特許第6299871号(P6299871)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6299871チタン酸リチウム系複合生成物の前駆体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6299871
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】チタン酸リチウム系複合生成物の前駆体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20180319BHJP
【FI】
   C01G23/00 B
【請求項の数】16
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2016-538429(P2016-538429)
(86)(22)【出願日】2015年7月30日
(86)【国際出願番号】JP2015071625
(87)【国際公開番号】WO2016017745
(87)【国際公開日】20160204
【審査請求日】2016年9月16日
(31)【優先権主張番号】特願2014-154597(P2014-154597)
(32)【優先日】2014年7月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】江▲崎▼ 亮太
(72)【発明者】
【氏名】西▲崎▼ 努
(72)【発明者】
【氏名】田村 哲也
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−024726(JP,A)
【文献】 特開2013−105646(JP,A)
【文献】 特開2012−184138(JP,A)
【文献】 特開2012−184137(JP,A)
【文献】 特開2013−073907(JP,A)
【文献】 特開2011−065982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00−23/08
H01M 4/36,4/485,10/0562
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸リチウムとチタン酸リチウムランタンとの複合生成物を焼成により形成するための、チタン酸リチウム系複合生成物の前駆体であって、
LiとTiとの複合塩と、La元素源の化合物とを含む固体状物質からなり、
前記チタン酸リチウムは、スピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウムであり、
前記チタン酸リチウムランタンは、ペロブスカイト型結晶構造を有するチタン酸リチウムランタンであり、
前記複合塩は、LiTi(a>0、b≧0、c>0、d>0、a+b+3c≦2d≦a+b+4c)で表されることを特徴とする前駆体。
【請求項2】
前記複合塩は、下記式で定義される複合塩化度(%)が30%以上であることを特徴とする請求項1に記載の前駆体。
複合塩化度(%)=(Liのモル当量−対アニオンのモル当量)×100/Liのモル当量
【請求項3】
前記固体状物質のX線回折図形において、前記複合塩の最も強度の大きい回折線の半値全幅が、0.25度以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の前駆体。
【請求項4】
前記固体状物質中のTi元素に対するLa元素のモル比であるLa/Tiが、0.0001<La/Ti<0.66であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の前駆体。
【請求項5】
前記固体状物質が含有するTi元素のモル数に対するLi元素のモル数とLa元素のモル数との和の比率である(Li+La)/Tiが、0.67<(Li+La)/Ti<1.1であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の前駆体。
【請求項6】
請求項1記載のチタン酸リチウム系複合生成物の前駆体を製造するための方法であり、
La元素源と、Ti元素源と、Li元素源と、溶媒と、を含む混合物をソルボサーマル処理法により加熱して固体状物質を形成する工程を含むことを特徴とする前駆体の製造方法。
【請求項7】
請求項1記載のチタン酸リチウム系複合生成物の前駆体を製造するための方法であり、
Laカチオン及びTiカチオンを含む水溶液と塩基性水溶液とを混合することにより、La元素の酸化物及び/又は水酸化物と、Ti元素の酸化物及び/又は水酸化物と、を含む沈殿物を得る同時沈殿処理工程と、
前記同時沈殿処理工程で得られた沈殿物、Li元素源、及び溶媒を含む混合物をソルボサーマル処理法により固体状物質を形成する工程と、
を含むことを特徴とする前駆体の製造方法。
【請求項8】
請求項1記載のチタン酸リチウム系複合生成物の前駆体を製造するための方法であり、
Ti元素源と、Li元素源と、溶媒と、を含む混合物をソルボサーマル処理法により、LiとTiとの複合塩を形成するソルボサーマル処理工程と、
前記複合塩にLa元素源を添加し、固体状物質を形成する工程と、
を含むことを特徴とする前駆体の製造方法。
【請求項9】
請求項1記載のチタン酸リチウム系複合生成物の前駆体を製造するための方法であり、
Ti元素源と、Li元素源と、溶媒と、を含む混合物をソルボサーマル処理法により、LiとTiとの複合塩を形成する第1のソルボサーマル処理工程と、
前記複合塩に、La元素源を添加して、ソルボサーマル処理法により固体状物質を形成する第2ソルボサーマル処理工程を行うことを特徴とする前駆体の製造方法。
【請求項10】
請求項1記載のチタン酸リチウム系複合生成物の前駆体を製造するための方法であり、
Laカチオン及びTiカチオンを含む水溶液と塩基性水溶液とを混合することにより、La元素の酸化物及び/又は水酸化物と、Ti元素の酸化物及び/又は水酸化物と、を含む沈殿物を得る同時沈殿処理工程と、
前記同時沈殿処理工程で得られた沈殿物、Li元素源、及び溶媒を含む混合物をソルボサーマル処理法により固体状物質を形成する第1ソルボサーマル工程と、
さらに酸を添加して、ソルボサーマル処理法により固体状物質を形成する第2ソルボサーマル処理工程と、
を含むことを特徴とする前駆体の製造方法。
【請求項11】
前記同時沈殿処理工程で用いる塩基性水溶液の塩基のモル当量が、前記水溶液中のLaカチオンとTiカチオンの対アニオン(但し、酸化物イオン及び水酸化物イオンを除く)のモル当量より多いことを特徴とする請求項又は10に記載の前駆体の製造方法。
【請求項12】
記水溶液のpHが7未満であり、前記同時沈殿処理工程で用いる塩基性水溶液のpHが8以上であることを特徴とする請求項又は10に記載の前駆体の製造方法。
【請求項13】
La元素源としてLa元素の単塩を用い、Ti元素源としてTi元素の単塩を用いることを特徴とする請求項に記載の前駆体の製造方法。
【請求項14】
請求項13のいずれか1項に記載の前駆体の製造方法にて前駆体を得る工程と、
前記前駆体を焼成する焼成工程と、を含むことを特徴とする複合生成物の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜のいずれか1項に記載の前駆体を焼成する焼成工程を含むことを特徴とする複合生成物の製造方法。
【請求項16】
前記焼成工程において、前記前駆体を1000℃以下で焼成することを特徴とする、請求項14又は15に記載の複合生成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸リチウム系複合生成物の前駆体及びその製造方法に関し、特に、リチウムイオン電池の負極に使用できるリチウム含有負極活物質とリチウム含有固体電解質を複合させた複合体(以下、「電極複合体」という)に有用なチタン酸リチウム系複合生成物を焼成により形成するための前駆体及びその製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は携帯電話やノートパソコン等の携帯機器、自動車や航空機等の輸送用機械、電力平準化用等の電力貯蔵装置に利用されており、いずれの用途でもエネルギー密度の向上が求められている。現在最もエネルギー密度の高い実用二次電池はリチウムイオン電池であり、安全性を保ちながら更なる高エネルギー密度化を試みる研究が進められている。その一環として、リチウムイオン電池の改良技術である全固体電池(電解液の代わりに固体電解質を用いる電池)の研究が行われている。
【0003】
全固体電池は、電池を構成する負極と電解質と正極がすべて固体であるため、負極層と固体電解質層と正極層を繰り返し積層することで、銅線などを用いずに直列構造を持つ電池を製造できるため、自動車用や電力貯蔵用に適していると考えられている。さらに、負極活物質と固体電解質と正極活物質がそれぞれ酸化物である全酸化物系全固体電池は、エネルギー密度向上に加えて、安全性と高温耐久性にも効果が期待できる。
【0004】
リチウムイオン電池の負極活物質の一種として、スピネル型結晶構造を持つ酸化物であるチタン酸リチウムLiTi12(LTOとも呼ばれる)が知られている(特許文献1)。LiTi12は充放電に伴う格子サイズの変化がほとんどないことから、黒鉛系炭素材料(リチウムイオン電池の負極として多用されているものの、充放電に伴い黒鉛層間がc軸方向に10%程度膨張収縮することが知られている)等と比較して、全固体電池の負極活物質として優れた性質を有すると考えられる。
【0005】
一方、全酸化物系の負極複合体を構成する固体電解質の候補としては、高いリチウムイオン伝導度を持つことから、ペロブスカイト型結晶構造を持つチタン酸リチウムランタンLi3xLa2/3−xTiO (0≦x≦1/6、LLTOとも呼ばれる)が注目されている(特許文献2)。
【0006】
リチウムイオン電池の電極は正極と負極との空隙に浸透している電解液がリチウムイオンの伝導経路として機能しているが、全固体電池は電解液を用いないため、電極は活物質と固体電解質を混合させた複合体にすることが好ましい(特許文献3、4)。
また、以下に示すように、負極活物質と固体電解質を混合させた複合体を形成するための複合化技術は全固体電池への応用のみならずリチウムイオン電池用電極の性能改善法としても研究されており、負極活物質の性能改善を目的としたドーピング法において、結果的に固体電解質が負極活物質に同伴している物質が得られたという報告もある。
【0007】
例えば、非特許文献1では、リチウム源に炭酸リチウム、ランタン源に硝酸ランタン六水和物、チタン源に二酸化チタンを用い、これらを湿式ボールミル混合した後に乾燥させて前駆体とし、これを850℃で焼成することでLiTi5−xLa12(0≦x≦0.2)の焼成体組成物を得る製法が開示されている。この方法では、LaはLTO相にドープされて固溶体を形成することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012−104280号公報
