(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部(11)は、前記電源電圧(Vbatt)がリセット電圧以下になると前記積算値を0にすると共に前記負荷(3)を駆動していれば前記負荷電流(Iout)を遮断して前記負荷(3)の駆動を停止し、前記積算値を0にした後に前記電源電圧(Vbatt)が前記リセット電圧よりも大きな所定電圧まで上昇したときに、前記負荷駆動部(2)を制御して前記負荷(3)の駆動を再開すると共に前記積算値を0よりも前記判定閾値に近い補正値に設定し、該補正値から前記加減算を行うことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の過電流保護回路。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、過電流保護回路の電源電圧の低下に起因して、マイコンがADコンバータの示す電圧値の検出を行うときの検出精度が悪化する。
【0005】
例えば、車両用の過電流保護回路では、バッテリを電源として用いており、電源電圧(つまりバッテリ電圧)に基づいて電源回路でマイコン用の電源電圧(以下、マイコン電源電圧という)やADコンバータの電圧値の読み取りを行うための参照電圧を生成している。その場合、
図9に示す電源電圧に対するマイコン電源電圧の変化に示されるように、電源電圧が例えば6.5V以上においてはマイコン電源電圧を一定値にできるが、6.5V以下になると電源電圧の低下に伴ってマイコン電源電圧が低下する。同様に、参照電圧についても電源電圧の低下に伴って低下する。製造誤差などによってマイコン電源電圧が低下する電圧ドロップに誤差があるが、典型的な製品では電圧6V以下から電圧ドロップが生じる(以下、電圧ドロップtyp時という)。これに対して、電源電圧が比較的大きな値のとき、つまり最も早い段階から電圧ドロップが生じる場合(以下、電圧ドロップmax時という)や、電源電圧が比較的小さな値のとき、つまり最も遅い段階から電圧ドロップが生じる場合(以下、電圧ドロップmin時という)と誤差があるものの、同様の傾向となる。
【0006】
また、マイコン電源電圧の低下、より詳しくは参照電圧の低下により、
図10に示すように、マイコンがADコンバータより入力される電圧値を誤認識し、実際に入力された電圧値よりも高い値として認識してしまう。このようなご認識についても、電圧ドロップtyp時に限らず、電圧ドロップmax時や電圧ドロップmin時にも同様のことが言える。
【0007】
そして、このような誤認識について検出精度を示すと、
図11のように示され、最大で40%程度、検出される電圧値と実際の電圧値とにズレが生じる。
【0008】
このような検出精度の悪化が生じると、センス電流が正常な電流値範囲内となる正常電流であったとしても、その電流値範囲から外れた異常電流であると判定され、加算数値として加算する必要が無いのに加算して半導体スイッチをオフし、負荷電流を遮断してしまう。このため、従来では、検出精度の悪化に基づいて誤って負荷電流を遮断してしまうことを防止すべく、検出精度の悪化が生じる範囲になると負荷電流を遮断し、誤認識が生じ得る範囲では負荷が駆動されないようにしている。
【0009】
ところが、近年では、電源電圧が低下しても、できるだけ低い電圧まで負荷の駆動を可能にしたいという要望があり、上記のように検出精度の悪化が生じ得る範囲で負荷の駆動を行えないようにすると要望に応えることができない。
【0010】
このような要望に応えるには、電源と接地電位点(以下、GNDという)との間に大容量のコンデンサを追加するか、または、電源回路をDC−DCコンバータなどの昇圧電源回路で構成することが考えられる。しかし、コンデンサの追加が必要になったり、昇圧電源回路を構成するための素子が必要になるなど、過電流保護回路の複雑化、それに伴う製品サイズの増加、コスト増加を招くことになる。
【0011】
