(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6299286
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】触媒層の修正方法、触媒層の修正装置、触媒層シート又は膜電極接合体の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/88 20060101AFI20180319BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20180319BHJP
【FI】
H01M4/88 K
H01M8/10 101
H01M4/88 Z
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-41860(P2014-41860)
(22)【出願日】2014年3月4日
(65)【公開番号】特開2015-170386(P2015-170386A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2017年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】小澤 まどか
【審査官】
渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−339124(JP,A)
【文献】
特開2012−195052(JP,A)
【文献】
特開2004−325346(JP,A)
【文献】
特開2000−146861(JP,A)
【文献】
特開2010−272250(JP,A)
【文献】
特開2003−132899(JP,A)
【文献】
特開2013−020753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/88
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子形燃料電池用の膜電極接合体の触媒層の修正方法であって、
光透過性の基材の表面に形成された触媒層の透過光を検出する欠陥検査工程と、
検出した透過光を基に、前記触媒層の欠陥部を特定し、前記欠陥部の修正条件を決定する修正条件出力工程と、
前記修正条件に従って、前記欠陥部に対して修正用インクを吐出し、前記欠陥部を修正用インクで埋める修正用インク吐出工程と、
前記欠陥部の修正用インクを乾燥させる乾燥工程と、
を備え、
前記修正条件出力工程では、前記触媒層の座標毎に検出した光量をマッピングして、前記触媒層の欠陥部の座標及び欠陥部のサイズを特定することを特徴とする触媒層の修正方法。
【請求項2】
前記欠陥検査工程では、一方の面に前記触媒層が形成された前記基材に対して、他方の面側から検査光を照射し、前記一方の面側に設けられた光検出部で透過光を検出し、
前記修正条件出力工程では、前記触媒層の欠陥部の座標及び欠陥部のサイズを特定した後、インクジェット吐出座標及びインクジェット吐出量を決定し、
前記修正用インク吐出工程では、前記インクジェット吐出座標に対して、前記一方の面側に設けられたインクジェットノズルより、前記インクジェット吐出量の修正用インクを吐出し、前記欠陥部を修正用インクで埋め、
前記乾燥工程では、前記インクジェット吐出座標に対して、前記一方の面側に設けられたスポットヒーターを作動させ、前記欠陥部の修正用インクを乾燥させることを特徴とする請求項1に記載の触媒層の修正方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の触媒層の修正方法により触媒層を修正する触媒層シート又は膜電極接合体の製造方法。
【請求項4】
固体高分子形燃料電池用の膜電極接合体の触媒層の修正装置であって、
光透過性の基材の表面に形成された触媒層の透過光を検出する欠陥検査システムと、
検出した透過光を基に、前記触媒層の欠陥部を特定し、前記欠陥部の修正条件を決定する修正条件出力システムと、
前記修正条件に従って、前記欠陥部に対して修正用インクを吐出し、前記欠陥部を修正用インクで埋める修正用インク吐出システムと、
前記欠陥部の修正用インクを乾燥させる乾燥システムと、
を備え、
前記修正条件出力システムは、前記触媒層の座標毎に検出した光量をマッピングして、前記触媒層の欠陥部の座標及び欠陥部のサイズを特定することを特徴とする触媒層の修正装置。
【請求項5】
