(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
操作部材と機械的に連結され、前記操作部材を中立位置に近づける力を模擬する復帰反力成分および前記操作部材が操作されることにより生じる摩擦力を模擬する摩擦反力成分を含む反力を前記操作部材に加える操作装置の制御装置であって、
前記操作部材が操作される操作量と前記復帰反力成分との関係を規定した第1マップまたは第1演算式、および、前記操作部材が操作される操作速度と前記摩擦反力成分との関係を規定した第2マップまたは第2演算式を記憶した記憶部と、
前記第1マップまたは前記第1演算式と前記操作量とに基づいて、前記復帰反力成分を算出し、前記第2マップまたは前記第2演算式と前記操作速度とに基づいて、前記摩擦反力成分を算出し、前記操作装置に出力させる前記反力の大きさを前記摩擦反力成分および前記復帰反力成分に基づいて算出する算出部と
を含み、
前記算出部は、前記第2マップまたは前記第2演算式を用いて、「0」を含む所定速度以下の範囲に含まれる操作速度が与えられたとき、「0」よりも大きい摩擦反力成分である基準摩擦反力成分を算出し、
さらに、前記算出部は、前記第2マップまたは前記第2演算式を用いて、前記所定速度である第1所定速度よりも高く、かつ、前記第1所定速度よりも高い第2所定速度以下の範囲に含まれる操作速度が与えられたとき、前記基準摩擦反力成分よりも小さい範囲において、操作速度が高くなるにつれて摩擦反力成分を小さくする
操作装置の制御装置。
前記算出部は、前記第2マップまたは前記第2演算式を用いて、前記第2所定速度よりも高く、かつ、前記第2所定速度よりも高い第3所定速度以下の範囲に含まれる操作速度が与えられたとき、操作速度が高くなるにつれて摩擦反力成分を大きくする
請求項1に記載の操作装置の制御装置。
前記算出部は、前記第2マップまたは前記第2演算式を用いて、前記第3所定速度以上の範囲に含まれる操作速度が与えられたとき、前記基準摩擦反力成分と異なる大きさを持つ上限摩擦反力成分を算出する
請求項2に記載の操作装置の制御装置。
【背景技術】
【0002】
ステアバイワイヤ方式のステアリング装置によれば、操作部材の一例であるステアリングホイールが転舵機構等からの反力を受けない。このため、このステアリング装置の制御装置は、操作部材に反力トルクを入力するモータの出力を操舵角等に基づいて制御することにより、操作部材と転舵機構等とが機械的に結合したステアリング装置である機械式ステアリング装置の操作部材に生じる反力を模擬する。なお、特許文献1は、このようなステアリング装置の一例を開示している。
【0003】
上記制御装置は、一例として、操舵角に応じて変化する復帰反力トルク成分と、操作部材の操作方向に応じて変化する摩擦反力トルク成分とを合わせた値である反力トルクを、予め記憶しているマップから算出し、算出した反力トルクが操作部材に入力されるようにモータの出力を制御する。
【0004】
復帰反力トルク成分は、機械式ステアリング装置においてステアリングシャフト等のねじれにより発生する復元力を模擬する成分である。
図6は、復帰反力トルク成分と操舵角との関係の一例を示している。この例によれば、操作部材の操舵角が大きくなるにつれて復帰反力トルク成分が増加する。
【0005】
摩擦反力トルク成分は、機械式ステアリング装置において操作部材の操作方向と反対方向に生じる摩擦力を模擬する成分である。
図7は、摩擦反力トルク成分と操舵角との関係の一例を示している。この例によれば、摩擦反力トルク成分が操作部材の操舵角に依存することなく、操作部材の操舵方向のみに応じて変化する。
【0006】
図8は、
図6に示される復帰反力トルク成分のグラフと、
図7に示される摩擦反力トルク成分のグラフとを重ね合わせた結果である反力トルクと操舵角との関係を規定するマップの一例であり、上記制御装置に記憶されるマップの一例に該当する。グラフGCは、復帰反力トルク成分からなる反力トルクと操舵角との関係を示している。グラフGRは、操作部材が右方向に操作されるときの摩擦反力トルク成分を復帰反力トルク成分に加算した反力トルクと操舵角との関係を示している。グラフGLは、操作部材が左方向に操作されるときの摩擦反力トルク成分を復帰反力トルク成分に加算した反力トルクと操舵角との関係を示している。
【0007】
上記制御装置を含むステアリング装置によれば、操作部材が中立位置(操舵角=「0°」)から右方向に操作されて操舵角が増加するとき、制御装置により算出される反力トルクが
