(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記不可避不純物であるFeの含有量が10質量ppm以下、Niの含有量が10質量ppm以下、Asの含有量が5質量ppm以下、Agの含有量が50質量ppm以下、Snの含有量が4質量ppm以下、Sbの含有量が4質量ppm以下、Pbの含有量が6質量ppm以下、Biの含有量が2質量ppm以下、Pの含有量が3質量ppm以下とされていることを特徴とする請求項1に記載の超伝導安定化材。
S,Se,Teの合計含有量(X質量ppm)と、Ca,La,Ceから選択される1種又は2種以上の添加元素の合計含有量(Y質量ppm)との比Y/Xが、0.5≦Y/X≦100の範囲内とされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の超伝導安定化材。
【背景技術】
【0002】
上述の超伝導線は、例えばMRI、NMR、粒子加速器、リニアモーターカー、さらに電力貯蔵装置などの分野で使用されている。
この超伝導線は、Nb−Ti、Nb
3Snなどの超伝導体からなる複数の素線を、超伝導安定化材を介在させて束ねた多芯構造を有している。また、超伝導体と超伝導安定化材とを積層したテープ状の超伝導線も提供されている。さらに安定性と安全性を高めるために、純銅からなるチャンネル部材に組み込んだ超伝導線も提供される。
【0003】
ここで、上述の超伝導線においては、超伝導体の一部において超伝導状態が破れた場合には、抵抗が部分的に大きく上昇して超伝導体の温度が上昇してしまい、超伝導体全体が臨界温度以上になって常伝導状態に転移してしまうおそれがある。そこで、超伝導線においては、銅などの比較的抵抗の低い超伝導安定化材を、超伝導体に接触するように配置しており、超伝導状態が部分的に破れた場合には、超伝導体を流れていた電流を超伝導安定化材に一時的に迂回させておき、その間に超伝導体を冷却して超伝導状態に復帰させるような構造とされている。
【0004】
ここでいう超伝導線の構造とは、Nb−Ti、Nb
3Snに代表される超伝導体を含む素線と銅材からなる超伝導安定化材が接触するように加工され、超伝導体を含む複数の素線と超伝導安定化材とが1つの構造体となる様に加工を施した線のことである。なお、この加工は押出し、圧延、伸線、引抜き、及びツイストを含む。
【0005】
上述の超伝導安定化材においては、電流を効率良く迂回させるために、極低温での抵抗が十分に低いことが求められている。極低温での電気抵抗を示す指標としては、残留抵抗比(RRR)が広く用いられている。この残留抵抗比(RRR)は、常温(293K)での電気比抵抗ρ
293Kと液体ヘリウム温度(4.2K)での電気比抵抗ρ
4.2Kとの比ρ
293K/ρ
4.2Kであり、この残留抵抗比(RRR)が高いほど超伝導安定化材として優れた性能を発揮することになる。
【0006】
そこで、例えば特許文献1−3には、高い残留抵抗比(RRR)を有するCu材料が提案されている。
特許文献1においては、99.999%以上を有する銅材を温度650〜800℃、富不活性ガス雰囲気中で少なくとも30分以上加熱することにより、高い残留抵抗比(RRR)の銅材を得ることが記載されている。
特許文献2においては、特定の元素(Fe,P,Al,As,Sn及びS)の含有量を規定した不純物濃度が非常に低い高純度銅が提案されている。
また、特許文献3においては、酸素濃度の低い高純度銅にZrを微量添加したCu合金が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、不純物元素を極限まで低減した超高純度銅においては、残留抵抗比(RRR)が十分に高くなることは知られている。しかし、銅を高純度化するためには、製造プロセスが非常に複雑となり、製造コストが大幅に上昇してしまうといった問題があった。
ここで、特許文献1においては、99.999%以上の純度を有する純銅を用いて高い残留抵抗比(RRR)を有する純銅、又は銅合金を製造する方法を示しているが、99.999%以上の純銅を原料として用いることで、製造コストが大幅に上昇してしまうといった問題点があった。
