(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6299411
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】ディスクブレーキ
(51)【国際特許分類】
F16D 65/16 20060101AFI20180319BHJP
F16J 15/52 20060101ALI20180319BHJP
F16J 3/04 20060101ALI20180319BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20180319BHJP
F16D 121/04 20120101ALN20180319BHJP
F16D 125/06 20120101ALN20180319BHJP
【FI】
F16D65/16
F16J15/52 Z
F16J3/04 C
F16F15/08 E
F16D121:04
F16D125:06
F16D125:06 A
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-101085(P2014-101085)
(22)【出願日】2014年5月15日
(65)【公開番号】特開2015-25550(P2015-25550A)
(43)【公開日】2015年2月5日
【審査請求日】2017年3月23日
(31)【優先権主張番号】特願2013-127235(P2013-127235)
(32)【優先日】2013年6月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(72)【発明者】
【氏名】服部 一孝
【審査官】
長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05031511(US,A)
【文献】
実開平04−134936(JP,U)
【文献】
米国特許第03274904(US,A)
【文献】
米国特許第03502004(US,A)
【文献】
国際公開第2012/097203(WO,A1)
【文献】
特開2010−001956(JP,A)
【文献】
特表2003−511636(JP,A)
【文献】
特開平10−122280(JP,A)
【文献】
特開2006−029442(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/16
F16F 15/08
F16J 3/04
F16J 15/52
F16D 121/04
F16D 125/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクロータの両面に対向させたブレーキパッドの少なくとも一方を、キャリパのシリンダに組み込まれた液圧作動のカップ状のブレーキピストンで押圧してディスクロータに摺接させるディスクブレーキであって、前記ブレーキピストンが内部中央にピストン底壁と一体の支柱を有し、その支柱の先端と前記ブレーキパッドとの間に断熱材インサートが介在され、その断熱材インサートが前記支柱に凹凸嵌合して当該支柱に保持され、ブレーキピストンによる押圧力が前記支柱と前記断熱材インサート経由でブレーキパッドに伝達されるようにしたディスクブレーキ。
【請求項2】
前記ブレーキピストンの周壁の先端を前記断熱材インサートに当接させ、ブレーキピストンによる押圧力がその周壁からも断熱材インサート経由でブレーキパッドに伝達されるようにした請求項1に記載のディスクブレーキ。
【請求項3】
前記支柱の先端面に対向する空隙部とその空隙部を外部に連通させる通路溝を、前記断熱材インサートのブレーキパッドに対する当接面に設けた請求項1又は2に記載のディスクブレーキ。
【請求項4】
前記断熱材インサートにブーツ溝を設け、キャリパのシリンダの開口部に装着して前記シリンダと前記ブレーキピストンとの間の摺動界面の入口を封鎖するピストンブーツのピストン側の端部を前記断熱材インサートに固定するようにした請求項1〜3のいずれかに記載のディスクブレーキ。
【請求項5】
前記ブレーキピストンを樹脂で形成した請求項1〜4のいずれかに記載のディスクブレーキ。
【請求項6】
