(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
タイヤ子午線方向の断面視にて、前記補強層が、前記ビードフィラーのタイヤ幅方向外側の側面の少なくとも50[%]の領域を覆う請求項1に記載の空気入りタイヤ。
前記カーカス層の巻き上げ端部が、前記カーカス層を構成する複数のベルトプライのうち最も幅広なベルトプライのタイヤ幅方向外側の端部よりもタイヤ幅方向内側にある請求項1〜14のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
前記カーカス層の左右の巻き上げ端部の距離CWと、前記複数のベルトプライのうち最も幅広なベルトプライの幅BWとが、0.10≦CW/BW≦0.95の関係を有する請求項1〜15のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0010】
[空気入りタイヤ]
図1は、本実施形態に係る空気入りタイヤ1の子午断面図である。以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤ1の回転軸(図示せず)と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、前記回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、前記回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(タイヤ赤道線)CLに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから離れる側をいう。タイヤ赤道面CLとは、空気入りタイヤ1の回転軸に直交するとともに、空気入りタイヤ1のタイヤ幅の中心を通る平面である。タイヤ幅は、タイヤ幅方向の外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから最も離れている部分間の距離である。タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面CL上にあって空気入りタイヤ1のタイヤ周方向に沿う線をいう。本実施形態では、タイヤ赤道線にタイヤ赤道面と同じ符号「CL」を付す。
【0011】
本実施形態の空気入りタイヤ1は、
図1に示すようにトレッド部2と、その両側のショルダー部3と、各ショルダー部3から順次連続するサイドウォール部4およびビード部5とを有している。また、この空気入りタイヤ1は、カーカス層6と、ベルト層7と、ベルト補強層8とを備えている。
【0012】
トレッド部2は、ゴム材(トレッドゴム)からなり、空気入りタイヤ1のタイヤ径方向の最も外側で露出し、その表面が空気入りタイヤ1の輪郭となる。トレッド部2の外周表面、つまり、走行時に路面と接触する踏面には、トレッド面21が形成されている。トレッド面21は、タイヤ周方向に沿って延在する複数(本実施形態では4本)の主溝22が設けられている。そして、トレッド面21は、これら複数の主溝22により、タイヤ周方向に沿って延在するリブ状の陸部23が複数形成されている。また、図には明示しないが、トレッド面21は、各陸部23において、主溝22に交差するラグ溝が設けられている。陸部23は、ラグ溝によってタイヤ周方向で複数に分割されている。また、ラグ溝は、トレッド部2のタイヤ幅方向最外側でタイヤ幅方向外側に開口して形成されている。なお、ラグ溝は、主溝22に連通している形態、または主溝22に連通していない形態の何れであってもよい。
【0013】
ショルダー部3は、トレッド部2のタイヤ幅方向両外側の部位である。また、サイドウォール部4は、空気入りタイヤ1におけるタイヤ幅方向の最も外側に露出したものである。また、ビード部5は、ビードコア51とビードフィラー52とを有する。ビードコア51は、スチールワイヤであるビードワイヤをリング状に巻くことにより形成されている。ビードフィラー52は、カーカス層6のタイヤ幅方向端部がビードコア51の位置で巻き上げられることにより形成された空間に配置されるゴム材である。
【0014】
カーカス層6は、各タイヤ幅方向両端部が、一対のビードコア51でタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に巻き上げられてタイヤ径方向外側に延在され、かつタイヤ周方向にトロイド状に掛け回されてタイヤの骨格を構成するものである。このカーカス層6についての詳細は後述する。
【0015】
ベルト層7は、少なくとも2枚のベルトプライ71、72を積層した多層構造をなし、トレッド部2においてカーカス層6の外周であるタイヤ径方向外側に配置され、カーカス層6をタイヤ周方向に覆うものである。ベルトプライ71、72は、タイヤ周方向に対して所定の角度(例えば、20度〜30度)で複数並設されたコード(図示せず)が、コートゴムで被覆されたものである。コードは、スチールまたは有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンなど)からなる。また、重なり合うベルトプライ71、72は、互いのコードが交差するように配置されている。
【0016】
ベルト補強層8は、ベルト層7の外周であるタイヤ径方向外側に配置されてベルト層7をタイヤ周方向に覆うものである。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に略平行(±5度)でタイヤ幅方向に複数並設されたコード(図示せず)がコートゴムで被覆されたものである。コードは、スチールまたは有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンなど)からなる。
図1で示すベルト補強層8は、ベルト層7のタイヤ径方向外側においてベルト層7全体を覆うように配置されたベルト補強層81と、当該ベルト補強層81のタイヤ径方向外側においてベルト層7全体を覆うように配置されたベルト補強層82と、当該ベルト補強層82のタイヤ幅方向外側においてベルト層7のタイヤ幅方向各端部をそれぞれ覆うように配置されたベルト補強層83とで構成されている。なお、ベルト補強層8の構成は、上記に限らず、図には明示しないが、ベルト層7全体を覆うように配置される構成や、ベルト層7のタイヤ幅方向各端部をそれぞれ覆うように配置される構成のみ、またはこれらを適宜組み合わせた構成がある。すなわち、ベルト補強層8は、ベルト層7の少なくともタイヤ幅方向両端部に重なるものである。また、ベルト補強層8は、帯状(例えば幅10[mm])のストリップ材をタイヤ周方向に巻き付けて設けられている。