また、特許文献2においては、特定の元素(Fe,P,Al,As,Sn及びS)の含有量を0.1ppm未満に限定しているが、これらの元素を0.1ppm未満にまで低減することは容易ではなく、やはり製造プロセスが複雑となるといった問題があった。
さらに、特許文献3においては、酸素及びZrの含有量を規定しているが、酸素及びZrの含有量を制御することは難しく、高い残留抵抗比(RRR)を有する銅合金を安定して製造することが困難であるといった問題があった。
さらに、最近では、従来にも増して高い残留抵抗比(RRR)を有する超伝導安定化材を備えた超伝導線が要求されている。
【0009】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、製造プロセスが比較的簡単で廉価で製造でき、残留抵抗比(RRR)が十分に高い超伝導安定化材、この超伝導安定化材を備えた超伝導線、及び、この超伝導線からなる超伝導コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、不可避不純物の中でもS,Se,Teが特に残留抵抗比(RRR)に対して悪影響を及ぼすことを確認し、純銅にCa,La,Ceを微量添加してS,Se,Teを特定の化合物として固定することにより、広い温度範囲で熱処理した場合でも、高い残留抵抗比(RRR)を有する超伝導安定化材が製造可能であるとの知見を得た。
【0011】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の超伝導安定化材は、超伝導線に用いられる超伝導安定化材であって、Ca,La,Ceから選択される1種又は2種以上の添加元素を合計で3質量ppm以上400質量ppm以下の範囲内で含有し、残部がCu及び不可避不純物とされるとともに、ガス成分であるO,H,C,N,Sを除く前記不可避不純物の濃度の総計が5質量ppm以上100質量ppm以下とされた銅材からなり、母相内部に、CaS,CaSO
4,LaS,La
2SO
2,CeS,Ce
2SO
2から選択される1種又は2種以上を含む化合物が存在することを特徴としている。
【0012】
上述の構成の超伝導安定化材によれば、ガス成分であるO,H,C,N,Sを除く不可避不純物の濃度の総計が5質量ppm以上100質量ppm以下とされた銅に、Ca,La,Ceから選択される1種又は2種以上の添加元素を合計で3質量ppm以上400質量ppm以下の範囲内で含有させているので、銅中のS,Se,Teが化合物として固定され、残留抵抗比(RRR)を向上させることが可能となる。
また、ガス成分であるO,H,C,N,Sを除く不可避不純物の濃度の総計が5質量ppm以上100質量ppm以下とされた銅を用いているので、過度に銅の高純度化を図る必要がなく、製造プロセスが簡易となり、製造コストを低減することができる。
【0013】
そして、本発明では、CaS,CaSO
4,LaS,La
2SO
2,CeS,Ce
2SO
2から選択される1種又は2種以上を含む化合物が存在しているので、銅中に存在するS,Se,Teが確実に固定されており、残留抵抗比(RRR)を向上させることが可能となる。また、上述の化合物は、熱的安定性が高いことから、広い温度範囲で熱処理しても安定的に高い残留抵抗比(RRR)を維持することができる。
なお、本発明において、上記の化合物は、CaS,CaSO
4,LaS,La
2SO
2,CeS,Ce
2SO
2のSの一部がTe,Seに置換されたものも含む。
【0014】
ここで、本発明の超伝導安定化材においては、前記不可避不純物であるFeの含有量が10質量ppm以下、Niの含有量が10質量ppm以下、Asの含有量が5質量ppm以下、Agの含有量が50質量ppm以下、Snの含有量が4質量ppm以下、Sbの含有量が4質量ppm以下、Pbの含有量が6質量ppm以下、Biの含有量が2質量ppm以下、Pの含有量が3質量ppm以下とされていることが好ましい。
不可避不純物の中でも、Fe,Ni,As,Ag,Sn,Sb,Pb,Bi,Pといった特定不純物の元素は、残留抵抗比(RRR)を低下させる作用を有している。そこで、これらの元素の含有量を上述のように規定することで、確実に残留抵抗比(RRR)を向上させることが可能となる。
