特許第6300516号(P6300516)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6300516
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】制震構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20180319BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20180319BHJP
【FI】
   E04H9/02 301
   E04H9/02 331Z
   F16F15/02 L
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-266837(P2013-266837)
(22)【出願日】2013年12月25日
(65)【公開番号】特開2015-121075(P2015-121075A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2016年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】欄木 龍大
(72)【発明者】
【氏名】西山 正三
【審査官】 富士 春奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−046863(JP,A)
【文献】 特開2012−202081(JP,A)
【文献】 特開2006−257687(JP,A)
【文献】 特開平09−177371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱に、当該柱よりも剛性が低い目地材を介在させた制震構造において、
上記目地材を間に挟んだ上側の柱および下側の柱の一方の端面に、基端部が上記端面に固定されて鉛直方向に延在する軸部と、この軸部の先端に形成された当該軸部よりも大径の頭部とを有する第1の係合部材を設けるとともに、上記上側の柱および下側の柱の他方に、水平方向に配置されるとともに中央部に孔部が形成された受け材を有する第2の係合部材を設けてなり、
上記受け材の孔部に上記軸部が水平方向に相対変位可能に挿通されるとともに、上記頭部の外径が、上記孔部の内法よりも小さく形成され、かつ上記頭部と上記受け材との間には、内径寸法が上記頭部の外径寸法よりも小さい第1の円環板と、内径寸法が上記第1の円環板の外径寸法よりも小さく、かつ外径寸法が上記孔部の内法よりも大きい第2の円環板が介装されることにより、上記第1および第2の係合部材は、上記上下の柱の水平方向および接近方向への相対変位を許容し、かつ上記柱に引張力が作用した際に上記頭部が上記受け材に係合して当該引張力を伝達するように配置されていることを特徴とする制震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱の一部に水平剛性の低いゴム等を介在させた目地を形成することにより、建物の剛性を低減させて固有周期を長周期化させた制震構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震に対して建物の安全性を確保するために、基礎部分や中間階の柱等に積層ゴムを用いた免震装置を介装することにより、当該建物の固有周期を長周期化させて加速度応答を低減させる免震構造が実用に供されている。
【0003】
上記免震構造にあっては、地震発生時に、建物の応答加速度を低減させて地盤から建物に伝播しようとする振動を緩和させることにより、躯体の健全性を維持することができるとともに、家具の転倒等を防止することができる反面で、上記免震装置における応答振幅が大きくなるため、上記免震装置を間に挟んで上下階にわたって設けられる設備配管等に、上下階の相対変位に追従可能なフレキシブルな構造を採用する必要がある。
【0004】
また、上記免震装置を設置するための免震ピット等の空間を確保する必要があるために、総じて建設コストが嵩むという問題点もある。
そこで、本出願人は、先に下記特許文献1において、図7に示すように、鉄筋コンクリート等からなる柱30の一部に、コンクリートよりも剛性が低く、かつ許容せん断変形量が大きいゴム等の材料からなる目地31が介在された建築物を提案した。
【0005】
上記建築物によれば、ゴム等の材料からなる目地31によって柱の水平剛性が低減するため、建築物の固有周期を長期化させることができるとともに、地震時に建築物に加わる動的荷重が低減される一方、層間変位は階高の1/50未満あるいは1/100未満に抑制されるために、家具の転倒等を抑制することができ、しかも設備配管や階段等の変形を許容するための特別な構造も不要になるという効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−256962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、アスペクト比が大きな建築物においては、地震時に、柱に引張力が作用するため、引張力に対する耐性が低いゴム等の目地材を用いることができず、上記構成を適用することが難しいという問題点がある。
【0008】
このため、引張力を伝達する鉄筋を、上記目地31を貫通させて上下の柱にわたって通る方法も考えられるものの、地震時に目地31に生じる大きな水平方向の変位によって、上記鉄筋が損傷する可能性があるために、その改良が要請されていた。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、アスペクト比が大きな建物に対しても、柱に引張力に対する耐性が低いゴム等の目地材料を用いた目地を設けることにより、当該柱の水平剛性を低減させて当該建物の固有周期を長期化させることができる制震構造を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、柱に、当該柱よりも剛性が低い目地材を介在させた制震構造において、上記目地材を間に挟んだ上側の柱および下側の柱の一方の端面に、基端部が上記端面に固定されて鉛直方向に延在する軸部と、この軸部の先端に形成された当該軸部よりも大径の頭部とを有する第1の係合部材を設けるとともに、上記上側の柱および下側の柱の他方に、水平方向に配置されるとともに中央部に孔部が形成された受け材を有する第2の係合部材を設けてなり、上記受け材の孔部に上記軸部が水平方向に相対変位可能に挿通されるとともに、上記頭部の外径が、上記孔部の内法よりも小さく形成され、かつ上記頭部と上記受け材との間には、内径寸法が上記頭部の外径寸法よりも小さい第1の円環板と、内径寸法が上記第1の円環板の外径寸法よりも小さく、かつ外径寸法が上記孔部の内法よりも大きい第2の円環板が介装されることにより、上記第1および第2の係合部材は、上記上下の柱の水平方向および接近方向への相対変位を許容し、かつ上記柱に引張力が作用した際に上記頭部が上記受け材に係合して当該引張力を伝達するように配置されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、柱に、当該柱よりも剛性が低い目地材を介在させるとともに、上記目地材を間に挟んだ上下の柱に、当該上下の柱の水平方向および接近方向への相対変位を許容する第1および第2の係合部材を配置しているために、柱の水平剛性を低減させて、建物の固有周期を長期化させることにより、地震発生時における建物の応答加速度を低減させことができる。
