(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記抽出部は、所定区間の前記時系列信号において前記最大値または極大値の少なくともいずれをとる時間ステップのうち、閾値を超える時間ステップを、前記周期として抽出する、請求項1または2に記載の情報処理装置。
前記情報処理装置は、前記予測部により予測された前記時系列信号の予測値と前記センサから出力された観測値との比較結果に基づいて前記時系列信号の定常性を判定する判定部をさらに備える、請求項1〜6のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記文献に開示された技術では、センサから出力された信号の定常性をリアルタイムに判定する場合に、精度や計算コストの面で問題があった。
【0011】
例えば、上記特許文献1に開示された技術で用いられるゼロクロス値は、大きな振幅の周波数が支配的になってしまうため、信号対雑音比(SN比)が低く、雑音の振幅が相対的に大きい場合に所望信号の正確な周波数を検出することが困難であった。
【0012】
上記特許文献2に開示された技術では、フーリエ変換を用いているため、時間窓ごとのデータを使って演算する際の計算量が多い。このため、計算能力の低い端末では、逐次的に周波数成分を抽出するといったリアルタイムな動作を行うことが困難である。また、データ数が少ない場合は十分な周波数分解能が得られないという問題がある。さらに、周波数領域で所望信号とノイズの周波数とが重なる場合、ノイズと所望信号の分離が困難である。
【0013】
上記非特許文献1に開示された技術では、短期間の時間ステップの自己回帰係数を用いるときは計算コストが小さいものの、局所的な信号の特徴のみが自己回帰係数に反映されるため、一周期あたりのサンプル数が多い定常信号を精度よく予測することが困難である。また、多サンプル数の観測値を用いて自己回帰係数を求めることは計算コストが大きく、計算能力が低い端末での動作は困難である。
【0014】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、センサから出力される定常信号のリアルタイムな予測をより少ない計算量で精度良く行うことが可能な、新規かつ改良された情報処理装置、情報処理方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、センサから出力された時系列信号の周期を抽出する抽出部と、前記抽出部により抽出された前記周期に対応する自己回帰係数を逐次的に算出する係数算出部と、前記係数算出部により算出された前記自己回帰係数を用いた自己回帰モデルの式により前記時系列信号の予測を行う予測部と、を備える情報処理装置が提供される。
【0016】
前記抽出部は、逐次的に前記周期を抽出してもよい。
【0017】
前記抽出部は、逐次自己共分散関数の最大値または極大値の少なくともいずれかをとる時間ステップを、前記周期として抽出してもよい。
【0018】
前記抽出部は、逐次自己相関関数の最大値または極大値の少なくともいずれかをとる時間ステップを、前記周期として抽出してもよい。
【0019】
前記抽出部は、所定区間の前記時系列信号において前記最大値または極大値の少なくともいずれをとる時間ステップのうち、閾値を超える時間ステップを、前記周期として抽出してもよい。
【0020】
前記係数算出部は、単位数量の時間ステップ分の前記時系列信号が出力される都度、前記自己回帰係数を算出してもよい。
【0021】
前記係数算出部は、カルマンフィルタにより前記自己回帰係数を算出してもよい。
【0022】
前記係数算出部は、前記周期に対応する自己回帰係数に加えて、任意の時間ステップの自己回帰係数を逐次的に算出してもよい。
【0023】
前記情報処理装置は、前記予測部により予測された前記時系列信号の予測値と前記センサから出力された観測値との比較結果に基づいて前記時系列信号の定常性を判定する判定部をさらに備えてもよい。
【0024】
前記判定部は、前記予測値と前記観測値との差分が閾値以上である場合に非定常であると判定し、前記閾値未満である場合に定常であると判定してもよい。
【0025】
前記センサは、ドップラーセンサ、振動センサ、加速度センサの少なくともいずれかであってもよい。
【0026】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、センサから出力された時系列信号の周期を抽出するステップと、抽出された前記周期に対応する自己回帰係数を逐次的に算出するステップと、算出された前記自己回帰係数を用いた自己回帰モデルの式により前記時系列信号の予測を行うステップと、を備える情報処理方法が提供される。