【0015】
また、本発明の超伝導安定化材においては、S,Se,Teの合計含有量(X質量ppm)と、Ca,La,Ceから選択される1種又は2種以上の添加元素の合計含有量(Y質量ppm)との比Y/Xが、0.5≦Y/X≦100の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、S,Se,Teの合計含有量(X質量ppm)と、Ca,La,Ceから選択される1種又は2種以上の添加元素の合計含有量(Y質量ppm)との比Y/Xが上述の範囲内とされているので、銅中のS,Se,Teを、CaS,CaSO
4,LaS,La
2SO
2,CeS,Ce
2SO
2から選択される1種又は2種以上を含む化合物として確実に固定することができ、S,Se,Teによる残留抵抗比(RRR)の低下を確実に抑制することができる。
【0016】
また、本発明の超伝導安定化材においては、残留抵抗比(RRR)が250以上であることが好ましい。
この場合、残留抵抗比(RRR)が250以上と比較的高いことから、極低温での抵抗値が十分に低く、超伝導体の超伝導状態が破れた際に電流を十分に迂回させることができ、超伝導安定化材として特に優れている。
【0017】
本発明の超伝導線は、超伝導体を含む素線と、上述の超伝導安定化材と、を備えていることを特徴としている。
この構成の超伝導線においては、上述のように、高い残留抵抗比(RRR)を有する超伝導安定化材を備えているので、超伝導体の超伝導状態が破れた場合であっても、超伝導体を流れている電流を超伝導安定化材に確実に迂回させることができ、超伝導体全体に常伝導状態が伝播してしまうことを抑制できる。
【0018】
本発明の超伝導コイルは、上述の超伝導線が巻枠の周面に巻回されてなる巻線部を備えた構造を有することを特徴としている。
この構成の超伝導コイルにおいては、上述のように、高い残留抵抗比(RRR)を有する超伝導安定化材を備えた超伝導線を用いているので、安定して使用することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、製造プロセスが比較的簡単で廉価で製造でき、残留抵抗比(RRR)が十分に高い超伝導安定化材、この超伝導安定化材を備えた超伝導線、及び、この超伝導線からなる超伝導コイルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施形態である超伝導安定化材20及び超伝導線10について、添付した図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態における超伝導線10は、コア部11と、このコア部11の外周側に配置された複数のフィラメント12と、これら複数のフィラメント12の外周側に配置される外殻部13と、を備えている。
【0022】
本実施形態では、上述のフィラメント12は、
図1及び
図2に示すように、超伝導体からなる素線15を超伝導安定化材20によって被覆した構造とされている。
ここで、超伝導安定化材20は、
図2に示すように、超伝導体からなる素線15の一部において超伝導状態が破れて常伝導領域Aが発生した場合に、超伝導体からなる素線15を流れる電流Iを一時的に迂回させるものである。
【0023】
本実施形態である超伝導安定化材20は、Ca,La,Ceから選択される1種又は2種以上の添加元素を合計で3質量ppm以上400質量ppm以下の範囲内で含有し、残部がCu及び不可避不純物とされるとともに、ガス成分であるO,H,C,N,Sを除く不可避不純物の濃度の総計が5質量ppm以上100質量ppm以下とされた銅材によって構成されている。
【0024】
そして、本実施形態である超伝導安定化材20においては、母相内部に、CaS,CaSO
4,LaS,La
2SO
2,CeS,Ce
2SO
2から選択される1種又は2種以上を含む化合物が存在している。
なお、上述のCaS,CaSO
4,LaS,La
2SO
2,CeS,Ce
2SO