一方、検出精度の悪化が生じることを前提として、電源電圧がある程度低くなっても負荷の駆動を継続することも考えられる。すなわち、センス電流が正常電流のときでも加算数値の加算が行われ、負荷電流を遮断して負荷の駆動が停止される可能性があるが、基本的にはマイコン電圧がマイコンの動作限界となるリセット電圧になるまで負荷の駆動を継続する。その場合、マイコン電圧がマイコンリセット電圧となるまで、もしくは、加算数値の積算値が判定閾値を超えるまで負荷の駆動を継続できるため、上記した要望に応えることができる。ただし、このような駆動方法では、検出精度の悪化が生じることから、過電流の発生が検出されて遮断されたとしても、それが真に過電流が発生したためなのか、電源電圧の低下の為に過電流が発生したと誤判定されたためなのかが不明になる。
【0012】
また、負荷電流を遮断して負荷の駆動が停止された場合において、その遮断理由が実際に過電流が発生したことが理由なのではなく電源電圧が低電圧になったことである場合、電源電圧がある程度高い値に戻ったときに、再び半導体スイッチをオンして負荷を再駆動することができる。その場合、負荷電流を遮断してからの経過時間に応じて例えば保護対象となるワイヤの温度が低下していくことから、加算数値の積算値を経過時間に応じて低下させることで、ワイヤの温度低下に対応した積算値となるようにしている。
【0013】
しかし、負荷の再駆動を行ったときにラッシュ電流が発生するような場合には、ラッシュ電流発生時にも加算数値の積算が行われることになり、ワイヤの温度低下に対応した積算値にラッシュ電流発生時の加算数値が加算されて、直ぐに判定閾値を超える可能性がある。その場合、本来は負荷を駆動できる状態であるのに駆動することができなくなる。
【0014】
また、マイコン電圧がマイコンリセット電圧以下になった場合、加算数値の積算値が0にリセットされる。このため、遮断理由が実際に過電流が発生していたことであった場合において、電源電圧がある程度高い値に戻って再び半導体スイッチをオンすると、再び積算値が0から加算されて判定閾値を超えるまで負荷電流を遮断できず、その間、過電流が流れた状態になる。したがって、保護対象を過電流から保護することが十分に行えなくなる。
【0015】
本発明は上記点に鑑みて、負荷の再駆動を行ったときに、直ぐに負荷が駆動できなくなることを抑制することを第1の目的とする。また、負荷の再駆動を行ったときに、過電流の流れる時間を少なくできるようにすることを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明にかかる過電流保護回路は、電源電圧(Vbatt)に基づいて負荷(3)を駆動する負荷駆動部(2)と、負荷(3)および負荷駆動部(2)に接続されるワイヤ(4)と、負荷(3)に流れる電流の値である負荷電流(Iout)を検出し、該負荷電流(Iout)に対応するセンス電圧を出力する電流検出部(9)と、電源電圧(Vbatt)を検出する電圧検出部(7)と、負荷駆動部の制御を行うことで負荷(3)の駆動を制御し、検出部(9)で検出されたセンス電圧に基づいて加減算値を決定すると共に、加減算値を用いて加減算を行った積算値が判定閾値を超えると、負荷駆動部(2)を制御して負荷電流(Iout)を遮断し、負荷(3)の駆動を停止することで保護対象を過電流から保護する制御部(11)と、を備えている。
【0017】
このような構成において、制御部(11)は、電源電圧(Vbatt)の低下を検出したときに積算値が判定閾値を超えて負荷電流(Iout)を遮断したときには、遮断してからの経過時間に基づいて積算値を減算し、該電源電圧(Vbatt)が低下した後に所定電圧まで上昇したときに、負荷駆動部(2)を制御して負荷(3)の駆動を再開すると共に減算した積算値を補正前積算値として、該補正前積算値を補正して該補正前積算値よりも低い値となる補正後積算値を演算し、該補正後積算値から加減算を行うことを特徴とすしている。
【0018】
このように、負荷電流(Iout)が遮断されてからの時間に応じた減算数値を減算した後の積算値を補正前積算値として、補正前積算値よりも低い値となる補正後積算値を設定している。このように、補正後積算値をラッシュ電流相当の加算数値分を見込んだ値に低下させられるため、負荷(3)の再駆動時にラッシュ電流が発生して加算数値が加算されても、判定閾値を超えないようにできる。したがって、ラッシュ電流によって負荷電流(Iout)が誤遮断されることを抑制できる。
【0019】
例えば、請求項2に記載したように、制御部(11)にて、補正後積算値を補正前積算値の1/2に設定することができる。また、ラッシュ電流が発生しないような負荷(3)の場合には、請求項3に記載したように、制御部(11)にて、補正後積算値を0に設定することもできる。
