特許第6301260号(P6301260)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6301260-RNA調製法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6301260
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】RNA調製法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20180319BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALN20180319BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   !C12Q1/68 Z
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-543359(P2014-543359)
(86)(22)【出願日】2013年10月25日
(86)【国際出願番号】JP2013078939
(87)【国際公開番号】WO2014065395
(87)【国際公開日】20140501
【審査請求日】2016年10月24日
(31)【優先権主張番号】特願2012-237057(P2012-237057)
(32)【優先日】2012年10月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】307034210
【氏名又は名称】Biocosm株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 創太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮本 重彦
(72)【発明者】
【氏名】友野 潤
(72)【発明者】
【氏名】平塚 哉
【審査官】 田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−523463(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0003575(US,A1)
【文献】 特開2004−000922(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/108471(WO,A1)
【文献】 特開2004−201558(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/083844(WO,A1)
【文献】 SHIRZADEGAN M.et al.,An efficient method for isolation of RNA from tissue cultured plant cells.,Nucleic Acids Res.,1991 November 11,19(21),p.6055
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12N 15/09
C12Q 1/00−3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIX(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属塩、並びにグリコール酸類及びデオキシコール酸類を含む界面活性剤を含み、アルカリ金属塩の濃度が0.3〜5.0Mである
ことを特徴とする、生物試料中のRNAを抽出するための試薬。
【請求項2】
アルカリ金属塩が、アルカリ金属ハロゲン化物である、請求項1に記載の試薬。
【請求項3】
アルカリ金属塩が、塩化リチウムである、請求項1又は2に記載の試薬。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかに記載の試薬を有することを特徴とする、RNA抽出キット。
【請求項5】
請求項1〜のいずれかに記載の試薬、又は請求項に記載のRNA抽出キットを用いることを特徴とする、生物試料中のRNAを抽出する方法。
【請求項6】
下記工程(a)〜(b):
(a)請求項1〜3のいずれかに記載の試薬を用いて、生物試料からRNAを抽出する工程、および
(b)工程(a)で得られたRNA抽出液を、さらなる精製工程または希釈工程を行うことなく、酵素反応溶液に直接基質として混合し、酵素反応を開始する工程
を含む、生物試料中のRNAを抽出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物試料中のRNAを非分解で抽出する方法であって、アルカリ金属塩及び界面活性剤を含むRNA抽出試薬を用いる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子工学の発展に伴い、ウイルスの検出、細胞動態の解析、体質検査、医薬品の奏効検査などへ遺伝子検査が利用されている。これら遺伝子検査での解析対象の1つであるRNAはDNAに比べて不安定であり、生物試料中に含まれる内在性リボヌクレアーゼや高温・アルカリ処理により容易に分解する。そのため、RNAの調製にはその分解を防ぐための高度な技能、多段階に渡る実験工程、高価な専用機器・試薬が必要であった。
【0003】
例えば、生物試料からRNAを回収する一般的な方法として、タンパク質変性剤と有機溶媒を併用することで検体を溶解し、内在性リボヌクレアーゼを失活させることにより非分解のRNAを回収するAcid Guanidium Phenol Chloroform(AGPC)法(非特許文献1)やホットフェノール法(非特許文献2)が知られている。しかし、いずれの方法も、核酸増幅反応などの酵素反応を阻害する有機溶媒や高濃度の変性剤を含むため、危険性が高いだけでなく、それらを除去するための多段階に渡る工程と長い処理時間が必要で、コストや簡便さの点で問題がある。
【0004】
一方、RNAの調製を簡便化する目的で、有機溶媒を使用せず、タンパク質変性剤として強カオトロピック物質と界面活性剤を用いてRNAを抽出し、抽出液を直接酵素反応に供する手法も開発されている。例えば、変性剤としてグアニジンチオシアネートとサルコシルを用いて生物試料を溶解し、RNAを内在性リボヌクレアーゼによる分解から保護しながら抽出する方法(特許文献1)が知られている。この抽出液は直接酵素反応に供することができる。この手法によれば、抽出液を酵素反応に供する前に、変性剤を除去する工程を必要とせず、従来法より簡便にRNAを抽出できる。しかし、グアニジンチオシアネートなどの強カオトロピック物質やサルコシルはタンパク質の強い変性剤であり、酵素反応系におけるこれら強い変性剤の存在は、効率的な酵素反応という観点において好ましくない。
【0005】
これに対し、その後の酵素反応を阻害しない核酸抽出法としてはコール酸、グリコール酸を使用した手法(特許文献2)が知られている。本手法によれば、生物試料より抽出された核酸は精製工程や希釈工程を必要とせず、直接核酸増幅法などの酵素反応に供することができる。しかし、本手法は内在性リボヌクレアーゼによるRNAの分解を防ぐことができず、非分解のRNAの抽出は不可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4836795号公報
【特許文献2】国際公開第2007/116450号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Chomczynski&Sacchi(1987) Analytical Biochemistry,162:156−159.
