特許第6299186号(P6299186)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6299186熱音響機関用熱交換モジュールおよび熱音響機関
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6299186
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】熱音響機関用熱交換モジュールおよび熱音響機関
(51)【国際特許分類】
   F25B 9/00 20060101AFI20180319BHJP
【FI】
   F25B9/00 Z
   F25B9/00 D
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-247440(P2013-247440)
(22)【出願日】2013年11月29日
(65)【公開番号】特開2015-105775(P2015-105775A)
(43)【公開日】2015年6月8日
【審査請求日】2016年10月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】阿部 誠
(72)【発明者】
【氏名】山本 康
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 博文
【審査官】 鈴木 充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−145176(JP,A)
【文献】 特開2012−202586(JP,A)
【文献】 特開2004−028389(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0231341(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体を通す多数の貫通孔が形成された再生器と、
該再生器を挟むように設けられ、前記貫通孔の開口の大きさよりも大きい板厚のフィンを有する2つの熱交換器と、
を備えた熱音響機関用熱交換モジュールであって、
前記再生器と前記熱交換器とを隙間を介して離間して配置し、
前記貫通孔と同じ断面積の正方形の一辺の長さをdとし、前記再生器の長さをLとしたとき、前記再生器と前記熱交換器間の距離が、d/3以上L/10以下である
ことを特徴とする熱音響機関用熱交換モジュール。
【請求項2】
原動機または受動機として、請求項1記載の熱音響機関用熱交換モジュールを用いた
ことを特徴とする熱音響機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱音響機関用熱交換モジュールおよび熱音響機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃熱からエネルギーを取り出すためにスターリングエンジンの開発研究が活発に行われている。スターリングエンジンの形式には、α型、β型、γ型、フリーピストン型などがある。これに対し、最近では、ピストン等の可動部を有さない熱音響機関の開発研究が活発に行われるようになってきている。
【0003】
熱音響機関は、管と熱源で構成される。管内の気柱を局部的に加熱又は冷却すると、熱エネルギーの一部が力学的エネルギーに変換され、気柱が自励振動を起こす。すなわち、管内に音響振動が発生する。この作用は、熱力学的には、プライムムーバ(原動機)と見ることができる。この作用を用いたものが熱音響機関である。この熱音響機関に、気柱の振動、すなわち音響エネルギーを熱エネルギーに変換する受動機(冷凍機、冷却器)を組み込むと、冷凍装置(冷却装置)が構成される。
【0004】
図3(a),(b)に示すように、熱音響機関の原動機または受動機として用いられる従来の熱音響機関用熱交換モジュール31は、作動流体を通す多数の貫通孔33が形成された再生器32と、該再生器32を挟むように設けられる2つの熱交換器34,35と、を備えている。
【0005】
再生器32は、管内に縦横に多数の仕切り板を設けることで多数の貫通孔33を形成した構造となっている。再生器32では、貫通孔33を小さくするほど、流動損失が小さくなり、原動機または受動機としての性能が高くなることが知られている。
【0006】
熱交換器34,35としては、内部にフィン36を形成したものが一般に用いられている。熱交換器34,35では、熱を伝わり易くし、かつ、再生器32での作動流体の往復流を阻害しないように、板厚の厚いフィン36を十分広い間隔で配置している。
【0007】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、特許文献1〜3がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平05−086978号公報
【特許文献2】特開2012−229802号公報
【特許文献3】特開平07−293224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の従来の熱音響機関用熱交換モジュール31では、板厚の厚いフィン36により、再生器32の貫通孔33の一部が塞がれてしまうという問題があった。その結果、再生器32として機能しない領域が発生してしまい、原動機または受動機としての性能が悪化してしまうという問題が生じていた。
【0010】
この問題を解決する方法として、特許文献1〜3に記載されるように、再生器32と熱交換器34,35とを離間して配置する方法が考えられる。
【0011】
しかし、再生器32と熱交換器34,35とを離間させる距離については、これまで検討されていなかった。再生器32と熱交換器34,35とを離間させる距離が適切でないと、原動機または受動機として所期の性能が得られない場合があり、問題である。
【0012】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、原動機または受動機として十分な性能を得ることが可能な熱音響機関用熱交換モジュールおよび熱音響機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は作動流体を通す多数の貫通孔が形成された再生器と、該再生器を挟むように設けられ、前記貫通孔の開口の大きさよりも大きい板厚のフィンを有する2つの熱交換器と、を備えた熱音響機関用熱交換モジュールであって、前記再生器と前記熱交換器とを隙間を介して離間して配置し、前記貫通孔と同じ断面積の正方形の一辺の長さをdとし、前記再生器の長さをLとしたとき、前記再生器と前記熱交換器間の距離が、d/3以上L/10以下である熱音響機関用熱交換モジュールを提供する
