃性ポリスチレン樹脂が40%未満であると実用上十分な容器強度が得られなくなる場合があり、85質量%を超えると、熱成形時に熱盤付着等の不具合を引き起こす場合がある。
【0041】
スチレン系樹脂層には、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で、顔料、染料などの着色剤、シリコンオイルやアルキルエステル系等の離型剤、ガラス繊維等の繊維状強化剤、タルク、クレイ、シリカなどの粒状滑剤、スルホン酸とアルカリ金属などとの塩化合物やポリアルキレングリコール等の帯電防止剤及び紫外線吸収剤、抗菌剤のような添加剤を添加することができる。また、本発明の多層樹脂シートや成形容器の製造工程で発生したスクラップ樹脂を混合して用いることもできる。
【0042】
<シーラント樹脂層(3)>
シーラント樹脂層は、凹凸形状層とスチレン系樹脂層(基材層)の接着性を発現させるものである。樹脂成分としては、90〜95質量%の耐衝撃性ポリスチレン樹脂と、5〜10質量%の水添スチレン系熱可塑性エラストマーを含有してなる樹脂、あるいは100質量%のスチレン−共役ジエンブロック共重合体樹脂、もしくは100質量%の水添スチレン系熱可塑性エラストマー、又は100質量%の変性オレフィン系重合体樹脂がある。
【0043】
「スチレン系樹脂」とは、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジメチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン系モノマーの単独または共重合体、それらスチレン系モノマーと他のモノマーとの共重合体、例えばスチレン−アクリルニトリル共重合体(AS樹脂)、または、前記スチレン系モノマーとさらに他のポリマー、例えば、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等のジエン系ゴム質重合体の存在下にグラフト重合したグラフト重合体、例えば耐衝撃性ポリスチレン(HIPS樹脂)、スチレンーアクリルニトリルグラフト重合体(ABS樹脂)等が挙げられる。
【0044】
なかでも耐衝撃性ポリスチレン(HIPS樹脂)が成形容器の剛性、成形性の観点から好ましい。
【0045】
「水添スチレン系熱可塑性エラストマー」とは、スチレン系モノマーとブタジエンやイソプレンの共重合体の水素添加物であり、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の水素添加物(スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体の水素添加物(スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体)などが挙げられ、特にスチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体が好ましい。具体的にはJSR社製ダイナロン8601Pや旭化成社製タフテックP2000、H1041などが好適に使用でき、スチレンとエチレン・ブチレンの組成比が12/88〜67/33の範囲のものが好ましい。
【0046】
「スチレン−共役ジエンブロック共重合体」とは、その構造中にスチレン系単量体を主体とする重合体ブロックと共役ジエン単量体を主体とする重合体ブロックを含有する重合体を意味する。スチレン系単量体を主体とする重合体ブロックとは、スチレン系単量体に由来する構造のみからなる重合体ブロックと、スチレン系単量体に由来する構造を50質量%以上含有する重合体ブロックの何れをも意味する。同様に、共役ジエン単量体を主体とする重合体ブロックとは、共役ジエン単量体に由来する構造のみからなる重合体ブロックと、共役ジエン単量体に由来する構造を50質量%以上含有する重合体ブロックの何れをも意味する。
【0047】
ここで、使用されるスチレン系単量体としては、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1−ジフェニルエチレン等がある。本発明においては、スチレンが主体であるが、これらの他の成分を微量成分として1種以上含むものであってもよい。また、共役ジエン単量体とは、その構造中に共役二重結合を有する化合物であり、例えば1,3−ブタジエン(ブタジエン)、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2−メチルペンタジエン等があり、なかでもブタジエン、イソプレンは好適である。共役ジエン単量体は一種類あるいは二種類以上を用いることができる。
【0048】
また、スチレン−共役ジエンブロック共重合体は、共役ジエン含有量が、12〜30質量%(より好ましくは18〜27質量%)であるものが好ましい。ここで、共役ジエン含有量とは、共役ジエン単量体に由来する構造が全共重合体中に占める質量の割合を意味する。スチレン−共役ジエンブロック共重合体は一種類あるいは二種類以上を用いることができる。本発明において、スチレン−共役ジエンブロック共重合体とは、例えば共役ジエンがブタジエンである場合、スチレン−ブタジエン(SB)の二元共重合体及びスチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)の三元共重合体(SBS)のいずれであってもよく、スチレンブロックが3つ以上でブタジエンブロックが2つ以上の複数のブロックで構成される樹脂であってもよい。更に、各ブロック間のスチレンとブタジエンの組成比が連続的に変化するようないわゆるテーパーブロック構造を有するものであってもよい。また、スチレン−共役ジエンブロック共重合体は市販のものをそのまま用いることもできる。