【0017】
[カーカス層]
図2は、本実施形態に係る空気入りタイヤのカーカス層を示す一部拡大子午断面図である。
【0018】
上述した空気入りタイヤ1において、カーカス層6は、少なくとも2層(
図1では2層で示し、
図2では3層で示す)で構成されており、熱可塑性シート(61、62、63)で形成されている。そして、熱可塑性シート(61、62、63)は、各層同士が重なる間にゴム層6aが配置されている。
図2においては、熱可塑性シート(61、62、63)の各層同士が重なる間以外に、ビード部5の巻き上げ部分で最も外側となる熱可塑性シート61の外側にもゴム層6aが設けられた形態を示す。
【0019】
熱可塑性シート(61、62、63)は、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物で構成されており、コードを有さないものである。
【0020】
本実施形態で使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えばナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕、ポリエステル系樹脂〔例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、ポリブチレンテレフタレート/テトラメチレングリコール共重合体、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えばポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂〔例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレンアクリル酸共重合体(EAA)、エチレンメチルアクリレート樹脂(EMA)〕、ポリビニル系樹脂〔例えば酢酸ビニル(EVA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体〕、セルロース系樹脂〔例えば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)〕、イミド系樹脂〔例えば芳香族ポリイミド(PI)〕などを挙げることができる。
【0021】
本実施形態で使用されるエラストマーとしては、例えば、ジエン系ゴムおよびその水素添加物〔例えばNR、IR、エポキシ化天然ゴム、SBR、BR(高シスBRおよび低シスBR)、NBR、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)〕、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー、含ハロゲンゴム〔例えばBr−IIR、Cl−IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHC、CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM)〕、シリコーンゴム〔例えばメチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム〕、含イオウゴム〔例えばポリスルフィドゴム〕、フッ素ゴム〔例えばビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム〕、熱可塑性エラストマー〔例えばスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー〕などを挙げることができる。
【0022】
このように、本実施形態の空気入りタイヤ1は、少なくとも2層のカーカス層6が、そのタイヤ幅方向両端部を両ビード部5に配置したビードコア51まで延在されるとともにビードコア51のタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に巻き上げられてタイヤ径方向外側に延在された空気入りタイヤ1において、カーカス層6は、熱可塑性シート(61、62、63)で形成されてなり、少なくとも熱可塑性シート(61、62、63)の各層同士が重なる間にゴム層6aが配置されている。
【0023】
この空気入りタイヤ1によれば、カーカス層6を熱可塑性シート(61、62、63)で形成し、少なくとも各層間にゴム層6aを配置したことにより、一般的な空気入りタイヤに適用されるようなタイヤ幅方向に配置されるカーカスコードがコートゴムで被覆されたカーカス層と同等にタイヤの骨格となる機能を有する。この熱可塑性シート(61、62、63)は、カーカスコードよりも軽量である。この結果、タイヤ重量をより軽減することが可能になる。
【0024】
しかも、この空気入りタイヤ1によれば、カーカス層6を熱可塑性シート(61、62、63)で形成したことにより、一般的な空気入りタイヤの内側に適用されるインナーライナーにおける空気漏れを抑制する機能を有する。この結果、インナーライナーを省略することが可能になり、タイヤ重量をより軽減することが可能になる。
【0025】
さらに、この空気入りタイヤ1によれば、カーカス層6を熱可塑性シート(61、62、63)で形成したことにより、カーカス層6において、カレンダー工程(ゴムのシーティング(シート加工)、織布へのゴムのコーティング(トッピング加工)などの操作を行う工程)を省略することができるため、タイヤの製造工程を簡素化することが可能になる。
【0026】
なお、ゴム層6aの平均厚さは、0.05[mm]以上0.5[mm]以下であることが好ましい。0.05[mm]以上であれば製造が可能であり、0.5[mm]以下であれば重量の増加を防ぐことが可能になる。
【0027】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、カーカス層6をなす熱可塑性シート(61、62、63)は、単層の平均厚さが0.03[mm]以上1.00[mm]以下であり、かつ空気透過係数が3×10
−12[cc・cm/cm
2・sec・cmHg]以上500×10
−12[cc・cm/cm
2・sec・cmHg]以下であることが好ましい。
【0028】
ここで、平均厚さは、測定対象タイヤをタイヤ周方向に幅20[mm]から30[mm]でタイヤ幅方向に切断し、タイヤ幅方向の長さを少なくとも8等分し、カーカス層6を構成する熱可塑性シート(61、62、63)のそれぞれの厚みを測定し、単層分について平均化して得る。また、空気透過係数は、JIS K7126「プラスチックフィルムおよびシートの気体透過度試験方法(A)」に準じ、試験気体を空気(N
