(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献5の方法は、セボフルランを蒸留精製する際のコンパウンドAの副生を抑制し、蒸留の主留(セボフルラン留分)へのコンパウンドAの混入を回避できる、優れた方法である。すなわち、特許文献5の実施例2−No1,No2に開示されるように、コンパウンドAが10〜30ppm含まれる粗セボフルランに対して、分解抑制剤としてリン酸1水素ナトリウムを添加し蒸留を実施した場合、コンパウンドAは専ら初留中に濃縮される一方、主留分としては、コンパウンドAを実質的に含まない(1ppm未満であることを意味する。以下同じ。)セボフルランを得ることができる。
【0011】
しかしながら、この方法には、セボフルランの損失を伴いやすいという欠点がある。すなわち、上述の通り、コンパウンドAはセボフルランと擬共沸の挙動を示す。このため、「コンパウンドAを含むセボフルラン」を、特許文献5に従って蒸留すると、セボフルランの一部がコンパウンドAに随伴して、初留中に留出することが避けられない。より具体的には、特許文献5の実施例2−No1,No2によると、蒸留中のコンパウンドAの生成は有意に抑えられるものの、蒸留収率(主留としてのセボフルランの回収率)は71〜72%に留まり、その一方、「初留」は「主留」の回収量の10%にも及ぶ量であって、
その中のセボフルランの含有量は、実に99.6〜99.8%に達する。つまり「初留」の殆どはセボフルランによって占められ、「少量のコンパウンドAを分離するために、比較的多量のセボフルランを損失する」という結果である。
【0012】
こうした状況下、発明者らは、上記方法で得た「初留」をそのまま再度、精密蒸留に付し、セボフルランを単離することを試みた。ところが、同一の段数、還流比で蒸留を行う場合、蒸留開始から終了間際に至るまで、コンパウンドAが検出され続ける(すなわち、FIDガスクロマトグラフ分析でピーク面積が1ppm未満にならない)という結果になった(後述の「比較例1」)。尤も、初留回収時よりも段数を上げてあらためて蒸留を試みれば、さらにコンパウンドAが濃縮された初留が回収され、主留として、実質的にコンパウンドAを含まないセボフルランを少量得ることはできる。しかし、このような手法は、徒に異なる条件の蒸留塔を複数用い、操作を複雑化するだけであり、効率的に高純度セボフルランを得る方法とは言い難いものである。
【0013】
一方、蒸留の効率を低下させる原因物質であるコンパウンドAは、セボフルランが脱HF化した構造の物質であるから、逆にHFを作用させれば、HFの付加が起こり、セボフルランに変換されるのではないかとも考えた(次の式を参照)。
【0014】
【化2】
【0015】
しかしながら、コンパウンドAに無水HFを作用させでも、このような付加反応は進行しなかった。反応促進剤として濃硫酸を添加した系でも、期待した反応は進行しなかった。
【0016】
このように、「コンパウンドAを含むセボフルラン」の中からコンパウンドAを除去し、高純度セボフルランを回収できる新規方法が、求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を達成するために、本発明者らは鋭意検討を行った。その結果、コンパウンドAを、「フッ化水素(HF)と水との質量比が1:1〜1:30である組成物」と接触させることによって、コンパウンドAは次第に反応し、構造の特定されない、しかしセボフルランと蒸留で分離可能な化学種(本明細書において「コンパウンドX」と呼ぶ)に変換されるという知見を得た。
【0018】
これまでのところ、「コンパウンドX」の具体的な分子構造を特定するには至っていない。しかし、内部標準物質として、1,2−ジクロロエタン(以下、本明細書において「DCE」と略することがある。)を共存させて、当該接触を行うと、時間の経過と共に、コンパウンドAのDCEに対するガスクロマトグラフ面積が低下していくという現象を確認した(後述の「実施例1」)。このため、当該操作を通じて化学反応が起こり、コンパウンドAの含有量が減少していることは疑いがない。元来、コンパウンドAは、加熱しても簡単に分解する化合物ではなく、また前述のように、無水HFと接触させても付加反応を起こすことはないため、水を主成分とする液と、室温付近の比較的低い温度で化学反応が起こるということは、大変、意外な知見であった(本明細書において、この反応のことを「第1工程」と呼ぶ)。
【0019】
そして、この知見に基づき、今度は「コンパウンドAを少量含有するセボフルラン」を「フッ化水素(HF)と水との質量比が1:1〜1:30である組成物」と接触させたところ、時間の経過と共に、共存セボフルランに対するコンパウンドAの量には有意な減少が認められ、この条件ではセボフルランが安定である一方、コンパウンドAは選択的に化学反応を起こすことが示唆された(本明細書においてこの反応工程のことを「第1a工程」と呼ぶ)。
【0020】
次いで、当該第1a工程終了後の有機層を、水層(HFと水との組成物)と分離し、水洗した後に、分解抑制剤の存在下、精密蒸留に付したところ、主留成分として、「コンパウンドAを実質的に含まない(FIDのガスクロマトグラフィーのピーク面積比が1ppm未満であることを言う。以下同じ。)セボフルラン」を、上記第1a工程を行わない場合に比べて、多量に得ることができた(第2工程)。
【0021】
さらに、前記第2工程を行った結果、蒸留後の残存物(釜残物(ボトム))として残った液体を分析したところ、この液体の中には、予期せぬことに、次の式:
【0022】
【化3】
【0023】
(式中、R
1、R
2はそれぞれ独立に水素、C
1〜C
10のアルキル基、ハロアルキル基(ハロゲンはフッ素、塩素または臭素)、nは1〜10の整数であって、R
1とR
2は同時に水素ではない。)
で表される「ポリエーテル」が含まれることが分かった。
【0024】
該ポリエーテルの中のうちでも、最も典型的な化学種は、下記の「ポリエーテル1」と「ポリエーテル2」であり、第2工程が終わった後の蒸留後の残存物(釜残物)には、これらのポリエーテルが多く生成している傾向がある(後述の実施例を参照)。
【0025】
【化4】
【0026】
第2工程の蒸留時間、温度次第では、これらに加えて、或いはこれらに代わって「ポリエーテル3」、「ポリエーテル4」も生成することがある。
【0027】
【化5】
【0028】
これら「ポリエーテル」は、セボフルランを「フッ化水素(HF)と水との質量比が1:1〜1:30である組成物」と接触させても生成する化合物ではない。このことから、「ポリエーテル」は、前記第1工程の結果生成した「コンパウンドX」に由来し、これが蒸留実施中に何らかの化学反応を起こした結果、生成したものと推定している。
【0029】
ここで、当該「ポリエーテル」は(nの数の大小には特に関わらず)、HFおよび反応促進剤(特に好ましくは濃硫酸)を接触させることによって、セボフルランに変換できることが知られている(特許第3441735号)。この知見に従って、本発明者らは、本発明の第2工程(蒸留工程)後の残存物(釜残物(ボトム))に対して、HFおよび濃硫酸を作用させたところ、セボフルランの有意な生成を確認した。すなわち、所望であれば、第2工程後の釜残物を、HFおよび濃硫酸と反応させて、セボフルランに変換することが可能である(この反応工程を「第3工程」と呼ぶ)。第3工程で得られた粗セボフルランを蒸留に付せば、主留分としてセボフルランを得ることができる(「第4工程」)。
【0030】
