【実施例】
【0057】
[物性の測定方法ならびに効果の評価方法]
実施例における物性の測定方法は次の方法に従って行った。
【0058】
(1)厚み方向の圧縮変形弾性率
ナノインデンテーション法(連続剛性測定法)により、以下の条件で測定した。
【0059】
測定装置:超微小硬度計 Nano Indenter XP
(MTSシステムズ社製)
使用圧子:ダイヤモンド製 正三角錐圧子
測定雰囲気:室温、大気中
試料は1cm角に切り出したものを用い、試料のポアソン比は0.4とした。ここで、測定は厚み75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムで試料を挟んだ複合体(PET/試料/PETの3層構造)について実施し、押し込み深さ0.5μmまでのデータから得られた複合体の弾性率を用いて、試料単体の弾性率を算出した。なお、使用したPETフィルム単体の上記条件における圧縮変形弾性率は3.4GPaであった。
【0060】
(2)厚み方向の圧縮変形回復率
以下の条件で、試料の厚み方向への荷重負荷と除荷を繰り返したときの厚み方向の変位を測定した。
【0061】
測定装置:微小圧縮試験機 MCTW−500(島津製作所社製)
使用圧子:ダイヤモンド製平面圧子(圧子径500μm)
負荷モード:繰り返し負荷/除荷
(負荷荷重:10mN、除荷時の荷重:0.5mN)
負荷速度:0892mN/秒
繰り返し回数:50回
測定雰囲気:室温、大気中
試料は1cm角に切り出したものを用いた。ここで、測定は厚み75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムで試料を挟んだ複合体(PET/試料/PETの3層構造)について実施し、得られた複合体の変位からPETフィルムの変位を差し引くことで、試料単体の変位を算出した。
【0062】
各負荷/除荷サイクルにおける負荷時の最大変位、除荷時の変位を用いて、次式より圧縮変形回復率を算出した。
【0063】
圧縮変形回復率(%)=(最大変位−除荷時の変位)×100/最大変位
(3)空孔率
100mm角の試料の厚みと質量を測定し、多孔質膜の見かけの密度(かさ密度)d
1を求めた。これとポリマーの真密度d
0より、下式を用いて空孔率を算出した。
【0064】
空孔率(%)=(1−d
1/d
0)×100
(4)ガーレ透気度
B型ガーレーデンソメーター(安田精機製作所社製)を使用し、JIS−P8117(1998)に規定された方法に従って、多孔質膜のガーレ透気度の測定を行った。試料の多孔質膜を直径28.6mm、面積645mm
2の円孔に締め付け、内筒により(内筒質量567g)、筒内の空気を試験円孔部から筒外へ通過させ、空気100mlが通過する時間を測定することでガーレ透気度とした。
【0065】
(5)プロピレンカーボネート液吸い上げ性
試験液を水からプロピレンカーボネートに変更し、測定時間を10分から1分に変更した以外は、JIS−P8141(2004)に規定された方法を用いて測定した。
【0066】
(6)厚み
定圧厚み測定器FFA−1(尾崎製作所社製)を用いて多孔質膜の厚みを測定した。測定子径は5mm、測定荷重は1.25Nである。厚みは100mm角の多孔質膜試料において任意に10点測定し、平均値を求めた。
【0067】
(7)250℃における熱収縮率
試料の多孔質膜を、幅10mm、長さ120mmの短冊状に切り取り、長辺を測定方向とした。長辺の両端から約10mmの部分に印をつけ、印の間隔をL
1とした。250℃の熱風オーブン中で10分間、実質的に張力を掛けない状態で熱処理を行った後の印の間隔をL
2とし、下式で熱収縮率を計算した。フィルムの長手方向および幅方向にそれぞれ5回測定し、それぞれ平均値を求めた。
【0068】
熱収縮率(%)=((L
1−L
2)/L
1)×100
(8)対数粘度(η
inh)
臭化リチウム(LiBr)を2.5質量%添加したN−メチルピロリドン(NMP)に、ポリマーを0.5g/dlの濃度で溶解させ、ウベローデ粘度計を使用して、30℃にて流下時間を測定した。ポリマーを溶解させないブランクのNMPの流下時間も同様に測定し、下式を用いて対数粘度(η
inh)を算出した。
【0069】
η
inh(dl/g)=〔ln(t/t
0)〕/0.5
t
0:ブランクの流下時間(秒)
t:サンプルの流下時間(秒)
(9)芳香族ポリアミドのガラス転移温度
温度変調示差走査熱量測定(温度変調DSC)法により、以下の条件で測定した。測定試料は、重合後の溶液から芳香族ポリアミドのみを単離したものを用いた。
【0070】
測定装置:Q100(TA Instruments社製)
データ処理装置:Universal Analysis 2000
