特許第6299168号(P6299168)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6299168芳香族ポリアミド多孔質膜および電池用セパレータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6299168
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】芳香族ポリアミド多孔質膜および電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/28 20060101AFI20180319BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20180319BHJP
【FI】
   C08J9/28 101
   C08J9/28CFG
   H01M2/16 P
【請求項の数】2
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-234720(P2013-234720)
(22)【出願日】2013年11月13日
(65)【公開番号】特開2014-141638(P2014-141638A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2016年8月26日
(31)【優先権主張番号】特願2012-280585(P2012-280585)
(32)【優先日】2012年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】沢本 敦司
(72)【発明者】
【氏名】西原 健太
(72)【発明者】
【氏名】佃 明光
【審査官】 横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−266588(JP,A)
【文献】 特開2001−098106(JP,A)
【文献】 特開2012−207221(JP,A)
【文献】 特許第5062783(JP,B2)
【文献】 特開2012−087223(JP,A)
【文献】 特開2012−038655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−9/42
H01M 2/14−2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向の圧縮変形弾性率が100〜300MPaであり、厚み方向の圧縮変形回復率が70〜100%であり、厚みが5〜30μmであり、空孔率が50〜80%であり、ガーレ透気度が1〜200秒/100mlであり、長手方向(MD)および幅方向(TD)のプロピレンカーボネート液吸い上げ性のいずれもが10〜100mm/分であり、250℃における長手方向(MD)および幅方向(TD)の熱収縮率のいずれもが−0.5〜3.0%である、芳香族ポリアミド多孔質膜。
【請求項2】
請求項1に記載の芳香族ポリアミド多孔質膜を用いてなる電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリアミド多孔質膜に関するものであり、特に電池などの蓄電デバイスのセパレータとして好適に使用できる芳香族ポリアミド多孔質膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池(LIB)などの非水系二次電池は、携帯機器用途を中心に広範に普及しており、現在、さらなる高容量化、高出力化、高安全化に向けた研究開発が進められている。それに伴い、セパレータにもイオン透過性、電解液保持性、化学的安定性、薄膜化などに加え、耐熱性や耐短絡性などの安全性が、高い領域で同時に求められている。
【0003】
また、上記に加えて、正負極活物質や電解液などのセパレータ以外の構成部材との組み合わせに対する適応性も重要となる。例えば、負極材料においては、一般的に用いられている炭素材料に替わり、シリコン系、スズ系のような高容量化が期待できる合金系負極が検討されているが、これらの合金系負極は、リチウム吸蔵量が多くなると体積膨張が大きくなることが知られている。そのため、セパレータにも、負極の体積変化に対する適応性の高いものを選択する必要がある。
【0004】
耐熱性材料からなるセパレータとしては、例えば特許文献1〜3に、耐熱性および化学的安定性に優れる芳香族ポリアミド(アラミド)からなる多孔質膜が開示されている。これらの内、特許文献1はアラミド不織布やアラミドペーパーのセパレータとしての用途を開示した例である。また、特許文献2および3は、溶液製膜により得られるアラミド多孔質膜を開示した例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−335005号公報
【特許文献2】特開2005−209989号公報
【特許文献3】特開2010−77335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された不織布や紙状シートでは、繊維が厚み方向に折り重なった構造のため、厚み方向に圧縮を受けやすく、圧縮された際に空隙が消失し、抵抗が大きくなる懸念がある。
【0007】
また、特許文献3では、アラミド溶液を流延後、凝固浴中へ浸漬して析出させる、いわゆる湿式法が用いられており、この方法では孔が粗大化しやすく、厚み方向の圧縮を受けやすい可能性がある。また、孔間の隔壁が多い孔構造となるため、圧縮された際に抵抗が大きくなる懸念がある。
【0008】
一方、特許文献3では、厚み方向に圧縮を行ってもガーレ透気度の増加が小さい多孔質膜が記述されているが、この多孔質膜は塑性変形を起こしやすく、圧縮力が除荷されたときの回復率が低いため、長期使用で電極が膨張と収縮を繰り返した際の耐久性に課題がある。
【0009】
以上のように、芳香族ポリアミド多孔質膜において、合金系負極などの体積変化の大きい電極を用いたリチウムイオン二次電池への適応には、なお改良の余地を有する。
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、合金系負極などの体積変化の大きい電極と共に使用した場合であっても、高い出力と長期間の優れたサイクル特性が得られ、かつ、優れた耐熱性を有する芳香族ポリアミド多孔質膜およびそれを用いた電池用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明は、以下の構成からなる。
【0012】
(1)厚み方向の圧縮変形弾性率が100〜300MPaであり、厚み方向の圧縮変形回復率が70〜100%であり、厚みが5〜30μmであり、空孔率が50〜80%であり、ガーレ透気度が1〜200秒/100mlであり、長手方向(MD)および幅方向(TD)のプロピレンカーボネート液吸い上げ性のいずれもが10〜100mm/分であり、250℃における長手方向(MD)および幅方向(TD)の熱収縮率のいずれもが−0.5〜3.0%である、芳香族ポリアミド多孔質膜。
