(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1Aにモータ駆動電力変換システムでのモータ1aの損失を説明する図を示す。1aは、交流モータである。交流電源から供給された電源を順変換器2aで整流し、平滑コンデンサ3により平滑して直流に変換する。次に、直流電源から逆変換器4により再び交流に変換し、モータ1aのトルク、回転速度を制御しながらモータ1aを駆動する。なお、逆変換器4はスイッチング素子5およびフライホイルダイオード6で構成される。モータ1aの出力Poutは回転速度Nf、トルクTとし、これらはモータ出力軸に動力として負荷に与えられその機械を駆動する。モータ出力Poutの単位はワット(W)として示される。一方入力電力Pinはモータ駆動装置から各相電圧V、電流Iと、相電圧Vと電流Iの位相差である力率cosφで与えられ、3相電力として単位はワット(W)で示される。入力電力と出力電力の差は全損失になり、銅損、鉄損、漂遊負荷損、機械損などを含む。これらを含む全損失がモータの発熱や音に変わり周辺に放出される。なお、図中の矢印の幅は、電力の大きさの程度を表し、定常状態ではモータ1aが入力電力Pinを得て、モータ出力Poutを出力するので、入力電力Pinが大きくモータ出力Poutは小さくなり、小さくなった分は損失Plossとなる。
【0034】
図1Bは、モータが四象限運転を行うエレベータ用モータ1bの場合を示す。エレベータ用モータは垂直方向に昇降動作を行い、下降時は重力方向に乗り物ケージが落下するのを抑えながらモータトルクは上昇方向に出力しながら、速度は下降方向にスムーズに動かす回生動作を行う。回生動作は重力により乗り物ケージが落下することでモータ回転軸が外部から回されるため、一種の発電機モードとなり、発電(回生)されたエネルギーがエレベータ用モータ1bから逆変換器4に戻り、平滑コンデンサ3に発電(回生)エネルギーを充電する。2bは電源回生機能付順変換器で構成は4の逆変換器と同一で、平滑コンデンサ3に蓄積された発電(回生)エネルギーを49の交流リアクトルを通して電源に回生する。このとき入力電力Pinとモータ出力Poutの関係は、エネルギーの流れは、負荷(機械)側からモータ1bを通り、逆変換器4、平滑コンデンサ3、電源回生機能付順変換器2b、交流リアクトル49を経て電源に回生される。このとき、図中の矢印の方向は
図1bとは逆となり、矢印の幅はモータ出力Poutが最も大きく入力電力Pinが小となる。
なお、このとき損失Plossの矢印の方向は、
図1aと同一方向で損失する方向であり、矢印の方向が逆(エネルギーが生み出される)方向になることはあり得ない。
【0035】
図2は、モータとモータ駆動電力変換装置の構成は
図1aと同一であるが、入力電力Pinをモータの入力端子部ではなく、モータ駆動装置の逆変換器4の入力部とし、順変換器2aの出力点の中間電位となる平滑コンデンサ3の部分としている。これはユーザ機械において、モータとモータ駆動電力変換装置が機械内に共に据え付けられ、モータの温度上昇で同一室内のモータ駆動電力変換装置の温度も上昇し、互いが室温を上昇させるため、全損失をモータとモータ駆動電力変換装置の合計として対応できる場合を示している。
【0036】
図3Aは、永久磁石形エンコーダ(センサ)付ACサーボモータ駆動電力変換システムの過負荷保護ブロック図を説明する図である。
図3Aでは入力電力Pinを検出する点を、
図1aに示す逆変換器4の出力(モータの入力端子部)としている。2aは順変換器で交流電源を全波整流して直流に変換し、3の平滑コンデンサで滑らかな直流に平滑する。この直流電源は逆変換器4に接続され、5のスイッチング素子と逆並列に接続された6のフライホイルダイオードで構成されている。逆変換器4の出力は、動力線に設けられた9及び10のU相、W相電流検出器CTu、CTwを通してモータ1aに接続される。1aはモータ全体を示す。モータ1aはACサーボモータであり、永久磁石形同期モータ7aであり、永久磁石形同期モータ7aと、モータ軸に機械的に連結され、前記モータ7aの位置、回転速度を検出し、前記モータ7aの回転子の磁極位置を検出するエンコーダ8で構成される。
【0037】
エンコーダ8の出力は、制御ロジック回路29の位置・速度磁極位置演算器17aに出力される。位置・速度磁極位置演算器17aでは、永久磁石形同期モータ7aの回転速度Nfを、速度誤差増幅器25で速度指令Nとの差ε(=N−Nf)を出力し、速度制御器(ASR)11で増幅される。増幅された信号Iqはトルク電流指令となり、q軸電流誤差増幅器27に出力される。一方、永久磁石形同期モータ7aの電流は、U相電流検出器CTu 9とW相電流検出器CTw 10で検出され、電流フィードバックIuf、Iwf信号となって制御ロジック回路29の3相/2相変換器16に出力される。
【0038】
3相/2相変換器16では、Iuf、Iwf信号が入力され、3相信号からd、q軸直交で表される2相信号に変換される。このとき、位置・速度磁極位置演算器17aから、モータ7aの回転子の磁極位置信号θrを基準として、d、q軸の2相信号に変換される。3相/2相変換器16の一方のトルクフィードバック電流Iqfは、q軸電流誤差増幅器27で、トルク電流指令信号Iqとの差(Iq-Iqf)をとり、q軸電流制御器(ACR)13で増幅され、q軸のモータ電圧指令Vqが出力される。なお、d軸電流指令Idが零の場合は、回転子の永久磁石の磁束で制御される。d軸電流指令Idにある値の電流を流すと界磁弱め制御や、電流位相を変えることにより力率や効率の制御などが行われる。d軸電流指令Idは、d軸電流誤差増幅器26で、d軸電流フィードバックIdfとの差(Id−Idf)を出力し、d軸電流制御器(ACR)12で増幅され、d軸モータ電圧指令Vdとなる。
【0039】
Vd、Vq信号は、2相/3相変換器14でd軸q軸直交の2相信号から、3相信号Vu、Vv、Vwに変換される。なおここでも、位置・速度磁極位置演算器17aから回転子の磁極位置信号θrを基準として変換される。この3相信号Vu、Vv、VwはPWM回路15でPWM(Pulse Width Modulation)信号の形で逆変換器4のスイッチング素子5のゲート信号として与えられ、永久磁石形同期モータ(SM)7aが制御されるようになっている。
【0040】