【0049】
「変性オレフィン系重合体樹脂」とは、エチレン、プロピレン、ブテン−1等の炭素数2〜8程度のオレフィンの単独重合体、それらのオレフィンとエチレン、プロピレン、ブテン−1、3−メチルブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、デセン−1等の炭素数2〜20程度の他のオレフィンや酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン等のビニル化合物との共重合体等のオレフィン系樹脂や、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体等のオレフィン系ゴムを、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸等の不飽和カルボン酸、または、その酸ハライド、アミド、イミド、無水物、エステル等の誘導体、具体的には、塩化マレニル、マレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸グリシジル等でグラフト反応条件下に変性したものが代表的なものとして挙げられる。
【0050】
なかでも、不飽和ジカルボン酸またはその無水物、特にマレイン酸またはその無水物で変性したエチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、又はエチレン−プロピレン又はブテン−1共重合体ゴムが好適である。
【0051】
シーラント樹脂層(3)の厚みは、好ましくは20〜90μm、より好ましくは40〜80μmである。20μm未満であると、容器成形時に凹凸形状層と基材層間で層間剥離が発生する場合があり、また、90μmを超えると、加熱成形容器の打ち抜き時に樹脂ヒゲが発生する場合がある。
【0052】
[第三実施形態]
本発明の第三実施形態に係る熱可塑性樹脂シートは、
図4に示すように、一方の表面側に微細な凹凸形状を有する凹凸形状層(1)と、前記凹凸形状層(1)の前記一方の表面側にほぼ一定厚みで形成された撥水層(2)と、前記凹凸形状層(1)の他方の表面側に直接積層されたスチレン系樹脂層(4a)(基材層)とを備え、凹凸形状層(1)の前記一方の表面側の少なくとも表面部が、加熱延伸後も微細な凹凸形状を維持する架橋体であり、撥水層(2)は疎水性酸化物微粒子を含有するオレフィン系共重合体樹脂からなる、撥水性を備えたシートである。すなわち、第三実施形態に係る熱可塑性樹脂シートの層構成は、上から下に向かって、撥水層(2)/凹凸形状層(1)/スチレン系樹脂層(4a)であり、第三実施形態に係る熱可塑性樹脂シートからシーラント樹脂層を除いた層構成を有している。ここで、撥水層と凹凸形状層は、第一実施形態及び第二実施形態における層と同じであるので、説明を省略する。一方、本実施形態におけるスチレン系樹脂層(4a)は、凹凸形状層と十分な接着性を備えたものとするのが好ましく、このために、第二実施形態において説明したスチレン系樹脂(4)に、水添スチレン系熱可塑性エラストマーを添加した樹脂組成物を用いて形成するのが好ましい。この水添スチレン系熱可塑性エラストマーは、第二実施形態のシーラント樹脂層(3)において使用したものと同じである。
【0053】
よって、第三実施形態に係る熱可塑性樹脂シートにおいて、基材層として利用されるスチレン系樹脂層は、好ましくは、60〜15質量%(より好ましくは55〜15質量%)のポリスチレン樹脂と40〜85質量%(より好ましくは45〜85質量%)の耐衝撃性ポリスチレン樹脂とを含んでなるスチレン系樹脂層(第二実施形態に係る樹脂シートにおいて好適に用いられるスチレン系樹脂層)100質量部に対して5〜10質量部の水添スチレン系熱可塑性エラストマーを更に含有してなるエラストマー含有スチレン系樹脂組成物である。水添スチレン系熱可塑性エラストマーの添加量が5質量部未満では層間接着性が不十分になり、層間剥離が発生する場合があり、10質量部を超えると加熱成形容器の打ち抜き時に樹脂ヒゲが発生する場合がある。
尚、水添スチレン系熱可塑性エラストマーの代わりに、第二実施形態のシーラント樹脂層(3)に使用した他の樹脂、例えばスチレン−共役ジエンブロック共重合体樹脂、変性オレフィン系重合体樹脂を加えることもできる。
【0054】
[第四実施形態]
本発明の第四実施形態に係る熱可塑性多層樹脂シートは、
図5に示すように、一方の表面側に微細な凹凸形状を有する凹凸形状層(1)と、前記凹凸形状層(1)の前記一方の表面側にほぼ一定厚みで形成された撥水層(2)と、前記凹凸形状層(1)の他方の表面側に変性オレフィン系重合体樹脂層(5a)を介して積層された酸素バリア性樹脂層(6)と、該酸素バリア性樹脂層(6)の他面に変性オレフィン系重合体樹脂層(5b)を介して積層されたスチレン系樹脂層(4)(基材層)とを備え、凹凸形状層(1)の前記一方の表面側の少なくとも表面部が、加熱延伸後も微細な凹凸形状を維持する架橋体であり、撥水層(2)は疎水性酸化物微粒子を含有するオレフィン系共重合体樹脂からなる、撥水性を備えたシートである。すなわち、第四実施形態に係る熱可塑性樹脂シートの層構成は、上から下に向かって、撥水層(2)/凹凸形状層(1)/変性オレフィン系重合体樹脂層(5a)/酸素バリア性樹脂層(6)/変性オレフィン系重合体樹脂層(5b)/スチレン系樹脂層(4)である。ここで、撥水層と凹凸形状層は第一実施形態において説明したものと同じであり、スチレン系樹脂層(基材層)は第二実施形態において説明したものと同じであるので、説明を省略する。但し、凹凸形状層の厚みは、好ましくは50〜250μm(より好ましくは50〜200μm)である。50μm未満であると、熱成形を経て引き伸ばされる際に凹凸形状層が切れてシーラント樹脂層が剥き出しになる場合がある。また、250μmを超えると、加熱成形容器の打ち抜き時に樹脂ヒゲが発生する場合がある。
