特許第6299281号(P6299281)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6299281
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】車両用駆動装置の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/12 20100101AFI20180319BHJP
   F16H 59/38 20060101ALI20180319BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20180319BHJP
   F16H 61/68 20060101ALI20180319BHJP
【FI】
   F16H61/12
   F16H59/38
   F16H61/02
   F16H61/68
【請求項の数】5
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-39109(P2014-39109)
(22)【出願日】2014年2月28日
(65)【公開番号】特開2015-161402(P2015-161402A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2016年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 佑斗
(72)【発明者】
【氏名】貝吹 雅一
【審査官】 星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−273805(JP,A)
【文献】 特開2000−240785(JP,A)
【文献】 特開2012−072810(JP,A)
【文献】 特開平06−174079(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/073648(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/12
F16H 59/38
F16H 61/02
F16H 61/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、複数の係合装置を備えると共に当該複数の係合装置の係合の状態に応じて変速比の異なる複数の変速段が選択的に形成される変速装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置であって、
前記変速装置は、第一係合装置の係合と第二係合装置の係合により第一特定変速段が形成され、
前記車輪の回転中に、前記複数の係合装置の全てを解放状態とし前記変速装置が駆動力の伝達を行わないニュートラル状態となるように制御するニュートラル走行制御を行うニュートラル走行制御部を備え、
前記ニュートラル走行制御部は、前記ニュートラル状態から前記変速装置に変速段を形成させる復帰制御を行う際に、前記第一係合装置の係合圧を増加させる第一係合圧増加制御を行い、
前記第一係合圧増加制御により、前記駆動力源側に駆動連結された前記変速装置の入力部材の回転速度が、前記変速装置に前記第一特定変速段が形成された場合の前記入力部材の回転速度に近づいた場合に、前記第二係合装置が解放状態に制御されているにもかかわらず係合状態であると判定し、それ以外の場合は、前記第二係合装置が解放状態であると判定する第二係合正常判定を行う車両用駆動装置の制御装置。
【請求項2】
前記変速装置は、予め定められた複数の変速段である低変速比段において共通して係合される前記第一係合装置と、前記低変速比段よりも変速比が高い複数の変速段である高変速比段において共通して係合される第三係合装置と、前記第一係合装置の係合と前記第二係合装置の係合により形成される前記低変速比段の一つの変速段である前記第一特定変速段と、
前記第二係合装置の係合と前記第三係合装置の係合により形成される前記高変速比段の一つの変速段である第二特定変速比段と、を備え、
前記ニュートラル走行制御部は、前記ニュートラル状態から前記変速装置に目標変速段を形成させる復帰制御を行う際に、前記目標変速段が、前記高変速比段の中で前記第二特定変速比段よりも変速比の小さい変速段である判定実行変速段である場合は、前記目標変速段を形成する前に、前記第一係合圧増加制御を行うと共に前記第二係合正常判定を行う請求項1に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項3】
前記ニュートラル走行制御部は、前記第二係合正常判定により前記第二係合装置が解放状態であると判定した場合は、前記変速装置に前記目標変速段を形成させ、
前記第二係合正常判定により前記第二係合装置が係合状態であると判定した場合は、前記変速装置に前記第一特定変速段を形成させる請求項2に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項4】
前記ニュートラル走行制御部は、前記第二係合正常判定により前記第二係合装置が係合状態であると判定した場合は、前記変速装置に前記第一特定変速段を形成させ、その後、前記第二係合装置以外の係合装置の係合により形成される判定用変速段を形成させるように制御し、前記判定用変速段を形成することができない場合は、前記第二係合装置が係合状態となる故障が発生していると判定する請求項2又は3に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項5】
前記ニュートラル走行制御部は、前記第一係合装置の係合圧が、前記第一特定変速段を形成可能な係合圧まで増加した後に、前記第二係合正常判定を行う請求項1から4のいずれか一項に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力源と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、複数の係合装置を備えると共に当該複数の係合装置の係合の状態に応じて変速比の異なる複数の変速段が選択的に形成される変速装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような制御装置に関して、例えば下記の特許文献1に記載された技術が既に知られている。
特許文献1に記載されている技術では、車輪の回転中に、変速装置を駆動力の伝達を行わないニュートラル状態とするように制御するニュートラル走行制御を行うように構成されている。引用文献1の技術では、ニュートラル走行制御中に、車速などに基づいて決定した目標変速段を形成する二つ係合装置の内の1つを係合状態に制御して、他方の係合装置を解放状態に制御して、変速装置をニュートラル状態にするように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2012/133666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ニュートラル走行制御中に、全ての係合装置を解放状態としてニュートラル状態にするように構成されている場合は、ニュートラル走行制御中に何れかの係合装置が係合状態で固着していてもそれを検出できない場合がある。この場合に、ニュートラル状態から、変速段を形成させて通常走行状態に復帰させるために係合装置を係合させると、係合させた係合装置と係合状態で固着している係合装置とにより、目標変速段と異なる変速段が形成される場合があった。
【0005】
そこで、車両の走行中に全ての係合装置を解放状態とするニュートラル走行制御を行う場合において、ニュートラル走行制御中に係合装置が係合状態で固着している場合に、早期に固着を判定することができる制御装置が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る、駆動力源と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、複数の係合装置を備えると共に当該複数の係合装置の係合の状態に応じて変速比の異なる複数の変速段が選択的に形成される変速装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置の特徴構成は、
前記変速装置は、第一係合装置の係合と第二係合装置の係合により第一特定変速段が形成され、
前記車輪の回転中に、前記複数の係合装置の全てを解放状態とし前記変速装置が駆動力の伝達を行わないニュートラル状態となるように制御するニュートラル走行制御を行うニュートラル走行制御部を備え、
前記ニュートラル走行制御部は、前記ニュートラル状態から前記変速装置に変速段を形成させる復帰制御を行う際に、前記第一係合装置の係合圧を増加させる第一係合圧増加制御を行い、前記第一係合圧増加制御により、前記駆動力源側に駆動連結された前記変速装置の入力部材の回転速度が、前記変速装置に前記第一特定変速段が形成された場合の前記入力部材の回転速度に近づいた場合に、前記第二係合装置が解放状態に制御されているにもかかわらず係合状態であると判定し、それ以外の場合は、前記第二係合装置が解放状態であると判定する第二係合正常判定を行う点にある。
【0007】
ニュートラル走行制御中に、第二係合装置が係合状態に固着している場合は、第一係合装置の係合圧を増加させて係合させると、係合固着している第二係合装置と、係合される第一係合装置により、第一特定変速段が形成される。第一特定変速段が形成されると、入力部材の回転速度が、変速装置に第一特定変速段が形成された場合の入力部材の回転速度(以下、同期回転速度と称す)に一致する。
上記の特徴構成によれば、ニュートラル状態から変速装置に変速段を形成させる復帰制御を行う際に、第一係合装置の係合圧を増加させる第一係合圧増加制御が行われ、第一係合圧増加制御により、入力部材の回転速度が、第一特定変速段の同期回転速度に近づいた場合に、第二係合装置が解放状態に制御されているにもかかわらず係合状態であると判定することができる。よって、復帰制御を行う際に、第一係合装置の係合圧が増加されて第二係合正常判定が行われるので、第二係合装置が係合状態に固着している場合は、早期に固着を判定することができる。
また、第二係合装置が係合状態に固着していない場合は、いずれの変速段も形成させることなく、第二係合装置が解放状態であると判定することができる。このため、早期に、第二係合正常判定を完了して、変速装置に変速段を形成させることができる。
【0008】
ここで、前記変速装置は、予め定められた複数の変速段である低変速比段において共通して係合される前記第一係合装置と、前記低変速比段よりも変速比が高い複数の変速段である高変速比段において共通して係合される第三係合装置と、前記第一係合装置の係合と前記第二係合装置の係合により形成される前記低変速比段の一つの変速段である前記第一特定変速段と、
前記第二係合装置の係合と前記第三係合装置の係合により形成される前記高変速比段の一つの変速段である第二特定変速比段と、を備え、
前記ニュートラル走行制御部は、前記ニュートラル状態から前記変速装置に目標変速段を形成させる復帰制御を行う際に、前記目標変速段が、前記高変速比段の中で前記第二特定変速比段よりも変速比の小さい変速段である判定実行変速段である場合は、前記目標変速段を形成する前に、前記第一係合圧増加制御を行うと共に前記第二係合正常判定を行うと好適である。
【0009】
上記のような変速装置の構成では、第二係合装置が係合状態で固着している場合に、復帰制御を行う際、高変速比段の中の一つの変速段を目標変速段として形成するため、高変速比段の共通係合装置である第三係合装置を係合すると、第二特定変速段が意図せず形成される。一方、低変速比段の中の一つの変速段を目標変速段として形成するため、低変速比段の共通係合装置である第一係合装置を係合すると、第一特定変速段が意図せず形成される。すなわち、第二係合装置が係合状態で固着していると、復帰制御を行う際に形成する目標変速段が、高変速比段の変速段であるか、低変速比段の変速段であるかによって、意図せず形成される変速段が、第二特定変速段と第一特定変速段とで異なる。