前記断熱材インサートと前記支柱の凹凸嵌合部に、発生する応力を和らげるための応力緩和部を設けた請求項1に記載のディスクブレーキ。
【請求項7】
前記断熱材インサートの背面にボス部を設け、そのボス部に形成した凹部に前記ピストンの支柱を圧入嵌合させ、その嵌合部に、前記応力緩和部を設けた請求項6に記載のディスクブレーキ。
【請求項8】
前記ボス部又は前記支柱に、支柱の長手方向に延びるスリットを周方向に間隔をあけて複数設け、そのスリットで前記応力緩和部を形成した請求項7に記載のディスクブレーキ。
【請求項9】
前記スリットを前記ボス部に形成した前記凹部の内周面に設けた請求項8に記載のディスクブレーキ。
【請求項10】
前記断熱材インサートと前記支柱の凹凸嵌合部の嵌合面間に防振材を設置し、その防振材に締代をつけて前記断熱材インサートのボス部の凹部と前記支柱を嵌合させた請求項1に記載のディスクブレーキ。
【請求項11】
前記凹凸嵌合部の前記断熱材インサート側の嵌合面、又は前記支柱側の嵌合面に溝を設け、その溝に前記防振材を組み込んだ請求項10に記載のディスクブレーキ。
【請求項12】
前記凹凸嵌合部の凹部に挿入される凸部を前記凹部の底に突き当てて前記断熱材インサートと前記ブレーキピストンをピストン軸方向に位置決めし、この状態において、前記ブレーキピストンの周壁の先端と前記断熱材インサートの背面との間に隙間を形成した請求項10又は11に記載のディスクブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ブレーキパッドを液圧作動のブレーキピストンで押圧して制動力を発生させる車両用のディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のディスクブレーキは、液圧作動型のものが主流をなしている。その液圧作動型のディスクブレーキは、ディスクロータ(以下ではディスクと略称する)の両面に対向させたブレーキパッド(以下ではパッドと略称する)の少なくとも一方を、キャリパのシリンダに組み込まれたブレーキピストン(これも以下では単にピストンと言う)で押圧してディスクに摺接させる。
【0003】
この形式のディスクブレーキには、前記ピストンとして、カップ状ピストンが多用されている。そのカップ状ピストンは、底壁をキャリパのシリンダに臨ませており、その底壁にブレーキ液圧を受けて推進する。
【0004】
このカップ状ピストンは、軽量化のために肉厚を薄くすると高液圧が負荷されたときに底壁が変形し(撓む)、その変形に起因したブレーキ液の消費量増加が生じてブレーキフィーリング(ブレーキ操作のフィーリング)が悪化する。
【0005】
そこで、下記特許文献1は、ピストンの内部に複数のリブを設けて底壁の変形を抑制することを提案している。
【0006】
また、カップ状ピストンの外周にはピストンのリトラクト機能を有するピストンシールが装着されており、ピストン摺動部に制動熱が伝わり易い構造であると、ピストンシールの熱膨張や劣化などによりロールバック量の経時変化が生じる。
【0007】
このために、下記特許文献2は、ピストンを外周側円筒部の内側に内周側円筒部を配置し、外周側円筒部と内周側円筒部間にピストンシール設置部よりも奥まで入り込む空隙部を形成することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−102598号公報
【特許文献2】特開2011−179676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1、2の構造は、どちらもピストンの形状が複雑で成型が難しく、量産対応のディスクブレーキには適していない。
【0010】
この発明は、高液圧負荷時のピストン底壁の変形の抑制を製造が困難にならないピストン形状で実現し、併せて、制動熱によるピストン摺動部の熱膨張も抑制可能となすことを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明は、ディスクの両面に対向させたパッドの少なくとも一方を、キャリパのシリンダに組み込まれた液圧作動のカップ状のピストンで押圧してディスクに摺接させるディスクブレーキを以下の通りに構成した。
【0012】