【0020】
請求項
6または7に記載の発明では、制御部(11)は、電源電圧(Vbatt)がリセット電圧以下になると積算値を0にすると共に負荷(3)を駆動していれば負荷電流(Iout)を遮断して負荷(3)の駆動を停止し、積算値を0にした後に電源電圧(Vbatt)がリセット電圧よりも大きな所定電圧まで上昇したときに、負荷駆動部(2)を制御して負荷(3)の駆動を再開すると共に積算値を0よりも判定閾値に近い補正値に設定し、該補正値から加減算を行うことを特徴としている。
【0021】
このように、制御部(11)がリセットされたときに積算値を0にしているが、負荷(3)を再駆動する際に積算値として補正値を設定している。このため、負荷(3)を再駆動したときに保護対象に過電流が流れることを抑制できる。
【0022】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0025】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態では、ワイヤ(ワイヤハーネス)を保護対象とする過電流検出回路、すなわち過電流が流れることによってワイヤが発煙することを抑制する過電流保護回路を例に挙げて説明する。
【0026】
本実施形態で示される過電流保護回路は、例えば車両に搭載されるものであり、ワイヤに接続された負荷に電源を供給する電源供給装置としての役割を果たすものである。この過電流保護回路はワイヤに流れる過電流を検出し、負荷を保護する機能を備えている。
図1に、本実施形態にかかる過電流保護回路1のブロック構成を示し、この図を参照して、本実施形態にかかる過電流保護回路1について説明する。
【0027】
図1に示すように、過電流保護回路1は、半導体スイッチ2を制御することによってバッテリなどの電源Battから負荷3への電流供給を制御し、負荷3を駆動する。また、過電流保護回路1は、負荷電流Ioutが過電流となったことを検出し、半導体スイッチ2を制御して負荷電流Ioutを遮断することによって制限し、負荷3に対して電流供給を行っているワイヤ4を過電流から保護する。過電流保護回路1は、具体的には、半導体スイッチ2に加えて、保護回路5、電源回路6、電圧検出回路7、入力回路8、I−V変換回路9、フィルタ回路10およびマイコン11を有した構成とされている。
【0028】
半導体スイッチ2は、負荷駆動部に相当するものであり、
図1に示すように負荷3のハイサイド側に接続されていて、半導体スイッチング素子によって構成される。半導体スイッチング素子としては、パワーMOSFET、IGBTもしくはバイポーラトランジスタなどを適用することができる。半導体スイッチ2は、マイコン11からの制御信号に基づいて制御され、半導体スイッチ2がオンされているときに負荷3に対して負荷電流Ioutが供給され、負荷3が駆動される。
【0029】
また、半導体スイッチ2は、負荷電流Ioutを所定の比率で減少させたセンス電流を出力しており、このセンス電流がI−V変換回路9に伝えられている。例えば、半導体スイッチ2としてn型のMOSFETが適用される場合、半導体スイッチ2のドレインが電源Battに接続されると共にソースが負荷3に接続され、半導体スイッチ2のゲートにマイコン11からの制御信号が伝えられる構成とされる。そして、MOSFETを半導体チップ中において所定の面積比で分割して負荷電流Ioutが流される部分とセンス電流が流される部分とを構成し、分割された各MOSFETをカレントミラー接続した構成とすることで、負荷電流Ioutに対してセンス電流が所定の比率に低減した値となるようにしている。
【0030】
保護回路5は、マイコンに対して過電圧が印加されることを抑制する過電圧保護回路やバッテリが正負の極性を逆で接続されたときにマイコンに対して逆極性が印加されることを防止する逆接保護回路など、一般的な保護用の回路が備えられている。
【0031】
電源回路6は、マイコン11の駆動用電圧となるマイコン電源電圧を生成したり、マイコン11で使用される参照電圧を生成している。電源回路6は、電源電圧Vbattが所定の電圧(例えば6.5V)以上のときには、マイコン電源電圧や参照電圧を所望の電圧値で生成できるが、電源電圧Vbattが所定の電圧未満になると、マイコン電源電圧や参照電圧を所望の電圧値で生成できなくなる。製造誤差などにより、マイコン電源電圧や参照電圧が低下し始めるときの電源電圧Vbattの電圧値が異なっていることがあるが、同様の傾向で低下する(上記した