2:O
2=8:2)とし、試験温度を30[℃]として得る。
【0029】
この空気入りタイヤ1によれば、熱可塑性シート(61、62、63)の上記厚さの規定によりタイヤの骨格となる機能を顕著に有し、かつ上記空気透過係数の規定によりインナーライナーの機能を顕著に有することから、タイヤ重量を軽減化する効果を顕著に得ることが可能になる。なお、インナーライナーの機能を兼ね、かつタイヤ重量を軽減化する効果を顕著に得るため、熱可塑性シート(61、62、63)の単層の平均厚さを0.05[mm]以上0.6[mm]以下とすることがさらに好ましく、インナーライナーの機能を兼ね、かつタイヤ重量を軽減化する効果をより顕著に得るため、熱可塑性シート(61、62、63)の単層の平均厚さを0.08[mm]以上0.5[mm]以下とすることがより好ましい。
【0030】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、ゴム層6aは、熱可塑性シート(61、62、63)との剥離強度が50[N/25mm]以上400[N/25mm]以下であることが好ましい。
【0031】
ここで、剥離強度は、JIS K6256に準じて測定して得る。
【0032】
この空気入りタイヤ1によれば、ゴム層6aの上記剥離強度の規定により、カーカス層6間の接着性が向上し、結果としてタイヤの耐久性を向上することが可能になる。なお、剥離強度の上限は、400[N/25mm]を超えてもよいが、タイヤ成形時に供給装置の金属ドラムに密着してハンドリング性が低下する傾向となり修正し難くなるため、400[N/25mm]とした。なお、耐久性を向上する効果を顕著に得るため、ゴム層6aの剥離強度を75[N/25mm]以上400[N/25mm]以下とすることがさらに好ましく、耐久性をより向上しタイヤ成形時のハンドリング性をより向上する効果を顕著に得るため、ゴム層6aの剥離強度を100[N/25mm]以上300[N/25mm]以下とすることがより好ましい。
【0033】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、ゴム層6aは、下記式(1)中のR
1、R
2、R
3、R
4およびR
5が、水素、ヒドロキシル基または炭素原子数が1個以上8個以下のアルキル基で表される化合物およびホルムアルデヒドの縮合物と、メチレンドナーと、加硫剤とを含むゴム組成物であって、縮合物の配合量が、ゴム成分100質量部に対して0.5質量部以上20質量部以下であり、メチレンドナーの配合量がゴム成分100質量部に対して0.5質量部以上80質量部以下であり、メチレンドナーの配合量/前記縮合物の配合量の比が、1以上4以下であることが好ましい。
【0035】
この空気入りタイヤ1によれば、ゴム層6aの熱可塑性シート(61、62、63)との接着性を向上することが可能になる。すなわち、ゴム層6aの熱可塑性シート(61、62、63)に対する剥離強度が向上し、カーカス層6間の接着性が向上し、結果としてタイヤとしての耐久性を向上することが可能になる。
【0036】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、熱可塑性シート(61、62、63)は、単層の室温における引張降伏強さが1[MPa]以上100[MPa]以下であることが好ましい。
【0037】
ここで、引張降伏強さは、JIS K7113に規定の試験法で測定して得る。
【0038】
この空気入りタイヤ1によれば、熱可塑性シート(61、62、63)の上記引張降伏強さの規定により、熱可塑性シート(61、62、63)を引っ張ったときの塑性変形を抑制して耐圧性を向上することが可能になる。耐圧性が向上することで、熱可塑性シート(61、62、63)の積層数を減少させ、タイヤ重量の軽減化を向上することが可能になる。なお、引張降伏強さの上限は、100[MPa]を超えてもよいが、インフレート成形時の熱可塑性シート(61、62、63)の拡大において形状が不均一になる傾向となるため、製造のし易さから、100[MPa]とした。なお、熱可塑性シート(61、62、63)の積層数を減少させ、かつ製造を容易とする効果を顕著に得るため、熱可塑性シート(61、62、63)の上記引張降伏強さを2[MPa]以上80[MPa]以下とすることがさらに好ましい。
【0039】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、熱可塑性シート(61、62、63)は、単層の室温における破断伸びが80[%]以上500[%]以下であることが好ましい。
【0040】
この空気入りタイヤ1によれば、例えば、リム組み作業時に工具などによりタイヤに局所的な歪みが生じても、熱可塑性シート(61、62、63)の破断を防ぐことができるため、従来のマウント(リム組み)装置を利用することが可能である。また、上記破断伸びの確保により実使用時のタイヤ耐久性も向上する。なお、破断伸びの上限は、500[%]を超えてもよいが、実現可能な範囲として規定した。なお、熱可塑性シート(61、62、63)の耐久性を確保する効果を顕著に得るため、熱可塑性シート(61、62、63)の破断伸びを100[%]以上500[%]以下とすることがより好ましい。
【0041】
なお、
図2の構成では、上記のように、積層体60が、熱可塑性シートから成る3層のカーカス層61〜63を有している。そして、隣り合うカーカス層61、62;62、63の間に、ゴム層6aが挟み込まれている。これにより、ゴム層6aがカバー材として機能して、隣り合うカーカス層61、62;62、63の相互接触が防止されている。
【0042】
また、
図2の構成では、積層体60が、一対のゴム層6a、6aを最内層および最外層に有している。これにより、積層体60の巻き返し部にて、ゴム層6a、6aがカバー材として機能して、カーカス層61、63と周辺部材(例えば、サイドウォール部4を構成するサイドウォールゴム41、ビード部5を構成するビードコア51、ビードフィラー52およびリムクッションゴム53など)との相互接触が防止されている。
【0043】
また、積層体60の巻き返し部にて、最も内周側にあるゴム層6aがカバー材として機能して、カーカス層63の本体部と巻き上げ部との間の自己接触が防止されている。
【0044】
また、タイヤ内腔部に対して最も内周側にあるゴム層6aが、積層体60の内周面を覆ってインナーライナーとして機能している。さらに、カーカス層61〜63自身が、低い気体透過性を有する熱可塑性フィルムから成ることにより、インナーライナーとして機能している。
