(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6299836
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】ころ軸受用溶接保持器
(51)【国際特許分類】
F16C 33/48 20060101AFI20180319BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20180319BHJP
F16C 33/46 20060101ALN20180319BHJP
【FI】
F16C33/48
F16C19/26
!F16C33/46
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-199622(P2016-199622)
(22)【出願日】2016年10月11日
(62)【分割の表示】特願2015-175325(P2015-175325)の分割
【原出願日】2011年6月24日
(65)【公開番号】特開2017-9123(P2017-9123A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2016年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】小谷 一之
【審査官】
日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−007435(JP,A)
【文献】
特開2015−227730(JP,A)
【文献】
特開2002−001557(JP,A)
【文献】
特開2006−064043(JP,A)
【文献】
特開2008−101637(JP,A)
【文献】
特開2009−270655(JP,A)
【文献】
実開昭51−013454(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56,33/30−33/66
B23K 26/00−26/70
B23K 9/00,9/007−9/013,
9/04,9/14−10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状をなし円周方向に複数のころ収納用のポケット孔を備えた帯状鋼板からなり、前記ポケット孔は円周方向両側で隣り合う一対の柱部と前記ポケット孔の軸方向両側で対向する一対の耳部とが囲む空間により構成され、前記帯状鋼板の円周方向の両端部を、前記一対の耳部に設け、前記一対の耳部でかつ前記帯状鋼板の円周方向の両端部に突合せ溶接部を設けたころ軸受用溶接保持器であって、
前記一対の耳部は前記突合せ溶接部を含む円周方向両側にかけて前記ポケット孔よりも凹んだ第1凹み部を有し、
前記一対の耳部は前記突合せ溶接部を含む円周方向両側にかけて軸方向外側端面よりも凹んだ第2凹み部を有し、
前記一対の耳部の第1凹み部側の側面は、径方向の外方側から見て前記突合せ溶接部に対する円周方向の一方側から前記突合せ溶接部に対する円周方向の他方側にかけて直線であり、前記第1凹み部の円周方向両端には、前記第1凹み部から前記ポケット孔に近づくにしたがって互いに離れる向きに傾斜する一対の第1段部が形成されており、
前記一対の耳部の第2凹み部側の側面は、径方向の外方側から見て前記突合せ溶接部に対する円周方向の一方側から前記突合せ溶接部に対する円周方向の他方側にかけて直線であり、前記第2凹み部の円周方向両端には、前記第2凹み部から前記軸方向外側端面に近づくにしたがって互いに離れる向きに傾斜する一対の第2段部が形成されており、
前記第1凹み部と前記第2凹み部とに溶接ビードを設け、前記第1段部および前記第2段部に前記溶接ビードがかからないようにしたことを特徴とするころ軸受用溶接保持器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針状ころ軸受用溶接保持器などのころ軸受用溶接保持器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の溶接保持器は、例えば
図4に示すものがある(特許文献1)。100は帯状鋼板、101はポケット孔、102はポケット孔101の円周方向両側の柱部、106、107はポケット孔101の軸方向両側の耳部、108、109は溶接部、110、111は溶接ビードである。
【0003】
この溶接保持器は、幅が一定で所定の長さに切断した帯状鋼板100を環状に丸めて作られる。溶接保持器は、周方向に複数の転動体収納用のポケット孔101を有し、複数のポケット孔101のうち、一つのポケット孔101を構成する軸方向両側の耳部106、107の中央側を帯状鋼板100の両端部とし、この両端部を突合せ溶接し、これによって溶接部108、109が形成されている。
【0004】