(TA Instruments社製)
測定雰囲気:窒素流(50mL/分)
温度・熱量校正:高純度インジウム
温度範囲:25〜350℃
昇温速度:2℃/分
試料量:約5mg
(10)電池評価
以下の通り、コイン型のリチウムイオン二次電池を作製し、AおよびBの2種類の評価を行った。各評価はそれぞれ10セルで実施した。
【0071】
・正極
活物質としてリン酸鉄リチウム(LiFePO
4)を90質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを5質量部、バインダーとして芳香族ポリアミドを5質量部とした混合物をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させて、正極剤ペーストを作製した。ここで、バインダーに用いた芳香族ポリアミドは、ジアミン成分として2−クロロ−1,4−フェニレンジアミン/4,4’−ジアミノジフェニルエーテル=85/15(モル%)の混合物、酸ジクロライド成分として2−クロロテレフタロイルクロライドを用いて重合したランダム共重合体を用いた。得られたペーストを集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔上に塗布し、120℃で15分間乾燥後、圧縮成形した。これを直径13mmの円形に打ち抜き加工を行うことで正極を得た。
【0072】
・負極
活物質として一酸化珪素(SiO)85質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを5質量部、バインダーとして正極と同様にして得た芳香族ポリアミドを10質量部とした混合物をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させて、負極剤ペーストを作製した。得られたペーストを集電体である厚さ15μmのステンレス箔(SUS304)上に塗布し、120℃で15分間乾燥させた。これを直径14.5mmの円形に打ち抜き加工を行うことで負極を得た。なお、得られた負極は、初期の不可逆容量を補填する目的で、リチウム箔によるプレドープ処理を施した。
【0073】
・電解液
体積比でプロピレンカーボネート(PC)/γ−ブチロラクトン(GBL)=30/70とした混合溶媒に、LiBF
4が1.5mol/Lとなるように溶解させたものを用いた。
【0074】
・組み立て
ガスケットを装着した溶着済み封口板のスペーサー上に上記負極を負極剤が上になるように静置し、上から上記電解液を注液した。その上にセパレータとして試料の多孔質膜(直径17mmの円形)を静置し、さらにセパレータ上から電解液を注液した。次に上記正極を正極剤が下になるように静置し、ケースを静置した。これをカシメ機で封口し、直径20mm、厚み3.2mmのコイン型電池を作製した。
【0075】
・仕上げ充放電
作製したコイン型電池を、20℃の雰囲気下、定電流0.2Cで電池電圧が3.6Vになるまで充電を行い、充電後、20℃で96時間エージングした。その後、定電流0.2Cで電池電圧が2.5Vになるまで放電を行った。
【0076】
以下のaおよびbの電池評価は仕上げ充放電を行ったコイン型電池を用いて実施した。評価は5個のコイン型電池から得られた結果のうち、結果の優れる3個の平均を用いた。aおよびbのいずれもの評価がA、BあるいはCのいずれかであれば実用的に優れた電池であると言える。より好ましくはaおよびbのいずれもの評価がAあるいはBであり、さらに好ましくはaおよびbのいずれもの評価がAである。
【0077】
a.出力特性
本評価はすべて120℃の雰囲気下で行った。作製したコイン型電池について、定電流0.2Cで電池電圧が3.6Vになるまで充電を行い、その後、定電流0.2Cで電池電圧が2.5Vになるまで放電を行った。このときの放電容量を0.2Cでの放電容量とした。次に、定電流0.2Cで電池電圧が3.6Vになるまで充電を行い、その後、定電流5Cで電池電圧が2.5Vになるまで放電を行った。このときの放電容量を5Cでの放電容量とした。これらの結果から、下式を用いて容量維持率を算出し、以下の基準でA〜Eの評価を行った。
【0078】
容量維持率(%)=(5Cでの放電容量)/(0.2Cでの放電容量)×100
A:60%以上
B:50%以上60%未満
C:40%以上50%未満
D:40%未満
E:短絡により測定不可。
【0079】
b.サイクル特性
本評価はすべて120℃の雰囲気下で行った。作製したコイン型電池について、定電流5Cで電池電圧が3.6Vになるまで充電を行い、その後、定電流5Cで電池電圧が2.5Vになるまで放電を行った。この充放電を1サイクルとし、合計100サイクルの充放電を行った。1サイクル目の放電容量と100サイクル目の放電容量から、下式を用いて容量維持率を算出し、以下の基準でA〜Eの評価を行った。
