特許第6299078号(P6299078)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6299078
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20180319BHJP
【FI】
   B60C11/03 300C
   B60C11/03 300B
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-86685(P2013-86685)
(22)【出願日】2013年4月17日
(65)【公開番号】特開2014-210460(P2014-210460A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2016年4月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100171251
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100165995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 寿人
(74)【代理人】
【識別番号】100180194
【弁理士】
【氏名又は名称】利根 勇基
(72)【発明者】
【氏名】古澤 浩史
【審査官】 岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/111394(WO,A1)
【文献】 特開平03−010913(JP,A)
【文献】 特開2011−168220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03,11/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の直線状の周方向細溝と、前記周方向細溝に連通する複数の幅方向細溝とにより小ブロックが複数区画形成され、隣り合う前記周方向細溝間に、前記小ブロックがタイヤ周方向に並んだ小ブロック列が形成された
空気入りタイヤにおいて、
前記小ブロックの面積は、タイヤ幅方向の少なくとも一方側で隣り合う小ブロック列に含まれ、かつ、タイヤ周方向領域が重複する少なくとも1つの小ブロックの面積と異なり、
前記小ブロックの面積が20mm以上400mm以下であり、
前記周方向細溝よりも幅広である少なくとも1本の周方向主溝と、前記幅方向細溝よりも幅広である複数のラグ溝とをさらに備え、
前記ラグ溝は、前記周方向主溝及び接地端の少なくとも一方に連通する
ことを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項2】
タイヤ周方向に隣り合う前記ラグ溝同士の距離が2種類以上存在する、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記小ブロックのタイヤ幅方向寸法が5mm以上15mm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記小ブロックのタイヤ周方向寸法が5mm以上15mm以下であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記小ブロックは、タイヤ周方向一方側に、タイヤ周方向に隣り合う小ブロックに向かって突出する凸部を有し、かつ、タイヤ周方向他方側に、タイヤ周方向に隣り合う小ブロックに向かって窪む凹部を有し、タイヤ周方向に隣り合う小ブロック同士において、前記凸部と前記凹部とが、前記幅方向細溝を介して嵌合している、請求項1から4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記小ブロックが矢羽形状であり、前記矢羽形状の先端部の屈曲角度が40度以上170度以下である、請求項5に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ、具体的には氷上性能及び雪上性能を改善したスタッドレスタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