【0055】
<酸素バリア性樹脂層(6)>
酸素バリア性樹脂層を構成する酸素バリア性樹脂としては、例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂、ポリアミド樹脂等が代表的なものとして挙げられる。そのなかでも、加工性、成形性の面でエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂が好ましい。
【0056】
エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂は、通常、エチレン−酢酸ビニル共重合体を鹸化して得られるものであり、酸素バリア性、加工性、成形性を具備する為に、エチレン含有量が10〜65モル%、好ましくは20〜50モル%で、鹸化度が90%以上、好ましくは95%以上のものが好ましい。
【0057】
また、ポリアミド樹脂としては、カプロラクタム、ラウロラクタム等のラクタム重合体、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸の重合体、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−又は2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3−又は1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(p−アミノシクロヘキシルメタン)等の脂環式ジアミン、m−又はp−キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン等のジアミン単位と、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸等のジカルボン酸単位との重縮合体、及びこれらの共重合体等が挙げられる。
【0058】
ポリアミド樹脂として、具体的には、ナイロン6、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン611、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロンMXD6、ナイロン6/66、ナイロン6/610、ナイロン6/6T、ナイロン6I/6T等があり、なかでもナイロン6、ナイロンMXD6が好適である。
【0059】
酸素バリア性樹脂層の厚みは、好ましくは10〜50μm、より好ましくは20〜40μmである。10μm未満であると、成形容器の内容物の酸化による品質低下を抑える程度の酸素バリア性能が得られない場合があり、また、50μmを超えると、加熱成形容器の打ち抜き時に樹脂ヒゲが発生する場合がある。
【0060】
<変性オレフィン系重合体樹脂層(5a,5b)>
変性オレフィン系重合体樹脂層(5a,5b)を形成する変性オレフィン系重合体樹脂としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1等の炭素数2〜8程度のオレフィンの単独重合体、それらのオレフィンとエチレン、プロピレン、ブテン−1、3−メチルブテン−1、ペンテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、デセン−1等の炭素数2〜20程度の他のオレフィンや酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン等のビニル化合物との共重合体等のオレフィン系樹脂や、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体等のオレフィン系ゴムを、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸等の不飽和カルボン酸、または、その酸ハライド、アミド、イミド、無水物、エステル等の誘導体、具体的には、塩化マレニル、マレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸グリシジル等でグラフト反応条件下に変性したものが代表的なものとして挙げられる。
【0061】
なかでも、不飽和ジカルボン酸またはその無水物、特にマレイン酸またはその無水物で変性したエチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、又はエチレン−プロピレン又はブテン−1共重合体ゴムが好適である。
【0062】
変性オレフィン系重合体樹脂層の厚みとしては、何れの側も、好ましくは10〜50μm、より好ましくは20〜40μmである。10μm未満であると、十分な層間接着強度が得られなくなる場合があり、また、50μmを超えると、加熱成形容器の打ち抜き時に樹脂ヒゲが発生する場合がある。
