特許第6299235号(P6299235)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許62992359,10−ビス(長鎖アシルオキシ)アントラセン化合物、その製造法及びその用途
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  • 特許6299235-9,10−ビス(長鎖アシルオキシ)アントラセン化合物、その製造法及びその用途 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6299235
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】9,10−ビス(長鎖アシルオキシ)アントラセン化合物、その製造法及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/28 20060101AFI20180319BHJP
   C08F 2/50 20060101ALI20180319BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20180319BHJP
   C07C 67/14 20060101ALN20180319BHJP
【FI】
   C07C69/28
   C08F2/50
   C09K3/00 T
   !C07C67/14
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-10714(P2014-10714)
(22)【出願日】2014年1月23日
(65)【公開番号】特開2014-159412(P2014-159412A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2017年1月17日
(31)【優先権主張番号】特願2013-11749(P2013-11749)
(32)【優先日】2013年1月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000199795
【氏名又は名称】川崎化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152928
【弁理士】
【氏名又は名称】草部 光司
(72)【発明者】
【氏名】沼田 繁明
(72)【発明者】
【氏名】横山 修司
【審査官】 伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−261616(JP,A)
【文献】 特開2001−348497(JP,A)
【文献】 特開2007−204438(JP,A)
【文献】 特開平10−147608(JP,A)
【文献】 特開2000−007716(JP,A)
【文献】 特開2007−310057(JP,A)
【文献】 特開2007−099637(JP,A)
【文献】 BENDER, D. et al.,Polymer Bulletin,1989年,Vol. 22,pp. 137-141
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C08F
C09K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示される9,10−ビス(長鎖アシルオキシ)アントラセン化合物を含有する光カチオン重合増感剤
【化1】


(一般式(1)において、Rは、炭素数5〜10のアルキル基を示し、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。)
【請求項2】
請求項に記載の光カチオン重合増感剤、光カチオン重合開始剤及び光カチオン重合性化合物を含む光カチオン重合性組成物。
【請求項3】
光カチオン重合開始剤がアリールヨードニウム塩又はアリールスルホウム塩である請求項に記載の光カチオン重合性組成物。
【請求項4】
請求項又は請求項に記載の光カチオン重合性組成物に波長範囲350nm〜420nmに含まれる光線を照射することを特徴とする光カチオン重合性組成物の硬化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光カチオン重合増感剤として有用な9,10−ビス(長鎖アシルオキシ)アントラセン化合物、その用途及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線等の光線により重合する光カチオン重合性組成物が広くさまざまな用途で使用されている。この光カチオン重合性組成物としては、ラジカル重合型とカチオン重合型とがある。ラジカル重合型としては、(メタ)アクリルロイル基を有する化合物、不飽和ポリエステル系化合物等の不飽和二重結合を有する化合物が知られており、カチオン重合型としては、エポキシ基を有する化合物、ビニルエーテル基を有する化合物等が知られている。そして、これらの化合物は、適当な光重合開始剤及び必要に応じ光重合増感剤と共に使用される。一般に、ラジカル重合型は、重合速度が速く、生成する塗膜硬度が高いという特徴を持つが、基材との密着性が弱いという欠点がある。また、酸素の影響を受けやすく、特に薄膜の生成においては窒素封入などの設備が必要となる。一方、カチオン重合型は、基材との密着性が高く、可とう性に優れており、酸素による影響を受けにくいという特徴を有する。そのため、電子材料分野において光カチオン重合性組成物が用いられている。
【0003】
この光カチオン重合には、通常光カチオン重合開始剤が使用される。当該光カチオン重合開始剤としてはオニウム塩が知られており、特にアリールヨードニウム塩やアリールスルホニウム塩が用いられている。この光カチオン重合開始剤は、紫外線等の光を吸収して励起し、その励起種が分解して、酸を発生する化合物である。
【0004】
しかし、アリールヨードニウム塩はその吸収波長が250nm近辺と低く、高圧水銀ランプ等の紫外線により十分励起することができないために高圧水銀ランプ等で重合させるときは、高圧水銀ランプ等の照射波長である360〜400nm近辺に吸収のある9,10−ジアルコキシアントラセン等を光カチオン重合増感剤として添加する必要がある(特許文献1、2、3)。
【0005】
一方、アリールスルホニウム塩は、高圧水銀ランプ等の光の波長である366nm付近に吸収を持つため、高圧水銀ランプ等を照射することにより酸を発生し、光カチオン重合性化合物を重合させることができる。そのため特に光カチオン重合増感剤の必要性は感じられてこなかった。
【0006】
しかし、近年になり、366nmよりも更に長波長の紫外LEDが開発され、このLEDは発熱が少なく長寿命であることから徐々にこの紫外LEDを光源として使用する傾向にある。この場合にはヨードニウム塩及びスルホニウム塩のいずれも単独では励起できないためやはり光カチオン重合増感剤、たとえば9,10−ジアルコキシアントラセン等を使用しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−147608号公報
【特許文献2】特開2001−348497号公報
【特許文献3】特表2000−515182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記述べた9,10−ジアルコキシアントラセン化合物は増感剤として使用し光硬化させた場合、フィルムの透過度が低く厚膜分野ではその透明性に問題があった。すなわち、本発明の課題は、光カチオン重合増感剤として有用であるとともに、当該光カチオン重合増感剤を含む光カチオン重合性組成物を重合させたとき得られる硬化物の透過度が高いアントラセン化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、アントラセン化合物の構造と光吸収特性について鋭意検討した結果、9,10−ビス(長鎖アシルオキシ)アントラセン化合物が優れた光カチオン増感性能を持つとともに、当該光カチオン重合増感剤を含む光カチオン重合性組成物の硬化物の透過度が高いことを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、以下に記載の骨子を要旨とするものである。
【0011】