2においては、Sの一部がTe,Seに置換されていてもよい。Te,Seは、Sに比べて含有量が少量であることから、Te、Seが単独でCa,La,Ce等と化合物を形成することが少なく、上述の化合物のSの一部を置換した状態で化合物を形成することになる。
【0025】
また、本実施形態である超伝導安定化材20においては、不可避不純物であるFeの含有量が10質量ppm以下、Niの含有量が10質量ppm以下、Asの含有量が5質量ppm以下、Agの含有量が50質量ppm以下、Snの含有量が4質量ppm以下、Sbの含有量が4質量ppm以下、Pbの含有量が6質量ppm以下、Biの含有量が2質量ppm以下、Pの含有量が3質量ppm以下とされている。
【0026】
さらに、本実施形態である超伝導安定化材20においては、S,Se,Teの合計含有量(X質量ppm)と、Ca,La,Ceから選択される1種又は2種以上の添加元素の合計含有量(Y質量ppm)との比Y/Xが、0.5≦Y/X≦100の範囲内とされている。
また、本実施形態である超伝導安定化材20においては、残留抵抗比(RRR)が250以上とされている。
【0027】
ここで、上述のように成分組成、化合物、残留抵抗比(RRR)を規定した理由について以下に説明する。
【0028】
(Ca,La,Ceから選択される1種又は2種以上の添加元素)
銅に含まれる不可避不純物のうちS,Se,Teは、銅中に固溶することによって残留抵抗比(RRR)を大きく低下させる元素である。このため、残留抵抗比(RRR)を向上させるためには、これらS,Se,Teの影響を排除する必要がある。
ここで、Ca,La,Ceから選択される1種又は2種以上の添加元素は、S,Se,Teと反応性が高い元素であることから、S,Se,Teと化合物を生成することによって、これらS,Se,Teが銅中に固溶することを抑制することが可能となる。これにより、残留抵抗比(RRR)を十分に向上させることができる。
なお、Ca,La,Ceから選択される1種又は2種以上の添加元素は、銅中に固溶しにくい元素であり、さらに銅に固溶しても残留抵抗比(RRR)を低下させる作用が小さいことから、S,Se,Teの含有量に対して過剰に添加した場合であっても、残留抵抗比(RRR)が大きく低下することはない。
【0029】
ここで、Ca,La,Ceから選択される1種又は2種以上の添加元素の含有量が3質量ppm未満では、S,Se,Teを固定する作用効果を十分に奏功せしめることができないおそれがある。一方、Ca,La,Ceから選択される1種又は2種以上の添加元素の含有量が400質量ppmを超えると、これらの添加元素の粗大な析出物等が生成して加工性が劣化するおそれがある。以上のことから、本実施形態では、Ca,La,Ceから選択される1種又は2種以上の添加元素の含有量を3質量ppm以上400質量ppm以下の範囲内に規定している。
なお、S,Se,Teを確実に固定するためには、Ca,La,Ceから選択される1種又は2種以上の添加元素の含有量の下限を3.5質量ppm以上とすることが好ましく、4.0質量ppm以上とすることがさらに好ましい。一方、加工性の低下を確実に抑制するためには、Ca,La,Ceから選択される1種又は2種以上の添加元素の含有量の上限を300質量ppm以下にすることが好ましく、100質量ppm以下とすることがさらに好ましい。
【0030】
(ガス成分を除く不可避不純物元素)
ガス成分(O,H,C,N,S)を除く不可避不純物については、その濃度を低くすることで残留抵抗比(RRR)が向上することになる。一方、不可避不純物の濃度を必要以上に低減しようとすると、製造プロセスが複雑となって製造コストが大幅に上昇してしまう。そこで、本実施形態では、ガス成分(O,H,C,N,S)を除く不可避不純物の濃度を総計で5質量ppm以上100質量ppm以下の範囲内に設定している。
ガス成分(O,H,C,N,S)を除く不可避不純物の濃度を総計で5質量ppm以上100質量ppm以下の範囲内とするために、原料としては、純度99〜99.999質量%の高純度銅や無酸素銅(C10100,C10200)を用いることができる。ただし、Oが高濃度にあると、Ca,La,CeがOと反応してしまうため、O濃度を20質量ppm以下とすることが好ましく、更に好ましくは10ppm以下である。より好ましくは5質量ppm以下である。
