(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記係数パターンは、前記温度変化率が一定の変化率以上で上昇する場合、前記一定の変化率以上で下降する場合、又は前記一定の変化率未満で推移する場合に分けて設定されている、請求項4の工作機械。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の特許文献1,2に記載の工作機械では、温度センサの異常を検知した際には熱変位に基づく各駆動軸の位置の補正を禁止しているので、このまま工作物の加工を続けると加工精度が悪化する。このため、異常となった温度センサを正常な温度センサに交換するまで工作物の加工を中止する必要があり、工作物の生産効率が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、温度センサの異常を検知した場合でも工作物の高精度な加工を継続することができる工作機械および工作機械における加工制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(工作機械)
(請求項1)本発明の工作機械は、複数の箇所の温度をそれぞれ測定可能な複数の温度センサと、前記複数の温度センサの測定温度に基づいて、工作物の加工を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、一つの前記温度センサが測定可能な箇所の温度を、他の複数の前記温度センサの測定温度に基づいて、推定温度として演算する推定温度演算手段と、前記一つの温度センサの測定温度および前記推定温度に基づいて、前記推定温度演算手段における演算方法を更新する演算方法更新手段と、前記一つの温度センサが異常であると判定したとき、当該判定前に更新された演算方法に基づき演算された前記一つの温度センサの推定温度を、前記一つの温度センサの測定温度に代えて前記工作物の加工を制御する加工制御手段と、を備える。
【0008】
これにより、一つの温度センサの推定温度は、他の複数の温度センサの測定温度に基づいて演算されるので、一つの温度センサの故障等による異常を検知した場合でも、熱変位に基づく工作機械の各駆動軸の位置の補正を行うことができる。よって、工作物の高精度な加工を継続することができ、工作物の加工精度の悪化および生産性の低下を防止することができる。
【0009】
(請求項2)前記演算方法更新手段は、前記一つの温度センサの測定温度および推定温度の少なくとも一方の温度変化率に基づいて、前記演算方法を更新するとよい。これにより、演算方法は、一つの温度センサの温度変化率に基づいて逐次更新されるので、一つの温度センサが故障等により異常となったときの推定温度の精度を高めることができる。
【0010】
(請求項3)前記演算方法更新手段は、前記複数の温度センサの測定温度の温度変化率に基づいて、前記演算方法を更新するとよい。これにより、演算方法は、複数の温度センサの温度変化率に基づいて逐次更新されるので、一つの温度センサが故障等により異常となったときの推定温度の精度を高めることができる。
【0011】
(請求項4)前記演算方法更新手段は、前記温度変化率に基づいて、前記演算方法で用いる温度推定式の係数を表す係数パターンを決定するとよい。これにより、温度推定式の係数を表す係数パターンは、一つの温度センサ又は複数の温度センサの温度変化率に基づいて決定されるので、温度推定式で求まる一つの温度センサの推定温度の精度を高めることができる。
【0012】
(請求項5)前記係数パターンは、前記温度変化率が一定の変化率以上で上昇する場合、前記一定の変化率以上で下降する場合、又は前記一定の変化率未満で推移する場合に分けて設定されているとよい。これにより、温度推定式の係数を表す係数パターンが一つの温度センサ又は複数の温度センサの温度変化率で場合分けされるので、温度推定式の係数の精度を高めることができる。
【0013】
(請求項6)前記演算方法更新手段は、前記温度推定式の係数を最適化するとよい。温度推定式の係数が最適化されるので、温度推定式で求まる一つの温度センサの推定温度の精度をより一層高めることができる。