【0014】
また、本発明は、原動機または受動機として、前記熱音響機関用熱交換モジュールを用いた熱音響機関を提供する
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、原動機または受動機として十分な性能を得ることが可能な熱音響機関用熱交換モジュールおよび熱音響機関を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る熱音響機関用熱交換モジュールを示す図であり、(a)は分解斜視図、(b)は断面図である。
図2】再生器と熱交換器間の距離Lsに対する熱音響機関効率の関係を示すグラフ図である。
図3】従来の熱音響機関用熱交換モジュールを示す図であり、(a)は分解斜視図、(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を添付図面にしたがって説明する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る熱音響機関用熱交換モジュールを示す図であり、(a)は分解斜視図、(b)は断面図である。
【0019】
図1(a),(b)に示すように、熱音響機関用熱交換モジュール1は、作動流体を通す多数の貫通孔3が形成された再生器2と、再生器2を挟むように設けられる2つの熱交換器4,5と、を備えている。
【0020】
再生器2は、管内に縦横に多数の仕切り板を設けることで多数の貫通孔3を形成した構造となっている。
【0021】
熱交換器4,5は、作動流体に熱を伝わり易くし、かつ、再生器2での作動流体の往復流を阻害しないように、板厚の厚いフィン6を十分広い間隔で配置して構成されている。
【0022】
熱音響機関用熱交換モジュール1は、熱音響機関にて原動機または受動機として用いられるものである。一方の熱交換器4に高温の熱媒体である高温源を供給し、他方の熱交換器5に低温の熱媒体である低温源を供給して作動流体と熱交換させることで、音響振動を発生する原動機となる。また、原動機を設けた作動流体の流路に原動機が発生した音響振動を受けるように配置し、例えば一方の熱交換器4に大気を高温源として導入することで、他方の熱交換器5にて大気より低温の冷熱出力を取り出す受動機(冷凍機、冷却器)となる。
【0023】
さて、本実施形態に係る熱音響機関用熱交換モジュール1は、再生器2と熱交換器4,5とを離間して配置しており、かつ、再生器2の貫通孔3と同じ断面積の正方形の一辺の長さをdとし、再生器2の長さ(貫通孔3の長さ)をLとしたとき、再生器2と熱交換器4,5間の距離Lsを、d/3以上L/10以下としている。
【0024】
換言すれば、熱音響機関用熱交換モジュール1では、熱交換器4,5を再生器2に接触させず、隙間8を介して配置しており、その隙間8の管軸方向に沿った長さLsを、再生器2の貫通孔3と同じ断面積の正方形の一辺の長さdの1/3倍以上、かつ、再生器2の長さLの1/10倍以下としている。
【0025】
ここでは、再生器2と熱交換器4,5間に、再生器2および熱交換器4,5と別体に形成されたスペーサ(短い管)7を介在させることで隙間8を形成しているが、スペーサ7は、再生器2または熱交換器4,5と一体に形成されていてもよい。
【0026】
本発明者は、再生器2と熱交換器4,5間の最適な距離Lsを見出すべく、距離Lsを0からL/5まで変化させた熱音響機関用熱交換モジュールを複数作成し、作成した熱音響機関用熱交換モジュールを原動機として用いたときの熱音響機関効率を求めた。結果を図2に示す。なお、熱音響機関効率とは、入力したエネルギーに対する出力エネルギーの割合である。
【0027】
図2に示すように、再生器2と熱交換器4,5間の距離Lsがd/3未満になると、熱音響機関効率は急激に低下する。これは、再生器2と熱交換器4,5が接近し過ぎると、フィン6により作動流体の往復流が阻害され再生器2として機能しない領域が発生するためと考えられる。
【0028】
また、再生器2と熱交換器4,5間の距離Lsがd/3以上の領域では、距離Lsが大きくなるほど熱音響機関効率が低下しており、距離LsがL/10を超えると、熱音響機関効率の低下率も上昇していることが分かる。これは、再生器2と熱交換器4,5が離れ過ぎると、再生器2で往復運動をする作動流体は動く距離が限られているために、再生器2内に熱交換器4,5からの熱が伝わり難くなり、熱エネルギーを音響エネルギーに変換する効率(あるいは熱エネルギーを音響エネルギーに変換する効率)が低下してしまうためと考えられる。実用が可能な熱音響機関効率を得るためには、再生器2と熱交換器4,5間の距離LsをL/10以下とする必要がある。
【0029】
以上説明したように、本実施形態に係る熱音響機関用熱交換モジュール1では、再生器2と熱交換器4,5とを離間して配置し、再生器2と熱交換器4,5間の距離Lsをd/3以上L/10以下としている。
【0030】
このように構成することで、フィン6の影響により再生器2として機能しない領域が発生することを抑制すると同時に、再生器2内に熱交換器4,5からの熱を伝わり易くすることが可能となり、原動機あるいは受動機として使用した際の出力を向上させることが可能になる。
【0031】
つまり、本発明によれば、原動機または受動機として十分な性能を得ることが可能な熱音響機関用熱交換モジュール1を実現できる。
【0032】
本実施形態に係る熱音響機関は、本実施形態に係る熱音響機関用熱交換モジュール1を原動機または受動機として用いたものである。熱音響機関用熱交換モジュール1は、原動機または受動機として十分な性能を得ることが可能であるから、効率の高い熱音響機関を実現できることになる。
【0033】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0034】
例えば、上記実施形態ではフィン6を用いた熱交換器4,5を用いた場合を説明したが、これに限定されるものではなく、本発明は、例えば、フィン6を省略し熱媒体を通す流路を管内に形成したタイプの熱交換器4,5にも適用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 熱音響機関用熱交換モジュール
2 再生器
3 貫通孔
4,5 熱交換器
6 フィン
図1
図2
図3