スタッドレスタイヤでは、トレッド部に多数のサイプや細溝を設けてエッジ効果を高めることで、特に高温(0℃付近)における氷上制動性能を向上させることが広く行われている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3690836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されているように、トレッド部にサイプや細溝を多数設けると、トレッド部が細分化されることによりトレッド部の剛性が低下するおそれがある。このため、トレッド部の剛性が高いレベルで要求される性能である雪上操縦安定性能を維持することが困難になるという課題がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、氷上制動性能を向上させつつ、雪上操縦安定性能についても向上させることのできる空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
複数の直線状の周方向細溝と、前記周方向細溝に連通する複数の幅方向細溝とにより小ブロックが複数区画形成され、隣り合う前記周方向細溝間に、前記小ブロックがタイヤ周方向に並んだ小ブロック列が形成された
空気入りタイヤにおいて、
前記小ブロックの面積は、タイヤ幅方向の少なくとも一方側で隣り合う小ブロック列に含まれ、かつ、タイヤ周方向領域が重複する少なくとも1つの小ブロックの面積と異なり、
前記小ブロックの面積が20mm以上400mm以下であることを特徴とする、
空気入りタイヤが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の空気入りタイヤによれば、氷上制動性能を向上させつつ、雪上操縦安定性能についても向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第一の実施形態の空気入りタイヤの子午断面図。
図2】本発明の第一の実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部の一部を示す平面展開図。
図3図2のIII部の拡大図。
図4】本発明の第二の実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部の一部を示す平面展開図。
図5】本発明の第三の実施形態に係る空気入りタイヤのトレッド部の一部を示す平面展開図。
図6A】本発明の第三の実施形態の変形例に係る空気入りタイヤの小ブロックの形状を示す線図。
図6B】本発明の第三の実施形態の変形例に係る空気入りタイヤの小ブロックの形状を示す線図。
図7】従来例に係る空気入りタイヤのトレッド部の一部を示す平面展開図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第一の実施形態)
これより、本発明の第一の実施形態に係る空気入りタイヤ1について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の第一の実施形態の空気入りタイヤ1の子午断面図である。なお、第一の実施形態の空気入りタイヤ1は、従来の空気入りタイヤと同様の子午断面形状を有する。ここで、空気入りタイヤの子午断面形状とは、タイヤ赤道面CLと垂直な平面上に現れる空気入りタイヤの断面形状をいう。
【0010】
以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤ1の回転軸AXと直交する方向をいう。また、タイヤ周方向とは、前記回転軸AXを中心として回転する方向をいう(図2参照)。また、タイヤ幅方向とは、前記回転軸AXと平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(タイヤ赤道線)CLに向かう方向の側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから離れる方向の側をいう。タイヤ赤道面CLとは、空気入りタイヤ1の回転軸AXに直交するとともに、空気入りタイヤ1のタイヤ幅の中心を通る平面である。タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面CL上にあって空気入りタイヤ1のタイヤ周方向に沿う線をいう。本明細書及び図面では、タイヤ赤道線にタイヤ赤道面と同じ符号「CL」を付す。
【0011】