前記欠陥検査システムは、一方の面に前記触媒層が形成された前記基材を搬送するための基材搬送部を挟んで、前記一方の面側に光検出部を備え、他方の面側に検査光源を備え、
前記修正条件出力システムは、前記触媒層の欠陥部の座標及び欠陥部のサイズを特定した後、インクジェット吐出座標及びインクジェット吐出量を決定し、
前記修正用インク吐出システムは、前記インクジェット吐出座標において、前記一方の面側に設けられたインクジェットノズルより、前記インクジェット吐出量の修正用インクを吐出し、前記欠陥部を修正用インクで埋め、
前記乾燥システムは、前記インクジェット吐出座標において、前記一方の面側に設けられたスポットヒーターを作動させ、前記欠陥部の修正用インクを乾燥させることを特徴とする請求項4に記載の触媒層の修正装置。
【請求項6】
前記基材搬送部は、前記欠陥検査システムと、前記修正条件出力システムと、前記修正用インク吐出システムと、前記乾燥システムと、を順次通過することを特徴とする請求項5に記載の触媒層の修正装置。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか一項に記載の触媒層の修正装置を備える触媒層シート又は膜電極接合体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池用の膜電極接合体の触媒層の修正方法及び修正装置と、この修正方法及び修正装置を適用した触媒層シート又は膜電極接合体の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素と酸素を燃料として、電気を生み出す発電システムである。従来の発電方式と比較して高効率、低環境負荷、低騒音といった特徴を持ち、将来のクリーンなエネルギー源として注目されている。特に、室温付近で使用可能な固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:PEFC)は、車載用電源や家庭用定置電源等への使用が有望視されており、近年、様々な研究開発が行われている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、一般的に、多数の単セル(single cell)が積層されて構成されている。単セルは、酸化極と還元極の二つの電極で高分子電解質膜を挟んで接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)を、ガス流路及び冷却水流路を有するセパレーターで挟んだ構造をしている。燃料電池の実用化に向けての課題は、電池の性能向上、インフラ整備と共に低コストで効率的な膜電極接合体の製造技術を見出すことにある。
【0004】
固体高分子形燃料電池用の膜電極接合体を製造する方法として、触媒、担体、高分子電解質、溶媒等から成る触媒インクを高分子電解質膜に塗布、乾燥する方法が知られている。また、別の方法としては、基材フィルム上に触媒層を設けた触媒層シートを高分子電解質膜に熱圧着し、触媒層を転写する方法が知られている。触媒層シートは、触媒、担体、高分子電解質、溶媒等から成る触媒インクを基材フィルムに塗布、乾燥して製造される。
【0005】
上述の方法によって形成された触媒層には、製造工程で発生するピンホール(針穴)やクラック(亀裂)等の欠陥部(欠陥部の部分)が存在することがある。これらの欠陥部のある触媒層を有する膜電極接合体では、触媒層の欠陥部から露出している高分子電解質膜が直接ガスに晒されるため劣化しやすく、破膜等により電池性能や長期安定性の低下等の不具合を生じる可能性が高い。そのため、ピンホールやクラック等の欠陥部のある触媒層を有する触媒層シートや膜電極接合体は、不良品として扱われている。触媒層シートや膜電極接合体は、高価な貴金属触媒や高分子電解質で構成されているため、製造上の不良率が上がることで、コスト面でも大きな問題が生じることとなる。
【0006】
薄膜に存在する微細な欠陥部を補修する方法としては、例えば特許文献1に記載されている方法がある。これは、膜の一方の面を、乾燥後に固化する検出媒体(シリカゾル等)に密接させ、その面と他方の面との間の圧力差を利用して検出媒体が浸透するかどうかを検知すると同時に、その補修も完了するという方法である。
また、膜電極接合体の触媒層の欠陥部を補修する方法としては、例えば特許文献2に記載されている方法がある。これは、補修用転写フィルムを用いて、欠陥部に触媒層を転写形成して補修するという方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−214089