なお、製造コストの上昇を確実に抑制するためには、ガス成分であるO,H,C,N,Sを含まない不可避不純物の下限を7質量ppm以上とすることが好ましく、10質量ppm以上とすることがさらに好ましい。また、ガス成分であるO,H,C,N,Sを不可避不純物に加算した場合、ガス成分であるO,H,C,N,Sを含む不可避不純物の濃度の総計は10質量ppm超えとすることが好ましく、更に好ましくは15質量ppm以上である。より好ましくは20質量ppm以上である。 一方、残留抵抗比(RRR)を確実に向上させるためには、ガス成分であるO,H,C,N,Sを含まない不可避不純物の上限を90質量ppm以下とすることが好ましく、80質量ppm以下とすることがさらに好ましい。また、ガス成分であるO,H,C,N,Sを含む不可避不純物の上限を110 質量ppm以下とすることが好ましい。
【0031】
ここで、本実施形態における不可避不純物は、Fe,Ni,As,Ag,Sn,Sb,Pb,Bi,P,Li,Be,B,F,Na,Mg,Al,Si,Cl,K,Sc,Ti,V,Cr,Mn,Nb,Co,Zn,Ga,Ge,Br,Rb,Sr,Y,Zr,Mo,Ru,Pd,Cd,In,I,Cs,Ba,希土類元素(La,Ceを除く),Hf,Ta,W,Re,Os,Ir,Pt,Au,Hg,Tl,Th、Uである。
【0032】
(母相内部に存在する化合物)
上述のように、Ca,La,Ceから選択される1種又は2種以上の添加元素は、S,Se,Teといった元素と化合物を生成することにより、S,Se,Teといった元素が銅中に固溶することを抑制している。
よって、母相内部に、CaS,CaSO
4,LaS,La
2SO
2,CeS,Ce
2SO
2から選択される1種又は2種以上を含む化合物(Sの一部がTe、Seに置換されたものを含む)が存在することにより、S、Se、Teが固定され、残留抵抗比(RRR)を確実に向上させることが可能となる。
【0033】
ここで、CaS,CaSO
4,LaS,La
2SO
2,CeS,Ce
2SO
2から選択される1種又は2種以上を含む化合物は、熱的安定性が高く、高温でも安定に存在することができる。これらの化合物は、溶解鋳造時に生成することになるが、前述の特性により、加工後や熱処理後においても安定して存在する。よって、広い温度範囲で熱処理しても、S、Se、Teが化合物として固定されることになり、安定的に高いRRRを有することが可能となる。
【0034】
また、CaS,CaSO
4,LaS,La
2SO
2,CeS,Ce
2SO
2から選択される1種又は2種以上を含む化合物が0.001個/μm
2以上の個数密度で存在することにより、確実に残留抵抗比(RRR)を向上させることが可能となる。また、残留抵抗比(RRR)をさらに向上させるためには、化合物の個数密度を0.005個/μm
2以上とすることが好ましい。より好ましくは0.007個/μm
2以上である。本実施形態においては、上述の個数密度は粒径0.1μm以上の化合物を対象とした。
なお、本実施形態においては、S,Se,Teといった元素の含有量が十分に少ないことから、上述の化合物(粒径0.1μm以上)の個数密度の上限は0.1個/μm
2以下となり、更に好ましくは0.09個/μm
2以下である。より好ましくは0.08個/μm
2以下である。
【0035】
(Fe,Ni,As,Ag,Sn,Sb,Pb,Bi,P)
不可避不純物のうちFe,Ni,As,Ag,Sn,Sb,Pb,Bi,Pといった特定不純物の元素は、残留抵抗比(RRR)を低下させる作用を有することから、これらの元素の含有量をそれぞれ規定することで、残留抵抗比(RRR)の低下を確実に抑制することが可能となる。そこで、本実施形態では、Feの含有量を10質量ppm以下、Niの含有量を10質量ppm以下、Asの含有量を5質量ppm以下、Agの含有量を50質量ppm以下、Snの含有量を4質量ppm以下、Sbの含有量を4質量ppm以下、Pbの含有量を6質量ppm以下、Biの含有量を2質量ppm以下、Pの含有量を3質量ppm以下に規定している。
【0036】