図2は、本発明の第一の実施形態に係る空気入りタイヤ1のトレッド部10の一部を示す平面展開図である。図2に示すように、第一の実施形態の空気入りタイヤ1には、トレッド部10にタイヤ周方向に延在する複数の、図2に示すところでは3本の周方向主溝12が設けられている。さらに、周方向主溝12によって区画された陸部には、タイヤ周方向に対して傾斜する方向、図2に示すところではタイヤ幅方向に延びる複数のラグ溝14と、周方向主溝12よりも幅狭であって直線状かつ環状のタイヤ周方向に延在する複数の周方向細溝16と、例えばラグ溝14よりも幅狭であって周方向細溝16同士を連通し、かつ、連通先の周方向細溝16にて終端する複数の幅方向細溝18と、が設けられている。その結果、隣り合う周方向細溝16間に、小ブロック20がタイヤ周方向に並んだ小ブロック列22が形成されている。小ブロック列22のタイヤ幅方向両端部は、それぞれ、周方向主溝12及び周方向細溝16の少なくとも一方で画定されている。
【0012】
周方向細溝16及び幅方向細溝18は、1[mm]以上2[mm]以下の溝幅を有する切れ込み溝である。ここで溝幅とは、溝の延在方向に対して垂直な方向に測った寸法をいう。
【0013】
第一の実施形態では、図2に示すように、各小ブロック20の平面視での形状は八角形である。つまり、各小ブロック20は、周方向主溝12、周方向細溝16及び幅方向細溝18によって区画形成された矩形の角を面取りした形状になっている。しかしながら、小ブロック20の平面視での形状は、八角形に限定されるものではなく、単なる矩形、八角形以外の多角形及び円形などでもよい。
【0014】
なお、本明細書では、周方向細溝16よりも溝幅が広く、略タイヤ周方向に延びる周方向太溝(第一の実施形態では周方向主溝12が相当する)が存在する場合には、これらの周方向太溝間に区画形成された陸部をリブとみなすものとする。また、本明細書では、幅方向細溝18よりも溝幅が広く、タイヤ周方向に対して傾斜する方向に延在しかつ周方向主溝12に連通する幅方向太溝(第一の実施形態ではラグ溝14が相当する)がさらに存在する場合には、上記周方向太溝間に区画形成されると共に、幅方向太溝間に区画形成された陸部をブロックとみなすものとする。
【0015】
図3は、図2のIII部の拡大図である。図3には、2種類の小ブロック20が示されている。即ち、図3に示すように、小ブロック20には、タイヤ周方向寸法が短い短小ブロック20Aと、タイヤ周方向寸法が長い長小ブロック20Bとが存在する。短小ブロック20Aが空気入りタイヤ1の全周にわたって設けられることによって、短小ブロック列22Aが形成されている。一方、長小ブロック20Bが空気入りタイヤ1の全周にわたって設けられることによって、小ブロック列22Bが形成されている。なお、図2及び図3に示す例においては、周方向細溝16同士の間隔は一定であるので、各小ブロック列22(例えば、列22A、22B)に含まれる小ブロックのタイヤ幅方向寸法は全て等しくなっている。
【0016】
図3に示すように、短小ブロック列22Aと長小ブロック列22Bとは、周方向細溝16を挟んでタイヤ幅方向に隣り合うように形成されている。そして、小ブロック列22A、22Bに含まれる小ブロック20A、20Bの面積は、タイヤ幅方向で隣り合う小ブロック列22B、22Aに含まれ、かつ、タイヤ周方向領域CAが重複する小ブロック20B、20Aの面積と異なる。
【0017】
ここで、タイヤ周方向領域CAとは、注目する小ブロック20(ここでは図示のために任意に選択された長小ブロック20Ba)のタイヤ周方向の一端から他端までの領域をいう。一例として、当該長小ブロック20Baのタイヤ周方向領域CAを図3に点線で図示する。なお、本発明では、注目する小ブロック20Baについて、タイヤ幅方向に隣り合う小ブロック列22Aに含まれ、かつ、タイヤ周方向領域CAが重複する小ブロック20Aaが図3のように複数存在する場合は、そのうちの少なくとも1つの小ブロック20Aaの面積が小ブロック20Baの面積と異なっていればよいものとする。
【0018】
そして、小ブロック20の面積は20[mm]以上400[mm]以下である。なお、小ブロック20の面積とは、本発明では、小ブロック20の外表面の面積をいう。
【0019】
これより、第一の実施形態に係る空気入りタイヤの作用効果について説明する。
【0020】