【特許文献2】特開2013−140762号公報
【特許文献3】特開2010−033877号公報
【特許文献4】特開2013−080637号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Journal of Power Sources 214(2012)220−226
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
電極複合体では、負極活物質粒子と固体電解質粒子とは低抵抗の界面で密着している必要があるが、非特許文献1に記載の方法では、焼成前の原料混合物を湿式ボールミルで混合して前駆体とし、850℃で焼成しているが、焼成時の質量減少が大きく、合成された固体電解質の均一性と緻密性が低下し、リチウムイオンと電子の伝導性が悪化するという問題があった。
【0011】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、1000℃以下での焼成で、焼成中の質量減少を防ぎながら、固体電解質と負極活物質が複合化した電極複合体に有用な複合生成物を得ることができる前駆体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討の結果、Li元素とTi元素との複合塩とLa元素源の化合物とを含む前駆体を1000℃以下の低温で焼成することで、質量減少を抑えながらLLTO相とLTO相が複合化した複合生成物(本明細書中で「チタン酸リチウム系複合生成物」又は単に「複合生成物」ということがある)を得ることができること、このチタン酸リチウム系複合生成物は、固体電解質であるLLTO相と負極活物質であるLTO相が複合化したリチウム二次電池用の電極複合体として有用であることを見出し、本発明を完成させるに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0013】
(1)チタン酸リチウムとチタン酸リチウムランタンとの複合生成物を焼成により形成するための、チタン酸リチウム系複合生成物の前駆体であって、LiとTiとの複合塩と、La元素源の化合物とを含む固体状物質からなることを特徴とする前駆体。
(2)前記複合塩は、LiTi(a>0、b≧0、c>0、d>0、a+b+3c≦2d≦a+b+4c)で表されることを特徴とする(1)に記載の前駆体。
(3)前記固体状物質は、ソルボサーマル法で得られたものであることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の前駆体。
(4)前記複合塩は、下記式で定義される複合塩化度(%)が30%以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の前駆体。
複合塩化度(%)=(Liのモル当量−対アニオンのモル当量)×100/Liのモル当量
(5)前記固体状物質のX線回折図形において、前記複合塩の最も強度の大きい回折線の半値全幅が、0.25度以上であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の前駆体。
(6)前記固体状物質中のTi元素に対するLa元素のモル比であるLa/Tiが、0.0001<La/Ti<0.66であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の前駆体。
(7)前記固体状物質が含有するTi元素のモル数に対するLi元素のモル数とLa元素のモル数との和の比率である(Li+La)/Tiが、0.67<(Li+La)/Ti<1.1であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の前駆体。
(8)(1)記載のチタン酸リチウム系複合生成物の前駆体を製造するための方法であり、
La元素源と、Ti元素源と、Li元素源と、溶媒と、を含む混合物をソルボサーマル処理法により加熱して固体状物質を形成する工程を含むことを特徴とする前駆体の製造方法。
(9)(1)記載のチタン酸リチウム系複合生成物の前駆体を製造するための方法であり、
Laカチオン及びTiカチオンを含む水溶液と塩基性水溶液とを混合することにより、La元素の酸化物及び/又は水酸化物と、Ti元素の酸化物及び/又は水酸化物と、を含む沈殿物を得る同時沈殿処理工程と、前記同時沈殿処理工程で得られた沈殿物、Li元素源、及び溶媒を含む混合物をソルボサーマル処理法により固体状物質を形成する工程と、を含むことを特徴とする前駆体の製造方法。
(10)(1)記載のチタン酸リチウム系複合生成物の前駆体を製造するための方法であり、
Ti元素源と、Li元素源と、溶媒と、を含む混合物をソルボサーマル処理法により、LiとTiとの複合塩を形成するソルボサーマル処理工程と、前記複合塩にLa元素源を添加し、固体状物質を形成する工程と、を含むことを特徴とする前駆体の製造方法。
(11)(1)記載のチタン酸リチウム系複合生成物の前駆体を製造するための方法であり、
Ti元素源と、Li元素源と、溶媒と、を含む混合物をソルボサーマル処理法により、LiとTiとの複合塩を形成する第1のソルボサーマル処理工程と、前記複合塩に、La元素源を添加して、ソルボサーマル処理法により固体状物質を形成する第2ソルボサーマル処理工程を行うことを特徴とする前駆体の製造方法。
(12)(1)記載のチタン酸リチウム系複合生成物の前駆体を製造するための方法であり、Laカチオン及びTiカチオンを含む水溶液と塩基性水溶液とを混合することにより、La元素の酸化物及び/又は水酸化物と、Ti元素の酸化物及び/又は水酸化物と、を含む沈殿物を得る同時沈殿処理工程と、前記同時沈殿処理工程で得られた沈殿物、Li元素源、及び溶媒を含む混合物をソルボサーマル処理法により固体状物質を形成する第1ソルボサーマル工程と、さらに酸を添加して、ソルボサーマル処理法により固体状物質を形成する第2ソルボサーマル処理工程と、を含むことを特徴とする前駆体の製造方法。
(13)前記同時沈殿処理工程で用いる塩基性水溶液の塩基のモル当量が、前記水溶液調製工程で得た水溶液中のLaカチオンとTiカチオンの対アニオン(但し、酸化物イオン及び水酸化物イオンを除く)のモル当量より多いことを特徴とする(9)又は(12)に記載の前駆体の製造方法。
(14)前記水溶液調製工程で得た水溶液のpHが7未満であり、前記同時沈殿処理工程で用いる塩基性水溶液のpHが8以上であることを特徴とする(9)又は(12)に記載の前駆体の製造方法。
(15)La元素源としてLa元素の単塩を用い、Ti元素源としてTi元素の単塩を用いることを特徴とする(8)に記載の前駆体の製造方法。
(16)(8)〜(15)のいずれか1項に記載の前駆体の製造方法にて前駆体を得る工程と、前記前駆体を焼成する焼成工程と、を含むことを特徴とする複合生成物の製造方法。
(17)(1)〜(7)のいずれか1項に記載の前駆体を焼成する焼成工程を含むことを特徴とする複合生成物の製造方法。
(18)前記焼成工程において、前記前駆体を1000℃以下で焼成することを特徴とする、(16)又は(17)に記載の複合生成物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、1000℃以下での焼成で、焼成中の質量減少を防ぎながら、固体電解質と負極活物質が複合化した電極複合体に有用な複合生成物を得ることができる前駆体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1に係る沈殿体と、実施例1−1〜1−3に係る前駆体の粉末X線回折図形。
図2】実施例1−1〜1−3に係るチタン酸リチウム系複合生成物の粉末X線回折図形。
図3】実施例2−1〜2−2に係る前駆体の粉末X線回折図形。
図4】実施例2−1〜2−2に係るチタン酸リチウム系複合生成物の粉末X線回折図形。
図5】実施例4、5に係る前駆体の粉末X線回折図形。
図6】実施例4、5に係るチタン酸リチウム系複合生成物の粉末X線回折図形。
図7】実施例1−1における、チタン酸リチウム系複合生成物の製造方法のフローチャート。
図8】実施例4における、チタン酸リチウム系複合生成物の製造方法のフローチャート。
図9】実施例5−1、5−2における、チタン酸リチウム系複合生成物の製造方法のフローチャート。
図10】実施例6に係るチタン酸リチウム系複合生成物の製造方法のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のチタン酸リチウム系複合生成物の前駆体の製造方法や前駆体について詳細に説明する。
【0017】
<前駆体>
本発明に係る前駆体は、リチウム二次電池用の負極活物質及び固体電解質を含む電極複合体として用いられるチタン酸リチウムとチタン酸リチウムランタンとの複合生成物を焼成により形成するための前駆体であって、LiとTiとの複合塩と、La元素源の化合物と、を含む。
【0018】
本発明に係るLiとTiとの複合塩は、LiTi(a>0、b≧0、c>0、d>0、a+b+3c≦2d≦a+b+4c)で表され、ソルボサーマル法で得られることが好ましい。また、本発明に係る前駆体は、特に1000℃以下で焼成することにより、チタン酸リチウムとチタン酸リチウムランタンとの複合生成物を得ることができる。この複合生成物は、リチウム含有負極活物質としてスピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウムと、リチウム含有固体電解質としてペロブスカイト型結晶構造を有するチタン酸リチウムランタンとが複合化した電極複合体(以降、「負極活物質−固体電解質複合体」、や「電極複合体」と記載する場合がある。)として用いることができる。なお、LLTO相を形成させるためのLa元素は、酸化物や水酸化物などの単塩の状態で、前駆体中に存在していればよい。
【0019】
