【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
マウス血液から、以下の手順でRNAを抽出し、抽出したRNAを鋳型としてRT−PCRを行い、RNAに由来する増幅断片をアガロースゲル電気泳動により確認した。
【0044】
(RNA抽出試薬の調製)
以下の組成のRNA抽出試薬を調製した。
塩化リチウム、75mM TAPS(pH8.0)、2.25mM CaCl
2、15mM MgCl
2、175mM グリコール酸、5mM デオキシコール酸、50mM EDTA、0.05% Triton X−100
【0045】
塩化リチウムは0M、0.1M、0.2M、0.5M、1.0M、2.0M、3.0M、4.0M、5.0M、6.0M、7.0Mの濃度にてRNA抽出試薬を調製した。
【0046】
(RNAの抽出)
マウスより血液を回収した。抗凝固剤としてはヘパリンを用いた。このマウス血液2μlにRNA抽出試薬を18μl添加し、75℃にて5分間インキュベートした。インキュベート後の溶液を室温まで冷却した後、2μlのDNase I(10Unitsに相当する量)を添加し、42℃/5分間→75℃/10分間インキュベートした。
【0047】
(RT−PCR)
上記にて調製したRNA試料を室温まで冷却し、それを鋳型としてRT−PCRを行い、検体に由来する核酸の増幅断片を得た。RT−PCRは、H3F3A mRNAを標的とし、フォワードプライマーF1(5’−GGCCTCACTTGCCTCCTGCAA−3’;配列番号1)、リバースプライマーR1(5’−GCAAGAGTGCGCCCTCTACTG−3’;配列番号2)をプライマーセットとして用いた。RT−PCRはPrimeScript One Step RT−PCR Kit Ver.2(タカラバイオ社製)を用い、上記で調製したRNA試料を反応溶液に対して2%容量添加し行った。反応は、50℃/30分間の逆転写反応、94℃/1分間の逆転写酵素の失活処理の後、94℃/15秒間→62℃/15秒間→72℃/15秒間のPCRサイクルを30サイクル行った。また、ネガティブコントロールとして増幅断片がDNAに由来するものではないことを確認するために、逆転写反応をせずに、94℃/15秒間→60℃/15秒間→72℃/15秒間のPCRサイクルを30サイクル行った。次に、RT−PCR産物を常法に基づきアガロースゲル電気泳動に供し、増幅断片を可視化した。
【0048】
アガロースゲル電気泳動により可視化した増幅断片の結果を表1に示す。塩化リチウム濃度が0.5〜5.0MであるRNA抽出試薬を用いた場合、RT−PCRの場合のみ増幅断片が確認され、RNAが適切に抽出されたことが分かった。
【0049】
【表1】
【0050】
[実施例2]
マウス血液から、以下の手順でRNAを抽出し、抽出したRNAを鋳型としてRT−PCRを行い、RNAに由来する増幅断片をアガロースゲル電気泳動により確認した。
【0051】
(RNA抽出試薬の調製)
以下の組成のアルカリ金属塩を含むRNA抽出試薬を調製した。
0.7M アルカリ金属塩、75mM TAPS(pH8.0)、2.25mM CaCl
2、15mM MgCl
2、175mM グリコール酸、5mM デオキシコール酸、50mM EDTA、0.05% Triton X−100
【0052】
アルカリ金属塩としては塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化カリウム、ヨウ化カリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、酢酸リチウム、リン酸二水素ナトリウム、酒石酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸カリウムを用いた。
【0053】
また、アルカリ金属塩として塩化リチウムを用い、界面活性剤としてデオキシコール酸を省いたRNA抽出試薬を調製した。
【0054】
(RNAの抽出)
調製したRNA抽出試薬を用いて、実施例1と同様の手法により、マウスより血液を回収し、RNAを抽出した。
【0055】
(RT−PCR)
実施例1と同様の手法により、上記にて抽出したRNA試料を鋳型としてRT−PCRを行い、各検体に由来する核酸の増幅断片を得た。
【0056】
アガロースゲル電気泳動により可視化した、増幅の有無の検討結果を表2に示す。アルカリ金属塩を含むRNA抽出試薬を用いた場合、RT−PCRの場合のみ増幅断片が確認され、RNAが適切に抽出されたことが分かった。また、アルカリ金属塩の中では、アルカリ金属ハロゲン化物を含むRNA抽出試薬を用いた場合、RT−PCRにおける増幅効率が高かった。また、これらRNA抽出試薬はDNase I処理やRT反応、PCRを阻害しないことが分かった。
【0057】
【表2】
【0058】
[比較例1]
マウス血液から、以下の手順でRNAを抽出し、抽出したRNAを鋳型としてRT−PCRを行い、増幅断片をアガロースゲル電気泳動により確認した。
【0059】
(RNA抽出試薬の調製)
以下の組成の強カオトロピック物質もしくは多価金属塩もしくはアンモニウム塩を含むRNA抽出試薬を調製した。
0.7 M強カオトロピック物質もしくは多価金属塩もしくはアンモニウム塩、75mM TAPS(pH8.0)、2.25mM CaCl
