特許第6299456号(P6299456)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6299456
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】車体側面構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20180319BHJP
   B62D 25/04 20060101ALI20180319BHJP
【FI】
   B62D25/20 F
   B62D25/04 C
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-122319(P2014-122319)
(22)【出願日】2014年6月13日
(65)【公開番号】特開2016-2788(P2016-2788A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2017年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000176811
【氏名又は名称】三菱自動車エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】波頭 伸二
(72)【発明者】
【氏名】榊原 春彦
【審査官】 梶本 直樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−184527(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/083704(WO,A1)
【文献】 特開2012−035646(JP,A)
【文献】 特開2008−037129(JP,A)
【文献】 特開2004−306698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/04
B62D 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のサイドシルとピラー基端部とが結合される車体側面構造であって、
前記サイドシルが、
車両前後方向に配置される閉断面形状の筒部と、
前記筒部から上方へ延設され車幅方向に面して配置されるフランジ部と、を備え、
前記ピラー基端部が、
側面視で裾広がり形状に形成され、前記筒部の側面に固定される側面部と、
前記側面部の車両前後方向の端辺から車幅方向へ延設されて前記フランジ部に固定され、下端辺が側面視で裾狭まり形状に形成される端面部と、
板厚方向に段差を持つ段丘状に形成され、前記端面部の下端部に配置されるステップ部と、を備える
ことを特徴とする、車体側面構造。
【請求項2】
前記ステップ部が、前記筒部の上面に対して間隔をあけて設けられる
ことを特徴とする、請求項1記載の車体側面構造。
【請求項3】
前記端面部の下端辺が、前記側面部と前記端面部との境界線に対して交差するように形成される
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の車体側面構造。
【請求項4】
前記ステップ部が、前記端面部の下端辺に沿って配設される
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の車体側面構造。
【請求項5】
前記ステップ部が、前記端面部の下端辺に垂直な方向に沿って配設される
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の車体側面構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のサイドシルとピラー基端部とが結合される車体側面の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車体のピラー及びサイドシルのそれぞれを閉断面形状とし、ピラーの基端部をサイドシルに結合した車体側面構造が知られている。この種の車体側面構造では、ピラー及びサイドシルの結合強度を高めるために、ピラー基端部の形状が車両前後方向に広がった裾広がり形状とされている。また、ピラー基端部の裾広がり形状部分のうち、車幅方向に面する側面は、サイドシルの外側に沿って下方へ延ばされ、サイドシルの外側に対して溶接固定されている。一方、ピラー基端部における車両前後方向の端辺から車幅方向に延設された端面は、サイドシルの上面に対してなめらかに接続されて溶接固定される(特許文献1,2参照)。
