【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度〜平成26年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体酸化物形燃料電池を用いた事業用発電システム要素技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
燃料極と固体電解質と空気極とが順に積層された複数の燃料電池セルと、隣り合う前記燃料電池セルを電気的に接続するインターコネクタと、を備えている燃料電池セルスタックの製造方法であって、
焼成した前記インターコネクタの上に、(La1−x−ySrxCay)zMnO3−AppmSiO2−DppmMgO(但し、0<x≦0.4,0<y≦0.4,0.1≦x+y≦0.5,0.95≦z<1,A:10〜300,D:10〜400)の組成式で表される材料を成膜してプレインターコネクタ接合膜とし、
前記プレインターコネクタ接合膜の上に前記空気極の材料を成膜してプレ空気極とし、
前記プレインターコネクタ接合膜および前記プレ空気極を一緒に焼成してインターコネクタ接合膜および前記空気極とし、
前記プレインターコネクタ接合膜を1200℃で2時間焼成したときの収縮率を8%以上25%以下とし、
前記インターコネクタ接合膜の膜厚を3μm以上20μm以下にする燃料電池セルスタックの製造方法。
水素極と固体電解質と酸素極とが順に積層された複数の電解セルと、隣り合う前記電解セルを電気的に接続するインターコネクタと、を備えている高温水蒸気電解セルスタックの製造方法であって、
焼成した前記インターコネクタの上に、(La1−x−ySrxCay)zMnO3−AppmSiO2−DppmMgO(但し、0<x≦0.4,0<y≦0.4,0.1≦x+y≦0.5,0.95≦z<1,A:10〜300,D:10〜400)の組成式で表される材料を成膜してプレインターコネクタ接合膜とし、
前記プレインターコネクタ接合膜の上に前記酸素極の材料を成膜してプレ空気極とし、
前記プレインターコネクタ接合膜および前記プレ空気極を一緒に焼成してインターコネクタ接合膜および前記酸素極とし、
前記プレインターコネクタ接合膜を1200℃で2時間焼成したときの収縮率を8%以上25%以下とし、
前記インターコネクタ接合膜の膜厚を3μm以上20μm以下にする高温水蒸気電解セルスタックの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、インターコネクタと空気極との接触抵抗を低減できたが、耐久性および耐熱サイクル性については改善の余地を残したままであった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、良好な発電性能と耐久性、耐熱サイクル性を実現できる燃料電池セルスタック、燃料電池モジュール、およびそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の燃料電池セルスタックおよびその製造方法、燃料電池モジュール、ならびに高温水蒸気電解セルスタックおよびその製造方法は以下の手段を採用する。
【0010】
本発明は、燃料極と固体電解質と空気極とが順に積層された複数の燃料電池セルと、隣り合う前記燃料電池セルを電気的に接続するインターコネクタと、前記空気極と前記インターコネクタとの間に直接挟まれているインターコネクタ接合膜と、を備え、前記インターコネクタ接合膜は、(La
1−x−ySr
xCa
y)
zMnO
3−AppmSiO
2−DppmMgO(但し、0<x≦0.4,0<y≦0.4,0.1≦x+y≦0.5,0.95≦z<1,A:10以上300以下,D:10以上400以下)の組成式で表される材料が焼成されてなる燃料電池セルスタックを提供する。
【0011】
前記インターコネクタ接合膜は、(La
1−x−ySr
xCa
y)
zMnO
3−AppmSiO
2−DppmMgO(但し、0<x≦0.4,0<y≦0.4,0.1≦x+y≦0.5,0.95≦z<1,A:100〜300,D:100〜400)の組成式で表される材料が焼成されてなることが好ましい。
【0012】
また本発明は、燃料極と固体電解質と空気極とが順に積層された複数の燃料電池セルと、隣り合う前記燃料電池セルを電気的に接続するインターコネクタと、を備えている燃料電池セルスタックの製造方法であって、焼成した前記インターコネクタの上に、(La
1−x−ySr
xCa
y)
zMnO
3−AppmSiO
2−DppmMgO(但し、0<x≦0.4,0<y≦0.4,0.1≦x+y≦0.5,0.95≦z<1,A:10〜300,D:10〜400)の組成式で表される材料を成膜してプレインターコネクタ接合膜とし、前記プレインターコネクタ接合膜の上に前記空気極の材料を成膜してプレ空気極とし、前記プレインターコネクタ接合膜および前記プレ空気極を一緒に焼成してインターコネクタ接合膜および前記空気極とする燃料電池セルスタックの製造方法を提供する。
【0013】
本発明において、インターコネクタと空気極とはインターコネクタ接合膜を挟んで接合されている。インターコネクタ接合膜は上記組成式で表される材料が焼成されてなるため、良好な発電性能、耐久性および耐熱サイクル性を兼ね備えた燃料電池セルスタックとなる。
【0014】
(La
1−x−ySr
xCa
y)
zMnO
3において、zは0.95以上1未満である。(La
1−x−ySr
xCa
y)
zMnO
3はペロブスカイト構造(ABO
3)を持ち、zはAサイトとBサイトとのモル比率(A/B比)を意味する。A/B比が0.95を下回ると、燃料電池セルスタックの発電性能が低下する。A/B比が1以上であると、燃料電池セルスタックの発電性能および耐熱サイクル性が低下する。
【0015】
(La
1−x−ySr
xCa
y)
zMnO
3のAサイト(La
1−x−ySr
xCa
y)において、La、Sr、Caをそれぞれ上記範囲にすることで、燃料電池セルスタックの発電性能、耐久性および耐熱サイクル性を良好にできる。
【0016】