【0014】
(工作機械における加工制御方法)
(請求項7)複数の箇所の温度をそれぞれ測定可能な複数の温度センサの測定温度に基づいて、工作物の加工を行う工作機械における加工制御方法であって、一つの前記温度センサが測定可能な箇所の温度を、他の複数の前記温度センサの測定温度に基づいて、推定温度として演算する推定温度演算工程と、前記一つの温度センサの測定温度および前記推定温度に基づいて、前記推定温度演算
工程における演算方法を更新する演算方法更新工程と、前記一つの温度センサが異常であると判定したとき、当該判定前に更新された演算方法に基づき演算された前記一つの温度センサの推定温度を、前記一つの温度センサの測定温度に代えて前記工作物の加工を制御する加工制御工程と、を備える。
これにより、上記工作機械の効果と同様の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(工作機械の概略構成)
以下、本発明の工作機械を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。工作機械として、3軸マシニングセンタを例に挙げて説明する。つまり、当該工作機械は駆動軸として、相互に直交する3つの直進軸(X,Y,Z軸)を有する工作機械である。
【0017】
図1に示すように、工作機械1は、ベッド2と、コラム10と、サドル20と、回転主軸30と、テーブル40と、数値制御装置50等とを備えている。工作物Wは、工作機械1によって加工される被加工部材である。
ベッド2は、床面に設置されており、上面にX軸方向(水平方向)に延在する一対のレール3およびX軸方向と直交するZ軸方向(水平方向)に延在する一対のレール4が設けられている。
【0018】
コラム10は、図略のX軸モータによりベッド2に対してX軸方向に移動可能に一対のレール3に係合されている。コラム10の前側面には、X軸方向およびZ軸方向と直交するY軸方向(垂直方向)に延在する一対のレール5が設けられている。
サドル20は、図略のY軸モータによりコラム10に対してY軸方向に移動可能に一対のレール5に係合されている。
【0019】
回転主軸30は、サドル20内に収容された図略の主軸モータにより軸回りに回転可能に設けられている。回転工具31は、回転主軸30の先端に固定され、回転主軸30の回転に伴って回転する。また、回転工具31は、コラム10およびサドル20の移動に伴ってベッド2に対してX軸方向およびY軸方向に移動する。なお、回転工具31としては、例えば、ボールエンドミル、エンドミル、ドリル、タップ等である。
テーブル40は、図略のZ軸モータによりベッド2に対してZ軸方向に移動可能に一対のレール4に係合されている。テーブル40の上面には、工作物Wが磁気吸着される。
【0020】
数値制御装置50は、数値制御データに基づいてコラム10、サドル20、回転主軸およびテーブル40の各軸モータ等を駆動制御し、工作物Wに対して回転工具31を相対移動させて加工を行う。
工作機械1の構造体の各箇所には、当該各箇所の測定温度や後述する推定温度に基づいて熱変位補正を行うために、サーミスタ等の温度センサSTi,STj,STk・・・が夫々貼着されている。なお、1≦i≦n,i≠j≠k,n:全温度センサ数である。各温度センサSTi,STj,STk・・・は、設置された各箇所において温度を測定し、測定温度に応じた信号を数値制御装置50に出力する。なお、
図1では、ベッド2およびコラム10における温度センサSTi,STj,STk・・・の貼着状態例を示す。
【0021】
(数値制御装置の構成)
図2に示すように、数値制御装置50は、センサ信号入力部51と、異常判定部52と、推定温度演算部53と、演算方法更新部54と、加工制御部55と、警告部56と、記憶部57等とを有する。さらに、演算方法更新部54は、温度変化率演算部61と、パターン決定部62と、最適化演算部63と、更新部64等とを有する。
【0022】
ここで、センサ信号入力部51、異常判定部52、推定温度演算部53、演算方法更新部54、加工制御部55、警告部56、記憶部57、温度変化率演算部61、パターン決定部62、最適化演算部63、および更新部64は、それぞれ個別のハードウエアによる構成することもできるし、ソフトウエアによりそれぞれ実現する構成とすることもできる。