(発明1)一般式(1)で示される9,10−ビス(長鎖アシルオキシ)アントラセン化合物を提供する。
【0012】
【化1】
【0013】
一般式(1)において、Rは、炭素数5〜12のアルキル基を示し、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。
【0014】
(発明2)一般式(2)で示される9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物をアシル化することを特徴とする発明1に記載の9,10−ビス(長鎖アシルオキシ)アントラセン化合物の製造法を提供する。
【0015】
【化2】
【0016】
一般式(2)において、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。
【0017】
(発明3)発明1に記載の9,10−ビス(長鎖アシルオキシ)アントラセン化合物を含有する光カチオン重合増感剤を提供する。
【0018】
(発明4)発明3に記載の光カチオン重合増感剤、光カチオン重合開始剤及び光カチオン重合性化合物を含む光カチオン重合性組成物を提供する。
【0019】
(発明5)光カチオン重合開始剤がアリールヨードニウム塩又はアリールスルホ二ウム塩である発明4に記載の光カチオン重合性組成物を提供する。
【0020】
(発明6)発明4又は発明5に記載の光カチオン重合性組成物に波長範囲350nm〜420nmの光を含むエネルギー線を照射することを特徴とする光カチオン重合性組成物の硬化方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の9,10−ビス(長鎖アシルオキシ)アントラセン化合物は、9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物をアシル化することにより工業的に容易に得ることができ、光カチオン重合の増感剤として有用であるとともに、9,10−ビス(長鎖アシルオキシ)アントラセン化合物を光カチオン重合増感剤として含有する光カチオン重合性組成物及びそれを光硬化させた硬化物は無色透明である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例9,10及び比較例5において所定時間ごとに測定された400nmにおける透過度をプロットしたグラフである。本発明の光カチオン重合増感剤である9,10−ビス(2−エチルヘキサノイルオキシ)アントラセン、9,10−ビス(n−ノナノイルオキシ)アントラセンと公知の光カチオン重合増感剤である9,10−ジブトキシアントラセンを用いた時の光カチオン重合性組成物の硬化物の透明度を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の9,10−ビス(長鎖アシルオキシ)アントラセン化合物は、一般式(1)に記載の構造を示す化合物である。
【0024】
【化3】
【0025】
一般式(1)において、Rは炭素数5〜12のアルキル基を示し、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。
【0026】
一般式(1)中、Rで表される炭素数5〜12のアルキル基としては、n−ペンチル基、i−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、1−エチルペンチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基等が挙げられる。
【0027】
一般式(1)中、X及びYで表わされる炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。
【0028】
一般式(1)で表される9,10−ビス(長鎖アシルオキシ)アントラセン化合物の例としては、次の化合物が挙げられる。
【0029】
すなわち、X、Yがともに水素原子である場合は、9,10−ビス(n−ペンタノイルオキシ)アントラセン、9,10−ビス(n−ヘキサノイルオキシ)アントラセン、9,10−ビス(n−ヘプタノイルオキシ)アントラセン、9,10−ビス(n−オクタノイルオキシ)アントラセン、9,10−ビス(2−エチルヘキサノイルオキシ)アントラセン、9,10−ビス(n−ノナノイルオキシ)アントラセン、9,10−ビス(n−デカノイルオキシ)アントラセン、9,10−ビス(n−ドデカノイルオキシ)アントラセン等が挙げられる。
【0030】
Xがアルキル基であり、Yが水素原子である場合の例としては、1−メチル−9,10−ビス(n−ヘキサノイルオキシ)アントラセン、1−メチル−9,10−ビス(n−ヘプタノイルオキシ)アントラセン、1−メチル−9,10−ビス(n−オクタノイルオキシ)アントラセン、1−メチル−9,10−ビス(2−エチルヘキサノイルオキシ)アントラセン、1−メチル−9,10−ビス(n−ノナノイルオキシ)アントラセン、1−メチル−9,10−ビス(n−デカノイルオキシ)アントラセン、1−メチル−9,10−ビス(n−ドデカノイルオキシ)アントラセン、2−メチル−9,10−ビス(n−ヘキサノイルオキシ)アントラセン、2−メチル−9,10−ビス(n−ヘプタノイルオキシ)アントラセン、2−メチル−9,10−ビス(n−オクタノイルオキシ)アントラセン、2−メチル−9,10−ビス(2−エチルヘキサノイルオキシ)アントラセン、2−メチル−9,10−ビス(n−ノナノイルオキシ)アントラセン、2−メチル−9,10−ビス(n−デカノイルオキシ)アントラセン、2−メチル−9,10−ビス(n−ドデカノイルオキシ)アントラセン、、1−エチル−9,10−ビス(n−ヘキサノイルオキシ)アントラセン、1−エチル−9,10−ビス(n−ヘプタノイルオキシ)アントラセン、1−エチル−9,10−ビス(n−オクタノイルオキシ)アントラセン、1−エチル−9,10−ビス(2−エチルヘキサノイルオキシ)アントラセン、1−エチル−9,10−ビス(n−ノナノイルオキシ)アントラセン、1−エチル−9,10−ビス(n−デカノイルオキシ)アントラセン、1−エチル−9,10−ビス(n−ドデカノイルオキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ビス(n−ヘキサノイルオキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ビス(n−ヘプタノイルオキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ビス(n−オクタノイルオキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ビス(2−エチルヘキサノイルオキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ビス(n−ノナノイルオキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ビス(n−デカノイルオキシ)アントラセン、2−エチル−9,10−ビス(n−ドデカノイルオキシ)アントラセン等が挙げられる。
【0031】
また、X、Yがともにアルキル基である場合の例としては、2,3−ジメチル−9,10−ビス(n−ヘキサノイルオキシ)アントラセン、2,3−ジメチル−9,10−ビス(n−ヘプタノイルオキシ)アントラセン、2,3−ジメチル−9,10−ビス(n−オクタノイルオキシ)アントラセン、2,3−ジメチル−9,10−ビス(2−エチルヘキサノイルオキシ)アントラセン、2,3−ジメチル−9,10−ビス(n−ノナノイルオキシ)アントラセン、2,3−ジメチル−9,10−ビス(n−デカノイルオキシ)アントラセン、2,3−ジメチル−9,10−ビス(n−ドデカノイルオキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9,10−ビス(n−ヘキサノイルオキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9,10−ビス(n−ヘプタノイルオキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9,10−ビス(n−オクタノイルオキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9,10−ビス(2−エチルヘキサノイルオキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9,10−ビス(n−ノナノイルオキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9,10−ビス(n−デカノイルオキシ)アントラセン、2,6−ジメチル−9,10−ビス(n−ドデカノイルオキシ)アントラセン、2,7−ジメチル−9,10−ビス(n−ヘキサノイルオキシ)アントラセン、2,7−ジメチル−9,10−ビス(n−ヘプタノイルオキシ)アントラセン、2,7−ジメチル−9,10−ビス(n−オクタノイルオキシ)アントラセン、2,7−ジメチル−9,10−ビス(2−エチルヘキサノイルオキシ)アントラセン、2,7−ジメチル−9,10−ビス(n−ノナノイルオキシ)アントラセン、2,7−ジメチル−9,10−ビス(n−デカノイルオキシ)アントラセン、2,7−ジメチル−9,10−ビス(n−ドデカノイルオキシ)アントラセン等が挙げられる。