インターコネクタ接合膜の材料は、10ppm以上300ppm以下の量でSiO
2を含む。好ましくは、SiO
2含有量は100ppm以上300ppm以下である。上記範囲でSiO
2を含むことで、発電性能および耐久性が高い燃料電池セルスタックとなる。SiO
2含有量が10ppmを下回ると、発電性能および耐熱サイクル性が低下する。SiO
2含有量が300ppmを上回ると、燃料電池セルスタックの発電性能が低下する。
【0017】
インターコネクタ接合膜の材料は、10ppm以上400ppm以下の量でMgOを含む。好ましくは、MgO含有量は100ppm以上400ppm以下である。上記範囲でMgOを含むことで、発電性能および耐久性が高い燃料電池セルスタックとなる。MgO含有量が10ppmを下回ると、耐久性および耐熱サイクル性が低下する。MgO含有量が400ppmを上回ると、燃料電池セルスタックの発電性能および耐久性が低下する。
【0018】
「プレ」とは、原料を成形した後であり焼成する前の状態のグリーン体を意味する。
【0019】
上記発明の一態様において、前記インターコネクタ接合膜の1200℃で2時間焼成したときの収縮率が8%以上25%以下であ
る。
【0020】
1200℃で2時間焼成した前後のインターコネクタ接合膜の収縮率が8%を下回ると、インターコネクタと空気極との密着性が悪くなるため、燃料電池セルスタックの発電性能、耐久性および耐熱サイクル性が規定を満たさなくなる。一方、1200℃で焼結した前後のインターコネクタ接合膜の収縮率が25%を上回ると、インターコネクタ接合膜が過度に収縮して割れおよび剥離が発生するため、燃料電池セルスタックの発電性能、耐久性および耐熱サイクル性が規定を満たさなくなる。
【0021】
上記発明の一態様において、前記インターコネクタ接合膜の膜厚が3μm以上20μm以下であ
る。
【0022】
インターコネクタ接合膜の膜厚が3μmを下回ると、燃料電池セルスタックの耐熱サイクル性が低下する。一方、インターコネクタ接合膜の膜厚が20μmを上回ると、燃料電池セルスタックの発電性能および耐熱サイクル性が低下する。
【0023】
また本発明は、水素極と固体電解質と酸素極とが順に積層された複数の電解セルと、隣り合う前記電解セルを電気的に接続するインターコネクタと、前記酸素極と前記インターコネクタとの間に直接挟まれているインターコネクタ接合膜と、を備え、前記インターコネクタ接合膜は、(La
1−x−ySr
xCa
y)
zMnO
3−AppmSiO
2−DppmMgO(但し、0<x≦0.4,0<y≦0.4,0.1≦x+y≦0.5,0.95≦z<1,A:10〜300,D:10〜400)の組成式で表される材料が焼成されてなる高温水蒸気電解セルスタックを提供する。
【0024】
また本発明は、水素極と固体電解質と酸素極とが順に積層された複数の電解セルと、隣り合う前記電解セルを電気的に接続するインターコネクタと、を備えている高温水蒸気電解セルスタックの製造方法であって、焼成した前記インターコネクタの上に、(La
1−x−ySr
xCa
y)
zMnO
3−AppmSiO
2−DppmMgO(但し、0<x≦0.4,0<y≦0.4,0.1≦x+y≦0.5,0.95≦z<1,A:10〜300,D:10〜400)の組成式で表される材料を成膜してプレインターコネクタ接合膜とし、前記プレインターコネクタ接合膜の上に前記酸素極の材料を成膜してプレ空気極とし、前記プレインターコネクタ接合膜および前記プレ酸素極を一緒に焼成してインターコネクタ接合膜および前記酸素極とする高温水蒸気電解セルスタックの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、インターコネクタと空気極との間に、(La
1−x−ySr
xCa
y)
zMnO
3−AppmSiO
2−DppmMgO(但し、0<x≦0.4,0<y≦0.4,0.1≦x+y≦0.5,0.95≦z<1,A:10〜300,D:10〜400)の組成式で表される材料からなるインターコネクタ接合膜を設けることで、燃料電池セルスタックおよび燃料電池モジュールの良好な発電性能と耐久性、耐熱サイクル性を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明に係る燃料電池セルスタックおよびその製造方法、燃料電池モジュールの一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0028】
以下においては、説明の便宜上、紙面を基準として「上」及び「下」の表現を用いて各構成要素の位置関係を特定するが、鉛直方向に対して必ずしもこの限りである必要はない。例えば、紙面における上方向が鉛直方向における下方向に対応してもよい。また、紙面における上下方向が鉛直方向に直行する水平方向に対応してもよい。
【0029】
まず、
図1を参照して本実施形態に係る燃料電池セルスタック(以降、セルスタック)について説明する。セルスタック101は、円筒形状の基体管103と、基体管103の外周面に複数形成された燃料電池セル105と、隣り合う燃料電池セル105の間に形成されたインターコネクタ107とを有する。燃料電池セル105は、燃料極109と固体電解質111と空気極113とが積層して形成されている。また、セルスタック101は、基体管103の外周面に形成された複数の燃料電池セル105の内、基体管103の軸方向において最も端に形成された燃料電池セル105の空気極113に、インターコネクタ107を介して電気的に接続されたリード膜115を有する。
またセルスタック101は、インターコネクタと空気極との間に直接挟まれているインターコネクタ接合膜108を有する。
【0030】
基体管103は、多孔質材料からなり、例えば、CaO安定化ZrO
2(CSZ)、又はY
2O
3安定化ZrO
2(YSZ)、又はMgAl
2O
4とされる。この基体管103は、燃料電池セル105とインターコネクタ107とリード膜115とを支持すると共に、基体管103の内周面に供給される燃料ガスを基体管103の細孔を介して基体管103の外周面に形成される燃料極109に拡散させるものである。
【0031】