【0010】
このような変速装置の構成で、目標変速段が、高変速比段の中で第二特定変速比段よりも変速比の小さい変速段である判定実行変速段である場合は、第二係合装置が係合固着している状態で、高変速比段の共通係合装置である第三係合装置を係合させると、目標変速段より変速比の大きい第二特定変速段が意図せず形成される。目標変速段より変速比の大きい変速段が形成されることにより、変速装置の入力部材の回転速度が、目標変速段が形成される場合よりも上昇する。これにより、駆動力源から入力部材に伝達される駆動力が低下して、車輪に伝達されるトルクが低下する又は増加しない恐れがあった。よって、アクセル開度を増加させるなどした運転者に違和感を与える恐れがあった。
【0011】
一方、第二係合装置が係合固着している状態で、高変速比段ではなく低変速比段の共通係合装置である第一係合装置を係合させると、目標変速段より変速比の小さい第一特定変速段が形成される。このため、変速装置の入力部材の回転速度が、目標変速段が形成される場合よりも低下する。これにより、駆動力源から入力部材に伝達される駆動力が増加して、車輪に伝達されるトルクが増加する。よって、アクセル開度を増加させるなどした運転者に与える違和感を抑制できる。
【0012】
上記の構成によれば、目標変速段が、高変速比段の中で第二特定変速比段よりも変速比の小さい変速段である判定実行変速段である場合は、目標変速段が属する高変速比段の共通係合装置である第三係合装置でなく、低変速比段の共通係合装置である第一係合装置を係合するように構成されている。よって、第二係合装置が係合固着している場合に、目標変速段より変速比の小さい第一特定変速段を形成させることができるため、車輪への伝達トルクが低下することを抑制することができ、運転者に与える違和感も抑制できる。
【0013】
また、前記ニュートラル走行制御部は、前記第二係合正常判定により前記第二係合装置が解放状態であると判定した場合は、前記変速装置に前記目標変速段を形成させ、
前記第二係合正常判定により前記第二係合装置が係合状態であると判定した場合は、前記変速装置に前記第一特定変速段を形成させると好適である。
【0014】
この構成によれば、第二係合正常判定により第二係合装置が解放状態であると判定した場合は、変速装置に目標変速段を形成させるので、目標変速段以外の変速段を形成することなく、復帰制御の開始後、早期に目標変速段を形成することができる。
一方、第二係合正常判定により第二係合装置が係合状態であると判定した場合は、第二係合装置が係合固着している場合に適した第一特定変速段を早期に変速装置に形成させて、車両を走行させることができる。
【0015】
また、前記ニュートラル走行制御部は、前記第二係合正常判定により前記第二係合装置が係合状態であると判定した場合は、前記変速装置に前記第一特定変速段を形成させ、その後、前記第二係合装置以外の係合装置の係合により形成される判定用変速段を形成させるように制御し、前記判定用変速段を形成することができない場合は、前記第二係合装置が係合状態となる故障が発生していると判定すると好適である。
【0016】
この構成によれば、判定用変速段を形成させるために、第二係合装置以外の係合装置の係合圧を増加させることにより、変速装置の遊星歯車機構の回転要素及び回転部材を介して、第二係合装置に解放側の力を加えることができる。解放側の力を加えても、第二係合装置が解放されず、判定用変速段が形成されない場合は、第二係合装置が係合固着していることをより確実に判定することができる。また、係合固着の状態によっては、第二係合装置を係合固着している状態から解放状態に回復することも可能である。
【0017】
また、前記ニュートラル走行制御部は、前記第一係合装置の係合圧が、前記第一特定変速段を形成可能な係合圧まで増加した後に、前記第二係合正常判定を行うと好適である。
【0018】
この構成によれば、第一係合装置の係合圧が、第一特定変速段を形成可能な係合圧(以下、判定係合圧と称す)まで増加すると、第二係合装置が係合固着していても、第一係合装置が係合可能(直結係合状態に移行可能)になり、第一特定変速比段が係合装置の直結係合状態で形成可能になる。第一特定変速比段が直結係合状態で形成されると、変速装置の入力部材の回転速度は、第一特定変速比段の同期回転速度に一致する。
よって、第一係合装置の係合圧が、判定係合圧まで増加した後に、第二係合正常判定を行うことで、第二係合正常判定の判定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る車両の概略構成を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態に係る車両用駆動装置のスケルトン図である。
図3】本発明の実施形態に係る車両用駆動装置及び制御装置の概略構成を示す模式図である。
図4】本発明の実施形態に係る変速装置の作動表である。
図5】本発明の実施形態に係る変速装置の速度線図である。
図6】本発明の実施形態に係る変速マップである。
図7】本発明の実施形態に係るニュートラル走行制御のフローチャートである。
図8】本発明の比較例に係る第二係合装置が係合固着していない場合のタイムチャートである。
図9】本発明の実施形態に係る第二係合装置が係合固着していない場合のタイムチャートである。
図10】本発明の実施形態に係る第二係合装置が係合固着している場合のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る車両用駆動装置1を制御するための車両用駆動装置の制御装置30の実施形態について、図面を参照して説明する。図1から図3は、本実施形態に係る車両用駆動装置1及び制御装置30の概略構成を示す模式図である。
本実施形態では、車両用駆動装置1は、車輪Wの駆動力源として内燃機関ENGと回転電機MGとを備えている。車両用駆動装置1には、内燃機関ENGと車輪Wとを結ぶ動力伝達経路に、変速装置TMが設けられている。回転電機MGは、変速装置TMを介さずに車輪Wに駆動連結されている。本実施形態では、内燃機関ENGは、変速装置TMを介して車両5の後輪に駆動連結され、回転電機MGは、車両5の前輪に駆動連結されている。変速装置TMは、複数の係合装置C1、B1、・・・を備えると共に当該複数の係合装置C1、B1、・・・の係合の状態に応じて変速比の異なる複数の変速段1st、2nd、・・・が選択的に形成される。
【0021】
なお、本願において、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。また、このような伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば摩擦係合装置や噛み合い式係合装置等が含まれていてもよい。
【0022】
本実施形態に係わる制御装置30は、図3に示すように、回転電機MGの制御を行う回転電機制御ユニット32と、変速装置TMの制御を行う動力伝達制御ユニット33と、これらの制御装置を統合して車両用駆動装置1の制御を行う車両制御ユニット34と、を有している。また、ハイブリッド車両には、内燃機関ENGの制御を行う内燃機関制御装置31も備えられている。
【0023】
変速装置TMは、図4の作動表に示すように、第一係合装置(本例では、第二クラッチC2が該当)の係合と第二係合装置(本例では、第一ブレーキB1が該当)の係合により第一特定変速比段(本例では、第六変速段6thが該当)が形成される。
制御装置30は、ニュートラル走行制御部44などの機能部を備えている。
ニュートラル走行制御部44は、車輪Wの回転中に、複数の係合装置C1、B1、・・・の全てを解放状態とし変速装置TMが駆動力の伝達を行わないニュートラル状態となるように制御するニュートラル走行制御を行う。
【0024】
本実施形態に係るニュートラル走行制御部44は、ニュートラル状態から変速装置TMに変速段を形成させる復帰制御を行う際に、第一係合装置(第二クラッチC2)の係合圧を増加させる第一係合圧増加制御を行う。また、ニュートラル走行制御部44は、第一係合圧増加制御により、駆動力源側に駆動連結された変速装置TMの入力軸Iの回転速度が、変速装置TMに第一特定変速比段(第六変速段6th)が形成された場合の入力軸Iの回転速度に近づいた場合に、第二係合装置(第一ブレーキB1)が解放状態に制御されているにもかかわらず係合状態であると判定し、それ以外の場合は、第二係合装置(第一ブレーキB1)が解放状態であると判定する第二係合正常判定を行う点に特徴を有している。なお、入力軸Iが、本発明に係る「入力部材」に相当する。
以下、本実施形態に係る車両用駆動装置1及び制御装置30について、詳細に説明する。
【0025】
1.車両用駆動装置1の構成
まず、本実施形態に係る車両用駆動装置1の構成について説明する。図2は、本実施形態に係る車両用駆動装置1の駆動伝達系及び油圧供給系の構成を示す模式図である。なお、この図2は、軸対称の構成を一部省略して示している。この図において、実線は駆動力の伝達経路を示し、破線は作動油の供給経路を示し、一点鎖線は電力の供給経路を示している。本実施形態では、車両用駆動装置1は、車輪Wの駆動力源としての内燃機関ENGの回転駆動力を、トルクコンバータTCを介して変速装置TMに伝達し、変速装置TMで変速して車輪W側に伝達するように構成されている。変速装置TMは、入力軸Iに伝達された回転駆動力を変速して出力ギヤOに伝達するように構成されている。
【0026】
内燃機関ENGは、燃料の燃焼により駆動される熱機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種内燃機関を用いることができる。本例では、内燃機関ENGのクランクシャフト等の内燃機関出力軸Eoが、トルクコンバータTCを介して入力軸Iに駆動連結されている。
【0027】
トルクコンバータTCは、内部に充填された作動油を介して、内燃機関出力軸Eoに駆動連結されたポンプインペラTCaと、入力軸Iに駆動連結されたタービンランナTCbとの間で駆動力の伝達を行う動力伝達装置である。トルクコンバータTCは、ポンプインペラTCaとタービンランナTCbとの間に、ワンウェイクラッチを備えたステータTCcを備えており、また、ポンプインペラTCaとタービンランナTCbとを一体回転させるように連結するロックアップクラッチLCを備えている。機械式ポンプMPは、ポンプインペラTCaと一体回転するように駆動連結されている。
【0028】
また、本実施形態においては、内燃機関ENGに隣接してスタータ13が設けられている。スタータ13は、直流モータ等で構成され、バッテリ24に電気的に接続されている。スタータ13は、内燃機関ENGが停止された状態でバッテリ24から供給される電力により駆動されて内燃機関出力軸Eoを回転させ、内燃機関ENGを始動させることができるように構成されている。
【0029】
本実施形態では、変速装置TMは、変速比の異なる複数の変速段1st、2nd、・・・を有する有段の自動変速装置である。変速装置TMは、これら複数の変速段1st、2nd、・・・を形成するため、遊星歯車機構等の歯車機構と複数の係合装置C1、B1、・・・とを備えている。変速装置TMは、各変速段の変速比で、入力軸Iの回転速度を変速すると共にトルクを変換して、出力ギヤOへ伝達する。変速装置TMから出力ギヤOへ伝達されたトルクは、差動歯車装置を介して左右二つの車軸に分配されて伝達され、各車軸に駆動連結された車輪Wに伝達される。ここで、変速比は、変速装置TMにおいて各変速段が形成された場合の、出力ギヤOの回転速度に対する入力軸Iの回転速度の比であり、本願では入力軸Iの回転速度を出力ギヤOの回転速度で除算した値である。すなわち、入力軸Iの回転速度を変速比で除算した回転速度が、出力ギヤOの回転速度になる。また、入力軸Iから変速装置TMに伝達されるトルクに、変速比を乗算したトルクが、変速装置TMから出力ギヤOに伝達されるトルクになる。