このような溶接部108、109においては、耳部106、107の軸方向両側の外側面および内側面から溶接ビード110、111が突き出ている。ポケット孔101内に溶接ビード111が突出すると、この溶接ビード111がころの収納を阻害したり、回転中のころに接触してころの円滑な回転を阻害する可能性がある。
【0005】
溶接ビード111がポケット孔101へ突出しないように、
図5(特許文献2)に示すように三角形状の開先120、121を設け、この開先120、121内に溶接ビード110、111を収納させたものがある。
【0006】
このものは、溶接ビード111がころに接触しない反面、保持器を円周方向に分断させようとする力が、開先120、121に集中し、溶接部108、109で保持器が分断される可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4525247号
【特許文献2】特開2006−64043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、溶接ビードがころの収納を阻害しないようにするとともに、回転中のころに接触しないようにする。さらに、保持器を分断させる力が、溶接ビードに集中しないようにして、保持器の分断を防ぐ。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、環状をなし円周方向に複数のころ収納用のポケット孔を備えた帯状鋼板からなり、前記ポケット孔は円周方向両側で隣り合う一対の柱部と前記ポケット孔の軸方向両側で対向する一対の耳部とが囲む空間により構成され、前記帯状鋼板の円周方向の両端部を、前記一対の耳部に設け、前記一対の耳部でかつ前記帯状鋼板の円周方向の両端部に突合せ溶接部を設けたころ軸受用溶接保持器であって、前記一対の耳部は前記突合せ溶接部を含む円周方向両側にかけて前記ポケット孔よりも凹んだ第1凹み部を有し、前記一対の耳部は前記突合せ溶接部を含む円周方向両側にかけて軸方向外側端面よりも凹んだ第2凹み部を有し、前記一対の耳部の第1凹み部側の側面は、径方向の外方側から見て前記突合せ溶接部に対する円周方向の一方側から前記突合せ溶接部に対する円周方向の他方側にかけて直線であり、
前記第1凹み部の円周方向両端には、前記第1凹み部から前記ポケット孔に近づくにしたがって互いに離れる向きに傾斜する一対の第1段部が形成されており、前記一対の耳部の第2凹み部側の側面は、径方向の外方側から見て前記突合せ溶接部に対する円周方向の一方側から前記突合せ溶接部に対する円周方向の他方側にかけて直線であり、
前記第2凹み部の円周方向両端には、前記第2凹み部から前記軸方向外側端面に近づくにしたがって互いに離れる向きに傾斜する一対の第2段部が形成されており、前記第1凹み部と前記第2凹み部とに溶接ビードを設け、前記
第1段部および前記
第2段部に前記溶接ビードがかからないようにしたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポケット孔よりも凹んだ第1凹み部に溶接ビードを設けたので、溶接ビードがころの収納を阻害しないとともに、回転中のころに接触しない。さらに、突合せ溶接部を含む円周方向両側にかけて第1凹み部および第2凹み部が形成され、第1凹み部および第2凹み部の円周方向両側の段部に溶接ビードがかからないので、保持器を分断させる力が、溶接ビードに集中せず、保持器の分断を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態におけるころ軸受用溶接保持器の斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態におけるころ軸受用溶接保持器の展開平面図である。
【
図3】本発明の実施形態におけるころ軸受用溶接保持器の
図1のA矢視図である。
【
図4】従来のころ軸受用溶接保持器の展開平面図である。
【
図5】従来の他例としてのころ軸受用溶接保持器の展開平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について、
図1ないし
図3を参酌しつつ説明する。
図1はころ軸受用溶接保持器の斜視図であり、
図2はころ軸受用溶接保持器の展開平面図であり、
図3は
図1のA矢視図である。
【0013】
図1および
図2において、10はころ軸受用溶接保持器全体を示す。11は帯状鋼板、20はポケット孔、21はポケット孔20の円周方向両側の柱部、22、23はポケット孔20の軸方向両側の耳部、24、25は溶接部である。
【0014】
溶接保持器10は、円周方向に複数のポケット孔20を有する一枚の帯状鋼板11を環状に丸めその円周方向の両端部を突合せ溶接して構成されている。各ポケット孔20は、円周方向両側の柱部21によって円周方向に仕切られている。複数のポケット孔20のうち、一つのポケット孔20を形成する耳部22、23に帯状鋼板11の両端部の突合せ溶接部24、25が位置する。
【0015】
ポケット孔20は、円周方向両側の柱部21と軸方向両側の耳部22、23とで囲まれた平面視矩形形状(
図2)をなしている。柱部21は円周方向に一定幅で軸方向に延びる部分であり、耳部22、23は軸方向に一定幅で円周方向に延びる部分である。