【0003】
このような構造により、ピラー及びサイドシルの結合面の断面積を増大させることができ、ピラー基端部の剛性を高めることができる。また、サイドシルの上面及び側面に対してピラー基端部を溶接することで、ピラーとサイドシルとの結合性を高めることができる。さらに、裾広がり形状のピラーの下端部をサイドシルの外側に沿って下方へ延出させることで、フランジとサイドシルとの溶接幅を車両前後方向に広くすることができ、ピラーとサイドシルとの結合性をより高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-143762号公報
【特許文献2】特許第4329379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の構造ではピラー基端部の変形代が十分に考慮されておらず、ピラーとサイドシルとが剛に結合されている。そのため、車両の側突に際してピラーとサイドシルとの溶接部分に荷重が集中しやすく、溶接強度や溶接箇所の配置によっては剥離が生じる場合がある。
【0006】
ここで、ピラー基端部がサイドシルの延在方向に沿って複数箇所で溶接された車体側面構造を想定する。側面衝突の際には、ピラー全体が車室内側に押し込まれるように変形し、ピラー基端部は上方向に引っ張られるとともに、サイドシルがロール方向に回転(ねじれ変形)する。このとき、ピラー基端部の各溶接箇所には、上記の変形に伴う引張応力が作用する。この応力が最も大きくなりやすいのは、車両前後方向の両端部付近に位置する溶接箇所であり、車両前方側の端部と車両後方側の端部に位置する溶接箇所で溶接剥離が生じやすい。このような溶接剥離が生じると、残りの溶接箇所に過大な荷重が作用して連鎖的に剥離が発生し、側突に対する車室保護性能が大きく低下する虞がある。
【0007】
上記の課題に対し、ピラー基端部の形状を拡大して、溶接箇所数を増加させることで側突時の応力を分散させる構造にすることが考えられる。例えば、ピラー基端部の形状を車両前後方向及び上下方向に延長し、その延長部分に溶接打点を追加する。これにより、溶接箇所の一箇所あたりに作用する応力が小さくなり、溶接剥離を抑制することが可能となる。しかしこの場合、ピラー基端部の部材サイズや部材重量が増大するほか、プレス加工性が低下し、溶接工数も増加する。そのため、生産性やコストの面で不利となる。
【0008】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑み創案されたものであり、簡素な構成で部品の軽量化及び生産性の向上を図りつつ、側突に対する車室保護性能を改善できるようにした車体側面構造を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)ここで開示する車体側面構造は、車両のサイドシルとピラー基端部とが結合される車体側面構造である。前記サイドシルは、車両前後方向に配置される閉断面形状の筒部と、前記筒部から上方へ延設され車幅方向に面して配置されるフランジ部とを備える。また、前記ピラー基端部は、側面部,端面部及びステップ部を備える。
前記側面部は、側面視で裾広がり形状に形成され、前記筒部の側面に固定される。一方、前記端面部は、前記側面部の車両前後方向の端辺から車幅方向へ延設されて前記フランジ部に固定され、下端辺が側面視で裾狭まり形状に形成される。また、前記ステップ部は、板厚方向に段差を持つ段丘状に形成され、前記端面部の下端部に配置される。
【0010】
(2)前記ステップ部が、前記筒部の上面に対して間隔をあけて設けられることが好ましい。
(3)前記端面部の下端辺が、前記側面部と前記端面部との境界線(稜線,山折り線)に対して交差するように形成されることが好ましい。例えば、前記境界線が水平になっていない位置で、前記ピラー基端部が前記境界線に対して垂直にカットされることが好ましい。なお、ここでいう「垂直」とは厳密に直角をなす状態だけでなく、ほぼ垂直な状態(例えば、前記端面部の下端辺が前記境界線に対する垂直方向,直交方向,ほぼ垂直な方向にカットされた状態)を含み、例えば約45〜135°の範囲内における任意の角度とする。
【0011】
(4)前記ステップ部が、前記端面部の下端辺に沿って配設されることが好ましい。例えば、前記ステップ部は、前記側面部と前記端面部との間の境界線(稜線,山折り線)に対して垂直な方向に沿って配設されることが好ましい。これにより、前記端面部に変形しにくい特性が与えられ、変形に対する剛性が高められる。