図9参照)。
【0032】
電圧検出回路7は、電源電圧Vbattの電圧値を検出し、その検出結果をマイコン11に伝えている。例えば、電圧検出回路7は、電源電圧Vbattの電圧を分圧し、マイコン11が読み取れる値に変換した電圧を検出結果としてマイコン11に伝えている。
【0033】
入力回路8は、ユーザや他の電子制御装置(以下、ECUという)からの負荷3の駆動要求を示す信号、例えばユーザによる操作スイッチの押下を示す信号を入力し、それに対応する信号をマイコン11に入力する。
【0034】
I−V変換回路9は、半導体スイッチ2から伝えられるセンス電流を電圧変換し、フィルタ回路10に出力する。以下、この電圧変換後の電圧をセンス電圧という。
【0035】
フィルタ回路10は、例えばCR回路などで構成されており、センス電圧のうちのノイズ成分、例えば高周波ノイズを除去し、ノイズ成分除去後のセンス電圧をマイコン11に伝える。
【0036】
マイコン11は、入力回路8からの信号に基づいて半導体スイッチ2を制御し、負荷3の駆動を行う。ただし、負荷電流Ioutが大きくなって過電流になると、保護対象を保護できなくなる。例えば、過電流が流れることでワイヤ4が発煙して焼損することがある。このため、過電流からワイヤ4などの保護対象を保護する必要がある。
【0037】
したがって、マイコン11は、基本的には入力回路8の信号に基づいて負荷3を駆動しつつ、半導体スイッチ2が出力するセンス電流に基づいて負荷電流Ioutを検出し、負荷電流Ioutが過電流になったことを検出する。そして、マイコン11は、過電流になったことを検出すると、半導体スイッチ2を制御して負荷電流Ioutを遮断し、負荷3に対して電流供給を行っているワイヤ4を過電流から保護する。そして、所定期間が経過して過電流によって高温化したワイヤ4の温度が低下した場合に、再び半導体スイッチ2をオンし、負荷電流Ioutの供給に基づく負荷3の駆動を再開する。
【0038】
具体的には、マイコン11は、ワイヤ4を保護すために半導体スイッチ2をオフして負荷電流Ioutの遮断を行う遮断特性を記憶している。遮断特性は、ワイヤ4の材質や線径などから推定されるワイヤ発煙推定線に基づいて決められている。
図2は、実測値に基づくワイヤ発煙推定線と遮断特性の関係の一例を示した図である。図中には、異なる線径A〜Cのワイヤ4について示してある。
【0039】
この図に示されるように、遮断特性は、ワイヤ発煙推定線に対して所定のマージンを持って設定され、ワイヤ4が発煙するよりも小さな電流値となるように設定されている。ワイヤ4は、流れる電流が大きいほど短い時間で発煙し、流れる電流が小さければ長い時間でも発煙しなくなるという特性がある。このため、負荷電流Ioutの大きさに応じて、ワイヤ4が発煙すると予測される時間よりも短い時間で半導体スイッチ2をオフして負荷電流Ioutが遮断されるように、遮断特性が決められている。
【0040】
遮断特性に基づく負荷電流Ioutの遮断は、マイコン11で所定の加算数値の加算および減算数値の減算を行ってその積算数値が所定の判定閾値を超えると行われる。また、負荷電流Ioutを遮断した後は、遮断してからの経過時間に応じて積算値が減算され、その減算後の積算値が再開閾値(例えば積算値=0)になると、再び半導体スイッチ2がオンさせられる。
【0041】
ここでの加減算の手法としては、基本的には、ワイヤ4の温度上昇が生じていると想定されるときに加算数値の加算を行い、負荷3の駆動が停止されるなどによってワイヤ4の温度低下が生じていると想定されるときに減算数値の減算を行うという手法が用いられる。なお、加減算の手法については特許文献1などにおいて公知となっているため詳細については省略するが、公知となっている様々な手法を用いることができる。
【0042】
一方、半導体スイッチ2を遮断して負荷3の駆動が停止された場合であっても、電源電圧Vbattが低電圧であることを理由として半導体スイッチ2が遮断された場合であれば、電源電圧Vbattがある程度高い値に戻ったときに、再び半導体スイッチ2をオンして負荷3を再駆動するのが好ましい。