図8のグラフGRに従い次のように変化する。操舵角が「0°」から右方向に増加しはじめるとき、反力トルクは、「0°」の操舵角に対応する値からグラフGR上における右方向の操舵角に応じた値に向けて増加しはじめる。そして、操舵角が右方向に増加するにつれて、反力トルクがグラフGRに沿って次第に増加する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
右方向に操作されていた操作部材の操作が停止したことにより、操舵角が任意の操舵角θに保持されているとき、制御装置により算出される反力トルクは、グラフGR上における反力トルクTAからグラフGC上における反力トルクTBに減少する。その後、操作部材が再び右方向に操作されはじめたとき、制御装置により算出される反力トルクは、グラフGR上における反力トルクTAからグラフGR上における右方向の操舵角に応じた値に向けて増加しはじめる。
【0010】
このように、操作部材の操舵角が変化している状態から操舵角が変化しない状態に移行し、再び操舵角が変化する状態に移行したとき、操舵角が再び変化しはじめる前後における反力トルクの差が大きくなる。このため、運転者がこのような不連続な反力トルクの変化に対して違和感を覚えるおそれがある。なお、このような問題は、ステアバイワイヤ方式のステアリング装置に限らず、操作部材に直接的に反力トルクまたは反力が加えられない構成を含む他の装置においても同様に生じ得る。
【0011】
本発明の目的は、操作部材を操作する操作者が違和感を覚えにくい制御装置およびこの装置を備える操作装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
〔1〕本制御装置の独立した一形態は、次の事項を有する。すなわち、操作部材と機械的に連結され、前記操作部材を中立位置に近づける力を模擬する復帰反力成分および前記操作部材が操作されることにより生じる摩擦力を模擬する摩擦反力成分を含む反力を前記操作部材に加える操作装置の制御装置であって、前記操作部材が操作される操作量と前記復帰反力成分との関係を規定した第1マップまたは第1演算式、および、前記操作部材が操作される操作速度と前記摩擦反力成分との関係を規定した第2マップまたは第2演算式を記憶した記憶部と、前記第1マップまたは前記第1演算式と前記操作量とに基づいて、前記復帰反力成分を算出し、前記第2マップまたは前記第2演算式と前記操作速度とに基づいて、前記摩擦反力成分を算出し、前記操作装置に出力させる前記反力の大きさを前記摩擦反力成分および前記復帰反力成分に基づいて算出する算出部とを含み、前記算出部は、前記第2マップまたは前記第2演算式を用いて、「0」を含む所定速度以下の範囲に含まれる操作速度が与えられたとき、「0」よりも大きい摩擦反力成分である基準摩擦反力成分を算出する。
【0013】
本制御装置によれば、操作部材の操作量が変化している状態から操作量が変化しない状態に遷移したとき、制御装置により算出される反力は、「0」よりも大きい基準摩擦反力成分を含む。このため、操作部材の操作速度が「0」のときにおける摩擦反力成分が「0」に設定される場合と比較して、上記のように状態が遷移する前後における摩擦反力成分の減少量が小さくなる。
【0014】
このため、操作部材の操作速度が「0」のときにおける摩擦反力成分が「0」に設定される場合と比較して、操作量が変化していない状態から再び操作量が変化する状態に遷移したときにおける摩擦反力成分の増加量が小さくなる。このため、操作部材の操作量が変化している状態から操作量が変化しない状態に遷移し、再び操作量が変化する状態に遷移したとき、制御装置により算出される反力の変動幅が小さくなる。このため、操作部材を操作する操作者が違和感を覚えにくい。
【0015】
〔2〕前記制御装置に従属した一形態は、次の事項を有する。すなわち、前記算出部は、前記第2マップまたは前記第2演算式を用いて、前記所定速度である第1所定速度よりも高く、かつ、前記第1所定速度よりも高い第2所定速度以下の範囲に含まれる操作速度が与えられたとき、前記基準摩擦反力成分よりも小さい範囲において、操作速度が高くなるにつれて摩擦反力成分を小さくする。
【0016】
本制御装置によれば、操作速度が第1所定速度以下の範囲に含まれる場合、制御装置により算出される反力は、基準摩擦反力成分を含む。また、操作速度が第1所定速度よりも高く、かつ、第2所定速度以下の範囲に含まれる場合、制御装置により算出される反力は、摩擦反力成分が、基準摩擦反力よりも小さい範囲において操作速度が高くなるにつれて減少する値を取る。
【0017】