なお、残留抵抗比(RRR)の低下をさらに確実に抑制するためには、Feの含有量を4.5質量ppm以下、Niの含有量を3質量ppm以下、Asの含有量を3質量ppm以下、Agの含有量を38質量ppm以下、Snの含有量を3質量ppm以下、Sbの含有量を1.5質量ppm以下、Pbの含有量を4.5質量ppm以下、Biの含有量を1.5質量ppm以下、Pの含有量を1.5質量ppm以下に規定することが好ましく、さらには、Feの含有量を3.3質量ppm以下、Niの含有量を2.2質量ppm以下、Asの含有量を2.2質量ppm以下、Agの含有量を28質量ppm以下、Snの含有量を2.2質量ppm以下、Sbの含有量を1.1質量ppm以下、Pbの含有量を3.3質量ppm以下、Biの含有量を1.1質量ppm以下、Pの含有量を1.1質量ppm以下に規定することが好ましい。
【0037】
(S,Se,Teの合計含有量と添加元素の合計含有量との比Y/X)
上述のように、Ca,La,Ceから選択される1種又は2種以上の添加元素は、S,Se,Teといった元素と化合物を生成することになる。ここで、S,Se,Teの合計含有量(X質量ppm) と添加元素の合計含有量(Y質量ppm) との比Y/Xが0.5未満では、添加元素の含有量が不足し、S,Se,Teといった元素を十分に固定できなくなるおそれがある。一方、S,Se,Teの合計含有量と添加元素の合計含有量との比Y/Xが100を超えると、S,Se,Teと反応しない余剰の添加元素が多く存在することになり、加工性が低下してしまうおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、S,Se,Teの合計含有量と添加元素の合計含有量との比Y/Xを0.5以上100以下の範囲内に規定している。
なお、S,Se,Teといった元素を化合物として確実に固定するためには、S,Se,Teの合計含有量と添加元素の合計含有量との比Y/Xの下限を0.75以上とすることが好ましく、1.0以上とすることがさらに好ましい。また、加工性の低下を確実に抑制するためには、S,Se,Teの合計含有量と添加元素の合計含有量との比Y/Xの上限を75以下とすることが好ましく、50以下とすることがさらに好ましい。
【0038】
(残留抵抗比(RRR))
本実施形態である超伝導安定化材20においては、残留抵抗比(RRR)が250以上とされていることから、極低温において、抵抗値が低く電流を良好に迂回させることが可能となる。残留抵抗比(RRR)は、280以上であることが好ましく、300以上であることがさらに好ましい。より好ましくは400以上である。
【0039】
ここで、本実施形態である超伝導安定化材20は、溶解鋳造工程、塑性加工工程、熱処理工程を含む製造工程によって製造される。
なお、連続鋳造圧延法(例えばSCR法)等によって、本実施形態で示した組成の荒引銅線を製造し、これを素材として本実施形態である超伝導安定化材20を製造してもよい。この場合、本実施形態である超伝導安定化材20の生産効率が向上し、製造コストを大幅に低減することが可能となる。ここでいう連続鋳造圧延法とは、例えばベルト・ホイール式連続鋳造機と連続圧延装置とを備えた連続鋳造圧延設備を用いて、銅荒引線を製造し、この銅荒引線を素材として引抜銅線を製造する工程のことである。
【0040】
以上のような構成とされた本実施形態である超伝導安定化材20によれば、ガス成分であるO,H,C,N,Sを除く不可避不純物の濃度の総計が5質量ppm以上100質量ppm以下とされた銅に、Ca,La,Ceから選択される1種又は2種以上の添加元素を合計で3質量ppm以上400質量ppm以下の範囲内で含有させているので、銅中のS、Se、Teが化合物として固定され、残留抵抗比(RRR)を向上させることが可能となる。
また、ガス成分であるO,H,C,N,Sを除く不可避不純物の濃度の総計が5質量ppm以上100質量ppm以下とされた銅を用いているので、過度に銅の高純度化を図る必要がなく、製造プロセスが簡易となり、製造コストを低減することができる。
【0041】
そして、本実施形態である超伝導安定化材20によれば、母相内部に、CaS,CaSO
4,LaS,La
2SO
2,CeS,Ce