【特許文献2】特開2009−048936
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1による方法では、補修できる欠陥部は薄膜を貫通しているものに限られ、触媒層のみのピンホールやクラックを補修することができない。また、製造工程にある膜電極接合体を検出媒体に密着させる必要があるため、検出媒体による汚染により、電池性能や長期安定性に問題の出る恐れがある。
また、特許文献2による方法は、膜電極接合体を貫通していない触媒層のみのピンホールやクラックを補修することができる方法であるが、欠陥部に補修用触媒層を転写形成するためには熱圧着の工程が必要であり、工程の煩雑化による効率の低下や、製造設備の複雑化によるコストアップが懸念される。また、同一の膜電極接合体に対して熱圧着の工程を繰返すことによって、高分子電解質膜や、触媒層の正常部(欠陥部の無い正常な部分)にダメージを与えてしまい、新たな外観不良が生じたり、電池性能や長期安定性が低下したりする恐れがある。
【0009】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、触媒層におけるピンホールやクラック等の欠陥部のみピンポイントで修正し、ピンホールやクラック等の欠陥部のない触媒層を有する触媒層シート又は膜電極接合体を低コスト且つ高効率に製造するための触媒層の修正方法と修正装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る触媒層の修正方法は、光透過性の基材の表面に形成された触媒層の透過光を検出する欠陥検査工程と、検出した透過光を基に、触媒層の欠陥部を特定し、欠陥部の修正条件を決定する修正条件出力工程と、修正条件に従って、欠陥部に対して修正用インクを吐出し、欠陥部を修正用インクで埋める修正用インク吐出工程と、欠陥部の修正用インクを乾燥させる乾燥工程と、を備える。
【0011】
具体的には、欠陥検査工程では、一方の面に触媒層が形成された光透過性の基材に対して、他方の面側から検査光を照射し、一方の面側に設けられた光検出部で透過光を検出する。修正条件出力工程では、触媒層の座標毎に検出した光量をマッピングして、触媒層の欠陥部の座標及び欠陥部のサイズを特定し、インクジェット吐出座標及びインクジェット吐出量を決定する。修正用インク吐出工程では、インクジェット吐出座標に対して、一方の面側に設けられたインクジェットノズルより、インクジェット吐出量の修正用インクを吐出し、欠陥部を修正用インクで埋める。乾燥工程では、インクジェット吐出座標に対して、一方の面側に設けられたスポットヒーターを作動させ、欠陥部の修正用インクを乾燥させる。
【0012】
本発明の一態様に係る触媒層シート又は膜電極接合体の製造方法では、上記の触媒層の修正方法により触媒層を修正する。
また、本発明の一態様に係る触媒層の修正装置は、固体高分子形燃料電池用の膜電極接合体の触媒層の修正装置であって、光透過性の基材の表面に形成された触媒層の透過光を検出する欠陥検査システムと、検出した透過光を基に、触媒層の欠陥部を特定し、欠陥部の修正条件を決定する修正条件出力システムと、修正条件に従って、欠陥部に対して修正用インクを吐出し、欠陥部を修正用インクで埋める修正用インク吐出システムと、欠陥部の修正用インクを乾燥させる乾燥システムと、を備える。
【0013】
具体的には、欠陥検査システムは、触媒層が一方の面に形成された光透過性の基材を搬送するための基材搬送部を挟んで、一方の面側に光検出部を備え、他方の面側に検査光源を備える。修正条件出力システムは、触媒層の座標毎に検出した光量をマッピングして、触媒層の欠陥部の座標及び欠陥部のサイズを特定し、インクジェット吐出座標及びインクジェット吐出量を決定する。修正用インク吐出システムは、インクジェット吐出座標において、一方の面側に設けられたインクジェットノズルより、インクジェット吐出量の修正用インクを吐出し、欠陥部を修正用インクで埋める。乾燥システムは、インクジェット吐出座標において、一方の面側に設けられたスポットヒーターを作動させ、欠陥部の修正用インクを乾燥させる。
【0014】
上記の基材搬送部は、欠陥検査システムと、修正条件出力システムと、修正用インク吐出システムと、乾燥システムと、を順次通過する。