【非特許文献2】水野貴之(2003)バイオ実験イラストレイテッド(7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来法より簡便に、酵素反応に供試可能なRNAを調製する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アルカリ金属塩及び界面活性剤を含むことを特徴とする、生物試料中のRNAを抽出するための試薬に関する。
【0010】
アルカリ金属塩が、アルカリ金属ハロゲン化物であることが好ましい。
【0011】
アルカリ金属塩が、塩化リチウムであることが好ましい。
【0012】
界面活性剤が、グリコール酸類を含むことが好ましい。
【0013】
界面活性剤が、さらに、デオキシコール酸類を含むことが好ましい。
【0014】
また、本発明は、前記試薬を有することを特徴とする、RNA抽出キットに関する。
【0015】
また、本発明は、前記試薬、又はRNA抽出キットを用いることを特徴とする、生物試料中のRNAを抽出する方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来法より簡便に、酵素・化学反応などに供試可能なRNAを非分解状態で調製できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】細胞を検体としてRNAを抽出し、RT−PCRに供した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に記載する。
本発明において、生物試料から非分解のRNAを調製するために、アルカリ金属塩と界面活性剤を使用し、検体に内在するリボヌクレアーゼによるRNAの分解を防止しながら、その後の酵素反応に供試可能なRNAを調製する。
【0019】
本発明において、生物試料とは動物又は植物の細胞、組織、全血、血清、リンパ液、組織液、尿、精液、膣液、羊水、涙、唾液、汗などの体液、エキソソームなどの細胞に由来する小胞、糞便、痰、細菌、ウイルスなどが例示されるが、核酸を含有するものであればこれに限定されない。
【0020】
本発明において、RNAとはmessenger RNAやtransfer RNA、ribosomal RNA、small nuclear RNA、small nucleolar RNA、micro RNAなどのnon−translatable RNAなどが例示されるが、リボヌクレオチドの重合体を含有するものであればこれに限定されない。
【0021】
RNAの一般的な調製法である固相担体へのRNAの吸着を利用した手法や、有機溶媒や水溶性高分子、界面活性剤の添加によるRNAの不溶化を利用した手法においては、処理液を精製するための煩雑な操作を必要とするだけでなく、RNAの分子量によって回収効率に差があり、目的とするRNAが得られない場合がある。一方、本発明におけるRNA調製法は、RNA抽出液をその後の解析に直接供試可能であり、処理液は検体に含まれていた全ての分子量のRNAを損失無く含むという利点を有する。
【0022】
本発明において、RNAを抽出するためのRNA抽出試薬は、RNA保護剤としてアルカリ金属塩を含む。
【0023】
本発明におけるアルカリ金属塩とは、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩が例示される。好ましくは塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、酢酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、二亜硫酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、酢酸カリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸カリウム、フッ化ルビジウム、塩化ルビジウム、臭化ルビジウム、ヨウ化ルビジウム、酢酸ルビジウム、塩化セシウム、臭化セシウム、ヨウ化セシウム、酢酸セシウムが例示されるがこれに限定されない。より好ましくは、アルカリ金属ハロゲン化物が例示される。さらに好ましくは、ハロゲン化物のうち、カオトロピック効果が小さい塩化リチウムが例示される。これらのアルカリ金属塩は、単独で使用しても、組み合わせて使用しても良い。
【0024】
アルカリ金属塩はRNA保護効果を有する一方、核酸関連酵素の補因子とならず、他の、補因子となりうる多価陽イオンを生ずる金属塩より、酵素活性に与える影響が小さいという利点を有する。
【0025】