【0045】
また、
図1および
図2の構成では、上記のように、空気入りタイヤ1が、少なくとも2層のカーカス層6(61、62;61〜63)を備えている。しかし、これに限らず、空気入りタイヤ1が、単層のみのカーカス層6を備えても良い(図示省略)。このとき、
図2の構成と同様に、積層体60が、カーカス層6を挟み込む一対のゴム層6a、6aを備えることが好ましい。
【0046】
[裏打ち材としての補強層]
近年では、地球温暖化対策などの環境への配慮から、タイヤを軽量化すべき要求がある。この点において、従来の空気入りタイヤでは、体積の大きいタイヤ部材(例えば、キャップトレッドゴム、サイドウォールゴムなど)を薄肉化した構成が採用されている。しかしながら、タイヤ部材を薄肉化すると、タイヤの耐摩耗性能や耐久性能が低下する。このため、更なるタイヤの軽量化が難しいという課題がある。
【0047】
このため、この空気入りタイヤ1では、上記のように、熱可塑性シートから成るカーカス層を用いることで、タイヤ重量を軽減している。
【0048】
ところで、一般的なカーカス層、例えば、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のカーカスコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成されるカーカス層では、タイヤの加硫工程時にて、カーカス層がビード部の形状を保持する作用を有する。このため、加硫工程にて、ビードフィラーなどの周辺ゴムが加熱および加圧されたときに、周辺ゴムの流動に起因する成形不良が生じ難い。
【0049】
しかしながら、上記のような熱可塑性シートから成るカーカス層では、加硫工程時の加熱により、カーカス層自身が軟化する。すると、周辺ゴムが加熱および加圧により軟化して流動したときに、カーカス層が変形してバックルなどの成形不良が生じるという新たな課題がある。
【0050】
そこで、この空気入りタイヤでは、加硫工程時のゴム流れ(周辺ゴムの流動)に起因するカーカス層の成形不良を抑制するために、以下の構成を採用している。
【0051】
図2に示すように、この空気入りタイヤ1は、補強層9を備える。補強層9は、ビードフィラー52およびサイドウォールゴム41の間に配置されて、ビードフィラー52のタイヤ幅方向外側の側面を覆う。したがって、補強層9は、ビードフィラー52とサイドウォールゴム41との間の領域に埋設されて、この領域を補強する。
【0052】
ビードフィラー52のタイヤ幅方向外側の側面とは、ビードコア51のタイヤ径方向外側の端部からビードフィラー52のタイヤ径方向外側の端部までの領域における壁面をいう。
【0053】
また、補強層9は、タイヤ子午線方向の断面視(
図2参照)にて、ビードフィラー52のタイヤ幅方向外側の側面の少なくとも50[%]の領域を覆うことを要し、80[%]以上の領域を覆うことが好ましい。また、補強層9が、ビードフィラー52のタイヤ径方向外側の頂部を覆って配置されることが好ましい。なお、製品タイヤでは、
図2に示すように、補強層9がビードフィラー52に沿ってタイヤ径方向に延在する。
【0054】
また、タイヤ子午線方向の断面視にて、補強層9の端部と、ビードフィラー52のタイヤ径方向外側の端部との距離Dが、5[mm]≦Dの範囲にあることが好ましい。したがって、補強層9の端部とビードフィラー52の端部とが相互に位置をずらして配置される。
【0055】
補強層9がビードフィラー52の径方向外側の端部を越えて延在するときの距離Dの上限は、D≦15[mm]であることが好ましい。これにより、後述する補強層9の作用が適正に確保される。一方で、距離Dがあまりに大きすぎると、タイヤの転がり抵抗が悪化するため、好ましくない。
【0056】
距離Dは、加硫工程後のタイヤ製品の段階で測定される。
【0057】
また、補強層9は、タイヤの加硫工程にて、形状を適正に保持できる物性および構造を有する。これにより、後述する補強層9の機能を確保できる。
【0058】
例えば、補強層9が、繊維材を含む複合材から成ることが好ましい。具体的には、補強層9が、(a)コートゴムで被覆された複数のコード材を圧延加工して成る構成、(b)コートゴムで被覆された複数のコード材を平織りして成る構成、(c)短繊維材をゴム材料に混ぜ込んで成る構成などが挙げられる。上記(a)および(b)のコード材は、例えば、ポリエステルやナイロン、アラミドといった有機繊維やスチールコードなどを採用でき、モノフィラメントや撚り線で構成されていても良い。また、上記(c)の短繊維材としては、例えば、ガラス繊維などが採用され得る。
【0059】
また、上記(a)の構成では、コード材のエンド数が、15[本/50mm]以上50[本/50mm]以下の範囲にあることが好ましく、30[本/50mm]以上50[本/50mm]以下の範囲にあることが好ましい。また、補強層9のコード材の傾斜角度θ(0[deg]〜90[deg])が、10[deg]≦θ≦90[deg]の範囲にあることが好ましく、65[deg]≦θ≦90[deg]の範囲にあることがより好ましく、75[deg]≦θ≦90[deg]の範囲にあることがさらに好ましい。傾斜角度θは、配列されたコード材の長手方向とタイヤ周方向とのなす角として測定される。これらのエンド数および傾斜角度θにより、後述する補強層9の機能を確保できる。
【0060】
また、例えば、補強層9が、単体のゴム材料から構成されても良い。かかる構成では、補強層9を構成するゴム材料の温度170[℃]の測定条件下で、レオメーターにて測定された最小トルクが0.35[N・m]以上の範囲にあることにより、加硫工程時における補強層9の形状が適正に確保される。
【0061】
例えば、
図2の構成では、熱可塑性シートから成る3層のカーカス層61〜63と、これらのカーカス層61〜63を挟み込む4層のゴム層6aとが交互に積層されて配置されている(後述する
図4参照)。これにより、積層体60の両面が一対のゴム層6a、6aに挟み込まれて、最内層および最外層のカーカス層61、63の表面が覆われている。また、かかる積層体60が、ビードコア51およびビードフィラー52を包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き上げられて配置されている。
【0062】