【0063】
<熱可塑性樹脂シートの製造>
本発明に係る熱可塑性樹脂シートの製造方法は、限定されず、如何なる方法によってもよいが、典型的には、一方の表面側に凹凸形状を有する凹凸形状層からなる単層シート又は該凹凸形状層を含む多層の積層樹脂シートを作製し、ついで、凹凸形状層の凹凸形状の表面に電子線照射により架橋処理を施し、最後に凹凸形状層の凹凸形状の表面に撥水層を形成する工程を含んでなる。
【0064】
先ず、一方の表面側に凹凸形状を有する凹凸形状層からなる単層シート又は該凹凸形状層を含む多層の積層樹脂シートの作製に際しては、任意の樹脂シート形成方法を使用できる。例えば、単層の場合は1台の単軸押出機を、複層の場合は複数台の単軸押出機を用いて、各々の原料樹脂を溶融押出し、Tダイによって樹脂シートを得る方法が挙げられる。多層の場合は、マルチマニホールドダイを使用してもよい。尚、本発明の熱可塑性樹脂シートの各実施形態の層構成は、基本的に前述した通りであるが、他に、例えば、本発明の樹脂シートや成形容器の製造工程で発生したスクラップ原料を、物性等の劣化が見られない限り、スチレン系樹脂層へ添加してもよいし、更なる層として積層してもよい。
【0065】
次に、単層又は積層された多層樹脂シートに凹凸形状を形成するが、この方法も特に制限はなく、当業者に知られている任意の方法を使用することができる。例えば、押出成形方式を用いて製造する方法、フォトリソグラフィー方式を用いて製造する方法、熱プレス方式を用いて製造する方法、パターンロールとUV硬化樹脂とを用いて製造する方法等である。
【0066】
次に、凹凸形状層の凹凸形状を、加熱成形後においても保持し、所望の撥水性を維持するために、凹凸形状層の少なくとも表面部を架橋体とする。ここで、「凹凸形状層の少なくとも表面部」とは、シート表面となる凹凸形状層の表面部であって、凹凸形状部のほぼ全体を含む部位を意味する。この架橋処理は、樹脂シートの凹凸形状層が存在しているシート表面に対して電子線を照射することにより、行うことができる。すなわち、前述のように、凹凸形状層は、ポリエチレン樹脂を含有する組成物を用いて形成されている。ポリエチレンは、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリメチルアクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリブタジエン、ビニルアルコール、ポリアミドなどと同様に、電子線照射により分子鎖架橋が優先的に進行する架橋型高分子であり、なかでも直鎖状低密度ポリエチレンや直鎖状中密度ポリエチレンが架橋しやすく、特に直鎖状低密度ポリエチレンが最も架橋しやすい。よって、凹凸形状層が存在しているシート表面に対して電子線を照射すると、凹凸形状層の少なくとも表面部を架橋体とすることができる。
【0067】
ポリエチレン樹脂に対する電子線照射の条件は、加速電圧が110〜210kV、線量が120〜400kGyである。この条件範囲で電子線を凹凸形状シートの表面に照射することで、少なくとも表面部を、加熱成形後でも凹凸形状を維持する架橋体とすることが可能となる。また、単層の場合に凹凸形状シート全体へ照射しても、凹凸形状が形成されている反対面への電子線照射量は少量になるため、物性等に影響する虞はなく、また複層の場合に凹凸形状層を越えて照射しても、シーラント樹脂層等への電子線照射量は少量になるため、層間接着性等に影響する虞はない。これに対して、この条件よりも弱い照射条件では、凹凸形状層の凹凸形状部分を、その形状が加熱延伸後もほぼ維持される程度まで架橋させることができない一方、この条件よりも強い照射条件では、包装用の蓋材とのシール性不良(十分な剥離強度が発生しない)の虞がある。ここで、凹凸形状層の形成される架橋体の架橋度合いは、特に限定されるものではないが、熱可塑性多層樹脂シートを0.05〜2.5倍の延伸倍率で加熱延伸した場合に延伸前後の凸形状の高さが十分に維持され、好ましくは高さの低下率が30%以下、より好ましくは25%以下、更に好ましくは20%以下となる程度に架橋させる。上記延伸倍率は、食品用容器の成形において、容器の縁部部分の延伸倍率の一例であるが、他の用途の成形容器等においても、同一の条件下で加熱延伸した場合の凸形状高さの低下率を指標として架橋度合いを定めることができ、この条件を満たすシートによって成形した容器では、前述の撥水層との併用で、所望の撥水性が得られる。
【0068】
最後に、凹凸形状層の表面に撥水層を形成する。撥水層を形成する方法は特に限定されず、例えば、ロールコーティング、グラビアコーティング、バーコート、ドクターブレードコーティング、刷毛塗り、粉体静電法等の公知の塗工方法を採用することができる。また塗工液を調製する際の溶媒も、特に限定されず、水の他、例えばアルコール(エタノール)、シクロヘキサン、トルエン、アセトンIPA、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ブチルジグリコール、ペンタメチレングリコール、ノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、ヘキシルアルコール等の有機溶剤を適宜選択することができる。この際、微量の分散剤、着色剤、沈降防止剤、粘度調整剤等を併用することもできる。
【0069】