このため、例えば、操作部材が操作されていない状態から、操作部材が第1所定速度以下の範囲に含まれる操作速度により操作される状態に遷移し、その後、操作部材が第1所定速度よりも高く、かつ、第2所定速度以下の範囲に含まれる操作速度により操作される状態に遷移した場合、制御装置により算出される反力は、次のように変化する。
【0018】
反力は、最初に状態が遷移する前に基準摩擦反力成分を含む値を取り、最初に状態が遷移した後に同じく基準摩擦反力成分を含む値を取り、次に状態が遷移した後に操作速度の増加に応じて摩擦反力成分が次第に減少した値を取る。
【0019】
このため、操作者が操作部材を操作することにより上記のように状態が遷移した場合、操作部材が動作しはじめてから操作速度が第1操作速度を超えるまでは、操作者は操作部材が動作しにくい感触を受け、操作速度が第1操作速度を超えてからは、操作者は操作部材が滑らかに動作している感触を受ける。このため、操作速度が第1操作速度を超えてから操作部材の動作が鈍くなる場合と比較して、操作者が好ましい操作感を覚えやすい。
【0020】
〔3〕前記制御装置に従属した一形態は、次の事項を有する。すなわち、前記算出部は、前記第2マップまたは前記第2演算式を用いて、前記第2所定速度よりも高く、かつ、前記第2所定速度よりも高い第3所定速度以下の範囲に含まれる操作速度が与えられたとき、操作速度が高くなるにつれて摩擦反力成分を大きくする。
【0021】
本制御装置によれば、操作速度が第2所定速度よりも高く、かつ、第3所定速度以下の範囲に含まれる場合、制御装置により算出される反力は、摩擦反力成分が操作速度が高くなるにつれて増加する値を取る。
【0022】
このため、例えば、操作部材が第1所定速度よりも高く、かつ、第2所定速度以下の範囲に含まれる操作速度により操作される状態から、操作部材が第2所定速度よりも高く、かつ、第3所定速度以下の範囲に含まれる操作速度により操作される状態に遷移した場合、制御装置により算出される反力は、次のように変化する。
【0023】
反力は、状態が遷移する前、操作速度の増加に応じて摩擦反力成分が次第に減少した値を取り、状態が遷移した後、操作速度の増加に応じて摩擦反力成分が次第に増加した値を取る。
【0024】
このため、操作者が操作部材を操作することにより上記のように状態が遷移した場合、操作部材が第2操作速度を超えるまでは、操作者は操作部材が滑らかに動作している感触を受け、操作速度が第2操作速度を超えてからは、操作者は操作部材の動作が鈍くなった感触を受ける。このため、操作部材の操作速度が高いときに操作者が操作量を微調整しやすくなる。
【0025】
〔4〕前記制御装置に従属した一形態は、次の事項を有する。すなわち、前記算出部は、前記第2マップまたは前記第2演算式を用いて、前記第3所定速度以上の範囲に含まれる操作速度が与えられたとき、前記基準摩擦反力成分と異なる大きさを持つ上限摩擦反力成分を算出する。
【0026】
本制御装置によれば、操作速度が第3所定速度よりも高い範囲に含まれる場合、制御装置により算出される反力は、摩擦反力成分が上限摩擦反力成分に設定された値を取る。このため、例えば、操作部材が第2所定速度よりも高く、かつ第3所定速度以下の範囲に含まれる操作速度により操作される状態から、操作部材が第3所定速度よりも高い範囲に含まれる操作速度により操作される状態に遷移した場合、制御装置により算出される反力は、次のように変化する。
【0027】
反力は、状態が遷移する前、操作速度の増加に応じて摩擦反力成分が次第に減少した値を取り、状態が遷移した後、操作速度に依存しない一定の摩擦反力成分を含む値を取る。
このため、操作者が操作部材を操作することにより上記のように状態が遷移した場合、操作部材が第3操作速度を超えるまでは、操作者は操作速度が高くなるにつれて操作部材の動作が次第に鈍くなる感触を受け、操作速度が第3操作速度を超えてからは、操作者は操作部材の動作が次第に鈍くなりにくくなる感触を受ける。このため、操作部材の操作速度が高くなるにつれて摩擦反力成分が増加し続ける場合と比較して、操作者が操作部材を操作しやすくなる。
【0028】
〔5〕前記制御装置に従属した一形態は、次の事項を有する。すなわち、前記上限摩擦反力成分が前記基準摩擦反力成分よりも大きい。
本制御装置によれば、上限摩擦反力成分が基準摩擦反力成分以下の値を持つ場合と比較して、操作速度が高くなるにつれて操作部材の動作が鈍くなった感触を操作者が受ける操作速度の範囲が広くなる。
【0029】
〔6〕本操作装置の独立した一形態は、次の事項を有する。すなわち、操作装置は前記制御装置を備える。
【発明の効果】
【0030】
