特許第6299984号(P6299984)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6299984黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶及びその製造方法、並びに、食品、医薬品、ゲル、組成物及び組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6299984
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶及びその製造方法、並びに、食品、医薬品、ゲル、組成物及び組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 471/04 20060101AFI20180319BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20180319BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20180319BHJP
   C08B 37/16 20060101ALI20180319BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20180319BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20180319BHJP
   A61P 17/18 20060101ALI20180319BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20180319BHJP
   A61K 8/49 20060101ALN20180319BHJP
【FI】
   C07D471/04 102
   A61K31/4745
   A61P3/00
   C08B37/16
   A61K47/40
   A61K47/10
   A61P17/18
   A23L33/10
   !A61K8/49
【請求項の数】16
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-513797(P2015-513797)
(86)(22)【出願日】2014年4月23日
(86)【国際出願番号】JP2014061412
(87)【国際公開番号】WO2014175327
(87)【国際公開日】20141030
【審査請求日】2017年1月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-93264(P2013-93264)
(32)【優先日】2013年4月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】池本 一人
【審査官】 谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6052183(JP,B2)
【文献】 国際公開第2011/102387(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/020767(WO,A1)
【文献】 特開2012−180319(JP,A)
【文献】 ITOH,S. et al,Reaction of reduced PQQ (PQQH2) and molecular oxygen,Bulletin of the Chemical Society of Japan,1986年 6月,Vol.59, No.6,p.1911-14,文献全体、特に、第1911頁右欄の「PQQH2(キノール)の調製」参照
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 471/04
A23L 33/10
A61K 31/4745
A61K 47/10
A61K 47/40
C08B 37/16
A61K 8/49
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に対する溶解度が0.040〜0.20(mg/mL)であり、
Cu−Kαを用いた粉末X線回折において、6.85±0.4°,10.49±0.4°,11.02±0.4°,16.18±0.4°,23.57±0.4°,及び25.36±0.4°に2θピークを示す、
黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶。
【請求項2】
フリー体の還元型ピロロキノリンキノンを含む、請求項1に記載の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶を含む、食品。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶を含む、医薬品。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶と、エタノールと、を含む、ゲル。
【請求項6】
請求項5に記載のゲルを含む、食品。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶と、シクロデキストリンと、を含む組成物。
【請求項8】
前記シクロデキストリンが、γ―シクロデキストリンを含む、請求項7に記載の組成物
【請求項9】
前記シクロデキストリンの含有量が、前記黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶1質量部に対して、1〜2000質量部である、請求項7又は8に記載の組成物。
【請求項10】
水をさらに含む、請求項7〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶と、シクロデキストリンと、エタノール及び/又は水と、を含む溶液から、前記エタノール及び/又は前記水を除去する工程を有する、組成物の製造方法。
【請求項12】
ピロロキノリンキノン及び/又は該ピロロキノリンキノンの塩と、還元剤と、を含む混合液を、25℃未満で、10時間以上撹拌する撹拌工程を有する、請求項1に記載の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶の製造方法。
【請求項13】
前記還元剤が、アスコルビン酸を含む、請求項12に記載の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶の製造方法。
【請求項14】
前記混合液のpHが、1.5〜3.5である、請求項12又は13に記載の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶の製造方法。
【請求項15】
前記混合液中の、前記ピロロキノリンキノン及び該ピロロキノリンキノンの塩の合計含有量が、0.0010〜30g/Lである、請求項12〜14いずれか1項に記載の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶の製造方法。
【請求項16】
前記混合液中の、前記還元剤の含有量が、0.10〜500g/Lである、請求項12〜15いずれか1項に記載の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶及びその製造方法、並びに、食品、医薬品、ゲル、組成物及び組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