【0032】
以上述べた9,10−ビス(長鎖アシルオキシ)アントラセン化合物の具体例の中でも、特に、合成の容易さと性能の高さから、9,10−ビス(n−ヘキサノイルオキシ)アントラセン、9,10−ビス(n−ヘプタノイルオキシ)アントラセン、9,10−ビス(n−オクタノイルオキシ)アントラセン、9,10−ビス(2−エチルヘキサノイルオキシ)アントラセン、9,10−ビス(n−ノナノイルオキシ)アントラセンが好ましい。
【0033】
(製造法)
本発明の9,10−ビス(長鎖アシルオキシ)アントラセン化合物は、一般式(2)で示される9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物をアシル化することにより製造することができる。
【0034】
【化4】
【0035】
一般式(2)において、X及びYは同一であっても異なっていてもよく、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。
【0036】
一般式(2)中、X及びYで表わされる炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。
【0037】
すなわち、下記反応式1に記載したように、対応する9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物を塩基化合物の存在下もしくは非存在下、長鎖アシル化剤と反応させることにより製造できる。
【0038】
【化5】
【0039】
反応式1において、Rは炭素数5〜12のアルキル基を示し、X、Yは同一であっても異なっていてもよく、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。
【0040】
反応式1において使用される9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物としては、9,10−ジヒドロキシアントラセン、1−メチル−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2−メチル−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2,6−ジメチル−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2,7−ジメチル−9,10−ジヒドロキシアントラセン、1,5−ジメチル−9,10−ジヒドロキシアントラセン、1−エチル−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2−エチル−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2,6−ジエチル−9,10−ジヒドロキシアントラセン、2,7−ジエチル−9,10−ジヒドロキシアントラセン、1,5−ジエチル−9,10−ジヒドロキシアントラセン等が挙げられる。
【0041】
次に、使用される長鎖アシル化剤としては、ハロゲン化アシルが用いられる。ハロゲン化アシルとしては、塩化n−ヘキサノイル、塩化n−ヘプタノイル、塩化n−オクタノイル、塩化2−エチルヘキサノイル、塩化n−ノナノイル、塩化n−デカノイル、塩化n−ドデカノイル、臭化n−ヘキサノイル、臭化n−ヘプタノイル、臭化n−オクタノイル、臭化2−エチルヘキサノイル、臭化n−ノナノイル、臭化n−デカノイル、臭化n−ドデカノイル等が挙げられる。
【0042】
9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物に対する長鎖アシル化剤の添加モル比率は2.0以上、5.0以下、好ましくは2.2以上3.0以下が好ましい。2.0未満では9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物が未反応のままで残り、5.0を超えると生成した9,10−ビス(長鎖アシルオキシ)アントラセン化合物の反応液に対する溶解度が高くなり、反応生成物から結晶化しがたくなり収率が低下し、ともに好ましくない。
【0043】
塩基化合物の存在下に反応を実施する場合に用いられる塩基化合物は、通常、無機塩基である無機のアルカリ塩が用いられる。無機のアルカリ塩としては、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムが用いられる。有機塩基である、ピリジン、ピペリジン、トリエチルアミン等の使用も可能である。
【0044】
9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物と長鎖アシル化剤との反応においては、通常、溶媒を使用する。塩基化合物が有機塩基である場合は、溶媒としては、長鎖アシル化剤と反応しなければ特に種類を選ばない。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族系溶媒又は塩化メチレン、ジクロロエタン、ジクロロエチレン等のハロゲン系溶媒のような水非混和性溶媒、さらには、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒又はテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒のような水混和性溶媒を用いることが出来る。
【0045】
一方、塩基化合物が無機塩基である場合は、無機塩基は水に溶解させるので、長鎖アシル化剤を溶解させる溶媒としては長鎖アシル化剤の水による加水分解を避けるため水非混和性の溶媒が好ましい。水混和性の溶媒を使用する場合、長鎖アシル化剤が容易に加水分解され有機酸となるため、生成物の収率が大幅に低下し、好ましくない。水非混和性の溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、p−キシレン、クロロベンゼン、メチルナフタレン、テトラリン等の芳香族系溶媒、塩化メチレン、ジクロロエタン、ジクロロエチレン等のハロゲン系溶媒を使用することが出来る。
【0046】
溶媒の使用量は、水混和性の溶媒を用いる場合は、9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物を溶解し得る量であればよい。具体的には、水混和性溶媒に対する9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物の仕込濃度は、通常5wt%以上、30wt%未満である。一方、水非混和性の溶媒を用いる場合は、長鎖アシル化剤を溶解し得る量であれば良い。通常、水非混和性の溶媒に対する長鎖アシル化剤の濃度は5wt%以上、30wt%未満である。また、無機塩基を用いて9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物のアルカリ塩水溶液を調製する場合は、その濃度は通常5wt%以上20wt%未満である。
【0047】