本制御装置および本操作装置によれば、操作部材を操作する操作者が違和感を覚えにくい。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1を参照して、ステアリング装置1の構成について説明する。
ステアリング装置1は、車両(図示略)に搭載され、ステアリングホイール110の操作に基づいて転舵輪100を転舵させる。ステアリング装置1は、ステアリングホイール110と転舵輪100とが機械的に連結されていないステアバイワイヤシステムを構成している。ステアリング装置1は、ステアリングホイール110の操作を妨げるトルク(以下、「反力トルクT」)をステアリングホイール110に付与する操舵機構10、転舵輪100を転舵させる転舵機構20、および、操舵機構10および転舵機構20を制御する制御装置30を有している。なお、ステアリング装置1は「操作装置」に相当する。操舵機構10は「操作機構」に相当する。ステアリングホイール110は「操作部材」に相当する。
【0033】
操舵機構10は、ステアリングホイール110に接続されたステアリングシャフト11、および、操舵機構10に反力トルクTを出力させる反力駆動部12を有している。
反力駆動部12は、ステアリングシャフト11に接続されている。反力駆動部12は、反力モータ13および減速機14を有している。反力モータ13は、減速機14に接続されている。この操舵機構10によれば、反力モータ13の回転が減速機14により減速されてステアリングシャフト11に伝達されることにより、モータトルクが反力トルクTとしてステアリングシャフト11を介してステアリングホイール110に付与される。
【0034】
転舵機構20は、操舵機構10と機械的に連結されていない。転舵機構20は、ラックシャフト21、タイロッド22、および、転舵駆動部23を有している。
ラックシャフト21の長手方向の両端部には、タイロッド22が接続されている。タイロッド22は、ナックル(図示略)を介して転舵輪100に接続されている。
【0035】
転舵駆動部23は、転舵モータ24およびボールねじ機構25を有している。転舵モータ24は、ラックシャフト21と同軸に配置されている。転舵モータ24のロータ(図示略)は、ボールねじ機構25と接続されている。この転舵機構20によれば、転舵モータ24のロータの回転は、ボールねじ機構25によりラックシャフト21の往復動に変換される。そして、ラックシャフト21は、往復動することによりタイロッド22を介して転舵輪100を転舵させる。
【0036】
制御装置30は、操舵機構10が出力する反力トルクTの大きさを制御する。制御装置30には、反力モータ13、転舵モータ24、操舵角センサ41、トルクセンサ42、および、ヨーレートセンサ120が電気的に接続されている。
【0037】
操舵角センサ41は、ステアリングホイール110の回転角度となるステアリングシャフト11の回転角度(以下、「操舵角θs」)に応じた信号を制御装置30に出力する。トルクセンサ42は、ステアリングシャフト11に付与されたトルク(以下、「操舵トルクTS」)に応じた信号を制御装置30に出力する。ヨーレートセンサ120は、車両のヨーレート(以下、「ヨーレートY」)に応じた信号を制御装置30に出力する。なお、操舵角θsは「操作部材の操作量」に相当する。
【0038】
制御装置30は、操舵角θsを微分することによりステアリングホイール110の回転角速度(以下、「操舵角速度ω」)を算出する。また、制御装置30は、ヨーレートYに基づいて転舵輪100の実転舵角(以下、「転舵角θw」)を算出する。なお、操舵角速度ωは「操作速度」に相当する。
【0039】
図2に示されるように、制御装置30は、転舵モータ24を制御する転舵ECU31、および、反力モータ13を制御する反力ECU32を有している。
転舵ECU31には、操舵角θsと目標転舵角との関係を示すマップ(図示略)が予め記憶されている。目標転舵角は、操舵角θsが大きくなるにつれて大きくなる。転舵ECU31は、マップを用いて、操舵角θsから目標転舵角を算出する。そして、転舵ECU31は、転舵角θwが目標転舵角となるように転舵モータ24に供給する目標電流値を算出する。そして、転舵ECU31は、目標電流値に基づいて転舵モータ24をPWM制御する。
【0040】
反力ECU32は、ステアリングホイール110(
図1参照)が中立位置に近づけるトルクを模擬した復帰反力トルク成分Taを算出する復帰反力算出部33、および、ステアリングホイール110が操作されることにより生じる摩擦力によるトルクを模擬した摩擦反力トルク成分Tbを算出する摩擦反力算出部34を有している。また反力ECU32は、復帰反力トルク成分Taと摩擦反力トルク成分Tbとを合算する合成反力算出部35、および、複数のマップが記憶された記憶部36を有している。また反力ECU32は、操舵角速度ωおよび操舵角θsに基づいてステアリングホイール110の切り増し、切り戻し、および、保舵のいずれかを判定する操舵判定部37、ならびに、反力モータ13を制御するモータ制御部38を有している。