還元型ピロロキノリンキノンは(以下、「還元型PQQ」ともいう)、酸化型ピロロキノリンキノン(以下、「酸化型PQQ」ともいう)のキノン部分を還元して得られる物質である。
【0003】
還元型ピロロキノリンキノンは、従来の酸化型PQQよりも抗酸化活性が非常に高いことが報告されている(非特許文献1)。また、生体内では酸化型PQQは還元されて還元型PQQになると予想され、細胞増殖作用や血糖値の低下の活性種として働いていると考えられている。そのため、還元型PQQは、酸化型PQQよりも効果の高い成分であり、栄養機能食品、特定保健用食品、栄養補助剤、栄養剤、飲料、飼料、動物薬、化粧品、医薬品、治療薬、予防薬等として有用な成分として着目されている。
【0004】
還元型PQQは、酸化型PQQを水素化ホウ素ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム等の一般的な還元剤を使用して還元すること、白金触媒により水素還元すること、又はグルタチオンにより還元することにより得られることが報告されている(例えば、非特許文献1、2、3、及び4参照)。
【0005】
また、特許文献1ではPQQをアスコルビン酸で還元する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2011/102387号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Agric. Food Chem. 2009, 57, 450−456
【非特許文献2】Bull. Chem. Soc. Jpn, 59, 1911−1914 (1986)
【非特許文献3】Eur.J. Biochem.,118,395−399(1981)
【非特許文献4】Eur.J. Biochem.,108,187−192(1980)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記食品及び医薬品等の用途においては、還元型PQQの安全性が高く、製法が低コストかつ簡便であり、還元型PQQが液体に均一に分散し、また、還元型PQQの色が明るいこと(被添加物を着色しにくいこと)が望まれる。
【0009】
しかしながら、非特許文献1に記載の一般的な還元剤は、生体に毒性を示す可能性が高く、それを除去する工程が必要である。また、非特許文献2においても、漏えいしやすく、爆発しやすい水素を使用するために特別な施設が必要となる。さらに、非特許文献3及び4ではグルタチオンの価格が高いことが問題となる。
【0010】
また、特許文献1に記載された方法では、得られる還元型PQQ結晶の色が黒くなりやすく、食品や化粧品等では用いにくいという問題がある。さらに、従来の黒色の還元型PQQ結晶はジメチルスルホキシド等の非プロトン性溶媒には溶解が可能であるが、水、アルコールへの溶解性は非常に低いため、食品や医薬品等として使用する際に液体状態で使用することが困難である。
【0011】
更に、従来の還元型PQQの製法においては、ジメチルスルホキシドとアセトニトリルを用いて還元型PQQを再結晶し、メタノール及び水の混合溶媒を使用してカラムから湧出させ、得られた溶液を乾燥して還元型PQQを得ている。しかし、このような方法では、還元型PQQ中に有機溶媒が残留する可能性があり、有機溶媒が残留している場合には、食品としてはそのまま使用することができない。さらに、製造上も有機溶媒を使用するために可燃物対応の設備が必要となり、製造コストが向上する。また、カラムの使用は高価な設備と大量の抽出液を使用するため、好ましくない。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、溶解性に優れ、黄色系の明るい色の還元型ピロロキノリンキノン結晶及びその簡便な製造方法、並びに、食品、医薬品、ゲル、組成物及び組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討をした結果、所定の還元型ピロロキノリンキノン結晶であれば上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕
水に対する溶解度が0.040〜0.20(mg/mL)であり、
Cu−Kαを用いた粉末X線回折において、6.85±0.4°,10.49±0.4°,11.02±0.4°,16.18±0.4°,23.57±0.4°,及び25.36±0.4°に2θピークを示す、
黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶。
〔2〕
フリー体の還元型ピロロキノリンキノンを含む、前項〔1〕に記載の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶。
〔3〕
前項〔1〕又は〔2〕に記載の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶を含む、食品。
〔4〕
前項〔1〕又は〔2〕に記載の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶を含む、医薬品。
〔5〕
前項〔1〕又は〔2〕に記載の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶と、エタノールと、を含む、ゲル。
〔6〕
前項〔5〕に記載のゲルを含む、食品。
〔7〕
前項〔1〕又は〔2〕に記載の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶と、シクロデキストリンと、を含む組成物。
〔8〕
前記シクロデキストリンが、γ―シクロデキストリンを含む、前項〔7〕に記載の組成物
〔9〕
前記シクロデキストリンの含有量が、前記黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶1質量部に対して、1〜2000質量部である、前項〔7〕又は〔8〕に記載の組成物。
〔10〕
水をさらに含む、前項〔7〕〜〔9〕のいずれか1項に記載の組成物。
〔11〕
前項〔1〕又は〔2〕に記載の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶と、シクロデキストリンと、エタノール及び/又は水と、を含む溶液から、前記エタノール及び/又は前記水を除去する工程を有する、組成物の製造方法。
〔12〕
ピロロキノリンキノン及び/又は該ピロロキノリンキノンの塩と、還元剤と、を含む混合液を、25℃未満で、10時間以上撹拌する撹拌工程を有する、前項〔1〕に記載の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶の製造方法。
〔13〕
前記還元剤が、アスコルビン酸を含む、前項〔12〕に記載の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶の製造方法。
〔14〕
前記混合液のpHが、1.5〜3.5である、前項〔12〕又は〔13〕に記載の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶の製造方法。
〔15〕
前記混合液中の、前記ピロロキノリンキノン及び該ピロロキノリンキノンの塩の合計含有量が、0.0010〜30g/Lである、前項〔12〕〜〔14〕いずれか1項に記載の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶の製造方法。
〔16〕