また、本発明の一態様に係る触媒層シート又は膜電極接合体の製造装置は、上記の触媒層の修正装置を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、触媒層におけるピンホールやクラック等の欠陥部にのみピンポイントに修正用インクを吐出して乾燥させることにより、最小限のインク吐出及び乾燥で欠陥部を修正できる。また、欠陥部を有する触媒層を廃棄して新たに触媒層を作製し直す必要が無い。そのため、ピンホールやクラック等の欠陥部のない触媒層を有する触媒層シート又は膜電極接合体を低コスト且つ高効率に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る膜電極接合体の上面/断面模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態と異なる実施形態に係る膜電極接合体の上面/断面模式図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る触媒層の修正工程の説明図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る触媒層の修正装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態について添付図面を参照して説明する。但し、実際には、以下の実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の変更があっても本発明に含まれるものとする。
(膜電極接合体の構成)
まず、本発明の一実施形態に係る膜電極接合体の構成例について説明する。
図1に、本実施形態に係る膜電極接合体1を上面から見た上面図及び上面図のA−Bにおける断面図を示す。膜電極接合体1の両面には、触媒層12と触媒層13とが対向して配置されている。触媒層12と触媒層13は、膜電極接合体1を挟持している。また、触媒層12及び13の外周部は、ガスケット14によりシールされている。
【0018】
図2に、本実施形態に係る膜電極接合体1との比較のため、本実施形態と異なる実施形態に係る膜電極接合体2を上面から見た上面図及び上面図のC−Dにおける断面図を示す。本実施形態に係る膜電極接合体1と同様に、膜電極接合体2の両面には、触媒層22と触媒層23とが対向して配置されている。触媒層22と触媒層23は、膜電極接合体2を挟持している。また、触媒層22及び23の外周部は、ガスケット24によりシールされている。しかし、膜電極接合体2では、クラック25及びピンホール26が触媒層22の欠陥部となっている。この欠陥部では、高分子電解質膜21は露出した状態である。このような欠陥部のある膜電極接合体を用いた燃料電池では、触媒層の欠陥部の露出した高分子電解質膜が劣化・破膜しやすく、電池性能や長期安定性に不具合を生じる可能性が高い。
【0019】
図1に示す本実施形態に係る膜電極接合体1の触媒層12及び13は、少なくとも高分子電解質、触媒、担体から構成されている。本実施形態において用いられる高分子電解質膜11や触媒層12及び13の中の高分子電解質は、プロトン伝導性を有するものであれば良く、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質を用いることが可能である。この場合、フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン(登録商標)社製の「Nafion(登録商標)」、旭硝子(登録商標)社製の「Flemion(登録商標)」、旭化成(登録商標)社製の「Aciplex(登録商標)」、ゴア(登録商標)社製の「Gore Select(登録商標)」等を用いることが可能である。また、炭化水素系高分子電解質としては、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等を用いることが可能である。特に、高分子電解質膜11として、デュポン(登録商標)社製の「Nafion(登録商標)」系材料を好適に用いることが可能である。
【0020】
本実施形態に係る高分子電解質膜11や触媒層12及び13の中の高分子電解質には、様々なものが用いられるが、高分子電解質膜11と触媒層12及び13との界面抵抗や、湿度変化時の高分子電解質膜11と触媒層12及び13とにおける寸法変化率の点から考慮すると、高分子電解質膜11の中の高分子電解質と、触媒層12及び13の中の高分子電解質とは同じ成分であることが好適である。
【0021】