【0023】
センサ信号入力部51は、予め設定され記憶部57に記憶されている所定のサンプリング時間毎に、各温度センサSTi,STj,STk・・・からの検出信号を入力し、記憶部57に工作機械1における複数の箇所の各測定温度Tid,Tjd,Tkd・・・と時間tとを関連付けて温度変化率として記憶する。
【0024】
異常判定部52は、各温度センサSTi,STj,STk・・・が正常動作しているか異常動作しているかを判定する。すなわち、異常判定部52は、例えば、温度センサSTiの測定温度Tidと後述する推定温度Tipとの差が予め設定された範囲内で変動しているとき、当該温度センサSTiは正常動作していると判定し、設定範囲を超えて変動したとき、当該温度センサSTiは異常動作していると判定する。また、温度センサSTiからの検出信号が予め設定された範囲内で変動しているとき、当該温度センサSTiは正常動作していると判定し、設定範囲を超えて変動したとき、当該温度センサSTiは異常動作していると判定する。
【0025】
推定温度演算部53は、各温度センサSTi,STj,STk・・・のうち一つの温度センサが測定可能な箇所の温度を、他の複数(本例では二つ)の温度センサの測定温度に基づいて、推定温度として演算して記憶部57に時間tと関連付けて温度変化率として記憶する。一つの温度センサに対する他の二つの温度センサの組み合わせは、熱源が同一の箇所又は実験等により略同一の温度となる箇所等によって予め決定され記憶部57に記憶されている。例えば、次式(1)に示すように、一つの温度センサSTiの推定温度Tipは、二つの温度センサSTj,STkの各測定温度Tjd,Tkdで表される。なお、次式(1)における係数α,βについては後述する。
【0027】
演算方法更新部54は、一つの温度センサが正常なときはその測定温度の温度変化率、一つの温度センサが異常なときは推定温度の温度変化率に基づいて、推定温度演算部53における演算方法を更新する。これにより、演算方法は、一つの温度センサが正常なときは一つの温度センサの温度変化率に基づいて逐次更新されるので、一つの温度センサが故障等により異常となったときの推定温度の精度を高めることができる。また、一つの温度センサが異常なときは2つの温度センサの温度変化率に基づいて逐次更新されるので、一つの温度センサが故障等により異常となったときの推定温度の精度を高めることができる。
【0028】
この演算方法更新部54における演算方法の更新は、以下の各部61〜64で全ての温度センサはSTj,STk・・・に対して行われる。なお、以下では説明の便宜上、一つの温度センサはSTiとし、他の二つの温度センサはSTj,STkとする。そして、一つの温度センサSTiが正常な場合と異常な場合とに分けて説明する。
【0029】
先ず、一つの温度センサSTiが正常な場合について説明する。
温度変化率演算部61は、予め設定され記憶部57に記憶されている所定の更新用測定時間、例えば演算開始直前に測定した時点から所定時間前の時点までの測定時間で、一つの温度センサSTiの一定時間当たりの測定温度Tidの変化率γiを演算する。例えば、
図6A〜6Cに示すように、縦軸に測定温度T、横軸に時間tを取った場合、更新用測定時間t1〜t2における一つの温度センサSTiの一定時間当たりの測定温度Tidの変化率γiは、次式(2)で表される。
【0031】
パターン決定部62は、温度変化率演算部61で演算した一つの温度センサSTiの一定時間当たりの測定温度Tidの変化率γiに基づいて、式(1)の温度推定式で用いる係数α,βを表す係数パターンを決定する。これにより、温度推定式(式(1))で求まる一つの温度センサSTiの推定温度Tipの精度を高めることができる。
【0032】
この係数パターンとしては、例えば、
図6Aに示すように、一つの温度センサSTiの変化率γiが、一定の上昇変化率γa以上で上昇するときは、変化率γiの一次関数である次式(3)、(4)(上昇係数パターンという)とし、