【0041】
なお、中立位置は、車両が直進するときのステアリングホイール110の操作位置である。ステアリングホイール110が中立位置のとき、操舵角θsは、「0」である。また、復帰反力トルク成分Taおよび摩擦反力トルク成分Tbは、ステアリングホイールと転舵機構等が機械的に結合したステアリング装置に生じる復帰反力トルク成分および摩擦反力トルク成分を模擬する。
【0042】
また、「切り増し」は、ステアリングホイール110が中立位置から離れる方向に操作される状態を示す。「切り戻し」は、ステアリングホイール110が中立位置に向かう方向に操作される状態を示す。「保舵」は、ステアリングホイール110の位置が変更されない状態、すなわち、操舵角速度ωが「0」の状態を示す。
【0043】
復帰反力算出部33には、操舵角θsが入力される。摩擦反力算出部34には、制御装置30により算出された操舵角速度ωが入力される。復帰反力算出部33、摩擦反力算出部34、および、操舵判定部37は、合成反力算出部35に電気的に接続されている。合成反力算出部35は、モータ制御部38に電気的に接続されている。記憶部36は、復帰反力算出部33および摩擦反力算出部34に電気的に接続されている。
【0044】
記憶部36は、操舵角θsと復帰反力トルク成分Taとの関係を示すマップMP1(図示略)、および、
図3に示される操舵角速度ωと摩擦反力トルク成分Tbとの関係を示すマップMP2が記憶されている。なお、マップMP1は、
図5に示される操舵角と復帰反力トルク成分との関係を示すマップと同様である。
【0045】
操舵判定部37は、操舵角θsおよび操舵角速度ωが正の値のとき、ステアリングホイール110が右方向に切り増しされていると判定する。操舵判定部37は、操舵角θsおよび操舵角速度ωが負の値のとき、ステアリングホイール110が左方向に切り増しされていると判定する。操舵判定部37は、操舵角θsが正の値かつ操舵角速度ωが負の値のとき、ステアリングホイール110が左方向に切り戻しされていると判定する。操舵判定部37は、操舵角θsが負の値かつ操舵角速度ωが正の値のとき、ステアリングホイール110が右方向に切り戻しされていると判定する。操舵判定部37は、操舵角速度ωが「0」のとき、ステアリングホイール110が保舵されていると判定する。
【0046】
復帰反力算出部33は、操舵角θsと復帰反力トルク成分Taとの関係を示すマップMP1を用いて、操舵角θsから復帰反力トルク成分Taを算出する。復帰反力算出部33は、復帰反力トルク成分Taを合成反力算出部35に出力する。復帰反力トルク成分Taは、操舵角θsが大きくなるにつれて大きくなる。
【0047】
摩擦反力算出部34は、操舵角速度ωと摩擦反力トルク成分Tbとの関係を示すマップMP2を用いて、操舵角速度ωから摩擦反力トルク成分Tbを算出する。摩擦反力算出部34は、摩擦反力トルク成分Tbを合成反力算出部35に出力する。
【0048】
合成反力算出部35は、操舵判定部37の判定結果に基づいて、復帰反力トルク成分Taと摩擦反力トルク成分Tbとを合算した反力トルクTを目標反力トルクとして設定する。合成反力算出部35は、操舵判定部37により右方向への切り増し、または、右方向への切り戻しと判定されたとき、復帰反力トルク成分Taに摩擦反力トルク成分Tbを加算した値を目標反力トルクとして設定する。合成反力算出部35は、操舵判定部37により左方向への切り増し、または、左方向への切り戻しと判定されたとき、復帰反力トルク成分Taに摩擦反力トルク成分Tbを減算した値を目標反力トルクとして設定する。そして、合成反力算出部35は、目標反力トルクをモータ制御部38に出力する。
【0049】
モータ制御部38は、操舵トルクTSが目標反力トルクとなるように反力モータ13に供給する目標電流値を算出する。モータ制御部38は、目標電流値に基づいて反力モータ13をPWM制御する。
【0050】
ところで、クーロン摩擦に基づいて摩擦反力トルク成分を算出する場合、操舵角速度ωが「0」となるときに摩擦反力トルク成分が「0」となる。このため、例えばステアリングホイール110の操作状態が右方向の切り増しから保舵に切り替わるとき、および、保舵から右方向の切り増しに切り替わるとき、反力トルクに不連続感が生じてしまう。
【0051】