【0043】
このため、マイコン11は、電圧検出回路7での検出結果に基づいて電源電圧Vbattをモニタしており、マイコン電源電圧や参照電圧が低下したことや、低下後に所定電圧以上に復帰したことなどを検出できるようになっている。
【0044】
ただし、電源電圧Vbattの低下に伴って参照電圧が変動してしまうことから、
図10に示すように電源電圧Vbattの低下に伴ってマイコン11がADコンバータより入力される電圧を誤認識してしまい、電源電圧Vbattが低電圧化すると正確な電圧検出が行えない。このため、マイコン11には、低電圧になったことを判定するための閾電圧が記憶されている。なお、閾電圧については、製造誤差などが生じていてもマイコン11が精度良く電圧検出を行える電圧範囲(例えば7.5V以上)内に設定することで、どの製品にも対応できるようにすることができる。そして、マイコン11は、電源電圧Vbattが閾電圧未満になると低電圧になったと判定してその履歴を記憶するようにしている。
【0045】
また、マイコン11は、電源電圧Vbattが低電圧になった後に上記したように加算数値と減算数値の積算値が判定閾値を超えて負荷電流Ioutが遮断された場合に、電源電圧Vbattが再びある程度の電圧に戻ると再び半導体スイッチ2をオンして負荷3の駆動を再開する。ここでの負荷3の駆動を再開する条件も、マイコン11が精度良く電圧検出を行える電圧範囲内に電源電圧Vbattが上昇した場合(例えば7.5V以上)としている。
【0046】
このとき、負荷電流Ioutの遮断中に、ワイヤ4の温度が低下していることから、遮断してからの経過時間に応じた温度低下に対応する減算数値分を遮断前の積算値から減算し、その減算後の積算値を再開時のワイヤ4の温度を示す値として用いて、新たな加減算を再開すれば良いとも考えられる。ところが、単に遮断してからの経過時間に応じた温度低下に対応する減算数値分を遮断前の積算値から減算した値を再開時の積算値として用いた場合、上記した問題が発生し得る。
【0047】
すなわち、負荷3の再駆動を行ったときにラッシュ電流が発生するような場合には、ラッシュ電流発生時にも過電流と判定されて加算数値の積算が行われることになる。これにより、ワイヤ4の温度低下に対応した積算値にラッシュ電流発生時の加算数値が加算されて、直ぐに判定閾値を超える可能性がある。その場合、本来は負荷3を駆動できる状態であるのに駆動することができなくなる。
【0048】
このため、負荷電流Ioutが遮断された場合において、実際に過電流が発生したことが理由なのではなく電源電圧Vbattが低電圧になったことが理由である場合、ラッシュ電流発生時に負荷電流Ioutを誤って遮断しないように、再開時の積算値を補正する。具体的には、再開時に遮断してからの経過時間に基づいて演算される加減算の積算値を補正前積算値としてこれを補正し、それよりも低い値となる補正後積算値を求めている。例えば、補正前積算値に対して1未満の補正定数を掛けることによって補正後積算値を演算したり、補正前積算値から所定値を減算することなどによって補正後積算値を演算できる。ここでは、補正前積算値に対して補正定数として1/2を掛けた値を補正後積算値としている。なお、ここで補正定数を1/2としたのは、ラッシュ電流発生時に加算される加算数値が判定閾値の1/2を超えない値であるためであるが、ラッシュ電流発生時に加算されると想定される加算数値分以上を補正前積算値から減らせる値であれば、他の値であっても良い。
【0049】
また、このときに補正前積算値をリセットし、補正後積算値を0としても良い。しかしながら、その場合には積算値が0の状態から加算数値が加算されることになり、積算値が判定閾値を超えるまでに時間が掛かる。このため、負荷電流Ioutが遮断された場合において、実際に過電流が発生したことが理由である場合には、再開したときに再び過電流が流れたとしても、過電流を検出するまでに時間が掛かり、ワイヤ4を的確に発煙から保護することができない可能性がある。このため、補正後積算値を0にするのではなく、補正前積算数値を低下させた値として補正後積算値を演算することで、実際に過電流が流れていた場合に、それをより迅速に検出して再度負荷電流Ioutを遮断することができる。
【0050】