前記混合液中の、前記還元剤の含有量が、0.10〜500g/Lである、前項〔12〕〜〔15〕いずれか1項に記載の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶の製造方法。

【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、溶解性に優れ、黄色系の明るい色の還元型ピロロキノリンキノン結晶及びその簡便な製造方法、並びに、食品、医薬品、ゲル、組成物及び組成物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1の黄土色還元型ピロロキノリンキノン結晶の粉末X線回折の結果を示す図である。
図2】比較例1の黒色還元型ピロロキノリンキノン結晶の粉末X線回折の結果を示す図である。
図3】実施例2の黄土色還元型ピロロキノリンキノン結晶の粉末X線回折の結果を示す図である。
図4】実施例3の黄土色還元型ピロロキノリンキノン結晶の粉末X線回折の結果を示す図である。
図5】比較例2の還元型ピロロキノリンキノン結晶の粉末X線回折の結果を示す図である。
図6】実施例7で得られたオレンジ色のゲル化物の光学顕微鏡(対物40倍)写真を示す図である。
図7】実施例8の組成物の粉末X線回折の結果を示す図である。
図8】実施例10の組成物の粉末X線回折の結果を示す図である。
図9】γ−シクロデキストリンの粉末X線回折の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0018】
〔黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶〕
本実施形態の還元型ピロロキノリンキノンの結晶は、水に対する溶解度が0.040〜0.20(mg/mL)であり、黄色系結晶である。還元型ピロロキノリンキノンは、下記式(1)で表される。
【化1】
【0019】
黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶の水に対する溶解度は、0.040〜0.20(mg/mL)であり、好ましくは0.060〜0.18(mg/mL)であり、より好ましくは0.080〜0.16(mg/mL)である。水に対する溶解度が上記範囲内であることにより、液体への混合を行う際に、均一性を保ちやすいため、食品及び医薬品等の用途においてより用いやすいものとなる。
【0020】
また、黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶のエタノールに対する溶解度は、1.8〜12.5(mg/mL)であり、好ましくは2.0〜10(mg/mL)であり、より好ましくは2.5〜9.0(mg/mL)である。エタノールに対する溶解度が上記範囲内であることにより、食品及び医薬品等の用途においてより用いやすいものとなる。
【0021】
なお、本実施形態の黄色系還元型ピロロキノリンキノンの結晶の水に対する溶解度が、このように高い値となるのは、水へ溶解する際に該結晶分子の周りに水が集まって水和する過程が存在する為と考えられ、親水基が水和しやすい配列の結晶であるからと考えられるが、特に限定されない。
【0022】
さらに、黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶は、分散性が高く、流動性溶液の形成が非常に行いやすい。ここで、「分散性が高い」とは、溶解度以上の濃度において、溶媒に溶解していない結晶が、液体中で均一な状態で分散していることをいう。
【0023】
本実施形態の還元型ピロロキノリンキノンの結晶は、黄色系結晶であり、色相としては、好ましくは50度〜70度である。色相の測定方法としては、特に限定されず、市販の分光測色計を用いて測定することができる。
【0024】
黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶は、Cu−Kαを用いた粉末X線回折において、6.85±0.4°,10.49±0.4°,11.02±0.4°,16.18±0.4°,23.57±0.4°,及び25.36±0.4°に2θピークを示す。Cu−Kαを用いた粉末X線回折の具体的な測定条件は、実施例に従うことができる。
【0025】
その他、モノクロメータが装着された一般的な粉末X線回折装置で観測することもできる。なお、本発明で規定する結晶形は測定誤差も含まれることから、ピークの角度に関する合理的な同一性があればよい。
【0026】
黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶は、ピロロキノリンキノン分子内のカルボン酸にアルカリ金属等の金属原子がイオン結合していないフリー体(以下、「フリー体」ともいう。)を含むことが好ましい。黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶中の金属原子の含有量は、ピロロキノリンキノン100モル%に対して、好ましくは0〜200モル%であり、より好ましくは0〜150モル%であり、さらに好ましくは0〜100モル%である。金属原子の含有量が上記範囲内であることにより、結晶構造がより安定して維持でき、結晶の色が赤または黒くなったり、水に対する溶解性が低下することをより抑制できる傾向にある。金属原子の含有量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0027】
黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶中の水の含有量は、黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶100質量%に対して、好ましくは0〜50質量%であり、より好ましくは0〜30質量%であり、さらに好ましくは5〜15質量%である。水の含有量が上記範囲内であることにより、結晶構造がより安定して維持でき、結晶の色が赤または黒くなったり、水に対する溶解性が低下することをより抑制できる傾向にある。水の含有量は、カールフィッシャー、赤外線水分計により測定することができる。
【0028】
〔黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶の製造方法〕
本実施形態の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶の製造方法は、ピロロキノリンキノン及び/又は該ピロロキノリンキノンの塩と、還元剤と、を含む混合液を、25℃未満で、10時間以上撹拌する撹拌工程を有する。このような製造方法であれば、従来のような再結晶工程を省略しても、黄色の結晶を得ることができ、精製工程がより簡略化でき、簡便な製造方法となる。
【0029】
〔ピロロキノリンキノン及びその塩〕
ピロロキノリンキノン及び/又は該ピロロキノリンキノンの塩としては、特に限定されないが、例えば、下記式(2)で表される(フリー体の)ピロロキノリンキノンやピロロキノリンキノンの塩が挙げられる。
【化2】
【0030】
「ピロロキノリンキノンの塩」としてはピロロキノリンキノンのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。このなかでも、入手しやすさの観点から、アルカリ金属塩が好ましい。アルカリ金属塩としては、特に限定されないが、例えば、ジナトリウム体、ジカリウム体が挙げられる。また、本発明において用いられるピロロキノリンキノン又はその塩は、市販されているものを入手することができるし、公知の方法により製造することができる。