燃料極109は、Niとジルコニア系電解質材料との複合材の酸化物で構成され、例えば、Ni/YSZが用いられる。この場合、燃料極109は、燃料極109の成分であるNiが燃料ガスに対して触媒作用を有する。この触媒作用は、基体管103を介して供給された燃料ガス、例えば、メタン(CH
4)と水蒸気との混合ガスを反応させ、水素(H
2)と一酸化炭素(CO)に改質するものである。また、燃料極109は、改質により得られる水素(H
2)及び一酸化炭素(CO)と、固体電解質111を介して供給される酸素イオン(O
2−)とを固体電解質111との界面付近において電気化学的に反応させて水(H
2O)及び二酸化炭素(CO
2)を生成するものである。なお、燃料電池セル105は、この時、酸素イオンから放出される電子によって発電する。
【0032】
固体電解質111は、ガスを通しにくい気密性と、高温で高い酸素イオン導電性とを有するYSZが主として用いられる。この固体電解質111は、空気極で生成される酸素イオン(O
2−)を燃料極に移動させるものである。
【0033】
空気極113は、例えば、LaMnO
3系酸化物又はLaCoO
3系酸化物で構成される。LaMnO
3系酸化物は、LaSrMnO
3、LaSrCaMnO
3を含む。この空気極113は、固体電解質111との界面付近において、供給される空気等の酸化性ガス中の酸素を解離させて酸素イオン(O
2−)を生成するものである。
【0034】
インターコネクタ107は、SrTiO
3系などのM
1−xL
xTiO
3(Mはアルカリ土類金属元素、Lはランタノイド元素)で表される導電性ペロブスカイト型酸化物から構成され、燃料ガスと酸化性ガスとが混合しないように緻密な膜となっている。また、インターコネクタ107は、酸化雰囲気と還元雰囲気との両雰囲気下で安定した電気導電性を有する。このインターコネクタ107は、隣り合う燃料電池セル105において、一方の燃料電池セル105の空気極113と他方の燃料電池セル105の燃料極109とを電気的に接続し、隣り合う燃料電池セル105同士を直列に接続するものである。リード膜115は、電子伝導性を有すること、及びセルスタック101を構成する他の材料との熱膨張係数が近いことが必要であることから、Ni/YSZ等のNiとジルコニア系電解質材料との複合材で構成されている。このリード膜115は、インターコネクタにより直列に接続される複数の燃料電池セル105で発電された直流電力をセルスタック101の端部付近まで導出すものである。
【0035】
インターコネクタ接合膜108は、(La
1−x−ySr
xCa
y)
zMnO
3−AppmSiO
2−DppmMgOの組成式で表される材料が焼成されてなる。但し、0<x≦0.4,0<y≦0.4,0.1≦x+y≦0.5,0.95≦z<1,A:10以上300以下,D:10以上400以下である。Aは100以上300以下、Dは100以上400以下であることが好ましい。(La
1−x−ySr
xCa
y)
zMnO
3はペロブスカイト構造を有する。SiO
2およびMgOは微量成分である。インターコネクタ接合膜108は、1200℃で焼結した前後の収縮率が8%以上25%以下であるとよい。インターコネクタ接合膜108の膜厚は、3μm以上20μm以下であるとよい。インターコネクタ接合膜108は、インターコネクタ107と空気極113とを接合するものである。
【0036】
次に、
図2と
図3とを参照して本実施形態に係るSOFCモジュール及びSOFCカートリッジについて説明する。ここで、
図2は、本実施形態に係るSOFCモジュールの一態様を示すものである。また、
図3は、本実施形態に係るSOFCカートリッジの一態様の断面図を示すものである。
【0037】
SOFCモジュール201は、
図2に示すように、例えば、複数のSOFCカートリッジ203と、これら複数のSOFCカートリッジ203を収納する圧力容器205とを有する。また、SOFCモジュール201は、燃料ガス供給管207と複数の燃料ガス供給枝管207aとを有する。またSOFCモジュール201は、燃料ガス排出管209と複数の燃料ガス排出枝管209aとを有する。また、SOFCモジュール201は、酸化性ガス供給管(不図示)と酸化性ガス供給枝管(不図示)とを有する。また、SOFCモジュール201は、酸化性ガス排出管(不図示)と複数の酸化性ガス排出枝管(不図示)とを有する。
【0038】
燃料ガス供給管207は、図示しない圧力容器205の外部に設けられSOFCモジュール201の発電量に対応して所定ガス組成と所定流量の燃料ガスを供給する燃料ガス供給部に接続されると共に、複数の燃料ガス供給枝管207aに接続されている。この燃料ガス供給管207は、上述の燃料ガス供給部から供給される所定流量の燃料ガスを、複数の燃料ガス供給枝管207aに分岐して導くものである。また、燃料ガス供給枝管207aは、燃料ガス供給管207に接続されると共に、複数のSOFCカートリッジ203に接続されている。この燃料ガス供給枝管207aは、燃料ガス供給管207から供給される燃料ガスを複数のSOFCカートリッジ203に略均等の流量で導き、複数のSOFCカートリッジ203の発電性能を略均一化させるものである。
【0039】
燃料ガス排出枝管209aは、複数のSOFCカートリッジ203に接続されると共に、燃料ガス排出管209に接続されている。この燃料ガス供給枝管209aは、SOFCカートリッジ203から排出される排燃料ガスを燃料ガス排出管209に導くものである。また、燃料ガス排出管209は、複数の燃料ガス供給枝管209aに接続されると共に、一部が圧力容器205の外部に配置されている。この燃料ガス排出管209は、燃料ガス排出枝管209aから略均等の流量で導出される排燃料ガスを圧力容器205の外部に導くものである。
【0040】
圧力容器205は、内部の圧力が0.1MPa〜約1MPa、内部の温度が大気温度〜約550℃で運用されるので、耐力性と酸化性ガス中に含まれる酸素などの酸化剤に対する耐食性を保有する材質が利用される。例えばSUS304などのステンレス系材が好適である。
【0041】
