【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)文部科学省、平成24年度科学技術試験研究委託事業「日本の特長を活かしたBMIの統合的研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記筋電位および前記関節角度から筋モデルにより算出された筋張力と、校正時にフィッティングにより得られた筋関節トルク推定モデルとによって、関節トルクを算出し、前記関節トルクから鉛直方向の力成分を抽出する、請求項1記載のリハビリテーション支援装置。
前記制御部は、前記校正時において、接触力を考慮した浮動ベースの逆動力学計算から、前記第2の検知部で検出される前記第2の下肢の前記関節角度により駆動トルクを推定し、前記推定された駆動トルクに対応する筋電位を計測することで、前記筋電位と前記駆動トルクの対応関係の関数を最小二乗法によりフィッティングする、請求項2記載のリハビリテーション支援装置。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態のパワーアシスト装置およびそれを用いたリハビリテーション支援装置の構成について、図に従って説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素および処理工程は、同一または相当するものであり、必要でない場合は、その説明は繰り返さない。
[実施の形態1]
以下、本実施の形態1において、パワーアシスト装置について説明する。
【0029】
図1は、実施の形態1のパワーアシスト装置1000の構成を説明するための機能ブロック図である。
【0030】
以下では、一例として、対象物に対する操作者の搬送操作により、移動機構4が移動する構成であるものとして説明する。ただし、操作者が対象物に対して行う操作が、たとえば、上下方向の搬送だけであるならば、このような移動機構4を設けることは必須ではない。
【0031】
パワーアシスト装置1000は、対象物に対する操作者の搬送操作に際して、対象物10に対する重量を補償するアシスト力を与えるための懸下機構2と、懸下機構2を移動自在に天井に設置するための移動機構4とを備える。
【0032】
懸下機構2は、アシスト力を発生するためのエアマッスル110と、搬送対象となる対称物(ワーク)10を保持して移動自在な搬送部材100と、化学繊維の糸により編まれた紐状部材104と搬送部材100とを接続するための接続部材102と、紐状部材104とエアマッスル110とを接続するとともに、エアマッスル110に加わる力を検出するためのロードセル部106と、エアマッスル110を移動機構4の移動部140に接続するための接続部材112とを備える。なお、ロードセル部106は、接続部材112側に設けられてもよい。また、たとえば、移動機構4は、XY移動クレーンとして2次元で移動する機構とすることも可能である。
【0033】
エアマッスルとは、人工筋アクチュエータのことである。エアマッスルは圧縮空気をゴムチューブ内部に送りこむことで膨張する力を化学繊維の糸により編まれた紐状部材104よって収縮力に変換する。エアマッスルの制御については、後述する。
【0034】
検知部124は、固定部材112および移動部140に固定されており、ロードセル部106に接続される固定部材122まで張られたワイヤ120を、エアマッスル110の伸縮に応じて巻き上げ、このワイヤ120の巻き上げ量により、エアマッスル110の長さの変化ΔLを検知する。
【0035】
搬送部材100は、たとえば、対象物10と接続解除が可能なように、機械的に接続されていてもよいし、あるいは、空気の吸入により対象物10と結合されていてもよい。
【0036】
また、化学繊維の糸とは、たとえば、金属線、チェーンあるいは機械的なベルトなどの方式と比較して、軽量で強く、柔軟であるので、液晶ポリマー繊維を採用することができる。液晶ポリマー繊維としては、たとえば、クラレ社製ベクトラン(登録商標)を用いることができ、これは、高分子繊維であるにも関わらず、高強力高弾性率を有する素材として知られている。
【0037】
移動機構4については、パワーアシスト装置1000は、搬送作業が行われる作業領域周辺に配置された架台130上に設置されている。架台130は、たとえば、天井に固定されている。架台130には対象物10が搬送される搬送経路Rと平行に伸びるレールを設けている。搬送部材100はレールに沿って移動可能となるようにローラー等の直動をガイドする移動部140を介して架台130に取り付けられている。
【0038】
なお、以上の説明では、架台130は、天井に固定されているものとしたが、このような構成に限定されず、たとえば、架台130を支柱などで支持する構成であってもよい。さらに、移動機構4は、このような架台130のレールを移動部140が、操作者が押し引きすることにより移動するという構造にも限られず、たとえば、移動機構4自身は、ロボットアームにより構成されていてもよい。