結晶相の同定は粉末X線回折法を用いて行うことができる。回折線の標準パターンにはICDDデータベースを用いた。ICDDデータベースには定比化合物、不定比化合物の両者を含む多数のパターンが収められているが、前駆体に含有されている結晶相は結晶性が低く、不定比化合物の性質を示すこともあることを考慮して化合物の同定を行う必要がある。例えば、CuのKα線を用いた粉末X線回折法において、2θが11度付近にある回折線は(Li1.81,H0.19)Ti・2HO[ICDD番号00−047−0123]またはLi0.771.23(Ti)・2HO[ICDD番号00−040−0304]に比定できるが、不定比性があることを考慮すべきであり、ICDDカードにある組成と同一ではないことに注意が必要である。同様に、2θが43〜44度の付近にある回折線は(LiTiO1.333[ICDD番号01−075−0614]、LiTiO[ICDD番号00−016−0223]、またはLiTi12[ICDD番号00−049−0207]に比定できるが、結晶性が低いため回折角のシフトや複数の回折線の強度比の変化が起きていることを考慮する必要がある。しかし、いずれの場合でもこれらの回折線はLiTi(a>0、b≧0、c>0、d>0、a+b+3c≦2d≦a+b+4c)の一般式で表されるLiとTiとの複合塩である。なお、Tiカチオンは、4価であることが多いが、3価も比較的安定であり、複合塩に3価のチタンを含んでもよいため、a+b+3c≦2d≦a+b+4cと規定した。
【0020】
前駆体に含有されている結晶相は結晶性が低く、前駆体にCuのKα線を用いた粉末X線回折分析を行った際に、複合塩の回折線のうち最も強度が大きいものの半値全幅は、0.25度以上であることが好ましく、0.8度以上であることがより好ましい。ここでの半値全幅は、ピーク高さの半分の位置でのピーク幅を意味するFWHMである。なお、本発明における複合塩の回折線のうち最も強度が大きいものの半値全幅は常識的には2度以下である。
なお、回折線幅は以下のシェラーの式で結晶子の大きさと対応関係があるとされている。
τ=Kλ/βcosθ
ここで、τは結晶子の大きさ、Kは形状因子で一般に約0.9とされる値、λは回折測定に用いるX線の波長で、CuのKα線では0.154nm、θは回折のブラッグ角、βは回折線幅で一般に半値全幅(FWHM、単位をラジアンに変換して式に代入する)である。
【0021】
また、LiTiで表されるLiとTiとの複合塩は、LiカチオンがTiカチオンと化合物を形成しているため、焼成工程において、Li元素は脱離しにくく、揮発成分が少なく、質量減少が少ない。一方で、従来のミリング処理などのようにリチウムの単塩とチタンの単塩を物理的に混合した場合は、焼成工程において、単塩の状態のリチウムが脱離しやすく、リチウムの単塩の対アニオンである炭酸イオンや水酸化物イオンは揮発する成分が多いため、質量減少が大きくなる。
【0022】
また、本発明に係る前駆体に含まれる複合塩は、前駆体中の全Li量のうち、LiTi(a>0、b≧0、c>0、d>0、a+b+3c≦2d≦a+b+4c)として存在するLi量を「複合塩化度(%)」とすると、この複合塩化度は30%以上であることが好ましい。
複合塩化度が低すぎる場合、単塩の状態で存在するLi元素が多すぎるため、焼成工程において気体として脱離する成分が多く、焼成中の質量減少が大きくなり、焼成後に緻密な電極複合体が得られ難い。また、複合塩化度は、高ければ高いほど単塩の状態のLi元素を少なくでき、焼成中の質量減少を小さくできるため、100%でも問題ない。
【0023】
前駆体の複合塩化度は以下の式から算出する。
複合塩化度(%)=(Liのモル当量−対アニオンのモル当量)×100/Liのモル当量
ここで、対アニオンとは、複合塩化されていないLiイオンの対になるアニオンであり、リチウム原料にハロゲン化リチウムを用いた場合はハロゲン化物イオン、炭酸塩を用いた場合は炭酸イオン、水酸化リチウムを用いた場合は水酸化物イオン、酸化リチウムを用いた場合は酸化物イオンである。
ハロゲン化物イオン、炭酸イオンの量は元素分析でハロゲンまたは炭素の量を定量することで測定できる。Li源に水酸化リチウム、水酸化リチウム一水和物、酸化リチウムを用いる場合は以下の2つの方法により定量することができる。
【0024】
1)前駆体を炭酸ガス流通下で100℃に加熱して反応させることで水酸化リチウム、水酸化リチウム一水和物、酸化リチウムを炭酸リチウムに変換し、変換後の試料のC量を元素分析することで炭酸リチウム量を算定する。ただし、複合塩化されたLiを含む試料を炭酸ガス流通下で100℃に加熱処理した場合、処理の前後の試料をX線回折法で分析した結果、複合塩化したLiの一部も炭酸ガスと反応して炭酸リチウムになっていることが分かっており、試料の真の複合塩化度は、測定値よりも大きいと考えられる。
【0025】
2)試料を1週間以上大気暴露することで酸化リチウムおよび酸化ランタンを水酸化リチウムおよび水酸化ランタンに変換し、変換後の試料のH量を元素分析することで水酸基量を定量し、金属分析で求めたランタン量から水酸化ランタン相当の水酸基量を差し引きすることで算定する。この方法では、水として含まれている水素を過剰に計算することになるため、試料の真の複合塩化度は、測定値よりも大きいと考えられる。
【0026】
また、本発明に係る前駆体の中のTi元素に対するLa元素の含有モル比率をLa/Tiと表記すると、La/Ti<0.66であることが好ましく、La/Ti<0.2であることがより好ましい。また、La/Ti>0.0001であることが好ましい。La/Ti≧0.67の場合は、目標混合組成のLTOとLLTOとを含む電極複合体が必要とする以上のLaが焼成後も残留するため、焼成によってLTOまたはLLTO以外のLa(OH)やLaやLaTiなどの不純物相が生成してしまう傾向がある。また、La/Tiが大きいほど全体に占めるLTO相の割合が少なくなり、容量が低下する。一方、La/Ti≦0.0001の場合はLLTO相が顕著に生成しない傾向があり、導電率向上の効果が十分に得られない。
【0027】
本発明に係る前駆体が含有するTi元素のモル数に対するLi元素のモル数とLa元素のモル数との和の比率を(Li+La)/Tiと表記すると、0.67<(Li+La)/Ti<1.1であることが好ましく、0.7<(Li+La)/Ti<0.95であることがより好ましい。(Li+La)/Tiが適切な範囲よりも大きいと焼成後にLiTiOのような不純物相が形成されやすく、(Li+La)/Tiが適切な範囲よりも小さいと焼成後にLaTi24のような不純物相が形成されやすい。
【0028】
本発明に係る前駆体は、低温での焼成工程により負極活物質であるLTOと固体電解質であるLLTOを生成することができる。
【0029】
本発明に係る前駆体は、Li元素とTi元素との複合塩を含み、この複合塩内のLi元素は焼成工程においても脱離しにくいため、焼成後の電極複合体の組成を均一にすることができる。また、複合塩中のチタン酸は炭酸イオンや水酸化物イオンよりも加熱により揮散する成分が少ないため、焼成工程において質量減少が生じにくく、緻密な電極複合体を得ることができる。
【0030】
<前駆体の製造方法>
本発明では、前駆体の製造方法として、以下の第1〜第4の製造方法を例示する。
Li元素とTi元素との複合塩を得るため、本発明の前駆体の製造方法は、少なくとも、Ti元素源とLi元素源と溶媒とを含む混合物をソルボサーマル処理する必要がある。La元素源の化合物は、後述する第2の前駆体の製造方法のように、後から添加することができるが、La元素源とTi元素源とLi元素源と溶媒とを含む混合物をソルボサーマル処理法により加熱する工程を含む前駆体の製造方法を用いることもできる。この製造方法は、第1の前駆体の製造方法、第2の前駆体の製造方法の変形例、第3の前駆体の製造方法、第4の前駆体の製造方法の上位概念に対応する。このようなソルボサーマル処理工程により、LiTi(a>0、b≧0、c>0、d>0、a+b+3c≦2d≦a+b+4c)で表されるLiとTiとの複合塩と、La元素源の化合物と、を含む固体状物質からなる前駆体が得られる。
【0031】
<第1の前駆体の製造方法>
本発明に係る前駆体を製造するための方法として、Laカチオン及びTiカチオンを含む水溶液を調製する水溶液調製工程と、前記水溶液調製工程で得た水溶液と塩基性水溶液とを混合することにより、La元素の酸化物及び/又は水酸化物と、Ti元素の酸化物及び/又は水酸化物と、を含む沈殿物を得る同時沈殿処理工程と、前記同時沈殿処理工程で得られた沈殿物、Li元素源の化合物、及び溶媒を含む混合物をソルボサーマル処理法により固体状物質を形成する工程と、
を含むことを特徴とする前駆体の製造方法が挙げられる。
【0032】
[水溶液調製工程]
水溶液調製工程では、Laカチオン及びTiカチオンを含む水溶液を調製する。Laカチオンとしては、La3+が挙げられ、TiカチオンとしてはTi4+が挙げられる。Laカチオン及びTiカチオンのそれぞれは、水、アンモニア、酸化物イオン、水酸化物イオンや後述の対アニオンなどを配位子として、錯体を形成していてもよい。Laカチオン及びTiカチオンの対アニオンとしては、酸化物イオン及び水酸化物イオン以外に、たとえば、塩化物イオンなどの塩素含有アニオンや、硝酸アニオンなどが挙げられる。上記の対アニオンは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0033】
上記水溶液は、例えば、溶解によりLaカチオンを生成するランタン化合物と、溶解によりTiカチオンを生成するチタン化合物とを、水や酸性の水溶液に溶解させることにより調製される。これらのランタン化合物、チタン化合物としては、例えば塩化物、オキシ塩化物、水酸化物、酸化物、硝酸塩が挙げられ、入手が容易である点や安価である点から、塩化物又はオキシ塩化物が好ましい。また、溶解が容易である点からは硝酸塩が好ましい。上記のランタン化合物及びチタン化合物の形態としては特に限定されず、例えば、粉末などの固体、水溶液などが挙げられる。上記のランタン化合物及びチタン化合物の各々は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0034】
水溶液調製工程で調製した水溶液は、pHが7未満、すなわち、酸性であることが好ましい。Laカチオンは強酸性から弱酸性までの領域で高い水溶液を示すが、Tiカチオンは強酸性領域のみで高い水溶性を示す。よって、水溶液調製工程で調製される水溶液は、安定性の観点から、強酸性(例えば、pH3以下)であることが好ましい。
【0035】
[同時沈殿処理工程]
同時沈殿処理工程では、水溶液調製工程で得た水溶液と塩基性水溶液とを混合することにより、ランタンの酸化物及び/又は水酸化物と、チタンの酸化物及び/又は水酸化物と、を含む沈殿物を得る。水溶液調製工程で得た水溶液と塩基性水溶液とを混合する方法としては、特に限定されず、例えば、水溶液調製工程で得た水溶液を塩基性水溶液に滴下又は噴霧する方法が挙げられる。
【0036】
塩基性水溶液のpHは、沈殿速度の観点から、8以上であることが好ましい。塩基性水溶液としては、特に限定されず、例えば、アンモニア水、水酸化リチウム水溶液が挙げられる。入手が容易である点や安価である点からは、アンモニア水が好ましい。また、固体電解質へのコンタミネーションを防ぐ観点からは、アルカリカチオンがリチウムイオン、即ち、固体電解質を構成するカチオンである水酸化リチウム水溶液が好ましい。
【0037】