ここで、本実施形態においては、複数のSOFCカートリッジ203が集合化されて圧力容器205に収納される態様について説明しているが、これに限られず例えば、SOFCカートリッジ203が集合化されずに圧力容器205内に収納される態様とすることもできる。
【0042】
SOFCカートリッジ203は、
図3に示す通り、複数のセルスタック101と、発電室215と、燃料ガス供給室217と、燃料ガス排出室219と、酸化性ガス供給室221と、酸化性ガス排出室223とを有する。また、SOFCカートリッジ203は、上部管板225aと、下部管板225bと、上部断熱体227aと、下部断熱体227bとを有する。なお、本実施形態においては、SOFCカートリッジ203は、燃料ガス供給室217と燃料ガス排出室219と酸化性ガス供給室221と酸化性ガス排出室223とが
図3のように配置されることで、燃料ガスと酸化性ガスとがセルスタック101の内側と外側とを対向して流れる構造となっているが、必ずしもこの必要はなく、例えば、セルスタックの内側と外側とを平行して流れる、または酸化性ガスがセルスタックの長手方向と直交する方向へ流れるようにしても良い。
【0043】
発電室215は、上部断熱体227aと下部断熱体227bとの間に形成された領域である。この発電室215は、セルスタック101の燃料電池セル105が配置され、燃料ガスと酸化性ガスとを電気化学的に反応させて発電を行う領域である。また、この発電室215のセルスタックの長手方向の中央部付近での温度は、燃料電池モジュール201の定常運転時に、およそ700℃〜1000℃の高温雰囲気となる。
【0044】
燃料ガス供給室217は、SOFCカートリッジ203の上部ケーシング229aと上部管板225aとに囲まれた領域である。また、燃料ガス供給室217は、上部ケーシング229aに備えられた燃料ガス供給孔231aによって、図示しない燃料ガス供給枝管207aと連通されている。また、燃料ガス供給室217には、セルスタック101の一方の端部が、セルスタック101の基体管105の内部が燃料ガス排出室219に対して開放して配置されている。この燃料ガス供給室217は、図示しない燃料ガス供給管枝207aから燃料ガス供給孔231aを介して供給される燃料ガスを、複数のセルスタック101の基体管105の内部に略均一流量で導き、複数のセルスタック101の発電性能を略均一化させるものである。
【0045】
燃料ガス排出室219は、SOFCカートリッジ203の下部ケーシング229bと下部管板225bとに囲まれた領域である。また、燃料ガス排出室219は、下部ケーシング229bに備えられた燃料ガス排出孔231bによって、図示しない燃料ガス排出枝管209aと連通されている。また、燃料ガス排出室219には、セルスタック101の他方の端部が、セルスタック101の基体管105の内部が燃料ガス排出室219に対して開放して配置されている。この燃料ガス排出室219は、複数のセルスタック101の基体管105の内部を通過して燃料ガス排出室219に供給される排燃料ガスを集約して、燃料ガス排出孔231bを介して図示しない燃料ガス排出枝管209aに導くものである。
【0046】
SOFCモジュール201の発電量に対応して所定ガス組成と所定流量の酸化性ガスを酸化性ガス供給枝管へと分岐して、複数のSOFCカートリッジ203へ供給する。酸化性ガス供給室221は、SOFCカートリッジ203の下部ケーシング229bと下部管板225bと下部断熱体227bとに囲まれた領域である。また、酸化性ガス供給室221は、下部ケーシング229bに備えられた酸化性ガス供給孔233aによって、図示しない酸化性ガス供給枝管と連通されている。この酸化性ガス供給室221は、図示しない酸化性ガス供給枝管から酸化性ガス供給孔233aを介して供給される所定流量の酸化性ガスを、後述する酸化性ガス供給隙間235aを介して発電室215に導くものである。
【0047】
酸化性ガス排出室223は、SOFCカートリッジ203の上部ケーシング229aと上部管板225aと上部断熱体227aとに囲まれた領域である。また、酸化性ガス排出室223は、上部ケーシング229aに備えられた酸化性ガス排出孔233bによって、図示しない酸化性ガス排出枝管と連通されている。この酸化性ガス排出室223は、発電室215から、後述する酸化性ガス排出隙間235bを介して燃料ガス排出室223に供給される排酸化性ガスを、酸化性ガス排出孔233bを介して図示しない第3酸化性ガス排出枝管209bに導くものである。
【0048】
上部管板225aは、上部ケーシング229aの天板と上部断熱体227aとの間に、上部管板225aと上部ケーシング229aの天板と上部断熱体227aとが略平行になるように、上部ケーシング229aの側板に固定されている。また上部管板225aは、SOFCカートリッジ203に備えられるセルスタック101の本数に対応した複数の孔を有し、該孔にはセルスタック101が夫々挿入されている。この上部管板225aは、複数のセルスタック101の一方の端部をシール部材及び接着部材のいずれか一方又は両方を介して気密に支持すると共に、燃料ガス供給室217と酸化性ガス排出室223とを隔離するものである。
【0049】
下部管板225bは、下部ケーシング229bの底板と下部断熱体227bとの間に、下部管板225bと下部ケーシング229bの底板と下部断熱体227bとが略平行になるように下部ケーシング229bの側板に固定されている。また下部管板225bは、SOFCカートリッジ203に備えられるセルスタック101の本数に対応した複数の孔を有し、該孔にはセルスタック101が夫々挿入されている。この下部管板225bは、複数のセルスタック101の他方の端部をシール部材及び接着部材のいずれか一方又は両方を介して気密に支持すると共に、燃料ガス排出室219と酸化性ガス供給室221とを隔離するものである。
【0050】
