特許第6299763号(P6299763)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6299763
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】熱伝達方法および高温ヒートポンプ装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20180319BHJP
   C09K 5/04 20060101ALI20180319BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20180319BHJP
   C10M 105/06 20060101ALI20180319BHJP
   C10M 107/02 20060101ALI20180319BHJP
   C10M 105/32 20060101ALI20180319BHJP
   C10M 105/38 20060101ALI20180319BHJP
   C10M 105/18 20060101ALI20180319BHJP
   C10M 107/34 20060101ALI20180319BHJP
   C10M 107/24 20060101ALI20180319BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20180319BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20180319BHJP
【FI】
   F25B1/00 396Z
   C09K5/04 F
   C09K5/04 C
   C10M101/02
   C10M105/06
   C10M107/02
   C10M105/32
   C10M105/38
   C10M105/18
   C10M107/34
   C10M107/24
   C10N30:00 Z
   C10N40:30
【請求項の数】13
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2015-531823(P2015-531823)
(86)(22)【出願日】2014年8月12日
(86)【国際出願番号】JP2014071284
(87)【国際公開番号】WO2015022959
(87)【国際公開日】20150219
【審査請求日】2017年4月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-168752(P2013-168752)
(32)【優先日】2013年8月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】西口 祥雄
(72)【発明者】
【氏名】岡本 覚
(72)【発明者】
【氏名】金井 正富
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/048896(WO,A1)
【文献】 特表2012−505946(JP,A)
【文献】 特表2010−532411(JP,A)
【文献】 特表2014−531499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00
C09K 5/04
C10M 101/02
C10M 105/06
C10M 105/18
C10M 105/32
C10M 105/38
C10M 107/02
C10M 107/24
C10M 107/34
C10N 30/00
C10N 40/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝達組成物を気化させる工程と、前記熱伝達組成物を圧縮する工程と、熱伝達組成物の凝縮する工程と、前記熱伝達組成物を減圧する工程とを順次行う、前記熱伝達組成物を収容した高温ヒートポンプシステムを用いた、熱伝達方法であって、
前記熱伝達組成物は、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの質量比率が95.0質量%以上99.9質量%以下であり、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンまたは2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの質量比率が0.1質量%以上5.0質量%以下であり、且つ、凝縮温度が70℃以上であることを特徴とする熱伝達方法。
【請求項2】
熱伝達組成物を気化させる工程と、前記熱伝達組成物を圧縮する工程と、熱伝達組成物の凝縮する工程と、前記熱伝達組成物を減圧する工程とを順次行う、前記熱伝達組成物を収容した高温ヒートポンプシステムを用いた、熱伝達方法であって、
前記熱伝達組成物は、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの質量比率が80.0質量%以上99.9質量%以下であり、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン質量比率が0.1質量%以上20.0質量%以下であり、且つ、凝縮温度が70℃以上であることを特徴とする熱伝達方法。
【請求項3】
前記熱伝達組成物のシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの質量比率が90.0質量%以上99.9質量%以下であり、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの質量比率0.1質量%以上10.0質量%以下であることを特徴とする請求項2に記載の熱伝達方法。
【請求項4】
前記熱伝達組成物が潤滑剤を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の熱伝達方法。
【請求項5】
前記潤滑剤が、鉱物油(パラフィン系油またはナフテン系油)または合成オイルのアルキルベンゼン類(AB)、ポリ(アルファ−オレフィン)、エステル類、ポリオールエステル類(POE)、ポリアルキレングリコール類(PAG)、ポリビニルエーテル類(PVE)およびそれらの組合せから選択されることを特徴とする請求項に記載の熱伝達方法。
【請求項6】
前記熱伝達組成物が安定化剤をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の熱伝達方法。
【請求項7】
前記安定化剤が、ニトロ化合物、エポキシ化合物、フェノール類、イミダゾール類、アミン類、ジエン系化合物類、ホスフェート類、芳香族不飽和炭化水素類、イソプレン類、プロパジエン類、テルペン類等およびそれらの組合せから選択されることを特徴とする請求項に記載の熱伝達方法。
【請求項8】
前記熱伝達組成物が難燃剤をさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の熱伝達方法。
【請求項9】
前記難燃剤が、ホスフェート類、ハロゲン化芳香族化合物、フッ素化ヨードカーボン、フッ素化ブロモカーボン等およびそれらの組合せから選択されることを特徴とする請求項に記載の熱伝達方法。
【請求項10】
60℃以上の温水、加圧熱水または過熱蒸気を生成することを特徴とする請求項1又は2に記載の熱伝達方法。
【請求項11】
80℃以上の温水、加圧熱水または過熱蒸気を生成することを特徴とする請求項1又は2に記載の熱伝達方法。
【請求項12】
110℃以上の加圧熱水または過熱蒸気を生成することを特徴とする請求項1又は2に記載の熱伝達方法。
【請求項13】
請求項1乃至12の何れか一に記載の熱伝達方法を用いる高温ヒートポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、70℃以上の凝縮温度で使用するのに適した高温ヒートポンプ用冷媒による熱伝達方法および高温ヒートポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼・石油・化学・セメント・紙パルプ・窯業・バイオマス等の各種産業分野において、乾燥工程・殺菌工程などの加熱工程の熱源供給のために、油やガスなどの化石燃料の燃焼熱を利用して蒸気を発生させる貫流蒸気ボイラー等が用いられている。近年、産業分野における省エネルギーおよび二酸化炭素排出量削減は重要な課題である。加熱方法としてヒートポンプを用いることにより、従来の化石燃料を燃焼させて熱を供給する方法と比較して、二酸化炭素の排出量削減が可能とされている。