つぎに全損失演算・積算回路23について説明する。制御ロジック回路29内の速度制御器(ASR)11、d軸及びq軸電流制御器(ACR)の12、13、2相/3相変換器14、3相/2相変換器16、位置・速度磁極位置演算器17a及び誤差増幅器25〜27は、CPUやDSPと、ソフトウェアとの協働によって実現される。全損失演算・積算回路23内の各ブロック図も同様に演算装置とソフトウェアとの協働で実現される。モータ電流フィードバックIuf、Iwf信号は、トルク演算器18でモータのトルクTが演算される。d軸電流指令Idが零の場合、モータトルクTはIqfに比例する。d軸電流指令Idに電流を与える場合のトルクは、モータ定数及びIdf、Iqfの演算で計算される。19は出力Pout演算器で、回転速度Nfを位置・速度磁極位置演算器17aの出力から取り込み、トルクTをトルク演算器18から取り込み、モータ出力Pout=2πNf・T/60を演算して求められる。なお、モータ出力Poutを図で表したものが
図8である。
図8は永久磁石形モータの加減速運転時の速度、トルク、出力を説明するタイムチャートである。図は正転時と逆転時の加速、定速(いずれも力行運転)および減速(回生運転)を示し、加減速時のトルクは摩擦による負荷トルクT1に、正転時は加速トルクはプラス方向に、減速トルクはマイナス方向に加算される。逆転時は、摩擦による負荷トルクはマイナスにであり、加速トルクはマイナス方向に加算され、減速トルクはプラスに加算される。出力Poutは、回転速度NfとトルクTの正負の極性付の積になり、
図8の出力Pout(W)の様に示される。
【0041】
図9は、回転速度−トルク特性を四象限領域で出力の符号の極性を説明する図である。第一象限は回転速度は(+)、トルクも(+)で掛け算した出力Pamaxは(+)で力行運転である。第一象限とは逆に回転速度、トルク共に(−)としたのが第三象限で、掛け算した出力は(−)どうしの積になり(+)で力行運転になる。第一象限でトルクの極性のみ逆(−)にしたのが第四象限であり、出力は(−)で回生運転となる。第二象限は、第三象限のトルクを逆(+)にしたもので、出力は(−)となり回生運転となる。即ち回転速度とトルクの極性が同方向に運転する場合が力行運転で、電源から得た電気エネルギーが、機械側に動力として与えられる。また、回転速度とトルクの極性が逆方向に運転する場合が回生運転で、機械側の動力エネルギーが電源に回生されようになっている。
【0042】
図3Aに戻り、説明する。20は電流演算器であり、モータの実効電流Iを、下記(数5)により演算する。
【0044】
演算された実効電流Iは、モータ入力電力演算器21へ出力される。モータ入力電力演算器21には、モータ相電圧(実効値)Vが2相/3相変換器14より入力される。2相/3相変換器14では3相相電圧Vu、Vv、Vwが演算されPWM回路15に出力されているので、その実効値Vを入手する。
【0045】
なお、モータ入力電力演算器21でI・cosφが必要となる。モータ入力相電圧、電流の力率cosφについて
図10〜12で説明する。
図10は、永久磁石形同期モータ1相分の等価回路を説明する図である。永久磁石形同期モータは回転すると発電機になるため誘起電圧E0を発生する。モータに流れる電流をIqfとして電流が流れると、モータ巻線の抵抗RaにはRa・Iqfの電圧降下が生じ、また、インダクタンスLaにはjω・La・Iqfのリアクタンス降下が発生する。これをベクトル図に表したものが
図11と
図12である。
図11は永久磁石形同期モータの力行時のベクトル図で、
図12は永久磁石形同期モータの回生時のベクトル図である。モータ入力の相電圧、電流の位相角φは
図11、
図12で表わされ、力行時は0<φ<90°となり、cosφは正の値となる。回生時のφは90°<φ<180°となり、cosφは負の値となる。
【0046】
ここで再度、
図3Aに戻り説明する。この位相角φは、力率cosφとしてモータ入力電力演算器21で演算される。3相入力電力Pinは、単相のV・I・cosφの3倍で求められ、モータ入力電力演算器21で演算される。出力Pout演算器19、モータ入力電力演算器21で算出されたPout、Pinは、引算回路28でPin−Poutが演算され、モータの全損失Plossが算出される。全損失Plossは、電子サーマル回路22に送られ電子サーマル演算周期であるサンプリングts毎に全損失Plossを、重み値に換算し、サンプリング毎に電子的カウンタに定格損失を越える場合は加算、定格損失未満では減算、定格損失時には重み値零を加算する。モータ運転中は常時全損失を加算、減算を繰り返し、ある閾値に達した場合、モータが過負荷であると判断してOL信号を保護処理回路24に出力し、モータを過負荷保護のため停止させる。
【0047】
図3Bは、
図2による永久磁石形エンコーダ(センサ)付ACサーボモータ駆動電力変換システムの過負荷保護ブロック図を説明する図である。
図3Bでは、入力電力Pinを検出する点をモータの入力端子部ではなく、モータ駆動装置の逆変換器4の入力部とし、その点は順変換器2aの出力と同一で平滑コンデンサ3の両端即ち中間電位とした点である。
図3Aと異なる部分は、順変換器2aの出力電流Idcを検出する直流側電流検出器32と、平滑コンデンサ3の両端電圧(P−N間電圧)を分圧抵抗で検出し、その分圧電圧を絶縁アンプを通して、DC入力電力演算器34にIdcとVpnを入力し、その信号の積を取り、出力Pinを導いた部分である。なお、直流側電流検出器32は順変換器2の負側(N側)で検出しているが、直流側電流検出器32は順変換器2の正側(P側)で検出しても良い。また、平滑コンデンサ3と順変換器2の間で検出しているが、平滑コンデンサ3と逆変換器4側の間(N側)で検出しても良い。更には、平滑コンデンサ3と逆変換器4側の間(P側)で検出しても良い。その場合は電流の方向が同一となる方向に、極性を合わせればよい。その他は
図3Aと同一のため変更となっている部分のみ説明する。
【0048】
順変換器2aと逆変換器4の中間には平滑コンデンサ3があり、その両端電圧VpnをP側分圧抵抗器30とN側分圧抵抗器31で分圧して、分圧点を絶縁アンプ33で主回路側と制御ロジック回路29側とを電気的に絶縁する。絶縁アンプ33の出力はVpnとしてDC入力電力演算器34に送られる。一方、直流側電流検出器32は主回路のIdcを検出し、CTの二次側から絶縁した電流信号Idcを出力して、入力電力演算器34に送られる。入力電力演算器34ではVpn・Idcの積演算し、入力電力Pinを引算回路28でPloss=Pin−Poutとして検出する。この場合、全損失Plossは、モータの全損失(銅損、鉄損、漂遊負荷損、機械損など)に、逆変換器4の損失(スイッチング素子5とフライホイルダイオード6の電力半導体素子の損失)が含まれる。