【0030】
<歯車機構>
第一遊星歯車機構PG1は、図2に示すように、複数のピニオンギヤP1を支持するキャリアCA1と、ピニオンギヤP1にそれぞれ噛み合うサンギヤS1及びリングギヤR1と、の三つの回転要素を有したシングルピニオン型の遊星歯車機構とされている。第二遊星歯車機構PG2は、第一サンギヤS2及び第二サンギヤS3の二つのサンギヤと、リングギヤR2と、第一サンギヤS2及びリングギヤR2の双方に噛み合うロングピニオンギヤP2並びにこのロングピニオンギヤP2及び第二サンギヤS3に噛み合うショートピニオンギヤP3を支持する共通のキャリアCA2と、の四つの回転要素を有したラビニヨ型の遊星歯車機構とされている。
【0031】
第一遊星歯車機構PG1のサンギヤS1は、非回転部材としてのケースCSに固定されている。キャリアCA1は、第三クラッチC3の係合により第二中間軸M2を介して第二遊星歯車機構PG2の第二サンギヤS3と選択的に一体回転するように駆動連結されるとともに、第一クラッチC1の係合により第一中間軸M1を介して第二遊星歯車機構PG2の第一サンギヤS2と選択的に一体回転するように駆動連結され、第一ブレーキB1の係合によりケースCSに選択的に固定される。リングギヤR1は、入力軸Iと一体回転するように駆動連結されている。
第二遊星歯車機構PG2の第一サンギヤS2は、第三クラッチC3の係合により第二中間軸M2を介して第一遊星歯車機構PG1のキャリアCA1と選択的に一体回転するように駆動連結されるとともに、第一ブレーキB1によりケースCSに選択的に固定される。第二サンギヤS3は、第一クラッチC1の係合により第一中間軸M1を介して第一遊星歯車機構PG1のキャリアCA1と選択的に一体回転するように駆動連結される。キャリアCA2は、第二クラッチC2の係合により入力軸Iと選択的に一体回転するように駆動連結されるとともに、第二ブレーキB2又はワンウェイクラッチFの係合によりケースCSに選択的に固定される。ワンウェイクラッチFは、一方向の回転のみを阻止することによりキャリアCA2を選択的にケースCSに固定する。リングギヤR2は、出力ギヤOと一体回転するように駆動連結されている。
【0032】
<変速段>
本実施形態では、図4の作動表に示すように、変速装置TMは変速比(減速比)の異なる六つの変速段(第一変速段1st、第二変速段2nd、第三変速段3rd、第四変速段4th、第五変速段5th、及び第六変速段6th)を前進段として備えている。これらの変速段を構成するため、変速装置TMは、第一遊星歯車装置P1及び第二遊星歯車装置P2を備えてなる歯車機構と、6つの係合装置C1、C2、C3、B1、B2、Fと、を備えて構成されている。ワンウェイクラッチFを除くこれら複数の係合装置C1、B1、・・・の係合及び解放を制御して、第一遊星歯車装置P1及び第二遊星歯車装置P2の各回転要素の回転状態を切り替え、複数の係合装置C1、B1、・・・の中のいずれか二つを選択的に係合することにより、6つの変速段が切り替えられる。なお、変速装置TMは、上記6つの変速段のほかに、一段の後進段Revも備えている。
【0033】
図4において、「○」は各係合装置が係合状態にあることを示しており、「無印」は、各係合装置が解放状態にあることを示している。「(○)」は、エンジンブレーキを行う場合などにおいて、係合装置が係合状態にされることを示している。また、「△」は、一方向に回転する場合には解放状態となり、他方向に回転する場合には係合状態となることを示している。
【0034】
図5は、変速装置TMの速度線図である。この速度線図において、縦軸は、各回転要素の回転速度に対応している。すなわち、縦軸に対応して記載している「0」は回転速度がゼロであることを示しており、上側が正回転(回転速度が正)、下側が負回転(回転速度が負)である。そして、並列配置された複数本の縦線のそれぞれが、第一遊星歯車装置P1の各回転要素及び第二遊星歯車装置P2の各回転要素に対応している。すなわち、各縦線の上側に記載されている「S1」、「CA1」、「R1」はそれぞれ第一遊星歯車装置P1のサンギヤS1、キャリアCA1、リングギヤR1に対応している。また、各縦線の上側に記載されている「S2」、「CA2」、「R2」、「S3」はそれぞれ第二遊星歯車装置P2の第一サンギヤS2、キャリアCA2、リングギヤR2、第二サンギヤS3に対応している。また、並列配置された複数本の縦線間の間隔は、各遊星歯車装置P1、P2のギヤ比λ(サンギヤとリングギヤとの歯数比=〔サンギヤの歯数〕/〔リングギヤの歯数〕)に基づいて定まっている。
【0035】
また、「△」は、当該回転要素が内燃機関ENGに駆動連結される入力軸Iに連結された状態を示している。「×」は、第一ブレーキB1、第二ブレーキB2又はワンウェイクラッチFにより各回転要素がケースCSに固定された状態を示している。「☆」は、当該回転要素が車輪に駆動連結された出力ギヤOに連結された状態を示している。なお、それぞれの「☆」に隣接して記載された「1st」、「2nd」、「3rd」、「4th」、「5th」、「6th」、及び「Rev」は、それぞれ変速装置TMに形成される変速段に対応している。
【0036】
図4及び図5に示すように、第一変速段1stは、第一クラッチC1及びワンウェイクラッチFが係合されて形成される。具体的には、第一クラッチC1が係合状態では、第一遊星歯車装置P1のリングギヤR1に入力される入力軸Iの回転駆動力がギヤ比λ1に基づいて減速されて第二遊星歯車装置P2の第二サンギヤS3に伝達される。そして、第一クラッチC1が係合状態で、入力軸Iから出力ギヤOへの回転駆動力が伝達されて第二遊星歯車装置P2のキャリアCA2が負回転する際に、ワンウェイクラッチFが係合状態となってケースCSに固定され、第二サンギヤS3の回転駆動力がギヤ比λ3に基づいて減速されて出力ギヤOに伝達される。なお、出力ギヤOから入力軸Iへの回転駆動力が伝達されて第二遊星歯車装置P2のキャリアCA2が正回転する際には、ワンウェイクラッチFは解放状態となる。このようにして実現される第一変速段1stは、入力軸Iから出力ギヤOへの回転駆動力は伝達し、出力ギヤOから入力軸Iへの回転駆動力は伝達しない変速段となる。
【0037】
また、第一変速段1stは、第一クラッチC1及び第二ブレーキB2が係合されて形成される。本実施形態では、エンジンブレーキを行うときなどに、第二ブレーキB2が係合されて、ワンウェイクラッチFが空転し係合しない状態でも、第一変速段1stが形成される。具体的には、第一クラッチC1が係合状態で、入力軸Iの回転駆動力がギヤ比λ1に基づいて減速されて第二遊星歯車装置P2の第二サンギヤS3に伝達される。また、第二ブレーキB2が係合状態で、第二遊星歯車装置P2のキャリアCA2がケースCSに固定される。そして、第二サンギヤS3の回転駆動力がギヤ比λ3に基づいてさらに減速されて出力ギヤOに伝達される。
【0038】
第二変速段2ndは、第一クラッチC1及び第一ブレーキB1が係合されて形成される。具体的には、第一クラッチC1が係合状態で、入力軸Iの回転駆動力がギヤ比λ1に基づいて減速されて第二遊星歯車装置P2の第二サンギヤS3に伝達される。また、第一ブレーキB1が係合状態で、第二遊星歯車装置P2の第一サンギヤS2がケースCSに固定される。そして、第二サンギヤS3の回転駆動力がギヤ比λ2及びλ3に基づいてさらに減速されて出力ギヤOに伝達される。
【0039】
第三変速段3rdは、第一クラッチC1及び第三クラッチC3が係合されて形成される。すなわち、第一クラッチC1が係合状態で、入力軸Iの回転駆動力がギヤ比λ1に基づいて減速されて第二遊星歯車装置P2の第二サンギヤS3に伝達される。また、第三クラッチC3が係合状態で、入力軸Iの回転駆動力がギヤ比λ1に基づいて減速されて第二遊星歯車装置P2の第一サンギヤS2に伝達される。そして、第一サンギヤS2と第二サンギヤS3とが同速度で回転することで、ギヤ比λ1に基づいて減速された入力軸Iの回転駆動力がそのまま出力ギヤOに伝達される。
【0040】
第四変速段4thは、第一クラッチC1及び第二クラッチC2が係合されて形成される。すなわち、第一クラッチC1が係合状態で、入力軸Iの回転駆動力がギヤ比λ1に基づいて減速されて第二遊星歯車装置P2の第二サンギヤS3に伝達される。また、第二クラッチC2が係合状態で、入力軸Iの回転駆動力がそのまま第二遊星歯車装置P2のキャリアCA2に伝達される。そして、キャリアCA2及び第二サンギヤS3の回転速度とギヤ比λ3とに基づいて決まる入力軸Iの回転駆動力が出力ギヤOに伝達される。
【0041】
第五変速段5thは、第二クラッチC2及び第三クラッチC3が係合されて形成される。すなわち、第二クラッチC2が係合状態で、入力軸Iの回転駆動力がそのまま第二遊星歯車装置P2のキャリアCA2に伝達される。また、第三クラッチC3が係合状態で、入力軸Iの回転駆動力がギヤ比λ1に基づいて減速されて第二遊星歯車装置P2の第一サンギヤS2に伝達される。そして、第一サンギヤS2及びキャリアCA2の回転速度とギヤ比λ2とに基づいて決まる入力軸Iの回転駆動力が出力ギヤOに伝達される。
【0042】
第六変速段6thは、第二クラッチC2及び第一ブレーキB1が係合されて形成される。すなわち、第二クラッチC2が係合状態で、入力軸Iの回転駆動力がそのまま第二遊星歯車装置P2のキャリアCA2に伝達される。また、第一ブレーキB1が係合状態で、第二遊星歯車装置P2の第一サンギヤS2がケースCSに固定される。そして、キャリアCA2の回転駆動力がギヤ比λ2に基づいて増速されて出力ギヤOに伝達される。
【0043】
後進段Revは、第三クラッチC3及び第二ブレーキB2が係合されて形成される。すなわち、第三クラッチC3が係合状態で、入力軸Iの回転駆動力がギヤ比λ1に基づいて減速されて第二遊星歯車装置P2の第一サンギヤS2に伝達される。また、第二ブレーキB2が係合状態で、第二遊星歯車装置P2のキャリアCA2がケースCSに固定される。そして、第一サンギヤS2の回転駆動力がギヤ比λ2に基づいて減速されるとともに回転方向が逆転されて出力ギヤOに伝達される。
【0044】
以上のように、本実施形態に係る変速装置TMは、少なくとも第一クラッチC1の係合により形成される変速段として、第一変速段1st、第二変速段2nd、第三変速段3rd、及び第四変速段4thを備えている。また、変速装置TMは、少なくとも第二クラッチC2の係合により形成される変速段として、第四変速段4th、第五変速段5th、及び第六変速段6thを備えている。これらの各変速段は、入力軸Iと出力ギヤOとの間の変速比(減速比)が大きい順に、第一変速段1st、第二変速段2nd、第三変速段3rd、第四変速段4th、第五変速段5th、及び第六変速段6thとなっている。
【0045】
<摩擦係合装置>
本実施形態では、変速装置TMが有するワンウェイクラッチFを除く複数の係合装置C1、C2、C3、B1、B2は、いずれも摩擦係合装置とされている。具体的には、これらは油圧により動作する多板式クラッチや多板式ブレーキにより構成されている。これらの係合装置C1、C2、C3、B1、B2は、油圧制御装置PCから供給される油圧により、係合の状態が制御される。なお、ロックアップクラッチLCも摩擦係合装置である。
【0046】