本実施形態において用いられる触媒としては、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素の他、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、及びこれらの合金、酸化物、複酸化物、炭化物等を用いることが可能である。また、これらの触媒を担持する担体は、微粉末状で導電性を有し、触媒に侵されないものであればどのようなものでも構わない。例えば、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、フラーレンを好ましく用いることが可能である。なお、本実施形態で使用される触媒の担体は、導電性を有し、触媒に侵されないものであればカーボンでなくても良い。
【0022】
(触媒層の修正工程)
図3に、本実施形態に係る触媒層12及び13の修正工程の一例を示す。本実施形態に係る触媒層12及び13の修正工程は、
図3(a)、(b)、(c)に示す工程を順次経ることによりに成され、
図3(d)に示す、欠陥部の修正された触媒層32を備えた光透過性基材31を得るものである。
【0023】
図3(a)は、光透過性基材31の一方の面に触媒層32が形成された触媒層付基材の欠陥検査工程を示す。触媒層32は、欠陥部33及び34を有している。欠陥部33及び34は、クラック25やピンホール26等である。光透過性基材31の他方の面から検査光35を照射すると、触媒層32の正常部は黒色であるため検査光35は透過せず、欠陥部33及び34のみを検査光35が透過する。この透過光の座標と光量を光検出部36により検出する。続いて、光検出部36により検出された透過光量から欠陥部のサイズを特定するとともに、欠陥部の座標を特定する修正条件出力工程を経て、欠陥部の補修を行う。
【0024】
図3(b)は、光透過性基材31の一方の面に形成された触媒層32に発生した欠陥部33及び34を修正用インク38で埋める修正用インク吐出工程を示す。可動式の修正用インク吐出部37はインクジェットノズルを有しており、修正条件出力工程にて特定された複数の欠陥座標上にて、欠陥部33及び34への修正用インク38の吐出を順次行う。修正用インク吐出量は、修正条件出力工程にて特定されたものである。例えば、まず、欠陥部33の座標上にて欠陥部33の面積に応じた量の修正用インク38を吐出する。次に、欠陥部34の座標上にて欠陥部34の面積に応じた量の修正用インク38を吐出する。
【0025】
図3(c)は、欠陥部33及び34を埋めている修正用インク38を乾燥させる乾燥工程を示す。可動式の乾燥部39はスポットIRヒーター(赤外線ヒーター)を有しており、修正条件出力工程にて特定された複数の欠陥座標上にて、欠陥部33及び34を埋めている修正用インク38の乾燥を順次行う。
本実施形態で使用される光透過性基材31は、例えばエチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の転写性に優れたフッ素系樹脂を用いることができる。また、ポリイミド、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート等の高分子フィルムも用いることができる。更に、これらの素材に、離形層等の処理をしたものを用いても良い。また、フッ素系高分子電解質膜11、炭化水素系高分子電解質膜11を用いることが可能である。この場合、フッ素系高分子電解質膜11としては、例えば、デュポン(登録商標)社製の「Nafion(登録商標)」、旭硝子(登録商標)社製の「Flemion(登録商標)」、旭化成(登録商標)社製の「Aciplex(登録商標)」、ゴア(登録商標)社製の「Gore Select(登録商標)」等を用いることが可能である。炭化水素系高分子電解質膜11としては、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等を用いることが可能である。
【0026】
本実施形態で使用される光検出部36としては、モノクロCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサーを用いたエリアセンサーカメラやラインセンサーカメラが用いられる。特に、基材搬送方向と直交する方向の全幅に対してラインセンサーカメラを並べて設置し、光透過性基材31を順次搬送しながら検査を行った場合、検査精度と検査効率に優れるとともに、様々な触媒層のサイズに対応することが可能となり、好適である。
【0027】