尚、上記においては、電子線照射による凹凸形状層の架橋処理を、凹凸形状層の上に撥水層を形成する前に行う例を説明したが、凹凸形状層の上に撥水層を積層した後に架橋処理を行ってもよい。但し、その場合には、撥水層に使用する基材樹脂の選択を、電子線照射による影響を受けないものにするか、ポリエチレンのように架橋型とする必要がある。
【0070】
<熱可塑性樹脂シート>
本発明の熱可塑性樹脂シートの厚みは、好ましくは500〜1200μm、より好ましくは700〜1000μmである。500μm未満では、熱成形して得られる容器の厚み分布が不良となる可能性があり、1200μmを超えると、容器の製造コストが高くなる場合がある。
【0071】
本発明に係る熱可塑性樹脂シートは、凹凸形状層の上部に撥水層を有し、加熱延伸後も微細な凹凸形状を維持する凹凸形状を設けているので、微細な凹凸形状と撥水層による撥水性が相俟って優れた撥水性を示す。すなわち、本発明の熱可塑性樹脂シートでは、前述のように、液体の接触角が100°以上であり、十分な撥水性を有しており、液体がシート上を転がる。接触角が100°未満ではシート上で液体の転落性が得られない場合があり、撥水性を具備しているとは言えない。
また、本発明に係る熱可塑性樹脂シートにおいては、液体の転落角が70°以下であることが好ましい。転落角が70°を越えると容器の縁部で液体の転落性が得られない場合があり、また容器などへの加熱成形後でも転落性を得られない場合がある。更に、液体の転落速度が、傾斜角70°での転落速度として、0.01m/sec〜0.2m/secであることが好ましい。この速度範囲にすることにより、加熱成形後でも液体の転落性を得ることができる。これに対して、0.01m/sec未満では容器の縁部で液体の転落性が得られない場合があり、また容器などへの加熱成形後でも転落性を得られない場合がある。
【0072】
<成形容器>
本発明の成形容器は、本発明の熱可塑性樹脂シートを熱成形してなる。熱成形方法としては、一般的な真空成形、圧空成形やこれらの応用として、シートの片面にプラグを接触させて成形を行うプラグアシスト法、又、シートの両面に一対をなす雄雌型を接触させて成形を行う、いわゆるマッチモールド成形と称される方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、成形前にシートを加熱軟化させる方法として非接触加熱である赤外線ヒーター等による輻射加熱等、公知のシート加熱方法を適応することができる。
本発明の成形容器は撥水性を有する。すなわち、成形容器の上縁部において、前述のように、液体の接触角が100°以上であり、液体がシート上を転がる。接触角が100°未満では成形容器の上縁部で液体の転落性が得られない場合があり、十分な撥水性を具備しているとは言えない。また、成形容器の撥水性は、液体の転落性によっても評価することができる。すなわち、容器の上縁部の傾斜角が70°であることから、成形容器での転落角が70°以下であることが好ましい。転落角が70°を超えると容器の上縁部での液体の転落性が得られない場合がある。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例及び比較例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は実施例等の内容に何ら限定されるものではない。
【0074】
実施例等で用いた各種原料は以下の通りである。
(1)凹凸形状層
・(A−1)直鎖状中密度ポリエチレン樹脂(C4)「ネオゼックス 45200」(プライムポリマー社製)
・(A−2)直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(C6)「ウルトゼックス 20200J」(プライムポリマー社製)
・(B)スチレン−共役ジエンブロック共重合体樹脂「730L」(電気化学工業社製)(ジエン含有量25質量%)
・(C)GPPS樹脂「G100C」(東洋スチレン社製)
(2)撥水層
・(D)疎水性酸化物微粒子:疎水性シリカ「AEROSIL R812S」(エボニック デグザ社製)1次粒子径:7nm
・(E)オレフィン系共重合体樹脂:「ケミパールS100」(三井化学社製)エマルジョン粒子径:100nm以下
(3)シーラント樹脂層及び変性オレフィン系重合体樹脂層
・(F)HIPS樹脂「トーヨースチロールH850N」(東洋スチレン社製、ブタジエン含量9.0質量%)
・(G)水添スチレン系熱可塑性エラストマー「タフテックP2000」(旭化成社製)
・(B)スチレン−共役ジエンブロック共重合体樹脂「730L」(電気化学工業社製)(ジエン含有量25質量%)
・(H)変性オレフィン系重合体樹脂「モディックF502」(三菱化学社製)
・(I)水添スチレン系熱可塑性エラストマー「タフテックH1041」(旭化成社製)
(4)基材層:スチレン系樹脂層
・(F)HIPS樹脂「トーヨースチロールH850N」(東洋スチレン社製、ブタジエン含量9.0質量%)
・(J)GPPS樹脂「HRM23」(東洋スチレン社製)
(5)酸素バリア性樹脂層
・(K)エチレン−ビニルアルコール共重合体「エバールJ−102B」(クラレ(株)製、エチレン含量32mol%、鹸化度99%以上)
【0075】
実施例等で作製した熱可塑性樹脂シートとその熱可塑性樹脂シートを使用して成形した容器についての各種特性の評価方法は以下の通りである。
(1)成形性
次の基準でヨーグルト容器の成形性を評価した。
良好:成形性良好
不良:加熱時、成形時に穴あき等が発生し、成形不良発生
(2)凹凸形状観察