摩擦係合装置は、その係合部材間の摩擦により、係合部材間でトルクを伝達する。摩擦係合装置の係合部材間に回転速度差(滑り)がある場合は、動摩擦により回転速度の大きい方の部材から小さい方の部材に伝達トルク容量の大きさのトルク(スリップトルク)が伝達される。摩擦係合装置の係合部材間に回転速度差(滑り)がない場合は、摩擦係合装置は、伝達トルク容量の大きさを上限として、静摩擦により摩擦係合装置の係合部材間に作用するトルクを伝達する。ここで、伝達トルク容量とは、摩擦係合装置が摩擦により伝達することができる最大のトルクの大きさである。伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合装置の係合圧に比例して変化する。係合圧とは、入力側係合部材(摩擦板)と出力側係合部材(摩擦板)とを相互に押し付け合う圧力である。本実施形態では、係合圧は、供給されている油圧の大きさに比例して変化する。すなわち、本実施形態では、伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合装置に供給されている油圧の大きさに比例して変化する。
【0047】
各摩擦係合装置は、リターンばねを備えており、ばねの反力により解放側に付勢されている。そして、各摩擦係合装置の油圧シリンダに供給される油圧により生じる力がばねの反力を上回ると、各摩擦係合装置に伝達トルク容量が生じ始め、各摩擦係合装置は、解放状態から係合状態に変化する。この伝達トルク容量が生じ始めるときの油圧を、ストロークエンド圧と称す。各摩擦係合装置は、供給される油圧がストロークエンド圧を上回った後、油圧の増加に比例して、その伝達トルク容量が増加するように構成されている。なお、摩擦係合装置は、リターンばねを備えておらず、油圧シリンダのピストンの両側にかかる油圧の差圧によって制御させる構造でもよい。
【0048】
本実施形態において、係合状態とは、係合装置に伝達トルク容量が生じている状態であり滑り係合状態と直結係合状態とが含まれる。解放状態とは、係合装置に伝達トルク容量が生じていない状態である。また、滑り係合状態とは、係合装置の係合部材間に回転速度差(滑り)がある係合状態であり、直結係合状態とは、係合装置の係合部材間に回転速度差(滑り)がない係合状態である。また、非直結係合状態とは、直結係合状態以外の係合状態であり、解放状態と滑り係合状態とが含まれる。
【0049】
なお、摩擦係合装置には、制御装置30により伝達トルク容量を生じさせる指令が出されていない場合でも、係合部材(摩擦部材)同士の引き摺りによって伝達トルク容量が生じる場合がある。例えば、ピストンにより摩擦部材同士が押圧されていない場合でも、摩擦部材同士が接触し、摩擦部材同士の引き摺りによって伝達トルク容量が生じる場合がある。そこで、「解放状態」には、制御装置30が摩擦係合装置に伝達トルク容量を生じさせる指令を出していない場合に、摩擦部材同士の引き摺りにより、伝達トルク容量が生じている状態も含まれるものとする。
【0050】
<回転電機MG>
回転電機MGは、非回転部材に固定されたステータと、このステータと対応する位置で径方向内側に回転自在に支持されたロータと、を有している。回転電機MGのロータは、変速装置TMを介さずに車輪Wに駆動連結されている。本実施形態では、図1に示すように、回転電機MGは、変速装置TMが駆動連結された後輪ではなく、前輪に駆動連結されている。回転電機MGは、直流交流変換を行うインバータを介して蓄電装置としてのバッテリに電気的に接続されている。そして、回転電機MGは、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能と、を果たすことが可能とされている。すなわち、回転電機MGは、インバータを介してバッテリからの電力供給を受けて力行し、或いは車輪Wから伝達される回転駆動力により発電し、発電された電力は、インバータを介してバッテリに蓄電される。ここで、車輪Wから伝達される回転駆動力には、車輪W及び路面を介して伝達された内燃機関ENGの駆動力も含まれる。
【0051】
2.油圧制御装置PCの構成
車両用駆動装置1の油圧制御系は、車両の駆動力源や専用のモータによって駆動されるオイルポンプMP、EPから供給される作動油の油圧を所定圧に調整するための油圧制御装置PCを備えている。油圧制御装置PCは、各係合装置C1、B1・・・、LCなどに対して供給される油圧を調整するための複数のリニアソレノイド弁などの油圧制御弁を備えている。油圧制御弁は、制御装置30から供給される油圧指令の信号値に応じて弁の開度を調整することにより、当該信号値に応じた油圧の作動油を各係合装置C1、B1・・・、SSCなどに供給する。制御装置30から各リニアソレノイド弁に供給される信号値は電流値とされている。そして、各リニアソレノイド弁から出力される油圧は、基本的に制御装置30から供給される電流値に比例する。
油圧制御装置PCは、油圧調整用のリニアソレノイド弁から出力される油圧(信号圧)に基づき一又は二以上の調整弁の開度を調整することにより、当該調整弁からドレインする作動油の量を調整して作動油の油圧を一又は二以上の所定圧に調整する。所定圧に調整された作動油は、それぞれ必要とされるレベルの油圧で、変速装置TMが有する複数の係合装置C1、B1・・・及びロックアップクラッチLC等に供給される。
【0052】
3.制御装置の構成
次に、車両用駆動装置1の制御を行う制御装置30及び内燃機関制御装置31の構成について、図3を参照して説明する。
制御装置30の制御ユニット32〜34及び内燃機関制御装置31は、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えるとともに、当該演算処理装置(コンピュータ)からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)等の記憶装置等を有して構成されている。そして、制御装置のROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、制御装置30の各機能部41〜46などが構成されている。また、制御装置30の制御ユニット32〜34及び内燃機関制御装置31は、互いに通信を行うように構成されており、センサの検出情報及び制御パラメータ等の各種情報を共有するとともに協調制御を行い、各機能部41〜46の機能が実現される。
【0053】
また、車両用駆動装置1は、センサSe1〜Se5などのセンサを備えており、各センサから出力される電気信号は制御装置30及び内燃機関制御装置31に入力される。制御装置30及び内燃機関制御装置31は、入力された電気信号に基づき各センサの検出情報を算出する。
【0054】
入力回転速度センサSe1は、入力軸Iの回転速度を検出するためのセンサである。制御装置30は、入力回転速度センサSe1の入力信号に基づいて入力軸Iの回転速度(角速度)を検出する。出力回転速度センサSe2は、出力ギヤOの回転速度を検出するためのセンサである。制御装置30は、出力回転速度センサSe2の入力信号に基づいて出力ギヤOの回転速度(角速度)を検出する。また、出力ギヤOの回転速度は車速に比例するため、制御装置30は、出力回転速度センサSe2の入力信号に基づいて車速を算出する。機関回転速度センサSe3は、内燃機関出力軸Eo(内燃機関ENG)の回転速度を検出するためのセンサである。内燃機関制御装置31は、機関回転速度センサSe3の入力信号に基づいて内燃機関ENGの回転速度(角速度)を検出する。
【0055】
シフト位置センサSe4は、運転者により操作されるシフトレバーの選択位置(シフト位置)を検出するためのセンサである。制御装置30は、シフト位置センサSe4の入力信号に基づいてシフト位置を検出する。シフトレバーは、パーキングレンジ(Pレンジ)、後進走行レンジ(Rレンジ)、ニュートラルレンジ(Nレンジ)、前進走行レンジ(Dレンジ)などに選択可能とされている。また、シフトレバーは、Dレンジの一種として、形成する前進変速段の範囲を制限する「2レンジ」や「Lレンジ」などの変速段制限レンジが選択可能に構成されている。また、シフトレバーは、Dレンジを選択しているときに、変速装置TMに対してアップシフトを要求する「アップシフト要求スイッチ」やダウンシフトを要求する「ダウンシフト要求スイッチ」を操作可能に構成されている。
アクセル開度センサSe5は、アクセルペダルの操作量を検出するためのセンサである。制御装置30は、アクセル開度センサSe5の入力信号に基づいてアクセル開度を検出する。
【0056】
3−1.車両制御ユニット34
車両制御ユニット34は、統合制御部46を備えている。統合制御部46は、内燃機関ENG、回転電機MG、変速装置TM、及びロックアップクラッチLC等に対して行われる各種トルク制御、及び各係合装置の係合制御等を車両全体として統合する制御を行う。
統合制御部46は、アクセル開度、車速、及びバッテリの充電量等に応じて、車輪Wの駆動のために要求されているトルクであって、駆動力源側から車輪W側に伝達される目標駆動力である車両要求トルクを算出するとともに、内燃機関ENG及び回転電機MGの運転モードを決定する。運転モードとして、回転電機MGのみを駆動力源として走行する電動モードと、少なくとも内燃機関ENGを駆動力源として走行するパラレルモードと、を有する。例えば、アクセル開度が小さく、バッテリの充電量が大きい場合に、運転モードとして電動モードが決定され、それ以外の場合、すなわちアクセル開度が大きい、もしくはバッテリの充電量が小さい場合に、運転モードとしてパラレルモードが決定される。
【0057】
そして、統合制御部46は、車両要求トルク、運転モード、及びバッテリの充電量等に基づいて、内燃機関ENGに対して要求する出力トルクである内燃機関要求トルク、回転電機MGに対して要求する出力トルクである回転電機要求トルク、及びロックアップクラッチLCに供給する油圧の目標である油圧指令、及び変速装置TMの目標変速段を算出し、それらを他の制御ユニット32、33及び内燃機関制御装置31に指令して統合制御を行う。なお、内燃機関要求トルクは、パラレルモードにおいて、アクセル開度以外のパラメータである車速及びバッテリの充電量等が変化しない条件では、アクセル開度に比例する。
【0058】
<目標変速段の決定>
統合制御部46は、車速、変速入力要求トルク、及びシフト位置に基づいて、変速装置TMにおける目標変速段を決定する。ここで、変速入力要求トルクは、変速装置TMの入力軸Iに伝達される駆動力源の要求トルクであって、本実施形態では、内燃機関要求トルクとされる。
統合制御部46は、ROM等に格納された図6に示すような変速マップを参照し、車速及び内燃機関要求トルクに基づいて目標変速段を決定する。変速マップには複数のアップシフト線(実線)と複数のダウンシフト線(破線)とが設定されており、車速及び内燃機関要求トルクが変化して変速マップ上でアップシフト線又はダウンシフト線を跨ぐと、統合制御部46は、変速装置TMにおける新たな目標変速段を決定する。図6において、各シフト線に対応して示されている数字は第一変速段1stから第六変速段6thの各変速段を表しており、例えば、「5−6」は、第五変速段5thから第六変速段6thへのアップシフトを表しており、「6−5」は、第六変速段6thから第五変速段5thへのダウンシフトを表している。
【0059】
なお、統合制御部46は、シフト位置として「2レンジ」や「Lレンジ」などの変速段制限レンジが選択されている場合は、各レンジに応じた変速マップを用い、車速及び内燃機関要求トルクとに基づいて、各レンジにおいて選択可能な変速段を目標変速段として決定する。統合制御部46は、「Rレンジ」が選択されている場合は、後進段Revを目標変速段に決定する。統合制御部46は、「Pレンジ」又は「Nレンジ」が選択されている場合には、全ての係合装置C1、C2、・・・を解放状態にするニュートラル状態を目標変速段に決定する。この、ニュートラル状態を、便宜上、ニュートラル段と称す。
また、統合制御部46は、運転者によるシフト位置の変更により、アップシフト要求又はダウンシフト要求があった場合に、目標変速段を変更する場合がある。なお、ダウンシフトとは変速比の小さい変速段から変速比の大きい変速段への変更を意味し、アップシフトとは変速比の大きい変速段から変速比の小さい変速段への変更を意味する。
【0060】
3−2.内燃機関制御装置31
内燃機関制御装置31は、内燃機関ENGの動作制御を行う内燃機関制御部41を備えている。本実施形態では、内燃機関制御部41は、統合制御部46から内燃機関要求トルクが指令されている場合は、内燃機関ENGが内燃機関要求トルクを出力するように制御するトルク制御を行う。