【0015】
)上記(1)に記載の芳香族ポリアミド多孔質膜を用いてなる電池用セパレータ。
【発明の効果】
【0016】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、高い圧縮変形弾性率を有するため、厚み方向に圧縮を受けた際の変形による孔の閉塞が抑制される。さらに、圧縮力を除荷した際の変形回復率が高いため、体積変化の大きい電極などと共に使用した場合であっても、優れた追従性を示す。そのため、リチウムイオン二次電池などの電池用セパレータに好適に用いることができる。
【0017】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜を二次電池用セパレータとして用いた場合、電池の電極に合金系負極などの体積変化の大きい電極を用いた場合であっても、高い出力と長期間の優れたサイクル特性が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において用いる芳香族ポリアミドとしては、次の化学式(1)で表される繰り返し単位を有するものが好適である。
化学式(1):
【0019】
【化1】
【0020】
ArおよびArとしては、それぞれ単一の基であっても良いし、複数の基で、共重合体であっても良いが、ArおよびArのすべての基が、次の化学式(2)および化学式(3)〜(5)で表される基から選ばれた基であることが好ましい。
化学式(2):
【0021】
【化2】
【0022】
化学式(3)〜(5):
【0023】
【化3】
【0024】
また、Xとしては、−O−、−CO−、−CO−、−SO−、−CH−、−S−、−C(CH− などから選ばれた基を用いることができる。
【0025】
ここで、化学式(2)は芳香族ポリアミドの剛直性に寄与する基であり、化学式(3)〜(5)は柔軟性に寄与する基である。
【0026】
本発明の芳香族ポリアミドとしては、すべてのArとArを合計したもののうち、化学式(2)の割合が、60〜85%であることが好ましく、65〜80%であることがより好ましい。化学式(2)の割合が60%未満であると、ポリマー自体の本質的な剛性が低下するのに加え、多孔質膜とした際に孔構造が粗大化しやすいため、厚み方向の圧縮変形弾性率が100MPa未満となり本発明の範囲内とならないことがある。また、得られる多孔質膜は孔間の隔壁が多い孔構造となりやすいため、圧縮された際に抵抗が大きくなることがある。化学式(2)の割合が85%を超えると、ポリマーの柔軟性が低下することで、得られる多孔質膜は圧縮された際に塑性変形や構造破壊を起こしやすく、厚み方向の圧縮変形回復率が70%未満となり本発明の範囲内とならないことがある。
【0027】
さらに、これらArおよびArにおける芳香環上の水素原子の一部が、フッ素、臭素、塩素などのハロゲン基;ニトロ基;シアノ基;メチル、エチル、プロピルなどのアルキル基;メトキシ、エトキシ、プロポキシなどのアルコキシ基等の置換基で置換されているものが、溶媒への溶解性が向上するため溶液製膜法に適用しやすいこと、分子間凝集力が抑えられるため孔形成能が向上すること、および吸湿率を低下させることから好ましい。特に、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基などの電子吸引性の置換基を有すると、上述した置換基の効果に加え、電気化学的な耐酸化性に優れ、セパレータとして用いたときに正極側における酸化などの変質を防げるため好ましい。なかでも置換基としてハロゲン基がより好ましく、塩素原子が最も好ましい。また、重合体を構成するアミド結合中の水素が置換基によって置換されていてもよい。
【0028】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、厚み方向の圧縮変形弾性率が100〜300MPaであることが好ましい。より好ましくは130〜250MPa、さらに好ましくは150〜200MPaである。厚み方向の圧縮変形弾性率を上記範囲内とすることで、電池用セパレータとして使用したときに、電極の膨張により膜の厚み方向に圧縮する負荷が加わっても、変形により孔が押しつぶされて閉塞することなく、良好なイオン伝導を維持することができる。また、セパレータを薄膜化した際にも、押しつぶされて正負極が短絡することを抑制することができる。特に、リチウムイオン二次電池において、負極材としてシリコン系、スズ系のような高容量の合金系負極を用いた場合、充電によりリチウム吸蔵量が多くなると著しい体積膨張を示すことがあるため、高い圧縮変形弾性率を有することが好ましい。さらに、電極の膨張以外にも、製造工程において、正負極と共に捲回する工程、捲回後にそれを圧縮する工程において、厚み方向に圧縮する負荷が加わることがある。厚み方向の圧縮変形弾性率が100MPa未満であると、電極の膨張や製造工程での圧縮負荷により孔が押しつぶされ、電池用セパレータとして用いた際に十分な出力が得られないことがある。また、孔が押しつぶされることでリチウムイオンの伝導経路が限定されると、微小短絡の原因の一つであるデンドライド状のリチウム金属が成長しやすくなることがある。さらに、セパレータを薄膜化した際に正負極が接触し短絡しやすくなることがある。厚み方向の圧縮変形弾性率が300MPaを超えると、電極の膨張に対する抗力が強すぎることで、電極の構造破壊を誘発することがある。厚み方向の圧縮変形弾性率を上記範囲内とするためには、芳香族ポリアミドのポリマー構造を前述のとおりとし、さらに、延伸条件を後述のとおりとすることで孔構造を制御することが好ましい。
【0029】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、厚み方向の圧縮変形回復率が70〜100%であることが好ましい。より好ましくは80〜100%、さらに好ましくは90〜100%である。厚み方向の圧縮変形回復率を上記範囲内とすることで、電池用セパレータとして使用したときに、充放電に伴う電極の膨張と収縮が繰り返されても、体積変化に合わせて追従し、長期間の優れたサイクル特性が得られる。特に、リチウムイオン二次電池において、負極材としてシリコン系、スズ系のような高容量の合金系負極を用いた場合、充放電時の体積変化が著しいことがあるため、高い圧縮変形回復率を有することが好ましい。厚み方向の圧縮変形回復率が70%未満であると、長期使用で電極が膨張と収縮を繰り返した際に追従できず、液枯れが起きたり、電極との接触が悪くなることで抵抗が上昇し、出力が低下することがある。厚み方向の圧縮変形回復率を上記範囲内とするためには、芳香族ポリアミドのポリマー構造を前述のとおりとし、さらに、延伸条件を後述のとおりとすることで芳香族ポリアミド分子鎖の配向を制御することが好ましい。