RNA抽出試薬に含まれるアルカリ金属塩の濃度は、当業者によれば容易に最適値を決定することができるが、一例として0.2M以上、飽和濃度以下が好ましく、0.3M以上、5.0M以下がより好ましく、0.3M以上、2.5M以下がさらに好ましい。アルカリ金属塩の濃度が低すぎると、RNAを内在性リボヌクレアーゼによる分解から保護することができず、濃度が高すぎると、RNAを保護することはできるが、その後の酵素反応を阻害する傾向がある。
【0026】
本発明において、RNA抽出試薬は、検体溶解剤として界面活性剤を含む。本発明における界面活性剤とはイオン性・非イオン性・両イオン性界面活性剤が例示される。好ましくはTween20、Tween40、Tween60、Tween80などのTween類、Triton X−100、Triton X−114、Triton XL−80NなどのTriton類、Nonidet類、NP−40などの非イオン性界面活性剤、コール酸類、デオキシコール酸類、グリコール酸類などの陰イオン性界面活性剤が例示され、より好ましくはTween20、Triton X−100、デオキシコール酸、グリコール酸が例示されるが、酵素反応を阻害しない界面活性剤であればこれに限定されない。これらの界面活性剤は単独で使用しても、組み合わせて使用しても良い。
【0027】
RNA抽出試薬に含まれる界面活性剤の濃度は、当業者によれば容易に最適値を決定することができるが、コール酸類、デオキシコール酸類、グリコール酸類を用いる場合、その濃度は1mM以上であることが好ましい。界面活性剤の濃度が低すぎると、生物試料を溶解させることができない傾向がある。
【0028】
本発明において、RNA抽出試薬は緩衝剤を含んでいても良い。本発明における緩衝剤としては、リン酸緩衝液やグッド緩衝液等の緩衝剤が好適に用いられる。これらの中でも、MES、Bis−Tris、ADA、PIPES、ACES、MOPSO、BES、MOPS、TES、HEPES、DIPSO、TAPSO、POPSO、HEPPSO、EPPS、Tricine、Tris、Bicine、TAPS、CHES、CAPSO、CAPS等のグッド緩衝液が好ましく、TAPSが特に好ましい。これらの緩衝剤は単独で使用しても、組み合わせて使用しても良い。
【0029】
本発明において、RNA抽出試薬は、生物試料に由来する夾雑物による酵素反応阻害を低減させる効果を有するアルブミンなどのタンパク質成分、ポリアミン、シクロデキストリン、トレハロース、PVP(Polyvinylpyrrolidone)、ポリエチレングリコールなどの水溶性高分子を含んでいても良い。
【0030】
本発明において、RNA抽出試薬は、氷点下での凍結を防止するためのグリセロール、ベタイン、スクロースなどの不凍剤を含んでいても良い。
【0031】
本発明において、RNA抽出試薬は、ヌクレアーゼ活性の失活をさらに確実にするためのキレート剤やヌクレアーゼインヒビター、DTT(ジチオスレイトール)等の還元剤、その後の酵素反応のためのDMSOやホルムアミドといった有機溶媒を含んでいても良い。
【0032】
生物試料とRNA抽出試薬の混合比は、9:1〜1:999であることが好ましく、4:1〜1:499であることがより好ましく、1:1〜1:99であることがさらに好ましい。
【0033】
本発明において、生物試料とRNA抽出試薬を混合した後、RNA抽出処理時に、生物試料を物理的に破砕しても良く、例えば、凍結融解による破砕や、ホモジナイザーによる物理的破砕法などと組み合わせることが可能である。また、本発明によれば、生物試料とRNA抽出試薬を混合する以前に、破砕操作せずともRNAを抽出することが可能である。
【0034】
生物試料とRNA抽出試薬を混合した後、生物試料からRNAを抽出するために、熱処理を実施しても良い。熱処理温度は好ましくは0℃以上、100℃以下であり、より好ましくは30℃以上、90℃以下であり、さらに好ましくは50℃以上、80℃以下である。温度が低すぎると抽出効率が低くなる傾向があり、高すぎるとRNAが分解する傾向がある。熱処理時間は好ましくは30分以下であり、より好ましくは15分以下である。処理時間が短すぎると抽出効率が低くなる傾向があり、長すぎるとRNAが分解する傾向がある。
【0035】
本発明において、RNA抽出液に対して、さらなる精製工程や希釈工程などを必要とせず、RNA抽出液を酵素反応溶液に直接基質として混合し、核酸増幅反応などの酵素反応を開始することが可能である。反応させる酵素として、例えば、デオキシリボヌクレアーゼ、リボヌクレアーゼ、エキソヌクレアーゼ、エンドヌクレアーゼなどのヌクレアーゼ、プロテイナーゼ、ペプチダーゼなどのプロテアーゼ、DNA依存性DNAポリメラーゼ、RNA依存性DNAポリメラーゼ、DNA依存性RNAポリメラーゼ、RNA依存性RNAポリメラーゼ、耐熱性ポリメラーゼ、鎖置換ポリメラーゼ、ターミナルトランスフェラーゼなどのポリメラーゼ、リガーゼ、リコンビナーゼ、リゾチーム、セルラーゼなどが挙げられる。RNA抽出液と酵素反応溶液との混合比は、1:999〜999:1であることが好ましく、1:99〜99:1であることがより好ましく、1:49〜49:1であることがさらに好ましい。