【0061】
内燃機関制御部41は、ニュートラル走行制御部44などから内燃機関ENGの回転停止指令があった場合は、内燃機関ENGへの燃料供給や点火などを停止して、内燃機関ENGを回転停止状態にする。
また、内燃機関制御部41は、ニュートラル走行制御部44などから始動指令があった場合は、スタータ13に電力を供給するリレー回路をオンにするなどして、スタータ13に電力を供給させて内燃機関ENGを回転させると共に、内燃機関ENGへの燃料供給及び点火などを開始して、内燃機関ENGの燃焼を開始させる。
【0062】
3−3.回転電機制御ユニット32
回転電機制御ユニット32は、回転電機MGの動作制御を行う回転電機制御部42を備えている。本実施形態では、回転電機制御部42は、統合制御部46から回転電機要求トルクが指令されている場合は、回転電機MGが回転電機要求トルクを出力するように制御する。具体的には、回転電機制御部42は、インバータが備える複数のスイッチング素子をオンオフ制御することにより、回転電機MGの出力トルクを制御する。
【0063】
3−4.動力伝達制御ユニット33
動力伝達制御ユニット33は、変速装置TMの制御を行う変速制御部43と、ロックアップクラッチLCの制御を行うロックアップ制御部45と、を備えている。
【0064】
3−4−1.ロックアップ制御部45
ロックアップ制御部45は、ロックアップクラッチLCの係合の状態を制御する。本実施形態では、ロックアップ制御部45は、ロックアップクラッチLCに供給される油圧が、統合制御部46から指令されたロックアップクラッチLCの油圧指令に一致するように、油圧制御装置PCに備えられた各リニアソレノイド弁に供給される信号値を制御する。
【0065】
3−4−2.変速制御部43
変速制御部43は、変速装置TMが備えた複数の係合装置C1、B1、・・の係合及び解放を制御して、変速装置TMの状態を制御する。
本実施形態では、変速制御部43は、油圧制御装置PCを介して変速装置TMに備えられた複数の係合装置C1、B1・・・に供給される油圧を制御することにより、各係合装置C1、B1・・・を係合又は解放して、統合制御部46から指令された目標変速段を変速装置TMに形成させる。具体的には、変速制御部43は、油圧制御装置PCに各係合装置の目標油圧(油圧指令)を指令し、油圧制御装置PCは、指令された目標油圧(油圧指令)に応じた油圧を各係合装置に供給する。本実施形態では、変速制御部43は、油圧制御装置PCが備えた各油圧制御弁に供給される信号値を制御することにより、各係合装置に供給される油圧を制御するように構成されている。
【0066】
変速制御部43は、変速段を切り替える変速制御を行なう場合は、各係合装置C1、B1・・・の油圧指令を制御して、各係合装置C1、B1・・・の係合又は解放を行い、変速装置TMに形成させる変速段を目標変速段に切り替える。この際、変速制御部43は、変速段の切り替えのために解放される係合装置である解放側係合装置、及び変速段の切り替えのために係合される係合装置である係合側係合装置を設定する。そして、変速制御部43は、予め計画された変速制御のシーケンスに従い、解放側係合装置を解放させると共に係合側係合装置を係合させる、いわゆるつなぎ替え変速を行う。
【0067】
3−4−2−1.ニュートラル走行制御部44
3−4−2−1−1.ニュートラル走行制御
変速制御部43は、ニュートラル走行制御部44を備えている。
ニュートラル走行制御部44は、車輪Wの回転中に、複数の係合装置C1、B1、・・・の全てを解放状態に制御して変速装置TMを駆動力の伝達を行わないニュートラル状態とするように制御するニュートラル走行制御を行う。ニュートラル状態では、変速装置TMにいずれの変速段も形成されておらず、変速装置TMの入力軸Iと出力ギヤOとの間で駆動力の伝達を行わない。
本実施形態では、ニュートラル走行制御部44は、油圧制御装置PCに指令する、全ての係合装置C1、B1、・・・の目標油圧(油圧指令)を、各係合装置が解放状態になる油圧(例えばゼロ)まで低下させる。
【0068】
本実施形態では、ニュートラル走行制御部44は、ニュートラル走行制御の実行中は、内燃機関ENGの回転を停止させるため、内燃機関制御部41に対して回転停止指令を伝達するように構成されている。なお、ニュートラル走行制御部44は、ニュートラル走行制御の実行中に、内燃機関ENGを回転停止状態にさせず、アイドリング運転状態に制御させるように構成されてもよい。
【0069】
<ニュートラル走行制御条件の判定>
ニュートラル走行制御は、例えば、車輪Wの回転中に、車速等に応じた車両の走行抵抗に対して車両要求トルクが微小となる所定の緩やかな減速運転状態となった場合等に実行される。ニュートラル走行制御中は、内燃機関ENGと車輪Wとの間の駆動連結が非連結状態になり、車両は空走状態になる。このニュートラル走行制御中は、エンジンブレーキが働かない状態となり、車両の走行抵抗による緩やかな車両の減速が実現される。ここで、エンジンブレーキが働く状態とは、車輪Wの回転により内燃機関ENGが回転駆動されて、内燃機関ENGの回転抵抗により出力ギヤOに負の駆動力が伝達される状態である。
【0070】
ニュートラル走行制御部44は、少なくとも車速及び運転者要求に基づいて、ニュートラル走行制御条件が成立しているか否かの判定を行う。本実施形態では、運転者要求は、アクセル開度及びシフト位置による変速段の指定とされている。
ここで、ニュートラル走行制御条件は、本例では車速、アクセル開度、及びシフト位置に基づいて予め定められている。例えば、車速がゼロより大きく、アクセル開度が車速に応じて設定される所定範囲内であり且つ、シフト位置が「Dレンジ」であることが、ニュートラル走行制御条件として定められている。ニュートラル走行制御部44は、ニュートラル走行制御条件が満たされた場合に、ニュートラル走行制御条件が成立したと判定する。一方、ニュートラル走行制御部44は、運転者がアクセルペダルを踏み込む等して、アクセル開度が所定範囲外になった場合、もしくは、運転者がシフト位置を「Dレンジ」以外のレンジ、例えば「2レンジ」等に変更した場合等、ニュートラル走行制御条件が満たされなくなった場合は、ニュートラル走行制御条件が不成立となったと判定する。
【0071】
3−4−2−1−2.通常走行への復帰
ニュートラル走行制御部44は、ニュートラル走行制御中に、アクセル開度の増加などにより、ニュートラル走行制御条件が不成立となった場合に、変速装置TMに変速段を形成させて通常走行に復帰させる復帰制御を実行する。
本実施形態では、ニュートラル走行制御部44は、目標変速段が、後述する判定実行変速段(本例では、第三変速段3rdが該当)でない場合は、目標変速段を変速装置TMに形成させるように構成されている。なお、目標変速段は、上記のように、統合制御部46により車速、変速入力要求トルク、及びシフト位置に基づいて決定された目標の変速段である。
【0072】
ニュートラル走行制御部44は、復帰制御により、変速段を変速装置TMに形成させる際に、後述する低変速比段(4th〜6th)又は高変速比段(1st〜3rd)のいずれか、形成させる変速段が属する方の共通係合装置(第二クラッチC2又は第一クラッチC1)を先に係合させ、その後、変速段を形成する残りの係合装置を係合させるように構成されている。
【0073】
3−4−2−1−2−1.第一係合圧増加制御及び第二係合制御判定
一方、ニュートラル走行制御部44は、復帰制御を実行する際に、目標変速段が判定実行変速段(第三変速段3rd)である場合は、第一係合圧増加制御及び第二係合制御判定を実行するように構成されている。
以下で、第一係合圧増加制御及び第二係合制御判定について詳細に説明する。
【0074】
<変速装置TMの構成>
まず、第一係合圧増加制御及び第二係合制御判定に係る本実施形態の変速装置TMについて説明する。
変速装置TMは、図4の作動表に示すように、予め定められた複数の変速段である低変速比段(本例では、4th、5th、6thが該当)において共通して係合される第一係合装置(本例では、第二クラッチC2が該当)と、低変速比段(4th〜6th)よりも変速比が高い複数の変速段である高変速比段(本例では、1st、2nd、3rdが該当)において共通して係合される第三係合装置(本例では、第一クラッチC1が該当)と、を備えている。また、変速装置TMは、第一係合装置(第二クラッチC2)の係合と第二係合装置(本例では、第一ブレーキB1が該当)の係合により形成される低変速比段(4th〜6th)の一つの変速段である第一特定変速比段(本例では、第六変速段6thが該当)と、第二係合装置(第一ブレーキB1)の係合と第三係合装置(第一クラッチC1)の係合により形成される高変速比段(1st〜3rd)の一つの変速段である第二特定変速比段(本例では、第二変速段2ndが該当)と、を備えている。
【0075】
<第二係合装置(第一ブレーキB1)の固着>
このような構成を有する変速装置TMでは、何らかの要因で第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合状態で固着していると、復帰制御を行う際、高変速比段(1st〜3rd)の中の一つの変速段(目標変速段)を形成するため、高変速比段(1st〜3rd)の共通係合装置である第三係合装置(第一クラッチC1)を係合すると、第二特定変速段(第二変速段2nd)が意図せず形成され、一方、低変速比段(4th〜6th)の中の一つの変速段(目標変速段)を形成するため、低変速比段(4th〜6th)の共通係合装置である第一係合装置(第二クラッチC2)を係合すると、第一特定変速段(第六変速段6th)が意図せず形成される。すなわち、第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合状態で固着していると、復帰制御を行う際に形成する変速段(目標変速段)が、高変速比段(1st〜3rd)の変速段であるか、低変速比段(4th〜6th)の変速段であるかによって、意図せず形成される変速段が、第二特定変速段(第二変速段2nd)と第一特定変速段(第六変速段6th)とで異なる。
【0076】
なお、係合装置における係合状態での固着(係合固着とも称す)は、係合装置の係合部材(摩擦板)同士が、摩擦熱による溶着などにより固着したり、係合装置に油圧を供給する油圧制御弁が開弁状態で故障したり、係合装置の油圧ピストンなどのアクチュエータが係合位置で固着したりするなどして生じる。
【0077】
このような構成において、目標変速段が、高変速比段(1st〜3rd)の中で第二特定変速比段(第二変速段2nd)よりも変速比の小さい変速段である判定実行変速段(本例では、第三変速段3rdが該当)である場合は、第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合固着している状態で、高変速比段(1st〜3rd)の共通係合装置である第三係合装置(第一クラッチC1)を係合させると、目標変速段が第三変速段3rdであるにもかかわらず、より変速比の大きい第二特定変速段(第二変速段2nd)が意図せず形成される。目標変速段より変速比の大きい変速段が形成されることにより、変速装置TMの入力軸Iの回転速度が、目標変速段(第三変速段3rd)が形成される場合よりも上昇する。これにより、駆動力源から入力軸Iに伝達される駆動力が低下して、車輪Wに伝達されるトルクが低下する又は増加しない恐れがあった。よって、アクセル開度を増加させるなどした運転者に違和感を与える恐れがあった。
【0078】
具体的には、トルクコンバータTCのロックアップクラッチLCが解放状態である場合は、入力軸Iの回転速度が内燃機関ENGの回転速度に対して増加して、トルクコンバータTCを介して入力軸Iに伝達される内燃機関ENGの駆動力が低下し、ロックアップクラッチLCが係合状態である場合は、内燃機関ENGの回転速度が吹き上がり、エンジンブレーキの負トルクが入力軸Iに伝達される。