一般に、摩擦には、乾燥摩擦状態において適用されるクーロンの摩擦法則に基づくクーロン摩擦と、流体の粘性に起因する粘性摩擦とがある。粘性摩擦は、オイルシールの潤滑油および軸受の潤滑油等が要因となる。粘性摩擦は、操舵角速度ωに比例して大きくなる。このため、粘性摩擦においても操舵角速度ωが「0」のとき、粘性摩擦が「0」となる。このため、クーロン摩擦に代えて粘性摩擦に基づいて摩擦反力トルク成分を算出したとしても、反力トルクに不連続感が生じる問題は解決されない。
【0052】
ここで、軸受の摩擦に関しては、軸受が受ける荷重(面圧)、軸受の潤滑油の粘度、および、すべり速度を組み合わせたパラメータと摩擦係数との関係を示したストライベック曲線が知られている。ストライベック曲線は、混合潤滑領域および境界潤滑領域といったすべり速度が極低速となる領域において、すべり速度が低くなるにつれて摩擦係数が大きくなる関係を有する。なお、境界潤滑領域は、潤滑油膜が著しく薄くなり、摩擦現象が潤滑油の粘性から説明できない領域で潤滑油の界面化学的性質が重要となる領域を示す。また、混合潤滑領域は、潤滑油が摩擦を発生させる2面間に介在し完全に両者を分離し潤滑する流体潤滑領域と、境界潤滑領域とが混在して起こる領域を示す。
【0053】
本願発明者は、ストライベック曲線に基づいて、実際のステアリング装置1についても操舵角速度ωが極低速の場合、粘性摩擦力が大きくなっていると考えた。そこで、本願発明者は、クーロン摩擦に代えて、ストライベック曲線による粘性摩擦の考え方に基づいて摩擦反力トルク成分Tbを算出することを考えた。なお、操舵角速度ωが極低速とは、ストライベック曲線において境界潤滑領域および混合潤滑領域となる操舵角速度を示す。
【0054】
本願発明者は、この考え方に基づいて、
図3に示される操舵角速度ωと摩擦反力トルク成分Tbとの関係を示すマップMP2を設定した。以下、マップMP2の内容について説明する。
【0055】
このマップMP2は、操舵角速度ωについて第1領域R1〜第4領域R4に区分される。第1領域R1は、操舵角速度ωが「0」以上、かつ、第1所定速度ω1以下の範囲である。第2領域R2は、操舵角速度ωが第1所定速度ω1よりも高く、かつ、第2所定速度ω2(ω2>ω1)以下の範囲である。第3領域R3は、操舵角速度ωが第2所定速度ω2よりも高く、かつ、第3所定速度ω3(ω3>ω2)以下の範囲である。第4領域R4は、操舵角速度ωが第3所定速度ω3よりも高い範囲である。マップMP2は、第1領域R1〜第4領域R4において操舵角速度ωと摩擦反力トルク成分Tbとの関係が異なる。
【0056】
第1領域R1において、摩擦反力トルク成分Tbは、「0」よりも大きい基準摩擦反力トルク成分Tbkとなる。第1領域R1において、操舵角速度ωにかかわらず基準摩擦反力トルク成分Tbkが維持される。
【0057】
第2領域R2において、摩擦反力トルク成分Tbは、操舵角速度ωが高くなるにつれて基準摩擦反力トルク成分Tbkから減少する。そして、操舵角速度ωが第2所定速度ω2となるとき、摩擦反力トルク成分Tbは、下限摩擦反力トルク成分Tbl(Tbl<Tbk)となる。なお、第2所定速度ω2は、ストライベック曲線において境界潤滑領域および混合潤滑領域となる操舵角速度を示す。
【0058】
第3領域R3において、摩擦反力トルク成分Tbは、操舵角速度ωが高くなるにつれて下限摩擦反力トルク成分Tblから増加する。そして、操舵角速度ωが第3所定速度ω3となるとき、摩擦反力トルク成分Tbは、上限摩擦反力トルク成分Tbu(Tbu>Tbk)となる。
【0059】
第4領域R4において、摩擦反力トルク成分Tbは、操舵角速度ωにかかわらず上限摩擦反力トルク成分Tbuに維持される。
なお、第1所定速度ω1、第2所定速度ω2、および、第3所定速度ω3は、試験等により予め設定されている。
【0060】
そして、このようなマップMP2に基づいて、摩擦反力トルク成分Tbが算出されるため、
図4に示されるように、ステアリングホイール110が保舵から切り増しするときの反力トルクTの変化が抑制される。例えば、ステアリングホイール110が中立位置から右方向に切り増しされて操舵角θszで保舵され、その後、再び右方向に切り増しされたとき、操舵角速度ωが操舵角θszで「0」となるため、操舵角θszにおける反力トルクTzは、操舵角θszに応じた復帰反力トルク成分Taに基準摩擦反力トルク成分Tbkを加算した値となる。このため、