【0049】
図4Aは,
図1Aによる誘導形エンコーダ(センサ)付ベクトル制御モータ駆動電力変換システムの過負荷保護ブロック図を説明する図である。モータ7bは、誘導形ベクトル制御モータで、エンコーダ8の出力は位置・速度演算器17bに出力される。なお、誘導形ベクトル制御モータには、永久磁石は使われていないため、位置・速度演算器17bに磁極位置検出信号はなく、位置・速度が演算される。位置・速度演算器17bでは、誘導形ベクトル制御モータ7bの回転速度Nfを、速度誤差増幅器25で速度指令Nとの差ε(=N−Nf)を出力し、速度制御器(ASR)11で増幅される。増幅された信号Iqはトルク電流指令となり、q軸電流誤差増幅器27に出力されると共にすべり周波数演算器36に送られる。
【0050】
磁束演算器35は、誘導形ベクトル制御モータ7bの回転速度Nfを取り込み、基底回転速度までは一定磁束電流、基底回転速度以上で定出力制御とするため、磁束弱め制御となるように磁束電流Idを出力する。36はすべり周波数演算器であり、磁束電流Idが基底回転速度以下ではその出力のすべり角周波数ωsは、トルク電流に比例して出力される。なお、37は角周波数変換定数(2π/60)で実角速度周波数ωrに変換し、加算器38で出力角周波数ω1-=ωr+ωsを演算する。角周波数ω1-は、2相/3相変換器14及び3相/2相変換器16に送られ、ω1を基準にして2相/3相変換および3相/2相変換が行われる。なお、その他については
図3Aと同一のため、説明は省略する。
全損失演算・積算回路23については、
図4Aにおいても
図3Aと同様のため説明は省略する。
【0051】
図4bは、
図2による誘導形エンコーダ(センサ)付ベクトル制御モータ駆動電力変換システムの過負荷保護ブロック図を説明する図である。モータ7bは誘導形ベクトル制御モータであり、エンコーダ8の出力は、位置・速度演算器17bに出力される。
図4Aと異なる部分は、順変換器2aの出力電流Idcを検出する直流側電流検出器32と、平滑コンデンサ3の両端電圧(P−N間電圧)を分圧抵抗で検出し、その分圧電圧を絶縁アンプを通して、DC入力電力演算器34にIdcとVpnを入力し、その信号の積を取り、出力Pinを導いた部分である。
図4Aと異なる部分を次に示す。
【0052】
順変換器2aと逆変換器4の中間には平滑コンデンサ3があり、その両端電圧VpnをP側分圧抵抗器30とN側分圧抵抗器31で分圧して、分圧点を絶縁アンプ33で主回路側と制御ロジック回路29側とを電気的に絶縁する。絶縁アンプ33の出力はVpnとしてDC入力電力演算器34に送られる。一方、直流側電流検出器32は主回路のIdcを検出し、CTの二次側から絶縁した電流信号Idcを出力して、入力電力演算器34に送られる。入力電力演算器34ではVpn・Idcの積演算し、入力電力Pinを引算回路28でPloss=Pin-Poutとして検出する。この場合、全損失Plossは、モータの全損失(銅損、鉄損、漂遊負荷損、機械損など)に、逆変換器4の損失(スイッチング素子5とフライホイルダイオード6の電力半導体素子の損失)が含まれる。
【0053】
図5Aは、
図1Aによる永久磁石形センサレスブラシレスDCモータ(以下DCBLモータと略す)駆動電力変換システムの過負荷保護ブロック図を説明する図である。モータ7aは永久磁石形センサレスDCBLモータで、構造はエンコーダを用いないセンサレスの永久磁石形同期モータである。
図3Aの永久磁石形エンコーダ(センサ)付ACサーボモータとの違いは、エンコーダ(センサ)がないため、
図3Aでは位置・速度磁極位置演算器17aは位置・速度推定演算器17cとなり、2相/3相変換器14の出力から相電圧指令Vu、Vwを入力し、また、U相、W相電流検出器CTu 、CTw 9 、10から電流フィードバックを入力し、相電圧指令からモータ定数であるモータ巻線抵抗Ra、インダクタンスLaの電圧降下、リアクタンス降下をベクトル演算し、モータの誘起電圧を推定することで速度を推定している。位置・速度推定演算器17cで速度が推定できれば、
図5Aの動作は
図3Aと同様に扱うことができ、永久磁石形センサレスDCBLモータ17aが駆動できる。モータの過負荷保護は、全損失演算・積算回路23の動作により保護することができる。
【0054】
図5Aは、
図2による永久磁石形センサレスDCBLモータ駆動電力変換システムの過負荷保護ブロック図を説明する図である。モータ7aは
図5Aと同様、永久磁石形センサレスDCBLモータで、構造はエンコーダを用いないセンサレスの永久磁石形同期モータである。
図5Bでは、入力電力Pinを検出する点をモータの入力端子部ではなく、モータ駆動装置の逆変換器4の入力部とし、その点は順変換器2aの出力と同一である。
図5Aと異なる部分は、順変換器2aと逆変換器4の中間には平滑コンデンサ3があり、その両端電圧VpnをP側分圧抵抗器30とN側分圧抵抗器31で分圧して、分圧点を絶縁アンプ33で主回路側と制御ロジック回路29側とを電気的に絶縁する。
【0055】
絶縁アンプ33の出力はVpnとしてDC入力電力演算器34に送られる。一方、直流側電流検出器32は主回路のIdcを検出し、CTの二次側から絶縁した電流信号Idcを出力して、入力電力演算器34に送られる。入力電力演算器34ではVpn・Idcの積演算し、入力電力Pinを引算回路28でPloss=Pin−Poutとして検出する。この場合、全損失Plossはモータの全損失(銅損、鉄損、漂遊負荷損、機械損など)に、逆変換器4の損失(スイッチング素子5とフライホイルダイオード6の電力半導体素子の損失)が含まれる。
【0056】
図6Aは、
図1Aによる誘導形センサレスベクトル制御モータ駆動電力変換システムの過負荷保護ブロック図を説明する図である。モータ7bは誘導形センサレスベクトル制御モータで、構造はエンコーダを用いないセンサレス誘導形モータである。
図4Aの誘導形エンコーダ(センサ)付ベクトル制御モータとの違いは、エンコーダ(センサ)がないため、