図6Bに示すように、一定の下降変化率−γb以下で下降するときは、変化率γiの一次関数である次式(5)、(6)(下降係数パターンという)とし、
図6Cに示すように、一定の上昇変化率γaと下降変化率−γbの間で経時変化するときは、変化率γiの一次関数である次式(7)、(8)(定常係数パターンという)とする。これにより、温度推定式(式(1))の係数α,βの精度を高めることができる。なお、各式(3)〜(8)のA1〜F1はグラフ化したときの傾きであり、A2〜F2はグラフ化したときのTid−切片である。
【0039】
最適化演算部63は、温度推定式(式(1))を最適化するために、例えば次式(9)で表される最小二乗法の式を最小化する係数α,β、すなわちパターン決定部62で決定した係数パターンの係数α,βを求める。これにより、温度推定式(式(1))で求まる一つの温度センサSTiの推定温度Tipの精度をより一層高めることができる。
【0041】
更新部64は、最適化演算部63で演算した係数α,βを温度推定式(式(1))に適用して当該温度推定式を更新する。更新部64は、温度推定式(式(1))を三つの係数パターン毎に記憶部57に記憶する。
【0042】
次に、一つの温度センサSTiが異常な場合について説明する。
温度変化率演算部61は、予め設定され記憶部57に記憶されている所定の更新用測定時間で、上述の他の2つの温度センサSTj,STkの一定時間当たりの測定温度Tjd,Tkdの変化率γj,γkを演算する。例えば、
図7A〜7Cに示すように、縦軸に測定温度T、横軸に時間tを取った場合、更新用測定時間t1〜t2における一定時間当たりの測定温度Tjd,Tkdの変化率γj,γkは、次式(10)、(11)で表される。
【0045】
パターン決定部62は、温度変化率演算部61で演算した2つの温度センサSTj,STkの一定時間当たりの測定温度Tjd,Tkdの変化率γj,γkに基づいて、温度推定式(式(1))で用いる係数α,βを表す係数パターンを決定する。これにより、温度推定式(式(1))で求まる一つの温度センサSTiの推定温度Tipの精度を高めることができる。
【0046】
この係数パターンとしては、例えば、
図7Aに示すように、温度センサSTj,STkの変化率γj,γkが、一定の上昇変化率γa以上で上昇するときは、変化率γj,γkの一次関数である次式(12)、(13)(上昇係数パターンという)とし、
図7Bに示すように、一定の下降変化率−γb以下で下降するときは、変化率γj,γkの一次関数である次式(14)、(15)(下降係数パターンという)とし、
図7Cに示すように、一定の上昇変化率γaと下降変化率−γbの間で経時変化するときは、変化率γj,γkの一次関数である次式(16)、(17)(定常係数パターンという)とする。
【0047】
なお、温度センサSTj,STkの変化率γj,γkは、一方が上昇するときは他方も上昇し、一方が下降するときは他方も下降する。温度センサSTjの変化率γjと温度センサSTkの変化率γkとが同じ変化傾向を示す理由は、工作機械1の構造体は急激な温度変化が起きないためである。これにより、温度推定式(式(1))の係数α,βの精度を高めることができる。なお、各式(12)〜(17)のG1〜L1はグラフ化したときの傾きであり、G2〜L2はグラフ化したときのTjd,Tkd−切片である。
【0054】
最適化演算部63は、温度推定式(式(1))を最適化するために、例えば次式(18)で表される最小二乗法の式を最小化する係数α,β、すなわちパターン決定部62で決定した係数パターンの係数α,βの係数を求める。これにより、温度推定式(式(1))で求まる一つの温度センサSTiの推定温度Tipの精度をより一層高めることができる。
【0056】
更新部64は、最適化演算部63で演算した係数α,βを温度推定式(式(1))に適用して当該温度推定式を更新する。更新部64は、温度推定式(式(1))を三つの係数パターン毎に記憶部57に記憶する。