【0079】
一方、第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合固着している状態で、高変速比段(1st〜3rd)ではなく低変速比段(4th〜6th)の共通係合装置である第一係合装置(第二クラッチC2)を係合させると、目標変速段(第三変速段3rd)より変速比の小さい第一特定変速段(第六変速段6th)が形成される。このため、変速装置TMの入力軸Iの回転速度が、目標変速段(第三変速段3rd)が形成される場合よりも低下する。これにより、駆動力源から入力軸Iに伝達される駆動力が増加して、車輪Wに伝達されるトルクが増加する。よって、アクセル開度を増加させるなどした運転者に与える違和感を抑制できる。
【0080】
従って、目標変速段が、高変速比段(1st〜3rd)の中で第二特定変速比段(第二変速段2nd)よりも変速比の小さい変速段である判定実行変速段(第三変速段3rd)である場合は、第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合固着している場合に、車輪Wへの伝達トルクが低下することを抑制するため、目標変速段(第三変速段3rd)が属する高変速比段(1st〜3rd)の共通係合装置である第三係合装置(第一クラッチC1)でなく、低変速比段(4th〜6th)の共通係合装置である第一係合装置(第二クラッチC2)を係合することが望ましい。また、第三係合装置(第一クラッチC1)でなく、第一係合装置(第二クラッチC2)を係合させる際に、第一特定変速段(第六変速段6th)が形成されるか否かを判定することにより、第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合固着しているか否かを判定することが望ましい。
【0081】
<第一係合圧増加制御及び第二係合正常判定の実行条件>
従って、ニュートラル走行制御部44は、復帰制御を行う際に、目標変速段が、高変速比段(1st〜3rd)の中で第二特定変速比段(第二変速段2nd)よりも変速比の小さい変速段である判定実行変速段(本例では、第三変速段3rdが該当)である場合は、目標変速段(第三変速段3rd)を形成する前に、第一係合装置(第二クラッチC2)の係合圧を増加させる第一係合圧増加制御を行うと共に、第一特定変速段(第六変速段6th)が形成されるか否かを判定する第二係合正常判定を行うように構成されている。
【0082】
<第一係合圧増加制御>
ニュートラル走行制御部44は、第一係合装置(第二クラッチC2)の係合圧を増加させる第一係合圧増加制御を行う。
本実施形態では、ニュートラル走行制御部44は、復帰制御において変速段を形成するために、第一係合装置(第二クラッチC2)を係合させる場合と同様の方法で、第一係合装置(第二クラッチC2)の係合圧を増加させる。具体的には、ニュートラル走行制御部44は、第一係合装置(第二クラッチC2)の係合圧を次第に増加させる。
【0083】
<第二係合正常判定>
ニュートラル走行制御部44は、第一係合圧増加制御により、駆動力源側に駆動連結された変速装置TMの入力軸Iの回転速度が、変速装置TMに第一特定変速比段(第六変速段6th)が形成された場合の入力軸Iの回転速度である同期回転速度に近づいた場合に、第二係合装置(第一ブレーキB1)が解放状態に制御されているにもかかわらず係合状態であると判定し、それ以外の場合は、第二係合装置(第一ブレーキB1)が解放状態であると判定する第二係合正常判定を行う。
【0084】
<判定方法>
本実施形態では、ニュートラル走行制御部44は、出力ギヤOの回転速度に第一特定変速比段(第六変速段6th)の変速比を乗算して、第一特定変速比段(第六変速段6th)の同期回転速度を算出する。
ニュートラル走行制御部44は、入力軸Iの回転速度と第一特定変速比段(第六変速段6th)の同期回転速度との回転速度差が、予め定めた判定回転速度差以下になった場合に、第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合状態であると判定し、判定回転速度差より大きい場合は、第二係合装置(第一ブレーキB1)が解放状態であると判定する。
【0085】
本実施形態では、ニュートラル走行制御部44は、係合状態であると判定する場合は、入力軸Iの回転速度と第一特定変速比段(第六変速段6th)の同期回転速度との回転速度差が、予め定めた判定回転速度差以下になっている期間が、予め定めた判定期間以上になった場合に、第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合状態であると判定する確認期間を設けるように構成されている。なお、確認期間が設けられていなくてもよい。
【0086】
<判定タイミング>
本実施形態では、ニュートラル走行制御部44は、第一係合装置(第二クラッチC2)の係合圧が、第一特定変速比段(第六変速段6th)を形成可能な係合圧である判定係合圧まで増加した後に、第二係合正常判定を行うように構成されている。
【0087】
ここで、ニュートラル走行制御部44は、変速装置TMの入力軸Iに伝達される要求トルクである変速入力要求トルクを、第一係合装置(第二クラッチC2)が、第一特定変速比段(第六変速段6th)を形成して、出力ギヤO側に伝達可能な第一係合装置(第二クラッチC2)の係合圧を判定係合圧として設定する。
具体的には、ニュートラル走行制御部44は、変速入力要求トルクに、第一特定変速比段(第六変速段6th)が形成された場合に第一係合装置(第二クラッチC2)に作用するギヤ比を乗算して第一係合装置(第二クラッチC2)の作用トルクを算出し、当該作用トルクを第一係合装置(第二クラッチC2)の係合圧(指令油圧)に変換して、判定係合圧を設定する。
【0088】
第一係合装置(第二クラッチC2)の係合圧が、判定係合圧まで増加すると、第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合固着していても、第一係合装置(第二クラッチC2)が係合可能(直結係合状態に移行可能)になり、第一特定変速比段(第六変速段6th)が係合装置の直結係合状態で形成可能になる。第一特定変速比段(第六変速段6th)が直結係合状態で形成されると、入力軸Iの回転速度は、第一特定変速比段(第六変速段6th)の同期回転速度に一致する。
よって、第一係合装置(第二クラッチC2)の係合圧が、判定係合圧まで増加した後に、第二係合正常判定を行うことで、第二係合正常判定の判定精度を向上させることができる。
【0089】
3−4−2−1−2−2.第二係合正常判定後の変速段の形成
ニュートラル走行制御部44は、第二係合正常判定により第二係合装置(第一ブレーキB1)が解放状態であると判定した場合は、変速装置TMに、判定実行変速段である目標変速段(第三変速段3rd)を形成させる。一方、ニュートラル走行制御部44は、第二係合正常判定により第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合状態であると判定した場合は、変速装置TMに第一特定変速比段(第六変速段6th)を形成させる。
【0090】
<解放判定の場合>
本実施形態では、ニュートラル走行制御部44は、第二係合装置(第一ブレーキB1)が解放状態であると判定した場合は、判定実行変速段である目標変速段(第三変速段3rd)が属する高変速比段(1st〜3rd)の共通係合装置である第三係合装置(第一クラッチC1)の係合圧の増加を開始し、その後、目標変速段(第三変速段3rd)を形成する残りの係合装置である第四係合装置(本例では、第三クラッチC3)の係合圧の増加を開始するように構成されている。そして、ニュートラル走行制御部44は、係合圧の増加により、第三係合装置(第一クラッチC1)及び第四係合装置(第三クラッチC3)を直結係合状態に移行させて、目標変速段(第三変速段3rd)を形成させる。
このように、判定実行変速段(第三変速段3rd)は、第三係合装置(第一クラッチC1)の係合と、第四係合装置(第三クラッチC3)の係合により形成される。
【0091】
また、ニュートラル走行制御部44は、第二係合装置(第一ブレーキB1)が解放状態であると判定した場合は、第一係合装置(第二クラッチC2)の係合圧の増加を中止し、第一係合装置(第二クラッチC2)の係合圧を減少させて、第一係合装置(第二クラッチC2)を解放させるように構成されている。
【0092】
<係合判定の場合>
一方、ニュートラル走行制御部44は、第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合状態であると判定した場合は、第一係合装置(第二クラッチC2)の係合圧の増加を継続し、第一係合装置(第二クラッチC2)を直結係合状態に移行させるように構成されている。
また、ニュートラル走行制御部44は、第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合状態であると判定した場合は、第二係合装置(第一ブレーキB1)の係合圧を増加させるように構成されている。このように、ニュートラル走行制御部44は、係合圧の増加により、第一係合装置(第二クラッチC2)及び第二係合装置(第一ブレーキB1)を、より確実に直結係合状態に移行させて、第一特定変速比段(第六変速段6th)を形成させる。
【0093】
本実施形態では、ニュートラル走行制御部44は、第一特定変速比段(第六変速段6th)を形成させた後、第二係合装置(第一ブレーキB1)以外の係合装置の係合により形成される判定用変速段を形成させるように制御し、判定用変速段を形成することができない場合は、第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合状態となる故障が発生していると判定するように構成されている。
【0094】
このように、判定用変速段を形成させるために、第二係合装置(第一ブレーキB1)以外の係合装置の係合圧を増加させることにより、変速装置TMの遊星歯車機構の回転要素及び回転部材を介して、第二係合装置(第一ブレーキB1)に解放側の力を加えることができる。解放側の力を加えても、第二係合装置(第一ブレーキB1)が解放されず、判定用変速段が形成されない場合は、第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合固着しているとより確実に判定することができる。また、係合固着の状態によっては、第二係合装置(第一ブレーキB1)を係合固着している状態から解放状態に回復することも可能である。
【0095】
本実施形態では、ニュートラル走行制御部44は、判定用変速段を形成する係合装置の係合圧を増加した後、入力軸Iの回転速度が、判定用変速段の同期回転速度に一致した場合は、判定用変速段を形成することができたと判定し、入力軸Iの回転速度が、判定用変速段の同期回転速度に一致せずに、第一特定変速比段(第六変速段6th)の同期回転速度に一致しているままである場合は、判定用変速段を形成することができなかったと判定するように構成されている。
【0096】
判定用変速段は、第二特定変速比段(第二変速段2nd)が属する高変速比段(1st〜3rd)の共通係合装置である第三係合装置(第一クラッチC1)の係合により形成される変速段(本例では、1stから4thが該当)以外の変速段であり、且つ、判定実行変速段である目標変速段(第三変速段3rd)よりも変速比の小さい変速段(本例では、4thから6th)であり、且つ、第一特定変速比段(第六変速段6th)以外の変速段(本例では、1stから5th)である変速段(本例では、第五変速段5thが該当)に設定される。
【0097】