【0030】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、空孔率が50〜80%であることが好ましい。より好ましくは60〜70%である。空孔率が50%未満であると、電池用セパレータとして用いたときに、電解液の保液量が少なく、急速充放電を行った際に、リチウムイオンが溶媒和するのに十分な溶媒分子を補うことができず、分極を起こすことがある。また、厚み方向の変形量が微小であっても、イオンの伝導経路である空孔が閉塞しやすく、十分な出力が得られないことがある。さらに、充放電を繰り返した際に液枯れによる性能低下が起きることがある。空孔率が80%を超えると、圧縮変形弾性率が100MPa未満となり本発明の範囲内とならないことがある。また、電池用セパレータとして使用した際に電極間の短絡が起き易くなることがある。空孔率を上記範囲内とするため、製膜原液の処方、多孔質膜の製造条件を後述の範囲内とすることが好ましい。
【0031】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、ガーレ透気度が1〜200秒/100mlであることが好ましい。より好ましくは5〜100秒/100mlである。ガーレ透気度が1秒/100mlより小さいと強度が低下し、加工時にフィルムの破断が起きたり、電池用セパレータとして使用した際に電極間の短絡が起き易くなることがある。ガーレ透気度が200秒/100mlより大きいと、抵抗が大きく、電池用セパレータとして使用した際に出力が低下しやすい。ガーレ透気度を上記範囲内とするため、製膜原液の処方、多孔質膜の製造条件を後述のとおりとすることが好ましい。
【0032】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、長手方向(MD)および幅方向(TD)のプロピレンカーボネート液吸い上げ性のいずれもが10〜100mm/分であることが好ましい。より好ましくは15〜100mm/分である。液吸い上げ性が10mm/分より小さいと、電池用セパレータとして使用した際、部分的に電解液が不足したときに平均化が速やかに行われず、液枯れによる電池出力やサイクル特性の低下が起きることがある。液吸い上げ性は大きいほうが好ましく、上限は特に定めないが、多孔質膜であれば一般的に100mm/分程度が限界である。吸い上げ性を上記範囲内とするため、製膜原液の処方、多孔質膜の製造条件を後述のとおりとし、孔間の隔壁が少なく、膜の面内に液が浸透しやすい孔構造とすることが好ましい。
【0033】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜の厚みは、5〜30μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましい。さらに好ましくは15〜25μmである。5μm未満であると、強度が低く加工時にフィルムの破断が起きたり、セパレータとして使用した際に、自己放電が大きくサイクル特性が低下したり、耐電圧が低く電極間が短絡する可能性がある。30μmを超えるとセパレータとして使用した際に内部抵抗の上昇により出力が低下したり、電池内に組み込める活物質層の厚みが薄くなり体積あたりの容量が小さくなることがある。多孔質膜の厚みは、芳香族ポリアミドのポリマー構造、重合度、製膜原液濃度、製膜原液粘度、製膜原液中の添加物、流延厚み、多孔化条件、湿式浴温度、熱処理時の温度および延伸条件など種々の条件により制御することができる。
【0034】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、250℃における長手方向(MD)および幅方向(TD)の熱収縮率のいずれもが−0.5〜3.0%であることが好ましく、−0.5〜1.0%であることがより好ましい。熱収縮率が3.0%を超える場合、電池の異常発熱時にセパレータの収縮により、電池端部において短絡が起こることがある。熱収縮率を上記範囲内とするため、芳香族ポリアミドのポリマー構造を前述のとおりとし、かつ対数粘度が後述の範囲内で高いことが好ましい。また、延伸および熱処理を後述する条件で施すことが好ましい。
【0035】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、少なくとも一方向の破断点応力が30MPa以上であることが好ましい。破断点応力が30MPa未満の場合、加工時の高張力、張力変動などによりフィルムが破断し、生産性が低下することがある。生産性がより良くなることから、破断点応力は40MPa以上であることがより好ましく、50MPa以上であることがさらに好ましい。上限は特に定めることはないが、多孔質膜であれば一般的に1GPa程度が限界である。破断点応力を上記範囲内とするため、芳香族ポリアミドのポリマー構造を前述のとおりとし、かつ対数粘度が後述の範囲内で高いことが好ましい。また、延伸および熱処理を後述する条件で施すことが好ましい。
【0036】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、長手方向(MD)および幅方向(TD)の破断点伸度がいずれも10%以上であることが好ましい。伸度が高いことにより、加工工程でのフィルム破れを低減することができ、高速で加工することが可能となる。また、電池用セパレータとして使用する際、充放電時の電極の膨張収縮に破断することなく追随でき、電池の耐久性や安全性が確保できる。加工性、耐久性および安全性がより向上することから、破断伸度は20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。上限は特に定めることはないが、多孔質膜であれば一般的に200%程度が限界である。破断点伸度を上記範囲内とするため、芳香族ポリアミドのポリマー構造を前述のとおりとし、かつ対数粘度が後述の範囲内で高いことが好ましい。また、延伸および熱処理を後述する条件で施すことが好ましい。
【0037】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、表面および裏面の突き刺し強度がいずれも80N/mm以上であることが好ましい。ここでいう突き刺し強度とは、先端の曲率半径が1.5mmの針を用い、速度300mm/分で多孔質膜の測定面に対し垂直に針を突き刺した際の最大荷重を多孔質膜の厚みで除した値である。突き刺し強度が80N/mm未満であると、電池として使用した際に、析出したリチウム金属や製造工程などで混入した異物による破膜や正負極の短絡につながることがある。突き刺し強度は150N/mm以上であることがより好ましく、200N/mm以上であることがさらに好ましい。上限は特に定めることはないが、空孔率が50〜80%の芳香族ポリアミド多孔質膜であれば、一般的に500N/mm程度が限界である。突き刺し強度を上記範囲内とするため、芳香族ポリアミドのポリマー構造を前述のとおりとし、かつ対数粘度が後述の範囲内で高いことが好ましい。また、延伸および熱処理を後述する条件で施すことが好ましい。