【0027】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、コンピュータを、センサから出力された時系列信号の周期を抽出する抽出部と、前記抽出部により抽出された前記周期に対応する自己回帰係数を逐次的に算出する係数算出部と、前記係数算出部により算出された前記自己回帰係数を用いた自己回帰モデルの式により前記時系列信号の予測を行う予測部と、として機能させるためのプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように本発明によれば、センサから出力される定常信号のリアルタイムな予測をより少ない計算量で精度良く行うことが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0031】
<1.定常性判定装置の概要>
まず、本発明の一実施形態に係る定常性判定装置の概要を説明する。本実施形態に係る定常性判定装置は、センサ信号の周期の定常性を、リアルタイムに判定する。本実施形態に係る定常性判定装置は、振動センサや加速度センサ、ドップラーセンサ等から得られるセンサ信号の定常性を解析することで、対象とする物体の動作や空間の状況についての変化点を発見することができる。上述したように、上記文献に記載された、ゼロクロス値やフーリエ変換、時変係数自己回帰モデルを用いた技術では、精度や計算コストの面で問題があった。
【0032】
そこで、本実施形態に係る定常性判定装置は、上記非特許文献1に開示された技術を改良して、精度よく且つ計算量を削減しつつリアルタイムでセンサ信号の定常性を判定することを可能にした。具体的には、定常性判定装置は、逐次自己共分散関数によってセンサ信号の周期を求め、その周期に対応する時間ステップの項により構成される自己回帰モデルにより予測値を算出する。定常性判定装置は、周期に対応する時間ステップに着目することにより、一周期あたりのサンプル数が多い定常的な信号の自己回帰モデルによる予測値を、高精度かつ低計算コストに求めることができる。ここで、一周期あたりのサンプル数が多いとは、上記文献に記載された技術では計算コストの問題によりリアルタイムな動作が困難となるサンプル数を意味し、サンプル間隔や周期の長さに依存する値である。サンプル間隔が短い場合は短時間でもサンプル数が多く、サンプル間隔が長い場合は長時間でもサンプル数が少なくなり得る。定常性判定装置は、この予測値を用いてセンサ信号の定常性を判定する。
【0033】
定常性判定装置による処理について、より詳しく説明する。定常性判定装置は、センサから出力された時系列信号から、計算量が比較的小さい逐次自己共分散関数を利用して、信号の周期を抽出する。次いで、定常性判定装置は、抽出した周期に対応する時間ステップの自己回帰係数を用いて、逐次的に自己回帰係数を算出する。そして、定常性判定装置は、算出した自己回帰係数により構成される自己回帰モデルによる予測値と実際の値との差を予測誤差とし、予測誤差を信号の揺らぎとして定量的に定常性を判定する。
【0034】
本実施形態では、所望信号と同じような周波数のノイズが存在する場合であっても、周期の揺らぎを評価することにより、所望信号の定常性を判定することができる。また、抽出した周期に対応する時間ステップの自己回帰係数を用いることによって、一周期あたりのサンプル数が多い定常信号を精度よくかつ計算量が少なく予測することが可能となる。これらによって、本実施形態では、定常的な信号と非定常な信号を区別する精度が向上する。
【0035】
以上、定常性判定装置の概要を説明した。続いて、
図1を参照して、定常性判定装置の構成例を説明する。
【0036】
<2.定常性判定装置の構成例>
図1は、本発明の一実施形態に係る定常性判定装置の構成の一例を示すブロック図である。
図1に示すように、定常性判定装置1は、センサ10、AD(Analog−to−Digital)コンバータ20、信号周期抽出部30、定常性判定部40、および出力部50を有する。
【0037】
(センサ10)
センサ10は、任意の対象空間または対象物体を観測して、観測された時系列信号(センサ信号)を出力する装置である。センサ10は、例えば振動センサや加速度センサ、ドップラーセンサとして実現される。本実施形態では、センサ信号はアナログ信号であるものとする。
【0038】
(ADコンバータ20)
ADコンバータ20は、アナログ電気信号をデジタル電気信号に変換する電子回路である。ADコンバータ20は、センサ10から出力されたセンサ信号を、アナログ信号からデジタル信号に変換して出力する。