「セボフルランとコンパウンドAの混合組成物」の中からコンパウンドAを減少させ、「実質的にコンパウンドAを含まないセボフルラン」を取り出すことは、上記「第1a工程」と「第2工程」を併せて実施することによって、達せられる。これらにさらに「第3工程」「第4工程」を組み合わせることによって、先の「第2工程」後の残存物である釜残物(ボトム)をも有効活用することもできる。つまり、第1a工程、第2工程、第3工程、第4工程の全てを組み合わせる態様は、本発明の中でも特に好ましい態様である。
【0031】
このように、発明者らは、コンパウンドAを、特定の条件下でコンパウンドXに変換できるという意外な現象(第1工程)を見出し、当該知見に基づき、上述の第1a工程〜第4工程の各工程を見出すに至った。これによって、特に特許文献5の方法において課題であった、「セボフルランからコンパウンドAを蒸留除去するに際する、セボフルランの損失」を大幅に抑制することに成功した。さらに好ましい態様においては、第2工程後の釜残物に含まれる、コンパウンドAに由来する中間生成物「コンパウンドX」をセボフルランに変換することも可能となった。結果として、これまでよりも顕著に改良されたセボフルランの製造方法が提供されることとなった。
【0032】
すなわち、本発明は、以下の各発明を含む。
【0033】
[発明1]
次の第1工程:
フルオロメチル−1,1,3,3,3−
ペンタフルオロイソプロペニルエーテル(コンパウンドA)を、フッ化水素と水との質量比が1:1〜1:30である組成物と接触させる工程
を含む、前記コンパウンドAの量を低減させる方法。
【0034】
[発明2]
次の第1a工程:
セボフルランとフルオロメチル−1,1,3,3,3−
ペンタフルオロイソプロペニルエーテル(コンパウンドA)とを含む液体(第1有機液体)に、フッ化水素と水との質量比が1:1〜1:30である組成物を接触させることによって、次の(i)又は(ii)の液体(第2有機液体):
(i)セボフルランと、前記第1有機液体よりも含有量が減少したコンパウンドAとを含む有機液体、又は
(ii)セボフルランを含み、コンパウンドAを実質的に含まない有機液体
を得る工程
を含む、前記第2有機液体を製造する方法。
[発明3]
前記接触時の温度が0〜60℃である、発明2に記載の方法。
【0035】
[発明4]
ヘキサフルオロイソプロピルアルコール(HFIP)の共存下で前記接触を行う、発明2又は発明3に記載の方法。
【0036】
[発明5]
次の第2工程:
発明2〜発明4の何れか1つに記載の方法で得られた第2有機液体を分解抑制剤の存在下で蒸留し、主留として、コンパウンドAを実質的に含まないセボフルランを得る工程
を含む、前記コンパウンドAを実質的に含まないセボフルランを製造する方法。
【0037】
[発明6]
第2工程に用いる分解抑制剤が、NaHCO
3 、Na
2B
4O
7、H
3BO
4、C
6H
4(COOK)(COOH)、Na
2SO
3、Na
2HPO
4、CH
3COONa、Na
3PO
4からなる群より選ばれる少なくとも1種である、発明5に記載の方法。
【0038】
[発明7]
次の第3工程:
前記第2工程の蒸留後の残存物(第3有機液体)に対して、無水フッ化水素および
反応促進剤を接触させることによって、前記第3有機液体中の成分の少なくとも一部がセボフルランに変換された液体(第4有機液体)を得る工程
を含む、発明5または発明6に記載の方法。
【0039】
[発明8]
次の第4工程:
前記第4有機液体を蒸留し、主留として、実質的にコンパウンドAを含まないセボフルランを得る工程
を含む、発明7に記載の方法。
【0040】
[発明9]
前記第1有機液体が、次の第A工程:
セボフルランを分解抑制剤の存在下で蒸留し、初留を回収する工程
によって、初留として得られたものである、発明2〜8のいずれかに記載の方法。
【0041】
[発明10]
第A工程に用いる分解抑制剤が、NaHCO
3 、Na
2B
4O
7、H
3BO
4、C
6H
4(COOK)(COOH)、Na
2SO
3、Na
2HPO
4、CH
3COONa、Na
3PO
4からなる群より選ばれる少なくとも1種である、発明9に記載の方法。
【0042】
[発明11]
次の第1b工程:
セボフルランとフルオロメチル−1,1,3,3,3−
ペンタフルオロイソプロペニルエーテル(コンパウンドA)とを含む液体(第1有機液体)に、フッ化水素(HF)と水との質量比が1:1〜1:30である組成物を、ヘキサフルオロイソプロピルアルコール(HFIP)の共存下、0〜60℃で接触させることによって、次の(i)又は(ii)の液体(第2有機液体):
(i)セボフルランと、前記「第1有機液体」よりも含有量が減少したコンパウンドAを含む有機液体、又は
(ii)セボフルランを含み、コンパウンドAを実質的に含まない有機液体
を得る工程、及び、
次の第2工程:
前記第2有機液体を、分解抑制剤の存在下で蒸留し、留分として、コンパウンドAを実質的に含まないセボフルランを得る工程
を含む、前記コンパウンドAを実質的に含まないセボフルランを製造する方法。
【0043】
[発明12]
次の第3工程:
前記第2工程の蒸留後の残存物(第3有機液体)に対して、無水フッ化水素および
反応促進剤を接触させることによって、第3有機液体中の少なくとも一部がセボフルランに変換された液体第4有機液体を得る工程、及び、
次の第4工程:
上記第4有機液体を分解抑制剤の存在下で蒸留し、主留として、実質的にコンパウンドAを含まないセボフルランを得る工程
を含む、発明11に記載の方法。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、コンパウンドAを、セボフルランとの分離の容易なコンパウンドXに変換できるという効果を奏する(第1工程)。
【0045】
また本発明の別の態様によれば、「第1有機液体」中のコンパウンドAを選択的に反応させ、コンパウンドAの含有量が低減された、或いはコンパウンドAを実質的に含まない「第2有機液体」を製造できるという効果を奏する(第1a工程)。
【0046】
また本発明の別の態様によれば、従来、有効利用の困難であった「第1有機液体」を原料として、実質的にコンパウンドAを含まないセボフルランを、第1a工程を行わない場合に比較して、有意に多量に製造できるという効果を奏する(第1a工程及び第2工程)。
【0047】
また本発明の別の態様によれば、前記の効果に加えて、第2工程の蒸留後の残存物(釜残(ボトム))を原料として、意外にもセボフルランを製造することができるという効果を奏する(第1a工程及び第2〜第4工程)。
【0048】
本発明によって、これまで有効利用が困難であった、「コンパウンドAを含有するセボフルラン(第1有機液体)」を出発原料として、セボフルランを製造できることとなり、改良されたセボフルランの製造方法が提供された。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
なお、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる特願2017-019555号明細書の全体を包含する。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0051】
本明細書では、次の用語を以下の意味で用いる。
「第1工程」:
フルオロメチル−1,1,3,3,3−
ペンタフルオロイソプロペニルエーテル(「コンパウンドA」と呼ぶ)を「フッ化水素(HF)と水との質量比が1:1〜1:30である組成物」と接触させる工程(それによって、上記コンパウンドAをコンパウンドXに変換させ、その量を低減させることができる)。
【0052】
「第A工程」:
セボフルランを分解抑制剤の存在下、蒸留に付し、初留を回収する工程。