(1)スタッドレスタイヤでは、トレッド表面にサイプと呼ばれる細溝を数多く設けることによって高温(0℃付近)における氷上制動性能を改善することが、一般に行われている。これは、サイプを用いて氷面上の水を排除し、トレッド表面を氷面に接地させることによって制動力を得るためである。第一の実施形態に係る空気入りタイヤ1では、短小ブロック列22Aに面積の小さい、即ちタイヤ周方向寸法の短い、短小ブロック20Aが設けられている。このため、短小ブロック列22Aでは、幅方向細溝18が多く設けられていることにより、氷上制動性能が向上する。
【0021】
(2)しかしながら、短小ブロック20Aはその面積、即ちタイヤ周方向寸法が短いために、ブロック剛性が低く、ブロック剛性が高いレベルで要求される雪上操縦安定性能を十分に発揮できないおそれがある。これを改善するために、第一の実施形態では、短小ブロック列22Aに隣り合う、短小ブロック20Aよりもタイヤ周方向寸法の長い長小ブロック20Bから構成されている長小ブロック列22Bが設けられている。これにより、トレッド部10にタイヤ幅方向からの入力が印加されて、それにより短小ブロック20Aがタイヤ幅方向に変形した場合でも、短小ブロック20Aよりも剛性が高いために変形が少ない長小ブロック20Bが、変形した短小ブロック20Aを支持することができ、トレッド部10全体として高いタイヤ幅方向剛性を実現することができる。これにより、第一の実施形態に係る空気入りタイヤ1は、雪上安定性能を維持又は向上させることができる。
【0022】
(3)上述のように、小ブロック20の面積は20[mm]以上400[mm]以下である。これにより、氷上制動性能及び雪上操縦安定性能を両立させることができる。小ブロック20の面積が20[mm]以上であることにより、小ブロック20のブロック剛性を十分に確保して雪上操縦安定性能を向上させることができる。また、小ブロック20の面積が400[mm]以下であることにより、細溝16、18の数を十分に確保して、氷上制動性能を向上させることができる。
【0023】
(4)また、タイヤ周方向寸法の異なる小ブロック20A、20Bが設けられていることにより、周方向細溝16及び幅方向細溝18に起因する高周波のパターンノイズの周波数ピークを分散させることができ、ひいてはノイズ性能を向上させることができる。
【0024】
(5)第一の実施形態の空気入りタイヤ1においては、周方向細溝16及び幅方向細溝18よりも溝幅の広く、かつ、周方向主溝12に連通するラグ溝14が設けられていることが好ましい。これは、ラグ溝14の十分な溝幅に起因して、路面の雪をさらに効率的に排出することができ、ひいては雪上操縦安定性能がさらに向上するためである。なお、第一の実施形態において、ラグ溝14は任意選択的な構成要素であるため、設けなくてもよい。つまり、本発明に係る空気入りタイヤのトレッドパターンは、周方向主溝12、周方向細溝16及び幅方向細溝18によって形成されるリブパターンであってもよい。さらに、第一の実施形態において、周方向主溝12も任意選択的な構成要素であるため、設けなくてもよい。つまり、本発明に係る空気入りタイヤのトレッドパターンは、周方向細溝16及び幅方向細溝18によって形成されるトレッドパターンであってもよい。
【0025】
なお、第一の実施形態では、空気入りタイヤ1の全周において、その全体を図示してはいないものの、1つの短小ブロック列22Aには短小ブロック20Aがタイヤ周方向に180個形成されており、1つの長小ブロック列22Bには長小ブロック20Bがタイヤ周方向に120個形成されている。そして、第一の実施形態に係る空気入りタイヤ1には、各小ブロック列22A、22Bに含まれる小ブロック20A、20Bの数の公約数と等しい数のタイヤ主方向に並んだラグ溝14が設けられている。具体的には、第一の実施形態では、この公約数は60であり、短小ブロック20Aを3つずつ(180/60=3)に、そして長小ブロックを2つずつ(120/60=2)に隔てるように、1つのリブにつき60個のラグ溝14が設けられている。その結果、ラグ溝14は小ブロック20を分断しない。なお、第一の実施形態では、1つの小ブロック列22に含まれる小ブロック20の個数である120と180との公約数であれば、60に限られるものではなく、30や15などを選択してもよい。
【0026】