本実施形態で使用される修正用インク38は、少なくとも導電性材料、高分子電解質、溶媒から成り、これらに加えて触媒を含んでいても良い。また、触媒層12及び13の形成に使用される触媒インクと同一のものであっても良い。導電性材料は、触媒の担体と同様のものを用いることができ、微粉末状で導電性を有し、触媒に侵されないものであればどのようなものでも構わない。例えば、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、フラーレンを好ましく用いることが可能である。本実施形態において修正用インク38の分散媒として使用される溶媒は、導電性材料や高分子電解質や触媒を浸食することがなく、流動性の高い状態で高分子電解質を溶解又は微細ゲルとして分散できるものあれば特に制限はない。溶媒には高分子電解質と馴染みが良い水が含まれていても良い。水の添加量は、高分子電解質が分離して白濁を生じたり、ゲル化したりしない程度であれば特に制限はない。また、修正用インク38には、揮発性の液体有機溶媒が少なくとも含まれることが望ましいが、修正用インク38に触媒を含む場合には、溶剤として低級アルコールを用いたものは発火の危険性が高く、このような溶媒を用いる際は、水との混合溶媒にするのが好ましい。
なお、光検出部36、修正用インク吐出部37、及び乾燥部39は、可動式であっても良い。
【0028】
(修正装置)
図4は、上記の修正工程を実施するための、本実施形態に係る触媒層の修正装置の一例を示す説明図である。本実施形態に係る触媒層の修正装置は、基材搬送部41と、検査光源42と、欠陥検査システム43と、修正条件出力システム44と、修正用インク吐出システム45と、乾燥システム46を備えている。
【0029】
基材搬送部41は、触媒層12又は13が一方の面に形成された光透過性基材31を搬送し、欠陥検査システム43、修正条件出力システム44、修正用インク吐出システム45、乾燥システム46を順次通過させる。例えば、基材搬送部41は、光透過性基材31を搭載(又は保持)した状態で移動し、欠陥検査システム43、修正条件出力システム44、修正用インク吐出システム45、乾燥システム46を順次通過する。本実施形態では、基材搬送部41の部材として、光透過性の部材又は隙間のある部材を用いる。隙間のある部材は、光透過性基材31の端部を保持するような部材であり、触媒層12又は13及び検査光35に干渉しないように配置される。
【0030】
検査光源42は、基材搬送方向(基材搬送部41の進行方向)と直交する方向の全幅に対して、検査光35の均一な照射を行えるように設置される。検査光源42は、検査光35を照射する。例えば、検査光源42としては、LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)やハロゲンランプやキセノンランプ等の光源が用いられる。なお、実際には、検査光源42は、基材搬送部41と一体化していても良い。例えば、基材搬送部41において、光透過性基材31を載せる箇所に検査光源42を設けても良い。
【0031】
欠陥検査システム43は、基材搬送部41を挟んで一方の側に光検出部36を備え、他方の側に検査光源42を備えている。ここでは、一方の側は、光透過性基材31の一方の面側であり、他方の側は、光透過性基材31の他方の面側である物とする。なお、実際には、光検出部36と検査光源42の配置は反対でも良い。
修正条件出力システム44は、コンピュータやプロセッサ等のデータ処理部(図示せず)を有し、欠陥検査システム43で検出した光量データを基に、修正条件を出力する。例えば、修正条件出力システム44は、欠陥検査システム43で検出した光量データを256階調のデジタルデータに変換し、設定された閾値で2値化して、欠陥部33及び34の座標及び画素数を抽出する。修正条件出力システム44は、欠陥部33及び34の座標及び画素数を修正条件として出力する。修正条件出力システム44で出力された修正条件は、修正用インク吐出システム45及び乾燥システム46に送られる。
【0032】
修正用インク吐出システム45及び乾燥システム46は、修正条件出力システム44から送られた修正条件に従って、触媒層12及び13の欠陥部33及び34の修正を行う。修正用インク吐出システム45は、修正用インク吐出部37を有し、修正用インク38を吐出する。乾燥システム46は、乾燥部39を有し、修正用インク38を乾燥させる。
なお、欠陥検査システム43、修正用インク吐出システム45、及び乾燥システム46は、可動式であっても良い。
【0033】
(欠陥部の修正後の製造工程)