(当該第A工程で回収した初留を、第1a工程の「第1有機液体」として使用することは、本発明の特に好ましい形態である)。
【0053】
「第1a工程」:
「セボフルランと、フルオロメチル−1,1,3,3,3−
ペンタフルオロイソプロペニルエーテル(以下「コンパウンドA」と呼ぶ)を含む液体(第1有機液体)」に、
「フッ化水素(HF)と水との質量比が1:1〜1:30である組成物」
を接触させることによって、
「第2有機液体」を得る工程。
詳しくは、前記接触によって、前記コンパウンドAを反応させ、前記「第1有機液体」を「第2有機液体」に変換する工程であってもよい。
(第1a工程は、第1工程の中で、特に反応原料として、「第1有機液体」を用いることに特徴がある)。
(ここで、前記「第2有機液体」とは、(i)セボフルランと、前記「第1有機液体」よりも含有量が減少したコンパウンドAを含む有機液体、もしくは、(ii)セボフルランを含み、コンパウンドAを実質的に含まない有機液体、の何れかを意味する。以下同様。)
【0054】
「第1b工程」:
「セボフルランと、フルオロメチル−1,1,3,3,3−
ペンタフルオロイソプロペニルエーテル(以下「コンパウンドA」と呼ぶ)を含む液体(第1有機液体)」に、
「フッ化水素(HF)と水との質量比が1:1〜1:30である組成物」を、
ヘキサフルオロイソプロピルアルコール(HFIP)の共存下、0〜60℃で接触させることによって、
「第2有機液体」を得る工程。
詳しくは、前記接触によって、前記コンパウンドAを反応させ、前記「第1有機液体」を「第2有機液体」に変換する工程であってもよい。
【0055】
なお、第1b工程は、第1a工程のうち、特に好ましい実施態様である。より広い概念である第1a工程と区別する必要があるとき、「第1b工程」と呼ぶが、特に断りのない場合は、第1a工程の説明が第1b工程にも、そのまま当てはまるものとする。
【0056】
「第2工程」:
前記第1a工程(もしくは、第1b工程)で得た「第2有機液体」を分解抑制剤の存在下、蒸留し、留分として、実質的にコンパウンドAを含まないセボフルランを得る工程。
【0057】
「第3工程」:
前記第2工程の蒸留後の残存物(釜残物(ボトム、これを「第3有機液体」と呼ぶ))に対し、無水HFおよび
反応促進剤を接触させることよって、前記「第3有機液体」中の成分の少なくとも一部がセボフルランに変換された液体(第4有機液体)を得る工程。
【0058】
「第4工程」:
上記「第4有機液体」を分解抑制剤の存在下、蒸留し、主留として、コンパウンドAを実質的に含まないセボフルランを得る工程。
【0059】
「第1有機液体」:
セボフルランとコンパウンドAとを含む、液体組成物。
【0060】
「第2有機液体」:
前記第1有機液体を前記第1a工程(もしくは第1b工程)に付して得られる組成物で、
(i)セボフルランと、前記「第1有機液体」よりも含有量が減少したコンパウンドAを含む有機液体、もしくは、(ii)セボフルランを含み、コンパウンドAを実質的に含まない有機液体、の何れかである。
【0061】
「第3有機液体」:
第2工程の蒸留後の残存物(釜残物(ボトム))を言う。(この第3有機液体の中に、意外にも「ポリエーテル」が存在する)。
【0062】
「第4有機液体」:
前記第3工程によって得られる有機液体であって、少なくともセボフルランを含有するものをいう。
【0063】
「コンパウンドAを実質的に含まない」:
対象とする液体中をFIDのガスクロマトグラフィーで分析した場合のピーク面積換算で、コンパウンドAが1ppm未満であることをいう。
【0064】
以下、各工程を、概ね操作の順に詳述する。
【0065】
[1]第1工程
第1工程は、コンパウンドAを「フッ化水素(HF)と水との質量比が1:1〜1:30である組成物」と接触させる工程を言う。それによって、上記コンパウンドAを反応させ、構造が特定されていない「コンパウンドX」を得る(「コンパウンドX」に変換させる)ことができる。
【0066】
先に記したように、コンパウンドAは、セボフルランを水酸化ナトリウムなどの塩基と接触させると少量生成することがあり、また、セボフルランを蒸留精製する過程でも、徐々に生成する。コンパウンドAの標品(純度99%以上のコンパウンドA)は、Journal of Fluorine Chemistry,第45巻(2),1989年11月,P.239〜P.253に従って、無水テトラヒドロフラン溶媒中で、セボフルランに超強塩基であるリチウムビス(トリメチルシリル)アミドを−70〜−60℃で反応させ、その後、蒸留精製することで入手できる(後述の実施例1は、この標品を用いた実験例である)。
【0067】
第1工程は、コンパウンドA(液体)に対し、フッ化水素(HF)及び水を作用させることによって実施できる。3つの化学種(コンパウンドA、フッ化水素,水)の接触順序は特に限定されない。尤も、フッ化水素と水を予め混合し、「フッ化水素酸」とした上で、続いてコンパウンドAと接触させることは、取扱いの簡便性の観点から、特に好ましい。
【0068】
なお、「フッ化水素(HF)と水との質量比が1:1〜1:30である組成物」とは、これら2つの化学種を、この質量比で含有している、という意味であり、それ以外の化学種(例えばセボフルラン、HFIP、或いは硫酸)が共存していても良い。
【0069】
この第1工程の反応は、無水条件では(すなわち、無水フッ化水素を用いた場合)、進行せず、フッ化水素に対して1質量倍以上の水が存在することが必要である。一方、水がフッ化水素に対して30質量倍を超えると、フッ化水素が希釈され過ぎて、十分に反応が進まなくなる。すなわち、「フッ化水素(HF)と水との質量比が1:1〜1:30である」ことが、第1工程の必要条件である。
【0070】
中でも「フッ化水素(HF)と水との質量比」は1:1〜1:10であるとコンパウンドAの反応性がとりわけ高いことから、特に好ましい。
【0071】
一方、「コンパウンドAと、フッ化水素との質量比」は、特に限定されない。フッ化水素量があまり少ないと反応は遅く、コンパウンドA 1gに対するフッ化水素の量が1g以上であると反応速度が上がる傾向があり、好ましい。とりわけ、コンパウンドA 1gに対するフッ化水素の量が4g以上であると反応は特に速く進行するので特に好ましい。
【0072】
但し、第1工程の反応は、反応系におけるコンパウンドAの濃度にも依存し、後述の「第1a工程(第1工程の一態様である)」のように、反応液が、「多量のセボフルラン」と「少量(例えば1000ppm(0.1%)以下)のコンパウンドA」とから成っている場合など、コンパウンドAの濃度が低すぎる場合には、コンパウンドAに対して、フッ化水素が4倍含まれていても、反応速度は十分には上がらないこともある。この場合は、後述の実施例にあるように、コンパウンドAとHFとの質量比が1:100以上であることがより好ましく、コンパウンドAが特に微量である場合(ppmレベルである場合)には、1:10
3〜1:10
6といった大きな比率となっても良い。このように、コンパウンドAとHFとの質量比は、必ずしも一義的には定められないものである。重要なこととしてHFや水がコンパウンドAよりも大過剰に存在していても、反応を阻害したり、新たな副反応を生じたりすることはない。このため、当業者の判断にて、使用するHFと水の量を適宜、変更し、コンパウンドAの反応が起こりやすい条件を最適化することができ、本工程の実施については、それが望ましいと言える。
【0073】
第1工程の反応器としてはステンレス鋼、鉄、またはフッ素樹脂などでライニングされた反応容器が好ましく採用される。フッ化水素を用いるため、ガラス製の反応容器は不適当である。