シートの凹凸形状と、成形したヨーグルト容器の上縁部(
図6参照)における凹凸形状を、レーザー顕微鏡VK−X100(キーエンス社製)を用いて観察し、シートについては凸形状高さ、凸形状径、凸形状間隔を測定し、ヨーグルト容器については凸形状高さのみを記録した。また、凹凸形状断面観察用サンプルはミクロトームを用いて作製した。
(3)転落速度
転落速度は、自動接触角計DM−501(協和界面科学社製)を用いて測定した。シートを70°傾けた状態で、その撥水層を形成した凹凸形状層の表面を液体が転落していく速度を測定した。また試験液はヨーグルト(森永乳業社製「ビヒダスプレーン」)を用い、滴下量は20μLとした。
(4)シール性評価
成形したヨーグルト容器のフランジ部(
図6参照)部分を切り取り、ヒートシールテスター(佐川製作所製)を用いてヒートシールを実施した。ヒートシールテスターのシールコテ幅は1.0mmのものを使用し、シール材は森永乳業社製ヨーグルト「ビヒダスプレーン」に用いられている撥水性が付与された蓋材を使用した。シール温度は225℃であり、シール圧は0.36Mpaである。また、剥離強度はストログラフVE1D(東洋精機社製)を用いて、ストログラフの一方のチャック部に蓋材を挟み、もう一方のチャック部にはシートサンプルを挟んで測定した。剥離速度は200mm/minである。剥離強度が2.8N以上であると、シール性が良好であると判定できる。
(5)延伸倍率
延伸倍率は、成形したヨーグルト容器において、容器の上縁部(
図6参照)の厚みを測定し、下記の式で算出した。
延伸倍率=シート厚み/成形品縁部の厚み
(6)凸形状高さの低下率
凸形状高さの低下率は、成形したヨーグルト容器において、容器の上縁部(
図6参照)の凸形状高さを測定し、下記の式で算出した。
【数1】
凸形状高さの低下率が30%以下であると、成形前後で微細な凹凸形状が維持されていると判定できる。
(7)接触角及び転落角
接触角及び転落角は、シートと成形したヨーグルト容器について、自動接触角計DM−501(協和界面科学社製)を用いて測定した。ヨーグルト容器においては、容器の上縁部(
図6参照)を切り取り、測定した。また、試験液はヨーグルト(森永乳業社製「ビヒダスプレーン」)を用い、滴下量は、接触角測定時は2μL、転落角測定時は20μLとした。
接触角が100°以上であると撥水性が高く、ヨーグルトの付着を防止できると判定できる。また転落角が70°以下であると撥水性が高く、ヨーグルトの付着を防止できると判定できる。
(8)打ち抜き性
成形したヨーグルト容器の打ち抜き(
図7参照)後、容器の切断面を目視で観察し、以下の基準で評価した。
良好:切断面に樹脂ヒゲが見られない。
不良:切断面に樹脂ヒゲ、バリが見られる。
(9)容器強度
成形したヨーグルト容器の強度を、ストログラフVE1D(東洋精機社製)を用い、JIS K7181に準拠し、試験速度50mm/minの条件下で測定し、圧縮強度が25N以上であるものを良好と判定した。
(10)酸素透過率
シートの酸素透過率は、OX−TRAN酸素透過率測定装置(Mocon社製)を用いて、JIS K7126−B法に準拠し、温度25℃、相対湿度65%の測定条件下で測定した。酸素透過率が3.0ml/m
2・day・atm未満であると酸素バリア性が良好であると判定できる。
【0076】
<実施例1(
図1の層構成)>
1台の40mm単軸押出機を使用し、Tダイ法により、樹脂シートを押し出した。この押出しシートを、レーザー彫刻法で表面に凹凸形状を付与した転写ロールとタッチロールでキャスティングし、表面に凹凸形状を付与した凹凸形状層からなる熱可塑性樹脂シートを得た。シート厚みは0.9mmであり、凹凸形状転写ロールとタッチロールの温調は85℃であり、タッチ圧は9MPaとした。
【0077】
上記で得た凹凸形状を付与した凹凸形状層からなる熱可塑性樹脂シートを、電子線照射装置(アイ・エレクトロンビーム社製)を用いて、照射条件1(加速電圧:150kV、線量:200kGy)又は照射条件2(加速電圧:200kV、線量:250kGy)、照射条件3(加速電圧:200kV、線量:150kGy)の照射条件で電子線照射し、凹凸形状層の架橋処理を実施した。
【0078】
ついで、凹凸形状層の表面に撥水層を形成するために、疎水性シリカとオレフィン系共重合体樹脂を、疎水性シリカが59質量%、オレフィン系共重合体樹脂が41質量%となるように混合した分散液(溶媒は精製水/エタノールの混合液)を作製した。この混合分散液をバーコーターを用いて、架橋処理した凹凸形状層表面にコーティングし、これを100℃で乾燥させて撥水層を形成させた。この凹凸形状層の表面に撥水層を形成した熱可塑性樹脂シートの組成を表1(撥水層の括弧内の数値は乾燥後の撥水層の厚みを示す)に示した。
【0079】
また上記のようにして作製した樹脂シートについて、その各種特性を前述の方法によって評価した。また、得られた樹脂シートについて、ヨーグルト容器の金型を用い、真空/圧空成形機(浅野研究所社製)でヨーグルト容器の成形品(
図6参照)を作製し、その容器についての各種特性も前述の方法によって評価した。結果を表2に示す。
【0080】
【表1】
【表2】
【0081】
<実施例2〜12、比較例1〜7>
凹凸形状層、撥水層の組成、厚み、電子線照射条件を、表1に示すように設定した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜12及び比較例1〜7に係る熱可塑性樹脂シートを作製し、またその熱可塑性樹脂シートを用いて成形したヨーグルト容器について、実施例1におけるものと同様の評価試験を実施し、結果を表2に示した。