なお、上述では、他の2つの温度センサSTj,STkのそれぞれの測定温度Tjd,Tkdに基づいて演算した係数α,βを温度推定式(式(1))に適用して当該温度推定式を更新する構成としたが、他の2つの温度センサSTj,STkの測定温度Tjd,Tkdの平均値(Tjd+Tkd)/2に基づいて演算した係数α,βを温度推定式(式(1))に適用して当該温度推定式を更新する構成としてもよい。また、一つの温度センサSTiの測定温度Tipに基づいて演算した係数α,βを温度推定式(式(1))に適用して当該温度推定式を更新する構成としてもよい。
【0057】
加工制御部55は、異常判定部52からの判定結果が正常のときは、数値制御データに記述された回転工具31の位置指令を、記憶部57に記憶されている各温度センサSTi,STj,STk・・・の測定温度Tid,Tjd,Tkd・・・に基づいて熱変位補正する。そして、回転工具31の補正位置指令に基づいて、コラム10、サドル20、回転主軸およびテーブル40の各軸モータ等を駆動制御する。
【0058】
また、加工制御部55は、異常判定部52からの判定結果が一つの温度センサSTiの異常のときは、数値制御データに記述された回転工具31の位置指令を、当該判定直前に更新された温度推定式(式(1))による一つの温度センサSTiの推定温度Tipと、記憶部57に記憶されている他の温度センサSTj,STk・・・の測定温度Tjd,Tkd・・・とに基づいて熱変位補正する。そして、回転工具31の補正位置指令に基づいて、コラム10、サドル20、回転主軸およびテーブル40の各軸モータ等を駆動制御する。
【0059】
その後、一つの温度センサSTiの推定温度Tipの変化率γiが変化したときは、その変化に該当する係数パターンにより更新して記憶されている温度推定式(式(1))による一つの温度センサSTiの推定温度Tipと、記憶部57に記憶されている他の温度センサSTj,STk・・・の測定温度Tjd,Tkd・・・とに基づいて熱変位補正する。そして、回転工具31の補正位置指令に基づいて、コラム10、サドル20、回転主軸およびテーブル40の各軸モータ等を駆動制御する。
警告部56は、異常判定部52からの判定結果が異常であった温度センサSTiを作業者に認知させるために、当該温度センサSTiを特定するための表示や音声等で警告する。
【0060】
記憶部57には、各温度センサSTi,STj,STk・・・からの検出信号による測定温度Tid,Tjd,Tkd・・・、各温度センサSTi,STj,STk・・・の演算による推定温度Tip,Tjp,Tkp・・・、各温度センサSTi,STj,STk・・・からの検出信号を入力するときの所定のサンプリング時間、一つの温度センサSTiに対する他の二つの温度センサSTj,STkとの組み合わせが記憶されている。
【0061】
さらに、一つの温度センサSTiの推定温度Tipを演算するための係数パターン毎の温度推定式(式(1))、一つの温度センサSTiの一定時間当たりの測定温度Tidの変化率γiを演算するための演算式(式(2))、この変化率γiを演算するときの所定の更新用測定時間、温度センサSTiの一定時間当たりの測定温度Tidの変化率γiに基づく係数α,βを表す係数パターン(式(3)〜(8))、温度推定式(式(1))を最適化するための最小二乗法の式(式(9))が記憶されている。
【0062】
さらに、二つの温度センサSTj,STkの一定時間当たりの測定温度Tjd,Tkdの変化率γj,γkを演算するための演算式(式(10)、(11))、これらの変化率γj,γkを演算するときの所定の更新用測定時間、温度センサSTj,STkの一定時間当たりの測定温度Tjd,Tkdの変化率γj,γkに基づく係数α,βを表す係数パターン(式(12)〜(17))、温度推定式(式(1))を最適化するための最小二乗法の式(式(18))等が記憶されている。
【0063】
(数値制御装置の動作)
以上のような構成の数値制御装置50の異常判定処理動作、温度推定式更新処理動作および異常後の推定温度の算出処理動作を
図3〜
図5のフローチャートを参照して説明する。なお、説明の便宜上、一つの温度センサSTiおよび当該温度センサSTiと組み合わされた二つの温度センサSTj,STkについて説明する。
【0064】
先ず、異常判定処理について
図3を参照して説明する。