図4Aでは、位置・速度演算器17bはエンコーダ8からの出力から位置・速度演算を行っていた。
図6Aでは、位置・速度推定演算器17cで、2相/3相変換器14の出力から相電圧指令Vu、Vwを入力し、また、U相、W相電流検出器CTu 、CTw 9、10から電流フィードバックを入力し、相電圧指令からモータ定数であるモータ巻線抵抗Ra、インダクタンスLaの電圧降下、リアクタンス降下をベクトル演算し、モータの誘起電圧を推定することで速度を推定している。位置・速度推定演算器17cで速度が推定できれば、
図6Aの動作は
図4Aと同様に扱うことができ、誘導形センサレスベクトル制御モータ17bが駆動できる。モータの過負荷保護は、全損失演算・積算回路23の動作により保護することができる。
【0057】
図6Bは、
図2による誘導形センサレスベクトル制御モータ駆動電力変換システムの過負荷保護ブロック図を説明する図である。モータ7bは誘導形センサレスベクトル制御モータで、構造はエンコーダを用いないセンサレス誘導形モータである。
図6Bでは入力電力Pinを検出する点をモータの入力端子部ではなく、モータ駆動装置の逆変換器4の入力部とし、その点は順変換器2の出力と同一である。
図6Aと異なる部分は、順変換器2の出力電流Idcを検出する直流側電流検出器32と、平滑コンデンサ3の両端電圧を検出するVpnから、DC入力電力演算器34の出力信号Pinの部分である。また、入力電力Pin検出部は
図3Bと同じため説明は省略する。モータの過負荷保護は、全損失演算・積算回路23の動作により保護することができる。この場合、全損失Plossはモータの全損失(銅損、鉄損、漂遊負荷損、機械損など)に、逆変換器4の損失(スイッチング素子5とフライホイルダイオード6の電力半導体素子の損失)が含まれる。
【0058】
図7Aは、
図1Aによる誘導形VFインバータ制御汎用モータ駆動電力変換システムの過負荷保護ブロック図を説明する図である。モータ7bは誘導形センサレス汎用モータで、構造はエンコーダを用いないセンサレス誘導形の汎用モータである。7bの誘導形汎用モータの回転速度Nfは、下記(数6)で表される。
【0060】
つぎに、最近のインバータは、
図6A、
図6Bで説明したようにセンサレスベクトル制御機能を持ち、また、VF一定制御で誘導形汎用モータを制御する機能も備えており、ユーザがセンサレスベクトル制御又はVF一定制御かを選択できるようになっている。VFインバータでは、モータに与える周波数fを変化させて速度を制御する。その時、周波数fに比例させて電圧Vも自動的に変え、V/F一定制御を行う。なお、モータの回転速度Nfは与えた周波数fに対し、すべりsの分だけ遅く回転する。VFインバータの基本動作を
図7aで説明する。周波数指令frevを電圧/周波数制御器39に入力し、電圧/周波数制御器39は周波数指令frevに従ってfを出力し、そのとき同時に電圧Vも周波数fに比例させて出力する。この電圧V、周波数fは40の3相分配器に送られ、周波数と共に変化する相電圧Vu、Vv、VwがPWM回路15に入力される。PWM回路15は、逆変換器4のスイッチング素子5にゲート信号を与え、誘導形汎用モータ7bを駆動する。以上がVFインバータの基本動作である。
【0061】
つぎに過負荷保護動作について説明する。誘導形汎用モータ7bの電流は、9、10のU相、W相電流検出器CTu、CTwでIuf、Iwfを検出する。このIuf、Iwfは実効値換算器41でv相電流IvfをIvf=−(Iuf+Iwf)で算出し、Iuf、Ivf、Iwfを3相全波整流または同期整流し、振幅レンジを調整して実効電流Iとして、42で電流トルク換算器より理想値トルクT(ideal)に換算する。この理想値トルクT(ideal)はベクトル制御インバータを兼ねているVFインバータの場合、モータ定数が既知で、電流とトルクの換算値より、センサレスベクトル制御時のトルクT(ideal)が得られる。T(ideal)は43のV/F対ベクトル最大トルク比演算係数部に送られる。V/F対ベクトル最大トルク比演算係数部43は、一般にインバータメーカから販売資料で公開されており機種毎に明記されている。
【0062】
図13はVF制御インバータの最大トルクを説明する図で、その一例を出力周波数(Hz)対出力トルク(%)特性に、センサレスベクトル制御の最大トルクT(vec)maxと、V/F制御の最大トルクT(V/F)maxが明示されている。V/F対ベクトル最大トルク比演算係数部43では、入力されたトルクT(ideal)に、T(V/F)max/T(vec)maxの最大トルク比演算係数を掛けて、VFインバータ制御時のモータトルクTを出力する。一方、電圧/周波数制御器39でインバータ出力周波数Fが出力され、46の同期回転速度換算係数部で入力された周波数Fに係数(120/2p)を掛け、同期回転速度Nsが得られる。ここですべりsを無視するとモータ回転速度Nf≒Nsであり、Nsをモータ回転速度Nfとみなし、出力Pout演算器19で2πNf・T/60の演算処理より出力Poutが得られる。また、入力電力Pinは44の掛算器で、3相分配器40よりU相電圧Vuを、U相電流検出器CTu 9よりU相電流Iufを入力し、掛算器44で両信号の積を演算し、45で2f除去フィルタ処理を行うとその出力は単相入力電力が得られる。この単相入力電力を47の3相倍率係数で3倍(×3)すると入力電力Pinが得られ、引算回路28でPin−Poutより誘導形VFインバータ駆動汎用モータ7bの全損失が得られる。全損失Plossは電子サーマル回路22に送られ電子サーマル演算周期であるサンプリングts毎に全損失Plossを重み値に換算し、サンプリング毎に電子的カウンタに定格損失を越える場合は加算、定格損失未満では減算、定格損失時には重み値零を加算する。モータ運転中は常時全損失を加算、減算を繰り返し、ある閾値に達した場合、モータが過負荷であると判断してOL信号を保護処理回路24に出力し、モータを過負荷保護のため停止させる。以上より、モータの過負荷保護は、全損失演算・積算回路23の動作により保護することができる。
【0063】
図7Bは、
図2による誘導形VFインバータ制御汎用モータ駆動電力変換システムの過負荷保護ブロック図を説明する図である。モータ7bは誘導形センサレス汎用モータで、構造はエンコーダを用いないセンサレス誘導形の汎用モータである。
図7Bでは入力電力Pinを検出する点をモータの入力端子部ではなく、モータ駆動装置の逆変換器4の入力部とし、その点は順変換器2の出力と同一である。