【0016】
溶接保持器10は、幅が一定で所定長さに切断した帯状鋼板11を円周方向に環状に丸めて作られ、円周方向の両端部が突合せ溶接されるものであり、その両端部が突合せ溶接されて溶接部24、25が形成される。これら溶接部24、25は、円周方向に複数ある耳部22、23のうち、一つの耳部22、23の円周方向の中間に設けられている。溶接部24、25は、帯状鋼板11の板厚分だけ、しかも耳部22、23と同じ幅分だけ、帯状鋼板11を溶かした部分である。溶接部24、25を有する耳部22、23の両側面には、溶接部24、25を含む円周方向両側にかけて凹み部30、31が形成されている。この凹み部30、31は、帯状鋼板11の板厚方向に貫通しており、溶接保持器10の軸方向に凹んでいる。凹み部30、31を挟んで円周方向両側には案内面40が形成され、この案内面40によってころが回転可能に保持される。案内面40は、柱部21とともにポケット孔20を構成する部分である。凹み部30、31の円周方向両側には、傾斜した段部41、42を有し、この段部41、42に後述する溶接ビード32、33がかからないように、凹み部30、31は、溶接ビード32、33の幅の3倍程度の幅を有する。
【0017】
各溶接部24、25の溶接保持器10の軸方向両側には、突合せ溶接したときにはみ出た溶接ビード32、33が形成されている。溶接ビード32、33は、各溶接部24、25の両側面を塞ぐような形で設けられる。すなわち、溶接ビード32、33は、各溶接部24、25の円周方向の幅より大きめの幅でもって帯状鋼板11の板厚方向に貫通して設けられている(
図3)。溶接ビード32、33は、断面半円形状の肉盛であり、溶接保持器10の軸方向において、凹み部30、31内に位置し、ポケット孔20内へ突出していない。よって、ポケット孔20に回転可能に保持されるころに対し、溶接ビード32、33が接触する可能性が無い。溶接ビード32、33がころの収納を阻害しないとともに、回転中のころに接触しない。
【0018】
凹み部30、31は、溶接ビード32、33を含む円周方向両側に渡って形成され、段部41、42に溶接ビード32、33がかかっていないので、溶接保持器10を円周方向に分断させようとする力が、溶接ビード32、33に集中しない。この結果、溶接保持器10の分断を防ぐことができる。
【0019】
次に溶接保持器10の製造方法を説明する。帯状鋼板11にプレス加工を施し溶接保持器10の展開平面を作る。帯状鋼板11の材料としては、例えば、成形性に優れたSPC帯状鋼材を用いることができる。
【0020】
溶接保持器10の展開平面を作るのに、プレス金型が使用され、プレス金型によって、複数のポケット20、凹み部30、31、円周方向の両端が同時に成形される。すなわち、材料の打ち抜きと材料の切断が同時に行われる。
【0021】
後に行われる突合せ溶接において、帯状鋼板11の両端部が溶け込むので、帯状鋼板11は、溶接前においては、その両端部に溶接しろを必要とする。そのため、帯状鋼板11は、実際の溶接保持器の円周方向長さよりも溶接しろ分だけ長く切断されている。帯状鋼板11は、その両端部が突合わされて溶接される結果、溶接後においては、帯状鋼板11の円周方向の長さは、その溶接部を含めて規定の円周方向長さとなる。
【0022】
溶接工程では、所定長さに切断した帯状鋼板11を環状に丸めるとともに、両端部を突合わせた状態にし、この突合わせた部分に高電流を流して溶接を行う。この溶接により両端部間が溶け込んで接続される。この溶接工程により溶けた材料は、帯状鋼板11の板厚方向および幅方向にはみ出す。幅方向にはみ出すことによって、溶接保持器10の軸方向両側面に溶接ビード32、33が形成される。この溶接ビード32、33は、溶接保持器10の円周方向の幅を持って、帯状鋼板11の板厚方向に貫通して形成される。しかも、断面半円形状の肉盛を有する。溶接ビード32、33は、溶接保持器10の軸方向において凹み部30、31内に位置し、ポケット孔20内へ突出していない。帯状鋼板11の板厚方向にはみ出た肉盛は、グラインダー等で除去される。溶接方法は、上記以外の公知の溶接方法でも実施することができる。
【0023】
本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0024】
上述した実施形態として、凹み部30、31は、円周方向にまっすぐな平面を有する。他の実施形態として、凹み部30、31は、円周方向に湾曲した曲面を有しても良い。この曲面は、溶接ビード32、33を中心に円周方向両側へ行くに従って、凹み深さが漸減する形でも良い。
【0025】
上述した溶接保持器10は、針状ころ軸受用溶接保持器に限らず、円筒ころ軸受用溶接保持器にも適用できる。
【符号の説明】
【0026】
10:溶接保持器、11:帯状鋼板、20:ポケット孔、21:柱部、22:耳部、23:耳部、24:溶接部、25:溶接部、30:凹み部、31:凹み部、32:溶接ビード、33:溶接ビード、41:段部、42:段部