同時沈殿処理工程で用いる塩基性水溶液の塩基のモル当量は、水溶液調製工程で得た水溶液中のLaカチオン及びTiカチオンの対アニオン(但し、酸化物イオン及び水酸化物イオンを除く)のモル当量と比較して、より多いことが好ましく、大過剰(例えば、2倍程度以上)であることがより好ましい。塩基性水溶液の塩基のモル当量が上記対アニオンのモル当量より多いと、水溶液調製工程で得た水溶液と塩基性水溶液とを混合した後でも、混合溶液の塩基性を十分に維持しやすい。
【0038】
同時沈殿処理工程で得た沈殿物は、適宜、分離及び洗浄される。分離方法としては、特に限定されず、例えば、遠心分離、デカンテーション、ろ過が挙げられる。また、洗浄に用いられる溶媒としては、特に限定されず、入手が容易である点や安価である点から、水が好ましく例示できる。
【0039】
本発明に係る水溶液調製工程では、ゾルゲル法で使用する高価なアルコキシドではなく、塩化物などの安価な原料を使用できる。また、同時沈殿処理工程で得た沈殿物は、ゾルゲル法で発生する、焼成時の有機配位子の脱離等に伴う大きな質量減少を防ぐことができる。
【0040】
[ソルボサーマル処理工程]
ソルボサーマル処理工程では、同時沈殿処理工程で得た沈殿物などのLaカチオン及びTiカチオンを含む固形物又は溶液と、リチウム元素源の化合物と、溶媒とを混合して、大気圧よりも高い圧力の下で加熱し、LiTi(a>0、b≧0、c>0、d>0、a+b+3c≦2d≦a+b+4c)で表される、LiとTiとの複合塩と、La元素源の化合物と、を含む固体状物質からなる前駆体を得る。
【0041】
リチウム元素源の化合物としては、特に限定されず、例えば、炭酸リチウム、塩化リチウム、フッ化リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、これらの水和物が挙げられる。これらのリチウム化合物を単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、リチウム化合物の形態は、例えば、粉末等の固体であっても、水溶液であってもよく、特に限定されない。
【0042】
ソルボサーマル処理工程を行う前の混合物中のTi元素に対するLa元素の含有比率が、0.0001<La/Ti<0.66であることが好ましい。混合物中のLa/Tiの比が所定の範囲内であれば、得られる前駆体中のLa/Tiの割合が目標の範囲となる。
【0043】
本発明では、ソルボサーマル処理として、溶媒として水を使用する水熱処理を主に行う。水熱処理とは、高温高圧の熱水の存在下で行われる化合物合成法又は結晶成長法をいい、常温常圧の水溶液中では起こらない化学反応が進行する場合がある。本発明では、Laカチオン及びTiカチオンを含む固形物又は溶液に対して、リチウム元素を含有する水溶液を加え、高温高圧処理を行うことで、常温常圧では水溶性であるリチウム元素をチタン元素と複合塩化して複合塩中に取り込ませることができ、この複合塩を溶媒から分離することで前駆体が得られる。なお、水熱処理では溶媒として水を用いるが、水以外の溶媒(例えば、有機溶媒等)を用いる方法(ソルボサーマル法)でも同様の効果が期待できる。
【0044】
本発明の水熱処理においては、大気圧よりも高く8.7MPaよりも低い絶対圧、温度は60〜300℃の環境下で、より好ましくは、絶対圧は0.15〜4.0MPa、温度は60〜250℃の環境下で、1〜100時間程度加熱することが好ましい。圧力と温度が低すぎると反応が進行せず、圧力と温度が高すぎると、不純物が生じやすくなる上に、高度な耐圧容器が必要となり、製造コストの上昇を招く。また、反応時間が長すぎると、生産性が低下する。
【0045】
なお、得られた前駆体を一旦分散媒に分散させ、噴霧乾燥や造粒等に供してもよい。また、焼成を行う前に、塗布等の方法で、前駆体からなる塗膜を形成させてもよい。更に、水溶液調製工程から前駆体作製工程までの間、又は、製造された前駆体を焼成する前に、焼結助剤等の、固体電解質の特性を向上する化合物を前駆体やその原料中に添加してもよい。
【0046】
<第2の前駆体の製造方法>
本発明に係る前駆体を製造するための方法として、Ti元素源と、Li元素源と、溶媒と、を含む混合物をソルボサーマル処理法により、LiとTiとの複合塩を形成するソルボサーマル処理工程と、複合塩にLa元素源を添加し、固体状物質を形成する工程と、を含むことを特徴とする前駆体の製造方法が挙げられる。Ti元素源としては、Ti元素の酸化物及び/又は水酸化物を含む微粒子(固形物)を用いることができる。
【0047】
[Ti含有微粒子(固形物)の合成方法]
上記のTi元素の酸化物及び/又は水酸化物を含む微粒子(固形物)の合成法としては、四塩化チタニウムを気相酸化する方法、含水酸化チタンをまず水酸化ナトリウム、次いで塩酸で処理する方法、沈殿反応を利用する方法などがある。一例として、以下に沈殿反応を利用する方法を示す。
この方法では、Tiカチオンを含む水溶液と塩基性水溶液を混合することにより、Ti元素の酸化物及び/又は水酸化物を含む微粒子を合成する。
【0048】
[水溶液調製工程]
水溶液調製工程では、Tiカチオンを含む水溶液を調製する。TiカチオンとしてはTi4+が挙げられる。Tiカチオンは、水、アンモニア、酸化物イオン、水酸化物イオンや後述の対アニオンなどを配位子として、錯体を形成していてもよい。Tiカチオンの対アニオンとしては、酸化物イオン及び水酸化物イオン以外に、たとえば、塩化物イオンなどの塩素含有アニオンや、硝酸アニオン、硫酸アニオンなどが挙げられる。上記の対アニオンは、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0049】
上記水溶液は、例えば、溶解によりTiカチオンを生成するチタン化合物を、水や酸性の水溶液に溶解させることにより調製される。チタン化合物としては、例えば塩化物、オキシ塩化物、水酸化物、酸化物、硝酸塩、硫酸塩が挙げられ、入手が容易である点や安価である点から、塩化物又はオキシ塩化物が好ましい。また、溶解が容易である点からは硝酸塩、硫酸塩が好ましい。上記のチタン化合物の形態としては特に限定されず、例えば、粉末などの固体、水溶液などが挙げられる。上記のチタン化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0050】
水溶液調製工程で調製した水溶液は、pHが7未満、すなわち、酸性であることが好ましい。Tiカチオンは強酸性領域のみで高い水溶性を示す。よって、水溶液調製工程で調製される水溶液は、安定性の観点から、強酸性(例えば、pH3以下)であることが好ましい。
【0051】
[沈殿処理工程]
沈殿処理工程では、水溶液調製工程で得たTiカチオンを含む水溶液と塩基性水溶液とを混合することにより、チタンの酸化物及び/又は水酸化物を含む沈殿物を得る。水溶液調製工程で得た水溶液と塩基性水溶液とを混合する方法としては、特に限定されず、例えば、水溶液調製工程で得た水溶液を塩基性水溶液に滴下又は噴霧する方法が挙げられる。
【0052】
塩基性水溶液のpHは、沈殿速度の観点から、8以上であることが好ましい。塩基性水溶液としては、特に限定されず、例えば、アンモニア水、水酸化リチウム水溶液が挙げられる。入手が容易である点や安価である点からは、アンモニア水が好ましい。また、固体電解質へのコンタミネーションを防ぐ観点からは、アルカリカチオンがリチウムイオン、即ち、固体電解質を構成するカチオンである水酸化リチウム水溶液が好ましい。
【0053】
沈殿処理工程で用いる塩基性水溶液の塩基のモル当量は、水溶液調製工程で得た水溶液中のTiカチオンの対アニオン(但し、酸化物イオン及び水酸化物イオンを除く)のモル当量と比較して、より多いことが好ましく、大過剰(例えば、2倍程度以上)であることがより好ましい。塩基性水溶液の塩基のモル当量が上記対アニオンのモル当量より多いと、水溶液調製工程で得た水溶液と塩基性水溶液とを混合した後でも、混合溶液の塩基性を十分に維持しやすい。
【0054】
沈殿処理工程で得た沈殿物は、適宜、分離及び洗浄される。分離方法としては、特に限定されず、例えば、遠心分離、デカンテーション、ろ過が挙げられる。また、洗浄に用いられる溶媒としては、特に限定されず、入手が容易である点や安価である点から、水が好ましく例示できる。
【0055】
本発明に係る水溶液調製工程では、ゾルゲル法で使用する高価なアルコキシドではなく、塩化物などの安価な原料を使用できる。また、沈殿処理工程で得た沈殿物は、ゾルゲル法で発生する、焼成時の有機配位子の脱離等に伴う大きな質量減少を防ぐことができる。
【0056】
[ソルボサーマル処理工程]
ソルボサーマル処理工程では、沈殿処理工程で得た沈殿物などのTiカチオンを含む固形物であるTi元素源と、リチウム元素源の化合物と、溶媒とを混合して、大気圧よりも高い圧力の下で加熱し、LiとTiとの複合塩を得る。
【0057】
リチウム元素源の化合物としては、特に限定されず、例えば、炭酸リチウム、塩化リチウム、フッ化リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、これらの水和物が挙げられる。これらのリチウム化合物を単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、リチウム化合物の形態は、例えば、粉末等の固体であっても、水溶液であってもよく、特に限定されない。
【0058】
本発明では、ソルボサーマル処理として、溶媒として水を使用する水熱処理を主に行う。水熱処理とは、高温高圧の熱水の存在下で行われる化合物合成法又は結晶成長法をいい、常温常圧の水溶液中では起こらない化学反応が進行する場合がある。本発明では、Ti元素源に対して、リチウム元素を含有する水溶液を加え、高温高圧処理を行うことで、常温常圧では水溶性であるリチウム元素をチタン元素と複合塩化して複合塩中に取り込ませることができる。なお、水熱処理では溶媒として水を用いるが、水以外の溶媒(例えば、有機溶媒等)を用いる方法(ソルボサーマル法)でも同様の効果が期待できる。
【0059】
本発明の水熱処理においては、大気圧よりも高く8.7MPaよりも低い絶対圧、温度は60〜300℃の環境下で、より好ましくは、絶対圧は0.15〜4.0MPa、温度は60〜250℃の環境下で、1〜100時間程度加熱することが好ましい。圧力と温度が低すぎると反応が進行せず、圧力と温度が高すぎると、不純物が生じやすくなる上に、高度な耐圧容器が必要となり、製造コストの上昇を招く。また、反応時間が長すぎると、生産性が低下する。
【0060】
[La元素源添加工程]