2SO
2から選択される1種又は2種以上を含む化合物が存在しているので、銅中に存在するS,Se,Teが確実に固定されており、残留抵抗比(RRR)を向上させることが可能となる。また、上述の化合物は、熱的安定性が高いことから、広い温度範囲で熱処理しても安定的に高い残留抵抗比(RRR)を有することができる。
特に、本実施形態では、粒径0.1μm以上の上述の化合物の個数密度が0.001個/μm
2以上とされているので、S,Se,Teを確実に化合物として固定でき、残留抵抗比(RRR)を十分に向上させることができる。
【0042】
さらに、本実施形態では、残留抵抗比(RRR)に影響するFe,Ni,As,Ag,Sn,Sb,Pb,Bi,Pの含有量について、Feの含有量を10質量ppm以下、Niの含有量を10質量ppm以下、Asの含有量を5質量ppm以下、Agの含有量を50質量ppm以下、Snの含有量を4質量ppm以下、Sbの含有量を4質量ppm以下、Pbの含有量を6質量ppm以下、Biの含有量を2質量ppm以下、Pの含有量を3質量ppm以下に規定しているので、確実に超伝導安定化材20の残留抵抗比(RRR)を向上させることが可能となる。
【0043】
また、本実施形態では、S,Se,Teの合計含有量(X質量ppm)と、Ca,La,Ceから選択される1種又は2種以上の添加元素の合計含有量(Y質量ppm)との比Y/Xが、0.5≦Y/X≦100の範囲内とされているので、銅中のS,Se,Teを添加元素との化合物として確実に固定することができ、残留抵抗比(RRR)の低下を確実に抑制することができる。また、S,Se,Teと反応しない余剰の添加元素が多く存在せず、加工性を確保することができる。
【0044】
また、本実施形態においては、残留抵抗比(RRR)が250以上と比較的高いことから、極低温での抵抗値が十分に低くなる。
そして、本実施形態である超伝導線10は、上述のように残留抵抗比(RRR)が高い超伝導安定化材20を備えているので、超伝導体からなる素線15において超伝導状態が破れた常伝導領域Aが発生した場合であっても電流を超伝導安定化材20に確実に迂回させることができ、安定して使用することができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態である超伝導安定化材及び超伝導線について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、超伝導線10を構成するコア部11及び外殻部13についても、本実施形態である超伝導安定化材20と同様の組成の銅材によって構成してもよい。
【0046】
また、上述の実施形態では、
図1に示すように、複数のフィラメント12を束ねた構造の超伝導線10を例に挙げて説明したが、これに限定されることはない。
例えば
図3に示すように、テープ状の基材113の上に超伝導体115及び超伝導安定化材120を積層配置した構造の超伝導線110であってもよい。
さらに、
図4に示すように、複数のフィラメント12を束ねた後、純銅からなるチャンネル部材220に組み込んだ構造の超伝導線210であってもよい。
【実施例】
【0047】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
本実施例では、研究室実験として、純度99.9 質量%以上99.9999質量%以下の高純度銅及びCa,Ce及びLaの母合金を原料として用いて、表1記載の組成となるように調整した。また、Fe,Ni,As,Ag,Sn,Sb,Pb,Bi,P及びその他の不純物については、純度99.9質量%以上のFe,Ni,As,Ag,Sn,Sb,Pb,Bi,Pと純度99.99 質量%の純銅とから各々の元素の母合金を作成し、その母合金を用いて調整した。
【0048】
まず、高純度銅をArの不活性ガス雰囲気中で電気炉を用いて溶解し、その後、各種添加元素及び不純物の母合金を添加して所定濃度に調製し、所定の鋳型に鋳造することにより、直径:80 mm×長さ:120 mmのインゴットを得た。このインゴットから、断面寸法:20 mm×20 mm角材を切り出し、これに825℃で熱間圧延を施して直径8mmの熱延線材とし、この熱延線材から冷間引抜きにより直径2.0mmの細線を成形し、これに表2に示す温度でそれぞれ1時間保持の熱処理を施すことにより、評価用線材を製造した。