また、小ブロック20のタイヤ幅方向寸法が5[mm]以上15[mm]以下であると好ましい。小ブロック20のタイヤ幅方向寸法が5[mm]以上であることから、小ブロック20のタイヤ幅方向剛性を十分に確保して雪上操縦安定性能をさらに向上させることができる。また、小ブロック20のタイヤ幅方向寸法が15[mm]以下であることから、トレッド部10全体でのエッジ数を十分に確保して氷面上の水を排除することができ、ひいては氷上性能を向上させることができる。なお、小ブロック20のタイヤ幅方向寸法とは、タイヤ幅方向で小ブロック20を測った最大寸法をいう。例として、短小ブロック20Aのタイヤ周方向寸法をlwAとし、長小ブロック20Bのタイヤ周方向寸法をlwBとし、図2及び後述する図5に図示する。
【0027】
また、小ブロック20のタイヤ周方向寸法が5[mm]以上15[mm]以下であると好ましい。小ブロック20のタイヤ周方向寸法が5[mm]以上であると、小ブロック20のタイヤ周方向剛性が高く、制動時に小ブロック20が倒れ込み難く、十分な接地面積が確保され、優れた氷上制動性能を発揮することができるからである。また、小ブロック20のタイヤ周方向寸法が15[mm]以下であると、幅方向細溝18を多数設けることができ、氷上制動性能を向上させることができる。なお、小ブロック20のタイヤ周方向寸法とは、タイヤ周方向で小ブロック20を測った最大寸法をいう。例として、短小ブロック20Aのタイヤ周方向寸法をllAとし、長小ブロック20Bのタイヤ周方向寸法をllBとし、図2及び後述する図5に図示する。
【0028】
第一の実施形態の空気入りタイヤ1には、ラグ溝14は、周方向主溝12同士を、又は周方向主溝12と接地端CEとを連通するように設けられている。しかしながら、ラグ溝14は、周方向主溝12及び接地端CEの少なくとも一方に連通されていればよい。なお本発明では、接地端CEとは、空気入りタイヤを正規リムに組み付けて、正規内圧を充填し、標準的な荷重(例えば、ロードインデックス(LI)の80%の荷重)を印加して平面に接地させたときの、接地領域のタイヤ幅方向端部をいうものとする。なおここで、正規リムとは、JATMAで規定する「標準リム」、TRAで規定する「Design Rim」、あるいは、ETRTOで規定する「Measuring Rim」をいう。また、正規内圧とは、JATMAで規定する「最高空気圧」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、あるいはETRTOで規定する「INFLATION PRESSURES」をいう。
【0029】
第一の実施形態では、1つの小ブロック列22に含まれる小ブロック20は、一定のタイヤ周方向寸法(即ち、一定の面積)を有するが、互いに異なるタイヤ周方向寸法(異なる面積)を有する小ブロック20が、1つの小ブロック列22に混在していてもよい。
【0030】
第一の実施形態に係る空気入りタイヤ1は、トレッド部10全体に小ブロック20が形成されたトレッドパターンを有するが、本発明の空気入りタイヤは、周方向細溝16と幅方向細溝18とによって区画形成された、少なくとも2つの小ブロック列22を含み、1つの小ブロック列22に含まれる小ブロック20の面積が、タイヤ幅方向の少なくとも一方側で隣り合う小ブロック列22に含まれ、かつ、タイヤ周方向領域CAが重複する少なくとも1つの小ブロック20の面積と異なっていればよい。複数の幅方向細溝18が設けられることにより氷上制動性能が向上し、タイヤ周方向領域が重複する小ブロック20が存在することによって、タイヤ周方向寸法の長い(面積の大きい)方の小ブロック20がタイヤ周方向寸法の短い方(面積の小さい)の小ブロック20を支持することができる。これにより、第一の実施形態に係る空気入りタイヤ1によれば雪上操縦安定性を向上させることができる。
【0031】
第一の実施形態では、小ブロック20のタイヤ周方向寸法は、短小ブロック20Aと長小ブロック20Bとの2種類のみとなっているが、タイヤ周方向領域が重複する小ブロック20の互いのタイヤ周方向の長さが異なっていれば、3種類以上あってもよい。
【0032】
(第二の実施形態)
これより、図4を参照しつつ、本発明の第二の実施形態に係る空気入りタイヤ1について説明する。図4は、本発明の第二の実施形態に係る空気入りタイヤ1のトレッド部10の一部を示す平面展開図である。なお、第二の実施形態については、第一の実施形態との差異点のみを説明する。
【0033】