第2の前駆体の製造方法では、ソルボサーマル処理工程に続いてLa元素源の添加を行う。La元素源添加工程は、ソルボサーマル処理後の複合塩を溶媒から分離する前に行っても、溶媒から分離した後に行っても良い。La元素源の形態は、例えば、粉末等の固体であっても、水溶液であってもよく、特に限定されないが、複合塩を溶媒から分離する前に添加する場合は水や酸性の水溶液に溶解するランタン化合物を使用でき、これらのランタン化合物としては、例えば塩化物、オキシ塩化物、水酸化物、酸化物、硝酸塩が挙げられ、入手が容易である点や安価である点から、塩化物又はオキシ塩化物が好ましい。また、溶媒から分離した後に添加する場合のランタン化合物としては、例えば、酸化ランタンや水酸化ランタンなどが挙げられる。上記のランタン化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0061】
<第2の前駆体の製造方法の変形例>
また、複合塩にLa元素源を添加して固体状物質を形成する工程では、複合塩にLa元素源を単純に混合してもよいが、La元素源を添加したソルボサーマル処理法により固体状物質を形成することもできる。その場合、LiとTiとの複合塩を形成するソルボサーマル処理工程を第1ソルボサーマル処理工程とし、固体状物質を形成する工程を第2ソルボサーマル処理工程とする。
【0062】
また、第2のソルボサーマル処理工程を行う場合、第1ソルボサーマル処理工程を行う反応容器内におけるリチウムのチタンに対するモル比(Li/Ti)は、0.5以上3.5以下であることが好ましく、0.8以上3.0以下であることがより好ましく、1.0以上2.5以下であることが更に好ましい。チタン量に対して十分なリチウム量を供給することで、複合塩化されないTiカチオンを低減することができる。一方、過剰なリチウムは第2ソルボサーマル処理工程で酸により除去されることになるため、適切な範囲を超えるリチウムは製造コストの上昇を招く。
【0063】
[第2ソルボサーマル処理工程]
第2ソルボサーマル処理工程を行う場合は、第1ソルボサーマル処理工程で得たLiとTiとの複合塩にLa元素源を添加した後で、大気圧よりも高い圧力の下で加熱し、前駆体を得る。
【0064】
La元素源としては、水や酸性の水溶液に溶解するランタン化合物を使用でき、これらのランタン化合物としては、例えば塩化物、オキシ塩化物、水酸化物、酸化物、硝酸塩が挙げられ、入手が容易である点や安価である点から、塩化物又はオキシ塩化物が好ましい。また、溶解が容易である点からは硝酸塩が好ましい。上記のLa元素源の形態としては特に限定されず、例えば、粉末などの固体、水溶液などが挙げられる。上記のランタン化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0065】
第2ソルボサーマル処理工程は、La元素源と共に酸も添加した状態で実施しても良い。酸としては、無機酸も有機酸も使用することができ、塩酸、硝酸、硫酸、ギ酸、酢酸などを用いることができる。
【0066】
酸の添加量としては、酸のチタンに対するモル比(酸/Ti)のリチウムのチタンに対するモル比(Li/Ti)からの差が、0.1<[(Li/Ti)―(酸/Ti)]<1.5を満たすことが好ましく、0.3<[(Li/Ti)―(酸/Ti)]<1.1を満たすことが更に好ましい。また、酸の添加後の溶液のpHは8〜14であることが好ましい。酸の添加量を調整することで、第2ソルボサーマル処理後の固形物に含まれるリチウムの量を好ましい範囲に調整することができる。
【0067】
第2ソルボサーマル処理工程で使用できるソルボサーマル処理としては、第1ソルボサーマル処理工程で使用できるソルボサーマル処理と、同様の水熱処理方法を使用することができる。
【0068】
第2のソルボサーマル処理工程において酸を添加する第2の前駆体の製造方法の変形例では、第1のソルボサーマル工程においてチタン量に対して十分なリチウム量を供給するため、複合塩を形成していないTiカチオンの量を低減することができる。その結果、焼成後の不純物相を低減することができ、成型後に加熱する焼結を行う際には焼結密度を高くすることもできる。
【0069】
第1のソルボサーマル処理工程と第2のソルボサーマル処理工程を行う第2の前駆体の製造方法の変形例では、第1ソルボサーマル処理工程において、LTOの前駆体となるLi−Ti複合塩を形成した後、第2ソルボサーマル処理工程において、LLTOの前駆体となる固体状物質が形成されるため、焼成後のチタン酸リチウム複合生成物において、LTOの周囲をLLTOで被覆した構造を形成することが期待される。
【0070】
<第3の前駆体の製造方法>
本発明に係る前駆体を製造するための方法として、Laカチオン及びTiカチオンを含む水溶液を調製する水溶液調製工程と、前記水溶液調製工程で得た水溶液と塩基性水溶液とを混合することにより、La元素の酸化物及び/又は水酸化物と、Ti元素の酸化物及び/又は水酸化物と、を含む沈殿物を得る同時沈殿処理工程と、前記同時沈殿処理工程で得られた沈殿物、Li元素源の化合物、及び溶媒を含む混合物をソルボサーマル処理法により固体状物質を形成する第1ソルボサーマル処理工程と、さらに酸を添加して、ソルボサーマル処理法により固体状物質を形成する第2ソルボサーマル処理工程と、を含むことを特徴とする前駆体の製造方法が挙げられる。
【0071】
第3の前駆体の製造方法の水溶液調製工程と同時沈殿処理工程、第1ソルボサーマル処理工程は、第1の前駆体の製造方法の水溶液調製工程と同時沈殿処理工程、ソルボサーマル処理工程と同様の方法であるが、第1ソルボサーマル処理工程を行う反応容器内におけるリチウムのチタンに対するモル比(Li/Ti)は、0.5以上3.5以下であることが好ましく、0.8以上3.0以下であることがより好ましく、1.0以上2.5以下であることが更に好ましい。チタン量に対して十分なリチウム量を供給することで、複合塩化されないTiカチオンを低減することができる。一方、過剰なリチウムは第2ソルボサーマル処理工程で酸により除去されることになるため、適切な範囲を超えるリチウムは製造コストの上昇を招く。
【0072】
[第2ソルボサーマル処理工程]
第1ソルボサーマル処理工程において得られたLi−Ti複合塩とLa元素源とを含む固体状物質に対して、酸を添加し、大気圧より高い圧力の下で加熱し、前駆体を得る。
【0073】
酸としては、無機酸も有機酸も使用することができ、塩酸、硝酸、硫酸、ギ酸、酢酸などを用いることができる。
【0074】
酸の添加量としては、チタンに対するモル比(酸/Ti)のリチウムのチタンに対するモル比(Li/Ti)からの差が、0.1<[(Li/Ti)―(酸/Ti)]<1.5を満たすことが好ましく、0.3<[(Li/Ti)―(酸/Ti)]<1.1を満たすことが更に好ましい。また、酸の添加後の溶液のpHは8〜14であることが好ましい。酸の添加量を調整することで、第2ソルボサーマル処理後の固形物に含まれるリチウムの量を好ましい範囲に調整することができる。
【0075】
第2ソルボサーマル処理工程で使用できるソルボサーマル処理としては、第1ソルボサーマル処理工程で使用できるソルボサーマル処理と、同様の水熱処理方法を使用することができる。
【0076】
第3の前駆体の製造方法では、第1のソルボサーマル工程においてチタン量に対して十分なリチウム量を供給するため、複合塩を形成していないTiカチオンの量を低減することができる。その結果、焼成後の不純物相を低減することができ、成型後に加熱する焼結を行う際には焼結密度を高くすることもできる。
【0077】
<第4の前駆体の製造方法、単塩のソルボサーマル処理工程>
また、本発明に係る前駆体は、La元素の単塩と、Ti元素の単塩と、Li元素の単塩と、溶媒と、を含む混合物を大気圧よりも高い圧力の下で加熱するソルボサーマル処理工程によってもLiとTiとの複合塩を得ることができる。すなわち、La元素源としてLa元素の単塩を用い、Ti元素源としてTi元素の単塩を用いることができる。また、ソルボサーマル処理工程としては、同時沈殿法で得られた沈殿物に対するソルボサーマル処理と同様の方法で行うことができる。
【0078】
La元素の単塩としては、特に限定されないが、ランタンの酸化物及び/又は水酸化物が挙げられる。Ti元素の単塩としては、特に限定されないが、チタンの酸化物及び/又は水酸化物が挙げられる。Li元素の単塩としては、特に限定されないが、例えば、炭酸リチウム、塩化リチウム、フッ化リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、これらの水和物が挙げられる。
【0079】
また、Ti元素の単塩として、第2の前駆体の製法で用いたTi元素の酸化物及び/又は水酸化物を含む微粒子を使用できる。Ti元素の単塩の粒子の平均粒径は、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることが特に好ましい。Ti元素の単塩の粒子が大きすぎると、ソルボサーマル処理時にLiとTiとの複合塩化が進行しにくいためである。
【0080】
[乾燥工程]
その後、ソルボサーマル処理工程で得られた前駆体を乾燥しても良い。乾燥工程の条件としては、例えば60〜250℃、1〜10時間が挙げられる。
【0081】
<複合生成物の製造方法>
[焼成工程]
本発明に係る複合生成物の製造方法は、本発明に係る前駆体を焼成する焼成工程を含むものである。この製造方法により、負極活物質として用いることができるスピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム(LTO(LiTi12))と、固体電解質として用いることができるペロブスカイト型結晶構造を有するチタン酸リチウムランタン(例えば、LLTO(Li3xLa2/3−xTiO))とが複合化した複合生成物を合成することができる。この複合生成物は、リチウムイオン二次電池用の電極複合体として用いることができる。前駆体を焼成した際の質量変化率が10%以下であることが好ましい。
【0082】
焼成工程では前駆体からの結晶相の変化及び/又は結晶性の向上が起こる。結晶相の変化及び/又は結晶性の向上は粉末X線回折法によって確認できる。結晶相の変化は回折パターンの変化として、結晶性の向上は回折線の幅の減少としてX線回折図形に反映される。例えば、(Li1.81,H0.19)Ti・2HO[ICDD番号00−047−0123]またはLi0.771.23(Ti)・2HO[ICDD番号00−040−0304]に比定できる回折パターンは焼成によって消失する。また、(LiTiO1.333[ICDD番号01−075−0614]、LiTiO[ICDD番号00−016−0223]、またはLiTi12[ICDD番号00−049−0207]に比定できる回折線のある、2θが43〜44度の付近には、焼成後にはLTO(LiTi12[ICDD番号00−049−0207])の(400)面の回折線が存在するが、焼成による結晶性の向上のため、2θが43〜44度の付近の焼成前後の回折線の半値全幅を比較すると、焼成後の方が小さい。
【0083】