【0038】
次に、本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜の製造方法について、以下に説明する。まず、芳香族ポリアミドを、例えば、酸ジクロライドとジアミンを原料として重合する場合には、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性有機極性溶媒中で溶液重合により合成する方法や、水系媒体を使用する界面重合で合成する方法等をとることができる。ポリマーの分子量を制御しやすいことから、非プロトン性有機極性溶媒中での溶液重合が好ましい。
【0039】
溶液重合の場合、分子量の高いポリマーを得るために、重合に使用する溶媒の水分率を500ppm以下(質量基準、以下同様)とすることが好ましく、200ppm以下とすることがより好ましい。使用する酸ジクロライドおよびジアミンの両者を等量用いると超高分子量のポリマーが生成することがあるため、モル比を、一方が他方の95.0〜99.5モル%になるように調整することが好ましい。また、芳香族ポリアミドの重合反応は発熱を伴うが、重合系の温度が上がると、副反応が起きて重合度が十分に上がらないことがあるため、重合中の溶液の温度を40℃以下に冷却することが好ましい。重合中の溶液の温度は30℃以下にすることがより好ましい。さらに、酸ジクロライドとジアミンを原料とする場合、重合反応に伴って塩化水素が副生するが、これを中和する場合には炭酸リチウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムなどの無機の中和剤、あるいは、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン等の有機の中和剤を使用するとよい。
【0040】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜を得るために、芳香族ポリアミドポリマーの対数粘度(ηinh)は、1.8〜3.5dl/gであることが好ましく、2.2〜3.0dl/gであることがより好ましい。対数粘度が1.8dl/g未満であると、ポリマー分子鎖の絡み合いによる鎖間の結合力が減少するため、靭性や強度などの機械特性が低下したり、熱収縮率が大きくなることがある。対数粘度が3.5dl/gを超えると、溶媒への溶解性が低下したり、芳香族ポリアミド分子が凝集し、多孔質膜を製膜することが困難になることがある。
【0041】
次に、本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜を製造する工程に用いる製膜原液(以下、単に製膜原液ということがある。)について、説明する。
【0042】
製膜原液には重合後のポリマー溶液をそのまま使用してもよく、あるいはポリマーを一度単離してから上述の非プロトン性有機極性溶媒や硫酸などの無機溶剤に再溶解して使用してもよい。芳香族ポリアミドを単離する方法としては、特に限定しないが、重合後の芳香族ポリアミド溶液を多量の水中に投入することで溶媒および中和塩を水中に抽出し、析出した芳香族ポリアミドのみを分離した後、乾燥させる方法などが挙げられる。また、再溶解時に溶解助剤として金属塩などを添加してもよい。金属塩としては、非プロトン性有機極性溶媒に溶解するアルカリ金属またはアルカリ土類金属のハロゲン化物が好ましく、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウムなどが挙げられる。
【0043】
製膜原液100質量%中の芳香族ポリアミドの含有量は、5〜20質量%が好ましく、より好ましくは9〜15質量%である。製膜原液における芳香族ポリアミドの含有量が5質量%未満であると、孔構造の粗大化により、厚み方向の圧縮変形弾性率や圧縮変形回復率が本発明の範囲内とならないことがある。また、靭性や強度などの機械特性が低下したり、熱収縮率が大きくなることがある。製膜原液における芳香族ポリアミドの含有量が20質量%を超えると、多孔質膜の製造の際に芳香族ポリアミドポリマー同士の凝集が起こりやすくなり、空孔率やガーレ透気度が本発明の範囲内とならないことがある。
【0044】
製膜原液には孔形成能を向上させる目的で、親水性ポリマーを混合することが好ましい。混合する親水性ポリマーは製膜原液100質量%に対して1〜10質量%であることが好ましく、1〜6質量%であることがより好ましい。製膜原液における親水性ポリマーの含有量が1質量%未満の場合、多孔質膜を形成する過程において、芳香族ポリアミド分子が凝集し、多孔質膜を製膜することが困難になることがある。含有量が10質量%を超える場合、得られる多孔質膜において、孔構造の粗大化や強度の低下が起きることがある。また、最終的に多孔質膜中の親水性ポリマーの残存量が多くなり、耐熱性や剛性の低下、親水性ポリマーの電解液中への溶出などが起きることがある。
【0045】
親水性ポリマーとしては、非プロトン性有機極性溶媒に溶解するポリマーのうち、極性の置換基、特に、水酸基、アシル基およびアミノ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基を含有するポリマーであることが好ましい。このようなポリマーとして、例えば、ポリビニルピロリドン(以下、PVPと記すことがある。)、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリエチレンイミン等が挙げられる。芳香族ポリアミドとの相溶性が良いPVPを用いることが最も好ましい。PVPの重量平均分子量は、50万〜300万であることが好ましい。重量平均分子量が50万未満であると、低分子量のPVPが多孔質膜に残った場合、多孔質膜の耐熱性が低下したり、電池用セパレータとして使用した際にPVPが電解液中に溶出したりする恐れがある。重量平均分子量が300万を超えると、製膜原液の溶液粘度が高くなり過ぎることで多孔質膜を製膜することが困難になることがある。親水性ポリマーは重合後の芳香族ポリアミド溶液あるいは再溶解した芳香族ポリアミド溶液中に投入しても、単離した芳香族ポリアミドとともに非プロトン性有機極性溶媒中に投入して混練してもよい。
【0046】
製膜原液には、得られる多孔質膜の表面に突起を形成して静摩擦係数を低減し加工性を向上させる目的で、無機粒子または有機粒子を添加してもよい。
【0047】
製膜原液の溶液粘度は、B型粘度計を用いて30℃、10rpmにおいて測定される値が、100〜800Pa・sであることが好ましい。より好ましくは200〜600Pa・sである。溶液粘度が100Pa・s未満であると、孔構造の粗大化により、厚み方向の圧縮変形弾性率や圧縮変形回復率が本発明の範囲内とならないことがある。また、靭性や強度などの機械特性が低下したり、熱収縮率が大きくなることがある。溶液粘度が800Pa・sを超えると、多孔質膜を製膜することが困難になることがある。