上部断熱体227aは、上部ケーシング229aの下端部に、上部断熱体227aと上部ケーシング229aの天板と上部管板225aとが略平行になるように配置され、上部ケーシング229aの側板に固定されている。また、上部断熱体227aには、SOFCカートリッジ203に備えられるセルスタック101の本数に対応して、複数の孔が設けられている。この孔の直径はセルスタック101の外径よりも大きく設定されている。上部断熱体227aは、この孔の内面と、上部断熱体227aに挿通されたセルスタック101の外面との間に形成された酸化性ガス排出隙間235bを有する。
【0051】
この上部断熱体227aは、発電室215と酸化性ガス排出室223とを仕切るものであり、上部管板225aの周囲の雰囲気が高温化し強度低下や酸化性ガス中に含まれる酸化剤による腐食が増加することを抑制する。上部管板225a等はインコネルなどの高温耐久性のある金属材料から成るが、上部管板225a等が発電室215内の高温に晒されて上部管板225a等内の温度差が大きくなることで熱変形することを防ぐものである。また、上部断熱体227aは、発電室215を通過して高温に晒された排酸化性ガスを、酸化性ガス排出隙間235bを通過させて酸化性ガス排出室223に導くものである。
【0052】
本実施形態によれば、上述したSOFCカートリッジ203の構造により、燃料ガスと酸化性ガスとがセルスタック101の内側と外側とを対向して流れるものとなっている。このことにより、排酸化性ガスは、基体管103の内部を通って発電室215に供給される燃料ガスとの間で熱交換がなされ、金属材料から成る上部管板225a等が座屈などの変形をしない温度に冷却されて酸化性ガス排出室223に供給される。また、燃料ガスは、発電室215から排出される排酸化性ガスとの熱交換により昇温され、発電室215に供給される。その結果、ヒーター等を用いることなく発電に適した温度に予熱昇温された燃料ガスを発電室215に供給することができる。
【0053】
下部断熱体227bは、下部ケーシング229bの上端部に、下部断熱体227bと下部ケーシング229bの底板と下部管板225bとが略平行になるように配置され、下部ケーシング229bの側板に固定されている。また、下部断熱体227bには、SOFCカートリッジ203に備えられるセルスタック101の本数に対応して、複数の孔が設けられている。この孔の直径はセルスタック101の外径よりも大きく設定されている。下部断熱体227bは、この孔の内面と、下部断熱体227bに挿通されたセルスタック101の外面との間に形成された酸化性ガス供給隙間235aを有する。
【0054】
この下部断熱体227bは、発電室215と酸化性ガス供給室221とを仕切るものであり、下部管板225bの周囲の雰囲気が高温化し強度低下や酸化性ガス中に含まれる酸化剤による腐食が増加することを抑制する。下部管板225b等はインコネルなどの高温耐久性のある金属材料から成るが、下部管板225b等が高温に晒されて下部管板225b等内の温度差が大きくなることで熱変形することを防ぐものである。また、下部断熱体227bは、酸化性ガス供給室221に供給される酸化性ガスを、酸化性ガス供給隙間235aを通過させて発電室215に導くものである。
【0055】
本実施形態によれば、上述したSOFCカートリッジ203の構造により、燃料ガスと酸化性ガスとがセルスタック101の内側と外側とを対向して流れるものとなっている。このことにより、基体管103の内部を通って発電室215を通過した排燃料ガスは、発電室215に供給される酸化性ガスとの間で熱交換がなされ、金属材料から成る下部管板225b等が座屈などの変形をしない温度に冷却されて燃料ガス排出室219に供給される。また、酸化性ガスは排燃料ガスとの熱交換により昇温され、発電室215に供給される。その結果、ヒーター等を用いることなく発電に必要な温度に昇温された酸化性ガスを発電室215に供給することができる。
【0056】
発電室215で発電された直流電力は、複数の燃料電池セル105に設けたNi/YSZ等からなるリード膜115によりセルスタック101の端部付近まで導出した後に、SOFCカートリッジ203の集電棒(不図示)に集電板(不図示)を介して集電して、各SOFCカートリッジ203の外部へと取り出される。前記集電棒によってSOFCカートリッジ203の外部に導出された電力は、各SOFCカートリッジ203の発電電力を所定の直列数および並列数へと相互に接続され、SOFCモジュール201の外部へと導出されて、図示しないインバータなどにより所定の交流電力へと変換されて、電力負荷へと供給される。
【0057】
次に、本実施形態に係る燃料電池セルスタックを製造する方法について説明する。
まず、基体管の材料に水を加えて混練する。混練物を押し出し成型などで円筒状に成形して乾燥させたものをプレ基体管とする。
【0058】
燃料極の材料にバインダー液を添加し、燃料極用スラリーを作製する。スクリーン印刷法などにより燃料極用スラリーをプレ基体管の外周面上の所定位置に塗布することでプレ燃料極を成膜する。燃料極用スラリーの塗布は、プレ燃料極が所定の厚さとなるまで繰り返し実施してもよい。燃料極用スラリーは、少なくともプレ基体管の一端部側において、プレ基体管の端部が露出するよう端部を内側にずらして塗布すると良い。
【0059】
固体電解質の材料にバインダー液を添加し、固体電解質用スラリーを作製する。スクリーン印刷法などにより固体電解質用スラリーをプレ燃料極上に塗布することでプレ固体電解質を成膜する。固体電解質用スラリーの塗布は、プレ固体電解質が所定の厚さとなるまで繰り返し実施してもよい。固体電解質用スラリーは、少なくともプレ基体管の一端部側において、燃料極用スラリーが露出するよう端部を内側にずらして印刷すると良い。
【0060】
インターコネクタの材料にバインダー液を添加し、インターコネクタ用スラリーを作製する。隣接する発電セルが電気的に直列接続されるようインターコネクタ用スラリーを所定の位置に塗布することでプレインターコネクタを成膜する。インターコネクタ用スラリーは、スクリーン印刷法などにより塗布できる。インターコネクタ用スラリーの塗布は、プレインターコネクタが所定の厚さとなるまで繰り返し実施してもよい。
【0061】
プレ燃料極、プレ固体電解質、およびプレインターコネクタを成膜したプレ基体管を大気中で一体焼成し、燃料極、固体電解質およびインターコネクタの共焼結体を備えた基体管とする。焼成は、例えば電気炉を用いて1400℃で5時間の条件で行われる。焼結体となったインターコネクタは熱的に安定である。