【0003】
空気調和装置または給湯設備において、冷却または加熱方法として、ヒートポンプの使用が一般的となっている。
【0004】
ヒートポンプサイクルの冷媒として、フッ素および塩素を含有するクロロフルオロカーボン(CFC)またはハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)が従来使用されてきたが、オゾン層保護の観点から、段階的に使用が廃止されつつある。現在では、アンモニアや二酸化炭素などの自然冷媒または分子内に塩素原子を含有しないハイドロフルオロカーボン(HFC)が主に使用されている。
【0005】
給湯または蒸気生成装置として、HFCを冷媒とするヒートポンプが知られている。例えば、特許文献1には、冷媒の凝縮温度が70〜150℃である高温ヒートポンプ用の冷媒が開示されている。この冷媒は、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを主成分として含み、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンの配合質量比率が20%以下であることを特徴としている。
【0006】
しかしながら、HFCは、地球温暖化係数(GWP)が大きく、温暖化への寄与が非常に大きいと懸念されている。このため、地球温暖化係数の低い冷媒として、含フッ素不飽和化合物であるハイドロフルオロオレフィン(HFO)が代替冷媒として提案されている。
【0007】
例えば、特許文献2には、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO)とポリアルキレングリコール(PAG)潤滑剤を含む組成物を自動車空調装置の冷媒として用いることが開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンまたは1,3,3,3−テトラフルオロプロペンなどのテトラフルオロプロペンとジフルオロメタンの混合組成物を低温冷凍機の冷媒として用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2013−525720号公報
【特許文献2】特表2007/535611号公報
【特許文献3】特開2010/47754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1において、高温ヒートポンプ用のHFC混合冷媒について提案されているが、地球温暖化係数が794〜1030と大きいため、将来永続的に使用することが懸念されている。
【0011】
特許文献2〜3において、低GWPの作動流体を用いた蒸気圧縮サイクルによる空調装置について提案されており、いずれも空調用途(冷房、暖房)に適した冷媒であるが、給湯または水蒸気生成用のヒートポンプサイクルへの適用事例の記載はない。
【0012】
このように、環境適合性の高い冷媒を用いた高温ヒートポンプの性能はなお不十分である。したがって、高温度での熱伝達を実行することができ、かつ従来の冷媒よりも熱伝達性能に優れた、低GWPの冷媒を主成分とする熱伝達組成物を見出すことが望まれている。
【0013】
本発明の目的は、更に改良した、新規な熱伝達組成物および高温ヒートポンプ装置を提供することを目的とする。本発明の好ましい熱伝達用作動媒体は、現在使用されている多くのハイドロフルオロカーボンと比較して、地球温暖化には実質上寄与しない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、不飽和ハロゲン化炭化水素に着目し、特にフッ素化プロペンを所定の温度、圧力下で熱伝達媒体として用いれば極めて有効な熱伝達方法となるという知見を得て、本発明を完成させた。
【0015】
本発明の一実施形態によると、熱伝達組成物を気化させる工程と、前記熱伝達組成物を圧縮する工程と、熱伝達組成物の凝縮する工程と、前記熱伝達組成物を減圧する工程とを順次行う、前記熱伝達組成物を収容した高温ヒートポンプシステムを用いた、熱伝達方法であって、前記熱伝達組成物は、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの質量比率が95.0質量%以上99.9質量%以下であり、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンまたは2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの質量比率が0.1質量%以上5.0質量%以下であり、且つ、凝縮温度が70℃以上である熱伝達方法が提供される。
【0016】
また、本発明の一実施形態によると、熱伝達組成物を気化させる工程と、前記熱伝達組成物を圧縮する工程と、熱伝達組成物の凝縮する工程と、前記熱伝達組成物を減圧する工程とを順次行う、前記熱伝達組成物を収容した高温ヒートポンプシステムを用いた、熱伝達方法であって、前記熱伝達組成物は、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの質量比率が80.0質量%以上99.9質量%以下であり、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンまたは1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの質量比率が0.1質量%以上20.0質量%以下であり、且つ、凝縮温度が70℃以上である熱伝達方法が提供される。
【0017】
前記熱伝達方法において、前記熱伝達組成物のシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの質量比率が90.0質量%以上99.9質量%以下であり、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの質量比率0.1質量%以上10.0質量%以下であってもよい。
【0018】
前記熱伝達方法において、前記熱伝達組成物のシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの質量比率が90.0質量%以上99.9質量%以下であり、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの質量比率0.1質量%以上10.0質量%以下であってもよい。
【0019】
前記熱伝達方法において、前記熱伝達組成物が潤滑剤を含んでもよい。
【0020】
前記熱伝達方法において、前記潤滑剤が、鉱物油(パラフィン系油またはナフテン系油)または合成オイルのアルキルベンゼン類(AB)、ポリ(アルファ−オレフィン)、エステル類、ポリオールエステル類(POE)、ポリアルキレングリコール類(PAG)、ポリビニルエーテル類(PVE)およびそれらの組合せから選択されてもよい。
【0021】
前記熱伝達方法において、前記熱伝達組成物が安定化剤をさらに含んでもよい。
【0022】
前記熱伝達方法において、前記安定化剤が、ニトロ化合物、エポキシ化合物、フェノール類、イミダゾール類、アミン類、ジエン系化合物類、ホスフェート類、芳香族不飽和炭化水素類、イソプレン類、プロパジエン類、テルペン類等およびそれらの組合せから選択されてもよい。
【0023】
前記熱伝達方法において、前記熱伝達組成物が難燃剤をさらに含んでもよい。
【0024】
前記熱伝達方法において、前記難燃剤が、ホスフェート類、ハロゲン化芳香族化合物、フッ素化ヨードカーボン、フッ素化ブロモカーボン等およびそれらの組合せから選択されてもよい。
【0025】
前記熱伝達方法において、60℃以上の温水、加圧熱水または過熱蒸気を生成してもよい。
【0026】
前記熱伝達方法において、80℃以上の温水、加圧熱水または過熱蒸気を生成してもよい。
【0027】
前記熱伝達方法において、100℃以上の加圧熱水または過熱蒸気を生成してもよい。
【0028】
また、本発明の一実施形態によると、前記いずれかに記載の熱伝達方法を用いる高温ヒートポンプ装置が提供される。
【発明の効果】
【0029】
本発明の熱伝達用組成物によれば、不燃性または微燃性で、環境への影響が小さく、かつ、熱伝達特性に優れた熱サイクル用混合冷媒を提供することができる。また、本発明の熱伝達用組成物を用いて、熱伝達特性に優れた高温ヒートポンプ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明に係る作動媒体を適用可能な高温ヒートポンプサイクルの概略図である。