図4に示すように、第二の実施形態に係る空気入りタイヤ1には、第一の実施形態に係る空気入りタイヤ1と同様に、周方向主溝12同士を、又は周方向主溝12と接地端CEとを連通するラグ溝14が設けられている。ここで、第一の実施形態に係る空気入りタイヤ1では、タイヤ周方向に隣り合うラグ溝14同士の距離が一定である。これに対して、第二の実施形態に係る空気入りタイヤ1では、当該距離がLA、LB、LC(LA>LB>LC)の3種類存在する。その点において、第二の実施形態は第一の実施形態と異なる。つまり、第二の実施形態に係る空気入りタイヤ1は、ピッチバリエーションを含むトレッドパターンを有する。
【0034】
ここで、「タイヤ周方向に隣り合うラグ溝14同士の距離」とは、タイヤ周方向に隣り合うラグ溝14の対向する側の陸部との境界線同士の距離をいう。第二の実施形態では、当該距離は、当該ラグ溝14同士の間に形成されたブロックのタイヤ周方向寸法に相当する。タイヤ周方向に隣り合うラグ溝14が互いに平行に延在していない場合は、「タイヤ周方向に隣り合うラグ溝14同士の距離」は、当該境界線のタイヤ幅方向中点同士のタイヤ周方向距離をいうものとする。
【0035】
第二の実施形態では、図4に示すように、LBのタイヤ周方向寸法を有するブロックのように、1つの小ブロック列22に異なるタイヤ周方向寸法を有する小ブロック20を混在させることによって、タイヤ周方向に隣り合うラグ溝14同士の距離が変更されている。あるいは、LA及びLCのタイヤ周方向寸法を有するブロックのように、小ブロック20のタイヤ周方向寸法の縮尺を変更することによって、タイヤ周方向に隣り合うラグ溝14同士の距離が変更されている。しかしながら、このようにタイヤ周方向に隣り合うラグ溝14同士の距離が変更されても、小ブロック列22に含まれる小ブロック20の数の公約数と等しい数のタイヤ周方向に並んだラグ溝14が設けられることに変わりはない。
【0036】
第二の実施形態に係る空気入りタイヤ1は、上述したようにラグ溝14が設けられていることにより、ラグ溝14に起因して発生するパターンノイズが特定の周波数に集中することを妨げることができる。ひいては、第二の実施形態に係る空気入りタイヤ1では、ノイズ性能を改善できるので好ましい。
【0037】
第二の実施形態では、図4に示すように、タイヤ周方向に隣り合うラグ溝14同士の距離が3種類存在しているが、当該距離が2種類以上存在していればよい。ラグ溝14に起因して発生するパターンノイズの周波数を分散できるからである。
【0038】
(第三の実施形態)
これより、図5を参照しつつ、本発明の第三の実施形態に係る空気入りタイヤ1について説明する。図5は、本発明の第三の実施形態に係る空気入りタイヤ1のトレッド部10の一部を示す平面展開図である。なお、第三の実施形態については、第一の実施形態との差異点のみを説明する。第三の実施形態に係る空気入りタイヤ1は、小ブロック20の形状がタイヤ周方向に向いた矢羽形状をしている点で、第一の実施形態に係る空気入りタイヤ1と異なる。
【0039】
第三の実施形態に係る空気入りタイヤ1では、図5に示すように、小ブロック20は、タイヤ周方向一方側に、タイヤ周方向に隣り合う小ブロックに向かって凸状をなす凸部20Pを有し、かつ、タイヤ周方向他方側に、タイヤ周方向に隣り合う小ブロックに向かって凹状をなす凹部20Rを有する。そして、タイヤ周方向に隣り合う小ブロック22では、凸部20Pと凹部20Rとが、幅方向細溝18を介して嵌合している。
【0040】
第三の実施形態では、上述のような小ブロック20の構成により、小ブロック20がタイヤ幅方向に変形する場合に、タイヤ幅方向に隣り合う小ブロック20だけでなく、タイヤ周方向に隣り合う小ブロック20が、タイヤ周方向にオーバーラップする部分で互いに支持することができる。したがって、第三の実施形態に係る空気入りタイヤ1では、トレッド部10全体のタイヤ幅方向剛性が向上し、ひいては雪上操縦安定性が向上するので有利である。
【0041】