【0039】
ただし、架台130を天井の梁に固定する構成としたり、支柱で支持する構成とすることで、設置コストを低減することが可能である。
【0040】
また、移動部140は、モータなどの駆動機構を備えて、レール上を制御部200の制御により自走する構成であってもよい。
【0041】
パワーアシスト用のエアマッスル110(および/または移動部140)の動作を制御する制御部200は、ロードセル部106で検出された力の大きさおよび検知部124で検知されたエアマッスルの長さの変化量に応じて、後に説明するように、エアマッスルの出力する力の大きさを制御する。
【0042】
リモートコントローラ20は、操作者の操作により、制御部200に対して、たとえば、電源のオン/オフの制御コマンドの他、移動部140が自律移動可能な場合には、移動部140を移動させるコマンドを送信する場合に使用される。
【0043】
エアマッスル110は、ガスや液体などの流体の圧力を利用して、伸縮する。以下では、このような流体として、空気を例にとって説明する。
【0044】
制御部200は、コントローラ20からのコマンドを通信インタフェース部(通信I/F部)203を介して受信し、また、ロードセル部106で検出された力の大きさおよび検知部124で検知されたエアマッスルの長さの変化量をインタフェース部(I/F部)202を介して受信する。
【0045】
制御部200の演算装置208は、記憶装置206に記憶されるプログラムに基づき、メモリ204をワーキングメモリとして使用して、エアマッスルの発生する力の大きさを制御する。具体的には、演算装置208は、変位検知部2082と制御処理部2084の機能を実行する。変位検知部2082は、エアマッスルの長さの変化量を検知し、制御処理部2084は、圧力比例バルブ302を制御して、圧縮空気ボンベ300からエアマッスル110に供給される空気圧を制御する。
【0046】
特に限定されないが、制御部200は、パーソナルコンピュータやマイクロコンピュータなどで実現することが可能である。記憶装置206はデータを不揮発的に記憶できるものであれば、ハードディスクドライブやソリッドステートドライブ、フラッシュメモリなどでもよい。メモリ204は、一時的にデータを記憶できるものであれば、たとえば、RAM(Random Access Memory)などを用いることができる。演算装置208は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)などで実現することができる。
【0047】
(空圧式エアマッスルの力学モデル)
図2は、
図1に示したパワーアシスト装置1000において、エアマッスルの伸縮とアシスト力との関係を説明するための図である。
【0048】
図2(a)は、エアマッスルが自然長の状態を示し、
図2(b)は、エアマッスルがアシスト力を生成している状態を示す。
【0049】
空圧式エアマッスルは、人間の筋肉と多くの共通点を持っている。
【0050】
パワーアシスト装置が重さを支持する際に、紐状部材104は、その特性において、人間の腱に類似している。
【0051】
空圧式エアマッスルの圧力の制御には、特に限定されないが、上述したように、比例的に圧力を調整するバルブ302を使用し、圧力pはクローズドフィードバックループにより制御され、十分に安定であるものとする。
【0052】
過渡状態においては、バルブ圧力と空圧式エアマッスルの圧力との間には、空気力学的な運動が存在するものの、一定の時定数の後には、外部荷重のような外部の運動上の制約条件に駆動力が釣り合うまで、空圧式エアマッスルは収縮する。
【0053】
したがって、空気回路の動力学の影響は小さく、準静的な動作では無視することができる。
【0054】
この均衡点で、駆動力の生成は、内圧および収縮率に依存し、空圧式エアマッスルの駆動力モデルは、以下のように与えられる:
【0055】
【数1】
ここで、εは、収縮率であり、D
0とψ
0とは、常圧における空圧式エアマッスルの径と、空圧式エアマッスルにおいて、空圧式の空気袋が埋め込まれたらせん状のファイバーの収縮方向に直交する方向に対する巻方向の傾きの角度である。
【0056】
このような「空圧式エアマッスルの駆動力モデル」は、たとえば、以下の文献に開示されている。
【0057】
公知文献1:K. Inoue. Rubbertuators and applications for robots. In Proceedings of the 4th international symposium on Robotics Research, pp. 57-63. MIT Press, 1988.