また、補強層9が、コートゴムで被覆された複数のコード材を圧延加工して成る環状かつシート状の部材であり、ビードフィラー52に沿ってタイヤ周方向の全周に渡って配置されている。また、補強層9が、ビードコア51およびビードフィラー52と、積層体60との間に挟み込まれて配置されている。また、補強層9が、ビードコア51からビードフィラー52のタイヤ径方向外側の端部を越えた位置まで延在している。このため、補強層9が、ビードフィラー52のタイヤ幅方向外側の側面の全域を覆って配置されて、ビードフィラー52に隣接している。また、補強層9のタイヤ径方向内側の端部が、ビードコア51の側面と積層体60との間に挟み込まれて、これらに隣接している。また、補強層9のタイヤ径方向外側の端部が、積層体60の本体部と巻き上げ部との間に挟み込まれて配置されている。また、補強層9の端部とビードフィラー52の端部とが、タイヤ径方向に相互に位置をずらして配置されている。また、積層体60がゴム層6aを最内層に有することにより、補強層9と積層体60との隣接部にて、ゴム層6aがカバー材として機能して、補強層9とカーカス層63との相互接触が防止されている。
【0063】
[タイヤ製造方法]
図3〜
図5は、本実施形態に係る空気入りタイヤの製造方法を示す説明図である。これらの図は、グリーンタイヤ成形工程におけるカーカス層の巻き上げ工程を模式的に示している。
【0064】
空気入りタイヤ1の製造工程では、各種のタイヤ部材が成形機にかけられて、グリーンタイヤ(図示省略)が成形される。
【0065】
具体的には、
図3に示すように、ビードコア51およびビードフィラー52の組立体と、熱可塑性シート61〜63およびゴム層6aの積層体60と、サイドウォールゴム41およびリムクッションゴム53を一体化したゴム部材と、補強層9とが、成形ドラム(図示省略)に配置されて相互に位置決めされる。このとき、補強層9が、予めビードフィラー52の幅方向外側の側面を覆って配置される。また、
図3に示すように、補強層9が、ビードフィラー52よりもタイヤ径方向外側まで延在することにより、ビードフィラー52の径方向外側の頂部を覆って配置されることが好ましい。
【0066】
また、
図4に示すように、熱可塑性シート61〜63とゴム層6aとが予め交互に積層されて、積層体60が成形される。積層体60あるいは積層体60を構成するカーカス層61〜63は、グリーンタイヤ成形時にて、帯状部材であっても良いし、シームレスな円筒部材であっても良い(図示省略)。
【0067】
次に、
図5に示すように、ターンアップブラダ(図示省略)が用いられて、積層体60、サイドウォールゴム41およびリムクッションゴム53が、ビードコア51およびビードフィラー52の組立体を包み込むように幅方向外側に巻き上げられる。
【0068】
次に、上記の部材がターンアップブラダにより圧着されて、周方向に一様断面を有する環状部材が成形される。次に、この環状部材の外周に、ベルト層7を構成するベルトプライ71、72、ベルト補強層81〜83、トレッドゴムなどが配置されて、グリーンタイヤが成形される。
【0069】
次に、このグリーンタイヤがタイヤ加硫モールド(図示省略)に充填される。そして、この加硫モールドが加熱され、グリーンタイヤの加硫が行われる。このとき、補強層9が、ビードフィラー52の裏打ち材として機能して、加熱により軟化したビードフィラー52の過剰な流動を抑制する。これにより、熱可塑性シートから成るカーカス層61〜63の変形が抑制されて、カーカス層61〜63のバックルが抑制される。
【0070】
その後に、加硫後のタイヤが、タイヤ加硫モールドから引き抜かれて取り出される。
【0071】
[変形例]
図6〜
図11は、本実施形態に係る空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。これらの図は、補強層9の配置を模式的に表している。
【0072】
図2の構成では、
図5に示すように、補強層9が、ビードコア51およびビードフィラー52と積層体60との間に挟み込まれて配置され、また、ビードコア51からビードフィラー52のタイヤ径方向外側の端部を越えた位置まで延在している。このため、補強層9が、ビードフィラー52に隣接して配置され、また、ビードフィラー52のタイヤ幅方向外側の側面の全域を覆って配置されている。
【0073】
かかる
図5の構成では、補強層9が、ビードフィラー52と積層体60との間に位置してビードフィラー52の側面を覆うことにより、タイヤ加硫工程時におけるビードフィラー52の過剰な流動が効果的に抑制され、また、ビードフィラー52の過剰な流動によるカーカス層61〜63への影響が低減される。これにより、カーカス層61〜63の変形を効果的に抑制できる点で好ましい。また、かかる構成では、
図3に示すように、グリーンタイヤの成形工程にて補強層9を予めビードフィラー52に配置できるので、グリーンタイヤの成形工程を容易化できる点で好ましい。
【0074】
しかし、これに限らず、
図6に示すように、補強層9が、積層体60を構成する複数のカーカス層61、62;62、63の間に挟み込まれて配置されても良い。かかる構成としても、タイヤ加硫成形時におけるビードフィラー52の過剰な流動を抑制してカーカス層61〜63の変形を抑制できる。なお、
図6の構成では、グリーンタイヤの成形工程にて、補強層9とカーカス層61〜63およびゴム層6aとが予め積層されて、補強層9を含む積層体60が成形される(図示省略)。そして、補強層9が積層体60と共に巻き上げられて(
図6参照)、グリーンタイヤが成形される。
【0075】
また、
図7に示すように、補強層9が、積層体60とサイドウォールゴム41およびリムクッションゴム53との間に挟み込まれて配置されても良い。かかる構成としても、タイヤ加硫工程時におけるビードフィラー52の過剰な流動を抑制してカーカス層61〜63の変形を抑制できる。なお、
図7の構成では、グリーンタイヤの成形工程にて、補強層9が、積層体60とサイドウォールゴム41およびリムクッションゴム53との間に挟み込まれてセットされる(図示省略。
図3参照。)。そして、補強層9が積層体60、サイドウォールゴム41およびリムクッションゴム53と共に巻き上げられて(
図7参照)、グリーンタイヤが成形される。
【0076】
また、
図6および
図7の構成では、
図2の構成と同様に、補強層9と、補強層9に隣接するカーカス層61;62;63との間に、ゴム層6aが配置されることが好ましい。例えば、
図6の構成であれば、補強層9と、補強層9を挟み込む一対のカーカス層61、62;62、63との間に、ゴム層6a、6aがそれぞれ配置される。また、
図7の構成であれば、補強層9と、積層体60の最外層にあるカーカス層63との間に、ゴム層6aが配置される。これにより、ゴム層6aがカバー材として機能して、補強層9とカーカス層61、63との相互接触が防止される。
【0077】