【0031】
ピロロキノリンキノン又はその塩は、ピロロキノリンキノン又はその塩の溶液として使用することができる。溶媒としては、反応が進行すれば特に限定されず、例えば水、アルコール、ジメチルスルホキシド等の溶媒を用いることができ、食品、医薬品などの用途における安全性の観点から、水が好ましい。
【0032】
混合液中の、ピロロキノリンキノン及びその合計含有量は、好ましくは0.0010〜30g/Lであり、より好ましくは0.01〜15g/Lであり、さらに好ましくは0.1〜5g/Lである。ピロロキノリンキノン及びその合計含有量が0.0010g/L以上であることにより、生産性がより向上する傾向にある。また、ピロロキノリンキノン及びその合計含有量が30g/L以下であることにより、作業性がより向上する傾向にある。
【0033】
〔還元剤〕
還元剤としては、特に制限されないが、例えば、アスコルビン酸が挙げられ、このなかでも、L−アスコルビン酸が好ましい。アスコルビン酸を用いることによりコスト競争力がより向上する傾向にある。アスコルビン酸としては、市販品を用いても、公知の方法により製造して用いてもよい。還元剤は、水又はアルコールに溶解して溶液の状態で用いることができ、このなかでも水溶液の状態で用いることが好ましい。
【0034】
混合液中の還元剤の含有量は、0.10〜500g/Lであり、より好ましくは0.50〜300g/Lである。還元剤の含有量が0.10g/L以上であることにより、反応速度がより向上する傾向にある。また、還元剤の含有量が500g/L以下であることにより、反応溶液の均一性がより向上する傾向にある。
【0035】
〔撹拌温度〕
撹拌温度は、25℃未満であり、好ましくは0℃〜25℃未満であり、より好ましくは0℃〜20℃以下である。撹拌温度が25℃未満であることにより、得られる結晶の結晶性が向上し、結晶の色は黄色となり、結晶の溶解性が向上する。黄色系の結晶は比較的に被混合物を着色しにくいため、使用用途の制限がされにくい。また、撹拌温度が0℃以上であることにより、結晶の製造効率がより向上する傾向にある。なお、同じ還元剤を使用しても反応温度が異なる場合、得られるピロロキノリンキノンの結晶構造が変わり得る。特に撹拌温度が25℃以上である場合、得られる結晶の結晶性が低下し、結晶の色は黒に近くなる。結晶の色が黒に近いと、使用用途が限定されうる。
【0036】
〔撹拌時間〕
撹拌時間は、10時間以上であり、好ましくは10時間以上1週間以内であり、より好ましくは15時間以上5日以内である。撹拌時間が10時間以上であることにより、得られる結晶の結晶性がより向上する。また、撹拌時間が1週間以内であることにより、結晶製造効率がより向上する。
【0037】
〔撹拌方法〕
撹拌方法としては、特に限定されないが、例えば、振とうインキュベーター、マグネチックスターラー等を用いて行うことができる。攪拌することにより、結晶化速度、及び、得られる結晶の結晶性が向上し、結晶の色は黄色となり、結晶の溶解性が向上する。黄色系の結晶は比較的に被混合物を着色しにくいため、使用用途の制限がされにくい。なお、撹拌をしない場合、得られる結晶の結晶性が向上しにくく、黒色の結晶が得られる。
【0038】
〔pH〕
混合液のpHは、好ましくは1.5〜3.5であり、より好ましくは1.7〜3.2である。混合液のpHが1.5以上であることにより、黒色系結晶の生成が抑制され、黄色系結晶が効率よく得られる傾向にある。また、混合液のpHが3.5以下であることにより、還元安定性がより向上する傾向にある。なお、混合液のpHは、撹拌工程全体にわたって上記範囲である必要はなく、ピロロキノリンキノン及び/又は該ピロロキノリンキノンの塩と、還元剤と、をすべて混合して混合液を調製した時点において、少なくとも上記範囲内であることが好ましい。また、混合液のpHは、撹拌の初期、中期、及び終期のいずれで調整してもよい。
【0039】
混合液の調製方法としては、特に限定されないが、例えば、還元剤を含む還元剤溶液と、ピロロキノリンキノンを含むピロロキノリンキノン溶液と、を用意し、還元剤溶液にピロロキノリンキノン溶液を添加することが好ましい。還元剤溶液にピロロキノリンキノン溶液を添加することにより、得られる混合液の粘度がより低下し、攪拌効率がより向上する傾向にある。
【0040】
撹拌工程により、混合液から黄色系還元型ピロロキノリンキノンの結晶が析出する。本実施形態の製造方法によれば、従来のような再結晶工程を省略した場合であっても、黄色系還元型ピロロキノリンキノンの結晶として得ることができ、精製工程をより簡略化することができる。
【0041】
撹拌工程により得られた黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶は、濾過、又は遠心分離により単離することができる。単離された黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶は、水、有機溶媒等で洗浄後、減圧乾燥等によって乾燥されることが好ましい。乾燥温度は、結晶の変色を防ぐ観点から、好ましくは120℃以下であり、より好ましくは70℃以下である。乾燥温度の下限は、特に限定されないが、室温以上が好ましい。
【0042】
〔組成物〕
本実施形態の組成物は、上記黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶と、シクロデキストリンと、を含む。組成物中において、シクロデキストリンが黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶を包接することによって黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶の溶解性がより向上する傾向にある。
【0043】
なお、本実施形態の組成物は、粉体の状態であっても、水又はエタノールを含む溶液の状態であってもよい。
【0044】
(シクロデキストリン)
シクロデキストリンとしては、特に限定されないが、例えば、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンが挙げられる。このなかでも、γ―シクロデキストリンが好ましい。このようなシクロデキストリンを用いることにより、黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶の溶解性がより向上する傾向にある。
【0045】
シクロデキストリンの含有量は、黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶1質量部に対して、好ましくは1〜2000質量部であり、より好ましくは1〜1000質量部であり、さらに好ましくは1〜500質量部であり、よりさらに好ましくは1〜50質量部であり、さらにより好ましくは5〜500質量部である。シクロデキストリンの含有量が1質量部以上であることにより、黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶の溶解性がより向上する傾向にある。また、シクロデキストリンの含有量が2000質量部以下であることにより、溶解性がより向上する傾向にある。
【0046】
(水)
組成物は、水をさらに含んでもよい。水の含有量は、黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶100質量部に対して、好ましくは0〜50質量部であり、より好ましくは0〜30質量部であり、さらに好ましくは2〜20質量部である。水の含有量が2質量部以上であることにより、結晶性がより向上する傾向にある。また、水の含有量が50質量部以下であることにより、安定性がより向上する傾向にある。