図2】本発明の実施例1におけるPh線図である。
図3】本発明の実施例2におけるPh線図である。
図4】本発明の実施例3におけるPh線図である。
図5】本発明の実施例4におけるPh線図である。
図6】本発明の実施例5におけるPh線図である。
図7】本発明の実施例6におけるPh線図である。
図8】本発明の実施例7におけるPh線図である。
図9】本発明の実施例8におけるPh線図である。
図10】本発明の実施例9におけるPh線図である。
図11】本発明の実施例10におけるPh線図である。
図12】本発明の実施例11におけるPh線図である。
図13】本発明の実施例12におけるPh線図である。
図14】本発明の比較例1におけるPh線図である。
図15】本発明の比較例2におけるPh線図である。
図16】本発明の比較例3におけるPh線図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明に係る熱伝達方法および高温ヒートポンプ装置について説明する。但し、本発明の熱伝達方法および高温ヒートポンプ装置は、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態及び実施例で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0032】
本発明に係る熱伝達方法は、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンまたは2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、を混合した熱伝達組成物を用いる。また、本発明に係る熱伝達方法は、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンまたは1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンと、を混合した熱伝達組成物を用いる。本発明に係る熱伝達組成物は、このような混合物であることにより、不燃性または微燃性であり、且つ環境への負荷が小さく、優れた熱サイクル特性および熱伝達特性を有することを、本発明者らは見出した。
【0033】
シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze(Z))について説明する。
【0034】
<HFO−1234ze(Z)>
HFO−1234ze(Z)は、分子内に炭素−炭素間の二重結合を含み、水酸基ラジカルとの反応性が高いため、地球温暖化係数(GWP)が極めて小さく環境負荷が小さい。また、HFO−1234ze(Z)は微燃性又は難燃性であり、毒性がない。なお、HFO−1234ze(Z)の沸点は、大気圧下において9.8℃、大気寿命は10日、地球温暖化係数(GWP)は3(Chemical Physics Letters 2009, Vol.473, P233-237)である。また、臨界温度は150.1℃、臨界圧力は3.54MPa(4th IIR Conference on Thermophysical Properties and Transfer Processes of Refrigerant予稿集TP-018)である。
【0035】
トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze(E))について説明する。
【0036】
<HFO−1234ze(E)>
HFO−1234ze(E)は、分子内に炭素−炭素間の二重結合を含み、水酸基ラジカルとの反応性が高いため、地球温暖化係数(GWP)が極めて小さく環境負荷が小さい。また、HFO−1234ze(E)は微燃性又は難燃性であり、毒性がない。なお、HFO−1234ze(E)の沸点は、大気圧下において−19℃、大気寿命は14日、地球温暖化係数(GWP)は6(Chemical Physics Letters 2007, Vol.443, P199-204)である。また、臨界温度は109.4℃、臨界圧力は3.63MPa(Journal of Chemical Engineering Data 2010, Vol55, P1594-1597)である。
【0037】
2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)について説明する。
【0038】
<HFO−1234yf>
HFO−1234yfは、分子内に炭素−炭素間の二重結合を含み、水酸基ラジカルとの反応性が高いため、地球温暖化係数(GWP)が極めて小さく環境負荷が小さい。また、HFO−1234yfは微燃性であり、毒性がない。なお、HFO−1234yfの沸点は、大気圧下において−29℃、大気寿命は11日、地球温暖化係数(GWP)は4(Chemical Physics Letters 2007, Vol.439, P18-22)である。また、臨界温度は94.7℃、臨界圧力は3.38MPa(International Journal of Refrigeration 2010, Vol33, P474-479)である。
【0039】
次に、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO−1233zd(E))について説明する。
【0040】
<HCFO−1233zd(E)>
HCFO−1233zd(E)は、分子内に炭素−炭素間の二重結合を含み、水酸基ラジカルとの反応性が高いため、地球温暖化係数(GWP)が極めて小さく環境負荷が小さい。また、HCFO−1233zd(E)は微燃性又は難燃性であり、毒性がない。なお、HCFO−1233zd(E)の沸点は、大気圧下において18.3℃、大気寿命は26日、地球温暖化係数(GWP)は7(Journal of Photochemistry and Photobiology A: Chemistry 2008, Vol.199, P92-97)である。また、臨界温度は109.4℃、臨界圧力は3.63MPa(Journal of Chemical Engineering Data 2012, Vol57, P3581-3586)である。
【0041】
次に、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)について説明する。
【0042】
<HFC−245fa>
HFC−245faは、不燃性であり、毒性が低い。なお、HFC−245faの沸点は、大気圧下において15.3℃、大気寿命は7.6年、地球温暖化係数(GWP)は1030(IPCC4次評価報告書 2007)である。
【0043】
HFC−245faは、地球温暖化係数(GWP)が高いので、HFC−245faを用いる場合には、1質量%以上20質量%以下含むことが望ましく、1質量%以上10質量%以下含むことが特に望ましい。
【0044】
一実施形態において、本発明の熱伝達組成物は、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの質量比率が95.0質量%以上99.9質量%以下であり、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンまたは2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの質量比率が0.1質量%以上5.0質量%以下であることを特徴としている。このような組成を有することにより、本発明の熱伝達組成物は、地球温暖化係数が150未満である。
【0045】
また、一実施形態において、本発明の熱伝達組成物は、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの質量比率が80.0質量%以上99.9質量%以下であり、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンまたは1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンを0.1質量%以上20.0質量%以下であることを特徴としている。このような組成を有することにより、本発明の熱伝達組成物は、冷媒の地球温暖化係数が150未満である。
【0046】
シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンまたは1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンとは、互いに臨界温度が近接しており、これらを含む本発明に係る熱伝達組成物は、組成物としての臨界温度に与える影響が小さい。一方、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンまたは2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとを比較すると、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンまたは2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの臨界温度が低い。したがって、これらを含む本発明に係る熱伝達組成物においては、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンまたは2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの質量比率が高まるに連れて、臨界温度が低下する。このため、本発明においては、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンまたは2,3,3,3−テトラフルオロプロペンとを含む熱伝達組成物においては、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンまたは2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを0.1質量%以上5.0質量%以下とすることが好ましい。
【0047】
一方、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンまたは1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンとを含む熱伝達組成物においては、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの質量比率が80.0質量%以上、好ましくは90.0質量%以上99.9質量%以下であり、トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンまたは1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの質量比率が0.1質量%以上20.0質量%以下、好ましくは0.1質量%以上10.0質量%以下である。
【0048】
<潤滑剤>
また、本発明の熱伝達組成物を高温ヒートポンプの冷媒に用いる場合、圧縮機摺動部で使用する潤滑油は、鉱物油(パラフィン系油またはナフテン系油)または合成油のアルキルベンゼン類(AB)、ポリ(アルファ−オレフィン)、エステル類、ポリオールエステル類(POE)、ポリアルキレングリコール類(PAG)またはポリビニルエーテル類(PVE)を用いることができる。
【0049】
また、本発明の熱伝達組成物をランキンサイクルの作動媒体に用いる場合、膨張機摺動部で使用する潤滑剤は、鉱物油(パラフィン系油またはナフテン系油)または合成オイルのアルキルベンゼン類(AB)、ポリ(アルファ−オレフィン)、エステル類、ポリオールエステル類(POE)、ポリアルキレングリコール類(PAG)またはポリビニルエーテル類(PVE)を用いることができる。
【0050】
アルキルベンゼン類としては、n−オクチルベンゼン、n−ノニルベンゼン、n−デシルベンゼン、n−ウンデシルベンゼン、n−ドデシルベンゼン、n−トリデシルベンゼン、2−メチル−1−フェニルヘプタン、2−メチル−1−フェニルオクタン、2−メチル−1−フェニルノナン、2−メチル−1−フェニルデカン、2−メチル−1−フェニルウンデカン、2−メチル−1−フェニルドデカン、2−メチル−1−フェニルトリデカン等が挙げられる。
【0051】
エステル類としては、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸及びこれらの混合物等の芳香族エステル、二塩基酸エステル、ポリオールエステル、コンプレックスエステル、炭酸エステル等が挙げられる。
【0052】
ポリオールエステル類の原料となるアルコールとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、トリ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)、トリ−(ペンタエリスリトール)等のヒンダードアルコールのエステル等が挙げられる。
【0053】
ポリオールエステル類の原料となるカルボン酸としては、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、オレイン酸、イソペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−エチルヘキサン酸及び3,5,5−トリメチルヘキサン酸等が挙げられる。
【0054】
ポリアルキレングリコールは、メタノール、エタノール、直鎖状または分枝状のプロパノール、直鎖状又は分枝状のブタノール、直鎖状又は分枝状のペンタノール、直鎖状又は分枝状のヘキサノール等の炭素数1以上18以下の脂肪族アルコールに、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキド等を付加重合した化合物が挙げられる。
【0055】
ポリビニルエーテル類としては、ポリメチルビニルエーテル、ポリエチルビニルエーテル、ポリn−プロピルビニルエーテル、ポリイソプロピルビニルエーテル等が挙げられる。
【0056】
<安定化剤>
また、本発明の熱伝達組成物は、熱安定性、耐酸化性等を改善するために安定化剤を用いることができる。安定化剤としては、ニトロ化合物、エポキシ化合物、フェノール類、イミダゾール類、アミン類、炭化水素類等が挙げられる。
【0057】
ニトロ化合物としては、公知の化合物が例示されるが、脂肪族及び/または芳香族誘導体が挙げられる。脂肪族系ニトロ化合物として、例えばニトロメタン、ニトロエタン、1−ニトロプロパン、2−ニトロプロパン等が挙げられる。芳香族ニトロ化合物として、例えばニトロベンゼン、o−、m−又はp−ジニトロベンゼン、トリニトロベンゼン、o−、m−又はp−ニトロトルエン、o−、m−又はp−エチルニトロベンゼン、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−又は3,5−ジメチルニトロベンゼン、o−、m−又はp−ニトロアセトフェノン、o−、m−又はp−ニトロフェノール、o−、m−又はp−ニトロアニソール等が挙げられる。
【0058】
エポキシ化合物としては、例えばエチレンオキサイド、1,2−ブチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、グリシドール、エピクロルヒドリン、グリシジルメタアクリレート、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル等のモノエポキシ系化合物、ジエポキシブタン、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントルグリシジルエーテル等のポリエポキシ系化合物等が挙げられる。
【0059】
フェノール類としては、水酸基以外にアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、ハロゲン原子等各種の置換基を含むフェノール類も含むものである。たとえば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、チモール、p−t−ブチルフェノール、o−メトキシフェノール、m−メトキシフェノール、p−メトキシフェノール、オイゲノール、イソオイゲノール、ブチルヒドロキシアニソール、フェノール、キシレノール等の1価のフェノールあるいはt−ブチルカテコール、2,5−ジ−t−アミノハイドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン等の2価のフェノール等が例示される。
【0060】