【0036】
本発明において、RNA抽出液は、エチジウムブロマイド、SYBR(R) Green、PicoGreen(R)などの核酸蛍光標識試薬や蛍光標識プローブと混合し、含有するRNAを検出することができる。また、RNA抽出液を蛍光標識試薬存在下で核酸増幅反応に供し、リアルタイムで増幅反応をモニターすることも可能である。また、RNA抽出液をシーケンス反応に供することも可能である。
【0037】
本発明において、核酸増幅反応とは、PCR法に代表される核酸配列を増幅させる手法であり、例えば、PCR法以外にLCR(Ligase Chain Reaction)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法、RCA(Rolling Circle Amplification)法、CPT(Cycling Probe Technology)法、Q−Beta Replicase Amplification Technology法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer−initiated Amplification of Nucleic Acids)法、LAMP(Loop−Mediated Isothermal Amplificaton of DNA)法、NASBA(Nucleic acid Sequence−based Amplification method)法、及びTMA(Transcription mediated amplification method)法等の公知の方法が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
本発明において、RNA抽出液に含まれる目的の核酸に一部相補的な核酸を有する分子、抗体、或いは一本鎖核酸結合タンパク質などの、特異的結合能を有する分子と、目的の核酸を混合し、特異的に結合させることが可能である。つまり、RNA抽出液を用いて、サザンブロッティング、ノーザンブロッティング、リアルタイムPCR、標識核酸プローブなどによる特異的核酸の標識、検出、精製、分離などが可能である。
【0039】
本発明において、RNA抽出液をイオン交換カラム・ゲル濾過カラムなどの各種クロマトグラフィーや、遠心、濾過、透析、固相担体への吸着処理に供し、夾雑物を分離し、RNA抽出液に含まれるRNAを精製することも可能である。またこれら手段を適宜組み合わせ、RNA精製キットとして利用することも可能である。
【0040】
本発明のキットは、前記RNA抽出試薬を有する。その他に、例えば検体洗浄液、デオキシリボヌクレアーゼ、プロテアーゼ、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ及びその基質、オリゴヌクレオチドを有していても良い。
【0041】
本発明の試薬やキットを、核酸調製装置、核酸増幅装置、核酸自動解析装置などに組み込むことも可能である。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
マウス血液から、以下の手順でRNAを抽出し、抽出したRNAを鋳型としてRT−PCRを行い、RNAに由来する増幅断片をアガロースゲル電気泳動により確認した。
【0044】
(RNA抽出試薬の調製)
以下の組成のRNA抽出試薬を調製した。
塩化リチウム、75mM TAPS(pH8.0)、2.25mM CaCl、15mM MgCl、175mM グリコール酸、5mM デオキシコール酸、50mM EDTA、0.05% Triton X−100
【0045】
塩化リチウムは0M、0.1M、0.2M、0.5M、1.0M、2.0M、3.0M、4.0M、5.0M、6.0M、7.0Mの濃度にてRNA抽出試薬を調製した。
【0046】
(RNAの抽出)
マウスより血液を回収した。抗凝固剤としてはヘパリンを用いた。このマウス血液2μlにRNA抽出試薬を18μl添加し、75℃にて5分間インキュベートした。インキュベート後の溶液を室温まで冷却した後、2μlのDNase I(10Unitsに相当する量)を添加し、42℃/5分間→75℃/10分間インキュベートした。
【0047】
(RT−PCR)