図8に示される従来のステアリング装置のように操舵角速度が「0」となるときに反力トルクが急激に落ち込まない。そして、ステアリングホイール110が操舵角θszから右方向に切り増しされたとき、反力トルクTは、反力トルクTzから増加する。このため、反力トルクTが急激に増加しない。このように、ステアリングホイール110が中立位置から切り増しされて操舵角θszで保舵され、再び切り増しされたときに反力トルクTzが操舵角θszにおいて変動しない。このため、反力トルクTに不連続感が生じることが抑制される。
【0061】
次に
図5を参照して、制御装置30により実行される反力トルクTの算出処理の手順について説明する。
制御装置30は、ステップS11において、マップMP1を用いて、操舵角θsから復帰反力トルク成分Taを算出し、ステップS12において、マップMP2を用いて、操舵角速度ωから摩擦反力トルク成分Tbを算出する。
【0062】
次いで、制御装置30は、ステップS13において、操舵判定部37の判定結果、復帰反力トルク成分Ta、および、摩擦反力トルク成分Tbに基づいて、反力トルクTを算出する。そして、制御装置30は、ステップS14において、算出した反力トルクTを目標反力トルクとして反力ECU32に出力する。反力ECU32は、目標反力トルクに基づいて反力モータ13を制御する。
【0063】
本実施形態のステアリング装置1は、上述の作用および効果に加え、以下の作用および効果を奏する。
運転者がステアリングホイール110を保舵から切り増しするとき、操舵感としては、運転者がステアリングホイール110に力を付与してステアリングホイール110が動き出す前のときには手応え感があり、ステアリングホイール110が動き出すときには、ステアリングホイール110が滑らかに動くことが好ましい。
【0064】
ステアリング装置1によれば、ステアリングホイール110が保舵された状態から、ステアリングホイール110が第1領域R1に含まれる操舵角速度ωにより操作される状態に遷移し、その後、ステアリングホイール110が第2領域R2に含まれる操舵角速度ωにより操作される状態に遷移した場合、反力トルクTは次のように変化する。
【0065】
反力トルクは、ステアリングホイール110が保舵された状態において基準摩擦反力トルク成分Tbkを取り、最初に状態が遷移した後に同じく基準摩擦反力トルク成分Tbkを取り、次に状態が遷移した後に操舵角速度ωの増加に応じて摩擦反力トルク成分Tbが次第に減少した値を取る。
【0066】
このため、運転者がステアリングホイール110を操作することにより上記のように状態が遷移した場合、ステアリングホイール110が動作し始めてから操舵角速度ωが第1所定速度ω1を超えるまでは、運転者はステアリングホイール110が動作しにくい感触を受ける。そして、操舵角速度ωが第1所定速度ω1を超えてからは、運転者はステアリングホイール110が滑らかに動作している感触(手応え感)を受ける。このため、操舵角速度ωが第1所定速度ω1を超えてからステアリングホイールの動作が鈍くなる場合と比較して、運転者が好ましい操舵感を覚えやすい。
【0067】
また、操舵角速度ωが増加するにつれて摩擦反力トルク成分Tbが徐々に減少するため、ステアリングホイール110の動き出しのときにステアリングホイール110からの手応えが抜けることが抑制される。
【0068】
また、ステアリングホイール110が第2領域R2に含まれる操舵角速度ωにより操作される状態から第3領域R3に含まれる操舵角速度ωにより操作される状態に遷移した場合、反力トルクTは次のように変化する。
【0069】
反力トルクTは、状態が遷移する前、操舵角速度ωの増加に応じて摩擦反力トルク成分Tbが次第に減少する値を取り、状態が遷移した後、操舵角速度ωの増加に応じて摩擦反力トルク成分Tbが増加する値を取る。
【0070】
このため、運転者がステアリングホイール110を操作することにより上記のように状態が遷移した場合、操舵角速度ωが第2所定速度ω2を超えるまでは、運転者はステアリングホイール110が滑らかに動作している感触を受ける。そして、操舵角速度ωが第2所定速度ω2を超えてからは、運転者はステアリングホイール110の動作が鈍くなった感触を受ける。このため、操舵角速度ωが高いときに運転者がステアリングホイール110を微調整しやすくなる。
【0071】
また、ステアリングホイール110が第3領域R3に含まれる操舵角速度ωにより操作される状態から第4領域R4に含まれる操舵角速度ωにより操作される状態に遷移した場合、反力トルクTは次のように変化する。
【0072】
反力トルクTは、状態が遷移する前、操舵角速度ωの増加に応じて摩擦反力トルク成分Tbが次第に減少する値を取り、状態が遷移した後、摩擦反力トルク成分Tbが操舵角速度ωに依存しない一定の値を取る。
【0073】