【0048】
上記のようにして調製された製膜原液を用いて、いわゆる溶液製膜法により、多孔質膜の製造が行われる。溶液製膜による多孔質膜の製造の方法として、代表的には湿式法、析出法などが挙げられるが、凝固浴を用いる湿式法では、形成される孔の粗大化や厚み方向の孔形状の不均一化が起きたり、孔間に隔壁が生じやすい場合がある。そのため、本発明の多孔質膜を得るには、孔構造を微細かつ均一に制御しやすい析出法で製膜することが好ましい。
【0049】
析出法による多孔質膜の製造を行う場合、まず、製膜原液を口金やダイコーターを用いて、支持体上にキャスト(流延)し、製膜原液のキャスト膜を得た後、ポリマーを析出させて多孔質膜を得る。支持体の素材は、特に限定しないが、ステンレス、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂などが挙げられる。キャスト膜からポリマーを析出させる方法として、調温調湿雰囲気下でキャスト膜を吸湿させてポリマーを析出させる方法、キャスト膜を冷却することによりポリマーの溶解性を低下させて相分離または析出させる方法、キャスト膜に霧状の水を吹き付けてポリマーを析出させる方法などが挙げられる。冷却する方法ではポリマーの析出までに時間を要し、孔形状の不均一化が起きやすかったり、生産性が低下することがある。一方、霧状の水を吹き付ける方法では、表面に緻密な層が形成されることがある。これらのことから、調温調湿雰囲気下でキャスト膜に吸湿させる方法が、水の供給速度および量を任意に制御可能で、均質な多孔質構造を短時間で形成させることができることから好ましい。
【0050】
本発明の多孔質膜の製造工程において、調温調湿雰囲気の容積絶対湿度は10〜180g/mとすることが好ましい。より好ましくは30〜100g/m、さらに好ましくは40〜90g/mである。また、この絶対湿度を満たす範囲内で、雰囲気の温度は20〜70℃、相対湿度は60〜95%RHとすることが好ましい。より好ましくは、雰囲気の温度は30〜60℃、相対湿度は70〜90%RHである。調温調湿雰囲気下での処理時間は0.5〜5分とすることが好ましく、0.5〜3分とすることがより好ましい。
【0051】
次に、析出させた芳香族ポリアミド多孔質膜を、支持体ごとあるいは支持体から剥離して湿式浴に導入し、溶媒、取り込まれなかった親水性ポリマー、および無機塩等の添加剤の除去を行う。浴組成は特に限定されないが、水、あるいは有機溶媒/水の混合系を用いることが、経済性および取扱いの容易さから好ましい。また、湿式浴中には無機塩が含まれていてもよい。湿式浴温度は、溶媒等を効率的に除去できることから、20℃以上であることが好ましい。浴温度の上限は特に定めることはないが、水の蒸発や沸騰による気泡の発生の影響を考えると、90℃までに抑えることが効率的である。導入時間は、1〜20分にすることが好ましい。さらに、湿式浴中で多孔質膜の長手方向(MD)および幅方向(TD)に延伸を施してもよい。
【0052】
次に、脱溶媒を終えた多孔質膜に、テンターなどを用いて熱処理を施す。この時、含水状態の多孔質膜から水分を乾燥させる前に、多孔質膜の長手方向(MD)および幅方向(TD)への延伸を完了させた後、芳香族ポリアミドのガラス転移温度を上回る温度で熱処理を施すことが好ましい。延伸を施すことで、厚み方向の圧縮に対しての変形弾性率を向上させることができる。さらに、多孔質膜の孔経路が面内方向に広がり、液吸い上げ性が向上するため、電池用セパレータとして用いた際に液枯れなどによる電池出力やサイクル特性の低下を抑制できる。一方で、延伸によりポリマーの分子鎖が面方向に配向すると、厚み方向の圧縮に対しての変形回復率が低下することがある。そこで、本発明では、延伸を含水状態で施し、芳香族ポリアミド分子鎖の延伸方向への配向を抑制することにより、厚み方向の圧縮に対して高い変形回復率が得られる。延伸完了時における多孔質膜中の含水量は、芳香族ポリアミド100質量部に対し、20質量部以上であることが好ましく、より好ましくは50質量部以上である。また、前述の湿式浴中で延伸を完了させても良い。多孔質膜中の含水量が、芳香族ポリアミド100質量部に対し、20質量部未満であると、芳香族ポリアミド分子鎖の延伸方向への配向が強くなることで、厚み方向の圧縮変形回復率が70%未満となり、本発明の範囲内とならないことがある。さらに、伸度や耐熱性が低下することがある。MD、TDへの延伸倍率は両方向とも1.05〜1.50倍であることが好ましく、1.10〜1.30倍であることがより好ましい。延伸倍率が1.05倍未満であると、厚み方向の圧縮変形弾性率が100MPa未満となり、本発明の範囲内とならないことがある。また、液吸い上げ性が10mm/分未満と、本発明の範囲内とならないことがあり、電池用セパレータとして用いた際に、液枯れなどにより電池出力やサイクル特性の低下が起きることがある。延伸倍率が1.50倍を超えると、延伸時に多孔質膜が破断しやすくなったり、伸度や耐熱性が低下することがある。MDおよびTDへの延伸倍率は、いずれもが上記範囲内であれば、同倍率であっても良いし、異なる倍率であっても良い。ここで、本発明の延伸倍率は、キャスト長およびキャスト幅を基準として算出される値である。
【0053】
また、延伸後の熱処理温度をT、芳香族ポリアミドのガラス転移温度をTとしたとき、T+10≦T≦T+40とすることで、芳香族ポリアミド分子鎖の延伸方向への配向が緩和され、圧縮変形回復率が高くなるため好ましい。T<T+10であると、芳香族ポリアミド分子鎖の延伸方向への配向が緩和されにくく、厚み方向の圧縮変形回復率が70MPa未満となり本発明の範囲内とならないことがある。T>T+40であると、ポリマーの分解などにより、破断伸度などの機械特性が低下することがある。
【0054】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、高い圧縮変形弾性率を有するため、厚み方向に圧縮を受けた際の変形による孔の閉塞が抑制される。さらに、圧縮力を除荷した際の変形回復率が高いため、体積変化の大きい電極などと共に使用した場合であっても、優れた追従性を示す。そのため、各種電池用セパレータに好適に用いることができる。
【0055】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜をセパレータとして用いた電池の例として、リチウムイオン二次電池が挙げられ、特に負極材料として、高容量ながら体積変化の大きい合金系負極活物質を用いた場合に、良好な電池性能を発揮させ得る。合金系負極活物質として、シリコン酸化物、シリコン合金、スズ合金、リチウム合金などが挙げられ、これらを2種以上混合して用いても良いし、黒鉛などの炭素系活物質と混合して用いても良い。