イミダゾール類としては、直鎖もしくは分岐鎖を有する炭素数1以上18以下のアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基をN位の置換基とする、1−メチルイミダゾール、1−n−ブチルイミダゾール、1−フェニルイミダゾール、1−ベンジルイミダゾール、1−(β−オキシエチル)イミダゾール、1−メチル−2−プロピルイミダゾール、1−メチル−2−イソブチルイミダゾール、1−n−ブチル−2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1,4−ジメチルイミダゾール、1,5−ジメチルイミダゾール、1,2,5−トリメチルイミダゾール、1,4,5−トリメチルイミダゾール、1−エチル−2−メチルイミダゾール等が挙げられる。これらの化合物は単独であるいは併用してもよい。
【0061】
アミン類としては、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソブチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジアリルアミン、トリエチルアミン、N−メチルアニリン、ピリジン、モルホリン、N−メチルモルホリン、トリアリルアミン、アリルアミン、α−メチルベンジルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ジベンチルアミン、トリベンチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、アニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ベンジルアミン、ジベンジルアミン、ジフェニルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン等が例示される。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
炭化水素類としては、α−メチルスチレンやp−イソプロペニルトルエン等の芳香族不飽和炭化水素類、イソプレン類、プロパジエン類、テルペン類等が例示される。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
安定化剤は、予め冷媒および潤滑剤の一方または両方に添加してもよく、また、単独で凝縮機内に添加してもよい。このとき、安定化剤の使用量は、特に限定されないが、主冷媒(100質量%)に対して、0.001質量%以上10質量%以下が好ましく、0.01質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.02質量%以上2質量%以下がさらに好ましい。安定化剤の添加量が上限値を越えるか、下限値未満では、冷媒の安定性、熱サイクル性能等が十分得られない。
【0064】
<難燃剤>
また、本発明の熱伝達組成物は、燃焼性を改善するために難燃剤を用いることができる。難燃剤としては、ホスフェート類、ハロゲン化芳香族化合物、フッ素化ヨードカーボン、フッ素化ブロモカーボン等が挙げられる。
【0065】
このような組成を有する本発明の熱伝達媒体の凝縮温度は、70℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上140℃以下である。
【0066】
このような組成を有する本発明の熱伝達組成物の凝縮圧力は、熱伝達組成物の組成および凝縮温度によって決められる。すなわち、凝縮圧力は、凝縮温度における熱伝達組成物の飽和蒸気圧力と等しくなる。一般的に、凝縮圧力が5.0MPaを超えると、圧縮機、凝縮器および配管部品に高い耐圧性能が求められ、それらの機器が高価になるため、好ましくない。本発明に係る熱伝達組成物を用いる場合、凝縮圧力を5.0MPaより低くすることができ、公知の圧縮機、凝縮器および配管部品を使用することができる。
【0067】
本発明の熱伝達組成物は、不燃性かつ環境への負荷が小さく、熱サイクル特性に優れている。そのため、加圧温水または過熱蒸気生成等に利用される高温ヒートポンプ用の熱媒体、発電システム等に利用される有機ランキンサイクル用作動媒体、蒸気圧縮式冷凍サイクルシステム用冷媒、吸収式ヒートポンプ、ヒートパイプ等の媒体や、冷却システムまたはヒートポンプシステムのサイクル洗浄用洗浄剤、金属洗浄剤、フラックス洗浄剤、希釈溶剤、発泡剤、エアゾール等として用いることができる。
【0068】
なお、本発明の熱伝達方法は、パッケージ型の小型装置(ランキンサイクルシステムやヒートポンプサイクルシステム等)のみだけでなく、工場スケールの大規模な発電システム、ヒートポンプ給湯システム、ヒートポンプ蒸気生成システム等に適用可能である。
【0069】
以下、本発明の熱伝達組成物を用いた高温ヒートポンプ装置について詳細に説明する。
<高温ヒートポンプ装置>
高温ヒートポンプ装置とは、蒸発器で空気、水またはブラインなどの被冷却物のもっている熱を、冷媒の蒸発潜熱としてそれに移動させ、発生した冷媒蒸気を、圧縮機において、仕事を加えて圧縮し、凝縮器で凝縮熱を排出して液化し、凝縮した冷媒を膨張弁で低圧・低温に絞り膨張させ、蒸発器に送り込んで蒸発させるシステムである。蒸発器において、被冷却物のもっている熱エネルギーを冷媒が受け取ることにより、被冷却物を冷却し、より低い温度へ降温するシステムであり、また、凝縮器において冷媒の熱エネルギーを負荷流体に与えることにより、負荷流体を加熱し、より高い温度に昇温するシステムであり、公知のシステムに適用できる。
【0070】
高温ヒートポンプ装置の蒸発器または凝縮器において、冷媒(熱伝達組成物)と熱交換をする被冷却流体または被加熱流体は、空気、水、ブライン、シリコーンオイルなどが挙げられる。これらはサイクル運転温度条件により、選択して使用されることが好ましい。
【0071】
図1は、本発明の熱伝達組成物を適用可能な高温ヒートポンプ装置の一例を示す概略図である。以下に図1の高温ヒートポンプ装置100の構成と動作(繰り返しサイクル)について説明する。
【0072】
本発明の高温ヒートポンプ装置100は、熱を取り込む蒸発器11と、熱を供給する凝縮器13を備える。さらに、高温ヒートポンプ装置100は、蒸発器11を出た作動媒体(熱伝達組成物)蒸気の圧力を高め、電力を消費する圧縮機12と、凝縮器13を出た作動媒体過冷却液を絞り膨張させる膨張弁13を有する。
【0073】
本発明の熱伝達組成物を用いて高温ヒートポンプ装置を繰り返す場合、以下の(a)〜(d)を経て、凝縮器13において被加熱媒体に投入電力以上のエネルギーを熱エネルギーとして取り出すことができる。
(a)熱交換器(蒸発器11)内で液体状態の作動媒体を被冷却流体(空気、水など)と熱交換させ、気化させる。
(b)熱交換器から気化した冷媒を取り出し、気化した作動媒体を圧縮機12に通し、高圧の過熱蒸気を供給する。
(c)圧縮機12から出た作動媒体を凝縮器13へ通し、気体状態の作動媒体を被加熱流体(空気、水など)と熱交換させ、液化させる。
(d)液化した冷媒を膨張弁14により、絞り膨張させ、低圧の湿り蒸気を供給し、工程(a)へ再循環させる。
【0074】
冷媒を収容した高温ヒートポンプシステムは少なくとも一つの蒸発器11と、圧縮機12と、凝縮器13と、膨張装置14と、これらの要素間で冷媒を輸送する配管とを有する。
【0075】
圧縮機の種類は特に限定されないが、単段または多段の遠心式圧縮機、回転ピストン式圧縮機、ロータリーベーン式圧縮機、スクロール式圧縮機、スクリュ式圧縮機またはピストン・クランク式圧縮機を使用できる。
【0076】
本発明の熱伝達媒体を蒸気圧縮サイクルシステムの作動媒体として用いることにより、60℃以上の温水を生成する。好ましくは80℃以上の加圧熱水または過熱蒸気を生成する。より好ましくは、110℃以上の加圧熱水または過熱蒸気を生成することができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は係る実施例に限定されるものではない。
【0078】
成績係数(COP)は、一般に認められている冷媒性能の尺度であり、熱伝達用組成物の蒸発または凝縮を含む特定の加熱または冷却のサイクルにおける熱伝達用組成物の相対的な熱力学的効率を表すのに特に有益である。圧縮する際に圧縮機によって加えられた仕事量に対する蒸発器において冷媒が被冷却媒体から受け入れる熱量の比率をCOPで表す。一方、蒸気を圧縮する際に圧縮機によって加えられた仕事量に対する凝縮器において熱伝達用組成物が被加熱媒体へ放出する熱量の比率をCOPで表す。
【0079】