さらに、図5に示すように、小ブロック20の形状が矢羽形状であり、かつ、第三の実施形態では凸部20Pである矢羽形状の先端部の屈曲角度αが40度以上170度以下であると好ましい。屈曲角度αが40度以上であることにより、矢羽形状の先端部が先細形状にならず、ひいては幅方向細溝18が短くなるので、氷路面上では水が、そして雪路面上では雪が幅方向細溝18に留まらずに幅方向細溝18から排出され易い。その結果、排水性能及び排雪性能が向上し、ひいては氷上制動性能及び雪上操縦安定性能を向上させることができる。また、屈曲角度αが170度以下であることにより、凸部20P及び凹部20Rのタイヤ周方向のオーバーラップ部分を十分に確保して、タイヤ周方向に隣り合う小ブロック20が互いにタイヤ幅方向に十分に支持できる。その結果、雪上操縦安定性能を向上させることができる。なお、凸部20Pと凹部20Rとが、幅方向細溝18を介して嵌合しているので、第三の実施形態では凹部20Rである矢羽形状の後端部の屈曲角度は、矢羽形状の先端部の屈曲角度αと略同一である。
【0042】
上述のように、小ブロック20の凸部20P及び凹部20Rは屈曲する部分を有する。それにより、タイヤ周方向の小ブロック20の曲げ剛性(二次断面モーメント)が高く、小ブロック20がタイヤ周方向に倒れ込み難くなる。その結果、接地面積を確保することができ、氷上制動性能を向上させることができる。
【0043】
以上のように、第三の実施形態に係る空気入りタイヤは、氷上制動性能及び雪上操縦安定性能を向上させることができる。しかしながら、小ブロック20は、タイヤ周方向一方側に、タイヤ周方向に隣り合う小ブロックに向かって突出する凸部20Pを有し、かつ、タイヤ周方向他方側に、タイヤ周方向に隣り合う小ブロックに向かって窪む凹部20Rを有し、タイヤ周方向に隣り合う小ブロック20同士において、凸部20Pと凹部20Rとが、幅方向細溝18を介して嵌合していれば上記の効果を発揮することができ、小ブロック20の形状は矢羽形状に限定されるものではない。
【0044】
図6A及び図6Bは、小ブロック20の矢羽形状以外の形状を示す例として、第三の実施形態の変形例に係る空気入りタイヤの小ブロック20の形状を示す線図である。小ブロック20が図6A及び図6Bに示されているような形状であっても、第三の実施形態に係る空気入りタイヤと同様に、優れた氷上制動性能及び雪上操縦安定性能を発揮することができる。
【0045】
なお、凸部20P及び凹部20Rの形状は、図5図6A及び図6Bでは三角形又は矩形であるが、タイヤ周方向に幅方向細溝18を介して隣接している小ブロック20が互いに支持することができるのであれば、半円形やその他の多角形など、特に限定されない。
【0046】
また、第三の実施形態及びその変形例に係る空気入りタイヤについても、第二の実施形態に係る空気入りタイヤのように、ピッチバリエーションが設けられてもよい。つまり、第三の実施形態及びその変形例に係る空気入りタイヤについても、タイヤ周方向に隣り合うラグ溝14同士の距離が2種類以上存在するようにしてもよい。
【実施例】
【0047】
本実施例では、様々な条件を有する空気入りタイヤについて、氷上制動性能及び雪上操縦安定性能に関する車上試験が行われた。本実施例の従来例及び実施例1から6に係るテストタイヤのタイヤサイズは、195/65R15である。これらの車上試験は、各テストタイヤを、15×6JJのサイズのリムに組み付け、210[kPa]の内圧を充填し、そして排気量1800ccの前輪駆動車に装着して行われた。
【0048】
これより、テストタイヤについて行われた性能試験の試験方法について説明する。
【0049】
(氷上制動性能)
路面温度が−3〜0℃の氷結路面からなるテストコースにて初速度40[km/h]から完全停止までの制動試験が行われた。これによって得られた制動距離の逆数を以って、従来例を100とする指数値にて示した。この指数値が大きいほど制動距離が短く氷上制動性能が優れていることを意味する。
【0050】
(雪上操縦安定性能)
雪路面からなるテストコースにおいてテストドライバーによる官能評価が行われた。評価結果は従来例を100とする指数値にて示した。この指数値が大きいほど雪上操縦安定性能が優れていることを意味する。
【0051】
これより、各テストタイヤのトレッドパターンについて説明する。
【0052】
(従来例)
従来例の空気入りタイヤのトレッドパターンは、図7のように、図2のトレッドパターンから周方向細溝16及び幅方向細溝18を除いたトレッドパターンである。
【0053】
(実施例1)
実施例1の空気入りタイヤのトレッドパターンは、図2のトレッドパターンから周方向主溝12及びラグ溝14が除かれ、周方向細溝16及び幅方向細溝18が設けられているトレッドパターンである。