図3に示すように、各温度センサSTi,STj,STkにより温度を測定する(ステップS1)。具体的には、センサ信号入力部51は、記憶部57からサンプリング時間を読み出し、このサンプリング時間毎に各温度センサSTi,STj,STkから検出信号を入力し、各測定温度Tid,Tjd,Tkdと時間tとを関連付けて温度変化率として記憶部57に記憶する。
【0065】
そして、
図3に示すように、温度推定式(式(1))に基づいて、温度センサSTiの推定温度Tipを演算する(ステップS2)。具体的には、推定温度演算部53は、記憶部57から一つの温度センサSTiに対応する二つの温度センサSTj,STkの測定温度Tjd,Tkdを読み出し、読み出した二つの温度センサSTj,STkの測定温度Tjd,Tkdを、直前に更新した温度推定式(式(1))に代入して一つの温度センサSTiの推定温度Tipを求める。
【0066】
次に、
図3に示すように、一つの温度センサSTiに異常が発生したか否かを判定する(ステップS3)。具体的には、異常判定部52は、一つの温度センサSTiの測定温度Tidが推定温度Tipの許容誤差ΔTの範囲内(Tip−ΔT≧Tid≧Tip+ΔT)で変動しているか否かを判定する。一つの温度センサSTiの測定温度Tidが推定温度Tipの許容誤差ΔTの範囲内で変動しているときは、当該温度センサSTiに異常は発生せず、当該温度センサSTiは正常であると判定する(ステップS4)。
【0067】
一方、ステップS3において、異常判定部52は、一つの温度センサSTiの測定温度Tidが推定温度Tipの許容誤差ΔTの範囲を超えて変動しているときは、当該温度センサSTiに異常が発生したと判定する(ステップS5)。そして、
図3に示すように、一つの温度センサSTiが故障していることを警告する(ステップS6)。具体的には、警告部56は、異常が発生した温度センサSTiを作業者に認知させるために、当該温度センサSTiを特定するための表示や音声等で警告する。
【0068】
次に、温度推定式更新処理について
図4を参照して説明する。
図4に示すように、一つの温度センサSTiが正常であった場合、各温度センサSTi,STj,STkの測定温度Tid,Tjd,Tkdに基づいて加工制御する(ステップS11)。具体的には、加工制御部55は、記憶部57から各温度センサSTi,STj,STkの測定温度Tid,Tjd,Tkdを読み出し、数値制御データに記述された回転工具31の位置指令を、読み出した各温度センサSTi,STj,STkの測定温度Tid,Tjd,Tkdに基づいて熱変位補正する。そして、回転工具31の補正位置指令に基づいて、コラム10、サドル20、回転主軸およびテーブル40の各軸モータ等を駆動制御する。
【0069】
そして、
図4に示すように、一つの温度センサSTiの一定時間当たりの測定温度Tidの変化率γiを演算する(ステップS12)。具体的には、温度変化率演算部61は、記憶部57からサンプリング時間t1〜t2における一つの温度センサSTiの測定温度Tidを読み出し、一定時間当たりの測定温度Tidの変化率γiを演算式(式(2))で求める。
【0070】
次に、
図4に示すように、求めた一つの温度センサSTiの一定時間当たりの測定温度Tidの変化率γiに基づいて、温度推定式(式(1))で用いる係数α,βを表す係数パターンを決定する(ステップS13)。具体的には、パターン決定部62は、一つの温度センサSTiの変化率γiが、一定の変化率γa以上で上昇するか、一定の変化率−γb以下で下降するか、一定の上昇変化率γaと下降変化率−γbの間で経時変化するかを判断し、当該判断結果に従って記憶部57から上昇係数パターンである式(3)、(4)、又は下降係数パターンである式(5)、(6)、又は定常係数パターンである式(7)、(8)を決定して読み出す。
【0071】
次に、
図4に示すように、決定した係数パターンに基づいて、温度推定式(式(1))を最適化する(ステップS14)。具体的には、最適化演算部63は、決定した上昇係数パターン、下降係数パターン又は定常係数パターンを最小二乗法の式(式(9))に適用し、最小二乗法の式(式(9))を最小化する係数α,βを求める。
【0072】
次に、