【0047】
(エタノール)
組成物は、エタノールをさらに含んでもよい。エタノールの含有量は、黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶100質量部に対して、好ましくは0〜200質量部であり、より好ましくは0〜100質量部であり、さらに好ましくは5〜50質量部である。エタノールの含有量が5質量部以上であることにより、抗菌性がより向上する傾向にある。また、エタノールの含有量が200質量部以下であることにより、安定性がより向上する傾向にある。
【0048】
(その他の添加材)
組成物は、その他の添加材をさらに含んでもよい。その他の添加材としては、特に限定されないが、例えば、乳化剤、緊張化剤、緩衝剤、溶解補助剤、矯臭剤、防腐剤、安定化剤、抗酸化剤などが挙げられる。
【0049】
〔組成物の製造方法〕
本実施形態の組成物の製造方法は、上記黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶と、シクロデキストリンと、エタノール及び/又は水と、を含む溶液から、エタノール及び/又は水を除去する工程を有する。このように、黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶と、シクロデキストリンと、エタノール及び/又は水と、を含む溶液を調製し、湿式混合することにより、シクロデキストリンが黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶を包接しやすい状態を作ることができる。
【0050】
溶液の調製方法としては、特に限定されないが、例えば、各成分を混合して、2分〜数時間攪拌する方法が挙げられる。ここで、溶液は、エタノール及び/又は水の使用量を調整することによりペースト状としてもよい。
【0051】
溶液からエタノール及び/又は水を除去する方法としては、特に限定されないが、例えば、減圧乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥法等の一般的な乾燥方法が挙げられる。
【0052】
上記のようにして得られた組成物は、低温保存、室温保存、密閉容器による嫌気的保存、遮光保存などにより、析出物の発生を抑制して、安定に保存することができる。
【0053】
〔ゲル〕
本実施形態のゲルは、上記黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶と、エタノールと、を含む。黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶は、ゲル化剤を使用することなく、ゲル化することができ、分散性の高いゲルを得ることができる。そのため、ゲル化状態の製品用途に好適に用いることができる。
【0054】
図6に、後述する実施例7で得られたオレンジ色のゲル化物を光学顕微鏡(対物40倍)で観察した結果を示す。図6に示されるように、ゲル化物の中では繊維状の物質ができており、これが溶媒を保持してゲル化物になっていると考えられる。これは、黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶の結晶構造が容易に変化でき、溶解度以上の濃度で繊維状に変化するためであると考えられるが、特に限定されない。PQQのような低分子化合物でこのような繊維構造を形成するのは、低分子化合物同士が水素結合、ππ相互作用等の弱い相互作用で高分子化していると考えられるが、特に限定されない。
【0055】
〔ゲルの製造方法〕
ゲルの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶と、エタノールと、を混合して、撹拌または超音波処理をすることによりゲルを得る方法が挙げられる。
【0056】
〔用途〕
本実施形態の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶、該結晶を含む組成物、及びゲルは、ヒト用または動物用の、食品、飼料、医薬品、医薬部外品、及び化粧品等の有効成分とすることができる。
【0057】
〔食品〕
本実施形態の食品は、上記黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶、又は、上記ゲルを含む。食品としては、特に限定されないが、例えば、日常食する飲食物、各種病院食、機能性食品、飼料等が挙げられる。ここでいう機能性食品とは、健康食品、栄養補助食品、栄養機能食品、栄養保険食品等、健康の維持あるいは食事にかわり栄養補給の目的で摂取する食品を意味する。具体的な形態としてはカプセル剤、タブレット、チュアブル、錠剤、ドリンク剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
機能性食品として製品化する場合には、食品に用いられる添加剤、例えば甘味料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防菌防黴剤、ガムベース、苦味料、酵素、光沢剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料、香辛料抽出物等を用いることができる。一般的には通常の食品、例えば味噌、醤油、インスタントみそ汁、ラーメン、焼きそば、カレー、コーンスープ、マーボードーフ、マーボーなす、パスタソース、プリン、ケーキ、パン等に加えることも可能である。
【0059】
食用は、水や有機溶媒を含んでいてもよい。食品に用いられる有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、油脂やアルコールが挙げられる。本実施形態の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶は、アルコールへの溶解度が高く、チンキとして供給することができる。
【0060】
アルコールとしては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、プロピレングリコール、エチレングリコール等が挙げられる。このなかでも、特に溶解性が高く、食用としても用いることができるという観点から、エタノールが好ましい。また、同様の観点から、水も好ましい。
【0061】
〔医薬品〕
本実施形態の医薬品又は医薬部外品は、上記黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶を含む。医薬品又は医薬部外品としては、特に限定されないが、例えば、皮膚外用剤、注射剤、経口剤、坐剤等が挙げられる。
【0062】
医薬品または医薬部外品として使用する場合の投与形態は、特に限定されないが、例えば、経口投与、又は静脈内、腹膜内、皮下若しくは経皮等の非経口投与を挙げることができる。剤形としては、特に限定されないが、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、浸剤・煎剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、エリキシル剤、エキス剤、チンキ剤、流エキス剤、注射剤、点滴剤、クリーム剤、坐剤等を挙げることができる。
【0063】