焼成方法は特に限定されず、例えば、固相加熱焼成、噴霧乾燥、マイクロ波焼成等の公知の焼成方法を適用することができる。焼成温度は、好ましくは1000℃以下、より好ましくは600〜1000℃である。1000℃以下の低温焼成では、1000℃を超える高温焼成の場合と異なり、LTOとLLTOとの界面に高抵抗の層が生成しにくく、低抵抗の電極複合体が得られやすい。なお、焼成中のLiの揮発を抑制し負極活物質の分解を抑制する観点と、焼成温度が低くしてエネルギー消費量を抑制する観点から、焼成温度は低いほど好ましく、900℃以下(例えば、600〜900℃)の温度がより好ましい。また、焼成時の雰囲気としては、空気雰囲気、窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気、真空下などが利用できる。
【0084】
[焼結工程]
また、焼成工程に代えて、前駆体を成型してから加熱する焼結工程を行っても良い。
【0085】
成型工程では、前駆体の粉末に圧力をかけて所定の形状に成型する。前駆体の粉末は、金型に入れられるか、シート状に成型される。シート状に成型する場合、例えば粉末を溶媒に分散させ、塗布し、溶媒を乾燥させ、ロールプレスなどを用いて圧力をかける方法が考えられる。成型圧力は、金型では例えば、100〜1000MPaの範囲とすることができる。シート状では例えば、線圧20〜2000N/mmの範囲とすることができる。シート状に成型する場合、成型工程で正極層やセパレータ(固体電解質)層、あるいはそれらの前駆体と共に積層構造を形成しても良い。
【0086】
成型体を、例えば、1000℃以下に加熱することで、焼結を行う。焼結温度は、上記焼成温度と同様に設定することができる。焼結工程における、成型後の加熱方法は特に限定されず、例えば、抵抗加熱、マイクロ波加熱などを適用することができる。また、成型工程と焼結工程を同時に行う、通電焼結、放電プラズマ焼結等の公知の焼結方法を適用することもできる。焼結時の雰囲気としては、空気雰囲気、窒素やアルゴンなどの不活性雰囲気、真空下などが利用できる。また、焼結時間は、焼結温度などに応じて適宜変更することができるが、現実的には1〜24時間程度が好ましい。冷却方法も特に限定されないが、通常は自然放冷(炉内放冷)又は徐冷とすればよい。
【実施例】
【0087】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例により限定されるものではない。
【0088】
各実施例に係る複合生成物及びその前駆体について、以下に示す方法により評価を行った。
(1)前駆体の複合塩化度
前駆体を炭酸ガス流通下で100℃に加熱して反応させることで水酸化リチウム、水酸化リチウム一水和物、酸化リチウムを炭酸リチウムに変換し、変換後の試料のC量を元素分析することで炭酸リチウム量を算定した。炭酸リチウム量より、複合塩化されていないLiイオンの対になる対アニオンのモル当量を求め、複合塩化度を算出した。ただし、複合塩化されたLiを含む試料を炭酸ガス流通下で100℃に加熱処理した場合、処理の前後の試料をX線回折法で分析した結果、複合塩化したLiの一部も炭酸ガスと反応して炭酸リチウムになっていることが分かっており、実施例の試料の真の複合塩化度は、本文中及び表に記載する測定値よりも大きいと考えられる。
【0089】
(2)前駆体中のTiに対するLi、Laの含有比率(Li:La:Ti)
ICP−AES法(誘導結合プラズマ発光分光分析法)による金属元素分析の測定結果から算出した。
(3)焼成時の質量変化率
焼成前の前駆体の質量と焼成後に得られた複合生成物の質量とを測定し、以下の式から質量変化率を算出した。
質量変化率(%)=(複合生成物質量−前駆体質量)×100/前駆体質量
なお、質量変化率の絶対値が小さいほど焼成時の質量減少が小さいため好ましく、10%以下を合格とした。
(4)前駆体及び複合生成物の結晶構造解析
CuのKα線を用いた粉末X線回折測定により、試料の結晶構造を同定した。
【0090】
[実施例1]
(1)前駆体の作製
(同時沈殿処理工程)
塩化ランタン7水和物を水に溶解させて得た溶液を四塩化チタン水溶液と混合し、La濃度0.20mmol/g、Ti濃度3.10mmol/g、Cl濃度8.67mmol/gの水溶液を調製した。この水溶液は透明であり、室温で放置しても沈殿を生成しなかった。この水溶液250gを28質量%アンモニア水550g中に噴霧すると沈殿が生成した。沈殿を分離し、水で洗浄し、200℃で乾燥し、機械的に解砕した。該沈殿について粉末X線回折測定を行ったところ、図1(実施例1沈殿体)に示すように、顕著な回折ピークは認められなかった。
【0091】
[実施例1−1]
(水熱合成処理)
上記沈殿9.82gを耐圧容器に入れ、4N水酸化リチウム水溶液19.95mL(水酸化リチウム79.8mmol相当)を加えた。上記耐圧容器を密封し、150℃に設定した恒温槽で5時間加熱して水熱処理を行った。放冷後、沈殿を分離し、200℃で乾燥させることで固体状の前駆体を得た。
ICP−AES法による金属元素分析の結果、前駆体中にはリチウムが5.0質量%、ランタンが8.6質量%、チタンが44.9質量%含まれていた(モル比はLi/Ti=0.77、La/Ti=0.066)。複合塩化度は56%であった。
また、得られた前駆体について粉末X線回折測定を行ったところ、図1(実施例1−1前駆体)に示すように、(Li1.81,H0.19)Ti・2HO[ICDD番号00−047−0123]と(LiTiO1.333[ICDD番号01−075−0614]に比定される回折線が検出され、LiTi(a>0、b≧0、c>0、d>0、a+b+3c≦2d≦a+b+4c)で表される複合塩が含まれていることがわかった。また、複合塩の最強の回折線は2θが43〜44度の付近にあり、この回折線の半値全幅は1.1度(結晶子の大きさは8nm相当)であった。
【0092】
(2)複合生成物の作製
(焼成)
前駆体を空気中で850℃で12時間焼成し、焼成体を得た。一連の作製条件を表1に示す。
焼成による質量変化率は―4.1%であった。金属元素分析の結果、リチウムが5.3質量%、ランタンが9.0質量%、チタンが47.0質量%含まれていた(モル比はLi/Ti=0.77、La/Ti=0.066)。
また、該焼成体について粉末X線回折測定を行ったところ、図2(実施例1−1焼成体)に示すように、スピネル相のLTO(LiTi12)とペロブスカイト相のLLTO(Li3xLa2/3−xTiO)とに相当する回折線が検出された。また、2θ=43〜44度の回折線の半値全幅は0.15度(結晶子の大きさは59nm相当)であった。
実施例1−1における、チタン酸リチウム系複合生成物の製造方法のフローチャートを図7に示す。
【0093】
[実施例1−2]
(1)前駆体の作製
(水熱合成処理)
実施例1の同時沈殿処理工程で生成した沈殿8.73gを耐圧容器に入れ、4N水酸化リチウム水溶液20.69mL(水酸化リチウム82.8mmol相当)を加えた。上記耐圧容器を密封し、150℃に設定した恒温槽で5時間加熱して水熱処理を行った。放冷後、沈殿を分離し、200℃で乾燥させることで固体状の前駆体を得た。
ICP−AES法による金属元素分析の結果、前駆体中にはリチウムが4.9質量%、ランタンが7.1質量%、チタンが38.5質量%含まれていた(モル比はLi/Ti=0.88、La/Ti=0.064)。複合塩化度は47%であった。
また、該前駆体について粉末X線回折測定を行ったところ、図1(実施例1−2前駆体)に示すように(Li1.81,H0.19)Ti・2HO[ICDD番号00−047−0123]と(LiTiO1.333[ICDD番号01−075−0614]に比定される回折線が検出され、LiTi(a>0、b≧0、c>0、d>0、a+b+3c≦2d≦a+b+4c)で表される複合塩が含まれていることがわかった。また、複合塩の最強の回折線は2θが43〜44度の付近にあり、この回折線の半値全幅は1.1度(結晶子の大きさは8nm相当)であった。
【0094】
(2)複合生成物の作製
(焼成)
前駆体を空気中で850℃で12時間焼成し、焼成体を得た。一連の作製条件を表1に示す。
焼成による質量変化率は―5.3%であった。金属元素分析の結果、リチウムが5.8質量%、ランタンが8.3質量%、チタンが45.1質量%含まれていた(モル比はLi/Ti=0.89、La/Ti=0.064)。
また、該焼成体について粉末X線回折測定を行ったところ、図2(実施例1−2焼成体)に示すように、スピネル相のLTO(LiTi12)とペロブスカイト相のLLTO(Li3xLa2/3−xTiO)とに相当する回折線が検出された。また、2θ=43〜44度の回折線の半値全幅は0.13度(結晶子の大きさは67nm相当)であった。
【0095】
[実施例1−3]
(1)前駆体の作製
(水熱合成処理)
実施例1の同時沈殿処理工程で生成した沈殿9.82gを耐圧容器に入れ、4N水酸化リチウム水溶液18.29mL(水酸化リチウム73.2mmol相当)を加えた。上記耐圧容器を密封し、150℃に設定した恒温槽で5時間加熱して水熱処理を行った。放冷後、沈殿を分離し、200℃で乾燥させることで固体状の前駆体を得た。
ICP−AES法による金属元素分析の結果、前駆体中にはリチウムが4.8質量%、ランタンが8.6質量%、チタンが45.5質量%含まれていた(モル比はLi/Ti=0.73、La/Ti=0.065)。複合塩化度は54%であった。
また、該前駆体について粉末X線回折測定を行ったところ、図1(実施例1−3前駆体)に示すように(Li1.81,H0.19)Ti・2HO[ICDD番号00−047−0123]と(LiTiO1.333[ICDD番号01−075−0614]に比定される回折線が検出され、LiTi(a>0、b≧0、c>0、d>0、a+b+3c≦2d≦a+b+4c)で表される複合塩が含まれていることがわかった。また、複合塩の最強の回折線は2θが43〜44度の付近にあり、この半値全幅は1.2度(結晶子の大きさは8nm相当)であった。
【0096】
(2)複合生成物の作製
(焼成)
前駆体を空気中で850℃で12時間焼成し、焼成体を得た。一連の作製条件を表1に示す。
焼成による質量変化率は−4.0%であった。金属元素分析の結果、リチウムが5.1質量%、ランタンが9.0質量%、チタンが47.6質量%含まれていた(モル比はLi/Ti=0.73、La/Ti=0.065)。
また、該焼成体について粉末X線回折測定を行ったところ、図2(実施例1−3焼成体)に示すように、スピネル相のLTO(LiTi12)とペロブスカイト相のLLTO(Li3xLa2/3−xTiO)とに相当する回折線が検出された。また、2θ=43〜44度の回折線の半値全幅は0.15度(結晶子の大きさは60nm相当)であった。
【0097】
[実施例2]
(1)前駆体の作製
(同時沈殿処理工程)