【0039】
(信号周期抽出部30)
信号周期抽出部30は、センサ10から出力された時系列信号の周期を抽出する抽出部としての機能を有する。信号周期抽出部30は、定常性判定部40によるリアルタイムな定常性の判定精度を担保するため、逐次的に時系列信号の周期を抽出する。信号周期抽出部30が、逐次的に周期を抽出する手段は多様に考えられる。例えば、信号周期抽出部30は、逐次自己共分散関数または逐次自己相関関数のピークをとる時間ステップを、周期として抽出する。ここでいうピークとは、最大値または極大値の少なくともいずれかである。最大値は、信号のメインの周期を表す。極大値は、異なる周期を有する複数の信号が混在している場合に、その個々の信号の周期を表す。なお、センサ信号の各時間ステップと現時刻との時間間隔を、ラグタイムとも称する。
【0040】
逐次共分散関数および逐次自己相関関数は、計算量を少なく、かつ周波数の分解能を細かくとることができるため、リアルタイムに周期を抽出する手段として適している。逐次自己共分散関数は、相関に分散を乗算したものであるため、信号周期抽出部30は、逐次自己共分散関数を用いた場合、振幅が小さいノイズの影響を除去して周期を抽出することができる。一方で、信号周期抽出部30は、逐次自己相関関数を用いた場合、微小な信号であっても周期を抽出することができる。信号周期抽出部30は、センサ10の種別やノイズの大きさ等に基づいて、逐次自己共分散関数または逐次自己相関関数のいずれを用いるかを選択する。
【0041】
信号周期抽出部30は、単数または複数個のピークを抽出する。ここで、予測部43による予測精度を考慮すると、信号周期抽出部30は、時系列信号のすべてのピークを抽出して、予測部43がそのピークに対応する時間ステップの項を有する自己回帰モデルで予測することが望ましい。しかし、計算コストを削減する観点から、信号周期抽出部30は、最大値または極大値の少なくともいずれをとる時間ステップのうち、信号値が閾値を超える時間ステップを周期として抽出する。また、計算コストを削減する観点から、信号周期抽出部30は、期間を区切り、所定区間の時系列信号からピークを抽出してもよい。
【0042】
逐次自己共分散関数や逐次自己相関関数を用いた方法の他にも、信号周期抽出部30は、時系列信号についての既知の周期性に対応する時間ステップを、周期として抽出してもよい。既知の周期性とは、例えばフーリエ変換やゼロクロス値等により抽出される周期性である。
【0043】
(定常性判定部40)
定常性判定部40は、信号周期抽出部30により抽出された周期を用いて、センサ10から出力された時系列信号の定常性を判定する機能を有する。
図1に示すように、定常性判定部40は、係数算出部41、予測部43、および判定部45として機能する。
【0044】
・係数算出部41
係数算出部41は、信号周期抽出部30により抽出された周期に対応する時間ステップの自己回帰係数を逐次的に算出する機能を有する。詳しくは、係数算出部41は、単位数量の時間ステップ分の時系列信号がセンサ10から出力される都度、自己回帰係数を算出する。単位数量の時間ステップとしては、例えば1ステップでもよいし、所定秒数分の時間ステップであってもよい。
【0045】
係数算出部41が、逐次的に自己回帰係数を抽出する手段は多様に考えられる。例えば、係数算出部41は、カルマンフィルタにより自己回帰係数を算出する。カルマンフィルタ以外に逐次的に自己回帰係数を算出する手段として、例えばSDAR(sequentially discounting AR model estimating)アルゴリズムが考えられる。しかし、SDARアルゴリズムでは、すべての時間ステップの自己回帰係数を算出する必要があるため、信号周期抽出部30により抽出された周期に対応する時間ステップの自己回帰係数のみを選択的に算出することができない。よって、係数算出部41は、カルマンフィルタを用いた方が、SDARアルゴリズムを用いる場合と比較して、低い計算コストで自己回帰係数を算出することができる。他にも、係数算出部41は、例えばパーティクルフィルタにより、自己回帰係数を算出してもよい。
【0046】
係数算出部41が算出した自己回帰係数は、信号周期抽出部30により抽出された周期に対応する時間ステップの自己回帰係数であり、後述の予測部43による予測に用いられる自己下記モデルを構成する。このため、自己回帰モデルは時系列信号の周期性を良く表現するものとなるので、予測部43は、一周期あたりのサンプル数が多い定常信号を精度よく予測することができる。