無機塩基の水溶液中に9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物を溶解させ、長鎖アシル化剤を溶解した水非混和性溶媒を加えて反応させる場合は、相間移動触媒の使用が有効である。相間移動触媒としては、例えば、テトラメチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラプロピルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、トリオクチルメチルアンモニウムブロマイド、トリオクチルエチルアンモニウムブロマイド、トリオクチルプロピルアンモニウムブロマイド、トリオクチルブチルアンモニウムブロマイド、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウムブロマイド、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラプロピルアンモニウムクロライド、テトラフブチルアンモニウムクロライド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド、トリオクチルエチルアンモニウムクロライド、トリオクチルプロピルアンモニウムクロライド、トリオクチルブチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0048】
相間移動触媒の添加量としては、9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物に対して、好ましくは 0.01wt%以上、10wt%未満、より好ましくは、0.1wt%以上、1.0wt%未満である。0.01wt%未満であると、反応速度が遅く、また、10wt%以上だと生成物の純度が低下するので好ましくない。
【0049】
反応温度は、好ましくは0℃以上80℃未満、より好ましくは0℃以上20℃未満である。本反応は発熱反応であり、冷却が必要である。0℃未満では、溶媒の使用量にもよるが、9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物の溶媒に対する溶解度が低くなるため、9,10−ジヒドロキシアントラセン化合物がスラリー状態となり、反応速度が低下する。一方、80℃以上だと、副反応が進行し、目的物の純度が低下し、好ましくない。
【0050】
反応時間は、反応温度にもよるが、通常、15分以上3時間未満である。
【0051】
反応終了後、溶媒が水混和性の場合はメタノール等のアルコール系溶媒を加えて未反応の長鎖アシル化剤を中和した後、水を加えて生成物を結晶化させる。また、溶媒が水非混和性の場合は、沈殿した塩基化合物の塩酸塩を水を加えて溶解して二層とし、次いで分液した水非混和溶媒にメタノールを加えた後濃縮し、生成物を結晶化させる。析出した結晶を濾別・洗浄することにより、目的物を得ることができる。また、必要に応じて再結晶等により精製してもよい。
【0052】
得られた化合物の同定は、H−NMRスペクトル、IRスペクトルを用いて行い、9,10−ビス(長鎖アシルオキシ)アントラセン化合物であることを確認した。
【0053】
本発明の9,10−ビス(長鎖アシルオキシ)アントラセン化合物は光カチオン重合増感剤として有用である。本発明の9,10−ビス(長鎖アシルオキシ)アントラセン化合物を光カチオン重合増感剤として含有し、光カチオン重合開始剤、光カチオン重合性化合物からなる光カチオン重合性組成物は、波長範囲350nm〜420nmの光を含むエネルギー線を照射することにより容易に重合させることができる。
【0054】
(光カチオン重合開始剤)
本発明の光カチオン重合性組成物に用いる光カチオン重合開始剤としては通常スルホニウム塩またはヨードニウム塩が使用される。スルホニウム塩としては、アリールスルホニウム塩が好ましく、S,S,S’、S’−テトラフェニル−S,S’−(4、4’−チオジフェニル)ジスルホニウム ビスヘキサフルオロフォスフェート、ジフェニルー4−フェニルチオフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェートが挙げられ、例えばダウ・ケミカル製、商品名:UVI6992、サンアプロ社製 商品名:CPI−100P、ビー・エ−・エス・エフ社製 商品名:イルガキュア270(イルガキュアは、ビー・エー・エス・エフ社の登録商標)を用いることが出来る。一方、ヨードニウム塩としては、アリールヨードニウム塩が好ましく、4−イソブチルフェニル−4’−メチルフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、4−イソプロピルフェニルー4’−メチルフェニルヨードニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレートが挙げられ、例えばビー・エ−・エス・エフ社製、商品名:イルガキュア250,ローディア社製、商品名:ロードシル2074(ロードシルは、ローディア社の登録商標)を用いることが出来る。
【0055】
(光カチオン重合性化合物)
本発明に使用することができる光カチオン重合性化合物としてはエポキシ化合物、ビニルエーテル化合物が挙げられる。エポキシ化合物として一般的なものは脂環式エポキシ化合物、エポキシ変性シリコーン、芳香族グリシジル化合物である。脂環式エポキシ化合物としては3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダウ・ケミカル社製UVR6105、UVR6110、ダイセル社製セロキサイド2021P、セロキサイドは株式会社ダイセルの登録商標)、1,2−エポキ−4−ビニルシクロヘキサン(ダイセル社製セロキサイド2000)、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート等が挙げられ、この中でも、特に3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートを用いることが好ましい。芳香族グリシジル化合物としては2,2’−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)プロパンが挙げられる。ビニルエーテル化合物としてはメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。
【0056】
(光カチオン重合性組成物)
光カチオン重合性組成物の組成としては、光カチオン重合性化合物の100重量部に対し、光カチオン重合開始剤であるスルホニウム塩又はヨードニウム塩を0.1〜10.0重量部、好ましくは1.0〜5.0重量部の範囲で使用する。光カチオン重合性化合物に対する光カチオン重合開始剤の使用量が少なすぎると、光カチオン重合性組成物を光カチオン重合させたとき、重合速度が遅くなり、一方、光カチオン重合開始剤の使用量が多すぎると光カチオン重合性組成物を光重合させたときに得られる光重合物の物性が低下するおそれがあるため好ましくない。
【0057】
本発明の光カチオン重合増感剤である9,10−ビス(長鎖アシルオキシ)アントラセン化合物は、光カチオン重合開始剤の1重量部に対し、0.05〜2.0重量部、好ましくは0.1〜1.0重量部の範囲で使用する。光カチオン重合増感剤が少なすぎると、増感効果が発現し難くなる場合があり、一方、多すぎると光カチオン重合性組成物を光カチオン重合させたとき、重合物の物性が低下するおそれがあるため好ましくない。
【0058】
(添加剤)
本発明に係る光カチオン重合性組成物には、さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、希釈剤、着色剤、有機または無機の充填剤、レベリング剤、界面活性剤、消泡剤、増粘剤、難燃剤、酸化防止剤、安定剤、滑剤、可塑剤などの各種樹脂添加剤を、通常の使用範囲で配合することができる。
【0059】
本発明で用いられる希釈剤としては、エポキシ系希釈剤、オキセタン系希釈剤、ビニルエーテル系希釈剤等が挙げられる。エポキシ系希釈剤の例としては、例えば、フェニルグリシジルエーテル、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、1,2−ブチレンオキサイド、1,3−ブタジエンモノオキサイド、1,2−エポキシドデカン、エピクロロヒドリン、1,2−エポキシデカン、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、3−メタクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−アクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−ビニルシクロヘキセンオキサイド等が挙げられる。オキセタン系希釈剤の例としては、例えば、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−(メタ)アリルオキシメチル−3−エチルオキセタン、(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチルベンゼン等が挙げられる。ビニルエーテル系希釈剤の例としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。