このように設定するのは、高変速比段(1st〜3rd)の共通係合装置である第三係合装置(第一クラッチC1)を係合すると、第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合固着から解放状態にならない場合は、目標変速段(第三変速段3rd)よりも変速比の大きい第二特定変速比段(第二変速段2nd)が形成され、車輪Wに伝達されるトルクが低下する恐れがあるためである。また、目標変速段(第三変速段3rd)よりも変速比の大きい変速段も、車輪Wに伝達されるトルクが低下する恐れがあるためである。
【0098】
3−4−2−1−3.フローチャート
次に、ニュートラル走行制御の処理について、図7のフローチャートを参照して説明する。
まず、ニュートラル走行制御部44は、ステップ♯01で、上記のように、ニュートラル走行制御条件が成立しているか否かを判定する。ニュートラル走行制御部44は、ニュートラル走行制御条件が成立した場合(ステップ♯01:Yes)に、車輪Wの回転中に、複数の係合装置C1、B1、・・・の全てを解放状態に制御して変速装置TMを駆動力の伝達を行わないニュートラル状態とするように制御するニュートラル走行制御を開始する(ステップ♯02)。
【0099】
ニュートラル走行制御部44は、ニュートラル走行制御の実行中に、ニュートラル走行制御条件が不成立となった場合に、変速装置TMに変速段を形成させて通常走行に復帰させる復帰制御を実行すると判定する(ステップ♯03:Yes)。
そして、ニュートラル走行制御部44は、上記のように、目標変速段が判定実行変速段(本例では第三変速段3rd)であるか否かを判定する(ステップ♯04)。
ニュートラル走行制御部44は、目標変速段が判定実行変速段(第三変速段3rd)でないと判定した場合(ステップ♯04:No)は、目標変速段を形成する(ステップ♯14)。
【0100】
一方、ニュートラル走行制御部44は、目標変速段が判定実行変速段(第三変速段3rd)であると判定した場合(ステップ♯04:Yes)は、上記のように、第一係合圧増加制御を開始する(ステップ♯05)と共に、第二係合正常判定を実行する(ステップ♯06)。
ニュートラル走行制御部44は、第二係合正常判定により第二係合装置(第一ブレーキB1)が解放状態であると判定された場合(ステップ♯07:Yes)は、上記のように、判定実行変速段である目標変速段(第三変速段3rd)を形成させる(ステップ♯08)。一方、ニュートラル走行制御部44は、第二係合正常判定により第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合状態であると判定された場合(ステップ♯07:No)は、上記のように、変速装置TMに第一特定変速比段(第六変速段6th)を形成させる(ステップ♯09)。
【0101】
その後、ニュートラル走行制御部44は、上記のように、判定用変速段の形成を開始する(ステップ♯10)。そして、ニュートラル走行制御部44は、判定用変速段を形成することができたと判定した場合(ステップ♯11:Yes)は、目標変速段(第三変速段3rd)を形成させる(ステップ♯12)。一方、ニュートラル走行制御部44は、判定用変速段を形成することができないと判定した場合(ステップ♯11:No)は、第一特定変速比段(第六変速段6th)を形成させる(ステップ♯13)。
【0102】
3−4−2−1−4.制御挙動
次に、復帰制御に第一係合圧増加制御及び第二係合正常判定に係る制御挙動について、図8から図10のタイムチャートを参照して説明する。
<比較例>
まず、図8を参照して、本実施形態の比較例を説明する。
図8に示す比較例では、目標変速段が判定実行変速段(第三変速段3rd)である場合に、本実施形態とは異なり、まず、低変速比段(4th〜6th)の中で、第一特定変速段(第六変速段6th)以外の変速段であって変速比の最も大きい変速段である前置目標変速段(本例では、第四変速段4thが該当)を形成するように制御し、第二係合装置(第一ブレーキB1)が解放状態であると判定される場合は、その後、判定実行変速段である目標変速段(第三変速段3rd)を形成するように構成されている。
【0103】
このため、図8に第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合固着していない場合の例を示すように、前置目標変速段(第四変速段4th)を形成させた後(時刻T04後)に、目標変速段(第三変速段3rd)を形成させている。なお、図8において、変速装置TMに実際に形成させる変速段である指令目標変速段は、時刻T01で復帰制御を開始した後、前置目標変速段(第四変速段4th)に設定され、前置目標変速段(第四変速段4th)を形成させた後、時刻T04で目標変速段(第三変速段3rd)に設定されている。
【0104】
このため、第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合固着していない場合でも、前置目標変速段(第四変速段4th)を形成させる分だけ、時刻T01で復帰制御を開始してから目標変速段(第三変速段3rd)の形成を開始するまで(時刻T04まで)の遅れ時間が長くなっている。また、前置目標変速段(第四変速段4th)から目標変速段(第三変速段3rd)に変速するため、第一係合装置(第二クラッチC2)から第四係合装置(第三クラッチC3)に係合装置の掴み替えを行っており、当該掴み替えによりトルク変動が車輪Wに伝達される恐れがある。
【0105】
<本実施形態:第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合固着していない場合>
次に、図9を参照して、第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合固着していない場合における、本実施形態に係る制御挙動について説明する。
本実施形態では、比較例のように、目標変速段(第三変速段3rd)を形成する前に、前置目標変速段(第四変速段4th)を形成するように構成されていない。代わりに、第一特定変速段(第六変速段6th)が属する低変速比段(4th〜6th)の共通係合装置である第一係合装置(第二クラッチC2)の係合圧を増加させる第一係合圧増加制御を行っている。
【0106】
なお、図9において、時刻T11で復帰制御を開始した後、指令目標変速段が前置目標変速段(第四変速段4th)に設定されているが、これは、変速装置TMに前置目標変速段(第四変速段4th)を積極的に形成しようとしているのではなく、第一係合装置(第二クラッチC2)の係合圧を増加させるための一つの方法として便宜的に用いられているためである。
また、指令目標変速段を前置目標変速段(第四変速段4th)に設定することにより、入力軸Iの回転速度を、第一特定変速段(第三変速段6th)の同期回転速度よりも高い適切な回転速度に維持することができる。具体的には、ニュートラル走行制御部44は、変速段の形成中、入力軸Iの回転速度が、指令目標変速段の同期回転速度に近づくように、駆動力源の回転速度を制御するように構成されている。図9に示す例では、ロックアップクラッチLCが解放されており、トルクコンバータTCが滑っている分だけ、入力軸Iの回転速度は内燃機関ENGの回転速度よりも低くなっている。
【0107】
ニュートラル走行制御部44は、入力軸Iの回転速度が、指令目標変速段の同期回転速度に近づくように内燃機関ENGの目標回転速度を設定している。内燃機関ENGの出力トルク(内燃機関要求トルク)は、内燃機関ENGの回転速度が目標回転速度に近づくように変化される。
よって、入力軸Iの回転速度は、第一特定変速段(第三変速段6th)の同期回転速度よりも高い、前置目標変速段(第四変速段4th)の同期回転速度付近に制御されている。よって、第二係合正常判定を行う際に、入力軸Iの回転速度が第一特定変速段(第六変速段6th)の同期回転速度に近づいたか否かを判定し易くなる。なお、入力軸Iの目標回転速度は、指令目標変速段の同期回転速度ではなく、第一特定変速段(第三変速段6th)の同期回転速度に対して予め定めた回転速度だけ高く設定されるように構成されてもよい。
【0108】
なお、ニュートラル走行制御部44は、低変速比段(4th〜6th)の中で、第一特定変速段(第六変速段6th)以外の変速段であって変速比の最も大きい変速段(本例では、第四変速段4thが該当)を、前置目標変速段として設定するように構成されている。
【0109】
図9に示す例では、ニュートラル走行制御部44は、ニュートラル走行制御の実行中に、内燃機関ENGを回転停止状態に制御している(時刻T11まで)。そして、ニュートラル走行制御部44は、時刻T11で、ニュートラル走行制御条件が不成立になったと判定しており、復帰制御を開始している。ニュートラル走行制御部44は、内燃機関制御部41に対して、内燃機関ENGの始動を指令している(時刻T11)。その後、内燃機関ENGが始動され、内燃機関ENGの回転速度が上昇している。入力軸Iの回転速度は、トルクコンバータTCの回転速度差を有して、内燃機関ENGの回転速度の上昇に追従して上昇している。ニュートラル走行制御部44は、内燃機関ENGが始動したと判定した後、時刻T12で、第一係合装置(第二クラッチC2)の係合圧を増加させる第一係合圧増加制御を開始している。第一係合圧増加制御の開始後、第二クラッチC2の油圧指令が増加されている。図9に示す例では、実際の油圧の立ち上がりを速めるため、第一係合圧増加制御の開始後の油圧指令が一時的に所定期間だけステップ的に増加されている。
【0110】
ニュートラル走行制御部44は、第一係合装置(第二クラッチC2)の油圧指令が、第一特定変速比段(第六変速段6th)を形成可能な判定係合圧まで増加した場合(時刻T13)に、係合圧を増加させている途中で第二係合正常判定を行っている。ニュートラル走行制御部44は、入力軸Iの回転速度と第一特定変速比段(第六変速段6th)の同期回転速度との回転速度差が、予め定めた判定回転速度差よりも大きいため、第二係合装置(第一ブレーキB1)が解放状態であると判定している(時刻T13)。
【0111】
ニュートラル走行制御部44は、第二係合装置(第一ブレーキB1)が解放状態であると判定した後、判定実行変速段である目標変速段(第三変速段3rd)が属する高変速比段(1st〜3rd)の共通係合装置である第三係合装置(第一クラッチC1)の係合圧の増加を開始している(時刻T13)。
また、ニュートラル走行制御部44は、第二係合装置(第一ブレーキB1)が解放状態であると判定した後、第一係合装置(第二クラッチC2)の係合圧の増加を中止し、第一係合装置(第二クラッチC2)の係合圧を減少させて、第一係合装置(第二クラッチC2)を解放させている(時刻T13以降)。
【0112】
ニュートラル走行制御部44は、第三係合装置(第一クラッチC1)の係合圧の増加を開始した後、目標変速段(第三変速段3rd)を形成する残りの係合装置である第四係合装置(第三クラッチC3)の係合圧の増加を開始している(時刻T14)。そして、係合圧の増加により、第三係合装置(第一クラッチC1)及び第四係合装置(第三クラッチC3)が係合されると、目標変速段(第三変速段3rd)が形成される。
【0113】
このように、本実施形態では、第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合固着していない場合は、比較例のように前置目標変速段(第四変速段4th)を形成させずに、目標変速段(第三変速段3rd)を形成させており、また、第一係合装置(第二クラッチC2)の係合圧が判定係合圧まで増加した時点で、第二係合正常判定を行い、係合圧の増加を途中で中止し、目標変速段(第三変速段3rd)の形成を開始している。よって、時刻T11で復帰制御を開始してから目標変速段(第三変速段3rd)の形成を開始するまで(時刻T13まで)の遅れ時間(時刻T11から時刻T13)が、比較例の場合(時刻T01から時刻T04)よりも大幅に短縮されている。
【0114】
また、比較例のように、第一係合装置(第二クラッチC2)から第四係合装置(第三クラッチC3)に係合装置の掴み替えを行っていないため、比較例のように掴み替えによるトルク変動が車輪Wに伝達される恐れもない。