熱伝達用組成物の体積能力は、圧縮機の単位吸込み体積当たりの熱伝達用組成物が与える冷却または加熱の熱量を表す。すなわち、特定の圧縮機に対して、熱伝達用組成物の体積能力が大きいほど、その熱伝達用組成物はより大きな熱量を吸熱または放熱することができる。
【0080】
[実施例1]
<シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの混合熱伝達用組成物>
シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの混合熱伝達用組成物を用いた高温ヒートポンプサイクルの性能評価において、表1に示す条件で成績係数を算出した。熱伝達用組成物の物性値は、米国国立標準技術研究所(NIST)のREFPROP ver.9.0により求めた。
【0081】
以下に、高温ヒートポンプサイクル計算条件1を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
ヒートポンプサイクル条件1は、凝縮器において、熱伝達用組成物と熱源水との熱交換による80℃熱水の生成を想定している。
【0084】
なお、高温ヒートポンプサイクル性能(COP)を算出するにあたり、次の項目を仮定した。
(A)圧縮機の圧縮過程は等エントロピー圧縮とする。
(B)膨張弁における絞り膨張過程は等エンタルピー膨張とする。
(C)配管および熱交換器における熱損失、圧力損失は無視する。
(D)圧縮機効率ηを0.7とする。
【0085】
以下に、高温ヒートポンプサイクル性能(COP)を算出する式について詳細に説明する。蒸発器への入熱量QEVAは、
EVA=G×(h−h)・・・(1)
であり,凝縮器における放熱量QCONは、
CON=G×(h−h)・・・(2)
となる。
【0086】
ただし、等エントロピー圧縮後の圧縮機出口における熱伝達用組成物のエンタルピーをh2thで表したとき、圧縮機効率を加味したときの圧縮機出口における熱伝達用組成物のエンタルピーhは、
=h+(h2th−h)/η・・・(3)
となる。
【0087】
熱伝達用組成物蒸気を圧縮する際に圧縮機によって加えられた仕事量Wは、
W=G×(h−h)・・・(4)
となる。
【0088】
高温ヒートポンプサイクルの成績係数(COP)は、
COP=QGC/W=(h−h)/(h−h)・・・(5)
となる。
【0089】
次に、熱伝達媒体の体積能力(CAP)を算出する式について詳細に説明する。圧縮機吸い込み口における熱伝達媒体の蒸気密度はρであり、ガスクーラーにおける放熱量QGCであるから、
CAP=ρ×QGC=ρ×(h−h)・・・(6)
となる。
【0090】
なお、上記(1)〜(6)において、各種記号は以下を意味する。
G :熱伝達用組成物循環量
W :圧縮仕事
EVA :入熱量
CON :放熱量
COP:成績係数(加熱)
CAP :体積能力(加熱)
h :比エンタルピー
1,2,3,4:サイクルポイント
2th :等エントロピー圧縮後のサイクルポイント
【0091】
図2において、実施例1(シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン:1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの質量比が95:5)におけるPh線図を示す。図において、サイクルポイント1、2、3、4は蒸気圧縮サイクル計算条件1を示す。
【0092】
[実施例2]
<シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよびトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの混合熱伝達用組成物>
シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよびトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの混合熱伝達用組成物を用いた高温ヒートポンプサイクルの性能評価において、表1に示す条件で成績係数を算出した。なお、図3において、実施例2(シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン:トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの質量比が95:5)におけるPh線図を示す。
【0093】
[実施例3]
<シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの混合熱伝達用組成物>
シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの混合熱伝達用組成物を用いた高温ヒートポンプサイクルの性能評価において、表2に示す条件で成績係数を算出した。なお、図4において、実施例3(シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン:1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの質量比が95:5)におけるPh線図を示す。
【0094】
以下に、高温ヒートポンプサイクル計算条件2を表2に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
ヒートポンプサイクル条件2は、凝縮器において、熱伝達用組成物と熱源水との熱交換による110℃加圧熱水の生成を想定している。
【0097】
[実施例4]
<シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよびトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの混合熱伝達用組成物>
シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよびトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの混合熱伝達用組成物を用いた高温ヒートポンプサイクルの性能評価において、表2に示す条件で成績係数を算出した。なお、図5において、実施例4(シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン:トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの質量比が95:5)におけるPh線図を示す。
【0098】
[実施例5]
<シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの混合熱伝達用組成物>
シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの混合熱伝達用組成物を用いた高温ヒートポンプサイクルの性能評価において、表3に示す条件で成績係数を算出した。なお、図6において、実施例5(シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン:1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの質量比が95:5)におけるPh線図を示す。
【0099】
以下に、高温ヒートポンプサイクル計算条件3を表3に示す。
【0100】
【表3】
【0101】
ヒートポンプサイクル条件3は、凝縮器において、熱伝達用組成物と熱源水との熱交換による130℃加圧熱水の生成を想定している。
【0102】
[実施例6]
<シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよびトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの混合熱伝達用組成物>
シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよびトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの混合熱伝達用組成物を用いた高温ヒートポンプサイクルの性能評価において、表3に示す条件で成績係数を算出した。なお、図7において、実施例6(シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン:トランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンの質量比が95:5)におけるPh線図を示す。