【0060】
着色剤としては、青色顔料、赤色顔料、白色顔料、黒色顔料などが挙げられる。黒色顔料としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、アニリンブラックなどが挙げられる。黄色顔料としては、例えば、黄鉛、亜鉛黄、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、ミネラルファストイエロー、ニッケルチタンイエロー、ネーブルスイエロー、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、ハンザイエロー10G、ベンジジンイエローG、ベンジジンイエローGR、キノリンイエローレーキ、パーマネントイエローNCG、タートラジンレーキなどが挙げられる。赤色顔料としては、例えば、ベンガラ、カドミウムレッド、鉛丹、硫化水銀カドミウム、パーマネントレッド4R,リソールレッド、レーキレッドDブリリアントカーミン6B、エオシンレーキ、ローダミンレーキB、アリザリンレーキ、ブリリアントカーミン3Bなどが挙げられる。青色顔料としては、例えば、紺青、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニンブルー、無金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー部分塩化物、ファーストスカイブルー、インダスレンブルーBCなどが挙げられる。白色顔料としては、例えば、亜鉛華、酸化チタン、アンチモン白、硫化亜鉛などが挙げられる。その他の顔料としては、例えば、バライト粉、炭酸バリウム、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、タルク、アルミナホワイトなどが挙げられる。
【0061】
(重合方法)
当該光カチオン重合性組成物の重合はフィルム状で行うことも出来るし、塊状に硬化させることも可能である。フィルム状に重合させる場合は、当該光カチオン重合性組成物を液状にし、たとえばポリエステルフィルムなどの基材上に、たとえばバーコーターなどを用いて光カチオン重合性組成物を塗布したのちに、紫外線などの光線を照射して重合させる。
【0062】
(基材)
フィルム状に重合させる場合に用いられる基材としてはフィルム、紙、アルミ箔、金属等が主に用いられるが特に限定されない。基材としてのフィルムに用いられる素材としてはポリエステル、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリビニルアルコール(PVA)等が用いられる。具体的には例えばポリエステルフィルム(東レ(株)製ルミラー、ルミラーは東レ(株)の登録商標)を用いることが出来る。当該ポリエステルフィルムの膜厚は通常100μm未満の膜厚のものを使用する。ポリエステルフィルムの膜厚を調整するために使用するバーコーターは特に指定しないが、膜厚が1μm以上100μm未満に調整できるバーコーターを使用する。
【0063】
(光源)
このようにして調製した塗布膜に紫外線などの光線を照射することにより重合させることができる。用いられる光源としては、波長が350〜420nmの紫外線を含む光源を使用することが好ましい。具体的には高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、ガリウムドープドランプ、マイクロ波励起方式UVランプ(例えばフュージョン(株)製のHバルブ、Dバルブ、Vバルブ)、395nm紫外LEDランプ、375nm紫外LEDランプ、365nm紫外LEDランプ等が挙げられる。太陽光等の使用も可能である。特に、395nm紫外LEDが好ましい。395nm紫外LEDとしては、たとえば、Phoseonn社製395紫外LEDが挙げられる。
【0064】
(雰囲気)
本発明の光カチオン重合性組成物は、当該光カチオン重合性組成物の表面を開放した系でも表面を空気と遮断した系でも重合させることができる。例えば、フィルム状で重合させるときに、本発明の光カチオン重合性組成物を基材に塗布し、塗布面を開放したまま、紫外線などの光線を照射して重合させることもできれば、本発明の光カチオン重合性組成物を酸素不透過性基材に塗布し、その表面に酸素不透過性基材貼合した状態で紫外線などの光線を照射して重合させることもできる。
【0065】
光カチオン重合性組成物表面開放系の例としては、塗膜として使用に供する用途すなわち塗料、コーティング、インキ等を挙げることができる。具体的には自動車用塗料、木工コーティング、PVC床コーティング、窯業壁コーティング、建材用コーティング、樹脂ハードコート、メタライズベースコート、フィルムコーティング、液晶ディスプレイ(LCD)用コーティング、プラズマディスプレイ(PDP)用コーティング、光ディスク用コーティング、金属コーティング、光ファィバーコーティング、印刷インキ、平版インキ、金属缶インキ、スクリーン印刷インキ、インクジェットインキ、グラビアニス等が挙げられる。また、レジスト、ディスプレイ、封止剤、歯科材料、光造型材料等の分野でもこのような使用態様が用いられる。
【0066】
光カチオン重合性組成物表面遮断系の例としては、接着剤、粘着剤、粘接着剤、シーリング剤等を挙げることができる。さらに、「電子部品用感光性材料の最新動向III−半導体・電子基板・ディスプレー分野の開発状況―」(住ベリサーチ社、2006年7月)、「UV・EB硬化技術の最新動向」(ラドテック研究所、2006年3月)、「光応用技術・材料事典」(山岡亜夫編、2006年4月)、「光硬化技術」(技術情報協会、2000年3月)、「光硬化性材料−製造技術と応用展開−」(東レリサーチセンター、2007年9月)等に例示されている用途に適宜用いることができる。
【0067】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、以下の記載例に限定されるものではない。特記しない限り、すべての部および百分率は重量基準である。
【実施例】
【0068】
本発明により得られる生成物の確認は下記の機器による測定により行った。
(1)融点:ゲレンキャンプ社製の融点測定装置、型式MFB−595(JIS K0064に準拠)
(2)赤外線(IR)分光光度計:日本分光社製、型式IR−810
(3)核磁気共鳴装置(NMR):日本電子社製、型式GSX FT NMR Spectorometer
【0069】
(合成例1)9,10−ビス(n−ヘキサノイルオキシ)アントラセンの合成
温度計、攪拌機付きの200ml三口フラスコ中、窒素雰囲気下、9,10−ジヒドロキシアントラセン2.10g(10.0ミリモル)を脱気水20g中でリスラリーし、水酸化ナトリウム0.92g(23.0ミリモル)を脱気水3gに溶かした溶液を加え9,10−ジヒドロキシアントラセンのジナトリウム塩のエンジ色の水溶液とした。この水溶液にテトラブチルアンモニウムブロミドを20mg加え氷水で冷やしつつ、得られた9,10−ジヒドロキシアントラセンのジナトリウム水溶液に、塩化n−ヘキサノイル2.96g(22.0ミリモル)をトルエン20gに溶かした溶液を添加した。添加後、2時間撹拌し水層を分離した。ついで、トルエン層を水10mlで2回洗浄した後、メタノール40ml加え、濃縮した。析出した結晶を吸引濾過・乾燥し、9,10−ビス(n−ヘキサノイルオキシ)アントラセンの白色の結晶3.45g(8.5ミリモル)を得た。原料9,10−ジヒドロキシアントラセンに対する収率は85モル%であった。
【0070】
(1) 融点:115−117℃
(2) IR(KBr,cm−1):2960,2946,2860,1760,1594,1462,1358,1140,1096,758.