図7Aと異なる部分は、順変換器2の出力電流Idcを検出する直流側電流検出器32と、平滑コンデンサ3の両端電圧を検出するVpnから、DC入力電力演算器34の出力信号Pinの部分である。また、入力電力Pin検出部は
図3bと同じため説明は省略する。モータの過負荷保護は、全損失演算・積算回路23の動作により保護することができる。この場合、全損失Plossはモータの全損失(銅損、鉄損、漂遊負荷損、機械損など)に、逆変換器4の損失(スイッチング素子5とフライホイルダイオード6の電力半導体素子の損失)が含まれる。
【0064】
以上より、永久磁石形(センサ付)ACサーボモータ、永久磁石形(センサレス)DCBLモータ、誘導形(センサ付またはセンサレス)ベクトル制御モータ、VFインバータ駆動による汎用モータにおいて、モータの電流検出による過負荷保護ではなく、全損失検出による過負荷保護ができることを
図3A〜
図7Bで示した。
【0065】
つぎに、モータ減速中の回生運転中に、全損失が力行時と同様に(数4)で検出することを
図8を用いて説明する。全損失検出が一定速の定常運転時、およびモータ加速中に全損失検出ができることは容易に理解される。しかし
図8のi)回転速度Nfにおいて、減速時、回転速度Nfから電源オフし、自然停止による時間より早い時間で停止する場合には、モータトルクTはii)のトルクTdの様に負となり回生状態となる。このとき、モータの出力Poutと入力Pinはiii)のようになり、PinとPoutが両方負となる場合を考える。
なお、
図1は力行状態の入力Pin、出力Pout、全損失PLOSSを太矢印で示し、入力Pinが最も太く、出力Poutが細く、矢印が細くなった分、全損失PLOSSの太さになっていることを表している。
【0066】
図9は、回生時の入力、出力、全損失の関係を説明する図である。
図9では入力Pin、出力Poutは両方負のため
図1とは方向が逆となる。また、
図8のiii)の減速時の入力Pinと出力Poutの大きさ、すなわち絶対値は、出力Poutが大きい。これは電力(W)が、機械側からモータ1を通ってモータ駆動電力変換装置48に戻ってきていることを表している。このとき(数4)式はPLOSS=Pin−Poutであり、符号付で数値の大きさを絶対値で( )内に大、小を記入するとPin−Poutは(数7)となり、全損失PLOSSは正の値になり、力行状態でも回生状態でも損失で扱うことができる。したがって(数4)を変えなくてもそのまま算出できる。
【0068】
つまり、運転モードが変わっても常時、リアルタイムで全損失が検出できるのである。これは、銅損、鉄損や漂遊負荷損等のように、モータ内で発生している事象を、モータ駆動電力変換装置内で模擬関数を構成し、その模擬関数をモータ制御に使用すると同時に保護回路にも行うと、あるモータ定数が間違った場合、それに気づかずにモータが温度上昇しているのに、モータ駆動電力変換装置の模擬回路は、正常運転しているとして保護しない場合がある。一般に制御回路と保護回路は本来独立させ、保護回路側が監視の役割を負う。本願では全損失の検出方法は、制御とは完全に独立した構成としている。
【0069】
図14は、力行時のモータの速度−トルク特性において入力、損失、出力電力を説明する図である。図は横軸が回転速度Nf、縦軸がトルクTで、モータの最大トルクを点A-点B-点C-点Dで示す。また、モータの定格トルクTo、定格回転速度Nfoとする定格点を黒点で示している。つぎに定格出力をPout(0)とし、定格点の黒点を通るトルクT曲線はPout=2π・Nf・T/60を変形すると下記(数8)となる。
【0071】
この(数8)は、トルクTと回転速度Nfは反比例曲線となり、Pout=Pout(0)一定曲線を
図14に示す。また、
図14左側に各損失を明記しており、出力Pout曲線の上に、機械損、鉄損、漂遊負荷損、銅損を示し、銅損上のラインが入力電力Pinを示している。銅損は低速高トルク領域で、電流増加により全損失に占める割合が支配的となり、鉄損は(数1)(数2)より電流に影響されず高速領域で急に全損失に占める割合が増加し、高速領域を支配する。
【0072】
図15は、回生時のモータ回転速度−トルク特性において入力、損失、出力電力を説明する図である。本図は横軸が回転速度Nfで軸はプラス目盛、縦軸がトルクTで軸はマイナス目盛で記載している。これを
図9の一〜四象限グラフで示すと4象限の回生状態の図になり、
図15は、上下逆になるため
図14と同様に記載している。回生運転は機械側からモータ軸を回転させられ、出力電力Poutが最も大きくなり、このエネルギーを入力電源に返すため、モータやモータ駆動電力変換装置で損失が発生するので、入力電力Pinが小さくなる。
【0073】
図15は個々の損失を区分して記載していないが、入力電力Pinと出力Poutに挟まれた部分が全損失Plossとなる。全損失は低速領域の高トルク域で、銅損が支配的になり、高速域の最大トルクが下がった領域で鉄損が支配的になる。なお、回生状態でも全損失は(数4)で符号付演算すれば全損失はプラス量として常時算出できる。
【0074】
図16は、本実施形態の過負荷保護特性曲線を説明するための図である。全損失Ploss(%)と電子サーマル動作時間t(s)の関係を示した図で、漸近線を全損失Ploss=100(%)としKcは一定係数、電子サーマル動作時間t=Kc/Plossの反比例曲線を右側に平行移動した図である。なお、全損失Ploss=100(%)とは定格トルクTo、定格回転速度Nfoで運転した時の全損失Ploss(0)で、以下、Ploss(0)を定格損失と呼び、Ploss=100(%)を示す。電子サーマル動作時間t(s)を下記(数9)に示す。
【0076】
なお、(数9)には漸近線が2本あり、先に述べた漸近線Ploss=100(%)とx軸の全損失軸である。二つの直交する漸近線で挟まれる曲線は、第一象限曲線と第三象限曲線である。第一象限曲線は、短時間過負荷運転が何秒間運転できるかを示す。つぎに第三象限は、全損失が100(%)未満の電子サーマル動作を示す。モータは連続定格の場合、定格点では連続運転が可能なため、モータの巻線温度は、耐熱クラスで決まる最高許容温度近傍未満になるように製作されている。このため100%未満の軽負荷では、モータ放熱面積で決まる放熱量に対し、発熱量が低減されており放熱量が勝るため、モータの巻線温度は下がる。電子サーマル特性の動作は、第一象限曲線で全損失が100(%)を超えた時、電子サーマル積算カウンタはサンプリング時間毎に加算され続け、モータ保護する上限値に近づく。この状態で全損失が100%未満になると、第三象限曲線で積算されたカウンタをサンプリング時間毎に減算に推移する。即ち第一象限曲線は電子サーマル積算カウンタの加算特性であり、第三象限曲線は減算特性を示す曲線である。