【0062】
プレ燃料極、プレ固体電解質、およびプレインターコネクタを一体焼成する際、プレリード膜を共に焼成させてもよい。プレリード膜は、燃料極用スラリーと同様にリード膜用スラリーを作製し、プレ基体管の所定位置に塗布することで成膜する。
【0063】
インターコネクタ接合膜には、(La
1−x−ySr
xCa
y)
zMnO
3−AppmSiO
2−DppmMgO(但し、0<x≦0.4,0<y≦0.4,0.1≦x+y≦0.5,0.95≦z<1,A:10〜300,D:10〜400)の組成で表される材料を用いる。(La
1−x−ySr
xCa
y)
zMnO
3は、例えばLa
2O
3,SrCO
3,CaCO
3,およびMnO
2を混合して、該混合物質を所定温度で加熱することで合成できる。混合物質には(Si(OC
2H
5)
4、テトラエトキシシラン)、MgO(Mg(OH)
2、水酸化マグネシウム)などを添加し、SiO
2およびMgOが所定の濃度となるよう調整する。合成後、合成物を粉砕機で粉砕し、インターコネクタ接合膜の材料(粉末)とする。粉砕時間は、1200℃で焼成したときのインターコネクタ接合膜の収縮率が8%以上25%以下となるように設定する。粉砕時間が長いと、粉体は微粒化し収縮率が大きくなるに対して、粉砕時間が短いと粉体は微粒化せず収縮率は小さくなる。
【0064】
インターコネクタ接合膜の材料にバインダー液を添加し、インターコネクタ接合膜用スラリーを作製する。焼成したインターコネクタ上に、スクリーン印刷法などによりインターコネクタ接合膜用スラリーを塗布することでプレインターコネクタ接合膜を成膜する。インターコネクタ接合膜用スラリーの塗布は、プレインターコネクタ接合膜が所定の厚さとなるまで繰り返し実施してもよい。プレインターコネクタ接合膜はインターコネクタの空気極が重なる予定の全領域に塗布するとよい。
【0065】
空気極の材料にバインダー液を添加し、空気極用スラリーを作製する。空気極の材料は、収縮率の小さな粗粒と微粒とで構成するとよい。焼成した共焼結体上の所定領域およびプレインターコネクタ接合膜上に、スクリーン印刷法などにより空気極用スラリーを塗布することでプレ空気極を成膜する。空気極用スラリーの塗布は、プレ空気極が所定の厚さとなるまで繰り返し実施してもよい。
【0066】
共焼結体上にプレインターコネクタ接合膜およびプレ空気極を成膜した基体管を所定温度で焼成して、インターコネクタ接合膜および空気極の焼結体を形成する。焼成温度は1150℃〜1300℃、焼成時間は2時間〜5時間である。
【0067】
次に、インターコネクタ接合膜の材料の組成比の設定根拠について説明する。
材料組成等が異なる様々なインターコネクタ接合膜をそれぞれ備えた燃料電池セルスタックを上記実施形態に従って作製し、その性能(発電性能、耐久性、耐熱サイクル性)を評価した。
【0068】
(燃料電池セルスタックの作製)
まず、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)を主原料とした基体管原料に、メチルセルロースとポリエチレンオキサイドとグリセリンとを添加し、水を加えながら加圧ニーダで坏土状に混練した。この混練物をオーガー式押出機で3mm厚さの円筒状に成形し、乾燥させてプレ基体管とした。
【0069】
次に、NiOとYSZとを主成分とする燃料極の材料にバインダー液を添加して、3本ローラで剪断力を加えて燃料極用スラリーを作製した。スクリーン印刷法を用いて、燃料極用スラリーをプレ基体管上の所定位置に塗布した。燃料極用スラリーの塗布は、プレ燃料極の膜厚が100μmとなるまで繰り返した。
【0070】
固体電解質の材料としてYSZを用いた。YSZにバインダー液を加え、3本ローラで固体電解質用スラリーを作製した。スクリーン印刷法を用いて、固体電解質用スラリーをプレ燃料極上に塗布した。固体電解質用スラリーの塗布は、プレ固体電解質の膜厚が80μmとなるまで繰り返した。
【0071】
インターコネクタの材料としてSr
0.9La
0.1TiO
3(粉末)を用いた。YSZにバインダー液を加え、3本ローラでインターコネクタ用スラリーを作製した。スクリーン印刷法を用いて、インターコネクタ用スラリーをプレ基体管上の所定位置に塗布した。インターコネクタ用スラリーの塗布は、プレインターコネクタの膜厚が30μmとなるまで繰り返した。
【0072】
プレ燃料極、プレ固体電解質、およびプレインターコネクタを成膜したプレ基体管を乾燥させた後、1400℃で3時間以上保持して共焼結した。
【0073】
インターコネクタ接合膜の材料である(La
1−x−ySr
xCa
y)
zMnO
3−AppmSiO
2−DppmMgOの組成式で表される合成紛体を次にように作製した。La
2O
3,SrCO
3、CaCO
3およびMnO
2を任意の比率で混合した。そこへSi(OC
2H
5)
4とMg(OH)
2とを規定量添加して、微量元素(SiO
2,MgO)量を調整した。これを1150℃で加熱し、ペロブスカイト相を合成した。合成物は、エタノールを溶媒としてボールミル湿式粉砕を24時間行って粒径0.8μmの合成紛体とした。
【0074】
インターコネクタ接合膜の材料(合成紛体)にバインダー液を添加し、インターコネクタ接合膜用スラリーを作製した。焼成したインターコネクタ上に、スクリーン印刷法でインターコネクタ接合膜用スラリーを塗布した。インターコネクタ接合膜用スラリーの塗布は、プレインターコネクタ接合膜が任意の厚さとなるまで繰り返した。
【0075】
空気極の材料の基本組成を(La
0.5Sr
0.25Ca
0.25)
0.95MnO
3とした。空気極の材料にバインダー液を添加し、3本ローラで混練して空気極用スラリーを作製した。焼成した共焼結体上の所定領域およびプレインターコネクタ接合膜上に、スクリーン印刷法により空気極用スラリーを塗布した。空気極用スラリーの塗布は、プレ空気極の膜厚が所定の厚さとなるまで繰り返した。
【0076】