(3) H―NMR(400MHz、CDCl):δ=0.98(t,J=8Hz,6H),1.42−1.62(m,8H),1.92−2.02(m,4H),2.92(t,J=8Hz,4H),7.45−7.56(m,4H),7.89−7.96(m,4H).
【0071】
(合成例2)9,10−ビス(n−ヘプタノイルオキシ)アントラセンの合成
温度計、攪拌機付きの200ml三口フラスコ中、窒素雰囲気下、9,10−ジヒドロキシアントラセン2.10g(10.0ミリモル)を脱気水20g中でリスラリーし、水酸化ナトリウム0.92g(23.0ミリモル)を脱気水3gに溶かした溶液を加え9,10−ジヒドロキシアントラセンのジナトリウム塩のエンジ色の水溶液とした。この水溶液にテトラブチルアンモニウムブロミドを20mg加え氷水で冷やしつつ、塩化n−ヘプタノイル3.27g(22.0ミリモル)をトルエン20gに溶かした溶液を添加した。添加後、2時間撹拌し、水層を分離した。ついで、トルエン層を水10mlで2回洗浄した後、メタノール40ml加え、濃縮した。析出した結晶を吸引濾過・乾燥し、9,10−ビス(n−ヘキサノイルオキシ)アントラセンの白色の結晶3.39g(7.8ミリモル)を得た。原料9,10−ジヒドロキシアントラセンに対する収率は78モル%であった。
【0072】
(1) 融点:124−125℃
(2) IR(KBr、cm−1):2930,2860,1758,1472,1418,1367,1135,1042,762,720.
(3) H−NMR(400MHz、CDCl):δ=0.96(t、J=8Hz, 6H),1.35−1.49(m,8H),1.49−1.61(m,4H),1.91−2.01(m,4H),2.91(t,J=8Hz,4H),7.48−7.57(m,4H),7.87−7.94(m,4H).
【0073】
(合成例3)9,10−ビス(n−オクタノイルオキシ)アントラセンの合成
温度計、攪拌機付きの200ml三口フラスコ中、窒素雰囲気下、9,10−ジヒドロキシアントラセン2.10g(10.0ミリモル)を脱気水20g中でリスラリーし、水酸化ナトリウム0.92g(23.0ミリモル)を脱気水3gに溶かした溶液を加え9,10−ジヒドロキシアントラセンのジナトリウム塩のエンジ色の水溶液とした。この水溶液にテトラブチルアンモニウムブロミドを20mg加え氷水で冷やしつつ、塩化n−オクタノイル3.58g(22.0ミリモル)をトルエン22gに溶かした溶液を添加した。添加後、2時間撹拌し、水層を分離した。ついでトルエン層を水10mlで2回洗浄した後、メタノール40ml加え、濃縮した。析出した結晶を吸引濾過・乾燥し、9,10−ビス(n−オクタノイルオキシ)アントラセンの白色の結晶3.42g(7.4ミリモル)を得た。原料9,10−ジヒドロキシアントラセンに対する収率は74モル%であった。
【0074】
(1) 融点:98−99℃
(2)IR(KBr,cm−1):2970,2925,2860,1756,1420,1370,1358,1138,1026,762.
(3)H―NMR(400MHz、CDCl):δ=0.92(t,J=8Hz,6H),1.32−1.39(m,8H),1.39−1.48(m,4H),1.48−1.58(m,4H),1.91−2.00(m,4H),2.91(t,J=8Hz,4H),7.47−7.53(m,4H),7.88−7.96(m,4H).
【0075】
(合成例4)9,10−ビス(2−エチルヘキサノイルオキシ)アントラセンの合成
温度計、攪拌機付きの200ml三口フラスコ中、窒素雰囲気下、9,10−ジヒドロキシアントラセン2.10g(10.0ミリモル)を脱気水20g中でリスラリーし、水酸化ナトリウム0.92g(23.0ミリモル)を脱気水3gに溶かした溶液を加え9,10−ジヒドロキシアントラセンのジナトリウム塩のエンジ色の水溶液とした。この水溶液にテトラブチルアンモニウムブロミドを20mg加え氷水で冷やしつつ、塩化2−エチルヘキサノイル3.58g(22.0ミリモル)をトルエン22gに溶かした溶液を添加した。添加後、2時間撹拌し、水層を分離した。ついで、トルエン層を水10mlで2回洗浄した後、メタノール40ml加え、濃縮した。析出した結晶を吸引濾過・乾燥し、9,10−ビス(2−エチルヘキサノイルオキシ)アントラセンの白色の結晶3.60g(7.8ミリモル)を得た。原料9,10−ジヒドロキシアントラセンに対する収率は78モル%であった。
【0076】
(1) 融点:134−135℃
(2)IR(KBr,cm−1):3065,2960,2940,2870,1760,1628,1462,1290,1280,1270,1152,1093,955,752,684.