(5)あるいは、前記ステップ部が、前記端面部の下端辺に垂直な方向に沿って配設されることが好ましい。例えば、前記ステップ部は、前記側面部と前記端面部との間の境界線(稜線,山折り線)に沿って配設されることが好ましい。これにより、前記端面部に変形しやすい特性(変形吸収性)が与えられ、クラッシャブル領域が増大する。
なお、前記端面部の下端辺に沿って配設される部分と、前記端面部の下端辺に垂直な方向に沿って配設される部分とを組み合わせて、前記ステップ部を形成してもよい。
【発明の効果】
【0012】
開示の車体側面構造によれば、部品サイズ,重量を増大させることなく、サイドシルとピラー基端部との間の溶接剥離を抑制して結合状態を維持することができ、車体強度を高めることができる。したがって、簡素な構成で軽量化及び生産性の向上を図りつつ、側突に対する車室保護性能を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例としての車体側面構造が適用された車両を示す図である。
図2】車体側面構造を模式的に示す分解斜視図である。
図3】(A)はピラー基端部を示す斜視図、(B)はその側面図である。
図4】(A),(B)はピラー基端部の縦断面図〔図3(B)のA−A断面図,B−B断面図〕である。
図5】(A),(B)は変形例としての車体側面構造におけるピラー基端部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照して、実施形態としての車体側面構造について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0015】
[1.車両構成]
本実施形態の車体側面構造は、図1に示す車両10のモノコック車体構造において、サイドシル9とセンターピラー11(Bピラー)との結合部に対して適用される。センターピラー11は、ルーフサイドレール13とサイドシル9との間をつないで上下方向に設けられる構造体である。また、サイドシル9は、車両10の外側面下方において車両前後方向に延設される構造体であり、ドア開口の下枠をなす部分である。同様に、ルーフサイドレール13は、車両10の天井面の左右両端辺に設けられる構造体であり、ドア開口の上枠をなす。これらのセンターピラー11,サイドシル9,ルーフサイドレール13は、好ましくは閉断面構造に形成される。
【0016】
サイドシル9及びルーフサイドレール13の車両前端部にはフロントピラー14(Aピラー)が設けられ、サイドシル9及びルーフサイドレール13の車両後端部にはリアピラー15(Cピラー)が設けられる。これらにより、車両10のドア開口の周囲には、サイドシル9,ルーフサイドレール13,フロントピラー14及びリアピラー15で四方を囲まれた環状の側面骨格構造が形成され、その内側にセンターピラー11が縦方向に配置される。
【0017】
[2.ピラー,サイドシル]
図2は、車体側面構造を模式的に示す分解斜視図である。センターピラー11及びサイドシル9は、ともに車両10の外装パネルであるアウターパネル1の車両内側(車幅方向の内側)に設けられる。アウターパネル1には、水平断面形状が車両外側に向かって膨出した形状のピラー部1aと、縦断面形状が車両外側に向かって膨出した形状のシル部1bとが設けられる。ピラー部1aは、センターピラー11の外装パネルであって、車両側面で上下方向に延設される。また、シル部1bは、サイドシル9の外装パネルであって、ピラー部1aの下端において車両前後方向(水平方向)に延設される。
【0018】
ピラー部1aの内側には、ピラーインナー部材2とピラーリンフォース部材3とが配置される。これらの水平断面形状は、例えばピラーインナー部材2が車両内側に突出したハット型であり、ピラーリンフォース部材3が車両外側に突出したハット型である。すなわち、コ字状断面の溝部材における両端辺からフランジ面(縁端面)を垂直に延出させた形状である。これらのフランジ面を重ね合わせてスポット溶接,レーザー溶接等で固定することで、上下方向に延びる中空の閉断面骨格が形成される。
【0019】
同様に、シル部1bの内側には、サイドシルインナー部材4とサイドシルリンフォース部材5とが配置される。これらの垂直断面形状は、例えばサイドシルインナー部材4が車両内側に突出したハット型であり、サイドシルリンフォース部材5が車両外側に突出したハット型である。これらのフランジ面を重ね合わせてスポット溶接,レーザー溶接等で固定することで、車両前後方向に延びる中空の閉断面骨格が形成される。
【0020】