光透過性基材31として転写フィルムを使用し、上述した工程によって欠陥部33及び34を修正したアノード用触媒層シートとカソード用触媒層シートを各々作製する。その後、高分子電解質膜11を挟んで基材表面同士を対向させた上、位置合わせを行った積層体を加熱・加圧することにより、高分子電解質膜11と、アノード用触媒層及びカソード用触媒層(触媒層12及び13)とを接合する。ここでは、説明の便宜上、触媒層12をアノード用触媒層とし、触媒層13をカソード用触媒層とする。但し、実際には反対でも良い。基材を剥離することにより、
図1に示すような膜電極接合体1が得られる。
【0034】
若しくは、光透過性基材31として高分子電解質膜11を使用し、上述した工程によって欠陥部33及び34を修正したアノード用触媒層12付きの高分子電解質膜11とカソード用触媒層13付きの高分子電解質膜11を各々作製する。その後、アノード用触媒層12やカソード用触媒層13が形成されていない面同士を合わせて高分子電解質膜11同士を対向させた上、位置合わせを行った積層体を加熱・加圧することにより、
図1に示すような膜電極接合体1が得られる。
【0035】
若しくは、光透過性基材31として高分子電解質膜11を使用し、上述した工程によって欠陥部33及び34を修正したアノード用触媒層12(又はカソード用触媒層13)付きの高分子電解質膜11を作製する。その後、高分子電解質膜11を挟んでアノード用触媒層12(又はカソード用触媒層13)と対向するように、カソード用触媒層13(又はアノード用触媒層12)を形成する。例えば、アノード用触媒層12付きの高分子電解質膜11に対して、アノード用触媒層12が形成されていない面にカソード用触媒層13の転写又は触媒インクの塗布及び乾燥を行うことで、高分子電解質膜11の両面に触媒層12及び13を形成し、
図1に示すような膜電極接合体1が得られる。
【0036】
なお、接合工程で触媒層12及び13にかかる圧力は、膜電極接合体の電池性能に影響するため、電池性能の良い膜電極接合体を得るには、積層体にかかる圧力は、0.5MPa以上20MPa以下の範囲内であることが望ましく、より望ましくは2MPa以上15MPa以下の範囲内である。これ以上の圧力では触媒層12及び13が過剰に圧縮される。また、これ以下の圧力では触媒層12及び13と高分子電解質膜11の接合性が低下して、電池性能が低下する。
【0037】
また、接合時の温度は、触媒層12及び13中の高分子電解質のガラス転移点付近に設定するのが、高分子電解質膜11と触媒層12及び13の界面の接合性が向上し、界面抵抗を抑えられる点で効果的であり、望ましい。
【実施例】
【0038】
以下、本実施形態に係る実施例を、比較例とともに説明する。なお、以下に、本実施形態に係る実施例及び比較例を示すが、実際には、以下の例に限定されるものではない。
(実施例1)
白金担持カーボン触媒と水、エタノールの混合溶媒と高分子電解質溶液を混合し、遊星型ボールミルで分散処理を行い、触媒インクを調製した。ここでは、白金担持カーボン触媒として、田中貴金属工業(登録商標)社製の「TEC10E50E」を使用した。また、高分子電解質として、デュポン(登録商標)社製の「Nafion(登録商標)」を使用した。そして、調整した触媒インクを、表面処理を行ったPETフィルムの表面にスリットダイコーターを用いて矩形に塗布した。続いて、触媒インクが塗布されたPETフィルムを80℃の温風オーブンに入れて乾燥させ、カソード側触媒層シートを作製した。また、同様の方法により、アノード側触媒層シートを作製した。
【0039】
次に、カソード側触媒層シートを、LED白色光源を有するライトテーブル(又はライトボックス)上に置き、カメラで撮像した。得られた画像を256階調のデジタルデータに変換した後に二値化し、触媒層の有するピンホール及びクラックの座標と画素数を抽出した。続いて、得られた座標と画素数を基にインクジェット吐出量データを作成し、触媒層のアライメントを行った後に、ピンホール及びクラックの存在する欠陥部上にインクジェットヘッドを移動させ、インクジェットノズルより触媒インクを吐出して順次欠陥部を埋めた。その後、80℃に設定したスポットIRヒーターを用いて吐出された触媒インクを乾燥させ、欠陥部を修正したカソード側触媒層シートを作製した。また、同様の方法により、欠陥部を修正したアノード側触媒層シートを作製した。
【0040】
欠陥部を修正したカソード側触媒層シートと、欠陥部を修正したアノード側触媒層シートとを用いて、アノード用触媒層とカソード用触媒層とを、高分子電解質膜の両面に対面するように配置し、この積層体をホットプレスした後にPETフィルムを剥離することで、実施例1の膜電極接合体を得た。ここでは、高分子電解質膜として、デュポン(登録商標)社製の「Nafion(登録商標)212」を使用した。