【0080】
容量維持率(%)=(100サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)×100
A:80%以上
B:70%以上80%未満
C:60%以上70%未満
D:60%未満
E:短絡により測定不可。
【0081】
以下に実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでない。
【0082】
実施例および比較例において、多孔質膜の製造条件および得られた多孔質膜の評価結果を表1に示す。
【0083】
(実施例1)
脱水したN−メチルピロリドン(NMP、三菱化学社製)に、ジアミン全量に対して20モル%に相当する2−クロロ−1,4−フェニレンジアミン(日本化薬社製)と80モル%に相当する4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(東京化成社製)を窒素気流下で溶解させ、30℃以下に冷却した。そこへ、系内を窒素気流下、30℃以下に保った状態で、ジアミン全量に対して99モル%に相当する2−クロロテレフタロイルクロライド(日本軽金属社製)を添加して、全量添加後、約2時間の撹拌を行い、芳香族ポリアミドを重合した。得られた重合溶液を、酸クロライド全量に対して97モル%の炭酸リチウム(本荘ケミカル社製)および6モル%のジエタノールアミン(東京化成社製)により中和することで芳香族ポリアミドの溶液を得た。得られた芳香族ポリアミドの対数粘度η
inhは2.5dl/g、ガラス転移温度は255℃であった。
【0084】
次に、得られた芳香族ポリアミド溶液中にポリビニルピロリドン(PVP、BASF社製K90)、RO水、および希釈用のNMPを、以下の組成になるように添加し、60℃で2時間撹拌を行うことで製膜原液を得た。製膜原液100質量%に対するそれぞれの成分の最終的な含有量は、芳香族ポリアミド10質量%、PVP5質量%、水10質量%であり、残りの75質量%はNMPおよび重合原液に含まれる中和塩(塩化リチウム、ジエタノールアミン塩酸塩)である。
【0085】
この製膜原液を、口金から支持体であるステンレス(SUS316)ベルト上に膜状に塗布し、温度50℃、相対湿度85%RHの調温調湿空気中で、塗布膜がベルトから剥離可能になるまで処理した。次に、塗布膜をベルトから剥離し、30℃の水浴に導入することで、溶媒およびPVPなどの抽出を行うとともに、定幅で長手方向(MD)に1.20倍の延伸を施した。続いて、得られた含水状態の多孔質膜を、温度150℃のテンター室内に導入し、定長で幅方向(TD)に1.20倍の延伸を施した。延伸完了時における多孔質膜中の含水量は、芳香族ポリアミド100質量部に対し、80質量部であった。その後、定長定幅で温度280℃のテンター室内にて1分間の熱処理を施し、多孔質膜を得た。
【0086】
(実施例2)
2−クロロ−1,4−フェニレンジアミンをジアミン全量に対して30モル%、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルをジアミン全量に対して70モル%とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。
【0087】
(実施例3)
2−クロロ−1,4−フェニレンジアミンをジアミン全量に対して50モル%、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルをジアミン全量に対して50モル%とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。
【0088】
(実施例4)
2−クロロ−1,4−フェニレンジアミンをジアミン全量に対して70モル%、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルをジアミン全量に対して30モル%とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。
【0089】
(実施例5)
芳香族ポリアミドを得るためのジアミンを、ジアミン全量に対して50モル%に相当する2−クロロ−1,4−フェニレンジアミンと50モル%に相当する3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(東京化成社製)とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。
【0090】
(実施例6)