即ち、前記ピストンが内部中央にピストン底壁と一体の支柱を有し、その支柱の先端と前記パッドとの間に断熱材インサートが介在され、その断熱材インサートが前記支柱に凹凸嵌合して当該支柱に保持され、ピストンによる押圧力が前記支柱と前記断熱材インサート経由でパッドに伝達されるようにした。
【0013】
前記ピストンの周壁の先端を前記断熱材インサートに当接させ、ピストンによる押圧力がその周壁からも断熱材インサート経由でパッドに伝達されるようにしておくと好ましい。
【0014】
前記断熱材インサートと前記支柱の凹凸嵌合は、下記の2形態のどちらで行なわれていてもよい。
【0015】
1)支柱の先端に凹部を、前記断熱材インサートの背面に凸部をそれぞれ設けて前記凹部に前記凸部を嵌め込む構造。
2)前記断熱材インサートの背面に、支柱受け入れ用の凹部を有するボス部を突出して設け、そのボス部の凹部に前記支柱の先端を嵌め込む構造。
【0016】
上記1)、2)のどちらの形態も、前記断熱材インサートと前記支柱の凹凸嵌合は、凹部に対して凸部や支柱を圧入する方法で行なうと好ましい。凸部や支柱の凹部に圧入される部分の外周に摩擦力を増加させるローレット加工などを施しておくのも好ましい。
【0017】
かかるディスクブレーキは、前記支柱の先端面に対向する空隙部とその空隙部を外部に連通させる通路溝を、前記断熱材インサートのパッドに対する当接面に設けると好ましい。
【0018】
また、液圧作動型のディスクブレーキでは、キャリパのシリンダの開口部にピストンブーツを装着し、そのピストンブーツでシリンダとピストンとの間の摺動界面の入口を封鎖する方法が採られている。
【0019】
そのピストンブーツのピストン側の端部は、通常、ピストン先端の外周に設けたブーツ溝に挿入されるが、この発明のディスクブレーキでは、前記断熱材インサートにブーツ溝を設けてピストンブーツのピストン側の端部を断熱材インサートに固定するのがよい。
【0020】
このほか、断熱材インサートは、低熱伝導率で機械的強度にも優れるジルコニアを材料としたものが好ましい。
【0021】
ピストンの材料は、金属、樹脂のどちらであってもよい。
【0022】
前記断熱材インサートの材質やその断熱材インサートと前記支柱の嵌合構造によっては、断熱材インサートと前記支柱の凹凸嵌合部に、その嵌合部が熱膨張するなどしたときに嵌合部に働く応力(凸部が挿入される側の部材に働く周方向の引っ張り応力)を和らげる応力緩和部を設けるとより好ましい製品になることがある。
【0023】
断熱材インサートと支柱の嵌合部の嵌合面間に防振ゴムなどの防振材を設置し、その防振材に締代をつけて前記断熱材インサートのボス部の凹部と前記支柱を嵌合させるのも好ましい。この構造は、防振材によって振動減衰部と応力緩和部が併せて形成される。
【発明の効果】
【0024】
この発明のディスクブレーキは、ピストンの内部にピストン底壁と一体の支柱を有しており、その支柱を介してピストンによる押圧力がパッドに伝達されるようにしたので、支柱がピストン底壁の補強材として機能する。
【0025】
これにより、高液圧負荷時のピストン底壁の変形が無視できるほど小さくなり、その変形に起因したブレーキ液の消費量増加とそれによるブレーキフィーリングの悪化が抑制される。
【0026】
また、ピストンとパッドとの間に断熱材インサートを介在したので、ピストン摺動部に対して制動熱が流れ難くなり、ピストン摺動部の熱膨張が抑えられてロールバック量の経時変化が小さくなる。また、シリンダの液室に対する制動熱の伝達量も減少してブレーキ液の温度上昇も小さくなる。
【0027】
また、ピストンの中央に設ける支柱は、鋳型や金型による成形、機械加工のどちらででも困難なく作り出すことができ、ピストンの製造が困難になることもない。
【0028】
なお、ピストンによる押圧力がピストンの周壁の先端からもパッドに伝達されるようにしたものは、押圧力を全て支柱経由で伝達するものに比べて支柱の強度が小さくてよく、支柱の直径を小さくしてピストンの軽量化を図ることができる。
【0029】
また、前記断熱材インサートのパッドに対する当接面に前記空隙部と通路溝を設けたものは、伝熱経路の断熱性がより高まってピストンのロールバック量の変動抑制やブレーキ液の温度上昇抑制の効果がより高まる。