【0047】
また、係数算出部41は、信号周期抽出部30により抽出された周期に対応する時間ステップの自己回帰係数に加えて、任意の時間ステップの自己回帰係数を逐次的に算出してもよい。例えば、係数算出部41は、現時刻の直近の数ステップ分の自己回帰係数を算出する。これにより、予測部43は、直近の数ステップについての観測値を加味した予測を行うことができる。予測部43による予測精度を考慮すると、信号周期抽出部30が時系列信号のすべてのピークを抽出して、予測部43がそのピークに対応する時間ステップの項を有する自己回帰モデルで予測することが望ましい。しかし、計算コストを削減する観点から、信号周期抽出部30は期間を区切ってピークを抽出することが考えられる。このような場合に、予測部43が、直近の数ステップについての観測値を加味した予測を行うことにより、期間を区切ったことによる予測精度の低下を補償することができる。
【0048】
・予測部43
予測部43は、係数算出部41により算出された自己回帰係数を用いた自己回帰モデルにより、時系列信号の予測を行う機能を有する。予測部43は、後述の数式13により、時系列信号の予測を行う。数式1および数式13を参照すると、予測部43は、上記非特許文献1に記載された技術と同様に、自己回帰モデル(時変係数自己回帰モデル)により時系列信号の予測を行っている。ただし、上記非特許文献1では、上記数式1に示すように、対象期間のすべての時間ステップについて計算する必要がある。これに対し、予測部43は、数式13に示すように、信号周期抽出部30により抽出された周期の時間ステップについてのみ計算すればよい。このため、本実施形態では、上記非特許文献1に記載された技術と比較して、計算量を削減することができる。予測部43は、予測結果を判定部45に出力する。
【0049】
・判定部45
判定部45は、予測部43により予測された時系列信号の予測値と、センサ10から出力された実際の値(観測値)との比較結果に基づいて、時系列信号の定常性を判定する機能を有する。より詳しくは、判定部45は、予測値と実際の値との差分が閾値以上である場合に非定常であると判定し、閾値未満である場合に定常であると判定する。予測値と実際の値との差分を、以下では予測誤差とも称する。判定部45は、判定結果を出力部50に出力する。
【0050】
(出力部50)
出力部50は、映像、画像、音声などによって、定常性判定部40による判定結果を出力する。出力部50は、例えばCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ装置、液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display)装置、スピーカー等により実現される。
【0051】
以上、本実施形態に係る定常性判定装置の構成例を説明した。
【0052】
<3.定常性判定装置の動作>
本節では、扇風機のような機械的で周期的な動きをする物体が存在する環境で、人の有無を判定する場合の動作について説明する。人が存在する場合のセンサ信号は非定常信号となり、人が存在しない場合のセンサ信号は定常信号となる。定常性判定装置1の動作は、第1にセンサ10からの信号取得およびその変換、第2に信号周期の抽出、第3に自己回帰係数を用いた予測および予測誤差による定常性の判定、の3つの段階に分類される。以下、
図2〜
図4を参照して、各段階の動作についてそれぞれ説明する。なお、
図2は、本発明の一実施形態に係る定常性判定装置1の動作を示すフローチャートである。
【0053】
[3−1.センサからの信号取得およびその変換]
図2に示すように、まず、ステップS102で、定常性判定装置1は、センサ信号を取得する。詳しくは、センサ10は、センシング結果をアナログの時系列信号として出力する。
【0054】
次いで、ステップS104で、定常性判定装置1は、センサ信号をデジタル信号に変換する。詳しくは、ADコンバータ20は、センサ10から出力されたアナログの時系列信号をデジタル信号に変換する。なお、センサ10により取得されるアナログ信号は一般に微小信号となる。このため、定常性判定装置1は、雑音の影響を抑制しSN比を改善するために、増幅器によって増幅したり、アナログフィルタやデジタルフィルタによって周波数フィルタリングを行ったりしてもよい。
【0055】
[3−2.信号周期の抽出]
次に、ステップS106で、定常性判定装置1は、各ラグタイムにおける逐次自己共分散関数を求める。詳しくは、信号周期抽出部30は、ADコンバータ20から出力されたセンサ信号に基づいて、逐次自己共分散関数を求める。ある時刻nのラグタイムτにおける逐次自己共分散関数は、以下の数式3で表される。より具体的には、信号周期抽出部30は、観測値y