(3)H―NMR(400MHz、CDCl):δ=1.01(t,J=8Hz,6H),1.21(t,J=8Hz,6H),1.43−1.63(m,8H),1.79−1.96(m,4H),1.96−2.11(m,4H),2.88−2.97(m,4H),7.47−7.53(m,4H),7.91−7.98(m,4H).
【0077】
(合成例5)9,10−ビス(n−ノナノイルオキシ)アントラセンの合成
温度計、攪拌機付きの200ml三口フラスコ中、窒素雰囲気下、9,10−ジヒドロキシアントラセン2.10g(10.0ミリモル)を脱気水20g中でリスラリーし、水酸化ナトリウム0.92g(23.0ミリモル)を脱気水3gに溶かした溶液を加え9,10−ジヒドロキシアントラセンのジナトリウム塩のエンジ色の水溶液とした。この水溶液にテトラブチルアンモニウムブロミドを20mg加え氷水で冷やしつつ、塩化n−ノナノイル3.88g(22.0ミリモル)をトルエン22gに溶かした溶液を添加した。添加後2時間撹拌し、水層を分離した。ついで、トルエン層を水10mlで2回洗浄した後、メタノール40ml加え、濃縮した。析出した結晶を吸引濾過・乾燥し、9,10−ビス(n−ノナノイルオキシ)アントラセンの白色の結晶3.53g(7.2ミリモル)を得た。原料9,10−ジヒドロキシアントラセンに対する収率は72モル%であった。
【0078】
(1) 融点:96−97℃
(2)IR(KBr,cm−1):3070,2930,2855,1755,1626,1468,1424,1362,1340,1304,1260,1216,1152,1108,760,725.
(3)H―NMR(400MHz、CDCl):δ=0.91(t,J=8Hz,6H),1.27−1.48(m,12H),1.51−1.60(m,4H),1.91−2.00(m,4H),2.92(t,J=8Hz,4H),7.47−7.53(m,4H),7.88−7.96(m,4H).
【0079】
「実施例1」
光カチオン重合性化合物として脂環式エポキシ(ダウ・ケミカル社製、商品名:UVR6105(3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート))100重量部に対し、光カチオン重合開始剤UVI6992(S,S,S’,S’−テトラフェニル−S,S’−(4、4’−チオジフェニル)ジスルホニウムビスヘキサフルオロフォスフェート)を4.0重量部、光カチオン重合増感剤として、合成例1と同様にして合成した9,10−ビス(n−ヘキサノイルオキシ)アントラセン0.8重量部を混合し、光カチオン重合性組成物を調製した。該組成物をタックフィルムの上にバーコーターを用いて膜厚が30ミクロンになるように塗布した。ついで、表面からPhoseon社製395紫外LED(395nmの中心波長の強度は1.0W/cmである。)を用いて光照射した。べたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は6.0秒であった。
【0080】
「実施例2」
9,10−ビス(n−ヘキサノイルオキシ)アントラセンの代わりに合成例2と同様にして合成した9,10−ビス(n−ヘプタノイルオキシ)アントラセンを使用すること以外は実施例1と全く同様にして光カチオン重合性組成物を調製した。該組成物をタックフィルムの上にバーコーターを用いて膜厚が30ミクロンになるように塗布した。ついで、表面からPhoseon社製395紫外LED(395nmの中心波長の強度は1.0W/cmである。)を用いて光照射した。べたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は6.0秒であった。
【0081】
「実施例3」
9,10−ビス(n−ヘキサノイルオキシ)アントラセンの代わりに合成例3と同様にして合成した9,10−ビス(n−オクタノイルオキシ)アントラセンを使用すること以外は実施例1と全く同様にして光カチオン重合性組成物を調製した。該組成物をタックフィルムの上にバーコーターを用いて膜厚が30ミクロンになるように塗布した。ついで、表面からPhoseon社製395紫外LED(395nmの中心波長の強度は1.0W/cmである。)を用いて光照射した。べたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は6.0秒であった。
【0082】
「実施例4」
9,10−ビス(n−ヘキサノイルオキシ)アントラセンの代わりに合成例4と同様にして合成した9,10−ビス(2−エチルヘキサノイルオキシ)アントラセンを使用すること以外は実施例1と全く同様にして光カチオン重合性組成物を調製した。該組成物をタックフィルムの上にバーコーターを用いて膜厚が30ミクロンになるように塗布した。ついで、表面からPhoseon社製395紫外LED(395nmの中心波長の強度は1.0W/cmである。)を用いて光照射した。べたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は3.0秒であった。
【0083】
「実施例5」
9,10−ビス(n−ヘキサノイルオキシ)アントラセンの代わりに合成例5と同様にして合成した9,10−ビス(n−ノナノイルオキシ)アントラセンを使用すること以外は実施例1と全く同様にして光カチオン重合性組成物を調製した。該組成物をタックフィルムの上にバーコーターを用いて膜厚が30ミクロンになるように塗布した。ついで、表面からPhoseon社製395紫外LED(395nmの中心波長の強度は1.0W/cmである。)を用いて光照射した。べたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は2.0秒であった。
【0084】
「比較例1」
9,10−ビス(n−ヘキサノイルオキシ)アントラセンの代わりに9,10−ジブトキシアントラセンを使用すること以外は実施例1と全く同様にして光カチオン重合性組成物を調製した。該組成物をタックフィルムの上にバーコーターを用いて膜厚が30ミクロンになるように塗布した。ついで、表面からPhoseon社製395紫外LED(395nmの中心波長の強度は1.0W/cmである。)を用いて光照射した。べたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は6.5秒であった。
【0085】
「比較例2」
9,10−ビス(n−ヘキサノイルオキシ)アントラセンを使用しないこと以外は実施例1と全く同様にして光カチオン重合性組成物を調製した。該組成物をタックフィルムの上にバーコーターを用いて膜厚が30ミクロンになるように塗布した。ついで、表面からPhoseon社製395紫外LED(395nmの中心波長の強度は1.0W/cmである。)を用いて光照射した。べたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は310秒であった。
【0086】
「実施例6」