【0074】
第1工程において、コンパウンドA(有機層)と、「水とHFを含む水層」とを効率的に接触させるために、攪拌を行うことは好ましい。攪拌の具体的に手法は限定されず、量産規模であれば、モーターによる回転式攪拌器を好ましく使用でき、実験室規模であれば、マグネチックスターラーも使用することができる。「攪拌器」という機器を用いる方法の他、反応器そのものを振とうする方法、反応液を移送させる(例えば配管中を流通させる)ことで有機層と水層を混ぜ合わせる方法も可能であり、これらの方法も、本発明の第1工程にいう「攪拌」に該当する。
【0075】
第1工程の反応温度(前記接触時の温度)に、格段の制限はないが、0〜60℃であることが好ましい。0℃未満であると反応が遅くなり、60℃を超えると、フッ化水素酸も揮発しやすいので、取扱いが煩雑になることがある。第1工程のさらに好ましい反応温度は15〜45℃、特に25〜40℃である。この温度範囲であれば、第1工程は、比較的円滑に反応が進行し、かつ、取扱いもしやすい。
【0076】
第1工程の反応は、密閉条件下で行うことが好ましいが、揮発する副生物を回収し、除害できる設備を伴う場合には、開放条件下で行うこともできる。
【0077】
第1工程の反応の生成物(コンパウンドX)は特定できておらず、ガスクロマトグラフ分析で捕捉しがたい化学種である可能性がある。但し、発明者らが観測したところによると、この工程を通じて固体成分(不溶成分)の発生は認められず、有機層部分は、反応の前後を通じて透明な性状を維持するのが通常である。このため、コンパウンドAに反応不活性な標準物質(例えば1,2−ジクロロエタン(DCE))を共存させ、コンパウンドAとDCEのガスクロマトグラフ面積の比率を測定することで、反応の進行状況を見積もることができ、これが反応進行状況を知る上で、特に好ましい方法である。
【0078】
第1工程に要する時間は、条件によって幅があるが、10分〜12時間(720分)が典型的なものである。第1工程の反応は、変換率を100%になるまで行う必要はなく、一部でもコンパウンドAを分解できれば、その分解できた量に対応して、その後のセボフルランの回収が有利になる。このため、第1工程の反応の変換率には必ずしも拘ることはなく、所定の時間(例えば1〜5時間)の経過後に、第1工程を終了することは好ましい例である。第1工程の反応時間は、セボフルランを生産するための他の工程(反応工程、精製工程)に要する時間との兼ね合いで、適宜定めることもできる。
【0079】
なお、この第1工程を終了した後の有機層には、未反応のコンパウンドAの他に、少量の低分子量の生成物が確認されることはあるが、後述の第2工程を経た後の残存物(釜残)中に存在する「ポリエーテル」は、通常検出できない。またセボフルランは、この方法では有意には生成せず、仮に検出できたとしても、痕跡量以下に留まるのが通常である。
【0080】
[2]第A工程(第A工程蒸留)
第A工程は、後述の第1a工程に先立って、セボフルランを分解抑制剤の存在下、蒸留に付し、「初留」を回収する工程を言う。
【0081】
この第A工程で回収した「初留」は、セボフルランとコンパウンドAを含む液体組成物である。本発明では、これを第1a工程の「第1有機液体」として用いることが、発明の目的の観点からも、好ましい。(本工程の蒸留のことを、本発明における他の蒸留工程と区別するために、以後、「第A工程蒸留」と呼ぶことがある)。
【0082】
セボフルランは、特許文献1に従って好ましく合成でき、特許文献2〜4の方法等で精製できるが、それら精製手段に続いて(或いはこれら精製方法と相前後して)、特許文献5に倣って「蒸留」を実施すれば、それが「第A工程蒸留」に該当する。
【0083】
但し、特許文献5及び、後述の「第2工程」「第4工程」では、「主留」すなわち「コンパウンドAを実質的に含まないセボフルラン」を回収することを主目的とするが、「第A工程蒸留」では、「初留」すなわち「コンパウンドAを含むセボフルラン」を回収することを特徴とする。
【0084】
「第A工程蒸留」に使用できる分解抑制剤としては、特許文献5に開示されている通り、アルカリ金属の水酸化物、リン酸水素塩、リン酸塩、炭酸水素塩、ホウ酸塩もしくは亜硫酸塩、または、酢酸もしくはフタル酸のアルカリ金属塩、または、ホウ酸である。アルカリ金属の水酸化物とは、NaOH、KOHなどである。アルカリ金属のリン酸水素塩とは、アルカリ金属のリン酸水素塩またはリン酸二水素塩のことであり、具体的には、Na
2HPO
4、NaH
2PO
4、K
2HPO
4、KH
2PO
4などである。アルカリ金属のリン酸塩とは、アルカリ金属のオルトリン酸塩はもちろんのこと、アルカリ金属のメタリン酸塩やポリリン酸塩などをも示しており、具体的には、Na
3PO
4、K
3PO
4、(NaPO
3)
3、(NaPO
3)
4、(KPO
3)
3、(KPO
3)
4などである。アルカリ金属の炭酸水素塩とは、NaHCO
3、KHCO
3などである。アルカリ金属のホウ酸塩とは、アルカリ金属の二ホウ酸塩、メタホウ酸塩、四ホウ酸塩、五ホウ酸塩、六ホウ酸塩、八ホウ酸塩などを示しており、具体的には、NaBO
2、Na
2B
4O
7、NaB
5O
8、Na
2B
6O
10、Na
2B
8O
18、Na
4B
2O
5、KBO
2、K
2B
4O
7、KB
5O
8、K
2B
6O
10、K
2B
8O
18などである。アルカリ金属の亜硫酸塩とは、Na
2SO
3、K
2SO
3などである。また、酢酸のアルカリ金属塩とは、CH
3COONa、CH
3COOKなどである。
【0085】
フタル酸のアルカリ金属塩とは、o−フタル酸、m−フタル酸またはp−フタル酸のアルカリ金属塩を示し、具体的には、o−C
6H
4(COOK)(COOH)、m−C
6H
4(COOK)(COOH)、p−C
6H
4(COOK)(COOH)、o−C
6H
4(COONa)(COOH)、m−C
6H
4(COONa)(COOH)、p−C
6H
4(COONa)(COOH)などである。以上のような添加剤のうち、特にセボフルランの分解抑制効果が高く、好ましいものとしてNaHCO
3、Na
2B
4O
7、H
3BO
4、C
6H
4(COOK)(COOH)、Na
2SO
3、Na
2HPO
4、CH
3COONa、Na
3PO
4などを挙げることができ、これらの中でもより優れた効果を示すH
3BO
4、C
6H
4(COOK)(COOH)、Na
2HPO
4、CH
3COONaなどがより好ましい添加剤である。
【0086】
分解抑制剤は、固体のまま添加することができ、この場合の添加量は、処理するセボフルランに対して0.01質量%〜10質量%が適当であり、より好ましくは0.05質量%〜5質量%、さらに好ましくは0.1質量%〜1質量%である。
【0087】
分解抑制剤を水溶液として添加することもでき、この場合、その濃度は特に限定はないが、0.01質量%〜飽和溶液とするのが適当であり、より好ましくは0.1質量%〜10質量%、さらに好ましくは1質量%〜5質量%である。また、分解抑制剤を水溶液として添加する場合の添加量は、特に限定はなく、水溶液の濃度により適当な添加量を選択すればよい。例えば、水溶液の濃度を1質量%とした場合、処理するセボフルランに対して1質量%〜200質量%が適当であり、より好ましくは3質量%〜100質量%、さらに好ましくは5質量%〜50質量%である。
【0088】