公知文献2:D.G. Caldwell, A. Razak, and MJ Goodwin. Braided pneumatic muscle actuators. In Proceedings of the IFAC Conference on Intelligent Autonomous Vehicles, pp. 507-512, 1993.
空気シリンダーと異なり、エアマッスルのトルクは非線形に変化する。
【0058】
運動上の制約条件が常に不変であるという仮定の下では、空圧式エアマッスルの圧力は常に同じ均衡点での収縮率ε(p)を与えることになる。すなわち、収縮率ε(p)は、圧力pの関数となる。
【0059】
一般的には、運動上の制約条件をダイナミックに変更し、異なる外力Fと釣り合うので、この場合の均衡点での収縮率εは、圧力と外力の関数として、ε(p,f)と表現される。
【0060】
空圧式エアマッスルの駆動力モデルg()は3つのパラメーター(そのうちの2つは依存関係にある)を備えた以下の二次式(M2)で表される:
【0061】
【数2】
ここで、2次式の係数には、以下の関係が成り立つ。
【0062】
【数3】
また、収縮率εは、エアマッスル110の自然長をL
0とすると、以下のようになる。
【0063】
【数4】
ここで、圧力p
*を、収縮率εおよび力fの関数として以下のように表すことは、gaussian process regressionにより回帰することが可能である。
【0064】
【数5】
このような関数を用いて、エアマッスルの力制御を行う。ここで、圧力p
*は圧力比例バルブへの制御入力値である。
【0065】
また、gaussian process regressionについては、以下の文献に開示がある。
【0066】
公知文献3:C. K. I. Williams and C. E. Rasmussen: ”Gaussian processes for regression” In Advances in Neural Information Processing Systems 8. MIT Press, 1996
たとえば、制御部200は、対象物10の重力に対して圧力p
*の値を制御することで、パワーアシスト動作を行うことが可能である。
【0067】
以上のような構成により、低コストで設置することができ、大きな設置空間が不要なパワーアシスト装置が実現される。
【0068】
[実施の形態2]
以下では、実施の形態1のパワーアシスト装置をリハビリテーション支援装置として使用する態様を説明する。
【0069】
また、以下の説明では、下肢の運動をアシストするリハビリテーション支援装置について説明する。
【0070】
すなわち、実施の形態2では、片麻痺患者など、片側に健常部位が残っている非健常者を対象とし、ヒト運動時に計測されるEMG信号と関節角データをもとに、パワーアシスト装置をエアマッスル免荷装置として力制御することで、リハビリテーション支援を行う。力制御とする理由は、患者の回復度合いに応じてフィードバック量を調整できるからである。
【0071】
EMG信号を利用しアシストを行う場合、上述したように、筋活性度−筋張力の非線形性とEMG-関節トルクの対応データをどのように扱うかが問題となる。
【0072】
本実施の形態では、以下に説明するように、接触力を考慮した浮動ベースの逆動力学計算から動作中の駆動トルクを推定し、それに対応するEMG信号を計測することで、EMG信号(筋電信号)と駆動トルクの対応関係を導く。そして、筋張力推定に生物工学的な知見を導入し、筋の非線形性を考慮したキャリブレーション手法を採用する。
[装置構成]
図3は、実施の形態2のリハビリテーション支援装置2000の構成を説明するための機能ブロック図である。
【0073】
なお、
図3において、使用者の運動に対して、パワーアシストする構成は、実施の形態と基本的に同様である。
【0074】
リハビリテーション支援装置2000は、使用者の動作(たとえば、スクワット動作)に際して、使用者の脚の重量を補償するアシスト力を与えるための懸下機構2と、懸下機構2を移動自在に天井に設置するための移動機構4とを備える。
【0075】