【0103】
[実施例7]
<シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよびトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの混合熱伝達用組成物>
シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよびトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの混合熱伝達用組成物を用いた高温ヒートポンプサイクルの性能評価において、表1に示す条件で成績係数を算出した。なお、図8において、実施例7(シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン:トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの質量比が95:5)におけるPh線図を示す。
【0104】
[実施例8]
<シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよびトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの混合熱伝達用組成物>
シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよびトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの混合熱伝達用組成物を用いた高温ヒートポンプサイクルの性能評価において、表2に示す条件で成績係数を算出した。なお、図9において、実施例8(シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン:トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの質量比が95:5)におけるPh線図を示す。
【0105】
[実施例9]
<シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよびトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの混合熱伝達用組成物>
シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよびトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの混合熱伝達用組成物を用いた高温ヒートポンプサイクルの性能評価において、表3に示す条件で成績係数を算出した。なお、図10において、実施例9(シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン:トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの質量比が95:5)におけるPh線図を示す。
【0106】
[実施例10]
<シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの混合熱伝達用組成物>
シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの混合熱伝達用組成物を用いた高温ヒートポンプサイクルの性能評価において、表1に示す条件で成績係数を算出した。なお、図11において、実施例10(シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン:2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの質量比が95:5)におけるPh線図を示す。
【0107】
[実施例11]
<シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの混合熱伝達用組成物>
シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの混合熱伝達用組成物を用いた高温ヒートポンプサイクルの性能評価において、表2に示す条件で成績係数を算出した。なお、図12において、実施例11(シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン:2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの質量比が95:5)におけるPh線図を示す。
【0108】
[実施例12]
<シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの混合熱伝達用組成物>
シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの混合熱伝達用組成物を用いた高温ヒートポンプサイクルの性能評価において、表3に示す条件で成績係数を算出した。なお、図13において、実施例12(シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン:2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの質量比が95:5)におけるPh線図を示す。
【0109】
[比較例1]
<1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン>
本発明の熱伝達用組成物の代わりに、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンの混合熱伝達用組成物を用いた高温ヒートポンプサイクルの性能評価において、表1に示す条件で成績係数を算出した。なお、図14において、比較例1(1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン:1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンの質量比が95:5)におけるPh線図を示す。
【0110】
<1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)>
HFC−365mfcは、可燃性であり、毒性が低い。なお、HFC−365mfcの沸点は、大気圧下において40.2℃、大気寿命は8.6年、地球温暖化係数(GWP)は794(IPCC4次評価報告書 2007)である。
【0111】
[比較例2]
<1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン>
本発明の熱伝達用組成物の代わりに、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン混合熱伝達用組成物を用いた高温ヒートポンプサイクルの性能評価において、表2に示す条件で成績係数を算出した。なお、図15において、比較例2(1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン:1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンの質量比が95:5)におけるPh線図を示す。
【0112】
[比較例3]
<1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン>
本発明の熱伝達用組成物の代わりに、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン混合熱伝達用組成物を用いた高温ヒートポンプサイクルの性能評価において、表3に示す条件で成績係数を算出した。なお、図16において、比較例3(1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン:1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンの質量比が95:5)におけるPh線図を示す。
【0113】
実施例1〜12および比較例1〜3の高温ヒートポンプサイクル性能(COP)の算出結果を表4〜18に示す。
【0114】