n(n=1,2,・・・N)について、ある時刻nにおける逐次平均u
n、ある時刻nのあるラグタイムτにおける逐次自己共分散関数C(n,τ)を、それぞれ以下の数式2、数式3の漸化式で計算する。
【0058】
ここで、rは忘却係数であり、0<r<1の範囲の値をとる。数式2と数式3で異なる忘却係数をとっても良い。信号周期抽出部30は、信号の周期が存在する期間を0≦τ≦τ
maxとして、その時間範囲における逐次自己共分散関数を求める。
【0059】
次いで、ステップS108で、定常性判定装置1は、逐次自己共分散関数が最大値または極大値となるラグライムを単数または複数抽出する。詳しくは、信号周期抽出部30は、上記数式3で示した逐次自己共分散関数が、最大値となるラグタイムτまたは極大値となるラグタイムτを、単数または複数抽出する。
【0060】
[3−3.自己回帰係数を用いた予測および予測誤差による定常性の判定]
次に、ステップS110で、定常性判定装置1は、抽出されたラグタイムに対応する時変係数自己回帰モデルを構成する。詳しくは、まず、係数算出部41は、上記ステップS108において信号周期抽出部30により抽出された周期に対応する時間ステップの自己回帰係数を、逐次的に算出する。係数算出部41は、以下に説明するように、カルマンフィルタにより自己回帰係数を算出するものとする。
【0061】
カルマンフィルタは、m次元の未知のパラメータから構成される状態ベクトルxとスカラ観測値yとの関係を与える、数式4で示す状態方程式および数式5で示す観測方程式でモデル化される。
【0064】
ここで、u
nはm次元のシステム雑音、v
nは1次元の観測ノイズであり、以下の数式6、数式7のように、平均0、分散共分散行列がそれぞれQ、Rの正規分布に従うと仮定する。
【0074】
ここで、Iは単位行列である。K
nはカルマンゲインと呼ばれ、以下の数式12のように表される。
【0078】
ユールウォーカ方程式で自己回帰係数を求める場合はラグステップが1から順番に求めていく必要があるが、上記数式13に示すように、カルマンフィルタを用いた場合は必要な序数の係数のみを求めることができる。即ち、係数算出部41は、信号周期抽出部30により抽出されたラグタイムに対応する自己回帰係数のみを計算対象とすることにより、より低い計算コストで自己回帰係数を算出することができる。以上説明したように、ステップS110において、係数算出部41は、信号周期抽出部30により抽出されたラグタイムに対応する時変係数自己回帰モデルとして、上記数式13に示した自己回帰モデルを構成する。
【0079】
そして、ステップS112で、定常性判定装置1は、予測誤差を求める。詳しくは、まず、予測部43は、上記数式13に示した自己回帰モデルに基づき予測値を求める。そして、判定部45は、予測部43により予測された予測値とセンサ10により出力された実際の値との差を、以下の数式14で表される予測誤差e
nとして求める。
【0081】
ここで、
図3、
図4を参照して、現時刻から1ステップ前からNステップ前までの自己回帰係数により構成された自己回帰モデル(比較例)と、信号の周期に対応する自己回帰係数により構成された自己回帰モデル(本実施形態)との、予測誤差の違いを説明する。
図3は、比較例に係る定常性判定装置による予測誤差を示す図である。
図4は、本発明の一実施形態に係る定常性判定装置1による予測誤差を示す図である。
【0082】
図3では、比較例として、次数を3として、直近の3つの時間ステップd1、d2、d3についての自己回帰モデルによる予測誤差を示している。
図3に示すように、過去の直近の観測値を用いて予測されるため、自己回帰モデルは対象とした3つの時間ステップを超える周期を表現することができず、予測値が直近の観測値に依存してしまうため、予測誤差が大きくなってしまう場合がある。特に、対象とした3つの時間ステップ内またはその前後において信号が局所的に不規則である場合、予測誤差が大きくなってしまう。
【0083】
図4では、次数を3として、直近の2つの時間ステップd2およびd3、逐次自己共分散関数により抽出した周期に対応する時間ステップd1についての自己回帰モデルによる予測誤差を示している。
図4に示すように、逐次自己共分散関数により抽出された周期に対応する項を自己回帰モデルに採用することにより、自己回帰モデルは信号の周期性を表現することが可能となり、