特に錠剤として使用する場合は、黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶単独で成形しても各種添加剤等を添加してもどちらでも構わない。好ましくは、黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶に対して各種賦形剤や滑沢剤等を添加して打錠することが好ましい。打錠成形体の製造方法としては、例えば直接圧縮成型する方法を用いることができる。具体的には、各成分の粉末をできるだけ均一に混合し、打錠機に直接フィードして打錠する方法が挙げられる。該打錠機としては、特に限定されないが、ロータリー打錠機コレクト12HU(菊水製作所製)等の打錠機が挙げられ、低圧力で、成形することができる。その圧力としては、例えば1〜3t程度の圧力で成形することが可能である。
【0064】
これにより得られる打錠成形体の錠剤硬度は、3〜20kgfで、好ましくは5〜15kgfである。錠剤硬度が3kgfより高い場合は、得られた成形物が製造ライン上もしくは流通過程で壊れ難く好ましい。また、錠剤硬度が20kgfより低い場合は、硬過ぎることなく、テクスチャーが好ましく内容物が溶出し難くならないことから吸収率が好適となる傾向があり好ましい。
【0065】
このようにして得られた成形体の大きさは、特に限定されないが、PQQの摂取量、その他の配合物の配合量や摂取回数により、適宜選択することが好ましい。例えば、服用の点から、1錠の大きさは通常直径5〜20mmが好ましく、またその重量は200〜2000mgが好ましい。また前記成形体の形状は、丸型、四角型、六角型、円柱型さらには碁石型等様々あるが特に限定されるものではない。
【0066】
経口剤として製剤化する際には、特に限定されないが、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、希釈剤、緩衝剤、抗酸化剤、細菌抑制剤等の添加剤を用いることができる。
【0067】
本実施形態の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶及び該黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶を含む組成物を、経口投与に適当な、例えばシロップ剤のような液体調製物として用いる場合は、水;果糖、ショ糖、ソルビトール、ブドウ糖等の糖類;落下生油、大豆油、オリーブ油、ゴマ油等の油類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;p−ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤;パラオキシ安息香酸メチル等のパラオキシ安息香酸誘導体;安息香酸ナトリウム等の保存剤;ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を添加して製剤化することができる。
【0068】
また、本実施形態の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶及び該黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶を含む組成物を、経口投与に適当な、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤散剤又は顆粒剤等として用いる場合には、特に限定されないが、例えば、乳糖、ショ糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビトール等の糖類;バレイショ、コムギ、トウモロコシ等の澱粉;炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム等の無機物;結晶セルロース、カンゾウ末、ゲンチアナ末等の植物末等の賦形剤;カオリン、タルク、ステアリン酸マグネシウム、水素添加植物油、マクロゴール、シリコーン油等の滑沢剤;デンプン、アルギン酸ナトリウム、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム等の崩壊剤;ポリビニルアルコール、セルロース、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルメロース、澱粉のり液等の結合剤;脂肪酸エステル等の界面活性剤;グリセリン等の可塑剤等を添加して製剤化することができる。また、必要に応じて溶解促進剤、充填剤等を加えてもよい。
【0069】
また、本実施形態の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶及び該黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶を含む組成物を、経口投与用の製剤として用いる場合には、一般に飲食品に用いられる添加剤、例えば食甘味料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防かび剤、ガムベース、苦味料、酵素、光沢剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料、香辛料抽出物等が添加されてもよい。経口投与に適当な製剤は、そのまま、又は例えば粉末食品、シート状食品、瓶詰め食品、缶詰食品、レトルト食品、カプセル食品、タブレット状食品、流動食品、ドリンク剤等の形態のものであってもよいし、健康食品、機能性食品、栄養補助食品等の飲食品として用いてもよい。
【0070】
さらに、本実施形態の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶は、必要に応じて、ビタミンB群、ビタミンCおよびビタミンE等のビタミン類;アミノ酸類;アスタキサンチン、αーカロテン、βーカロテン等のカロテノイド類、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸等のω3脂肪酸類;アラキドン酸等のω6脂肪酸類などと組み合わせて用いてもよい。
【実施例】
【0071】
以下、実施例及び比較例によって本実施形態をより詳細に説明するが、本実施形態はこれらの例に限定されるものではない。
【0072】
〔試薬〕
ピロロキノリンキノンジナトリウム:三菱瓦斯化学社製(商品名:バイオPQQ)
L−アスコルビン酸:和光純薬製
【0073】
〔粉末X線回折測定〕
実施例及び比較例で得られた結晶を取り出し、単結晶X線構造解析装置を用いて下記の条件にて、粉末X線回折による単結晶X線構造解析を行った。
(測定条件)
装置 :株式会社RIGAKU製RINT2500
X線 :Cu−Kα/管電圧40kV/管電流100mA
スキャンスピード:4.000°/min
サンプリング幅 :0.020°
【0074】
〔実施例1〕
ピロロキノリンキノンジナトリウム3.0gを水1.2Lに溶かして溶液Aを得た。また、L−アスコルビン酸30gと水120gと2N塩酸2.5gとを混合し、温度を12℃にして、溶液Bを得た。溶液Bに、溶液Aを2時間かけて攪拌しながら加え、混合液を得た。このときの混合液のpHは2.96であった。その後、混合液を20℃で18時間攪拌した。これに、2N塩酸2.5gを混合し、さらに1時間攪拌した。混合液中に析出した結晶をブフナーロートで濾過し、2N塩酸5mL、50%エタノール水8mLで洗浄した。その後、得られた結晶に対し、室温で減圧乾燥を20時間行い、黄土色の含水結晶3.35gを得た。
【0075】
得られた結晶の粉末X線回折測定結果を図1に示す。7.05,10.66,11.19,16.35,23.75,25.55°に2θのピークを示す結晶であった。
【0076】