また、
図2の構成では、
図3に示すように、補強層9が、ビードコア51からビードフィラー52のタイヤ径方向外側の端部を越えた位置まで延在している。このため、補強層9が、ビードフィラー52のタイヤ幅方向外側の側面の全域を覆って配置され、また、ビードフィラー52の径方向外側の頂部を覆って配置されている。かかる構成では、タイヤ加硫工程時におけるビードフィラー52の過剰な流動を抑制してカーカス層61〜63の変形を抑制できる点で好ましい。
【0078】
しかし、これに限らず、
図8に示すように、補強層9が、ビードフィラー52のタイヤ幅方向外側の側面のうちの一部の領域のみを覆って配置されても良い。このとき、上記のように、補強層9がビードフィラー52の側面の領域(長さL1の領域)の少なくとも50%を覆うことを要する。また、補強層9が、ビードフィラー52のタイヤ径方向外側の端部よりもタイヤ径方向内側の領域に配置されても良い(図示省略)。
【0079】
また、
図9に示すように、補強層9が、ビードコア51のタイヤ径方向内側まで延在することが好ましい。このとき、補強層9の径方向内側の端部が、ビードコア51の重心からタイヤ回転軸(図示省略)に下ろした垂線よりもタイヤ幅方向内側まで延在することが好ましい。これにより、補強層9の端部の耐久性が確保される。
【0080】
また、
図10に示すように、補強層9が、ビードコア51を包み込むように巻き上げられて、ビードフィラー52のタイヤ幅方向内側の側面まで延在しても良い。さらに、
図11に示すように、補強層9が、ビードコア51およびビードフィラー52の全体を包み込んで配置されても良い。これにより、タイヤ加硫工程時におけるビードフィラー52の過剰な流動が効果的に抑制される。
【0081】
図12は、本実施形態に係る空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。
【0082】
本実施形態の空気入りタイヤ1では、
図12の変形例に係る空気入りタイヤの子午断面図に示すように、熱可塑性シート(61、62)は、タイヤ幅方向最大幅(タイヤ幅方向最大展開幅)の熱可塑性シート(
図12では熱可塑性シート61)のタイヤ幅方向両端部C1が、タイヤ幅方向最大幅(タイヤ幅方向最大展開幅)のベルト層(
図12ではベルトプライ71)のタイヤ幅方向端部B1よりもタイヤ幅方向内側に位置することが好ましい。
【0083】
この空気入りタイヤ1によれば、タイヤ幅方向最大幅の熱可塑性シート(
図12では熱可塑性シート61)のタイヤ幅方向両端部C1を、タイヤ幅方向最大幅のベルト層(
図12ではベルトプライ71)のタイヤ幅方向端部B1よりもタイヤ幅方向内側に位置するように構成することで、ショルダー部3に各部材の端が集中する事態を防ぐことが可能になる。各部材の端が集中すると、端と端とが向き合う部分が屈曲点となり、耐圧性および耐久性が低下する傾向となる。すなわち、この空気入りタイヤ1によれば、屈曲点の発生を抑制し、耐圧性および耐久性を向上することが可能になる。
【0084】
しかも、熱可塑性シート(61、62)をビードコア51にて巻き上げた部分がサイドウォール部4に配置されるため、サイドウォール部4において熱可塑性シート(61、62)の積層が増す(
図12では2倍)。このように構成することで、熱可塑性シート(61、62)の積層数を減少させてタイヤ重量の軽減化を向上しつつ、サイドウォール部4の耐圧性を確保することが可能になる。
【0085】
なお、
図12においては、タイヤ幅方向最大幅ではない熱可塑性シート(
図12では熱可塑性シート62)のタイヤ幅方向両端部C2も、タイヤ幅方向最大幅のベルト層(
図12ではベルトプライ71)のタイヤ幅方向端部B1よりもタイヤ幅方向内側に位置するように構成している。このように構成することで、屈曲点の発生をより抑制し、耐圧性および耐久性を向上する効果を顕著に得ることが可能になる。また、
図12においては、タイヤ幅方向最大幅の熱可塑性シート(
図12では熱可塑性シート61)のタイヤ幅方向両端部C1を、タイヤ幅方向最大幅ではないベルト層(
図12ではベルトプライ72)のタイヤ幅方向端部B2よりもタイヤ幅方向内側に位置するように構成している。このように構成することで、屈曲点の発生をより抑制し、耐圧性および耐久性を向上する効果を顕著に得ることが可能になる。さらに、
図12においては、タイヤ幅方向最大幅ではない熱可塑性シート(
図12では熱可塑性シート62)のタイヤ幅方向両端部C2も、タイヤ幅方向最大幅ではないベルト層(
図12ではベルトプライ72)のタイヤ幅方向端部B2よりもタイヤ幅方向内側に位置するように構成している。このように構成することで、屈曲点の発生をより抑制し、耐圧性および耐久性を向上する効果を顕著に得ることが可能になる。
【0086】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、
図12に示すように、タイヤ幅方向最大幅の熱可塑性シート(
図12では熱可塑性シート61)のタイヤ幅方向両端部C1を、タイヤ幅方向最大幅のベルト層(
図12ではベルトプライ71)のタイヤ幅方向端部B1よりもタイヤ幅方向内側に位置させた構成において、熱可塑性シート(61、62)は、タイヤ幅方向最大幅の熱可塑性シート(
図12では熱可塑性シート61)のタイヤ幅方向両端部(C1−C1)の間隔CWと、タイヤ幅方向最大幅のベルト層(
図12ではベルトプライ71)のタイヤ幅方向幅BWとの関係が、0.10≦CW/BW≦0.95の範囲を満たすことが好ましい。
【0087】
この空気入りタイヤ1によれば、タイヤ幅方向最大幅の熱可塑性シート(
図12では熱可塑性シート61)のタイヤ幅方向両端部C1を、タイヤ幅方向最大幅のベルト層(
図12ではベルトプライ71)のタイヤ幅方向端部B1よりもタイヤ幅方向内側に位置するように構成した場合の、耐圧性および耐久性を向上する効果を顕著に得ることが可能になる。なお、耐圧性および耐久性を向上する効果をより顕著に得るため、0.15≦CW/BW≦0.95の範囲を満たすことがより好ましい。
【0088】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、熱可塑性シート(61、62、63)は、タイヤ周方向に対する引張降伏強さαと、タイヤ幅方向に対する引張降伏強さβとの関係が、1<β/α≦5の範囲を満たすことが好ましい。
【0089】
この空気入りタイヤ1によれば、タイヤ幅方向に対する引張降伏強さβを、タイヤ周方向に対する引張降伏強さαよりも大きくすることで、タイヤ周方向は変形しやすく、タイヤ幅方向は変形しにくくなる。この結果、タイヤの接地形状(接地長)をより適切にすることができるので、操縦安定性を向上することが可能になる。