【0056】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜をセパレータとして用いた電池は、電極に合金系負極などの体積変化の大きい電極を用いた場合であっても、高い出力と長期間の優れたサイクル特性が得られる。さらに、本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、優れた耐熱性を有するため、得られた二次電池は高温でも使用可能となる。従って、本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜をセパレータとして用いた二次電池は、小型の電子機器を始め、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)などの交通機関、産業用クレーンなどの大型の産業機器の動力源として好適に用いることができる。また、太陽電池、風力発電装置などにおける電力の平準化やスマートグリッドのための蓄電装置としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0057】
[物性の測定方法ならびに効果の評価方法]
実施例における物性の測定方法は次の方法に従って行った。
【0058】
(1)厚み方向の圧縮変形弾性率
ナノインデンテーション法(連続剛性測定法)により、以下の条件で測定した。
【0059】
測定装置:超微小硬度計 Nano Indenter XP
(MTSシステムズ社製)
使用圧子:ダイヤモンド製 正三角錐圧子
測定雰囲気:室温、大気中
試料は1cm角に切り出したものを用い、試料のポアソン比は0.4とした。ここで、測定は厚み75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムで試料を挟んだ複合体(PET/試料/PETの3層構造)について実施し、押し込み深さ0.5μmまでのデータから得られた複合体の弾性率を用いて、試料単体の弾性率を算出した。なお、使用したPETフィルム単体の上記条件における圧縮変形弾性率は3.4GPaであった。
【0060】
(2)厚み方向の圧縮変形回復率
以下の条件で、試料の厚み方向への荷重負荷と除荷を繰り返したときの厚み方向の変位を測定した。
【0061】
測定装置:微小圧縮試験機 MCTW−500(島津製作所社製)
使用圧子:ダイヤモンド製平面圧子(圧子径500μm)
負荷モード:繰り返し負荷/除荷
(負荷荷重:10mN、除荷時の荷重:0.5mN)
負荷速度:0892mN/秒
繰り返し回数:50回
測定雰囲気:室温、大気中
試料は1cm角に切り出したものを用いた。ここで、測定は厚み75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムで試料を挟んだ複合体(PET/試料/PETの3層構造)について実施し、得られた複合体の変位からPETフィルムの変位を差し引くことで、試料単体の変位を算出した。
【0062】
各負荷/除荷サイクルにおける負荷時の最大変位、除荷時の変位を用いて、次式より圧縮変形回復率を算出した。
【0063】
圧縮変形回復率(%)=(最大変位−除荷時の変位)×100/最大変位
(3)空孔率
100mm角の試料の厚みと質量を測定し、多孔質膜の見かけの密度(かさ密度)dを求めた。これとポリマーの真密度dより、下式を用いて空孔率を算出した。
【0064】
空孔率(%)=(1−d/d)×100
(4)ガーレ透気度
B型ガーレーデンソメーター(安田精機製作所社製)を使用し、JIS−P8117(1998)に規定された方法に従って、多孔質膜のガーレ透気度の測定を行った。試料の多孔質膜を直径28.6mm、面積645mmの円孔に締め付け、内筒により(内筒質量567g)、筒内の空気を試験円孔部から筒外へ通過させ、空気100mlが通過する時間を測定することでガーレ透気度とした。
【0065】
(5)プロピレンカーボネート液吸い上げ性
試験液を水からプロピレンカーボネートに変更し、測定時間を10分から1分に変更した以外は、JIS−P8141(2004)に規定された方法を用いて測定した。
【0066】
(6)厚み
定圧厚み測定器FFA−1(尾崎製作所社製)を用いて多孔質膜の厚みを測定した。測定子径は5mm、測定荷重は1.25Nである。厚みは100mm角の多孔質膜試料において任意に10点測定し、平均値を求めた。
【0067】
(7)250℃における熱収縮率
試料の多孔質膜を、幅10mm、長さ120mmの短冊状に切り取り、長辺を測定方向とした。長辺の両端から約10mmの部分に印をつけ、印の間隔をLとした。250℃の熱風オーブン中で10分間、実質的に張力を掛けない状態で熱処理を行った後の印の間隔をLとし、下式で熱収縮率を計算した。フィルムの長手方向および幅方向にそれぞれ5回測定し、それぞれ平均値を求めた。
【0068】
熱収縮率(%)=((L−L)/L)×100
(8)対数粘度(ηinh
臭化リチウム(LiBr)を2.5質量%添加したN−メチルピロリドン(NMP)に、ポリマーを0.5g/dlの濃度で溶解させ、ウベローデ粘度計を使用して、30℃にて流下時間を測定した。ポリマーを溶解させないブランクのNMPの流下時間も同様に測定し、下式を用いて対数粘度(ηinh)を算出した。
【0069】
ηinh(dl/g)=〔ln(t/t)〕/0.5
:ブランクの流下時間(秒)
t:サンプルの流下時間(秒)
(9)芳香族ポリアミドのガラス転移温度
温度変調示差走査熱量測定(温度変調DSC)法により、以下の条件で測定した。測定試料は、重合後の溶液から芳香族ポリアミドのみを単離したものを用いた。
【0070】
測定装置:Q100(TA Instruments社製)
データ処理装置:Universal Analysis 2000
(TA Instruments社製)
測定雰囲気:窒素流(50mL/分)
温度・熱量校正:高純度インジウム
温度範囲:25〜350℃
昇温速度:2℃/分
試料量:約5mg
(10)電池評価
以下の通り、コイン型のリチウムイオン二次電池を作製し、AおよびBの2種類の評価を行った。各評価はそれぞれ10セルで実施した。
【0071】
・正極
活物質としてリン酸鉄リチウム(LiFePO)を90質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを5質量部、バインダーとして芳香族ポリアミドを5質量部とした混合物をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させて、正極剤ペーストを作製した。ここで、バインダーに用いた芳香族ポリアミドは、ジアミン成分として2−クロロ−1,4−フェニレンジアミン/4,4’−ジアミノジフェニルエーテル=85/15(モル%)の混合物、酸ジクロライド成分として2−クロロテレフタロイルクロライドを用いて重合したランダム共重合体を用いた。得られたペーストを集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔上に塗布し、120℃で15分間乾燥後、圧縮成形した。これを直径13mmの円形に打ち抜き加工を行うことで正極を得た。