図3に示した比較例と比較して予測誤差を小さくすることができる。この自己回帰モデルは、直近の観測値に過度に依存しないため、対象とした3つの時間ステップ内またはその前後において信号が局所的に不規則である場合であっても、予測誤差が大きくなることを抑制することができる。
【0084】
以上、ステップS112における処理について説明した。次いで、ステップS114で、定常性判定装置1は、予測誤差が閾値以上であるか否かを判定する。詳しくは、判定部45は、数式14で示した予測誤差が閾値以上であるか否かを判定する。
【0085】
予測誤差が以上であると判定された場合(S114/YES)、ステップS116で、定常性判定部40は、センサ信号は非定常信号であると判定する。例えば、センサ10のセンシング対象空間内に人が存在する場合、人の呼吸や動作に起因する信号が観測されるため、定常性判定部40は、センサ信号は非定常信号であると判定する。
【0086】
一方で、予測誤差が未満であると判定された場合(S114/NO)、ステップS118で、定常性判定部40は、センサ信号は定常信号であると判定する。例えば、センサ10のセンシング対象空間内に人が存在しない場合、扇風機の周期的な動きに起因する定常信号のみが観測されるため、定常性判定部40は、センサ信号は定常信号であると判定する。
【0087】
そして、ステップS120で、定常性判定装置1は、判定結果を出力する。詳しくは、出力部50は、上記ステップS116またはS118において判定部45により判定された判定結果を、出力する。
【0088】
次に、ステップS122で、定常性判定装置1は、処理を終了するか否かを判定する。
終了しないと判定された場合(S122/NO)、処理は再度ステップS102に戻り、定常性判定装置1は定常性の判定を繰り返す。これにより、定常性判定装置1は、リアルタイムにセンサ信号の定常性を判定することができる。一方で、終了すると判定された場合(S122/YES)、定常性判定装置1は処理を終了する。
【0089】
以上、本実施形態に係る定常性判定装置1の動作を説明した。
【0090】
(補足)
上述したように、信号周期抽出部30は、逐次自己共分散関数の他にも、逐次自己相関関数を用いて周期を抽出することができる。この場合、信号周期抽出部30は、上記数式3に代えて、数式3で示した時刻nにおける逐次自己共分散関数C(n,τ)を逐次分散v(n)で除した、下記数式15で示す逐次自己相関関数Rxx(n,τ)を用いる。
【0092】
ここで、逐次分散v(n)は、下記の数式16で示す漸化式で与えられる。
【0094】
ここで、rは忘却係数であり、0<r<1の範囲の値をとる。
【0095】
<4.まとめ>
以上説明したように、本実施形態によれば、センサ信号の定常性をより少ない計算量で精度良くリアルタイムに判定することが可能である。より詳しくは、定常性判定装置1は、逐次自己共分散関数または逐次自己相関関数を用いることにより、フーリエ変換等を用いた場合と比較してより少ない計算量でセンサ信号の周期を抽出することができる。また、定常性判定装置1は、抽出した周期に対応する時間ステップについての自己回帰モデルを構築することにより、周期的な信号の予測誤差を低減することができるため、より精度よくセンサ信号の定常性を判定することができる。
【0096】
定常性判定装置1は、センサ信号の定常性を判定することにより、例えばドップラーセンサからの出力結果に基づいて、扇風機のように一定の周期で機械的な動作をする機器の動きと、人のような周期の揺らぎが大きい不規則動きとを区別することが可能である。また、定常性判定装置1は、人の有無を高精度で検知する人感センサにも応用することができる。
【0097】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0098】
例えば、上記実施形態では、センサ10、ADコンバータ20、信号周期抽出部30、定常性判定部40、および出力部50が一体化しているものとしたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、各構成要素が別々に構成されていてもよい。具体的には、PC(Personal Conputer)やモバイル端末、ネットワーク上のサーバ等が信号周期抽出部30および定常性判定部40として機能し、センサ10、ADコンバータ20からの出力に基づいて判定結果を出力部50に出力してもよい。
【0099】
また、情報処理装置に内蔵されるCPU、ROM及びRAM等のハードウェアに、上記定常性判定装置1の各構成と同等の機能を発揮させるためのコンピュータプログラムも作成可能である。また、当該コンピュータプログラムを記録した記録媒体も提供される。