上記にて調製したRNA試料を室温まで冷却し、それを鋳型としてRT−PCRを行い、検体に由来する核酸の増幅断片を得た。RT−PCRは、H3F3A mRNAを標的とし、フォワードプライマーF1(5’−GGCCTCACTTGCCTCCTGCAA−3’;配列番号1)、リバースプライマーR1(5’−GCAAGAGTGCGCCCTCTACTG−3’;配列番号2)をプライマーセットとして用いた。RT−PCRはPrimeScript One Step RT−PCR Kit Ver.2(タカラバイオ社製)を用い、上記で調製したRNA試料を反応溶液に対して2%容量添加し行った。反応は、50℃/30分間の逆転写反応、94℃/1分間の逆転写酵素の失活処理の後、94℃/15秒間→62℃/15秒間→72℃/15秒間のPCRサイクルを30サイクル行った。また、ネガティブコントロールとして増幅断片がDNAに由来するものではないことを確認するために、逆転写反応をせずに、94℃/15秒間→60℃/15秒間→72℃/15秒間のPCRサイクルを30サイクル行った。次に、RT−PCR産物を常法に基づきアガロースゲル電気泳動に供し、増幅断片を可視化した。
【0048】
アガロースゲル電気泳動により可視化した増幅断片の結果を表1に示す。塩化リチウム濃度が0.5〜5.0MであるRNA抽出試薬を用いた場合、RT−PCRの場合のみ増幅断片が確認され、RNAが適切に抽出されたことが分かった。
【0049】
【表1】
【0050】
[実施例2]
マウス血液から、以下の手順でRNAを抽出し、抽出したRNAを鋳型としてRT−PCRを行い、RNAに由来する増幅断片をアガロースゲル電気泳動により確認した。
【0051】
(RNA抽出試薬の調製)
以下の組成のアルカリ金属塩を含むRNA抽出試薬を調製した。
0.7M アルカリ金属塩、75mM TAPS(pH8.0)、2.25mM CaCl、15mM MgCl、175mM グリコール酸、5mM デオキシコール酸、50mM EDTA、0.05% Triton X−100
【0052】
アルカリ金属塩としては塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化カリウム、ヨウ化カリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、酢酸リチウム、リン酸二水素ナトリウム、酒石酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、酢酸カリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸カリウムを用いた。
【0053】
また、アルカリ金属塩として塩化リチウムを用い、界面活性剤としてデオキシコール酸を省いたRNA抽出試薬を調製した。
【0054】
(RNAの抽出)
調製したRNA抽出試薬を用いて、実施例1と同様の手法により、マウスより血液を回収し、RNAを抽出した。
【0055】
(RT−PCR)
実施例1と同様の手法により、上記にて抽出したRNA試料を鋳型としてRT−PCRを行い、各検体に由来する核酸の増幅断片を得た。
【0056】
アガロースゲル電気泳動により可視化した、増幅の有無の検討結果を表2に示す。アルカリ金属塩を含むRNA抽出試薬を用いた場合、RT−PCRの場合のみ増幅断片が確認され、RNAが適切に抽出されたことが分かった。また、アルカリ金属塩の中では、アルカリ金属ハロゲン化物を含むRNA抽出試薬を用いた場合、RT−PCRにおける増幅効率が高かった。また、これらRNA抽出試薬はDNase I処理やRT反応、PCRを阻害しないことが分かった。
【0057】
【表2】
【0058】
[比較例1]
マウス血液から、以下の手順でRNAを抽出し、抽出したRNAを鋳型としてRT−PCRを行い、増幅断片をアガロースゲル電気泳動により確認した。
【0059】
(RNA抽出試薬の調製)
以下の組成の強カオトロピック物質もしくは多価金属塩もしくはアンモニウム塩を含むRNA抽出試薬を調製した。
0.7 M強カオトロピック物質もしくは多価金属塩もしくはアンモニウム塩、75mM TAPS(pH8.0)、2.25mM CaCl、15mM MgCl、175mM グリコール酸、5mM デオキシコール酸、50mM EDTA、0.05% Triton X−100
【0060】
強カオトロピック物質としてはグアニジンチオシアネート、塩酸グアニジン、尿素を用いた。多価金属塩としては塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ニッケル、塩化マンガンを用いた。アンモニウム塩としてはリン酸水素二アンモニウムを用いた。また、RNA保護剤としての塩を含まず、界面活性剤のみを含むRNA抽出試薬を調製した。