懸下機構2は、アシスト力を発生するためのエアマッスル110と、アシスト対象となる使用者の股部をベルトなどで保持して移動自在な装着部材100´と、化学繊維の糸により編まれた紐状部材104と装着部材100´とを接続するための接続部材102と、紐状部材104とエアマッスル110とを接続するとともに、エアマッスル110に加わる力を検出するためのロードセル部106と、エアマッスル110を移動機構4の移動部140に接続するための接続部材112とを備える。
【0076】
エアマッスルの制御については、実施の形態1と同様である。
【0077】
検知部124は、固定部材112および移動部140に固定され、ロードセル部106まで張られたワイヤ120を、エアマッスル110の伸縮に応じて巻き上げ、このワイヤ120の巻き上げ量により、エアマッスル110の長さの変化ΔLを検知する。
【0078】
移動機構4については、リハビリテーション支援装置2000は、リハビリテーションのための訓練が行われる領域周辺に配置された架台130上に設置されている。架台130は、たとえば、天井に固定されている。架台130には使用者が移動する移動経路Rと平行に伸びるレールを設けている。装着部材100´はレールに沿って移動可能となるようにローラー等の直動をガイドする移動部140を介して架台130に取り付けられている。
【0079】
なお、以上の説明では、架台130は、天井に固定されているものとしたが、このような構成に限定されず、たとえば、架台130を支柱などで支持する構成であってもよい。さらに、移動機構4は、このような架台130のレールを移動部140が、使用者または訓練の補助者が押し引きすることにより移動するという構造であってもよい。
【0080】
架台130を天井の梁に固定する構成としたり、支柱で支持する構成とすることで、設置コストを低減することが可能である。
【0081】
また、移動部140は、モータなどの駆動機構を備えて、レール上を制御部200の制御により自走する構成であってもよい。
【0082】
使用者の脚部12には、臀部の関節角を検出するための角度計14aと、膝の関節角を検出するための角度計14bと、くるぶし部分の角度を検出するための角度系14cとが装着されている。
【0083】
また、使用者の脚部12には、使用者の脚部の筋電位を計測するための筋電センサ16aおよび16bが装着されている。なお、後に説明するように筋電センサの個数はより多く装着されることが望ましい。
【0084】
パワーアシスト用のエアマッスル110(および/または移動部140)の動作を制御する制御部200は、ロードセル部106で検出された力の大きさおよび検知部124で検知されたエアマッスルの長さの変化量、さらに、使用者の脚部の関節角度および筋電位に応じて、後に説明するように、エアマッスルの出力する力の大きさを制御する。
【0085】
制御部200は、角度検出処理部18から関節角度のデータを、また、筋電位検出処理部19から各部の筋電位のデータを、さらに、ロードセル部106で検出された力の大きさおよび検知部124で検知されたエアマッスルの長さの変化量をインタフェース部(I/F部)202を介して受信する。
【0086】
制御部200の演算装置208は、記憶装置206に記憶されるプログラムに基づき、メモリ204をワーキングメモリとして使用して、エアマッスルの発生する力の大きさを制御する。具体的には、演算装置208は、後に説明するような処理フローにしたがった処理を実行することで、圧力比例バルブ302を制御して、圧縮空気ボンベ300からエアマッスル110に供給される空気圧を制御する。
【0087】
図4は、被験者が、リハビリテーション支援装置を用いてスクワット運動をしている状況を示す図である。
【0088】
使用者の右脚の股部に装着された装着部100により、天井から懸下されるエアマッスル110からのアシスト力が与えられる。
[EMG信号から膝駆動トルクを算出するモデルの構築(キャリブレーション)]
(浮動ベース逆動力学計算による駆動トルク推定)
まず、スクワット時におけるヒトの膝関節運動に焦点をあて、関節の駆動トルク推定を行う。関節駆動トルク推定のために、接触力を考慮した浮動ベース逆動力学モデルを用いる。
【0089】
なお、このような「浮動ベース逆動力学モデル」については、以下の文献に開示がある。
【0090】
