【実施例】
【0032】
(実施例1)
上記自動車パネル用Al−Mg−Si系アルミニウム合金板及びその製造方法にかかる実施例について説明する。本例では、まず、表1に示す複数種類の化学成分組成のアルミニウム合金(合金A〜T)を用いて、同じ製造条件で表4に示す試験材(No.1〜21)を作製し、評価した。
【0033】
試験材の作製は、まず、表1に示す化学成分組成を有する各合金を半連続鋳造して鋳塊を得、その鋳肌部の表面面削を行った。次いで、表2に示すA1条件(均質化処理〜最終冷間圧延の条件)および表3に示すB1条件(溶体化処理〜最終熱処理の条件)で試験材を作製した。得られた試験材の評価は、最終熱処理後1か月室温時効させた後に行った。各評価の方法及び評価基準は次のとおりである。
【0034】
<引張試験>
各試験材(最終熱処理後1か月室温時効させたもの)から、圧延方向に対して0°、45°、90°の方向になるようにJIS5号試験片をそれぞれ切り出し、JIS Z2241に従って、耐力、r値を測定した。
【0035】
<形状凍結性>
上記引張試験の結果得られた耐力(ベーク前耐力)が130MPa以下のものを、優れた形状凍結性がある合格品とした。
【0036】
<深絞り性>
各試験材(最終熱処理後1か月室温時効させたもの)から直径110.0mmの円板を切り出し、円板に低粘度潤滑油(29cst)を塗布し、エリクセン試験機を用いて、直径50mmの平頭パンチにより、しわ押さえ力10kN、成形速度2.0mm/sで押出し、割れ発生直前の成形高さを測定した。割れ発生直前の成形高さが13.0mm以上のものを、深絞り性が良好な合格品とした。
【0037】
<塗装焼付硬化性>
各試験材(最終熱処理後1か月室温時効させたもの)に、170℃の温度に20分保持する加熱をした後、上記と同様の引張試験を行い、耐力(ベーク後耐力)を測定した。耐力が200MPa以上であるものを、塗装焼付硬化性が良好な合格品とした。
【0038】
<肌荒れ>
深絞り試験した後のサンプルの外観を目し観察し、肌荒れの有無を評価した。
【0039】
<曲げ加工性>
各試験材(最終熱処理後1か月室温時効させたもの)に、15%引張予ひずみを付与した後、180°の密着曲げを行った。曲げ試験後、試験片湾曲部の外側の割れの発生有無を肉眼で観察し、割れが生じないものを合格とした。
【0040】
<耐食性>
各試験材(最終熱処理後1か月室温時効させたもの)に化成処理液によるリン酸亜鉛処理を施した後に電着塗装を行い、アルミニウムの素地まで達するクロスカットを施して、JIS Z2371規格に従って、塩水噴霧試験を24時間行い、その後、温度50℃−湿度95%の湿潤雰囲気に1か月放置した後、クロスカット部から発生する最大糸錆長さを測定した。最大糸錆長さが4mm以下のものを合格とした。
【0041】
<リジングマーク>
各試験材(最終熱処理後1か月室温時効させたもの)から、圧延方向に対して90°の方向の引張試験片を採取し、10%引張変形を加えた後、電着塗装後においてリジングマークの有無を目視観察により判定した。
【0042】
<平均結晶粒径>
各試験材(最終熱処理後1か月室温時効させたもの)の圧延面を電解研磨し、偏光フィルターを通して光学顕微鏡組織を倍率100倍で撮影し、ASTM E91比較法に準拠した方法で平均結晶粒を測定した。
【0043】
試験材1〜21の評価結果を表4に示す。表4から知られるように、試験材1〜10はいずれも、全ての評価結果が良好であった。
【0044】
一方、試験材11〜21は合金成分が適切でないため、いずれかの評価結果において不合格となった。
試験材11は、Si含有量が少なすぎたため、塗装焼き付け硬化性が悪かった。
試験材12は、Si含有量が多すぎたため、1か月室温時効後の耐力が高く形状凍結性が劣り、曲げ性及び深絞り性が悪かった。
【0045】
試験材13は、Mg含有量が少なすぎたため、塗装焼き付け硬化性が悪かった。
試験材14は、Mg含有量が多すぎたため、1か月室温時効後の耐力が高く形状凍結性が劣り、曲げ性及び深絞り性が悪かった。
試験材15は、Cu含有量が少なすぎたため、塗装焼き付け硬化性が悪かった。
【0046】
試験材16は、Cu含有量が多すぎたため、1か月室温時効後の耐力が高く形状凍結性が劣り、曲げ性及び深絞り性が悪く、耐食性も悪かった。