【0090】
なお、熱可塑性シート(61、62、63)において、タイヤ周方向に対する引張降伏強さαと、タイヤ幅方向に対する引張降伏強さβとの関係を、1<β/α≦5の範囲とするには、以下の方法がある。
【0091】
例えば、延伸成形により熱可塑性シート(61、62、63)のタイヤ周方向とタイヤ幅方向との延伸率を異ならせ剛性を異ならせる。
【0092】
さらに、熱可塑性シート(61、62、63)に異方性をもたせるために、熱可塑性シート(61、62、63)の任意の箇所に、切欠部、貫通孔、非貫通の凹部などを形成しても良い(図示省略)。
【0093】
[効果]
以上説明したように、この空気入りタイヤ1は、ビードコア51と、ビードコア51のタイヤ径方向外側に配置されるビードフィラー52と、熱可塑性シートから成ると共に端部をタイヤ幅方向外側に巻き上げてビードコア51およびビードフィラー52をそれぞれ包み込むカーカス層61〜63と、カーカス層61〜63の巻き上げ部のタイヤ幅方向外側に配置されるサイドウォールゴム41と、ビードフィラー52およびサイドウォールゴム41の間に配置されてビードフィラー52のタイヤ幅方向外側の側面を覆う補強層9とを備える(
図2参照)。
【0094】
かかる構成では、(1)カーカス層6が熱可塑性シート61〜63から成るので、カーカス層がスチールあるいは有機繊維材をコートゴムで被覆して成る構成と比較して、タイヤ重量が軽減される利点がある。また、(2)タイヤ加硫工程にて、補強層9が、ビードフィラー52の裏打ち材として機能して、ビードフィラー52の過剰な流動を抑制する。これにより、熱可塑性シートから成るカーカス層61〜63の過剰な変形が抑制されて、カーカス層61〜63のバックルが抑制される利点がある。
【0095】
また、この空気入りタイヤ1では、タイヤ子午線方向の断面視にて、補強層9が、前記ビードフィラー52のタイヤ幅方向外側の側面の少なくとも50[%]の領域を覆う(
図2および
図8参照)。これにより、タイヤ加硫工程時におけるビードフィラー52の過剰な流動が適正に抑制される利点がある。
【0096】
また、この空気入りタイヤ1では、補強層9が、繊維材を含む複合材から成る。かかる構成では、タイヤ加硫工程時にて、補強層9の形状が適正に確保されるので、ビードフィラー52の過剰な流動が適正に抑制される利点がある。
【0097】
また、この空気入りタイヤ1では、補強層9が、コードゴムで被覆された複数のコード材を圧延加工して成る。かかる構成では、タイヤ加硫工程時にて、補強層9の形状が適正に確保されるので、ビードフィラー52の過剰な流動が適正に抑制される利点がある。
【0098】
また、この空気入りタイヤ1では、補強層9のコード材の傾斜角度θが、65[deg]≦θ≦90[deg]の範囲にある。かかる構成では、タイヤ加硫工程時にて、補強層9の形状が適正に確保されるので、ビードフィラー52の過剰な流動が適正に抑制される利点がある。
【0099】
また、この空気入りタイヤ1では、補強層9が単体のゴム材料から成ると共に、前記ゴム材料の温度170[℃]の測定条件下で、レオメーターにて測定された最小トルクが0.35[N・m]以上の範囲にある。かかる構成では、タイヤ加硫工程時にて、補強層9の形状が適正に確保されるので、ビードフィラー52の流動が適正に抑制される利点がある。
【0100】
また、この空気入りタイヤ1では、補強層9が、ビードフィラー52のタイヤ径方向外側の頂部を覆って配置される(
図2参照)。これにより、タイヤ加硫工程時におけるビードフィラー52の過剰な流動が効果的に抑制される利点がある。
【0101】
また、この空気入りタイヤ1では、タイヤ子午線方向の断面視にて、補強層9の端部と、ビードフィラー52のタイヤ径方向外側の端部との距離Dが、5[mm]≦Dの範囲にある(
図2および
図10参照)。かかる構成では、補強層9の端部とビードフィラー52の端部との距離Dが適正に確保されるので、補強層9の端部の耐久性が適正に確保される利点がある。具体的には、補強層9の端部とビードフィラー52の端部とを離して配置することにより、補強層9の端部を起点とした周辺ゴムのセパレーションが抑制される。
【0102】
また、この空気入りタイヤ1では、補強層9の端部が、ビードコア51のタイヤ径方向内側(ビードコア下)まで延在する(
図9参照)。かかる構成では、補強層9の端部がビードコア51のタイヤ径方向内側まで延在しない構成(例えば、
図2参照)と比較して、車両の制駆動時のビード部とリムフランジとの擦れに起因する補強層9の端部を基点としたセパレーションの発生を効果的に抑制できる。これにより、補強層9の端部の耐久性が適正に確保される利点がある。
【0103】
また、この空気入りタイヤ1では、補強層9が、ビードコア51を包み込んでビードフィラー52のタイヤ幅方向内側の側面まで延在する(
図10参照)。これにより、タイヤ加硫工程時におけるビードフィラー52の過剰な流動が効果的に抑制される利点がある。
【0104】
また、この空気入りタイヤ1では、補強層9と、補強層9に隣接するカーカス層63との間に介在するゴム層6aを備える(
図2参照)。すなわち、補強層9とカーカス層63とが隣接して配置される構成では、補強層9とカーカス層63との間に、緩衝材としてのゴム層6aが配置される。これにより、補強層9とカーカス層63との相互接触が防止されて、カーカス層63の破損が抑制される利点がある。これは、特に、補強層9が繊維材を含む複合材から成る構成において、特に有益である。なお、ゴム層6aは、カーカス層61〜63と共に予め積層されて積層体60を構成する部材であっても良いし(
図4参照)、例えば、補強層9に形成された肉厚なコートゴムであっても良い(図示省略)。
【0105】
また、この空気入りタイヤ1では、熱可塑性シート61〜63の平均厚さが、0.03[mm]以上1.00[mm]以下の範囲内にあり、且つ、熱可塑性シート61〜63の空気透過係数が、3×10
−12[cc・cm/cm
2・sec・cmHg]以上500×10
−12[cc・cm/cm
2・sec・cmHg]以下の範囲内にある。前者により、熱可塑性シート61〜63の強度が適正に確保される利点があり、また、後者により、熱可塑性シート61〜63がインナーライナーとしての機能を有する利点がある。
【0106】
また、この空気入りタイヤ1では、ゴム層6aと熱可塑性シート61〜63との剥離強度が、50[N/25mm]以上400[N/25mm]以下の範囲内にある。これにより、ゴム層6aと熱可塑性シート61〜63との間の接着性が向上して、タイヤの耐久性が向上する利点がある。