【0014】
加えて、第1および第2の係合部材を、上記柱に引張力が作用した際に互いに係合してこの引張力を伝達するように配置しているために、アスペクト比の大きな建物においても、上記目地材としてゴム等の引張力に対する耐性が弱い材料を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る制震構造の一実施形態を示す要部の斜視図である。
図2】施工前の図1の縦断面図であって図4のB−B線視断面相当図である。
図3図2の側方視した縦断面図である。
図4図2のA−A線視した平面図である。
図5図2の施工後における状態を示す縦断面図である。
図6図3の施工後における状態を示す縦断面図である
図7】従来の目地による制震構造を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて、本発明に係る制震構造の一実施形態について説明する。
本実施形態の制震構造は、図7に示した柱30に形成された目地に、図1図6に示す目地装置1を介在させたものである。
この目地装置1は、柱に形成された目地に介装されるもので、上側の柱の端面に固定される方形の上部基板2と、下側の柱の端面に固定される方形の下部基板3との間の中央部に、目地材4が角柱状あるいは図1に示すような円柱状に充填されるとともに、目地材4が充填されていない上下部基板2、3間の4隅に、引張力を伝達可能な係合部材を配置したものである。
【0017】
ここで、上下部基板2、3は、この目地装置1を介在させる柱の断面と等しい形状に形成された方形の鋼板であり、それぞれアンカーボルト2aを介して上側の柱および下側の柱に固定されている。また、目地材4は、上記柱よりも剛性が低く、かつ許容せん断変形量が大きい材料、具体的には、ゴム系材料、エラストマー等の高分子材料あるいは繊維補強ゴム等の複合材料からなり、厚さ寸法が100mm以下、好ましくは50mm以下のシート状に形成されている。そして、この目地材4の周囲に、上記係合部材が配置されている。
【0018】
この係合部材は、上部基板2に固定されたボルト(第1の係合部材)5と、下部基板3に固定された受け材(第2の係合部材)6と、これらボルト5および受け材6の間に介装された2枚のワッシャ(第1および第2の円環板)7、8とから概略構成されたものである。
【0019】
上記ボルト5は、軸部5aの基端部が上部基板2に固定されるとともに、頭部5bを下方に位置させて鉛直方向に垂設されている。そして、このボルト5の軸部5aには、2枚のワッシャ7、8が外装されている。ここで、頭部5b側のワッシャ(第1の円環板)7は、内径寸法がボルト5の頭部5bの外径寸法よりも小さく形成されるとともに、このワッシャ7の上部に配置されたワッシャ(第2の円環板)8は、内径寸法がワッシャ7の外径寸法よりも小さく形成されている。これにより、ワッシャ7、8は、ボルト5の頭部5bに係止された状態で配置されている。
【0020】
他方、これらボルト5およびワッシャ7、8の上方に、方形板状の受け材6が設けられている。この受け材6は、中央部にボルト5の頭部5bの外径よりも大径であって、かつワッシャ8の外径よりも小径な孔部6aが穿設されもので、内方に位置する2辺に接合された壁部9によって、底板10上に固定されている。そして、この底板10が、ボルト11によって下部基板3の角隅部に固定されている。なお、この受け材6および底板10は、受け材6の下方にボルト5の頭部5bおよびワッシャ6、7を配置して組み立てる便宜から、上記受け材6の対角方向において2分割されている。
【0021】
また、受け材6とボルト5およびワッシャ6、7は、図2および図3に示すように、施工前において、ワッシャ7の上面が当該受け材6の下面に当接する位置に配置されている。そして、図5および図6に示すように、施工後に柱の荷重が作用した状態において、目地材4が圧縮されることにより受け材6とのワッシャ7との間に僅かな隙間が形成された状態で配置されている。
【0022】
これにより、ボルト5の軸部5aが、孔部6a内において水平方向に相対変位可能に配置され、かつ上記柱に引張力が作用した際にボルト5の頭部5bがワッシャ6、7を介して受け材6に係合するように配置されている、この結果、ボルト5および受け材6からなる係合部材は、目地を挟んだ上下の柱の水平方向および接近方向への相対変位を許容し、かつ上記柱に引張力が作用した際に互いに係合して当該引張力を伝達するように構成されている。
【0023】
以上の構成からなる制震構造によれば、地震時に、目地蔵置1を間に挟んだ上側の柱と下側の柱とに水平方向の相対変位が生じると、ボルト5の軸部5aがワッシャ7、8と共に受け材6の孔部6a内において水平方向に相対変位して、これに追従する。そして、柱30には、この柱30よりも剛性が低く、かつ許容せん断変形量が大きいゴム系材料等からなる目地材4を介在させいるために、上記目地材4によって柱の水平剛性を低減させ、建物の固有周期を長期化させることにより、地震発生時における建物の応答加速度を低減させことができる。
【0024】
また、上側の柱と下側の柱とに、互いに接近する方向の相対変位が生じると、ボルト5が受け材6の底板10側に向けて変位することにより追従する。これに対して、上記柱30に引張力が作用すると、ボルト5の頭部5bがワッシャ7、8を介して受け材6に係合することにより、上記引張力を下側の柱に伝達する。
【0025】
この結果、アスペクト比の大きな建物においても、目地材4としてゴム等の引張力に対する耐性が弱い材料を用いることができる。
【符号の説明】
【0026】
4 目地材
5 ボルト(第1の係合部材)
5a 軸部
5b 頭部
6 受け材(第2の係合部材)
6a 孔部
7 ワッシャ(第1の円環板)
8 ワッシャ(第2の円環板)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7