公知文献4:Michael Mistry,Jonas Buchli, and Stefan Schaal:”Inverse Dynamics Control of Floating Base Systems Using Orthogonal Decomposition”IEEE, International Conference on Robotics and Automation Anchorage Convention District, pp.3406-3412, 2010
接触力を考慮した浮動ベース逆動力学モデルは、以下の式で表される。
【0091】
【数6】
ここで、qは関節角の一般座標系、M(q)は慣性力の項、h(…) は遠心力とコリオリ力の項g(q)が重力負荷を表す項、Sは駆動関節を表す行列、fは(床反力などの)接触力であり、Jcはそのヤコビ行列である。JcをQR分解を用いて次式のようにすることで、与えられた関節角度・角速度・角加速度に対応した接触力と関節トルクが計算される。
【0092】
【数7】
ここで、行列S,Sc,Suは、以下のように表される。
【0093】
【数8】
ただし、I
n×n はn 行n 列の単位行列を表す。以上の方法によりヒト動作中の駆動トルクを算出する。
(線形トルク推定モデル)
EMG信号からの関節駆動トルク推定に関しては、次の線形モデルにより行う。
【0094】
【数9】
ここで、Fは筋張力を表している。筋張力は以下のHill-stroeveモデルに基づき計算できる。
【0095】
【数10】
Hill-stroeveモデルについては、以下の文献に開示がある。
【0096】
公知文献5:A. V. Hill: ”The heat of shortening and the dynamic constants of muscle” Proceedings of the Royal Society of London, B126, pp.136-195, 1983
公知文献6:S. Stroeve: ”Learning conmbined feedback and feedforward control of a musculoskeletal system” Biological Cybernetics, 75, pp.73-83, 1999
ここで、それぞれの変換写像k(),h()は、たとえば、以下の文献の近似モデルを用いることができる。
【0097】
公知文献7:H. Hatze:”A myocybernetic control model of skeletal muscle” Biological Cybernetics,25,103/119,1977
この場合、以下のように、変換写像k(),h()は、表されることになる。
【0098】
【数11】
ただし、以下の関係が成り立つ。
【0099】
【数12】
以上のようなモデルについて、オフラインでキャリブレーション時に、パラメータB,Cを以下の手続きで設定する。
【0100】
図5は、このようなキャリブレーション時において、被験者のEMG信号および関節角を測定した場合のセンサの装着状況を説明する図である。
【0101】
図5に示すように、スクワット時のEMG信号を、たとえば、大腿筋emg
1k、大腿二頭筋emg
2k、 内側広筋emg
3k、外側広筋emg
4k、 前脛骨筋emg
5k、腓腹筋外側頭emg
6k、 腓腹筋内側頭emg
7k、から計測を行う。
EMG信号は250Hzで計測し、絶対値をとった後、カットオフ周波数1Hzの2次型バターワースフィルターをかける。さらに0.04sec 区間の移動積分値を計算する。なお、emg
k は時刻kにおけるEMG信号、Δk=Δt/10、Δtは予測推定周期で0.04sec(25Hz)で、センサのサンプリング周期はΔk=0.004secである。
【0102】
スクワットを行った際に、上述した手法により、推定した関節駆動トルクおよびEMG信号のデータから、式(8)の線形モデルのパラメータB,Cを次の誤差E(W)を最小にするように最小二乗法より求める。
【0103】
【数13】
図6は、浮動ベース逆動力学より求めた膝関節駆動トルクの値と、上述の手法を用いて筋張力を考慮したEMG信号より推定されたトルクの値を比較した図である。
【0104】
なお、この比較はパラメータの学習に用いていないテストデータに対して行った。
【0105】
ここで、膝関節のトルク推定に使用した筋張力はF=[F
1, F
2, F
3, F
4, F
5, F
6, F
7]
Tである。ここで、F
1 は大腿筋、F
2 は大腿二頭筋、F
3は内側広筋、F
4 は外側広筋、F