共焼結体上にプレインターコネクタ接合膜およびプレ空気極を成膜した基体管を、1200℃で2時間保持して焼成し、燃料電池セルスタックとした。
【0077】
合成紛体におけるLa,Sr,Ca,SiO
2およびMgOの含有量、インターコネクタ接合膜の膜厚、収縮率は、任意に変化させた。詳しい組成は表1〜表6に示す。表中のA/B比は、ペロブスカイト構造(ABO
3)を有する(La
1−x−ySr
xCa
y)
zMnO
3のAサイトおよびBサイトの比率(z)である。表中のインターコネクタ接合膜の微量成分(SiO
2,MgO)量は、上記で合成した合成粉体を高周波誘導結合プラズマ(ICP)によって分析した値である。表中の厚さは、焼成した後のインターコネクタ接合膜の膜厚を計測した値である。表中の収縮率は、合成紛体を用いてプレインターコネクタ接合膜を一軸成形し、1200℃×2時間の条件で焼成した際の焼成前後の長さから算出した値である。表1〜表5の試料No.2〜23において、Aサイトは(La
0.5Sr
0.25Ca
0.25)である。表6の試料24〜36において、SiO
2は215ppm、MgO量は252ppm、厚さは12μm、および収縮率は15%である。
【0078】
(性能評価方法)
燃料電池セルスタックにシール部品を装着し、燃料電池セルスタックの内側に燃料(60%H
2−40%N
2)を流し、燃料電池セルスタックを900℃に保持して性能(発電性能、耐久性、耐熱サイクル性)を評価した。
【0079】
発電性能は、300mA/cm
2時の作動電位で評価した。評価時の燃料利用率は60%で、空気利用率は20%である。作動電位が0.75V以上であれば、発電性能としては合格とした。
【0080】
耐久性は、1000時間あたりの劣化率として評価した。1000時間あたりの劣化率は、250時間評価時の電流値の変化(初期値からの変化)を4倍して推定した。劣化率が0.125%/1000時間以下であれば、実用に耐え得ると考えられる。
【0081】
耐熱サイクル(H/C)性は、燃料電池セルスタックに熱サイクル(室温(RT)⇔900℃)を加え、発電性能評価で取得した作動電位が5%以上劣化した時の熱サイクル回数をカウントして評価した。評価にあたっては、年間に1回の定期検査および非常停止が実施され、10年間で20回の熱サイクルが加わると仮定し、20回の熱サイクルが加わった時に劣化率が5%以下であれば(すなわち、H/Cが20回を超えれば)、耐熱サイクル性は合格とした。
【0082】
(評価結果)
性能を評価した結果を表1〜表6に示す。
【表1】
【0083】
試料No.1は、インターコネクタ接合膜の材料としてLa
0.5Sr
0.25Ca
0.25MnO
3−40wt%Sm
0.2Ce
0.8O
2を用いた燃料電池セルスタック(従来例)である。試料No.1は、発電性能の規定を満たすが、耐久性における劣化率が大きく、さらに耐熱サイクル性も悪く合格基準を満たさなかった。
【0084】
試料No.2〜No.5は、インターコネクタ接合膜におけるA/B比を0.93〜1.01の範囲で変化させた試料である。A/B比が低すぎる場合(No.2)は、発電性能が合格基準を満たさなかった。A/B比が1を超えた場合(No.5)、発電性能が低下し、耐熱サイクル性が低くなり合格基準を満たさなかった。一方、No.3およびNo.4は、発電性能、耐久性および耐熱サイクル性の合格基準を満たしていた。
【0085】
A/B比が0.95%を下回る場合、Mn拡散の影響で発電性能が低くなったと考えられる。また、A/B比が0.95%を下回る場合、インターコネクタ接合膜の焼結性が過剰となるため、インターコネクタと空気極との間に割れが発生し、発電性能が低くなったことも考えられる。A/B比が1%以上の場合、インターコネクタ接合膜の焼結性が低下し、インターコネクタと空気極との間に剥離が発生し(密着性が低下し)、発電性能の低下と耐熱サイクル性が低くなったと考えられる。
【0086】
上記結果から、A/B比は0.95以上から1未満が規定される。
【0088】
試料No.6〜No.10は、インターコネクタ接合膜の材料におけるSiO
2含有量を7ppm〜331ppmの範囲で変化させた試料である。No.6(SiO
2 7ppm)は、発電性能が低く、耐熱サイクル性も低下して合格基準を満たさなかった。SiO
2含有量が多いNo.10(SiO
2 331ppm)は、発電性能が低く、合格基準を満たさなかった。一方、No.7〜No.9は、発電性能、耐久性および耐熱サイクル性の合格基準を満たしていた。
【0089】
SiO
2含有量が10ppmを下回る場合、インターコネクタ接合膜の粒界相が少なく、粒界同士の焼結が不十分となり(空気極およびインターコネクタとの密着性が低下し)、電気的な導電性が低下して発電性能が低く、さらに耐熱サイクル性が低下したと考えられる。SiO
2含有量が300ppmを上回る場合、インターコネクタ接合膜の粒界相が多くなり、粒界部の絶縁性が高まり、導電性が低下して、発電性能が低下する。
【0090】
上記結果から、SiO
2含有量は10ppm以上300ppm以下、好ましくは100ppm以上300ppm以下で規定される。
【0092】
試料No.11〜No.15は、インターコネクタ接合膜の材料におけるMgO含有量を8ppm〜423ppmの範囲で変化させた試料である。MgO含有量が少ないNo.11(MgO 8ppm)は、耐久性および耐熱サイクル性が低く、合格基準を満たさなかった。MgO含有量が一番多いNo.15(MgO 423ppm)は、発電性能が低く、更に耐久性も低く合格基準を満たさなかった。一方、No.12〜No.14は、発電性能、耐久性および耐熱サイクル性の合格基準を満たしていた。
【0093】
MgO含有量が10ppmを下回る場合、インターコネクタ接合膜の粒界部のMgO含有量が少なく、粒界強度が弱く、電気的な接続が悪化しやすいため、耐久性が悪く、さらに耐熱サイクル性も劣化しやすくなると考えられる。MgO含有量が400ppmを上回る場合、インターコネクタ接合膜の粒界相が多くなり、導電性が低下して発電性能が低下することに加えて、MgOが多いために運転中にMg