長手方向(MD)および幅方向(TD)の延伸倍率をそれぞれ1.05倍とすること以外は実施例3と同様にして、多孔質膜を得た。
【0091】
(実施例7)
延伸完了後に定長定幅で施す熱処理の温度を、230℃とすること以外は実施例3と同様にして、多孔質膜を得た。
【0092】
(実施例8)
製膜原液100質量%に対する各成分の最終的な含有量を、芳香族ポリアミド12質量%、PVP4質量%、水10質量%、NMPおよび重合原液に含まれる中和塩(塩化リチウム、ジエタノールアミン塩酸塩)74質量%とすること以外は実施例3と同様にして、多孔質膜を得た。
【0093】
(実施例9)
製膜原液100質量%に対する各成分の最終的な含有量を、芳香族ポリアミド8質量%、PVP2質量%、水10質量%、NMPおよび重合原液に含まれる中和塩(塩化リチウム、ジエタノールアミン塩酸塩)80質量%とすること以外は実施例3と同様にして、多孔質膜を得た。
【0094】
(実施例10、11)
実施例3と同様にして多孔質膜の製膜原液を得た。この製膜原液を口金から支持体であるベルト上に膜状に塗布する際、塗布厚みを調整することで、多孔質膜の厚みを表1のとおりとすること以外は実施例3と同様にして、多孔質膜を得た。
【0095】
(比較例1)
芳香族ポリアミドを得るためのモノマーを、ジアミン全量に対して50モル%に相当する1,3−フェニレンジアミン(東京化成社製)と50モル%に相当する4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、および99モル%に相当するイソフタロイルクロライド(東京化成社製)とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。
【0096】
(比較例2)
芳香族ポリアミドを得るためのモノマーを、ジアミン全量に対して50モル%に相当する1,4−フェニレンジアミン(東京化成社製)と50モル%に相当する4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、および99モル%に相当するイソフタロイルクロライドとすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。
【0097】
(比較例3)
2−クロロ−1,4−フェニレンジアミンをジアミン全量に対して10モル%、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルをジアミン全量に対して90モル%とすること以外は実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。
【0098】
(比較例4)
2−クロロ−1,4−フェニレンジアミンをジアミン全量に対して80モル%、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルをジアミン全量に対して20モル%とすること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミドの重合原液を得た。
【0099】
次に、重合原液中の中和塩を除去するため、この溶液を水とともにミキサーに投入し、攪拌しながらポリマーを沈殿させて取り出した。取り出したポリマーを水洗し、減圧120℃下で24時間乾燥させ、芳香族ポリアミドを単離した。
【0100】
単離した芳香族ポリアミドを用い、芳香族ポリアミド10質量%、PVP5質量%、水5質量%、NMP80質量%となるよう製膜原液を調製し、実施例1と同様にして、多孔質膜を得た。
【0101】
(比較例5)
長手方向(MD)および幅方向(TD)の延伸倍率をそれぞれ0.90倍とすること以外は実施例3と同様にして、多孔質膜を得た。
【0102】
(比較例6)
水浴中において、定幅で長手方向(MD)に1.20倍の延伸を施すまでは実施例3と同様にして含水状態の多孔質を得た。次に、得られた膜を定長定幅で温度150℃のテンター室内に導入し、多孔質膜中の含水量が、芳香族ポリアミド100質量部に対し、10質量部となるまで水分を乾燥させた。その後、温度200℃のテンター室内に導入し、定長で幅方向(TD)に1.20倍の延伸を施した。延伸完了時における多孔質膜中の含水量は、芳香族ポリアミド100質量部に対し、0質量部であった。最後に、定長定幅で温度280℃のテンター室内にて1分間の熱処理を施し、多孔質膜を得た。
【0103】
(比較例7、8)
比較例3と同様にして多孔質膜の製膜原液を得た。この製膜原液を口金から支持体であるベルト上に膜状に塗布する際、塗布厚みを調整することで、多孔質膜の厚みを表1のとおりとすること以外は比較例3と同様にして、多孔質膜を得た。
【0104】
【表1】