〔比較例1 WO2011/102387に基づく実験〕
実施例1と同様にして溶液Bに、溶液Aを添加した後、70℃で2時間攪拌した。攪拌後、結晶が析出した混合液に、塩酸を加えてpHを1以下にした。混合液中に析出した結晶をブフナーロートで濾過し、2N塩酸5mL、50%エタノール水8mLで洗浄した。その後、得られた結晶に対し、70℃で減圧乾燥を18時間行い、黒色固体2.6gを得た。
【0077】
得られた固体の粉末X線回折測定結果を図2に示す。10.11,13.62,14.92,28.04°に2θのピークを示す結晶であった。
【0078】
〔実施例2〕
実施例1と同様の操作で得た結晶に対し、70℃で減圧乾燥を20時間行った。結晶はやや緑がかった黄色い結晶に変化した。
【0079】
得られた結晶の粉末X線回折測定結果を図3に示す。6.85,10.49,11.02,16.18,23.57,25.36°に2θのピークを示す結晶であった。
【0080】
〔実施例3 攪拌結晶化〕
ピロロキノリンキノンジナトリウム3.0gを水1.2Lに溶かして溶液Aを得た。また、L−アスコルビン酸30gと水120gとを混合し、温度を18℃にして、溶液Bを得た。溶液Bに、溶液Aを2時間かけて攪拌しながら加え、混合液を得た。このときの混合液のpHは3.1であった。その後、混合液を20℃で18時間攪拌した。混合液中に析出した結晶をブフナーロートで濾過し、50%エタノール水8mLで洗浄した。その後、得られた結晶に対し、室温で減圧乾燥を20時間行い、黄土色の含水結晶3.87g得た。
【0081】
得られた結晶の粉末X線回折測定結果を図4に示す。6.75,10.35,10.90,16.03,23.42,25.24°に2θのピークを示す結晶であった。
【0082】
〔比較例2 ジメチルスルホキシド−アセトニトリル再結晶〕
Bull. Chem. Soc. Jpn, 59, 1911−1914 (1986)の条件で再結晶した。ジメチルスルホキシド7gに実施例で得られた結晶1gを溶解させ、アセトニトリル200mL加えた。析出した黄色い結晶を濾過した後、減圧乾燥し黄土色の固体0.85g得た。
【0083】
粉末X線回折測定結果を図5に示す。5.21,9.62,14.84,19.97,26.52°に2θのピークを示す物質であった。得られた結晶は、実施例の結晶と異なっているうえに、ピーク強度も小さく結晶性も低いことが分かった。また、使用した有機溶媒(アセトニトリル)が残存している可能性があるため飲食等の用途に適さない。
【0084】
〔比較例3〕
混合液を20℃で18時間静置したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、ゲル状の赤黒い固体3.35gを得た。
【0085】
〔比較例4〕
混合液を20℃で72時間静置したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、黒色の固体3.2gを得た。
【0086】
〔比較例5〕
混合液を25℃で18時間攪拌したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、黒色の固体2.9gを得た。
【0087】
〔比較例6〕
混合液を25℃で18時間静置したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、ゲル状の赤黒い固体3.0gを得た。
【0088】
〔比較例7〕
混合液を30℃で18時間攪拌したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、赤茶色の固体3.0gを得た。
【0089】
〔比較例8〕
混合液を30℃で18時間静置したこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、赤茶色の固体3.0gを得た。
【0090】
〔NMR測定〕
JEOL製500MHz NMR,JNM−ECA500スペクトルメーターを使用し、実施例1、実施例3、及び比較例1で得られた結晶の13C−NMRスペクトルを室温で測定した。その結果、すべての結晶で105.7,111.0,119.4,122.9,123.6,128.1,131.3,134.2,137.8,140.9,142.6,162.2,165.5,170.1ppm(ジメチルスルホキシド−d6:39.5ppm基準)にピークが見られた。
【0091】
得られたスペクトルは、非特許文献3に記載の還元体の13C−NMRスペクトルと一致しており、実施例1、実施例3、及び比較例1において還元体が生成したことが確認できた。なお、この測定データにはキノン構造に由来する173.3、178.0ppmのピークは存在しなかった。
【0092】
〔還元型PQQの対金属イオン分析〕
実施例1、実施例3、及び比較例1で得られた結晶を、コリンハイドキサイド水溶液に溶解した。この溶液中のNaイオン濃度を、堀場製ナトリウムイオン電極を使用して分析した。その結果、各々の溶液において、原料として用いたピロロキノリンキノンジナトリウムと比較して、ナトリウム含有量が1/300以下となっていた。これにより、得られた結晶は、フリー体の還元型ピロロキノリンキノンを相当量含むことが分かった。
【0093】
〔エタノールに対する溶解性試験〕
〔実施例4〕
実施例1で得られた結晶40mgをエタノール2mLに加え、超音波処理を1分間行った。30分以上室温においた後、沈殿物を遠心して上澄みをジメチルスルホキシドで希釈して330nmの吸光度で濃度を分析したところ、8.5mg/MLであり、溶解性に優れていた。
【0094】
〔実施例5〕
実施例2で得られた結晶40mgをエタノール2mLに加え、超音波処理を1分間行った。30分以上室温においた後、沈殿物を遠心して上澄みをジメチルスルホキシドで希釈して330nmの吸光度で濃度を分析したところ、3.2mg/MLであり、溶解性に優れていた。
【0095】
〔比較例9〕
比較例1で得られた結晶40mgをエタノール2mLに加え、超音波処理を1分間行った。30分以上室温においた後、沈殿物を遠心して上澄みをジメチルスルホキシドで希釈して330nmの吸光度で濃度を分析したところ、1.4mg/MLであった。実施例1及び2の結晶がはるかに溶解性に優れていることが分かった。
【0096】
〔エタノール分散性:ゲル化試験〕
〔実施例6〕
実施例1で得られた結晶20mgをエタノール2mLに加え、超音波処理を1分行った。20℃に2時間放置するとオレンジのゲル化物に変化していた。3時間放置したが、溶液の上下で差がなく均一な溶液であった。このゲル化物は本発明の還元型PQQ結晶が繊維状に変化してアルコールを繊維でできた網の中に封じ込めてできたゲルである。このゲル化物20μLを水1mLに加えると均一な黄色い分散液ができた。
【0097】
得られたオレンジ色のゲル化物を光学顕微鏡(対物40倍)で観察した。結果を図6に示す。繊維状の物質ができており、これが溶媒を保持してゲル化物になっていた。
【0098】
〔比較例10〕
比較例1で得られた固体20mgをエタノール2mLに加え、超音波処理を1分行った。20℃に2時間放置すると黒色の固体が沈降し溶液にわずかに黄色く着色していた。溶液の上下で差があり、濃度が均一な溶液として供給するには攪拌しながら操作する必要があった。エタノール混合物20μLを水1mLに加えると黒色の固体が沈降する液ができた。実施例1で得られた結晶が、分散性の非常に高いことが分かった。
【0099】
〔水に対する溶解性試験〕
〔実施例7〕