【0030】
さらに、ピストンブーツのピストン側の端部を断熱材インサートに固定するものは、ピストンの全長を従来のピストンに比べて断熱材インサートの厚み相当分短くすることができる。
【0031】
断熱材インサートを設けた構造でピストン背面から断熱材インサートの前面までのディスク軸方向寸法を従来のディスクブレーキと同一にして既存のキャリパを設計変更せずに使用することができる。
【0032】
このほか、ピストンを樹脂で形成したものは、ピストンの軽量化が図れる。ピストンの軽量化は、アルミニウム合金を材料にしたものでも可能であるが、樹脂製ピストンは金属製ピストンに比べて熱伝導率が低く、ピストンシールの設置部やシリンダ内のブレーキ液に対する制動熱の伝達も抑えられる。
【0033】
また、前記断熱材インサートを展延性の低いジルコニアなどで形成し、その断熱材インサートの背面に設けたボス部の凹部にピストンの支柱を圧入して嵌合させるものは、嵌合部に無用の応力(ボス部に引っ張り力として働く応力)が加わるとボス部に亀裂が発生する懸念があるが、前記応力緩和部を設けたものは、嵌合部に加わる応力が減少して上記の懸念が払拭される。
【0034】
嵌合部に防振材を設置したものも、その防振材が応力緩和部として働いて前記ボス部が保護される。また、嵌合部に防振材を設けると、制動時に生じる振動エネルギーがその防振材によって吸収されるため、ブレーキ振動やブレーキ鳴きの抑制効果が得られる。
【0035】
この構造は、防振材が嵌合部に配置されているので、制動時のブレーキ振動やブレーキ鳴きの抑制効果も期待できる。それらの抑制効果を、ブレーキフィーリングを悪化させずに制動の全減速域において発揮させることが可能であり、ディスクブレーキのより一層の高性能化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】この発明のディスクブレーキの一例を示す断面図である。
【
図2】
図1のディスクブレーキに採用したピストンと断熱材インサートを分解した状態にして示す斜視図である。
【
図3】
図2のピストンと断熱材インサートを組み立て状態にして示す斜視図である。
【
図4】この発明のディスクブレーキに採用するピストンと断熱材インサートの他の例を示す断面図である。
【
図5】断熱材インサートとピストンの嵌合部に応力緩和部を設けた例を示す断面図である。
【
図6】
図5のX−X線に沿った位置の断面図である。
【
図7】
図5の断熱材インサートを背面側から見た斜視図である。
【
図8】
図5のX−X線に沿った位置の断面の他の例を示す図である。
【
図9】防振材を設けた嵌合部の一例を示す断面図である。
【
図11】防振材を設けた嵌合部の他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、添付図面の
図1〜
図11に基づいて、この発明のディスクブレーキの実施の形態を説明する。
【0038】
図1に例示したディスクブレーキは、浮動型ディスクブレーキである。その浮動型ディスクブレーキは、キャリパ1がマウント(図示せず)にピンスライド部(これも図示せず)を介してディスク軸方向スライド可能に支持されている。
【0039】
キャリパ1は、インナー側にシリンダ2を有しており、そのシリンダ2に円筒状の周壁4aと底壁4bを有するカップ状のブレーキピストン(以下単にピストンと言う)4が組み込まれている。
【0040】
5、5は、ディスクDの両面に対向させた対のブレーキパッド(以下単にパッドと言う)であり、このパッドの一方(インナー側のパッド)5がピストン4に押されてディスクDの一面に押し当てられる。また、そのときの反力でキャリパ1が
図1において右方にスライドし、これによりディスクDを跨いだキャリパ1のアウター爪3がアウター側のパッド5をディスクDに押しつける。
【0041】
6は、ピストンのリトラクト機能を有するピストンシールである。このピストンシール6は、シリンダ2の内面に設けられたシール溝7に組み込まれている。
【0042】
8は、シリンダ2の開口部に装着してシリンダ2とピストン4との間の摺動界面の入口を封鎖するピストンブーツである。このピストンブーツ8の片端は、キャリパ1に形成されたブーツ溝9に固定される。