第A工程蒸留を行う原料のセボフルランは、不純物を含んでいてよく、コンパウンドAを含んだものであっても良い(なお、コンパウンドAを実質的に含まない精製セボフルランを用いることも、特段制限はされない)。上記分解抑制剤の存在下に蒸留を実施する際にも、少量のコンパウンドAは釜中に生成し得るが、この条件で蒸留すれば、コンパウンドAは全て「初留」として回収され、「主留」へのコンパウンドAの混入が実質的に回避できる。しかし、既に述べたように、このような分解抑制剤を共存させた蒸留操作によっても、初留中にセボフルランが随伴することは、避けられない。
【0089】
第A工程蒸留の蒸留塔に特に制限がないが、規則性充填物又は不規則性充填物の充填された蒸留塔が好ましく利用できる。規則性充填物としては、例えば、スルザーパッキング、メラパック、テクノパック、フレキシパック等が挙げられる。不規則性充填物としては、例えば、ヘリパック、ラシヒリング、ディクソンパッキング等が挙げられる。
【0090】
第A工程蒸留の段数に特段の制限はないが、例えば、2以上、50以下であればよい。中でも、3以上、30以下が好ましく、5以上、20以下がより好ましい。
【0091】
還流比は通常0.5〜50、好ましくは1〜30、より好ましくは1〜20である。
【0092】
第A工程蒸留を行う圧力に特に制限はないが、常圧で行うことは簡便であり、好ましい。この場合、被蒸留対象物の主成分はセボフルランであるから、主留回収時の蒸留温度(塔頂温度)は、セボフルランの沸点58〜59℃となる。この主留回収に至る前の、より低沸点の成分を留出させる過程が「初留の回収」にあたる。尤も、既に述べたように、コンパウンドAとセボフルランは沸点差がほとんどなく、事実、初留の大部分はセボフルランによって占められるため、初留の回収温度には、主留の回収温度との明確な境界点は認めがたい。このため、蒸留を実施しつつ、留分のガスクロマトグラフ組成を適宜測定し続け、コンパウンドAが検出される間は、「初留」としての回収を続け、コンパウドAが実質的に未検出(1ppm未満)となったのを確認したら、「主留」に切り替えるのが好ましい。
【0093】
そして、本発明の好ましい態様として、当該「初留」を、続く第1a工程の出発原料(第1有機液体)として使用することとなる。
【0094】
[3]第1a工程
第1a工程は、前述の第1工程のうち特に好ましい態様である。すなわち、「コンパウンドAを、HFと水と混合して、反応させる」という点においては第1工程と共通するが、原料のコンパウンドAが、「セボフルランとコンパウンドAとの混合液(第1有機液体)」として供される、という点が、第1a工程の特徴である。
【0095】
原料である「第1有機液体」の作製法は特に限定されないが、前述の「第A工程蒸留」で「初留」として回収したものを用いることが、好ましい。
【0096】
そして、当該第1a工程によって「第1有機液体」は、「第2有機液体」へと変換される。既に述べたように「第2有機液体」とは、(i)セボフルランと、前記「第1有機液体」よりも含有量が減少したコンパウンドAを含む有機液体、もしくは、(ii)セボフルランを含み、コンパウンドAを実質的に含まない有機液体、の何れかを意味する。
【0097】
本工程の原料として用いる「第1有機液体」中のコンパウンドAの含有量には、特段の制限はない。「第A工程」によって「第1有機液体」を製造する場合は、「第1有機液
体」中のコンパウンドAの含有量は、第A工程実施前の粗セボフルラン中のコンパウンドAの含有量に依存するし、蒸留の実施条件によっても変わり得る。通常は「第1有機液体」中のコンパウンドAの含有量は5ppm〜10000ppmであり、より典型的には10〜1000ppmである。しかし、これよりもコンパウンドAが多くとも、或いは逆に少なくとも、第1a工程は実施可能であり、それによってコンパウンドAの含有量が減少した分、本発明のメリットを十分に受けられる。
【0098】
既に説明した通り、共存するセボフルランは、第1a工程の条件では、分解反応を起こすことがない。第1a工程では、主成分のセボフルランはそのまま残存する一方、コンパウンドAのみが徐々に化学変化を受け、セボフルランとの分離が容易な「コンパウンドX」へと変換する。この第1a工程を実施する場合は、セボフルランが内部標準物質の役割を果たすので、DCEのような標準物質の添加は必要とせず、反応開始後、セボフルランとコンパウンドAのガスクロマトグラフ面積の比率を逐次、測定すれば、反応の進行状況を把握することができる。
【0099】
前述の「第1工程」と「第1a工程」の間には、「反応不活性なセボフルラン」を必須成分として含むかどうかの相違しかない。このため、「HFと水との質量比」「コンパウンドAとHFとの質量比」「反応器の材質」、「攪拌の方法」「反応温度」等の条件としては、「第1工程」について説明した諸条件を、再び挙げることができる。
【0100】
既に説明した通り、第1a工程の場合、原料の「第1有機液体」中の主成分はセボフルランであるから、コンパウンドAの絶対量はかなり少ないのが通常である。よって第1a工程の場合、「コンパウンドAに対するHFの質量比」は、高い値となりやすいが、一方で、コンパウンドAは、大量のセボフルランによって希釈されているのが通常である。このような場合、前記第1工程の項で説明した通り、コンパウンドAに対してHFが大過剰になるように、量比を設定することが好ましい場合が多い。この他、第1a工程の反応速度は、「HFと水との質量比」「攪拌の行い方」「反応温度」によっても影響を受ける。そのため、反応の進行状況を知るためには、セボフルランとコンパウンドAのガスクロマトグラフ面積の比率を逐次、測定することができ、初期の条件設定時にはそうすることが望ましい。
【0101】
なお、本発明において「第1a工程」の目的は、「第1有機液体」中に存在するコンパウンドAの含有量を「減らす」ことにあり、必ずしもゼロにまで低減することまでは求めないことに留意すべきである。すなわち、第1a工程において、「第1有機液体」中からコンパウンドAの量(含有量)を一定量低減できた場合、それに続く第2工程(後述)において、直前の「第A工程」と全く同じ理論段数、還流比で蒸留を行ったとしても、コンパウンドAが低減できている分、「初留」分が減り、主留として、「コンパウンドAを実質的に含まないセボフルラン」が回収可能となる。第1a工程は、条件によっては、反応を完結させるには相当長い時間を要し、却って効率的でないこともある。したがって、第1a工程については、予め時間を決めておき、所定の質量比、攪拌方法、反応温度で反応を行った後、(変換率が100%でなくとも)一律に反応工程を終了する、ということも十分合理的な選択肢である。
【0102】
例えば、第1a工程を30分〜5時間、より好ましくは30分〜2時間、行い、それを以って終了するということは、好ましい態様と言える。
【0103】
なお、第1a工程の反応は、液−液の不均一反応であるため、界面活性剤が存在すると、促進されることがある。特に、両親媒性の物質であり界面活性剤の1種と考えられるヘキサフルオロイソプロピルアルコール(HFIP)を共存させると、他の条件は同一であっても、コンパウンドAの含有量が減少する速度が増大する傾向が見られる(実施例3を参照)。
【0104】
HFIPは、特許文献1においてセボフルランを合成するのに用いられる原料の1つであるため、セボフルラン合成の反応液中に含まれることもしばしばあり、しかもHFIPそれ自身は、セボフルランを分解させることはない。したがって第1a工程を行う上では、HFIPを共存させることは特に好ましい。HFIPを用いる場合、その量は、「第1有機液体」中のセボフルラン1gあたり、0.001g〜20gが好ましく、0.01g〜10gがさらに好ましい。
【0105】