【0077】
図17は、全損失最大印加時の傾きを説明する図である。一例として
図16で最大全損失Ploss=400%の時、電子サーマル動作時間がt(torip)秒の場合について説明する。
図17の1)は全損失Ploss=400(%)の最大損失がモータに与え続けられた図である。この時の電子サーマル積算カウンタ値を示したのが2)である。電子サーマル積算カウンタ値の最大値Kfは、量子化した分解能を考慮して6,000,000(digit)としておりカウンタ値がこの値に達した時に、保護のためモータを停止させる。上記の一例ではt(trip)秒でカウンタをトリップする。
モータの使用環境における使用温度の上限は一般的には40℃である。またモータは耐熱クラスにより最高許容温度が規格で決められており、次のとおりである。
耐熱クラス 最高許容温度(℃)
120(E) 120
130(B) 130
155(F) 155
180(H) 180
モータの温度上昇限度ΔTmaxは(耐熱クラスの最高許容温度)−(モータ使用温度の上限値40℃)−Tsとしており、Tsは巻線温度を抵抗法で測定する場合、巻線を絶縁する絶縁物が許容最高温度の最高点を対称にしているが、温度上昇を抵抗法により測定する場合は、平均温度上昇値を測定するものであリ、その差5〜15℃を考慮している。
【0078】
ここで耐熱クラス130(B)の例で、モータの温度上昇限度ΔTmax=80(K)とすると、
図17の2)の積算カウンタ値のmaxは温度上昇値80(K)が6,000,000(digit)に対応し、温度上昇値0(K)のスタート点がモータ使用温度の上限値40℃に相当する。
全損失Ploss=400(%)で電子サーマル動作時間がt(trip)秒でトリップさせるには、
図17の2)に傾斜aの直線y=axが描かれている。Δtは電子サーマルを演算するサンプリング時間、Δyは1回のサンプリング時間(s)で加減算する重み値である。電子サーマル積算カウンタ値のmax値をKfとする。ここで(数8)と直線y=ax=Kfより1回のサンプリング時間(s)に加減算する重み値Δyを求める。傾きa=(Δy/Δt)とし、tに上述の(数9)を代入すると、下記(数10)となり、このうちΔyは(数11)で示される。
【0081】
この(数11)式の(Kf×Δt/Kc)は一定値となり、比例定数である。これを図に示すと
図18となり、全損失100%以上が加算、100%以下が減算となる簡単な一次関数で表される。
【0082】
図19は、
図16とは異なる本実施形態の過負荷保護特性曲線を説明する図である。
図16と異なる点は、曲線は一つで、漸近線はx軸の全損失軸とy軸の電子サーマル動作時間軸としたことである。これは、全損失が少しでも発生するとモータ巻線は温度上昇するのでモータ巻線温度を忠実に摸擬するためで、定格出力時の全損失100%を超えたときに電子的な全損失時間積算カウンタが加算開始するのではない。電子サーマル動作時間tは、上述の(数9)t=Kc/Plossとなり、全損失と電子サーマル動作時間は反比例する。
【0083】
図20は、モータの耐熱クラスと過負荷印加時、モータ使用温度範囲の上限値から巻線温度が耐熱限度値まで上昇する動作を説明する図である。ここで、
図17で説明した内容を
図20に当てはめると、モータの使用環境における使用温度の上限は一般的には40℃である。またモータは耐熱クラスにより最高許容温度が規格で決められており、次のとおりである。モータの温度上昇限度ΔTmaxは(耐熱クラスの最高許容温度)−(モータ使用温度の上限値40℃)−Ts(抵抗法による平均温度と最高温度との温度差)として下記としている。
耐熱クラス 規格による最高許容温度(℃) 温度上昇許容値ΔTmax(K)
120(E) 120 75
130(B) 130 80
155(F) 155 105
180(H) 180 125
図20の時間t=0はモータの使用環境における使用温度の上限値として40℃からスタートし、モータの各耐熱クラスにより温度上昇許容値ΔTmaxに達すると、過負荷と判定しモータを停止させて保護する。電子的な全損失時間積算カウンタ動作に当てはめると、制御電源投入時に積算カウンタを40℃にプリセットしてスターとする。温度上昇許容値ΔTmaxは過負荷と判定する閾値に相当し、積算カウンタは6,000,000(digit)に達したときである。
【0084】
図21は、
図19の過負荷保護特性曲線を用いた電子的な全損失時間積算カウンタをハード的なイメージで記載した図である。56は全損失/パルス周波数コンバータで、入力された全損失Ploss量に比例したパルス周波数に変換して出力する。入力した全損失量が2割増となるとパルス周波数の数が2割増になる。全損失/パルス周波数コンバータ56の出力の一つは59のUP(加算)入力禁止回路に入力する。UP(加算)入力禁止回路59が禁止状態でない場合は、全損失/パルス周波数コンバータ56からのパルス周波数を60の全損失時間積算アップ/ダウンカウンタに入力し、モータの巻線温度を摸擬したカウンタ値は一定の全損失量の入力であっても、蓄積量が多くなれば巻線温度は上昇するのでカウンタ値は加算を続ける。
【0085】
この状態が続き、全損失時間積算アップ/ダウンカウンタが更に上昇し、全損失時間積算アップ/ダウンカウンタ60の値が、65のモータ巻線過負荷設定温度になると両者を比較するコンパレータ66の出力が一致し“L”レベルを出力する。この信号がUP(加算)入力禁止回路59に戻ってきて、全損失/パルス周波数コンバータ56から入力されるパルス周波数を受付禁止にする。
なお、両者を比較するコンパレータ66の出力が一致し“L”レベルを出力すると、67のインバータゲートを通り、OL信号として保護処理回路24に入力され、モータが過負荷と判定され、モータの運転を停止してモータを保護する。
【0086】