【0072】
・負極
活物質として一酸化珪素(SiO)85質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを5質量部、バインダーとして正極と同様にして得た芳香族ポリアミドを10質量部とした混合物をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させて、負極剤ペーストを作製した。得られたペーストを集電体である厚さ15μmのステンレス箔(SUS304)上に塗布し、120℃で15分間乾燥させた。これを直径14.5mmの円形に打ち抜き加工を行うことで負極を得た。なお、得られた負極は、初期の不可逆容量を補填する目的で、リチウム箔によるプレドープ処理を施した。
【0073】
・電解液
体積比でプロピレンカーボネート(PC)/γ−ブチロラクトン(GBL)=30/70とした混合溶媒に、LiBFが1.5mol/Lとなるように溶解させたものを用いた。
【0074】
・組み立て
ガスケットを装着した溶着済み封口板のスペーサー上に上記負極を負極剤が上になるように静置し、上から上記電解液を注液した。その上にセパレータとして試料の多孔質膜(直径17mmの円形)を静置し、さらにセパレータ上から電解液を注液した。次に上記正極を正極剤が下になるように静置し、ケースを静置した。これをカシメ機で封口し、直径20mm、厚み3.2mmのコイン型電池を作製した。
【0075】
・仕上げ充放電
作製したコイン型電池を、20℃の雰囲気下、定電流0.2Cで電池電圧が3.6Vになるまで充電を行い、充電後、20℃で96時間エージングした。その後、定電流0.2Cで電池電圧が2.5Vになるまで放電を行った。
【0076】
以下のaおよびbの電池評価は仕上げ充放電を行ったコイン型電池を用いて実施した。評価は5個のコイン型電池から得られた結果のうち、結果の優れる3個の平均を用いた。aおよびbのいずれもの評価がA、BあるいはCのいずれかであれば実用的に優れた電池であると言える。より好ましくはaおよびbのいずれもの評価がAあるいはBであり、さらに好ましくはaおよびbのいずれもの評価がAである。
【0077】
a.出力特性
本評価はすべて120℃の雰囲気下で行った。作製したコイン型電池について、定電流0.2Cで電池電圧が3.6Vになるまで充電を行い、その後、定電流0.2Cで電池電圧が2.5Vになるまで放電を行った。このときの放電容量を0.2Cでの放電容量とした。次に、定電流0.2Cで電池電圧が3.6Vになるまで充電を行い、その後、定電流5Cで電池電圧が2.5Vになるまで放電を行った。このときの放電容量を5Cでの放電容量とした。これらの結果から、下式を用いて容量維持率を算出し、以下の基準でA〜Eの評価を行った。
【0078】
容量維持率(%)=(5Cでの放電容量)/(0.2Cでの放電容量)×100
A:60%以上
B:50%以上60%未満
C:40%以上50%未満
D:40%未満
E:短絡により測定不可。
【0079】
b.サイクル特性
本評価はすべて120℃の雰囲気下で行った。作製したコイン型電池について、定電流5Cで電池電圧が3.6Vになるまで充電を行い、その後、定電流5Cで電池電圧が2.5Vになるまで放電を行った。この充放電を1サイクルとし、合計100サイクルの充放電を行った。1サイクル目の放電容量と100サイクル目の放電容量から、下式を用いて容量維持率を算出し、以下の基準でA〜Eの評価を行った。
【0080】
容量維持率(%)=(100サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)×100
A:80%以上
B:70%以上80%未満
C:60%以上70%未満
D:60%未満
E:短絡により測定不可。
【0081】
以下に実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでない。
【0082】
実施例および比較例において、多孔質膜の製造条件および得られた多孔質膜の評価結果を表1に示す。
【0083】
(実施例1)
脱水したN−メチルピロリドン(NMP、三菱化学社製)に、ジアミン全量に対して20モル%に相当する2−クロロ−1,4−フェニレンジアミン(日本化薬社製)と80モル%に相当する4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(東京化成社製)を窒素気流下で溶解させ、30℃以下に冷却した。そこへ、系内を窒素気流下、30℃以下に保った状態で、ジアミン全量に対して99モル%に相当する2−クロロテレフタロイルクロライド(日本軽金属社製)を添加して、全量添加後、約2時間の撹拌を行い、芳香族ポリアミドを重合した。得られた重合溶液を、酸クロライド全量に対して97モル%の炭酸リチウム(本荘ケミカル社製)および6モル%のジエタノールアミン(東京化成社製)により中和することで芳香族ポリアミドの溶液を得た。得られた芳香族ポリアミドの対数粘度ηinhは2.5dl/g、ガラス転移温度は255℃であった。
【0084】
次に、得られた芳香族ポリアミド溶液中にポリビニルピロリドン(PVP、BASF社製K90)、RO水、および希釈用のNMPを、以下の組成になるように添加し、60℃で2時間撹拌を行うことで製膜原液を得た。製膜原液100質量%に対するそれぞれの成分の最終的な含有量は、芳香族ポリアミド10質量%、PVP5質量%、水10質量%であり、残りの75質量%はNMPおよび重合原液に含まれる中和塩(塩化リチウム、ジエタノールアミン塩酸塩)である。
【0085】
この製膜原液を、口金から支持体であるステンレス(SUS316)ベルト上に膜状に塗布し、温度50℃、相対湿度85%RHの調温調湿空気中で、塗布膜がベルトから剥離可能になるまで処理した。次に、塗布膜をベルトから剥離し、30℃の水浴に導入することで、溶媒およびPVPなどの抽出を行うとともに、定幅で長手方向(MD)に1.20倍の延伸を施した。続いて、得られた含水状態の多孔質膜を、温度150℃のテンター室内に導入し、定長で幅方向(TD)に1.20倍の延伸を施した。延伸完了時における多孔質膜中の含水量は、芳香族ポリアミド100質量部に対し、80質量部であった。その後、定長定幅で温度280℃のテンター室内にて1分間の熱処理を施し、多孔質膜を得た。
【0086】
(実施例2)
2−クロロ−1,4−フェニレンジアミンをジアミン全量に対して30モル%、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルをジアミン全量に対して70モル%とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。