塩化ランタン7水和物を水に溶解させて得た溶液を四塩化チタン水溶液と混合し、La濃度0.030mmol/g、Ti濃度3.40mmol/g、Cl濃度8.91mmol/gの水溶液を調製した。この水溶液は透明であり、室温で放置しても沈殿を生成しなかった。この水溶液200gを28質量%アンモニア水540g中に噴霧すると沈殿が生成した。沈殿を分離し、水で洗浄し、機械的に解砕した。該沈殿について粉末X線回折測定を行ったところ、顕著な回折ピークは認められなかった。
【0098】
[実施例2−1]
(水熱合成処理工程)
上記沈殿8.84gを耐圧容器に入れ、4N水酸化リチウム水溶液22.02mL(水酸化リチウム88.1mmol相当)を加えた。上記耐圧容器を密封し、150℃に設定した恒温槽で5時間加熱して水熱処理を行った。放冷後、沈殿を分離し、200℃で乾燥させることで固体状の前駆体を得た。
【0099】
金属元素分析の結果、前駆体中にはリチウムが5.9質量%、ランタンが1.2質量%、チタンが48.0質量%含まれていた(モル比はLi/Ti=0.84、La/Ti=0.009)。複合塩化度は56%であった。
また、該前駆体について粉末X線回折測定を行ったところ、図3(実施例2−1前駆体)に示すように(Li1.81,H0.19)Ti・2HO[ICDD番号00−047−0123]と(LiTiO1.333[ICDD番号01−075−0614]に比定される回折線が検出され、LiTi(a>0、b≧0、c>0、d>0、a+b+3c≦2d≦a+b+4c)で表される複合塩が含まれていることがわかった。また、複合塩の最強の回折線は2θが43〜44度の付近にあり、この回折線の半値全幅は1.4度(結晶子の大きさは7nm相当)であった。
【0100】
(2)複合生成物の作製
実施例1と同様の手順で焼成体を得た。一連の作製条件を表1に、評価結果を表2に示す。
焼成による質量変化率は―3.8%であった。金属元素分析の結果、リチウムが6.6質量%、ランタンが1.3質量%、チタンが53.1質量%含まれていた(モル比はLi/Ti=0.85、La/Ti=0.009)。また、該焼成体について粉末X線回折測定を行ったところ、図4(実施例2−1焼成体)に示すように、スピネル相のLTO(LiTi12)とペロブスカイト相のLLTO(Li3xLa2/3−xTiO)とに相当する回折線が検出された。また、2θ=43〜44度の回折線の半値全幅は0.16度(結晶子の大きさは57nm相当)であった。
【0101】
[実施例2−2]
(1)前駆体の作製
(水熱合成処理)
実施例2の同時沈殿処理工程で生成した沈殿8.84gを耐圧容器に入れ、4N水酸化リチウム水溶液21.07mL(水酸化リチウム84.3mmol相当)を加えた。上記耐圧容器を密封し、150℃に設定した恒温槽で5時間加熱して水熱処理を行った。放冷後、沈殿を分離し、200℃で乾燥させることで固体状の前駆体を得た。
ICP−AES法による金属元素分析の結果、前駆体中にはリチウムが5.5質量%、ランタンが1.2質量%、チタンが47.7質量%含まれていた(モル比はLi/Ti=0.79、La/Ti=0.009)。複合塩化度は62%であった。
また、該前駆体について粉末X線回折測定を行ったところ、図3(実施例2−2前駆体)に示すように(Li1.81,H0.19)Ti・2HO[ICDD番号00−047−0123]と(LiTiO1.333[ICDD番号01−075−0614]に比定される回折線が検出され、LiTi(a>0、b≧0、c>0、d>0、a+b+3c≦2d≦a+b+4c)で表される複合塩が含まれていることがわかった。また、複合塩の最強の回折線は2θが43〜44度の付近にあり、この回折線の半値全幅は1.2度(結晶子の大きさは8nm相当)であった。
【0102】
(2)複合生成物の作製
(焼成)
前駆体を空気中で850℃で12時間焼成し、焼成体を得た。一連の作製条件を表1に示す。
焼成による質量変化率は―2.2%であった。金属元素分析の結果、リチウムが6.0質量%、ランタンが1.3質量%、チタンが51.0質量%含まれていた(モル比はLi/Ti=0.81、La/Ti=0.009)。
また、該焼成体について粉末X線回折測定を行ったところ、図4(実施例2−2焼成体)に示すように、スピネル相のLTO(LiTi12)とペロブスカイト相のLLTO(Li3xLa2/3−xTiO)とに相当する回折線が検出された。また、2θ=43〜44度の回折線の半値全幅は0.14度(結晶子の大きさは65nm相当)であった。
【0103】
[実施例3]
(1)前駆体の作製
(同時沈殿処理工程)
塩化ランタン7水和物を水に溶解させて得た溶液を四塩化チタン水溶液と混合し、La濃度0.50mmol/g、Ti濃度2.59mmol/g、Cl濃度8.23mmol/gの水溶液を調製した。この水溶液は透明であり、室温で放置しても沈殿を生成しなかった。この水溶液163gを28質量%アンモニア水370g中に噴霧すると沈殿が生成した。沈殿を分離し、水で洗浄し、200℃で乾燥し、機械的に解砕した。該沈殿について粉末X線回折測定を行ったところ、回折ピークは認められなかった。
【0104】
(水熱合成処理工程)
上記沈殿8.49gを耐圧容器に入れ、4N水酸化リチウム水溶液10.74mL(水酸化リチウム43.0mmol相当)と純水12.6gを加えた。上記耐圧容器を密封し、150℃に設定した恒温槽で5時間加熱して水熱処理を行った。放冷後、沈殿を分離し、200℃で乾燥させることで固体状の前駆体を得た。
ICP−AES法による金属元素分析の結果、前駆体中にはリチウムが3.2質量%、ランタンが20.1質量%、チタンが36.7質量%含まれていた(モル比はLi/Ti=0.59、La/Ti=0.19)。複合塩化度は32%であった。
また、該前駆体について粉末X線回折測定を行ったところ、(Li1.81,H0.19)Ti・2HO[ICDD番号00−047−0123]と(LiTiO1.333[ICDD番号01−075−0614]に比定される回折線が検出され、LiTi(a>0、b≧0、c>0、d>0、a+b+3c≦2d≦a+b+4c)で表される複合塩が含まれていることがわかった。また、複合塩の最強の回折線は2θが43〜44度の付近にあり、この回折線の半値全幅は0.93度(結晶子の大きさは10nm相当)であった。
【0105】
(2)複合生成物の作製
(焼成)
前駆体を空気中で850℃で12時間焼成し、焼成体を得た。一連の作製条件を表1に示す。
焼成による質量変化率は−4.6%であった。金属元素分析の結果、リチウムが3.5質量%、ランタンが21.9質量%、チタンが39.9質量%含まれていた(モル比はLi/Ti=0.61、La/Ti=0.19)。
また、該焼成体について粉末X線回折測定を行ったところ、スピネル相のLTO(LiTi12)とペロブスカイト相のLLTO(Li3xLa2/3−xTiO)とに相当する回折線が検出された。また、2θ=43〜44度の回折線の半値全幅は0.17度(結晶子の大きさは51nm相当)であった。
【0106】
[実施例4](第2の前駆体の製造方法の変形例)
(1)前駆体の作製
(沈殿処理工程)
Ti濃度3.44mmol/g、Cl濃度8.89mmol/gからなる四塩化チタン水溶液300gを28質量%アンモニア水700g中に噴霧すると沈殿が生成した。沈殿を分離し、水で洗浄し、200℃で乾燥し、機械的に解砕した。該沈殿について粉末X線回折測定を行ったところ、顕著な回折ピークは認められなかった。
【0107】
(第1ソルボサーマル処理工程)
上記沈殿8.82gを耐圧容器に入れ、4N水酸化リチウム水溶液50.09mL(水酸化リチウム0.2mol相当)を加えた。上記耐圧容器を密封し、120℃に設定した恒温槽で12時間加熱して水熱処理を行い、放冷した。
【0108】
(第2ソルボサーマル処理工程)
上記第1ソルボサーマル処理を行った耐圧容器の内容物を攪拌し、0.106molの酢酸を添加した。また、La濃度0.38mmol/gからなる酢酸ランタン水溶液を別途調製した。この水溶液は透明であり、室温で放置しても沈殿を生成しなかった。上記耐圧容器の内容物の攪拌を継続し、この水溶液17gを添加した。その後、耐圧容器を密封し、180℃に設定した恒温槽で12時間加熱して水熱処理を行った。自然放冷後、沈殿を分離し、水:2−プロパノール混合溶媒を用いて洗浄し、200℃で乾燥させることで固体状の前駆体を得た。
ICP−AES法による金属元素分析の結果、前駆体中にはリチウムが4.7質量%、ランタンが7.7質量%、チタンが44.6質量%含まれていた(モル比はLi/Ti=0.73、La/Ti=0.059)。複合塩化度は54%であった。
また、該前駆体について粉末X線回折測定を行ったところ、図5(実施例4前駆体)に示すようにLiTi12[ICDD番号00−049−0207]と(LiTiO1.333[ICDD番号01−075−0614]に比定される回折線が検出された。また、複合塩の最強の回折線は2θが43〜44度の付近にあり、この回折線の半値全幅は1.2度(結晶子の大きさは8nm相当)であった。
【0109】
(2)複合生成物の作製
(焼成)
実施例1と同様の手順で焼成体を得た。一連の作製条件を表1に、評価結果を表2に示す。
焼成による質量変化率は―5.9%であった。金属元素分析の結果、リチウムが5.2質量%、ランタンが8.3質量%、チタンが47.9質量%含まれていた(モル比はLi/Ti=0.75、La/Ti=0.060)。また、該焼成体について粉末X線回折測定を行ったところ、図6(実施例4焼成体)に示すように、スピネル相のLTO(LiTi12)とペロブスカイト相のLLTO(Li3xLa2/3−xTiO)に相当する回折線が検出された。また、
2θ=43〜44度の回折線の半値全幅は0.17度(結晶子の大きさは51nm相当)であった。
実施例4における、チタン酸リチウム系複合生成物の製造方法のフローチャートを図8に示す。
【0110】
[実施例5−1](第3の前駆体の製造方法)
(1)前駆体の作製
(第1ソルボサーマル処理工程)
実施例1の同時沈殿処理工程で生成した沈殿9.28gを耐圧容器に入れ、4N水酸化リチウム水溶液43.59mL(水酸化リチウム0.17mol相当)を加えた。上記耐圧容器を密封し、120℃に設定した恒温槽で12時間加熱して水熱処理を行い、放冷した。
【0111】
(第2ソルボサーマル処理工程)
上記第1ソルボサーマル処理を行った耐圧容器の内容物を攪拌し、0.103molの酢酸を添加した。耐圧容器を密封し、180℃に設定した恒温槽で12時間加熱して水熱処理を行った。自然放冷後、沈殿を分離し、水:2−プロパノール混合溶媒を用いて洗浄し、200℃で乾燥させることで固体状の前駆体を得た。
ICP−AES法による金属元素分析の結果、前駆体中にはリチウムが4.8質量%、ランタンが8.3質量%、チタンが43.3質量%含まれていた(モル比はLi/Ti=0.76、La/Ti=0.066)。複合塩化度は64%であった。