なお、再開前に負荷電流Ioutが遮断された理由をマイコン11で把握できていれば、より的確に補正後積算値を設定することができる。しかしながら、電源電圧Vbattが低電圧になった場合には、
図10に示したようにマイコン11が入力される電圧の値を精度良く検出できなくなる。このため、電源電圧Vbattが低電圧になったために過電流を誤検出して積算値が判定閾値を超えてしまったためなのか、それとも実際に過電流が発生して積算値が判定閾値を超えてしまったためなのか、負荷電流Ioutが遮断された理由をマイコン11で把握できない。したがって、上記の手法によって補正後積算値を求めることが有効となる。
【0051】
さらに、マイコン11は、電源回路6が生成するマイコン電源電圧に基づいて動作しているが、マイコン電源電圧がマイコンリセット電圧になると、マイコンが動作できなくなる。この場合、マイコン11は、半導体スイッチ2をオフして負荷電流Ioutを遮断し、負荷3の駆動を停止するとともに、それまで加減算していた積算値をリセットする。そして、マイコン電源電圧がマイコンリセット電圧以上に復帰し、再びマイコンが動作できるようになったのち、さらにマイコン11で精度良く電圧検出を行える電圧範囲内に至った場合(例えば、7.5V)、再び半導体スイッチ2をオンして負荷3の駆動を再開する。
【0052】
この場合において、マイコン電源電圧が低下してマイコン11が精度良く電圧検出を行えなくなっている最中には、過電流が発生してるか否かを精度良く判定できないことから、実際に過電流が発生していてワイヤ4が高温化している可能性がある。そして、再び半導体スイッチ2をオンしたときに、同様に、過電流が発生する可能性がある。このような場合、積算値がリセットされた0のまま加減算を開始すると、実際に過電流が発生したときにそれが検出されるまでに時間が掛かってワイヤ4の発煙を的確に抑制できない可能性がある。
【0053】
したがって、マイコン11にて電源電圧Vbattが低下したことが検出された場合において、マイコン電源電圧がマイコンリセット電圧よりも低くなってマイコン11が動作できなくなり積算値がリセットされた場合には、再び半導体スイッチ2をオンしたときに、積算値として補正値を用いる。具体的には、補正値として、0よりも判定閾値に近い値、例えば、判定閾値の1/2の値を用い、この補正値を新たな積算値としている。
【0054】
このように、マイコン11が復帰して再び半導体スイッチ2をオンする際には、加減算の積算値として補正値を用いるようにする。これにより、実際に過電流が流れていた場合に、それをより迅速に検出して再度負荷電流Ioutを遮断することができる。
【0055】
なお、このときの補正値としては、負荷3の再駆動時に発生するラッシュ電流相当分の加算数値が加算されただけでは判定閾値を超えない程度の値に設定されている。このため、ラッシュ電流では過電流と判定されず、過電流が実際に発生したときにだけ的確に過電流の発生を検出することが可能となる。
【0056】
続いて、上記のように構成された過電流保護回路1の動作について、比較例と比較しながら説明する。
【0057】
図3は、比較例として積算値の補正を行っていない場合のタイムチャートであり、
図4および
図5は、本実施形態のように積算値の補正を行った場合のタイムチャートである。具体的には、
図3および
図4は、電源電圧Vbattが低下した為に過電流が誤検出されて負荷電流Ioutが遮断されたのち、電源電圧Vbattが復帰して再び負荷電流Ioutが流されるようになった場合のタイムチャートを示している。また、
図5は、電源電圧Vbattが低下してマイコン電源電圧がマイコンリセット電圧未満になってマイコン11がリセットされたのち、電源電圧Vbattが復帰して再び負荷電流Ioutが流されるようになった場合の示すタイムチャートである。
【0058】
図3に示すように、時点ta1より電源電圧Vbattが低下すると、図示していないがマイコン電圧が低下する。また、電源電圧Vbattの低下に伴って負荷3に印加される出力電圧Voutも低下し、負荷電流Ioutも低下する。そして、電源電圧Vbattが更に低下すると、時点ta2より電源電圧Vbattの低下によりセンス電圧が実際の値よりも大きな値として検出されるようになって、過電流の検出精度が低下する。例えば、過電流と検出されて加算数値の加算対象となる閾値を過電流判定値とすると、負荷電流Ioutが過電流判定値を超えると加算数値の加算が行われるが、負荷電流Ioutを実際の値よりも大きな値と検出してしまうため、図中に示したように見かけ上の過電流判定値が低下していく。このため、実際の負荷電流Ioutが小さかったとしても過電流判定値を超えてしまう。そして、時点ta3において加算数値の積算値が判定閾値を超えると、半導体スイッチ2がオフされて負荷電流Ioutが遮断される。