このため、運転者がステアリングホイール110を操作することにより上記のように状態が遷移した場合、操舵角速度ωが第3所定速度ω3を超える前では、運転者はステアリングホイール110の動作が次第に鈍くなる感触を受ける。そして、操舵角速度ωが第3所定速度ω3を超えてからは、操舵角速度ωが第3所定速度ω3を超える前と比較して、運転者はステアリングホイール110の動作が鈍くなりにくい感触を受ける。このため、操舵角速度ωが高くなるにつれて摩擦反力トルク成分Tbが増加し続ける場合と比較して、運転者がステアリングホイール110を操作しやすくなる。
【0074】
また、上限摩擦反力トルク成分Tbuが基準摩擦反力トルク成分Tbkよりも大きいため、上限摩擦反力トルク成分Tbuが基準摩擦反力トルク成分Tbk以下の場合と比較して、操舵角速度ωが高くなるにつれてステアリングホイール110の動作が鈍くなった感触を運転者が受ける操舵角速度ωの範囲が広くなる。
【0075】
なお、本ステアリング装置が取り得る具体的形態は、上記実施形態に示された内容に限定されない。本ステアリング装置は、例えば、以下に示される上記実施形態の変形例の形態を取り得る。
【0076】
・変形例の記憶部36は、第1所定速度ω1〜第3所定速度ω3、基準摩擦反力トルク成分Tbk、下限摩擦反力トルク成分Tbl、および、上限摩擦反力トルク成分Tbuの少なくとも1つが車速に応じて変更されたマップMP2が記憶されている。変形例の摩擦反力算出部34は、車速に応じたマップMP2に基づいて操舵角速度ωから摩擦反力トルク成分Tbを算出する。
【0077】
・変形例のマップMP2は、第1領域R1において、操舵角速度ωが高くなるにつれて基準摩擦反力トルク成分Tbkが減少する。
・変形例のマップMP2は、操舵角速度ωに対する摩擦反力トルク成分Tbの傾きが1次関数以外の関数により設定される。
【0078】
・変形例のマップMP2は、基準摩擦反力トルク成分Tbkが上限摩擦反力トルク成分Tbu以上に設定される。
・変形例のマップMP2は、基準摩擦反力トルク成分Tbkが「0」よりも大きく、かつ、上限摩擦反力トルク成分Tbu未満に設定される。この場合、
図4に示されるように、例えば、ステアリングホイール110が中立位置から右方向に切り増しされて操舵角θszで保舵され、その後、再び右方向に切り増しされたとき、上記実施形態と比較して反力トルクTが落ち込むものの、
図8に示される従来のステアリング装置のように反力トルクが大きく落ち込むことが抑制される。
【0079】
・変形例の記憶部36は、マップMP2に代えて、マップMP2に相当する操舵角速度ωと摩擦反力トルク成分Tbとの関係を有する演算式が記憶される。
・変形例の制御装置30は、反力トルクTの算出処理において、摩擦反力トルク成分Tbを算出した後、復帰反力トルク成分Taを算出する。
【0080】
・変形例の操舵機構10は、ステアリングホイール110を中立位置に復帰させる復帰反力トルク成分Taをステアリングシャフト11に付与する弾力付与機構(図示略)を有する。弾力付与機構は、ステアリングシャフト11の回転によりスライドするスライダ、および、スライダにより圧縮される圧縮コイルばね(ともに図示略)を有する。弾力付与機構は、圧縮コイルばねの復元力がスライダを押すことにより復帰反力トルク成分Taを発生させる。弾力付与機構は、ステアリングホイール110が中立位置から離れるにつれて圧縮コイルばねが圧縮される量が増加するため、復帰反力トルク成分Taが大きくなる。
【0081】
上記変形例の操舵機構10を備えたステアリング装置1において、反力ECU32は、摩擦反力トルク成分Tbを目標反力トルクとして設定し、反力モータ13をPWM制御する。このため、変形例の反力ECU32は、復帰反力算出部33および合成反力算出部35が省略される。操舵判定部37は、摩擦反力算出部34に電気的に接続される。摩擦反力算出部34は、操舵判定部37の判定結果に基づいて、摩擦反力トルク成分Tbの正負を設定したうえで摩擦反力トルク成分Tbをモータ制御部38に出力する。
【0082】
・変形例のステアリング装置1は、モニタ上で車両の走行をシミュレーションするドライビングシミュレータに搭載される。変形例のステアリング装置1は、転舵機構20が省略される。
【0083】
・変形例の操作部材は、ジョイスティックである。要するに、操作部材は、操作装置を操作する機能を有していればよい。
・本操作装置は、車両、重機、および、ロボット等を遠隔操作する操作装置のようなステアリング装置1以外の操作装置にも適用できる。要するに、モータ等の駆動源により擬似的に反力を発生させる機能を有する操作装置であれば、本操作装置が適用できる。