なお、本発明の第1a工程のうち、特に好ましい一態様は、HFIPを共存させ、かつ、0〜60℃で反応(前記接触)を行うというものである。このような条件で反応を実施すると、特にコンパウンドAのコンパウンドXへの分解が速やかに進行する傾向がある。当該条件で行う第1a工程については、既に説明した通り、本明細書において「第1b工程」と呼ぶことがある。
【0106】
第1a工程は、硫酸の存在下行ってもよい。硫酸も特許文献1の方法でセボフルランを合成する際には、原料の1つとして添加される物質であるから、反応終了後の反応液中に含まれることがしばしばである。本発明者らがこれまで見出したところによると、本発明の第1a工程を行う際に、硫酸が共存していても、反応が阻害されることは特になく、セボフルランと分離の難しい副生物が生成するという事実も確認されない。尤も、硫酸(H
2SO
4)があまりに多いと、第1a工程で必要な「水」を不活性化することがあるので、例えば硫酸の質量が、水の質量を上回るほど多量な状態は好ましいとは言えない。通常、そのように極端に大量の硫酸が反応系内に持ち込まれることはないが、何らかの理由で硫酸量が多い場合には、硫酸と少なくとも等質量の、好ましくは2倍質量以上の水を、系内に存在させることが、好ましい。
【0107】
第1a工程を終了した後は、常法に従って二層分離を行い、有機層を取り出せばよい。この取り出された有機層が、「第2有機液体」である。原料である「第1有機液体」と同様にセボフルランを主成分とするが、「第1有機液体」に比べて、コンパウンドAの含有量は有意に減少した状態となっている。なお有機層には、通常、第1a工程で使用したHFが噛み込んでいるため、続く第2工程(蒸留)における装置への負荷を軽減するために、取り出した有機層に対して、アルカリ水溶液による洗浄もしくは水洗等の精製操作を施すことが好ましい。具体的には、アルカリ水溶液による洗浄もしくは水洗のいずれかを、少なくとも1回は実施することが望ましい。
【0108】
[4]第2工程(第2工程蒸留)
第2工程は、前記第1a工程(或いは特に好ましい一態様である「第1b工程」)で得た「第2有機液体」を分解抑制剤の存在下、蒸留し、主留分として、実質的にコンパウンドAを含まないセボフルランを得る工程である。本工程の蒸留を、先に述べた「第A工程蒸留」と区別するため、本明細書では「第2工程蒸留」と呼ぶことがある。尤も、先の「第A工程蒸留」では、目的物は「初留」であったが、こちらの「第2工程蒸留」では、「主留」が目的物となる。
【0109】
これまで詳述したように、第1a工程の反応の結果、「第2有機液体」中のコンパウンドAの含有量は、「第1有機液体」に比べて、有意に減少している。このため、当該「第2有機液体」を、第2工程において、例えば前記「第A工程蒸留」と同一の条件(段数、還流比など)で蒸留すれば、主留として「コンパウンドAを実質的に含まないセボフルラン」を、さらに回収することができる。
【0110】
「第2工程蒸留」は「セボフルランの蒸留である」という点で、「第A工程蒸留」と共通するので、その条件(分解抑制剤の種類と量、蒸留装置、段数、還流比、蒸留圧力、温度)としては、先に「第A工程蒸留」の項で詳述した条件を、再び挙げることができる。但し、第2工程の目的物は初留ではなく、主留であるという点で、違いがある。すなわち、蒸留を行い、留分としてコンパウンドAが検出している間は「初留」として採取し、コンパウンドAが回収されなくなった時点から、「主留」に切り替えて採取を行えばよい。
【0111】
なお、先に「第A工程蒸留」を実施した場合には、「第2工程蒸留」は、当該「第A工程蒸留」と条件を同一に揃えて、実施するのが典型的であり、それが特に合理的と言える。その理由は、どちらもセボフルランを蒸留し、セボフルランを主留として得る蒸留という点で共通するからである。すなわち、「第A工程蒸留」で諸条件を最適化した上で、初留としてコンパウンドAに随伴して留出してしまったセボフルランを可能な範囲で、今度は「主留」として回収し直そうというのが、この第2工程蒸留の主旨である。よって、「第A工程蒸留」で最適化した条件よりも段数等をさらに格段に上げて、より長時間をかけて、より厳密に蒸留を行うという必要性には欠ける。但し、所望であれば、「第2工程蒸留」をそのようにより厳密な条件で実施することは妨げられない。
【0112】
この逆に、「第A工程蒸留」よりも緩い蒸留条件(段数を下げたり、還流比を下げたりすることをいう)で蒸留を実施した場合、第1a工程におけるコンパウンドAの減少の程度にもよるが、「第2工程蒸留」を行っても「主留」(実質的にコンパウンドAを含まないセボフルラン)を回収できなくなることもある。仮に緩い条件で第2工程蒸留を行った結果、主留が回収できなくなる場合、先の第1a工程の反応を行い、コンパウンドAを減らした意味が損なわれてしまうので、好ましくない。一方で、第1a工程によってコンパウンドAが大きく減少した場合、「第2工程蒸留」の蒸留条件を「第A工程蒸留」よりも緩くしても、蒸留が行えることはあり、その場合は第2工程蒸留がより簡易に行えるというメリットも生じ得る。すなわち「第2工程蒸留」は、直前の第1a工程の条件にも依存して、最適な条件が定まるので、主留としてのセボフルランの回収の程度を確認しながら、当業者の知識によって条件を調節することが好ましい。
【0113】
以上述べた通り、「第2工程蒸留」の条件には、特段の制限があるわけではないが、「第2工程蒸留」を、先に行った「第A工程蒸留」と同一条件で(例えば、同一の蒸留塔を用いて)行うと、蒸留工程の労力の削減、装置の有効利用が達成できるから、好ましい態様の1つと言える。
【0114】
「第2工程蒸留」によって「主留」として回収できたセボフルランは、製品セボフルランに加えることができる。すなわち、ここで回収できた「主留」は、第A工程によっては回収できなかったセボフルランであって、先の第1a工程を実施した結果として、この第2工程によってあらためて回収できたことになる。
【0115】
なお、この「第2工程蒸留」においても「初留」が回収される。「初留」は、第A工程の初留と同じく「コンパウンドAが有意に含まれるセボフルラン」である(仮に、第2工程蒸留の原料である「第2有機液体」中にコンパウンドAが全く無くても、蒸留実施に伴って、微量のコンパウンドAは生成し得る)。この「初留」は比較的少量なので廃棄しても良いが、回収して前記「第1a工程」の原料(第1有機液体)として再度利用することもできる。
【0116】
一方、「第2工程」の蒸留で主留を回収した後の残存物(釜残(ボトム))を、本明細書では「第3有機液体」と呼ぶ。この「第3有機液体」は廃棄しても良いが、発明者らは「第3有機液体」中にセボフルランの原料となり得る「ポリエーテル」が含まれていることを見出した。このため、所望により「第3有機液体」を原料として、さらに下記の「第3工程」を行うことができる。
【0117】
なお、既に述べた通り、ここでの最も典型的な「ポリエーテル」は、「ポリエーテル1」と「ポリエーテル2」であり、通常、これらのポリエーテルが多く生成している。第2工程の蒸留時間が長くなったり、温度が高くなったりすると、これらに加えて、或いはこれらに代わって「ポリエーテル3」、「ポリエーテル4」も生成しやすくなる。
【0118】
[5]第3工程
第3工程は、前記第2工程後に釜残(ボトム)として得られた「第3有機液体」を、無水HFおよび
反応促進剤(特に好ましくは無水硫酸
)を接触させ、それによって、前記「第3有機液体」中の「ポリエーテル」の少なくとも一部がセボフルランに変換した「第4有機液体」を得る工程である。
【0119】
前記の通り、第2工程蒸留が終わった後の第3有機液体中の「ポリエーテル」の種類は多様であり、通常、第3有機液体は複数種のポリエーテルの混合組成物となっている。しかし、これらのポリエーテルの何れの化学種が多いかには関わらず、前記特許第3441735号明細書の開示に従って、当該「第3有機液体」に