2+が移動し三相界面に第二相を形成し粒界相の抵抗が高くなりやすく耐久性が低下したと考えられる。
【0094】
上記結果から、MgO含有量は10ppm以上400ppm以下、好ましくは100ppm以上400ppm以下で規定される。
【0096】
試料No.16〜No.19は、インターコネクタ接合膜の膜厚を1μm〜24μmの範囲で変化させた試料である。インターコネクタ接合膜が薄いNo.16(膜厚1μm)は、耐熱サイクル性が低く、合格基準を満たさなかった。インターコネクタ接合膜が厚いNo.19(膜厚24μm)は、発電性能および耐熱サイクル性が低く合格基準を満たさなかった。一方、No.17およびNo.18は、発電性能、耐久性および耐熱サイクル性の合格基準を満たしていた。
【0097】
インターコネクタ接合膜の厚さが3μmを下回ると、耐熱サイクル性が低下するが、これは密着性を高める膜が薄くなることで、熱サイクル時の熱応力に耐えられず、若干の剥れが生じるためと考えられる。インターコネクタ接合膜の厚さが20μmを上回る場合は、発電性能と耐熱サイクル性が低下する。インターコネクタ接合膜は、空気極より焼結性が良好であるため、厚さが厚くなりすぎると収縮量が大きくなりすぎ割れや剥れが発生するため発電性能を低下し、さらに耐熱サイクル性が低下すると考えられる。
【0098】
上記結果から、インターコネクタ接合膜の厚さは、3μm以上20μm以下で規定される。
【0100】
試料No.20〜No.23は、インターコネクタ接合膜の収縮率を6%〜27%の範囲で変化させた試料である。収縮率が一番小さいNo.20(収縮率6%)および収縮率が一番大きいNo.23(収縮率27%)は、発電性能、耐久性および耐熱サイクル性の合格基準を満たさなかった。一方、No.21およびNo.22は、発電性能、耐久性および耐熱サイクル性の合格基準を満たしていた。
【0101】
インターコネクタ接合膜の収縮率が8%を下回る場合には、インターコネクタおよび空気極との密着性が悪くなり、発電性能、耐久性および耐熱サイクル性が低下したと考えられる。インターコネクタ接合膜の収縮率が25%を上回る場合には、インターコネクタ接合膜が過度に収縮し、割れや剥離が発生するために、発電性能、耐久性および耐熱サイクル性が低下したと考えられる。
【0102】
上記結果から、インターコネクタ接合膜の収縮率は、8%以上25%以下で規定される。
【0104】
試料No.24〜No.32は、インターコネクタ接合膜の材料におけるLa量を0.4mol〜1molの範囲で変化させた試料である。La量が0.4molであるNo.24およびNo.29は、発電性能および耐久性の合格基準を満たすが、耐熱サイクル性が悪く合格基準を満たさなかった。La量が多いNo.28およびNo.30(La量1molおよび0.95mol)は、発電性能の合格基準を満たさなかった。No.28は、さらに耐熱サイクル性においても合格基準を満たしていなかった。一方、No.25からNo.27、No.31およびNo.32は、発電性能、耐久性および耐熱サイクル性の合格基準を満たしていた。
【0105】
La量が少ない場合には、Sr量およびCa量が多くなる。SrおよびCaは線膨張係数が大きい元素であるため、インターコネクタ接合膜の線膨張係数が大きくなる。それにより、熱サイクル時の応力が高くなり、接合界面での剥離が発生するために耐熱サイクル性を満たさなかったと考えられる。La量が多い場合には、Sr量およびCa量が少なくなり、インターコネクタ接合膜の導電率が低下し、セル抵抗が増加する。この結果、発電性能が規定を満たさなくなる。また、Sr、Caをまったく含まない場合には、焼結性が低下し、インターコネクタ接合膜と空気極との密着性が低下して、耐熱サイクル性が低下する。
【0106】
上記結果から、インターコネクタ接合膜の材料におけるLa量は、0.5mol以上0.9mol以下で規定される。
【0107】
試料No.25およびNo.33〜No.36は、インターコネクタ接合膜の材料におけるSr量およびCa量を0mol〜0.5molの範囲で変化させた試料である。試料No.33(Sr0.5mol/Ca0mol)は、発電性能、耐久性および耐熱サイクル性が合格基準を満たしていなかった。試料No.36(Sr0mol/Ca0.5mol)は、発電性能が低く、耐久性も合格基準を満たさなかった。一方、No.25、No.34およびNo.35は、発電性能、耐久性および耐熱サイクル性の合格基準を満たしていた。
【0108】
Sr量が多く、Ca量が少ない場合には、第2相が生成して抵抗が高くなり、さらに発電中も第2相の生成が続き抵抗が高くなる。また、線膨張係数も高いことから、接合界面でのミスマッチが原因となり熱サイクル時に亀裂が発生する。それにより、発電性能、耐久性および耐熱サイクル性が規定を満たさないと考えられる。
【0109】
Ca量が多く、Sr量が少ない場合には、第2相が生成して抵抗が高く発電性能が低下し、さらに発電中も第2相の生成が続き抵抗が高くなることから耐久性が低下すると考えられる。
【0110】
上記結果から、インターコネクタ接合膜の材料におけるSr量およびCa量は、それぞれ0molより多く0.5molより少ない量で規定される。
【0111】
上記検討によれば、(La
1−x−ySr
xCa
y)
zMnO
3−AppmSiO
2−DppmMgOの組成式で表される材料が焼成されてなるインターコネクタ接合膜を備えた燃料電池セルスタックは良好な発電性能、耐久性、耐熱サイクル性を備えていることが確認された。上記組成式において、0<x≦0.4,0<y≦0.4,0.1≦x+y≦0.5,0.95≦z<1,A:10以上300以下,D:10以上400以下である。Aは100以上300以下、Dは100以上400以下であることが好ましい。
【0112】
なお、上述には、固体酸化物燃料電池の構造について記載されているが、同様の構造が水蒸気から水素と酸素を生成する高温水蒸気電解セルに適用できることは、当業者には理解されよう。この場合、水蒸気から水素と酸素を生成する電解セルが、水素極(燃料極)、固体電解質、及び酸素極(空気極)によって形成され、隣接する2つの電解セルがインターコネクタによって電気的に接続される。