【0107】
また、この空気入りタイヤ1では、ゴム層6aが、上記した式(1)で表される化合物およびホルムアルデヒドの縮合物と、メチレンドナーと、加硫剤とを含むゴム組成物から成る。また、式(1)のR
1、R
2、R
3、R
4およびR
5が、水素、ヒドロキシル基、または、1個以上8個以下の炭素原子数を有するアルキル基である。また、縮合物の配合量が、ゴム成分100質量部に対して0.5質量部以上20質量部以下の範囲内にある。また、メチレンドナーの配合量が、ゴム成分100質量部に対して0.5質量部以上80質量部以下の範囲内にある。また、メチレンドナーの配合量と前記縮合物の配合量との比が、1以上4以下の範囲内にある。これにより、ゴム層6aと熱可塑性シート61〜63との間の接着性が向上して、タイヤの耐久性が向上する利点がある。
【0108】
また、この空気入りタイヤ1では、熱可塑性シート61〜63の室温における引張降伏強さが、1[MPa]以上100[MPa]以下の範囲内にある。これにより、熱可塑性シート61〜63の強度および製造容易性を適正に確保できる利点がある。
【0109】
また、この空気入りタイヤ1では、熱可塑性シート61〜63の室温における破断伸びが、80[%]以上500[%]以下の範囲内にある。これにより、熱可塑性シート61〜63の強度を適正に確保できる利点がある。
【0110】
また、この空気入りタイヤ1では、カーカス層6の巻き上げ端部(複数のカーカス層61〜63を有する構成では、これらのカーカス層61〜63の巻き上げ端部のうち最もタイヤ幅方向内側にある巻き上げ端部C1)が、複数のベルトプライ71、72のうち最も幅広なベルトプライ71のタイヤ幅方向外側の端部よりもタイヤ幅方向内側にある(
図12参照)。これにより、ショルダー部3におけるタイヤ部材の端部の集中が抑制されて、タイヤの耐圧性および耐久性が適正に確保される利点がある。
【0111】
また、この空気入りタイヤ1では、カーカス層6の左右の巻き上げ端部(複数のカーカス層61〜63を有する構成では、これらのカーカス層61〜63の巻き上げ端部のうち最もタイヤ幅方向内側にある巻き上げ端部C1)の距離CWと、複数のベルトプライ71、72のうち最も幅広なベルトプライ71の幅BWとが、0.10≦CW/BW≦0.95の関係を有する(
図12参照)。これにより、タイヤの耐圧性および耐久性が適正に確保される利点がある。
【0112】
また、この空気入りタイヤ1では、熱可塑性シート61〜63が、配向性を有する。また、熱可塑性シート61〜63のタイヤ周方向に対する引張降伏強さαと、タイヤ幅方向に対する引張降伏強さβとが、1<β/α≦5の関係を有する。かかる構成では、熱可塑性シート61〜63におけるタイヤ幅方向の引張降伏強さβがタイヤ周方向の引張降伏強さαよりも大きい(1<β/α)ので、熱可塑性シート61〜63がタイヤ周方向に変形し易く、タイヤ幅方向に変形し難くなる。これにより、タイヤの接地形状(接地長)が適正に確保されて、タイヤの操縦安定性が向上する利点がある。
【実施例】
【0113】
図13は、本実施形態に係る空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
【0114】
この性能試験では、相互に異なる複数の試験タイヤについて、(1)タイヤ重量、(2)耐バックル性能に関する評価が行われた(
図13参照)。この性能試験では、タイヤサイズ235/40R18の試験タイヤが試作されて用いられる。
【0115】
(1)タイヤ重量に関する評価では、タイヤ重量が計測されて、有機繊維材から成るコード材をコートゴムで被覆して成るカーカス層を備える既存のタイヤサイズ235/40R18のタイヤを基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が小さいほどタイヤ重量が小さく、好ましい。
【0116】
(2)耐バックル性能に関する評価は、各種類の試験タイヤを16本ずつ試作して解体し、ビードフィラーの径方向外側の端部におけるバックル(シワ)の発生の有無が観察される。このバックルの発生が無ければ、適正といえる。
【0117】
実施例1〜6の試験タイヤは、
図1および
図2の構成を有し、熱可塑性シートから成るカーカス層61〜63と、ゴム層6aとの積層体60を備える。また、単層の補強層9が、ビードフィラー52のタイヤ幅方向外側の側面を覆って配置されている。また、補強層9が、コートゴムで被覆された複数のコード材を圧延加工して成る。また、これらの試験タイヤは、
図3〜
図5の製造方法により製造される。
【0118】
比較例の空気入りタイヤは、
図1の構成において、補強層9を備えていない。また、カーカス層61〜63は、実施例と同様、熱可塑性シートを積層したカーカス構造を有する。
【0119】
なお、
図13において、ゴム層と熱可塑性シートとの剥離強度指数は、以下のように測定される。まず、ゴム層と熱可塑性シートとを積層した積層体を成形し、この積層体を加硫して幅25[mm]に切断して、積層体の短冊状試験片を作成する。そして、この短冊状試験片の剥離強度をJIS K6256に従って測定し、下記の基準(0)〜(6)で7段階に指数化する。この評価は、(1)以上であれば、良好といえる。
(0)…0[N/25mm]以上20[N/25mm]未満
(1)…20[N/25mm]以上25[N/25mm]未満
(2)…25[N/25mm]以上50[N/25mm]未満
(3)…50[N/25mm]以上75[N/25mm]未満
(4)…75[N/25mm]以上100[N/25mm]未満
(5)…100[N/25mm]以上200[N/25mm]未満
(6)…200[N/25mm]以上
【0120】
また、
図13において、カーカス層のプライ数は、比較例および各実施例では、熱可塑性シートの積層枚数を示している。また、「センター部」のプライ数は、タイヤ赤道面CLにおける熱可塑性シート(比較例、実施例1〜6)の積層枚数を示し、「サイド部」のプライ数は、タイヤ最大幅位置における熱可塑性シート(比較例、実施例1〜6)の積層枚数を示している。
【0121】
また、
図13において、補強層9の配置領域は、ビードフィラー52のタイヤ幅方向外側の側面の全領域L1(
図8参照)に対する補強層9の延在範囲の比率を示している。
【0122】
試験結果に示すように、実施例1〜6の空気入りタイヤ1では、タイヤが軽量化され、また、バックルの発生が適正に抑制されることが分かる。また、補強層9の配置が適正化されることにより、タイヤの耐バックル性能が向上することが分かる。