無水HFおよび反応促進剤を接触させ、反応させれば、ポリエーテルをセボフルランに変換させることができる。尤も、第3有機液体の回収量は、第1a工程の原料である「第1有機液体」と比べれば少量となるのが通例である。このため、第1工程及び第2工程を複数バッチ実施し、第3有機液体の回収量がある程度まとまった後、第3工程を実施することもできる。
【0120】
前記反応促進剤としてはブレンステッド酸、例えば発煙硫酸、濃硫酸、硫酸、フルオロ硫酸、無水リン酸、リン酸、トリフルオロメタンスルホン酸など、また、ルイス酸、例えば四塩化チタン、塩化アルミ、五塩化アンチモン、三フッ化アルミ、無水硫酸、五フッ化アンチモンなどを挙げることができる。これらのうち発煙硫酸、濃硫酸、80重量%以上の濃度の硫酸、フルオロ硫酸、リン酸などまたはこれらの混合物が好ましい。特に濃硫酸が好ましい。
【0121】
反応温度は、特に限定されないが、10〜100℃であり、35〜80℃が好ましい。この温度範囲では生成したセボフルランは未反応原料とともに反応系外へ留出させることができ好ましい。10℃未満では反応が遅く実用的でない。また、100℃を超えると反応が速すぎるために反応を制御するのが困難となり好ましくない。
【0122】
反応圧力は、反応にほとんど影響を与えないので特に限定されず、通常0.1〜1MPaで行えばよい。
【0123】
第3工程の反応は、ホルムアルデヒドあるいはパラホルムアルデヒドの存在下に実施することもできる。
【0124】
本発明の方法における各反応試剤の混合比については、
「第3有機液体」中の「ポリエーテル」の持つオキシメチレン基の総モル数。ホルムアルデヒドを併用する場合は、これにホルムアルデヒドのモル数を合計した数:a
「第3有機液体」中の「ポリエーテル」の持つヘキサフルオロイソプロピル基の総モル数。HFIPを併用する場合には、これにHFIPのモル数を合計した数:b
HFのモル数:c
反応促進剤のモル数:d
としたとき、以下の通りである。
【0125】
b/aは通常0.5〜5であり、好ましくは0.7〜3である。
【0126】
c/aは通常1〜50であり、好ましくは3〜30である(HFは、オキシメチレン基に対して等モル以上に存在することが、反応の収率を向上させる上で、好ましい)。
【0127】
dは任意成分であるが、もし用いる場合、d/aは通常0.5〜20モル倍、好ましくは0.7〜5.0モルである。
【0128】
第3工程においては、水は存在しない方が好ましい。カールフィッシャー水分計を用いた厳格な水分濃度管理までは求められないが、前記第1工程、第1a工程のように、積極的に系内に水を添加することは好ましくない。上記の「a」1モルに対して、水の量は0.01モル以下であることが望ましい。また、反応促進剤として発煙硫酸、無水硫酸などを用いる場合には、たとえ系内に微量の水が存在していたとしても、これら反応促進剤によって捕捉(不活性化)され、実質的に無水条件と言える状態になるので、好ましい。
なお、前記第1工程、第1a工程と同様、第3工程も、攪拌を行うことによって、より効率的に反応が進行するので、好ましい。
【0129】
第3工程の反応の形態には特に制限はなく、密閉条件下でも、開放条件下でも反応は進行し、時間の経過と共に、第3有機液体中の「ポリエーテル」の少なくとも一部がセボフルランに変換した「第4有機液体」を得ることができる。
【0130】
なお、開放条件下で反応を行った場合、生成物のセボフルランは沸点が58〜59℃であり、この温度であれば、第3工程の反応は十分進行することから、第3有機液体とフッ化水素、及び所望により
前述した反応促進剤(特に好ましくは濃硫酸
)、パラホルムアルデヒドを所定量、混合し、徐々に昇温し60℃近傍で反応を起こさせるという手法は好ましい。セボフルランが生成すると、この温度であればセボフルランは速やかに蒸気となるため、当該蒸気を水冷トラップ等で捕集すれば、生成セボフルランを回収できる。このような方法で回収されたセボフルランは、粗セボフルランであって、反応原料のHFや、ポリエーテルも含み得るが、高沸点成分は除去できるので、このような手法で粗セボフルランを回収することは好ましい(このようにして、蒸気を回収して得た粗セボフルランも、「第4有機液体」の範疇である)。
【0131】
このようにして得られた「第4有機液体」には、通常、原料として用いたHFが混合しているため、続く第4工程(蒸留)における装置への負荷を軽減するために、取り出した有機層に対して、アルカリ水溶液による洗浄もしくは水洗等の精製操作を施すことが好ましい。具体的には、アルカリ水溶液による洗浄もしくは水洗のいずれかを、少なくとも1回は実施することが望ましい。
【0132】
[6]第4工程(第4工程蒸留)
第4工程(第4工程蒸留)は、前記第3工程によって得られた「第4有機液体」を、分解抑制剤の存在下に蒸留して、主留として、実質的にコンパウンドAを含まないセボフルランを得る工程である。
【0133】
本工程は、前述の第2工程(第2工程蒸留)に比べて、被蒸留対象物の量が少ないという以外は、第2工程と全く同じ内容で実施すればよい。分解抑制剤の種類や量、蒸留の段数、初留の採取と主留の採取の切り替え方、その他の条件は、第2工程で挙げたものを、再び挙げることができる。
【0134】
「第4有機液体」の回収量は、第2工程の原料である「第2有機液体」と比べれば少量となる。このため、第1工程及び第2工程を複数バッチ実施し、第4有機液体の回収量がある程度まとまった後、第4工程を実施することも可能である。しかし、本工程では、第4有機液体を蒸留して、高純度のセボフルラン(実質的にコンパウンドAを含まないセボフルラン)を回収するということが可能である限り、具体的な操作方法は、限定されない。
【0135】
[実施例]
以下に実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0136】
(第1工程)
コンパウンドA(純度99%以上)5g、HF 20g、水 100gおよび、内部標準物質1,2−ジクロロエタン(DCE)15gを混合し、気密性のポリテトラフルオロエチレン樹脂容器で5時間、20〜25℃で攪拌を行い、反応を行った。その間、1時間おきにFIDガスクロマトグラフ分析によって、[コンパウンドA]/[DCE]の面積値を測定した。なお、試料液体はNaFに接触させ、脱HFを行った後、ガスクロマトグラフ分析にかけた。(当該ガスクロマトグラフィーの条件では、コンパウンドAの保持時間は5.2分付近、DCEの保持時間は16.5分付近であった)。
【0137】
その結果、[コンパウンドA]/[DCE]は、反応開始直前は0.57であったものが、反応開始後1時間後に0.48、2時間後に0.38、3時間後に0.31、4時間後に0.25、5時間後に0.19になった。つまり、5時間経過後には、当初の1/3に減少した。生成物のピークとして特定の主ピークは検出されなかったが、この第1工程を通じて、コンパウンドAが本条件で化学変化を受けたことは確認できた。
【0138】
なお、反応混合物中にはセボフルランは、有意には検出できず、この操作によって、コンパウンドAのセボフルランへの変換は、実質的に起こらないことが分かった。
【実施例2】
【0139】
(第A工程)
コンパウンドAの標準物質(実施例1で使用したもの)を用いて「コンパウンドAを100ppm含有するセボフルラン」を調製し、これを、1000g、ガラス製の蒸留釜に投入した。そして70gの1%リン酸水素ナトリウム水溶液を投入し、理論段数10段の蒸留塔で、還流比5〜20で、常圧蒸留を実施した。