【0115】
<本実施形態:第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合固着している場合>
次に、図10を参照して、第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合固着している場合における、本実施形態に係る制御挙動について説明する。
時刻T22までは、図9の時刻T12までと同様であるので説明を省略する。
【0116】
図10に示す例では、第一係合装置(第二クラッチC2)の係合圧の増加により、第一係合装置(第二クラッチC2)の伝達トルク容量が増加し始めると、入力軸Iの回転速度が、第一特定変速比段(第六変速段6th)の同期回転速度に向かって低下を開始している。本例では、ロックアップクラッチLCが解放されているので、トルクコンバータTCの回転速度差(内燃機関ENGの回転速度と入力軸Iの回転速度との差)が増加している。
【0117】
ニュートラル走行制御部44は、第一係合装置(第二クラッチC2)の油圧指令が、第一特定変速比段(第六変速段6th)を形成可能な判定係合圧まで増加した場合(時刻T23)に、第二係合正常判定を行っている。
ニュートラル走行制御部44は、入力軸Iの回転速度と第一特定変速比段(第六変速段6th)の同期回転速度との回転速度差が、予め定めた判定回転速度差以下になっていると判定している(時刻T23)。その後、入力軸Iの回転速度は、第一特定変速比段(第六変速段6th)の同期回転速度まで低下し、回転速度差がゼロになっている。ニュートラル走行制御部44は、時刻T24で、回転速度差が判定回転速度差以下になっている期間が、予め定めた判定期間以上になったので、第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合状態であると判定している。
【0118】
ニュートラル走行制御部44は、第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合状態であると判定した後、変速装置TMに第一特定変速比段(第六変速段6th)をより確実に形成させるために、第二係合装置(第一ブレーキB1)の係合圧の増加を開始している(時刻T24)。このように、本実施形態では、比較例のように前置目標変速段(第四変速段4th)を形成させるように制御せずに、第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合状態であると判定した場合に、直接、第一特定変速比段(第六変速段6th)を形成させており、また、第一係合装置(第二クラッチC2)の係合圧が判定係合圧まで増加した時点から、第二係合正常判定を開始している。よって、比較例の場合よりも、早期に第二係合正常判定を行い、早期に第一特定変速比段(第六変速段6th)を形成させることができる。
【0119】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明のその他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0120】
(1)上記の実施形態においては、変速装置TMは後輪に駆動連結され、回転電機MGは前輪に駆動連結されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速装置TMは前輪に駆動連結され、回転電機MGは後輪に駆動連結されてもよい。或いは、回転電機MGは、変速装置TMが駆動連結される前輪又は後輪と同じ車輪に駆動連結されてもよい。この場合において、回転電機MGは、変速装置TMの出力ギヤOと車輪Wとの間の動力伝達経路を構成するいずれかの回転部材に駆動連結されるとよい。
【0121】
(2)上記の実施形態においては、変速装置TMの入力軸Iに、駆動力源として内燃機関ENGが駆動連結されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速装置TMの入力軸Iに、駆動力源として内燃機関ENG及び回転電機MGが駆動連結されてもよく、内燃機関ENGに代えて回転電機MGが駆動連結されてもよい。
【0122】
(3)車輪Wの駆動力源が、内燃機関ENG又は回転電機MGのいずれか1つのみでもよい。この場合でも、駆動力源と車輪Wとを結ぶ動力伝達経路に変速装置TMが設けられる。
【0123】
(4)上記の実施形態では、ニュートラル走行制御部44は、目標変速段が、判定実行変速段(第三変速段3rd)である場合は、目標変速段(第三変速段3rd)を形成する前に、第一係合圧増加制御を行うと共に第二係合正常判定を行うように構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、ニュートラル走行制御部44は、これ以外の場合、例えば、復帰制御において、目標変速段に低変速比段(4th〜6th)の中の一つの変速段が設定され、当該目標変速比段を形成するために、低変速比段(4th〜6th)の共通係合装置である第一係合装置(第二クラッチC2)の係合圧を増加させる場合に、上記のような第一係合圧増加制御を行うと共に第二係合正常判定を行うよう構成されてもよい。
【0124】
(5)上記の実施形態では、第二クラッチC2が第一係合装置に該当し、第一ブレーキB1が第二係合装置に該当し、第六変速段6thが第一特定変速比段に該当する変速装置TMに対して第一係合圧増加制御及び第二係合正常判定を行うように構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、第二クラッチC2以外の係合装置が第一係合装置に該当し、或いは第一ブレーキB1以外の係合装置が第二係合装置に該当し、或いは第六変速段6th以外の変速段が第一特定変速比段に該当するなど、任意の組み合わせの係合装置を第一係合装置及び第二係合装置に該当させ、それらの係合により形成される変速段を第一特定変速比段に該当させた変速装置TMに対して第一係合圧増加制御及び第二係合正常判定を行うように構成されてもよい。例えば、上記の実施形態において第一特定変速段と第二特定変速段を入れ替えて、第一クラッチC1が第一係合装置に該当し、第一ブレーキB1が第二係合装置に該当し、第二変速段2ndが第一特定変速比段に該当する変速装置TMに対して第一係合圧増加制御及び第二係合正常判定を行うように構成されてもよい。
【0125】
(6)上記の実施形態では、第一クラッチC1が共通係合装置である第一変速段1st〜第三変速段3rdが高変速比段に設定され、第二クラッチC2が共通係合装置である第四変速段4th〜第六変速段6thが、低変速比段に設定されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、第一クラッチC1が共通係合装置である第一変速段1st〜第四変速段4thが高変速比段に設定され、第二クラッチC2が共通係合装置である第五変速段5th及び第六変速段6thが、低変速比段に設定されていてもよい。この場合は、判定実行変速段には、第三変速段3rd及び第四変速段4thが該当する。なお、前置目標変速段には、第五変速段5thが該当する。
【0126】
(7)上記の実施形態では、ニュートラル走行制御部44は、第二係合正常判定により第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合状態であると判定した場合に、第一特定変速比段(第六変速段6th)を形成させた後、判定用変速段を形成させるように制御し、判定用変速段を形成することができない場合は、第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合状態となる故障が発生していると判定するように構成されている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、ニュートラル走行制御部44は、第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合状態であると判定した場合に、第一特定変速比段(第六変速段6th)を形成させた後、判定用変速段を形成させて故障判定を行うように構成されなくてもよい。この場合は、ニュートラル走行制御部44は、第二係合正常判定により第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合状態であると判定した場合に、第二係合装置(第一ブレーキB1)が係合状態となる故障が発生していると判定するように構成されてもよい。
【0127】
(8)上記の実施形態においては、内燃機関ENGと変速装置TMとの間に、トルクコンバータTCが備えられている場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、内燃機関ENGと変速装置TMとの間に、トルクコンバータTCが備えられていない、又はトルクコンバータTCの代わりにクラッチが備えられてもよい。
【0128】
(9)上記の実施形態においては、変速装置TMの係合装置C1、B1、・・・それぞれの係合・解放状態を制御するためのアクチュエータとしてリニアソレノイド弁が備えられ、各アクチュエータに供給される信号値が電流値である場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、リニアソレノイド弁以外のアクチュエータ、例えば、Dutyソレノイド弁などが備えられてもよく、電流値以外の信号値、例えば、ソレノイド弁をオンオフするDuty比が変化するDuty信号値であってもよい。
また、変速装置TMの係合装置C1、B1・・・は、摩擦係合装置以外の係合装置、例えば、噛み合いクラッチ(ドグクラッチ)であってもよい。
また、変速装置TMの係合装置C1、B1・・・は、油圧以外の駆動力、例えば、電磁石の駆動力、サーボモータの駆動力など、により制御される係合装置であってもよく、アクチュエータとして、電磁石、モータなどが用いられてもよい。
【0129】
(10)上記の実施形態において、制御装置30は、複数の制御ユニット32〜34を備え、これら複数の制御ユニット32〜34が分担して複数の機能部41〜46を備える場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、制御装置30は、上述した複数の制御ユニット32〜34を任意の組み合わせで統合又は分離した制御装置として備えるようにしてもよく、複数の機能部41〜46の分担も任意に設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明は、駆動力源と車輪とを結ぶ動力伝達経路に、複数の係合装置を備えると共に当該複数の係合装置の係合の状態に応じて変速比の異なる複数の変速段が選択的に形成される変速装置が設けられた車両用駆動装置を制御対象とする制御装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0131】
1 :車両用駆動装置
5 :車両
30 :制御装置
44 :ニュートラル走行制御部
C1 :第一クラッチ(第三係合装置)
C2 :第二クラッチ(第一係合装置)
C3 :第三クラッチ(第四係合装置)
B1 :第一ブレーキ(第二係合装置)
B2 :第二ブレーキ
ENG :内燃機関(駆動力源)
I :入力軸(入力部材)
MG :回転電機
O :出力ギヤ(出力部材)
Rev :後進段
TC :トルクコンバータ
TM :変速装置
W :車輪
1st :第一変速段
2nd :第二変速段(第二特定変速段)
3rd :第三変速段(判定実行変速段)
4th :第四変速段(前置目標変速段)
5th :第五変速段
6th :第六変速段(第一特定変速段)
1st〜3rd:高変速比段
4th〜6th:低変速比段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10