実施例1で得られた結晶30mgを水1mLに加え、超音波処理を1分間行った。30分以上室温においた後、沈殿物を遠心して上澄みを水で希釈して310nmの吸光度を分析したところ、0.13mg/mLであった。
【0100】
〔実施例8〕
実施例2で得られた結晶30mgを水1mLに加え、超音波処理を1分間行った。30分以上室温においた後、沈殿物を遠心して上澄みを水で希釈して310nmの吸光度を分析したところ、0.14mg/mLであった。
【0101】
〔比較例11〕
比較例1で得られた固体30mgを水1mLに加え、超音波処理を1分間行った。30分以上室温においた後、沈殿物を遠心して上澄みを水で希釈して310nmの吸光度を分析したところ、0.019mg/mLであった。これより実施例1及び2の結晶は溶解性に優れていることがわかった。
【0102】
〔結晶の安定性(水分散状態)試験〕
〔実施例9〕
実施例1で得た結晶0.2gを水1mLと混合した。室温で1時間後、均一な黄色い分散液ができた。2日室温においた後も黄色い分散液であった。
【0103】
〔比較例12〕
比較例1で得た固体0.2gを水1mLと混合した。室温で1時間後、黒い固体が沈降した液ができた。
【0104】
〔比較例13〕
比較例2で得た結晶0.2gを水1mLと混合した。室温で1時間後、濃い赤色の分散液ができた。2日室温においた後は黒色の沈殿物が生じ不均一な液であった。
【0105】
このように本発明の結晶は黄色い色を維持することができることが分かった。また、分散性においても優れていた。
【0106】
〔組成物の製造方法〕
〔実施例10〕 10%黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶含有組成物(水使用)
実施例1で得られた黄土色の含水結晶0.1gと、γ−シクロデキストリン0.9gと、水50gと、を混合した。次いで、エバポレーターにより減圧乾燥し、得られた溶液から水を除去して、1gの赤い組成物を得た。なお、バス温度は40℃とし、最終圧力は12mbarであった。
【0107】
〔実施例11〕 10%黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶含有組成物(エタノール水使用)
実施例1で得られた黄土色の含水結晶0.1gと、エタノール70gと、γ−シクロデキストリン0.9gと、水20g溶液と、を混合した。次いで、エバポレーターにより減圧乾燥し、得られた溶液から水を除去して、1gの赤い組成物を得た。なお、バス温度は40℃とし、最終圧力は12mbarであった。
【0108】
〔実施例12〕 10%黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶含有組成物(エタノール使用)
実施例1で得られた黄土色の含水結晶0.1gと、エタノール80gと、γ−シクロデキストリン0.9gと、を混合した。次いで、エバポレーターにより減圧乾燥し、得られた溶液から水を除去して、1gの茶色組成物を得た。なお、バス温度は40℃とし、最終圧力は12mbarであった。
【0109】
〔実施例13〕 5%黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶含有組成物(エタノール使用)
実施例1で得られた黄土色の含水結晶0.05gと、エタノール80gと、γ−シクロデキストリン0.95gと、を混合した。次いで、エバポレーターにより減圧乾燥し、得られた溶液から水を除去して、1gの茶色組成物を得た。なお、バス温度は40℃とし、最終圧力は12mbarであった。
【0110】
〔実施例14〕 飽和黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶含有組成物(水使用)
20%シクロデキストリン水溶液1mLに、実施例1で得られた黄土色の含水結晶30mgを加え、超音波処理を2分行った。得られた溶液を遠心分離器にかけ、溶解しない固形分を除去し、飽和黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶含有組成物を得た。
【0111】
〔比較例14〕 飽和黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶含有水溶液
水1mLに、実施例1で得られた黄土色の含水結晶30mgを加え、超音波処理を2分行った。得られた溶液を遠心分離器にかけ、溶解しない固形分を除去し、飽和黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶含有水溶液を得た。
【0112】
〔飽和溶解度測定〕
実施例11、13、14、比較例14で得られた組成物30mgを、それぞれ水1mLに加え、超音波処理を2分行った。その後、得られた溶液を遠心分離して、上澄みを水で希釈してUV測定を行った。その結果を以下の表1に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
〔安定性評価〕
また、飽和溶解度測定で得られた上澄み液を室温で1日静置して様子を観察した。上記の実験に使用した水溶液は1日後も沈殿は見られなかった。
【0115】
上記飽和溶解度測定及び安定性評価により、本発明の組成物であれば、安定性が高く、黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶の溶解性がより向上することが示された。
【0116】
〔結晶構造〕
実施例10及び実施例12の組成物、並びに、γ−シクロデキストリンに対して粉末X線回折測定を行った。粉末X線回折測定の条件は以下に示す。
装置 :株式会社RIGAKU製RINT2500
X線 :Cu−Kα/管電圧40kV/管電流100mA
スキャンスピード:4.000°/min
サンプリング幅 :0.020°
【0117】
測定結果より、実施例10の組成物では、シクロデキストリンに由来するピークがブロードになっており、アモルファスの状態であることが分かった。また、実施例12の組成物では、シクロデキストリンの結晶構造が存在することが確認された。測定結果を図7〜9に示す。
【0118】
〔プロトン核磁気共鳴(NMR)分析〕
実施例14の組成物、比較例14の組成物を重水に溶かし、トリメチルシリルプロパン酸基準でH−NMRを測定した。
【0119】
測定結果より、実施例14の組成物では、黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶に由来する7.19,8.36ppmのピークと、シクロデキストリンに由来する3.4−4.7(m),5.36ppmのピークが観察された。また、比較例14の組成物では、黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶に由来する7.28,8.19ppmのピークが観察された。黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶に由来する2つのピークのシフトは、シクロデキストリンに黄色系還元型ピロロキノリンキノンが包接されているためと考えられる。
【0120】
本出願は、2013年4月26日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2013−093264)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の黄色系還元型ピロロキノリンキノン結晶は、医薬、機能性食品、飼料、化粧品等の分野において産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9