【0059】
その後、時点ta4より電源電圧Vbattが徐々に復帰し、時点ta5においてマイコン11で精度良く電圧検出を行える電圧範囲内に至った場合(例えば、7.5V)、半導体スイッチ2をオンして負荷電流Ioutを流し、負荷3を再駆動させる。
【0060】
このとき、負荷電流Ioutを流していなかった期間、つまり時点ta3から時点ta5までの期間中にワイヤ4の温度低下に応じて積算値が減少している。しかしながら、
図3に示したように積算値の低下量が小さい場合、負荷3を再駆動したときのラッシュ電流による加算数値の加算により、直ぐに積算値が判定閾値を超えて再び負荷電流Ioutが遮断されることになる。したがって、過電流ではないラッシュ電流の時にまで負荷電流Ioutが誤遮断されてしまい、直ぐに負荷3の駆動が行えなくなる可能性がある。
【0061】
これに対して、本実施形態のように積算値の補正を行う場合には、
図4に示すように、時点tb1〜tb4まで、
図3における時点ta1〜ta4と同様の動作を行うが時点tb5において負荷電流Ioutを再び流して負荷3を再駆動する際に積算値の補正が行われる。すなわち、時点tb5において、負荷電流Ioutが遮断されてからの時間に応じた減算数値を減算した後の積算値を補正前積算値として、補正前積算値に対して1未満の補正定数(例えば1/2)を掛けることで補正後積算値を演算している。
【0062】
このため、補正後積算値がラッシュ電流相当の加算数値分を見込んだ値に低下させられているため、負荷3の再駆動時にラッシュ電流が発生して加算数値が加算されても、判定閾値を超えてしまわない。したがって、ラッシュ電流によって負荷電流Ioutが誤遮断されることを抑制でき、直ぐに負荷3が駆動できなくなることを抑制できる。
【0063】
なお、
図2に示すように、遮断特性については、ワイヤ発煙推定線に対して1/2の時間に設定されるようにマージンを設けてある。すなわち、ワイヤ発煙推定線に至ったときにワイヤ4が発煙すると推定して、その1/2の時間に至ったときに負荷電流Ioutが遮断されるようにしている。このため、仮に積算値が0の状態から過電流が検出されて、負荷電流Ioutが遮断されるに至ったとしても、その時間もワイヤ4が発煙すると推定される時間の1/2の時間である。したがって、ラッシュ電流を加味して補正後積算値を低い値に設定しても、ワイヤ4が発煙に至ることから抑制できる。
【0064】
また、
図5に示すように、時点tc1〜tc3まで、
図3における時点ta1〜ta3と同様の動作を行ったのち、さらに電源電圧Vbattが低下して時点tc4においてマイコン電源電圧がマイコンリセット電圧よりも低下すると、マイコン11がリセットされる。これと同時に積算値も0にリセットされる。
【0065】
その後、時点tc5より電源電圧Vbattが徐々に復帰し、時点tc6においてマイコン11で精度良く電圧検出を行える電圧範囲内に至った場合(例えば、7.5V)、半導体スイッチ2をオンして負荷電流Ioutを流し、負荷3を再駆動させる。このとき、負荷3を再駆動したときにラッシュ電流ではなく過電流が流れる可能性がある。このような場合に、積算値が0のままだと過電流の検出までに時間が掛かる。しかしながら、
図5に示したように、時点tc6において、積算値として補正値を用いていることから、ラッシュ電流相当分の加算数値が加算されただけでは判定閾値を超えないようにできる。このため、過電流が発生したときにだけ的確に過電流の発生を検出することが可能となり、その過電流を的確に判定することが可能となる。
【0066】