【0043】
また、例示のディスクブレーキでは、そのピストンブーツ8の他方の端が断熱材インサート10の外周に固定される。
【0044】
ピストン4は、
図1、
図2に示すように、内部中央に底壁4bと一体の支柱11を有している。その支柱11は、ピストンの周壁4aと同心で、先端面が周壁4aの先端面と面一になる柱にしている。また、その支柱11の先端には嵌合用の凹部12が設けられている。支柱11の先端側を除く部分は中実の柱になっている。
【0045】
断熱材インサート10は、円盤状の部材であって、ピストン4とパッド5の間に介在される。この断熱材インサート10の背面中央には、一体の凸部13が設けられており、その凸部13を支柱11の先端の凹部12に嵌合させて断熱材インサート10の保持を支柱11で行うようにしている。
【0046】
凹部12と凸部13の嵌合は、圧入が固定部材を使わずに固定することができて好ましい。凸部13の外周にローレット加工などを施して圧入を行なうと、摩擦力を増加させることができる。
【0047】
図示の断熱材インサート10には、パッド5に対する当接面に、支柱11の先端面に対向する空隙部14とその空隙部14を外部に連通させる連通路15が設けられている。連通路15は図示の溝に限定されない。
【0048】
この断熱材インサート10は、コスト面では鉄を主成分とした合金が安価でよい。空隙部14と連通路15を設けたものは、そのような材料で形成しても断熱性を確保することができる。
【0049】
その断熱材インサート10は、性能面では、低熱伝導率で機械的強度にも優れるジルコニアを材料としたものが好ましい。
【0050】
例示のディスクブレーキは、断熱材インサート10の外周にブーツ溝9Aを設け、ピストンブーツ8のピストン側の端部を断熱材インサート10に固定するようにしている。
【0051】
この構造ではピストン4の背面から断熱材インサート10の前面までのディスク軸方向寸法を従来のディスクブレーキのピストンと同一にすることができる。それにより、既存のキャリパを設計変更せずに使用することが可能になる。
【0052】
このように構成した図示のディスクブレーキは、ピストン4による押圧力が、支柱11と断熱材インサート10を介してパッド5に伝達される。そのために、支柱11が補強材として機能し、高液圧負荷時にもピストンの底壁4bが変形し難くなる。
【0053】
なお、ピストン4は、アルミニウム合金や樹脂で形成したものが、軽量化が図れてよい。樹脂製ピストンは金属製ピストンに比べて熱伝導率が低く、ピストンシールの設置部やシリンダ内のブレーキ液に対する制動熱の伝達も小さく抑えられる。
【0054】
ピストン4と断熱材インサート10は、
図4に示すように、断熱材インサート10の背面にボス部16を突出して設け、そのボス部に当該ボス部の突端に開口させて形成された凹部16aに支柱11の先端を嵌め込む構造にして結合させてもよい。
【0055】
この構造も、支柱11の先端が断熱材インサート10に当接した位置で、ピストンの周壁4aの先端が断熱材インサート10の背面に接するようにしておくのがよい。
【0056】
図1、
図4の構造では、ピストン4による押圧力が周壁4aの先端からも断熱材インサート10経由でパッド5に伝わる。このために、押圧力の伝達を支柱に全て依存する構造に比べると支柱11の強度が小さくてよく、支柱の直径を小さくしてピストンの軽量化を図ることができる。
【0057】
図5、
図6及び
図8は、ピストン4に設けた支柱11を断熱材インサート10の背面に設けたボス部16の凹部16aに圧入する構造にし、その凹部16aと支柱11の圧入嵌合部に応力緩和部17を追設した形態の一例である。
【0058】
図示の応力緩和部17は、凹部16aと支柱11の嵌合部の嵌合面に、スリット18を設けてそのスリットで構成している。スリット18は、長手方向に延びるものを周方向に間隔をあけて複数設けている。そのスリット18は、図のように、金型で成形する凹部16aの内周面に設けると加工し易いが、支柱11の外周に設けても応力緩和の効果を期待できる。
【0059】
また、そのスリットを、支柱の外周を取り巻く環状のスリットを支柱の長手方向に間隔をあけて複数設ける構造でも応力緩和の効果を期待できる。