また、全損失/パルス周波数コンバータ56の他方の出力は、57のむだ時間要素回路で、一定時間ディレー動作するむだ時間要素回路を通って、58のDN(減算)入力禁止回路に入力する。DN(減算)入力禁止回路58が禁止状態でない場合は、むだ時間要素回路57からのパルス周波数を全損失時間積算アップ/ダウンカウンタ60に入力し減算する。この減算は、モータ巻線に蓄積された熱量は、絶縁材を通して鉄などの据付面から固体を通し伝導による放熱、また、モータ外周の冷却リブから大気中に自然対流や強制空冷による対流で放熱する。伝導、対流するためは、熱が据付接触面やモータ表面まで伝わるまでのディレー時間があるため、むだ時間要素回路57を構成している。
【0087】
なお、モータは定格トルク、定格回転速度で連続定格の場合は連続運転が可能で、モータ巻線に蓄熱され温度上昇するが、ディレー時間によるむだ時間後は徐々に蓄熱、放熱が平衡状態に達する。このときの全損失、定格損失では過負荷にはならない。しかし定格損失以上の損失になると、放熱より蓄熱量が勝り巻線温度が上昇を続ける。全損失/パルス周波数コンバータ56には、減算側のみ最大傾斜率を全損失=100%で加算した時の傾斜率を最大の減算傾斜率として、減算時のみに最大の減算傾斜率に制限を加えている。そのため、定格損失以上の損失が印加されると、温度上昇が続き、過負荷と判定される温度となりモータの運転を停止し保護する。
【0088】
なお、全損失時間積算アップ/ダウンカウンタ60には制御電源投入時、または運転開始時に、63のモータ巻線温度プリセットデータがセットされた後、全損失時間積算アップ/ダウンカウンタ60がスタートするようになっている。61は40℃モータ巻線温度(パワーオン時プリセット)回路で、制御電源オン時モータ使用温度範囲の上限温度である40℃の温度が、62の運転開始時モータ巻線温度に転送され、63のモータ巻線温度プリセットデータに書き込まれる。また、モータ運転開始前に、上位装置など外部から通信ケーブルを通して、モータの巻線温度を実測して、モータ駆動電力変換装置48内の64のシリアルインタフェースを通して運転開始時モータ巻線温度62に上書きされると、全損失時間積算アップ/ダウンカウンタ60は実測した巻線温度からスタートすることができる。
【0089】
図22、はモータ巻線温度の動作を説明する図である。また
図22は、
図21の動作をタイムチャートで示した図である。横軸は時間t、縦軸はモータの巻線温度Tとして電子的な全損失時間積算カウンタの動作を示している。原点から右上がりに上昇する直線で定格全損失と示した直線は、定格運転時、
図21の電子的な全損失時間積算カウンタのアップ側の加算カウンタのモータ巻線の蓄熱動作である。放熱動作は伝導、対流により放熱し、熱が据付接触面やモータ表面まで伝わるまでのディレー時間“L”が経過した後、加算時に全損失時間積算カウンタに入力された関数を極性反転し、減算する最大傾斜率を全損失=100%で加算した時の傾斜率を最大の減算傾斜率として、時間“L”が経過後、右下がりで下がっている。この右上がりの定格全損失と示した直線と、放熱特性の加算した直線で記載しており、両直線を加算したのが太文字破線で示しており、右上がりに上昇し時間“L”で水平に推移している。
【0090】
なお、過負荷と判定するモータ巻線過負荷設定温度が示しており、このラインを越すと過負荷と判定し保護動作となる。なお、原点から最大全損失で急上昇している直線は、むだ時間“L”まで待たずにモータ巻線過負荷設定温度に達し×印の点で過負荷保護停止動作になっている。
【0091】
図23は、モータ巻線温度をモータ駆動電力変換装置にプリセット後運転を説明する図である。1aはモータ、48はモータ駆動電力変換装置であり、モータ1aとモータ駆動電力変換装置48の間にモータ巻線抵抗測定時の切り離しスイッチ55がある。モータ巻線抵抗測定時の切り離しスイッチ55は、運転開始前にモータ1aの巻線温度を測定する際、このスイッチ55を開放し、モータ1aとモータ駆動電力変換装置48を切り離し、53のモータの巻線抵抗測定器で測定する。
【0092】
54−1、54−2、54−3はモータ1aの測定する端子を選択する端子ブロックで、54−1はモータ巻線U−V端子間測定ブロック、54−2はモータ巻線V−W端子間測定ブロック、54−3はモータ巻線W−U端子間測定ブロックで、54−0のモータ巻線の測定相の切替接続片でモータ1aのどの端子間を測定するかでブロックを選択して抵抗法により測定する。抵抗法は巻線の温度係数が既知であることを利用して、運転開始前と運転開始後の巻線抵抗値から温度上昇を算出する方法である。なお、運転開始前の巻線抵抗値については周囲温度による巻線抵抗値を事前に記録しておけば良い。
【0093】
モータの巻線抵抗測定器53で測定し、巻線温度を算出して求めた温度上昇値は52の上位制御装置に入力される。モータを運転する時は、54−0のモータ巻線の測定相の切替接続片をすべて取外し、モータ巻線抵抗測定時の切り離しスイッチ55を閉じてから、モータ駆動電力変換装置48に制御回路電源51を投入し、モータ駆動電力変換装置48は40℃モータ巻線温度をプリセットする。その後、主回路電源50を投入する。上位装置52はモータ温度プリセットデータをモータ駆動電力変換装置48に通信で転送し40℃モータ巻線温度データを書き換えし、全損失時間積算カウンタの動作を開始する。
【0094】
図24は、
図21と異なる本実施形態の
図3A〜
図7Bの電子サーマル回路22を説明する図である。電子サーマル回路22は、
図19とは異なるモータの熱モデルでモータの一次巻線温度上昇値を求める。図の左側の入力電力Pinの“+”と出力電力Poutの“−”を引算回路28で差をとり、全損失P
LOSSを指令として出力する。全損失P
LOSSは加え合せ点68でフィードバックと差をとり、その偏差εは積分要素を含むモータ枠発熱部の伝達関数70へ送られる。次にモータの温度に関連する数式を纏めて説明する。
モータの全熱量Q(J)は全損失Plossを時間積分し(数12)で表される。
【0096】
モータの全熱量Qは誘導モータの場合、モータの一次側(固定子)巻線と二次側(回転子)の銅バーに分けると(数13)となる。なお、モータの回転子が永久磁石のPMモータでは二次側銅損は発生しない。
【0098】
また、モータの一次巻線の温度上昇Tc1(K)はモータの一次側の熱量をQ1(J)、モータ一次巻線の質量m1(kg)、モータ一次巻線の比熱c1(J/kg・K)とすると(数14)のようになる。