また、該前駆体について粉末X線回折測定を行ったところ、図5(実施例5−1前駆体)に示すようにLiTi12[ICDD番号00−049−0207]と(LiTiO1.333[ICDD番号01−075−0614]に比定される回折線が検出された。また、複合塩の最強の回折線は2θが43〜44度の付近にあり、この回折線の半値全幅は1.1度(結晶子の大きさは8nm相当)であった。
【0112】
(2)複合生成物の作製
(焼成)
実施例1と同様の手順で焼成体を得た。一連の作製条件を表1に、評価結果を表2に示す。
焼成による質量変化率は―3.1%であった。金属元素分析の結果、リチウムが5.4質量%、ランタンが9.0質量%、チタンが47.5質量%含まれていた(モル比はLi/Ti=0.79、La/Ti=0.065)。また、該焼成体について粉末X線回折測定を行ったところ、図6(実施例5−1焼成体)に示すように、スピネル相のLTO(LiTi12)とペロブスカイト相のLLTO(Li3xLa2/3−xTiO)に相当する回折線が検出された。また、2θ=43〜44度の回折線の半値全幅は0.23度(結晶子の大きさは37nm相当)であった。
実施例5−1、5−2における、チタン酸リチウム系複合生成物の製造方法のフローチャートを図9に示す。
【0113】
[実施例5−2](第3の前駆体の製造方法)
(1)前駆体の作製
(第1ソルボサーマル処理工程)
実施例3の同時沈殿処理工程で生成した沈殿9.58gを耐圧容器に入れ、4N水酸化リチウム水溶液39.58mL(水酸化リチウム0.16mol相当)を加えた。上記耐圧容器を密封し、120℃に設定した恒温槽で12時間加熱して水熱処理を行い、放冷した。
【0114】
(第2ソルボサーマル処理工程)
上記第1ソルボサーマル処理を行った耐圧容器の内容物を攪拌し、0.108molの酢酸を添加した。耐圧容器を密封し、180℃に設定した恒温槽で12時間加熱して水熱処理を行った。自然放冷後、沈殿を分離し、水:2−プロパノール混合溶媒を用いて洗浄し、200℃で乾燥させることで固体状の前駆体を得た。
ICP−AES法による金属元素分析の結果、前駆体中にはリチウムが3.7質量%、ランタンが19.4質量%、チタンが36.1質量%含まれていた(モル比はLi/Ti=0.70、La/Ti=0.185)。複合塩化度は37%であった。
また、該前駆体について粉末X線回折測定を行ったところ、図5(実施例5−2前駆体)に示すように(LiTiO1.333[ICDD番号01−075−0614]に比定される回折線が検出された。また、複合塩の最強の回折線は2θが43〜44度の付近にあり、この回折線の半値全幅は1.4度(結晶子の大きさは7nm相当)であった。
【0115】
(2)複合生成物の作製
(焼成)
実施例1と同様の手順で焼成体を得た。一連の作製条件を表1に、評価結果を表2に示す。
焼成による質量変化率は―5.7%であった。金属元素分析の結果、リチウムが4.3質量%、ランタンが21.7質量%、チタンが41.2質量%含まれていた(モル比はLi/Ti=0.72、La/Ti=0.182)。また、該焼成体について粉末X線回折測定を行ったところ、図6(実施例5−2焼成体)に示すように、スピネル相のLTO(LiTi12)とペロブスカイト相のLLTO(Li3xLa2/3−xTiO)に相当する回折線が検出された。また、2θ=43〜44度の回折線の半値全幅は0.24度(結晶子の大きさは36nm相当)であった。
【0116】
[実施例6](第4の前駆体の製造方法)
(1)前駆体の作製
(混合工程)
ランタン源に水酸化ランタン0.380g、チタン源に粒径80nmの二酸化チタン微粒子15.973gを用い(モル比でLa:Ti=0.010:1.000)、秤量してジルコニア製のボールミルジャーに入れ、ジルコニアボール及びアセトンを加えて遊星ボールミル処理を400rpmで4時間行った。その後、80℃で12時間乾燥し溶媒を揮発させ、粉末をメノウ乳鉢で粉砕混合し、得られた粉末を200℃で3時間乾燥させた。
【0117】
(水熱処理工程)
上記混合物8.177gを耐圧容器に入れ、4N水酸化リチウム水溶液20.2mL(水酸化リチウム80.8mmol相当)を加えた。上記耐圧容器を密封し、180℃に設定した恒温槽で15時間加熱して水熱処理を行った。100℃まで放冷後、密封容器付属の気相側の弁を徐々に開放して内容物から液相を除き、残った沈殿を回収して200℃で3時間乾燥させることで固体状の前駆体を得た。得られた前駆体の複合塩化度は35%であった。
また、該前駆体について粉末X線回折測定を行ったところ、(LiTiO1.333[ICDD番号01−075−0614]に比定される回折線が検出され、LiTi(a>0、b≧0、c>0、d>0、a+b+3c≦2d≦a+b+4c)で表される複合塩が含まれていることがわかった。評価結果を表2に示す。また、複合塩の最強の回折線は2θが43〜44度の付近にあり、この回折線の半値全幅は0.25度(結晶子の大きさは36nm相当)であった。
【0118】
(2)複合生成物の作製
実施例1と同様の手順で焼成体を得た。一連の作製条件を表1に、評価結果を表2に示す。
焼成による質量変化率は−5.8%であった。また、該焼成体について粉末X線回折測定を行ったところ、スピネル相のLTO(LiTi12)とペロブスカイト相のLLTO(Li3xLa2/3−xTiO)とに相当する回折線が検出された。また、2θ=43〜44度の回折線の半値全幅は0.15度(結晶子の大きさは60nm相当)であった。
実施例6における、チタン酸リチウム系複合生成物の製造方法のフローチャートを図10に示す。
【0119】
[比較例1]
(1)前駆体の作製
リチウム源に炭酸リチウム5.382g、ランタン源に硝酸ランタン六水和物0.751g、チタン源に二酸化チタン13.716gを用い(モル比でLi:La:Ti=0.808:0.010:1.000)、秤量してジルコニア製のボールミルジャーに入れた。ジルコニアボール及びアセトンを加え、遊星ボールミル処理を400rpmで4時間行った。
その後、80℃で12時間乾燥し溶媒を揮発させ、粉末をメノウ乳鉢で粉砕混合した。得られた粉末を200℃で3時間乾燥させ前駆体を得た。
複合塩化度は定義に従って0%である。また、該前駆体について粉末X線回折測定を行ったところ、LiTi(a>0、b≧0、c>0、d>0、a+b+3c≦2d≦a+b+4c)で表される複合塩化された酸化物は含まれていなかった。評価結果を表2に示す。
【0120】
(2)焼成体の作製
前駆体を空気中で850℃で12時間熱処理をし、焼成体を得た。
焼成による質量変化率は―17.2%であった。金属元素分析の結果、リチウムが6.2質量%、ランタンが1.5質量%、チタンが50.4質量%含まれていた(モル比はLi/Ti=0.85、La/Ti=0.010)。
また、該焼成体について粉末X線回折測定を行ったところ、スピネル相とペロブスカイト相に相当する回折線が検出された。
【0121】
[比較例2]
(1)前駆体の作製
リチウム源に水酸化リチウム一水和物6.161g、ランタン源に硝酸ランタン六水和物0.757g、チタン源に二酸化チタン13.827gを用い(モル比でLi:La:Ti=0.808:0.010:1.000)、秤量してジルコニア製のボールミルジャーに入れた。ジルコニアボール及びアセトンを加え、遊星ボールミル処理を400rpmで4時間行った。
その後、80℃で12時間乾燥し溶媒を揮発させ、粉末をメノウ乳鉢で粉砕混合した。得られた粉末を200℃で3時間乾燥させ前駆体を得た。
複合塩化度は10%未満であった。また、該前駆体について粉末X線回折測定を行ったところ、LiTi(a>0、b≧0、c>0、d>0、a+b+3c≦2d≦a+b+4c)で表される複合塩化された酸化物は含まれていなかった。評価結果を表2に示す。
【0122】
(2)焼成体の作製
前駆体を空気中で850℃で12時間熱処理をし、焼成体を得た。
焼成による質量変化率は−11.0%であった。金属元素分析の結果、リチウムが6.4質量%、ランタンが1.5質量%、チタンが51.2質量%含まれていた(モル比はLi/Ti=0.86、La/Ti=0.010)。
また、該焼成体について粉末X線回折測定を行ったところ、スピネル相とペロブスカイト相に相当する回折線が検出された。
一連の作製条件を表1に、評価結果を表2に示す。
【0123】
【表1】

※実施例4と5の水熱合成処理工程において、矢印の前が第1水熱処理工程の条件で、矢印の後が第2水熱処理工程の条件である。
【0124】
【表2】
【0125】
同時沈殿処理工程で得られたランタンとチタンとを含む沈殿物に対して、リチウム元素源の化合物を添加して水熱処理を行って前駆体を得た実施例1−1〜1−3、2−1〜2−2、3と、沈殿処理で得られたチタンを含む沈殿物に対して、リチウムを添加した第1水熱処理とランタンを添加した第2水熱処理を行って前駆体を得た実施例4と、同時沈殿処理工程で得られたランタンとチタンとを含む沈殿物に対して、リチウムを添加した第1水熱処理と酸を添加した第2水熱処理を行って前駆体を得た実施例5−1、5−2と、リチウムとランタンとチタンのそれぞれの単塩を混合して水熱処理を行って前駆体を得た実施例6では、前駆体を850℃で焼成することで、スピネル相のLTO(LiTi12)とペロブスカイト相のLLTO(Li0.33La0.56TiO)とが得られた。また、得られた複合生成物は、焼成による質量変化率の絶対値が10%以下と小さかった。
【0126】
一方で、比較例1と2では、リチウムとランタンとチタンのそれぞれの単塩を単に混合しただけの、複合塩化度が低い前駆体を850℃で焼成することで、スピネル相のLTO(LiTi12)とペロブスカイト相のLLTO(Li0.33La0.56TiO)とが得られたが、焼成による質量変化率の絶対値が大きかった。
【0127】
<焼結密度の評価>
実施例1―1実施例1−3、実施例4、実施例5−1で得られた前駆体を、直径13mmの金型に詰め、740MPaにて加圧成形した。この成形体を空気中で850℃で12時間焼結することで、焼結体を得た。LTOとLLTOの格子定数から理論密度を求め、実密度を理論密度で除することで焼結密度を求めた。
【0128】
実施例1−1は2回行った平均で焼結密度78.5%、実施例1−3は2回行った平均で焼結密度80.4%、実施例2−1は2回行った平均で焼結密度79.0%、実施例2−2は、2回行った平均で焼結密度80.2%、実施例4は5回行った平均で焼結密度84.6%、実施例5−1は5回行った平均で焼結密度85.3%であった。実施例4と5―1は、前駆体の段階で既にLiTi12が形成されているため、焼結密度が向上したと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10