【0060】
断熱材インサート10が展延性の低いジルコニアなどで形成されていると、凹部16aに対する支柱11の圧入力や、ブレーキ作動時の制動熱で嵌合部が膨張したときの断熱材インサート10とピストンの熱膨張差などによってボス部16に引っ張り方向の応力が加わる。
図5の嵌合部に設けた応力緩和部17は、その応力を減少させてボス部16を保護する働きをする。
【0061】
スリット18は、応力集中の起こり難い溝面を有する形状、例えば、溝面を円弧面にした
図6、
図7に示すような形状や溝底のコーナを丸めた形状が好ましいが、これ以外にも任意の形状を選択できる。
図8に示すような形状のスリットであっても構わない。
【0062】
図9〜
図11は、断熱材インサート10と支柱11の嵌合部に防振ゴムなどの防振材19を設置し、その防振材19に締代をつけてボス部16の凹部16aと支柱11を嵌合させる構造の具体例である。
【0063】
嵌合部に防振材19を設置したこの構造によれば、制動時に生じる振動エネルギーが防振材19によって吸収され、ブレーキ振動やブレーキ鳴きが抑制される。
【0064】
かかる構造に採用する防振材19は、
図10に示したゴムリングなどでよい。その防振材19は、設置数が
図9のように1個であってもよいし、
図11のように複数個であってもよい。リング状であることも必須ではない。
【0065】
また、図示の嵌合部は、凹部16aの内面に溝20(図のそれは環状溝)を設けてその溝20に防振材19を組み込んだが、防振材19は支柱11の外周面に溝を設けてそこに組み込むことも可能である。
【0066】
断熱材インサート10と支柱11の嵌合部に防振材19を介在させるこの構造では、振動減衰部だけでなく、応力緩和部17も併せて形成される。
【0067】
ディスクブレーキにおけるブレーキ振動やブレーキ鳴きの抑制策として、低減速域ではピストンの推力を弾性体経由でブレーキパッドに伝え、高減速域では前記弾性体が圧縮量増によりピストン内に没入してピストンの推力がブレーキパッドに直接伝わる構造が考えられているが、これは、低減速域での消費液量の変化が大きいため、ブレーキフィーリングに悪影響を及ぼす。また、高減速域では振動減衰の効果が全く得られない。
【0068】
これに対し、図のように、断熱材インサートのボス部16に設けた凹部16aの底にピストンの支柱11を突き当てて断熱材インサート10とピストン4をピストン軸方向に位置決めし、この構造においてボス部16と支柱11の嵌合部に防振材19を配置したものは、ブレーキフィーリングの悪化が起こらず、ブレーキ振動やブレーキ鳴きの抑制も全減速域においてなされる。
【0069】
なお、断熱材インサート10と支柱11の嵌合部に防振材19を配置する構造では、支柱11が凹部16aの底に突き当たった位置でピストン4の周壁の先端と断熱材インサート10の背面との間に隙間g(
図9、
図11参照)を生じさせるのがよい。
【0070】
その隙間があると、振動が防振材19を経由せずにパッド5からピストン4に伝わることが阻止される。
【0071】
防振材19は、
図1のように、ピストン4に設けた支柱11に凹部12を設け、その凹部12に断熱材インサート10の背面に設けた凸部13を挿入する構造の嵌合部にも採用することができる。この場合も、凹部12の底に凸部13を突き当てた状態でピストン4の周壁の先端と断熱材インサート10の背面との間に
図9に示したような隙間を形成すると、ブレーキ振動やブレーキ鳴きの抑制効果がいかんなく発揮される。
【0072】
なお、以上の説明は、浮動型ディスクブレーキを例に挙げて行なったが、この発明は、ディスクの両面に対向させたパッドを対向配置されたピストンで個別に押圧するピストン対向型のディスクブレーキに適用してもその有効性が発揮される。
【符号の説明】
【0073】
1 キャリパ
2 シリンダ
3 アウター爪
4 ブレーキピストン
4a 周壁
4b 底壁
5 ブレーキパッド
6 ピストンシール
7 シール溝
8 ピストンブーツ
9、9A ブーツ溝
10 断熱材インサート
11 支柱
12 凹部
13 凸部
14 空隙部
15 連通路
16 ボス部
16a 凹部
17 応力緩和部
18 スリット
19 防振材
20 溝
D ディスク
g 隙間