実施例1〜12および比較例1〜3において、熱伝達用組成物の第一成分および第二成分の値は質量百分率で示す。実施例1、3および5は、混合熱伝達用組成物の第一成分がシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンであり、第二成分が1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンである。
【0115】
実施例2、4および6は、混合熱伝達用組成物の第一成分がシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンであり、第二成分がトランス−1−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンである。
【0116】
実施例7〜9は、混合熱伝達用組成物の第一成分がシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンであり、第二成分がトランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンである。
【0117】
実施例10〜12は、混合熱伝達用組成物の第一成分がシス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンであり、第二成分が2,3,3,3−テトラフルオロプロペンである。
【0118】
比較例1、2および3は、混合熱伝達用組成物の第一成分が1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンであり、第二成分が1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンである。
【0119】
表4、表5、表10および表13に示した実施例1、実施例2、実施例7および実施例10の相対COPおよび相対CAPは、表16に示した比較例1の混合熱伝達用組成物の各成分比の場合におけるCOPおよびCAPをそれぞれ1.00とする相対値として算出した。同様に、表6、表7、表11および表14に示した実施例3、実施例4、実施例8および実施例11の相対COPおよび相対CAPは、表17に示した比較例2の混合熱伝達用組成物の各成分比の場合におけるCOPおよびCAPをそれぞれ1.00とする相対値として算出した。表8、表9、表12および表15に示した実施例5、実施例6、実施例9および実施例12では比較例3の相対COPおよび相対CAPは、表18に示した比較例3の混合熱伝達用組成物の各成分比の場合におけるCOPおよびCAPをそれぞれ1.00とする相対値として算出した。
【0120】
【表4】
【0121】
【表5】
【0122】
【表6】
【0123】
【表7】
【0124】
【表8】
【0125】
【表9】
【0126】
【表10】
【0127】
【表11】
【0128】
【表12】
【0129】
【表13】
【0130】
【表14】
【0131】
【表15】
【0132】
【表16】
【0133】
【表17】
【0134】
【表18】
【0135】
表4〜18に示す通り、本発明の混合熱伝達用組成物は、上記特許文献1(特開2013−525720号)に記載の1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンの混合熱伝達用組成物よりも高温ヒートポンプに適用したときの成績係数および体積能力よりも高い値であることがわかる。
【0136】
[実施例13]
SUS316製オートクレーブに作動媒体30gを充填し、150℃に加熱して、5週間保持した。ガスクロマトグラフィーを用いて、作動媒体の分解生成物および作動媒体の異性体生成物の有無について、評価を行った。得られた結果を表19に示す。
【表19】
【0137】
いずれの熱伝達用組成物も、熱分解生成物は見られなかった。また、表19に示した結果から明らかなように、HFO−1234zeは、トランス体、シス体ともに、異性化反応は進行しなかった。HCFO−1233zdのトランス体は、少量の異性体生成が確認された。本発明に用いる熱伝達用組成物は熱安定性に優れていることがわかる。
【0138】
[実施例14]
シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze(Z))を用いて熱安定性試験を行った。JIS−K−2211「冷凍機油」のシールドチューブテストに準拠して、熱伝達用組成物1.0gと金属片(鉄、銅、アルミニウムの各試験片)をガラス試験管に封入し、所定温度に加熱して2週間保持した。なお、加熱温度を175、200または250℃とした。2週間後の熱伝達用組成物の外観、純度、酸分(Fイオン)を測定し、熱安定性の評価を行った。得られた結果を表20に示す。
【0139】
【表20】
【0140】
[実施例15]
1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)を用いて熱安定性試験を行った。JIS−K−2211「冷凍機油」のシールドチューブテストに準拠して、熱伝達用組成物1.0gと金属片(鉄、銅、アルミニウムの各試験片)をガラス試験管に封入し、所定温度に加熱して2週間保持した。なお、加熱温度を175、200または250℃とした。2週間後の熱伝達用組成物の外観、純度、酸分(Fイオン)を測定し、熱安定性の評価を行った。得られた結果を表21に示す。
【0141】
【表21】
【0142】
表20および21に示した結果から明らかなように、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの熱分解生成物は見られなかった。また、熱安定性試験後の副生酸分(F)は極微量であり、本発明に用いる熱伝達用組成物は、高温度状態においても、熱安定性に優れていることがわかる。
【0143】
[実施例16]
JIS−K−2211「冷凍機油」の熱伝達用組成物と冷凍機油の相溶性試験に準拠して、熱伝達用組成物1.7gと冷凍機油0.3gを厚肉ガラス試験管中に加え、液体窒素で冷却し、熱伝達用組成物および冷凍機油の混合物を固化した。熱伝達用組成物および冷凍機油の混合物が固化した後、試験管の上部と真空ポンプを接続して、残存する空気を除去し、試験管の上部をガスバーナーで溶封した。溶封した厚肉ガラス試験管を−20℃まで冷却した恒温槽に入れ、恒温槽の温度とガラス試験管内の組成物が等しい温度となるまで静置した。その後、目視により、熱伝達用組成物と冷凍機油との相溶性について、評価を行った。恒温槽の温度を−20〜+80℃まで変化させて、相溶性を評価した。得られた結果を表22〜26に示す。表22〜26において、均一に相溶したときは○、二層分離または組成物に濁りを生じたときは×で評価した。
【0144】
相溶性試験には、以下の5種類の潤滑油を使用した。
鉱物油(MO):スニソ4GS(日本サン石油製)
ポリオールエステル油(POE):SUNICE T68(日本サン石油製)
アルキルベンゼン油(AB):アトモス68N(JX日鉱日石エネルギー製)
ポリアルキレングリコール油(PAG):SUNICE P56(日本サン石油製)
ポリビニルエーテル油(PVE):ダフニーハーメチックオイルFVC68D(出光興産製)
【0145】
【表22】
【0146】
【表23】
【0147】
【表24】
【0148】
【表25】
【0149】
【表26】
【0150】
いずれの熱伝達用組成物も、合成油であるPOEに対して、良好な相溶性を有した。また、塩素原子を含有するHCFO−1233zdは、トランス体、シス体ともに、鉱物油に対しても良好な相溶性を有した。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明は、不燃性または微燃性かつ環境への負荷が小さい熱伝達用組成物の凝縮工程による被加熱流体への熱伝達方法である。この方法は、従来技術であるハイドロフルオロカーボン熱伝達用組成物の凝縮工程による熱伝達方法に比較して、熱伝達温度条件が70℃以上において、好適に使用することができる。また、優れた成績係数かつ体積能力によって、消費電力の低減に大きく寄与することが可能となる。本発明の方法によって、これまで十分利用されてこなかった中低温域の温水を加熱することにより、高品位の温水、加圧熱水または過熱蒸気として利用することができる。
【符号の説明】
【0152】
11:蒸発器、12:圧縮機、13:凝縮器、14:膨張弁、100:高温ヒートポンプ装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16