なお、本実施例では、溶解鋳造の過程において不純物元素の混入も認められた。
これらの評価用線材を用いて、以下の項目について評価した。
【0049】
(残留抵抗比(RRR))
四端子法にて、293Kでの電気比抵抗(ρ
293K)および液体ヘリウム温度(4.2K)での電気比抵抗(ρ
4.2K)を測定し、RRR=ρ
293K/ρ
4.2Kを算出した。
【0050】
(組成分析)
残留抵抗比(RRR)を測定したサンプルを用いて、成分分析を以下のようにして実施した。ガス成分を除く元素について、10質量ppm未満の場合はグロー放電質量分析法、10質量ppm以上の場合は誘導結合プラズマ発光分光分析法を用いた。また、Sの分析には赤外線吸収法を用いた。Oの濃度は全て10質量ppm以下であった。なお、Oの分析は赤外線吸収法を用いた。
【0051】
(化合物粒子観察)
SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて粒子観察し、EDX(エネルギー分散型X線分光法)を実施した。化合物の分散状態が特異ではない領域について20,000倍(観察視野:20μm
2)で観察した。50視野(観察視野:1000μm
2)の撮影を行った。金属間化合物の粒径については、金属間化合物の長径(途中で粒界に接しない条件で粒内に最も長く引ける直線の長さ)と短径(長径と直角に交わる方向で、途中で粒界に接しない条件で最も長く引ける直線の長さ)の平均値とした。そして、粒径0.1μm以上の化合物について、EDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて組成を分析し、Ca,La,CeとSを含む化合物であることを確認した。
さらに、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて電子線回折を行い、CaS,CaSO
4,LaS,La
2SO
2,CeS,Ce
2SO
2化合物を同定した。これらの化合物の内CaS,LaS,CeSはNaCl型、CaSO
4はCePO
4型、La
2SO
2,Ce
2SO
2はCe
2SO
2型の結晶構造を有することを確認した。なお、表2の「化合物の有無」の欄においては、上述の観察の結果、CaS,CaSO
4,LaS,La
2SO
2,CeS,Ce
2SO
2の化合物が確認された場合を「○」、確認されなかった場合を「×」と表記した。
【0052】
評価結果を表2に示す。また、本発明例3の化合物のSEM観察結果、分析結果及び電子線回折結果を
図5に、本発明例10の化合物のSEM観察結果、分析結果及び電子線回折結果を
図6に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
比較例1は、Ca、La,Ceから選択される1種又は2種以上の添加元素を添加しなかったものであり、母相内部に、CaS,CaSO
4,LaS,La
2SO
2,CeS,Ce
2SO
2から選択される1種又は2種以上を含む化合物が存在せず、残留抵抗比(RRR)が141と低かった。
比較例2は、Ca、La,Ceから選択される1種又は2種以上の添加元素の合計含有量が1115質量ppmと本発明の範囲を超えており、塑性加工中に割れが生じた。このため、残留抵抗比(RRR)及び組織観察を実施しなかった。
【0056】
これに対して、本発明例1−18においては、広い温度範囲で熱処理した場合でも、残留抵抗比(RRR)が250以上となっており、超伝導安定材として特に適していることが確認された。
また、
図5に示すように、Caを添加した場合には、NaCl型の結晶構造を有するCaSを含む化合物が観察された。
さらに、
図6に示すように、Laを添加した場合には、Ce
2SO
2型の結晶構造を有するLa
2SO
2を含む化合物が観察された。
以上のことから、本発明によれば、製造プロセスが比較的簡単で廉価で製造でき、残留抵抗比(RRR)が十分に高い超伝導安定化材を提供できることが確認された。