【0100】
モータの巻線(コア等含む)内部から発生する全熱量Qはモータ枠に(数15)で蓄積される。なおモータの比熱c
0は、実際には各種部品で構成され、材質もさまざまのため、複合的な比熱として温度の測定箇所を定め実測で求める。
【0102】
一方、モータから放熱される熱量はモータの据付冶具など金属の固体を通して伝導や、モータ表面の冷却リブから大気中へ自然または強制対流、または放射される。
モータ表面の冷却リブ(個体)から大気(流体)との間の対流による熱伝達には、自由対流と強制対流があり、いずれの場合も熱伝達は(数16)の様になる。
【0104】
積分要素を含むモータ枠発熱部の伝達関数70では、(数12)より全損失Plossを積分要素1/sで積分してモータの全熱量Q(J)とし、次に(数15)により(モータ質量m0)×(モータ比熱C)で除算しモータ枠温度上昇値Tc0を出力する。このモータ枠温度上昇値Tc0は加え合せ点69で周囲温度Taとの差(Tc0−Ta)を演算し、その差をモータ枠放熱部の伝達関数71で(数16)の演算を行い、単位時間の放熱量Qf’を出力する。なお、単位時間の放熱量Qf’は放熱ルート毎による放熱量例えば、モータの取り付け脚からの放熱、モータ枠周囲の冷却リブからの放熱は不明であり、また計測も困難である。
【0105】
また、モータの熱モデルを負帰還ループとした理由は、モータをある負荷率で運転すると必ずモータの温度上昇はある一定の温度上昇値となり、熱平衡状態に落ち着くためである。熱平衡状態とは、全損失Plossが、フィードバック量である単位時間の放熱量Qf’と定常状態では一定の等しい値になるということである。このことからモータの熱モデルは負帰還フィードバックループとし、電気と熱力学の融合による熱モデルを構成した。
【0106】
次に加え合せ点68の出力である偏差Ηεは、負帰還フィードバックループから分岐し、伝達関数72でモータの全損失Plossに対する一次側の損失の比率k1を乗じた後、伝達関数73で積分要素1/sで積分し、モータの一次巻線の熱量Q1(J)とし、(数14)による演算すなわち、(モータの一次巻線の質量m1)×(一次巻線(銅線)の比熱c1)で除算することでモータの一次巻線の温度上昇値Tc1を出力する。ここでモータ枠は質量も大きいため温まりにくく冷め難い。このため全損失Plossに多少の変動があってもモータ枠全体の温度上昇値は、短時間では大きな変動を受けない安定した値となる。
【0107】
本例では、この特性を利用して安定しているモータ枠で負帰還フィードバックループを構成し、偏差である全損失Ploss−単位時間の放熱量Qf’の値は、熱平衡状態で発散しない損失として捉え、ここから分岐させて熱時定数がモータ枠に比べ十分小さく、全損失Plossの多少の変動に大きく変動を受けるモータの一次巻線温度上昇値を求める構成としている。そして過負荷保護する一次巻線の温度上昇値は、一次巻線の損失k1×Plossの変動を捉え、瞬時の温度上昇値のピーク値を監視し、76の過負荷保護判定回路に送られる。
過負荷保護判定回路76では、モータの周囲温度Taが入力され、初期値はモータの使用温度の上限値40℃が設定される。モータの周囲温度を検出しない場合、実際のモータの周囲温度にかかわらず制御上は40℃として制御され、過負荷と判定される閾値と比較し、瞬時過負荷でも保護できる構成とした。なお、伝達関数72のk1はモータの回転子が永久磁石のPMモータでは二次側銅損がないとしてk1=1とすることができる。
【0108】
なお、
図24の伝達関数70、73に積分要素1/sがある。この70と71の積分要素1/sを加え合せ点68から一つは指令側の全損失に移動し、もう一つは帰還側に移動して等価変換することができる。指令側は全損失を積分して全熱量Q(J)になり、帰還側は単位時間の放熱量Qf’を積分して全放熱量Qf(J)となる。この場合でも、モータ枠温度上昇値Tc0、モータの一次巻線の温度上昇値Tc1は
図24と変わらない。
【0109】
図25は、モータの周囲温度を温度センサで検出しモータの過負荷保護を行なう説明図である。1aはモータ、48はモータ駆動電力変換装置である。モータの周囲温度は周囲温度計測サーミスタ74の温度センサで検出し、センサケーブル75を通してモータ駆動電力変換装置48のアナログ入力端子から取り込む。モータを運転する時はモータ駆動電力変換装置48に制御回路電源51を投入し、モータ駆動電力変換装置48は40℃のモータ周囲温度をプリセットする。その後、主回路電源50を投入して、上位制御装置52からの運転指令により運転を開始する。
【0110】
モータの周囲温度Taを検出しない場合、モータ駆動電力変換装置48はモータの周囲温度Taの初期値をモータの使用温度範囲の上限値40℃とするので、閾値であるモータの一次巻線の許容温度上昇値は(温度上昇許容値)+(モータ使用温度範囲の上限値)となる。モータの周囲温度Taを検出する場合は、過負荷保護判定回路76で検出したモータの周囲温度が常時わかるので、新たな許容温度上昇許容値は、(温度上昇許容値)+{(モータ使用温度範囲の上限値)−(検出したモータの周囲温度)}となり、検出したモータの周囲温度がモータの使用温度範囲の上限値より低い周囲温度の場合、モータの一次巻線温度の上限値をその差分だけ大きくすることができる。逆にモータの周囲温度が、モータの使用温度範囲の上限値より高い場合、従来はモータが焼損する恐れがあったが、閾値が下がるのでモータが焼損することはない。このため、より正確な過負荷保護が実現でき、ユーザは過負荷保護を、その性能通りの仕様として使えることになる。
【0111】
このように、本実施形態によれば、鉄損、機械損などモータ電流に起因しない損失を、数1、数2式による鉄板の厚さt、周波数f、最大磁束密度Bm、磁性体の抵抗率ρ、比例定数Kh、Keによる複雑な制御ブロック図を構成して求める必要がない。
【0112】
また、定量的な予測の難しい漂遊負荷損の量が、全損失に閉める割合が大きい場合は加味しなければならないが、本実施形態によれば個々の損失が不明であっても、全損失が正確に得られるという効果がある。
【0113】
以上、本発明を適用した一実施の形態を説明したが、本発明は上記の構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、各機能部の機能の一部又は全部をハードウェア又はソフトウェアで制御することは適宜可能である。