ここで、図3(A)に示すように、サイドシルインナー部材4及びサイドシルリンフォース部材5を組み合わせて形成される筒状部分のことを、サイドシル9の筒部6と呼ぶ。筒部6は、車両前後方向に配置される。筒部6の断面形状は、上面6a,下面6b,外側面6c,内側面6dで囲まれた長方形状である。また、筒部6の上面6aには、上方に向かって延設されたフランジ部7が設けられる。このフランジ部7は、車幅方向に面する向きで(すなわち、フランジ部7の表面に対して垂直な方向(法線方向)が車幅方向外側又は車幅方向内側を向くように)配置される。
【0021】
[3.ピラー基端部]
以下、ピラーリンフォース部材3の基端部をピラー基端部8と呼ぶ。ピラー基端部8は、サイドシル9の筒部6及びフランジ部7に対して溶接固定される。ここで、ピラー基端部8を水平に切断した状態の斜視図を図3(A)に示す。ここでは、ピラーインナー部材2については記載を省略している。ピラー基端部8の水平断面の概形は、図3(A)に示すように、車幅方向外側に向かって突出したハット型である。このピラー基端部8には、側面部8a,端面部8b,ステップ部8cが設けられる。
【0022】
側面部8aは、ピラー部1aの内側でピラー部1aの表面に沿って、車幅方向を向いた姿勢で上下方向に延在する面状の部位である。図3(A)中では、ピラーリンフォース部材3の下端部のみを示すが、実際の側面部8aは、図3(A)に示された部位よりも上方まで延設されている。車両側面視における側面部8aの形状は、図3(B)に示すように、基端側の下方が車両前後方向に拡幅した裾広がり形状とされる。これにより、曲げ変形に対する剛性が確保される。
【0023】
側面部8aの前後方向端辺である稜線R(側面部8aと端面部8bとの境界線,山折り線)は、直線状や折れ線状に形成してもよく、あるいは緩やかに屈曲した曲線状に形成してもよい。本実施形態では、側面視で二本の稜線Rが八の字型をなして、下方に向かうに連れて拡幅するように配置されている。また、稜線Rの下端部における傾きは、斜め下方向(すなわち、水平よりもやや下向きの方向)となっている。なお、図3(A),(B)中の側面部8aの表面に形成されている、複数の浅い凹凸形状は、側面部8aの曲げ変形に対する剛性を高めるために加工されたものである。
【0024】
図4(A),(B)に示すように、側面部8aの下辺部8dは、少なくともその下端辺が筒部6の外側面6cに達する位置まで延設され、外側面6cに対して複数の溶接点Wで溶接固定される。これらの溶接点Wは、車両前後方向(側面視で水平方向)にほぼ均等な間隔で、側面部8aの下端辺に沿って列状に配置される。これらの溶接点Wのうち最も外側の溶接点Wの位置は、図3(A),(B)に示すように、側面部8aの下端部における車両前後方向の前端近傍及び後端近傍に設定される。
【0025】
端面部8bは、側面部8aの車両前後方向端辺である稜線Rから車幅方向(車両内側)に向かって延設されて、フランジ部7に固定される面状の部位である。これらの端面部8bには、図3(A)に示すように、端面フランジ8eと端面斜面8fとが設けられる。
端面フランジ8eは、端面部8bにおける車両前後方向端辺に配置されてフランジ部7に溶接固定される部位であり、側面部8aに対してほぼ平行な面状に形成される。端面フランジ8eは、少なくとも側面視でフランジ部7と重合するように形成され、端面フランジ8e及びフランジ部7の重合範囲内に溶接点Wの位置が設定される。図3(A),(B)では、端面フランジ8eの下端部近傍に溶接点Wが設定されたものを例示する。
【0026】
一方、端面斜面8fは、稜線Rを介して側面部8aに隣接する面であり、側面部8aと端面フランジ8eとの間を接続する曲面状(又は折れ曲がった平面状)の部位である。端面部8bの車幅方向寸法は、筒部6の外側面6cからフランジ部7までの水平距離とほぼ同一に設定される。これらの端面部8b(端面フランジ8e,端面斜面8f)の下端辺は、側面視で下方ほど狭くなる裾狭まり形状に形成される。すなわち、車両前方側の端面部8bは、板端末が車両前方の斜め下を向いた姿勢となるように形成され、車両後方側の端面部8bは、板端末が車両後方の斜め下を向いた姿勢となるように形成される。なお、端面部8bの板端末の角度は、側面視で水平面に対して30〜60°前後とされ、好ましくは45°前後とされる。
【0027】