【0082】
尚、比較例1では撥水層を形成せず、電子線照射による架橋処理を実施せず、比較例2では凹凸形状を付与していない。比較例3では電子線照射による架橋処理を実施せず、比較例4では凸形状高さを低くし、電子線照射による架橋処理を実施しない組成であり、比較例5は撥水層にオレフィン系共重合体樹脂が用いられていない組成である。比較例6では撥水層に疎水性の表面処理を実施していないシリカを用いた組成であり、比較例7では凹凸形状シートをポリエチレン樹脂のみでの組成である。
【0083】
表2に示した結果から以下のことが明らかになった。
実施例1〜12の全てにおいて、シートでの撥水性(接触角、転落速度)、及び成形品での凸形状高さ低下率、撥水性(接触角、転落角)、シール性、容器成形性、打ち抜き性に関する評価基準を全て満足する結果が得られた。これに対して、比較例1〜6では、シート又は容器の上縁部の何れかでヨーグルトが転がらなかった。比較例7では、蓋材との剥離強度が低く、容器の打ち抜き性で樹脂バリが発生する結果となった。
【0084】
<実施例13(
図3の層構成)>
3台の40mm単軸押出機を使用し、フィードブロック法により、凹凸形状層75μm/シーラント樹脂層40μm/スチレン系樹脂層785μmという層構成を有する厚み900μmの多層樹脂シートをTダイより押し出した。尚、スチレン系樹脂層としては、HIPS樹脂とGPPS樹脂を質量比80/20(HIPS/GPPS)で混合したものを用いた。
【0085】
上記で得た押出シートを、レーザー彫刻法で表面に凹凸形状を付与した転写ロールとタッチロールでキャスティングし、シート表面に凹凸形状を付与した熱可塑性多層樹脂シートを得た。シート厚みは0.9mmであり、凹凸形状転写ロールとタッチロールの温調は85℃であり、タッチ圧は9MPaとした。
【0086】
上記で得た凹凸形状を付与した熱可塑性多層樹脂シートを、電子線照射装置(アイ・エレクトロンビーム社製)を用いて、照射条件1(加速電圧:150kV、線量:200kGy)又は照射条件2(加速電圧:200kV、線量:250kGy)、照射条件3(加速電圧:200kV、線量:150kGy)の照射条件で電子線照射し、凹凸形状層の架橋処理を実施した。
【0087】
ついで、凹凸形状層の表面に撥水層を形成するために、疎水性シリカとオレフィン系共重合体樹脂を、疎水性シリカが59質量%、オレフィン系共重合体樹脂が41質量%となるように混合した分散液(溶媒は精製水/エタノールの混合液)を作製した。この混合分散液をバーコーターを用いて、架橋処理した凹凸形状層表面にコーティングし、これを100℃で乾燥させて撥水層を形成させた。この凹凸形状層の表面に撥水層を形成した熱可塑性樹脂シートの各層の組成、層構成を表3(撥水層の括弧内の数値は乾燥後の撥水層の厚みを示す)に示した。
【0088】
また上記のようにして作製した熱可塑性樹脂シートについて、その各種特性を前述の方法によって評価した。また、得られた熱可塑性樹脂シートについて、ヨーグルト容器の金型を用い、真空/圧空成形機(浅野研究所社製)でヨーグルト容器の成形品を作製し、その容器についての各種特性も前述の方法によって評価した。結果を表4に示す。
【0089】
【表3】
【表4】
【0090】
<実施例14〜24、比較例8〜17>
凹凸形状層、撥水層、その他の多層樹脂シート各層の組成、厚み、電子線照射条件を、表3に示すように設定した以外は実施例13と同様にして、実施例14〜24及び比較例8〜17に係る熱可塑性樹脂シートを作製し、またその熱可塑性樹脂シートを用いて成形したヨーグルト容器について、実施例13におけるものと同様の評価試験を実施し、結果を表4に示した。
【0091】
尚、比較例8では撥水層を形成せず、電子線照射による架橋処理を実施せず、比較例9では凹凸形状を付与していない。比較例10では電子線照射による架橋処理を実施せず、比較例11では凸形状高さを低くし、電子線照射による架橋処理を実施しない組成であり、比較例12は撥水層にオレフィン系共重合体樹脂が用いられていない組成である。比較例13ではシーラント樹脂層を積層していない組成であり、比較例14では撥水層に疎水性の表面処理を実施していないシリカを用いた組成であり、比較例15では凹凸形状層をポリエチレン樹脂のみでの組成であり、比較例16では水添スチレン系熱可塑性エラストマーを2質量%添加した組成であり、比較例17は凹凸形状層がスチレン−共役ジエンブロック共重合体とポリスチレン樹脂からなる組成であり、スチレン系樹脂層のポリスチレン樹脂が80質量%添加した組成である。
【0092】
表4に示した結果から以下のことが明らかになった。
実施例13〜24の全てに、シートでの撥水性(接触角、転落速度)、及び成形品での凸形状高さ低下率、撥水性(接触角、転落角)、シール性、打ち抜き性、容器剛性に関する評価基準を全て満足する結果が得られた。これに対して、比較例8〜12及び14、17では、シート又は容器の上縁部の何れかでヨーグルトが転がらなかった。比較例13、16では、接着性が不十分であり層間剥離が発生した。比較例15では、蓋材との剥離強度が低く、容器の打ち抜き性で樹脂バリが発生する結果となった。
【0093】
<実施例25(
図4の層構成)>