【0041】
(比較例1)
白金担持カーボン触媒と水、エタノールの混合溶媒と高分子電解質溶液を混合し、遊星型ボールミルで分散処理を行い、触媒インクを調製した。ここでは、白金担持カーボン触媒として、田中貴金属工業(登録商標)社製の「TEC10E50E」を使用した。また、高分子電解質として、デュポン(登録商標)社製の「Nafion(登録商標)」を使用した。そして、調整した触媒インクを、表面処理を行ったPETフィルムの表面にスリットダイコーターを用いて矩形に塗布した。続いて、触媒インクが塗布されたPETフィルムを80℃の温風オーブンに入れて乾燥させ、カソード側触媒層シートを作製した。また、同様の方法により、アノード側触媒層シートを作製した。
【0042】
次に、カソード側触媒層シートを、LED白色光源を有するライトテーブル(又はライトボックス)上に置き、カメラで撮像した。得られた画像を256階調のデジタルデータに変換した後に二値化し、触媒層の有するピンホール及びクラックの座標と画素数を抽出した。また、同様の方法により、アノード側触媒層の有するピンホール及びクラックの座標と画素数を抽出した。
【0043】
カソード側触媒層シートとアノード側触媒層シートを用いて、カソード用触媒層とアノード用触媒層を、高分子電解質膜の両面に対面するように配置し、この積層体をホットプレスした後にPETフィルムを剥離することで、比較例1の膜電極接合体を得た。ここでは、高分子電解質膜として、デュポン(登録商標)社製の「Nafion(登録商標)212」を使用した。
【0044】
(評価)
実施例1の膜電極接合体と、比較例1の膜電極接合体と、のそれぞれについて、触媒層の欠陥部が抽出された部分の断面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)により観察した。比較例1の膜電極接合体の断面は、触媒層に欠陥部があった部分の高分子電解質膜が露出していることを確認した。実施例1の膜電極接合体では、高分子電解質膜が露出している箇所はないことを確認した。
【0045】
(本実施形態の効果)
本実施形態によれば、触媒層におけるピンホールやクラック等の欠陥部にのみピンポイントに修正用インクを吐出して乾燥させることにより、最小限のインク吐出及び乾燥で欠陥部を修正できる。また、欠陥部を有する触媒層を廃棄して新たに触媒層を作製し直す必要が無い。そのため、ピンホールやクラック等の欠陥部のない触媒層を有する触媒層シート又は膜電極接合体を低コスト且つ高効率に製造することができる。
【0046】
また、ピンホールやクラック等の欠陥部のない触媒層を有する触媒層シート又は膜電極接合体を用いた燃料電池は、優れた電池特性を有するだけでなく、長期運転した場合にも高分子電解質膜に劣化や破膜が発生しにくく、耐久性に問題が発生しにくい。すなわち、電池特性や長期安定性に優れ、劣化や破膜等の発生を抑制、回避することができる。
また、製造の途中工程で、欠陥部のサイズや欠陥部の形状に応じて簡便に修正をすることができるので、膜電極接合体の製造上の不良を減らすことができ、材料の無駄を省いて、低コスト且つ高効率に膜電極接合体を製造することができる。
【0047】
更に、基材を搬送しながら順次各工程を行なうための基材搬送部を備えることで、より低コストかつ高効率で膜電極接合体を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本実施形態に係る膜電極接合体は、固体高分子形燃料電池に用いて運転した場合に、高分子電解質膜がダメージを受けにくいため破膜等の損傷が発生しにくく、電池性能や長期安定性の低下等の不具合を生じる可能性が低い。したがって、本実施形態に係る膜電極接合体は、高分子電解質膜を用いた燃料電池、特に定置型コジェネレーションシステムや燃料電池自動車等に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0049】
1、2…膜電極接合体
11、21…高分子電解質膜
12、13、22、23、32…触媒層
14、24…ガスケット
25…クラック
26…ピンホール
31…光透過性基材
33、34…欠陥部
35…検査光
36…光検出部
37…修正用インク吐出部
38…修正用インク
39…乾燥部
41…基材搬送部
42…検査光源
43…欠陥検査システム
44…修正条件出力システム
45…修正用インク吐出システム
46…乾燥システム