2、15mM MgCl
2、175mM グリコール酸、5mM デオキシコール酸、50mM EDTA、0.05% Triton X−100
【0060】
強カオトロピック物質としてはグアニジンチオシアネート、塩酸グアニジン、尿素を用いた。多価金属塩としては塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ニッケル、塩化マンガンを用いた。アンモニウム塩としてはリン酸水素二アンモニウムを用いた。また、RNA保護剤としての塩を含まず、界面活性剤のみを含むRNA抽出試薬を調製した。
【0061】
(RNAの抽出)
調製したRNA抽出試薬を用いて、実施例1と同様の手法により、マウスより血液を回収し、RNAを抽出した。
【0062】
(RT−PCR)
実施例1と同様の手法により、上記にて抽出したRNA試料を鋳型としてRT−PCRを行った。
【0063】
アガロースゲル電気泳動により可視化した増幅断片の結果を表2に示す。多価金属塩を用いた場合、増幅断片はRT−PCR、PCRにおいても確認されなかった。これより、多価金属イオンがRNA保護剤として機能しなかった、もしくは酵素反応を阻害したことが分かった。つまり、本系において多価陽イオンは、RNA抽出試薬の添加剤として好ましくない。強カオトロピック物質、アンモニウム塩を用いた場合、増幅断片はRT−PCR、PCRにおいて確認された。これより、強カオトロピック物質やアンモニウム塩によりDNase I処理が阻害されたことが分かった。つまり、本系において強カオトロピック物質及びアンモニウム塩はRNA抽出試薬の添加剤として好ましくない。RNA保護剤としての塩を含まない場合、RNAが分解され、増幅断片はRT−PCR、PCRにおいても確認されなかった。
【0064】
[比較例2]
マウス血液から、以下の手順でRNAを抽出し、抽出したRNAを鋳型としてRT−PCRを行い、増幅断片をアガロースゲル電気泳動により確認した。
【0065】
(RNA抽出試薬の調製)
以下の組成の界面活性剤を含まないRNA抽出試薬を調製した。
0.7M 塩化リチウム、75mM TAPS(pH8.0)、2.25mM CaCl
2、15mM MgCl
2、50mM EDTA
【0066】
(RNAの抽出)
調製したRNA抽出試薬を用いて、実施例1と同様の手法により、マウスより血液を回収し、検体からRNAを抽出した。
【0067】
(RT−PCR)
実施例1と同様の手法により、上記にて抽出したRNA試料を鋳型としてRT−PCRを行った。
【0068】
アガロースゲル電気泳動により可視化した増幅断片の結果を表2に示す。界面活性剤を含まないRNA抽出試薬を用いた場合、増幅断片はRT−PCR、PCRにおいて確認された。これは、界面活性剤を含まないことにより、検体が完全に溶解せず、DNase IによりDNAを除去しきれなかったためである。
【0069】
[実施例3]培養細胞からのRNA抽出
ヒト培養細胞であるHEK293T細胞及びJurkat細胞から、以下の手順でRNAを抽出し、その存在をアガロースゲル電気泳動により確認した。
【0070】
(RNA抽出試薬の調製)
以下の組成の塩化リチウムを含むRNA抽出試薬を調製した。
0.7M 塩化リチウム、75mM TAPS(pH8.0)、2.25mM CaCl
2、15mM MgCl
2、175mM グリコール酸、5mM デオキシコール酸、50mM EDTA、0.05% Triton X−100
【0071】
(RNAの抽出)
10
3〜10
5個分の培養細胞を遠心分離し、ペレットとして回収した。この細胞ペレットにRNA抽出試薬を18μl添加し、75℃にて5分間インキュベートした。インキュベート後の溶液を室温まで冷却した後、2μlのDNase I(10 Units分)を添加し、42℃/5分間→75℃/10分間インキュベートした。
【0072】
(RT−PCR)
上記にて抽出したRNA試料を室温まで冷却し、それぞれを鋳型としてRT−PCRを行い、細胞に由来する核酸の増幅断片を得た。RT−PCRは、ACTB mRNAを標的とし、フォワードプライマーF2(5’−AGATGGCCACGGCTGCT−3’;配列番号3)、リバースプライマーR2(5’−AACCGCTCATTGCCAATGG−3’;配列番号4)をプライマーセットとして用いた。RT−PCRはPrimeScript One Step RT−PCR Kit Ver.2(タカラバイオ社製)を用い、上記で調製したRNA試料を反応溶液に対して2%容量添加し行った。反応は、50℃/30分間の逆転写反応、94℃/1分間の逆転写酵素の失活処理の後、94℃/15秒間→60℃/15秒間→72℃/15秒間のPCRサイクルを30サイクル行った。また、ネガティブコントロールとして、逆転写反応をせずに、94℃/15秒間→60℃/15秒間→72℃/15秒間のPCRサイクルを30サイクル行った。次に、RT−PCR産物を常法に基づきアガロースゲル電気泳動に供し、増幅断片を可視化した。
【0073】
アガロースゲル電気泳動により可視化した増幅断片を
図1に示す。HEK293T細胞、Jurkat細胞を検体とした場合、共に特異的増幅断片が確認され、RNAが適切に抽出されたことが分かった。