2台の40mm単軸押出機を使用し、フィードブロック法により、凹凸形状層75μm/スチレン系樹脂層825μmという層構成を有する厚み900μmの多層樹脂シートをTダイより押し出した。尚、スチレン系樹脂層として、HIPS樹脂とGPPS樹脂を質量比80/20/5(HIPS/GPPS/水添スチレン系熱可塑性エラストマー)で混合したものを用いた。
上記で得た押出シートについて、実施例13と同様にして、凹凸形状付与加工、撥水層形成加工を施し、実施例25に係る熱可塑性樹脂シートを形成した(表3参照)。形成した熱可塑性樹脂シートについて、実施例13と同様の評価試験を行うと共に、ヨーグルト容器の成形品を作製し、各種特性を評価した。結果を表4に併せて示す。
【0094】
<実施例26、比較例18>
凹凸形状層、撥水層、スチレン系樹脂層の組成、厚み、電子線照射条件を、表3に示すように設定した以外は実施例25と同様にして、実施例26及び比較例18に係る熱可塑性樹脂シートを作製し、その特性を評価すると共に、その熱可塑性樹脂シートを用いて成形したヨーグルト容器について評価試験を実施し、結果を表4に示した。尚、比較例18は水添スチレン系熱可塑性エラストマーを30質量%添加した組成である。
【0095】
表4に示した結果から以下のことが明らかになった。
実施例25〜26においては、シートでの撥水性(接触角、転落速度)、及び成形品での凸形状高さ低下率、撥水性(接触角、転落角)、シール性、打ち抜き性、容器剛性に関する評価基準を全て満足する結果が得られた。これに対して、比較例18では、容器の打ち抜き性で樹脂バリが発生する結果となった。
【0096】
<実施例27>
5台の40mm単軸押出機を使用し、フィードブロック法により、凹凸形状層75μm/変性オレフィン系重合体樹脂層20μm/酸素バリア性樹脂層30μm/変性オレフィン系重合体樹脂層20μm/スチレン系樹脂層755μmという層構成を有する厚み900μmの多層樹脂シートをTダイより押し出した。尚、スチレン系樹脂層としては、HIPS樹脂とGPPS樹脂を質量比80/20(HIPS/GPPS)で混合したものを用いた。
【0097】
上記で得た押出しシートを、レーザー彫刻法で表面に凹凸形状を付与した転写ロールとタッチロールでキャスティングし、シート表面に凹凸形状を付与した熱可塑性多層樹脂シートを得た。シート厚みは0.9mmであり、凹凸形状転写ロールとタッチロールの温調は85℃であり、タッチ圧は9MPaとした。
【0098】
上記で得た凹凸形状を付与した熱可塑性多層樹脂シートを、電子線照射装置(アイ・エレクトロンビーム社製)を用いて、照射条件1(加速電圧:150kV、線量:200kGy)又は照射条件2(加速電圧:200kV、線量:250kGy)の照射条件で電子線照射し、凹凸形状層の架橋処理を実施した。
【0099】
ついで、凹凸形状層の表面に撥水層を形成するために、疎水性シリカとオレフィン系共重合体樹脂を、疎水性シリカが59質量%、オレフィン系共重合体樹脂が41質量%となるように混合した分散液(溶媒は精製水/エタノールの混合液)を作製した。この混合分散液をバーコーターを用いて、架橋処理した凹凸形状層表面にコーティングし、これを100℃で乾燥させて撥水層を形成させた。この凹凸形状層の表面に撥水層を形成した熱可塑性多層樹脂シートの各層の組成、層構成を表5(撥水層の括弧内の数値は乾燥後の撥水層の厚みを示す)に示した。
【0100】
また上記のようにして作製した多層樹脂シートについて、その各種特性を前述の方法によって評価した。また、得られた多層樹脂シートについて、ヨーグルト容器の金型を用い、真空/圧空成形機(浅野研究所社製)でヨーグルト容器の成形品を作製し、その容器についての各種特性も前述の方法によって評価した。結果を表6に示す。
【表5】
【表6】
【0101】
<実施例28〜36、比較例19〜26>
凹凸形状層、撥水層、その他の多層樹脂シート各層の組成、厚み、電子線照射条件を、表1に示すように設定した以外は実施例1と同様にして、実施例28〜36及び比較例19〜26に係る熱可塑性多層樹脂シートを作製した。
【0102】
尚、比較例19では撥水層を形成せず、電子線照射による架橋処理を実施せず、比較例20では凹凸形状を付与していない。比較例21では電子線照射による架橋処理を実施せず、比較例22では凸形状高さを低くし、電子線照射による架橋処理を実施しない組成であり、比較例23は撥水層にオレフィン系共重合体樹脂が用いられていない組成である。比較例24では酸素バリア樹脂層を積層していない組成であり、比較例25では撥水層に疎水性の表面処理を実施していないシリカを用いた組成であり、比較例26はポリエチレン樹脂のみでの組成である。
【0103】
表6に示した結果から以下のことが明らかになった。
実施例27〜36の全てに、シートでの撥水性(接触角、転落速度)、酸素バリア性、及び成形品での凸形状高さ低下率、撥水性(接触角、転落角)、シール性、打ち抜き性、容器剛性に関する評価基準を全て満足する結果が得られた。これに対して、比較例19〜23及び25では、シート又は容器の上縁部の何れかでヨーグルトが転がらなかった。比較例24では、酸素透過率が著しく高く、容器強度が不十分であった。比較例26では、蓋材との剥離強度が低く、容器の打ち抜き性で樹脂バリが発生する結果となった。
【0104】
以上、様々な実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。またその様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることは、特許請求の範囲の記載から明らかである。