【0054】
(実施例2)
実施例2の空気入りタイヤのトレッドパターンは、図2のトレッドパターンからラグ溝14が除かれ、周方向主溝12、周方向細溝16及び幅方向細溝18が設けられているリブパターンである。
【0055】
(実施例3〜5)
実施例3〜5の空気入りタイヤのトレッドパターンは、図2のトレッドパターンを基礎として、小ブロック20の面積、タイヤ幅方向寸法及びタイヤ周方向寸法を表1に示された数値にしたがって変更させたトレッドパターンである。
【0056】
(実施例6)
実施例6の空気入りタイヤのトレッドパターンは、図2のトレッドパターンを基礎として、小ブロック20の形状が図6Aに示されている凹凸形状に変更されているトレッドパターンである。
【0057】
(実施例7)
実施例7のトレッドパターンは、図5に示したような、小ブロック20が矢羽形状をしたトレッドパターンである。また、小ブロック20の矢羽形状の先端部の屈曲角度は140度である。
【0058】
なお、これらテストタイヤのトレッドパターンは、それぞれ対応する図のトレッドパターンを基礎として形成されるものである。したがって、小ブロック20や小ブロック列22の構成数などは、表1に示されているパラメータにしたがって各図に示したものから適宜変更されている点に留意されたい。
【0059】
従来例及び実施例1から7に係るテストタイヤについて、氷上制動性能及び雪上操縦安定性能に係るタイヤ性能試験が行われた。表1には、各テストタイヤのトレッドパターンの特徴及び寸法に関する数値と、性能試験結果とが示されている。
【0060】
【表1】
【0061】
表1によれば、本発明の技術的範囲に属する実施例1から7の空気入りタイヤはいずれも、本発明の技術的範囲に属しない従来例の空気入りタイヤに対して氷上制動性能及び雪上操縦安定性能が向上している。
【0062】
本発明は、以下のように規定される。
【0063】
(1) 複数の直線状の周方向細溝と、前記周方向細溝に連通する複数の幅方向細溝とにより小ブロックが複数区画形成され、隣り合う前記周方向細溝間に、前記小ブロックがタイヤ周方向に並んだ小ブロック列が形成された空気入りタイヤにおいて、前記小ブロックの面積は、タイヤ幅方向の少なくとも一方側で隣り合う小ブロック列に含まれ、かつ、タイヤ周方向領域が重複する少なくとも1つの小ブロックの面積と異なり、前記小ブロックの面積が20mm以上400mm以下であることを特徴とする、空気入りタイヤ。
【0064】
(2) 前記周方向細溝よりも幅広である少なくとも1本の周方向主溝と、前記幅方向細溝よりも幅広である複数のラグ溝とをさらに備え、前記ラグ溝は、前記周方向溝及び接地端の少なくとも一方に連通する、上記(1)に記載の空気入りタイヤ。
【0065】
(3) タイヤ周方向に隣り合う前記ラグ溝同士の距離が2種類以上存在する、上記(2)に記載の空気入りタイヤ。
【0066】
(4) 前記小ブロックのタイヤ幅方向寸法が5mm以上15mm以下であることを特徴とする、上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【0067】
(5) 前記小ブロックのタイヤ周方向寸法が5mm以上15mm以下であることを特徴とする、上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【0068】
(6) 前記小ブロックは、タイヤ周方向一方側に、タイヤ周方向に隣り合う小ブロックに向かって突出する凸部を有し、かつ、タイヤ周方向他方側に、タイヤ周方向に隣り合う小ブロックに向かって窪む凹部を有し、タイヤ周方向に隣り合う小ブロック同士において、前記凸部と前記凹部とが、前記幅方向細溝を介して嵌合している、上記(1)から(5)のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【0069】
(7) 前記小ブロックが矢羽形状であり、前記矢羽形状の先端部の屈曲角度が40度以上170度以下である、上記(6)に記載の空気入りタイヤ。
【符号の説明】
【0070】
1 空気入りタイヤ
10 トレッド部
12 周方向主溝
14 ラグ溝
16 周方向細溝
18 幅方向細溝
20 小ブロック
22 小ブロック列
CA タイヤ周方向領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7