図3(B)中の破線ラインは、前述の特許文献1,2に記載されたような、従来のピラーの基端部の輪郭形状例を示すラインである。本実施形態のピラー基端部8は、破線ラインで示されるものよりも車両前後方向の端部が斜めにカットされている。すなわち、車両前方側に位置する端面部8bの下端辺は、車両後方かつ下向きに延びる直線Lに沿って切り取られた形状とされる。一方、車両後方側に位置する端面部8bの下端辺は、車両前方かつ下向きに延びる直線Mに沿って切り取られた形状とされる。また、側面部8aは、稜線Rが直線L,直線Mに対してほぼ垂直に交差するように形成される。これにより、端面部8bの下端辺が車体の下方向を向いた姿勢となり、複数の溶接点Wは二つの溶接点Wよりも車両前後方向の内側に配置される。なお、稜線Rが直線L,直線Mに対して厳密に直角でなければならないわけではない。稜線Rと直線L,直線Mとのなす角度は、ピラー基端部8に確保したい部材性能に応じて、例えば約45〜135°の範囲内で任意に設定してもよい。
【0028】
端面部8bの下端は、端面部8bが筒部6の上面6aから離れて宙に浮いた状態となるように、上面6aに対して間隔をあけて設けられる。これにより、端面部8bの下方には、筒部6の上面6a,フランジ部7,側面部8a,端面部8bの四者に四方を囲まれた隙間が形成される。この隙間は、サイドシル9のねじれ変形に対するピラー基端部8の変形を吸収しうる変形代として機能する。一方、ピラー基端部8及びサイドシル9の結合箇所に隙間があると、結合箇所の変形が許容される反面、剛性が低下しうる。そこで本実施形態では、端面部8bの下端部にステップ部8cを形成し、剛性低下の埋め合わせを図る。
【0029】
ステップ部8cは、図3(A),(B)に示すように、端面斜面8fの下端部をプレスすることで板厚方向の段差を設け、段丘状(階段状)に形成したものである。ステップ部8cの凹凸形状は、端面斜面8fよりも下方に窪んだ形状としてもよいし、端面斜面8fよりも上方に突出した形状としてもよい。本実施形態のステップ部8cは、側面部8aと端面フランジ8eとの間をつなぐように設けられ、隙間の上枠となる位置に配置される。このステップ部8cを設けることで、端面斜面8fが車幅方向に潰れにくくなり、ピラー基端部8及びサイドシル9の結合箇所の剛性が向上する。
【0030】
[4.作用,効果]
(1)上記の車体側面構造では、図3(B)に示すように、ピラー基端部8の側面部8aが側面視で裾広がり形状に形成される。一方、その端辺から車幅方向に延設される端面部8bは、下端辺が裾狭まり形状に形成される。図3(B)中に破線ラインで示すような従来のピラーの基端部と比較すると、車両前後方向の部材寸法が短縮される。これにより、側面衝突の際に応力が集中して溶接破断が生じやすかった部分がカット(省略)され、溶接箇所での剥離が生じるのを抑制することができる。
【0031】
また、車両前後方向の部材寸法を短縮することで溶接打点並びに部材サイズや部材重量を削減することができ、ピラーリンフォース部材3の軽量化とともに生産性の向上を図ることができる。これに加えて、車両前後方向の寸法が小さくなるため、一枚の鋼板から複数のピラーリンフォース部材3をプレス成形する場合に生じる材料の不使用部分を小さくすることができ、歩留まりを改善することができる。
【0032】
一方、端面部8bの下端部には、板厚方向に段差を持つ段丘状のステップ部8cが設けられる。これにより、端面部8bの剛性が高められ、側面衝突の際に変形しにくい特性が端面部8bに与えられる。したがって、ピラー基端部8の接合面積(溶接打点)が少なくなっても、ピラー基端部8とサイドシル9との結合箇所における車体強度を高めることができる。このように、上記の車体側面構造によれば、簡素な構成でピラーリンフォース部材3の軽量化及び生産性の向上を図りつつ、側突に対する車室保護性能を改善することができる。
【0033】
(2)上記の車体側面構造では、ステップ部8cが、筒部6の上面6aに対して間隔をあけて設けられる。これにより、端面部8bの下方に隙間を形成することができ、サイドシル9のねじれ変形に対する変形代を確保することができ、ピラー基端部8の変形を吸収させて、側面部の固定箇所(溶接箇所)の剥離抑制効果を高めることができる。一方、隙間を形成したことによる剛性の低下は、隙間の直上方にステップ部8cを設けることで補うことができる。したがって、側面衝突に対する強度と変形許容性とのバランスを調整しやすくすることができる。
【0034】
(3)上記の車体側面構造では、端面部8bの下端辺が稜線Rに対して交差するように形成される。例えば、側面部8aの端辺に相当する稜線Rと端面部8bの下端辺に対応する直線L(直線M)とがほぼ直角に交差する。これにより、稜線Rに沿って伝達される応力が、側面部8aにも端面部8bにも分散しやすくなる。したがって、側面部8aと筒部6とを固定する複数の溶接点Wのうち、車両前後方向の最も外側に位置する箇所への応力集中を抑制することができ、固定(溶接)の剥離抑制効果を高めて、側面衝突に対する車室保護性能を改善することができる。