図6に示すように、積算値の補正を行っていない最初の時点での遮断特性は、ワイヤ発煙推定線に対して1/2の時間で負荷電流Ioutが遮断されるような特性とされている。これに対して、上記のように積算値の補正を行った場合には、その遮断特性がより早い時間で負荷電流Ioutが遮断されるような特性に変更されることになり、より迅速に負荷電流Ioutを遮断することが可能になる。その一方で、図中に示したようにラッシュ電流の特性は十分に遮断特性よりも短時間で収束し、定常電流になることから、ラッシュ電流に対しても定常電流に対しても遮断特性は十分なマージンを持って設定されることになる。したがって、ラッシュ電流が発生したときに過電流を誤検出することを抑制することが可能となる。
【0067】
また、マイコンリセットされたときに積算値が0になるが、負荷3を再駆動する際に積算値として補正値を設定している。このため、よりワイヤ4を発煙から保護することが可能となる。
【0068】
すなわち、マイコンリセットされる以前に、過電流が発生していたために負荷電流Ioutが遮断されていた場合、ワイヤ4の状態としては、
図7に示す調整前の遮断特性の線上に位置している電流が所定の時間流れた状態になっている可能性がある。この場合でも、積算値を補正することで遮断特性が調整されることから、調整後の遮断特性が調整前の遮断特性からワイヤ発煙推定線に近づくように調整されたものになるものの、ワイヤ発煙推定線よりも短い時間で負荷電流Ioutを遮断できるような特性にできる。このため、積算値が0にリセットされたとしても、負荷3を再駆動したときに過電流が流れることによってワイヤ4が発煙することを抑制することが可能となる。
【0069】
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0070】
例えば、上記第1実施形態では、ラッシュ電流が発生するような負荷3の駆動を行う過電流保護回路1を例にあげたが、ラッシュ電流が発生しないような負荷3の駆動を行う場合にも本発明を適用できる。ラッシュ電流が発生するような負荷3としては、例えばモータなどのL負荷が挙げられ、ラッシュ電流が発生しないような負荷3としては、例えば抵抗などが挙げられる。
【0071】
ラッシュ電流が発生しない負荷3が用いられる場合には、ラッシュ電流が発生しないことから、
図8Aに示すように、負荷電流Ioutを遮断後に再び負荷3を再駆動する際に、積算値を判定閾値に近づくように補正値を高い値に設定しても良い。例えば、積算値に対して1以上の補正定数を掛けて補正後積算値を求めたり、判定閾値よりも所定値小さい値を補正後積算値とすることができる。このようにすれば、過電流が発生して積算値が加算されたときに、より迅速に負荷電流Ioutを再度遮断することが可能となり、よりワイヤ4を保護することが可能となる。
【0072】
また、ワイヤ4の発煙推定線が示す特性から考えて、負荷電流Ioutが比較的小さい場合には、負荷3を再駆動してワイヤ4に負荷電流Ioutが流れるようになっても、負荷電流Ioutが小さいためワイヤ4は簡単には発煙しない。このため、
図8Bに示すように、負荷3を再駆動する際に積算値を0にリセットするようにしても良い。
【0073】
また、上記実施形態では、電源回路6やフィルタ回路10などをマイコン11と別々に構成している例を挙げているが、各構成要素を必要に応じてまとめて構成することもできる。すなわち、各構成要素を別々に構成する必要は無く、負荷3の駆動を行うとともに、センス電圧に基づいて加減算値を決定し、加減算値を用いて加算を行った積算値が判定閾値を超えると負荷電流Ioutを遮断して負荷3の駆動を停止することで保護対象を過電流から保護する制御部としての機能を実現するものであれば、単一要素でも複数要素でも構わない。
【0074】
また、上記実施形態では保護対象としてワイヤ4を例に挙げているが、ワイヤ4に限らず、例えば、半導体スイッチ2を保護対象とした過電流保護回路であっても良い。
【0075】
さらに、上記実施形態では、補正後積算値として減算された積算値の1/2の値を設定する場合について説明したが、判定閾値を基準として設定すること、例えば判定閾値の1/2の値を補正後積算値とすることもできる。また、場合によっては、減算された積算値をそのまま補正後積算値として用いる場合を含めるようにしても良い。
【0076】
また、上記実施形態では、電源電圧Vbattの低下によってマイコン電圧がマイコンリセット電圧まで低下した場合においても、補正後積算値として判定閾値の1/2の値を設定したり、補正後積算値として0を設定するようにする場合を含めることもできる。