【0087】
(実施例3)
2−クロロ−1,4−フェニレンジアミンをジアミン全量に対して50モル%、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルをジアミン全量に対して50モル%とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。
【0088】
(実施例4)
2−クロロ−1,4−フェニレンジアミンをジアミン全量に対して70モル%、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルをジアミン全量に対して30モル%とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。
【0089】
(実施例5)
芳香族ポリアミドを得るためのジアミンを、ジアミン全量に対して50モル%に相当する2−クロロ−1,4−フェニレンジアミンと50モル%に相当する3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(東京化成社製)とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。
【0090】
(実施例6)
長手方向(MD)および幅方向(TD)の延伸倍率をそれぞれ1.05倍とすること以外は実施例3と同様にして、多孔質膜を得た。
【0091】
(実施例7)
延伸完了後に定長定幅で施す熱処理の温度を、230℃とすること以外は実施例3と同様にして、多孔質膜を得た。
【0092】
(実施例8)
製膜原液100質量%に対する各成分の最終的な含有量を、芳香族ポリアミド12質量%、PVP4質量%、水10質量%、NMPおよび重合原液に含まれる中和塩(塩化リチウム、ジエタノールアミン塩酸塩)74質量%とすること以外は実施例3と同様にして、多孔質膜を得た。
【0093】
(実施例9)
製膜原液100質量%に対する各成分の最終的な含有量を、芳香族ポリアミド8質量%、PVP2質量%、水10質量%、NMPおよび重合原液に含まれる中和塩(塩化リチウム、ジエタノールアミン塩酸塩)80質量%とすること以外は実施例3と同様にして、多孔質膜を得た。
【0094】
(実施例10、11)
実施例3と同様にして多孔質膜の製膜原液を得た。この製膜原液を口金から支持体であるベルト上に膜状に塗布する際、塗布厚みを調整することで、多孔質膜の厚みを表1のとおりとすること以外は実施例3と同様にして、多孔質膜を得た。
【0095】
(比較例1)
芳香族ポリアミドを得るためのモノマーを、ジアミン全量に対して50モル%に相当する1,3−フェニレンジアミン(東京化成社製)と50モル%に相当する4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、および99モル%に相当するイソフタロイルクロライド(東京化成社製)とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。
【0096】
(比較例2)
芳香族ポリアミドを得るためのモノマーを、ジアミン全量に対して50モル%に相当する1,4−フェニレンジアミン(東京化成社製)と50モル%に相当する4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、および99モル%に相当するイソフタロイルクロライドとすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。
【0097】
(比較例3)
2−クロロ−1,4−フェニレンジアミンをジアミン全量に対して10モル%、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルをジアミン全量に対して90モル%とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。
【0098】
(比較例4)
2−クロロ−1,4−フェニレンジアミンをジアミン全量に対して80モル%、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルをジアミン全量に対して20モル%とすること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミドの重合原液を得た。
【0099】
次に、重合原液中の中和塩を除去するため、この溶液を水とともにミキサーに投入し、攪拌しながらポリマーを沈殿させて取り出した。取り出したポリマーを水洗し、減圧120℃下で24時間乾燥させ、芳香族ポリアミドを単離した。
【0100】
単離した芳香族ポリアミドを用い、芳香族ポリアミド10質量%、PVP5質量%、水5質量%、NMP80質量%となるよう製膜原液を調製し、実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。
【0101】
(比較例5)
長手方向(MD)および幅方向(TD)の延伸倍率をそれぞれ0.90倍とすること以外は実施例3と同様にして、多孔質膜を得た。
【0102】
(比較例6)
水浴中において、定幅で長手方向(MD)に1.20倍の延伸を施すまでは実施例3と同様にして含水状態の多孔質を得た。次に、得られた膜を定長定幅で温度150℃のテンター室内に導入し、多孔質膜中の含水量が、芳香族ポリアミド100質量部に対し、10質量部となるまで水分を乾燥させた。その後、温度200℃のテンター室内に導入し、定長で幅方向(TD)に1.20倍の延伸を施した。延伸完了時における多孔質膜中の含水量は、芳香族ポリアミド100質量部に対し、0質量部であった。最後に、定長定幅で温度280℃のテンター室内にて1分間の熱処理を施し、多孔質膜を得た。
【0103】
(比較例7、8)
比較例3と同様にして多孔質膜の製膜原液を得た。この製膜原液を口金から支持体であるベルト上に膜状に塗布する際、塗布厚みを調整することで、多孔質膜の厚みを表1のとおりとすること以外は比較例3と同様にして、多孔質膜を得た。
【0104】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜は、高い圧縮変形弾性率を有するため、厚み方向に圧縮を受けた際の変形による孔の閉塞が抑制される。さらに、圧縮力を除荷した際の変形回復率が高いため、体積変化の大きい電極などと共に使用した場合であっても、優れた追従性を示す。そのため、リチウムイオン二次電池などの電池用セパレータに好適に用いることができる。本発明の芳香族ポリアミド多孔質膜を二次電池用セパレータとして用いた場合、電極に合金系負極などの体積変化の大きい電極を用いた場合であっても、高い出力と長期間の優れたサイクル特性が得られる。