光カチオン重合開始剤としてUVI6992を4重量部用いる代わりにイルガキュア250(4-イソブチルフェニル−4’-メチルフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート)を2.0重量部使用すること以外は実施例1と全く同様にして光カチオン重合性組成物を調製した。該組成物をタックフィルムの上にバーコーターを用いて膜厚が30ミクロンになるように塗布した。ついで、表面からPhoseon社製395紫外LED(395nmの中心波長の強度は1.0W/cmである。)を用いて光照射した。べたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は2.0秒であった。
【0087】
「実施例7」
光カチオン重合開始剤としてUVI6992を4重量部用いる代わりにイルガキュア250(4-イソブチルフェニル−4’-メチルフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート)を2重量部使用すること以外は実施例4と全く同様にして光カチオン重合性組成物を調製した。該組成物をタックフィルムの上にバーコーターを用いて膜厚が30ミクロンになるように塗布した。ついで、表面からPhoseon社製395紫外LED(395nmの中心波長の強度は1.0W/cmである。)を用いて光照射した。べたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は2.0秒であった。
【0088】
「実施例8」
光カチオン重合開始剤としてUVI6992を4重量部用いる代わりにイルガキュア250(4-イソブチルフェニル−4’-メチルフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート)を2重量部使用すること以外は実施例5と全く同様にして光カチオン重合性組成物を調製した。該組成物をタックフィルムの上にバーコーターを用いて膜厚が30ミクロンになるように塗布した。ついで、表面からPhoseon社製395紫外LED(395nmの中心波長の強度は1.0W/cmである。)を用いて光照射した。べたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は1.5秒であった。
【0089】
「比較例3」
光カチオン重合開始剤としてUVI6992を4重量部用いる代わりにイルガキュア250(4-イソブチルフェニル−4’-メチルフェニルヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート)を2重量部使用すること以外は比較例1と全く同様にして光カチオン重合性組成物を調製した。該組成物をタックフィルムの上にバーコーターを用いて膜厚が30ミクロンになるように塗布した。ついで、表面からPhoseon社製395紫外LED(395nmの中心波長の強度は1.0W/cmである。)を用いて光照射した。べたつき(タック)がなくなるまでの光照射時間「タック・フリー・タイム」は3.0秒であった。
【0090】
「比較例4」
光カチオン重合開始剤としてイルガキュア250を使用しないこと以外は比較例3と全く同様にして光カチオン重合性組成物を調製した。該組成物をタックフィルムの上にバーコーターを用いて膜厚が30ミクロンになるように塗布した。ついで、表面からPhoseon社製395紫外LED(395nmの中心波長の強度は1.0W/cmである。)を用いて光照射したが、300秒以上照射しても全く硬化しなかった。
【0091】
実施例1〜5、比較例1,2の結果を表1に、実施例6〜8、比較例3,4の結果を表2にまとめた。
【0092】
実施例1〜5と比較例2、実施例6〜8と比較例4を比較することで明らかなように、本発明の9,10−ビス(長鎖アシルオキシ)アントラセン化合物は、光カチオン重合増感剤としての効果を有することが分かる。さらに、実施例1〜5と比較例1、実施例6〜8と比較例3を比較することで明らかなように、従来より光カチオン重合増感剤として用いられている公知の9,10−ジブトキシアントラセンと比較しても同等以上の増感性能を持つことがわかる。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
(実施例9)9,10−ビス(2−エチルヘキサノイルオキシ)アントラセンを光カチオン重合増感剤として用いた時の硬化物の透過度の測定
実施例4と同様にして調製した光カチオン重合性組成物を、タックフィルムの上にバーコーターを用いて膜厚が30ミクロンになるように塗布し、その上にタックフィルムを被せた。ついで、表面からPhoseon社製395紫外LED(395nmの中心波長の強度は1.0W/cmである。)を用いて光照射した。光照射開始後、所定時間ごとに、タックフィルムで挟んだ光カチオン重合性組成物のUVスペクトルを測定し,400nmにおけるフィルムの透過度を求めた。その結果を図1にプロットした。
【0096】
(実施例10)9,10−ビス(n−ノナノイルオキシ)アントラセンを光カチオン重合増感剤として用いた時の硬化物の透過度の測定
実施例5と同様にして調製した光カチオン重合性組成物を、タックフィルムの上にバーコーターを用いて膜厚が30ミクロンになるように塗布し、その上にタックフィルムを被せた。ついで、表面からPhoseon社製395紫外LED(395nmの中心波長の強度は1.0W/cmである。)を用いて光照射した。光照射開始後、所定時間ごとに、タックフィルムで挟んだ光カチオン重合性組成物のUVスペクトルを測定し,400nmにおけるフィルムの透過度を求めた。その結果を図1にプロットした。
【0097】
(比較例5)9,10−ジブトキシアントラセンを光カチオン重合増感剤として用いた時の硬化物の透過度の測定
比較例1と同様にして調製した光カチオン重合性組成物を、タックフィルムの上にバーコーターを用いて膜厚が30ミクロンになるように塗布し、その上にタックフィルムを被せた。ついで、表面からPhoseon社製395紫外LED(395nmの中心波長の強度は1.0W/cmである。)を用いて光照射した。光照射開始後、所定時間ごとに、タックフィルムで挟んだ光カチオン重合性組成物のUVスペクトルを測定し,400nmにおけるフィルムの透過度を求めた。その結果を図1にプロットした。
【0098】
実施例9、10、比較例5の結果と図1より明らかなように、9,10−ジブトキシアントラセンを光カチオン重合増感剤として調製した光カチオン重合性組成物の硬化物は、透過度が80%程度でとどまっているのに対して、本発明の9,10−ビス(2−エチルヘキサノイルオキシ)アントラセン、9,10−ビス(n−ノナノイルオキシ)アントラセンを光カチオン重合増感剤として調製した光カチオン重合性組成物の硬化物は,400nmの透過度が90%を超えていることが分かる。このことから、本発明の9,10−ビス(長鎖アシルオキシ)アントラセン化合物を光カチオン重合増感剤として含有する光カチオン重合性組成物の光硬化物は極めて透過性が高いことがわかる。
図1