5 は前脛骨筋、F
6 は腓腹筋外側頭、F
7 は腓腹筋内側頭の筋張力を表す。
【0106】
図6に示すように、浮動ベース逆動力学より求めた膝関節駆動トルクの値と、筋張力を考慮したEMG信号と関節角度より推定されたトルクとは、よく一致していることがわかる。逆動力学で求めたトルクと推定したトルクの二乗平均誤差は23.8Nmであった。
(アシスト実験)
図3に示すような鉛直方向の免荷装置として動作するリハビリテーション支援装置により、スクワット動作の鉛直方向アシストを実行する。すなわち、左脚より計測されるEMG信号から、筋張力を考慮して推定された膝関節トルクが腰関節に働く鉛直成分の力をエアマッスル免荷装置を用いて右脚側へフィードバックし、アシストを実装した。
【0107】
図7は、このようなアシスト動作の処理の流れを説明するための図である。
【0108】
まず、前提として、通常時スクワット動作の左脚からEMG信号および関節角を取得し、トレーニングデータとしてオフラインで線形モデルのパラメータB,Cを求めておくものとする。
【0109】
すなわち、通常時スクワット動作の左脚からEMG信号、関節角を取得し、トレーニングデータとしてオフラインで式(8)の線形モデルのパラメータを算出しておく。
【0110】
現実の片麻痺患者の場合は、たとえば、一定値でアシスト(体の半分程度の体重を免荷)しておいて,この状態でキャリブレーションを実施し、パラメータを取得する。
【0111】
図7を参照して、アシスト動作を行う場合は、制御部200は、筋電センサにより左脚から運動中のEMG信号を取得し(S100)、フィルタリングを行うとともに(S102)、左脚から関節角度を取得する。
【0112】
続いて、制御部200は、筋のモデルにより筋張力Fを算出する(S104)。
【0113】
さらに、制御部200は、トルク推定式(8)によりオンラインで膝関節トルクを推定する(S106)。
【0114】
そして、制御部200は、推定した膝関節トルクから鉛直方向の力成分Fverticalを抽出し(S108)、EMG信号を計測していない右脚側にエアマッスルでアシスト力を力制御によって実現する。
【0115】
なお,この鉛直方向の力は、以下の式(15)によって計算する。
【0116】
【数14】
図8は、本実施の形態で行ったスクワットパターンを示す図である。
【0117】
なお、これまでの説明は、
図4に示すように、エアマッスルは1本である状態で説明してきたが、
図8のようにエアマッスルは2本であってもよい。このとき、特に限定されないが、2本のエアマッスルには、同一の圧力が供給される。また、
図8(iii)のように、エアマッスルを脚の付け根の前後に配置する構成であってもよい。
【0118】
計測されるEMGから、推定された膝関節トルクが腰関節に働く鉛直成分の力を、エアマッスル免荷装置を用いてフィードバックし、アシストを実装した。
図8に示すように、(i)両脚で通常にスクワットを行った場合(以後、「両脚通常スクワット」と呼ぶ)、(ii)アシスト無しで右脚は浮かせて左脚のみでスクワットを行った場合(以後、「片脚スクワット」と呼ぶ)、(iii)右脚は浮かせて左脚のみでスクワットを行った場合にEMGから推定された力をフィードバックし、エアマッスル免荷装置によって右脚側をアシストした場合(以後、「片脚アシストスクワット」と呼ぶ)に示した3種類で行った。この片脚スクワットと片脚アシストスクワット動作は左脚のみで行う(右脚は宙に浮かせて床に接触しないようなスクワットをタスクとした)。また、スクワットの周期は0.2Hzと0.5Hzの2種類で行った。
(実験結果)
図9は、推定された鉛直方向の力とエアマッスルに取り付けられたロードセルの値の力の比較を示す図である。
【0119】
図9(a)に0.2Hz、
図9(b)に0.5Hzでのアシストスクワット動作(
図8(iii))において推定された鉛直方向の力とエアマッスルに取り付けられたロードセルの値の力の比較を示す。
【0120】
この
図9の(a)と(b)より、エアマッスル免荷装置によって右脚側にアシストを実装し、左脚のみでスクワットを行った際のEMGから推定される力の大きさにロードセルの値は追従している。これらより、左脚のEMGから膝の駆動トルクが推定できており、スクワット動作は両脚等価な力で行われているとする仮定のもとにおいて、左脚から推定された力でエアマッスル免荷装置を動作に追従した形で力制御することができた。