【0061】
(RNAの抽出)
調製したRNA抽出試薬を用いて、実施例1と同様の手法により、マウスより血液を回収し、RNAを抽出した。
【0062】
(RT−PCR)
実施例1と同様の手法により、上記にて抽出したRNA試料を鋳型としてRT−PCRを行った。
【0063】
アガロースゲル電気泳動により可視化した増幅断片の結果を表2に示す。多価金属塩を用いた場合、増幅断片はRT−PCR、PCRにおいても確認されなかった。これより、多価金属イオンがRNA保護剤として機能しなかった、もしくは酵素反応を阻害したことが分かった。つまり、本系において多価陽イオンは、RNA抽出試薬の添加剤として好ましくない。強カオトロピック物質、アンモニウム塩を用いた場合、増幅断片はRT−PCR、PCRにおいて確認された。これより、強カオトロピック物質やアンモニウム塩によりDNase I処理が阻害されたことが分かった。つまり、本系において強カオトロピック物質及びアンモニウム塩はRNA抽出試薬の添加剤として好ましくない。RNA保護剤としての塩を含まない場合、RNAが分解され、増幅断片はRT−PCR、PCRにおいても確認されなかった。
【0064】
[比較例2]
マウス血液から、以下の手順でRNAを抽出し、抽出したRNAを鋳型としてRT−PCRを行い、増幅断片をアガロースゲル電気泳動により確認した。
【0065】
(RNA抽出試薬の調製)
以下の組成の界面活性剤を含まないRNA抽出試薬を調製した。
0.7M 塩化リチウム、75mM TAPS(pH8.0)、2.25mM CaCl、15mM MgCl、50mM EDTA
【0066】
(RNAの抽出)
調製したRNA抽出試薬を用いて、実施例1と同様の手法により、マウスより血液を回収し、検体からRNAを抽出した。
【0067】
(RT−PCR)
実施例1と同様の手法により、上記にて抽出したRNA試料を鋳型としてRT−PCRを行った。
【0068】
アガロースゲル電気泳動により可視化した増幅断片の結果を表2に示す。界面活性剤を含まないRNA抽出試薬を用いた場合、増幅断片はRT−PCR、PCRにおいて確認された。これは、界面活性剤を含まないことにより、検体が完全に溶解せず、DNase IによりDNAを除去しきれなかったためである。
【0069】
[実施例3]培養細胞からのRNA抽出
ヒト培養細胞であるHEK293T細胞及びJurkat細胞から、以下の手順でRNAを抽出し、その存在をアガロースゲル電気泳動により確認した。
【0070】
(RNA抽出試薬の調製)
以下の組成の塩化リチウムを含むRNA抽出試薬を調製した。
0.7M 塩化リチウム、75mM TAPS(pH8.0)、2.25mM CaCl、15mM MgCl、175mM グリコール酸、5mM デオキシコール酸、50mM EDTA、0.05% Triton X−100
【0071】
(RNAの抽出)
10〜10個分の培養細胞を遠心分離し、ペレットとして回収した。この細胞ペレットにRNA抽出試薬を18μl添加し、75℃にて5分間インキュベートした。インキュベート後の溶液を室温まで冷却した後、2μlのDNase I(10 Units分)を添加し、42℃/5分間→75℃/10分間インキュベートした。
【0072】
(RT−PCR)
上記にて抽出したRNA試料を室温まで冷却し、それぞれを鋳型としてRT−PCRを行い、細胞に由来する核酸の増幅断片を得た。RT−PCRは、ACTB mRNAを標的とし、フォワードプライマーF2(5’−AGATGGCCACGGCTGCT−3’;配列番号3)、リバースプライマーR2(5’−AACCGCTCATTGCCAATGG−3’;配列番号4)をプライマーセットとして用いた。RT−PCRはPrimeScript One Step RT−PCR Kit Ver.2(タカラバイオ社製)を用い、上記で調製したRNA試料を反応溶液に対して2%容量添加し行った。反応は、50℃/30分間の逆転写反応、94℃/1分間の逆転写酵素の失活処理の後、94℃/15秒間→60℃/15秒間→72℃/15秒間のPCRサイクルを30サイクル行った。また、ネガティブコントロールとして、逆転写反応をせずに、94℃/15秒間→60℃/15秒間→72℃/15秒間のPCRサイクルを30サイクル行った。次に、RT−PCR産物を常法に基づきアガロースゲル電気泳動に供し、増幅断片を可視化した。
【0073】
アガロースゲル電気泳動により可視化した増幅断片を図1に示す。HEK293T細胞、Jurkat細胞を検体とした場合、共に特異的増幅断片が確認され、RNAが適切に抽出されたことが分かった。
図1
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]