【0035】
(4)上記の車体側面構造では、図3(A),(B)に示すように、ステップ部8cが端面部8bの下端辺に沿って配設され、側面部8aと端面フランジ8eとの間をつなぐように設けられる。これにより、端面斜面8fを車幅方向に潰れにくくすることができ、端面部8bの下端辺の剛性をさらに高めることができる。また、側突時における車体側面の進入速度を減少させることができ、乗員保護性能を向上させることができる。
【0036】
(5)近年、車体構造部材の高強度化,軽量化が進み、高張力鋼板が採用されつつある。一方、図3(B)中に破線ラインで示すような従来のピラーの基端部は、おおむねT字型の輪郭形状となっており、一般的にはT字型の金型を用いたクローズドロー工法でプレス加工されて製造される。しかし、高張力鋼板をクローズドロー工法で加工した場合には、プレス過程での材料の流入方向が複雑化しやすく、割れやシワが生じやすいという欠点がある。そのため、従来のピラーの基端部には、高張力鋼板の適用が困難であった。
【0037】
これに対して、上記の車体側面構造では、車両前後方向の部材寸法が短縮されているため、I字型の金型を用いたオープンドロー工法でプレス加工して製造することができる。この場合、プレス過程での材料の流入方向が単純化され(ほぼ一定の方向となり)、割れやシワが生じにくくなる。したがって、上記の車体側面構造には、高張力鋼板が適用しやすく、板厚を薄くして部材重量を軽量化することが容易であるというメリットがある。
【0038】
[5.変形例]
上記の実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
上述の実施形態では、アウターパネル1の内側にピラーインナー部材2,ピラーリンフォース部材3,サイドシルインナー部材4,サイドシルリンフォース部材5が設けられた車体側面構造を例示したが、具体的なセンターピラー11及びサイドシル9の構造はこれに限定されない。少なくとも、ピラー基端部8をサイドシル9に固定する構造を備えた車両10であれば、本車体側面構造を適用可能である。なお、本車体側面構造は、フロントピラー14,リアピラー15等のピラーの基端部にも適用することができる。
【0039】
また、上述の実施形態では、ステップ部8cが端面部8bの下端辺に沿って配設されたものを例示したが、ステップ部8cの配設手法はこれに限定されない。例えば、ピラー基端部8及びサイドシル9の結合箇所における剛性をさらに高めたい場合には、図5(A)に示すように、側面部8aの稜線Rと端面フランジ8eとの間に複数のステップ部8cを掛け渡してもよい。これにより、側面衝突時におけるセンターピラー11の室内側への進入速度を遅らせることができ、車室保護性能を向上させることができる。
【0040】
あるいは、図5(B)に示すように、端面部8bの下端辺に垂直な方向に沿って(すなわち稜線Rと平行に)ステップ部8cを配設してもよい。これにより、側面衝突時に端面斜面8fの潰れ量が大きくなり、クラッシャブル領域が増大するため、車室保護性能を向上させることができる。なお、図5(A),(B)の各々に示すようなステップ部8cを組み合わせて段丘状の部分を縦横に配設してもよいし、複数の段丘に囲まれた格子状の凹凸形状を形成してもよい。ステップ部8cの具体的な形状,配置は、ピラー基端部8に求められる剛性及び変形許容性に応じて設定することができる。
【0041】
また、上述の実施形態では、ステップ部8cが筒部6の上面6aに対して間隔をあけて設けられた構造を説明したが、ここでいう「間隔」は限りなく小さくすることができ、少なくともステップ部8c(端面部8bの下端辺)と筒部6の上面6aとが縁切りされた状態であればよい。なお、上述の実施形態の溶接点W,Wは、部材の溶接箇所を示しているが、溶接の形状はこれに限定されない。また、部材の固定手法に関しても同様であり、スポット溶接やレーザー溶接以外の手法(例えば、圧接,融接など)を用いて固定してもよい。
【符号の説明】
【0042】
6 筒部
6a 上面
6c 外側面
7 フランジ部
8 ピラー基端部
8a 側面部
8b 端面部
8c ステップ部
8d 下辺部
8e 端面フランジ
8f 端面斜面
9 サイドシル
11 センターピラー
R 稜線
図1
図2
図3
図4
図5