【0121】
図10は、実際の0.2Hz動作でのアシスト効果をEMGの比較により示す図である。
【0122】
図10の(a)に(i)〜(iii)の3パターンを0.2Hzでスクワットした際の膝関節角度、
図10(b)(c)に膝関節駆動に関わる内側広筋(F3)と外側広筋(F4)のEMGを比較したものを示し、
図10(d)(e)にそれぞれの一周期分のEMGの平均値と標準偏差を示す(標準偏差は、各線の周りにグレーで示される)。
【0123】
一方、
図11は、実際の0.5Hz動作でのアシスト効果をEMGの比較により示す図である。
【0124】
図11(a)に(i)〜(iii)の3パターンを0.5Hzでスクワットした際の膝関節角度、
図11(b)(c)に内側広筋(F3)と外側広筋(F4)のEMGを比較したものを示し、
図11(d)(e)にそれぞれの一周期分のEMGの平均値と標準偏差を示す。なお、これらの値は計測したEMGを全波整流した後、カットオフ1Hzの2次型バターワースフィルタを適用したものである。
【0125】
図10(a)と
図11(a)より、(i)両脚通常スクワット、(ii)片脚スクワット、(iii)片脚アシストスクワットの膝関節角度の駆動範囲に大きな差はないことから、3パターンにおいて同等の振幅と周期でスクワットができていることが読み取れる。また、
図19(b)(c)(d)(e)と
図11(b)(c)(d)(e)より(iii)の片脚アシストスクワットの内側広筋と外側広筋のEMGの大きさと、(i)の両脚通常スクワットを行った際のEMGの大きさが、(ii)の片脚スクワットを行った際のEMGの大きさよりも小さく、比較的近い値を示していることが読み取れる。
【0126】
ここで、0.2Hzと0.5Hzのそれぞれ3パターンのスクワットにおけるEMGの積分値を周期ごとに区切り、(i)両脚通常スクワットと(ii)片脚スクワット、(ii)片脚スクワットと(iii)片脚アシストスクワット、(i)両脚通常スクワットと(iii)片脚アシストスクワットをそれぞれt検定により検証した。その結果、スクワットパターン(i)と(ii)、(ii)と(iii)のそれぞれの間には有意差が確認され(p<0.01)、(i)と(iii)の間では非有意(p>0.1)であった。
【0127】
これらの結果より、スクワット動作は両脚等価な力で行われているとする仮定のもとにおいて、左脚から推定された力でエアマッスル免荷装置を動作に追従した形で力制御することができ、右脚側が本来出力すべきであると考えられる力でアシストが行えたと言える。つまり、このアシストによって両脚通常スクワットの状態と同等の負荷で片脚スクワットができていることがわかる。片側に健常部位が残っている非健常者を対象として、健常部位から運動に必要な力を読み取り、非健常側へフィードバックするアシスト方策の有用性と実用可能性が示された。
【0128】
つまり、そのアシストによって両脚で通常にスクワットをする状態と同等の負荷で片脚スクワットができていることが分かる。片側に健常部位が残っている非健常者を対象として、健常部位から運動に必要な力を読み取り、非健常側へフィードバックすることが実現可能である。
【0129】
また、使用者の水平方向の移動を別途センサ等で検出し、この移動に合わせて、移動部140を制御部200により移動させることにすれば、片麻痺患者の歩行訓練に対して、リハビリテーション支援装置を使用することも可能である。また、たとえば、エアマッスル110を、
図8(iii)のように、2本配置し、使用者の腰を前後(もしくは左右に)に接続して、立位または歩行中のバランスを補助しつつ、水平に移動する訓練を行うリハビリテーション支援装置を実現することも可能である。
【0130】
以上説明したように、本実施の形態のリハビリテーション支援装置によれば、設置空間をとらず、アシストすべき動作中の姿勢におけるEMG信号により、その動作のための関節トルクに対して適切なアシストを行うことが可能である。
【0131】
今回開示された実施の形態は、本発明を具体的に実施するための構成の例示であって、本発明の技術的範囲を制限するものではない。本発明の技術的範囲は、実施の形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲の文言上の範囲および均等の意味の範囲内での変更が含まれることが意図される。