図4に示すように、求めた係数α,βに基づいて、温度推定式(式(1))を更新する(ステップS15)。具体的には、更新部64は、記憶部57に記憶されている上昇係数パターン、下降係数パターンおよび定常係数パターンの各温度推定式(式(1))のうち、今回決定した係数パターンに該当する温度推定式(式(1))に、求めた係数α,βを適用して当該温度推定式(式(1))を更新する。
そして、
図4に示すように、加工制御を継続するか否かを判断し(ステップS16)、加工制御を継続する場合はステップS11に戻って上述の処理を繰り返し、加工制御を継続しない場合は全ての処理を終了する。
【0073】
次に、異常後の推定温度の算出処理について
図5を参照して説明する。
図5に示すように、一つの温度センサSTiが異常であった場合、二つの温度センサSTj,STkの測定温度Tjd,Tkdおよび温度推定式(式(1))に基づいて、異常が発生した温度センサSTiの推定温度Tipを演算する(ステップS21)。
【0074】
具体的には、推定温度演算部53は、記憶部57から一つの温度センサSTiに対応する二つの温度センサSTj,STkの測定温度Tjd,Tkdを読み出し、読み出した二つの温度センサSTj,STkの測定温度Tjd,Tkdを温度推定式(式(1))に代入して一つの温度センサSTiの推定温度Tipを求める。温度推定式(式(1))は、最初は一つの温度センサSTiが異常となった直前に更新された式を用い、その後は二つの温度センサSTj,STkの測定温度Tjd,Tkdの変化率γj,γkにより決定した係数パターンに対応する式を用いる。
【0075】
そして、
図5に示すように、ステップS11の処理と同様の処理により、一つの温度センサSTiの推定温度Tipおよび二つの温度センサSTj,STkの測定温度Tjd,Tkdに基づいて数値制御データに記述された回転工具31の位置指令を熱変位補正し工作物Wの加工を制御する(ステップS22)。
そして、
図5に示すように、ステップS12の処理と同様の処理により、二つの温度センサSTj,STkの測定温度Tjd,Tkdの変化率γj,γkを演算する(ステップS23)。
【0076】
次に、
図5に示すように、求めた二つの温度センサSTj,STkの測定温度Tjd,Tkdの変化率γj,γkに基づいて、記憶部57から温度推定式(式(1))を選択する(ステップS24)。すなわち、記憶部57には、上昇係数パターン、下降係数パターン、定常係数パターンの各式(3)〜(8)が記憶されているので、異常後は求めた温度変化率に応じた係数パターンの式を選択する。
そして、
図5に示すように、加工制御を継続するか否かを判断し(ステップS25)、加工制御を継続する場合はステップS21に戻って上述の処理を繰り返し、加工制御を継続しない場合は全ての処理を終了する。
【0077】
以上のように、本実施形態によれば、一つの温度センサSTiの推定温度Tipは、他の二つの温度センサSTj,STkの測定温度Tjd,Tkdに基づいて演算されるので、一つの温度センサSTiの故障等による異常を検知した場合でも、熱変位に基づく工作機械1の各駆動軸の位置の補正を行うことができる。よって、工作物Wの高精度な加工を継続することができ、工作物Wの加工精度の悪化および生産性の低下を防止することができる。
【0078】
(その他)
なお、上述の実施形態では、温度推定式で用いる係数α,βを表す係数パターンは、温度センサの変化率の関数としたが、温度センサの変化率が、一定の変化率γa以上で上昇するときは、定数であるαup,βupとし、一定の変化率γb以上で下降するときは、αdown,βdownとし、上記二つ以外のときは、定数であるαc,βcとしてもよい。また、温度センサの変化率に依存しない定数α,βとしてもよい。
【0079】
また、一つの温度センサSTiが測定可能な箇所の温度を、他の二つの温度センサSTj,STkの測定温度に基づいて、推定温度として演算したが、三つ以上の温度センサの測定温度に基づいて、推定温度として演算するようにしてもよい。
また、工作機械1は、3軸マシニングセンタを例に挙げて説明した。これに対して、工作機械1は、例えば、さらに回転軸(A,B軸)を有する5軸マシニングセンタとしてもよい。このような構成においても同様の効果を奏する。