試験材17は、Mn含有量が多すぎたため、1か月室温時効後の耐力が高く形状凍結性が劣り、曲げ性及び深絞り性も悪かった。
【0047】
試験材18は、Cr含有量が多すぎたため、1か月室温時効後の耐力が高く形状凍結性が劣り、曲げ性及び深絞り性も悪かった。
試験材19は、Zn含有量が多すぎたため、耐食性が悪かった。
試験材20は、Ti及びBの含有量が多すぎたため、曲げ性および深絞り性が悪かった。
試験材21は、Zr含有量が多すぎたため、1か月室温時効後の耐力が高く形状凍結性が劣り、曲げ性及び深絞り性も悪かった。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
(実施例2)
本例では、表1中の1種類の化学成分組成のアルミニウム合金(合金J)を用いて、製造条件を種々変更して試験材(No.22〜49)を作製し、評価した。試験材の作製は、表5〜表7に示すごとく、表2のA1〜A21の条件のいずれか、及び表3のB1〜B8の条件のいずれかを選択し、鋳塊の表面面削までの条件は実施例1と同様として行った。得られた試験材の評価は、実施例1の場合と同様に、最終熱処理後1か月室温時効させた後に行った。また、各評価の方法及び評価基準も実施例1と同様である。なお、本例では以下のように、結晶方位密度も測定した。
【0053】
<結晶方位密度>
各試験材(最終熱処理後1か月室温時効させたもの)から、25mm×25mmの試験片を切り出し、板面をペーパー研磨することにより板厚1/4面を露出させ、マクロエッチングを行った後、X線反射法により結晶方位密度関数を測定した。
【0054】
試験材22〜42の評価結果を表5及び表6に示す。また、試験材43〜49の評価結果を表7に示す。表5及び表6から知られるように、試験材22〜32はいずれも、全ての評価結果が良好であった。
【0055】
一方、試験材33〜42は、均質化処理から冷間圧延までの製造条件が適切ではないため、いずれかの評価項目において不合格となった。
【0056】
試験材33は、均質化処理温度が低すぎたため、焼き付け塗装硬化性及び深絞り性が低下した。
試験材34は、均質化処理後の冷却速度が低すぎたため、Mg−Si系化合物の析出凝集化が生じ、焼き付け塗装硬化性及び深絞り性が低下した。
【0057】
試験材35は、熱間圧延開始温度が低すぎたため、Mg−Si系化合物の析出凝集化が生じ、焼き付け塗装硬化性及び深絞り性が低下した。
試験材36は、熱間圧延開始温度が高すぎたため、リジングマークが発生した。
【0058】
試験材37は、熱間圧延後の板厚が厚すぎたため、リジングマークが発生するとともに、材料に異方性が生じ、深絞り性が低下した。
試験材38は、熱間圧延後の板厚が薄すぎたため、Cube方位の形成が不十分となり、結晶粒が粗大となり肌荒れが生じた。
【0059】
試験材39は、中間焼鈍前の冷間圧延後の板厚が厚すぎたため、Cube方位が過剰に形成され、深絞り性が低下した。
試験材40は、冷間圧延後の板厚が薄すぎたため、Cube方位の形成が不十分となり、曲げ性が低下するとともに、結晶粒が粗大となり肌荒れが生じた。
【0060】
試験材41は、中間焼鈍処理の温度が低すぎたため、材料に異方性が生じ、深絞り性が低下した。
試験材42は、中間焼鈍処理の温度が高すぎたため、Cube方位への集積が大きくなり、材料に異方性が生じ、深絞り性が低下するとともに、結晶粒が粗大化し肌荒れが生じた。
【0061】
また、表7に示すように試験材43〜49は溶体化処理条件及びその後の室温放置条件、最終熱処理が最適ではないために、いずれかの評価項目において不合格となった。
【0062】
試験材43は、溶体化処理温度が低すぎたため、溶体化が十分に進まず、塗装焼付硬化性が悪かった。
試験材44は、溶体化処理温度が高すぎたため、共晶融解が生じ、深絞り性が悪かった。
【0063】
試験材45は、焼き入れ速度が低すぎたため、塗装焼付硬化性が悪く、深絞り性も悪かった。
試験材46は、溶体化処理後の室温放置時間が長すぎたため、塗装焼付硬化性が悪く、深絞り性も悪かった。
【0064】
試験材47は、最終熱処理温度が低すぎたため、塗装焼付硬化性が悪かった。
試験材48は、最終熱処理温度が高すぎたため、形状凍結性が悪く、深絞り性も悪かった。
試験材49は、最終熱処理時間が低すぎたため、塗装焼付硬化性が悪かった。
【0065】
【表5】
【0066】
【表6】
【0067】
【表7】