【0140】
留出液をFIDガスクロマトグラフ分析し、コンパウンドAが1ppm以上検出されている間は「初留」として採取した。やがてコンパウンドAが1ppm未満となったので、「主留」に切り替えた。
【0141】
結果として、「初留」回収量は267gとなり、その中のコンパウンドAの含有量は341ppmであった。一方「主留」回収量は720gとなり、その中にコンパウンドAは未検出(1ppm未満)であった(主留の回収収率=72%)。
【0142】
(第1a工程)
上記(第A工程)で得た「初留(コンパウンドAの含有量:341ppm)」を240g、ステンレス鋼製オートクレーブに投入し、「HFの水溶液(無水HF10gを、水50gに溶解させたもの)」を投入した。オートクレーブを閉止し、スターラーによって、攪拌した(反応温度=20〜25℃)。
【0143】
反応開始から5時間経過後に、反応を停止し、中の有機層を回収し、水洗後、有機層をガスクロマトグラフ分析した。その結果、コンパウンドAの含有量は123ppmであった。すなわち、5時間の経過後にコンパウンドAの含有量にはやはり有意な減少が認められた。
変換率63%。有機層の残り全量をその後、「NaOH水溶液」で洗浄し、酸分を除去した。
【0144】
(第2工程)
上記(第1a工程)で得た有機層(洗浄後のもの)を全量、ステンレス製の蒸留装置に投入し、17gの1%リン酸水素ナトリウム水溶液を投入し、理論段数10段の蒸留塔で、還流比5〜20で、常圧蒸留を実施した。
【0145】
留出液をFIDガスクロマトグラフ分析し、コンパウンドAが1ppm以上検出されている間は「初留」とし、やがてコンパウンドAが1ppm未満となったのを確認後、「主留」に切り替えた。
【0146】
結果として、「初留」は76g回収され、その中のコンパウンドAの含有量は330ppmであった。一方、「主留」は128g回収され、その中のコンパウンドAは未検出(1ppm未満)であった。後の「比較例1」に示す通り、上記(第A工程)で得た初留をそのまま蒸留するだけでは、主留を得ることができない。それに対して、こちらでは当該(第2工程)において、主留を(けして多いとは言えないものの、有意な量)、回収できている。これは、上記の(第1a工程)によって、コンパウンドAの含有量が低減できたことに起因すると考えられる。
【0147】
一方、「釜残」(主留よりも沸点の高い成分は全て「釜残」と考える)は31gであった。この「釜残」をFIDガスクロマトグラフで分析したところ、「ポリエーテル1」が42%、「ポリエーテル2」が6%、「ポリエーテル3」が1%、セボフルランが20%検出された(コンパウンドAは未検出)。なお、ここで検出されたセボフルランは、蒸留中に反応が起こって生成したものではなく、蒸留中に留出せず釜に残ったセボフルランと考えられる。
【0148】
(第3工程及び第4工程)
前記、第2工程で得られた「釜残」31gをステンレス鋼製オートクレーブに投入し、これに、98%硫酸100g、フッ化水素200gを仕込み4時間かけて徐々に加熱し65℃まで昇温した。
【0149】
反応によって発生する蒸気を水トラップで捕集して、得られた有機層を水洗浄したところ有機物を26g回収した。
【0150】
得られた有機物をFIDガスクロマトグラフィーで分析したところこの有機物はセボフルランを96.3%含有していた。
【0151】
この有機物をNaOH水での洗浄後、第2工程と同一の条件にて蒸留することにより、セボフルラン14g(純度99.9%以上)を得た。
【0152】
このように、第3工程及び第4工程を併せて実施することにより、これまで回収できなかった高純度セボフルランを、さらに回収することができた。
【実施例3】
【0153】
(第1b工程)
実施例3以降は、実施例2の(第1a工程)と類似するモデル実験として、小スケール(実施例2の10分の1のスケール)で(第1b工程)に該当する反応を行った(小型のステンレス製の密閉性反応器を使用)。
【0154】
まず、コンパウンドAの標準物質とセボフルランを混合し、「コンパウンドAを340ppm含むセボフルラン」を調製し、これを実施例3以降の反応原料とした。
【0155】
この「コンパウンドAを340ppm含むセボフルラン」24gに対し、「HFの水溶液(無水HF1.0gを、水5.0gに溶解させたもの)」を投入した。さらにHFIPを1.0g添加し、オートクレーブを閉止した。マグネチックスターラーによる攪拌を開始し、内部温度を20〜25℃に保った。
【0156】
5時間経過後に、FIDガスクロマトグラフィーで測定を行ったところ、コンパウンドAの変換率は73%と見積もられた。HFIPが添加されたことにより、変換率は実施例2に比べ63%から73%に若干向上していた。
【実施例4】
【0157】
実施例3の(第1b工程)と同じ条件で、さらに濃硫酸を1.0g添加し、(第1b工程)に該当する反応を実施した。
【0158】
5時間経過後に、FIDガスクロマトグラフィーで測定を行ったところ、コンパウンドAの変換率は71%と見積もられた。つまり、実施例4の結果は、実施例3と大差なく、硫酸が存在しても特に反応が阻害されることはないことが判った。
【実施例5】
【0159】
実施例4の(第1b工程)と同じ条件で、反応温度を45℃にして(第1b工程)に該当する反応を行った。
【0160】
5時間経過後に、FIDガスクロマトグラフィーで測定を行ったところ、コンパウンドAの変換率は81%となり、温度が上がることで、多少反応速度は増大することが判った。
【0161】
[比較例1]
実施例2の「第A工程」を、同一規模、同一条件で繰り返した。その結果、「初留」(コンパウンドAの含有量=350ppm)が260g回収された。この初留の全量を、第1a工程を行うことなく、そのまま18gの1%リン酸水素ナトリウム水溶液を投入して、再び常圧蒸留に付した(実施例2の「第A工程」と同じく、理論段数10段、還流比5〜20に設定)。
【0162】
しかし、この条件では、コンパウンドAは最後まで「検出限界(1ppm)未満」とはならず、「主留」の回収には至らなかった。つまり、「初留」に対して、第1a工程を行わずに、蒸留を繰り返すだけでは、高純度セボフルランの回収は困難であることが判った。
【0163】
[比較例2]
上述の「実施例1(第1工程)」の反応原料中「水100g」を添加せず、それ以外は全て、同じ反応原料、反応容器を用い、「コンパウンドA 5gと無水HF20g」を接触させて、反応を試みた(内部標準物質として1,2−ジクロロエタン(DCE)15gを使用)。
【0164】
反応開始直前の[コンパウンドA]/[DCE]は0.57であったが、5時間後に、FIDガスクロマトグラフ分析によって、[コンパウンドA]/[DCE]の面積値を測定したところ、[コンパウンドA]/[DCE]は0.56と、ほとんど不変であり、無水条件では、コンパウンドAは事実上反応していないと考えられる。
【課題】「フルオロメチル−1,1,3,3,3−ペンタフルオロイソプロペニルエーテル(コンパウンドA)を含むセボフルラン」の中からコンパウンドAを除去し、高純度セボフルランを回収することを目的とする。
【解決手段】本発明は、セボフルランとコンパウンドAを含む第1有機液体に、フッ化水素(HF)と水との質量比が1:1〜1:30である組成物を接触させることによって、第1有機液体中のコンパウンドの量が減少した第2有機液体を得る工程(第1a工程)、及び前記第2有機液体を分解抑制剤の存在下で蒸留し、主留として、実質的にコンパウンドAを含まないセボフルランを得る工程(第2工程)を含む、コンパウンドAを実質的に含まないセボフルランを製造する方法等である。