特許第6301377号(P6301377)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6301377
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】可動栓式カラム及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/60 20060101AFI20180319BHJP
   B01D 15/22 20060101ALI20180319BHJP
   B01D 15/10 20060101ALI20180319BHJP
【FI】
   G01N30/60 E
   B01D15/22
   B01D15/10
   G01N30/60 P
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-561081(P2015-561081)
(86)(22)【出願日】2014年2月4日
(86)【国際出願番号】JP2014052549
(87)【国際公開番号】WO2015118609
(87)【国際公開日】20150813
【審査請求日】2017年1月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】390024442
【氏名又は名称】株式会社ワイエムシィ
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福本 信夫
(72)【発明者】
【氏名】山村 隆治
【審査官】 東松 修太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−510293(JP,A)
【文献】 特表2006−512569(JP,A)
【文献】 特開2012−98168(JP,A)
【文献】 特開2012−159462(JP,A)
【文献】 特表平10−501335(JP,A)
【文献】 特開昭57−40647(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/191628(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0206813(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00− 30/96
B01D 15/00− 15/42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフィー用のカラムであって、
当該カラムは、カラム本体筒の内壁に沿って移動可能に設けられた可動栓を有し、
当該可動栓は、基端側から先端側へ押圧され、
当該可動栓の先端側の外周に外嵌される環状の先端側パッキンと、
当該可動栓の基端側の外周に外嵌される環状の基端側パッキンと、を備えてなり、
前記先端側パッキンと前記基端側パッキンの間に、可動栓の外周全周にわたって形成されたセパレート溝を有し、
前記セパレート溝は、前記可動栓の内部に設けられた連絡流路を介して、カラム外部と連通していることを特徴とする、液体クロマトグラフィー用のカラム。
【請求項2】
前記セパレート溝と前記連絡流路との接続部は、可動栓の外周の直径方向に対向する2箇所に設けられており、
前記連絡流路は、
カラム外部から第一の接続部に至る第一の連絡流路と、
第二の接続部からカラム外部に至る第二の連絡流路と、を備えてなる、請求項1に記載のカラム。
【請求項3】
前記セパレート溝が、前記先端側パッキンと前記基端側パッキンとの間で、可動栓の外周に外嵌される環状のパッキンに形成された溝である、請求項1又は2に記載のカラム。
【請求項4】
前記可動栓の軸芯部には、カラム内部から液体を取り出すための取り出し配管が設けられており、
前記連絡流路は、前記可動栓内部及び前記取り出し配管を通って、前記セパレート溝とカラム外部とを連通していることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のカラム。
【請求項5】
前記連絡流路が、前記可動栓内部及び前記取り出し配管に挿通されたチューブである、請求項1〜4のいずれかに記載のカラム。
【請求項6】
前記カラムが、両端に固定栓を有するとともに、カラム内に可動栓が挿入されたカラムであって、
当該可動栓の先端側には充填剤が充填され、当該可動栓の基端側には加圧媒体が充填される、請求項1〜5のいずれかに記載のカラム。
【請求項7】
前記カラムが、一端に固定栓を有し、他端は開放であり、カラム内に可動栓が挿入されたカラムである、請求項1〜3のいずれかに記載のカラム。
【請求項8】
液体クロマトグラフィー用カラムの洗浄方法であって、
当該カラムは、カラム本体筒の内壁に沿って移動可能に設けられた可動栓を有し、
当該可動栓は、基端側から先端側へ押圧され、
当該可動栓の先端側の外周に外嵌される環状の先端側パッキンと、
当該可動栓の基端側の外周に外嵌される環状の基端側パッキンと、を備えてなり、
前記先端側パッキンと前記基端側パッキンの間に、可動栓の外周全周にわたって形成されたセパレート溝を有し、
前記セパレート溝は、前記可動栓の内部に設けられた連絡流路を介して、カラム外部と連通しており、
カラム外部から、前記連絡流路を通じて前記セパレート溝に液体を送入する工程を含む、洗浄方法。
【請求項9】
前記セパレート溝と前記連絡流路との接続部は、可動栓の外周の直径方向に対向する2箇所に設けられており、
前記連絡流路は、
カラム外部から第一の接続部に至る第一の連絡流路と、
第二の接続部からカラム外部に至る第二の連絡流路と、を備えてなり、
前記第一の連絡流路から液体を送入し、前記セパレート溝を経て前記第二の連絡流路から当該液体を排出させる工程を含む、請求項8に記載の洗浄方法。
【請求項10】
前記可動栓が所定の位置に静止した状態で、前記液体の送入を行うことを特徴とする、請求項8又は9に記載の洗浄方法。
【請求項11】
前記可動栓を前記カラムの内壁に沿って移動させながら、前記液体の送入を行うことを特徴とする、請求項8又は9に記載の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動栓を備えた液体クロマトグラフィー用のカラムと、当該可動栓を備えたカラムの使用方法に関する。
【0002】
液体クロマトグラフィーは、種々の化合物や組成物、生物材料等を分離精製するために広く使用されている。液体クロマトグラフィーによる分離精製は、スラリーやゲル状の充填剤が封入されたカラムに、目的の物質を含有する液体を送入し、カラムを経て排出される液体を分取・回収することで行われる。
【0003】
液体クロマトグラフィーに用いられるカラムの一種として、可動栓式カラムがある。可動栓式カラムは、充填剤を封止するために備えられる栓の少なくとも一方が、カラム本体筒の内壁に沿って上下方向に可動であり、充填剤を加圧充填することによって、分離精製効率の向上を図るものである。可動栓の部分では、可動栓の外周とカラム本体筒の内壁との当接によって密閉が保たれる。ゆえに、密閉性を確保するための可動栓のシール構造については、様々な提案がなされている。
【0004】
例えば特許文献1には、可動栓の外周に段差を有し、当該段差に密着して配置され、外側がカラム内壁に対してテーパー面を含むフィルターパッキンと、フィルターパッキンの外周に密着して配置され、外側がカラム内壁に密着するシールパッキンとを備え、可動栓とフィルターパッキンとシールパッキンとによって密閉を実現するシール構造が開示されている。このシール構造によれば、可動栓の外周の段差構造によって可動栓とフィルターパッキンとが密着し、フィルターパッキンのテーパー構造によってシールパッキンは外側に力を受けるためシールパッキンとカラム内壁との密着性が高くなり、さらに、テーパー部によってシールパッキンには内側に働く力が作用するため、フィルターパッキンと可動栓との密着性が高くなる。
【0005】
また特許文献2には、可動栓コアと、環状のスクレーパと、当該可動栓コアの基端側が内嵌した凹所を有するベースと、可動栓コアの外周を取り巻くパッキンと、可動栓コアを引き付けるボルトとを備え、可動栓コアのフランジ部にスクレーパが係合している可動栓が開示されている。特許文献2の可動栓は、ボルトの締上げによって可動栓コアがベースに引き付けられると、パッキンが拡径方向に膨らむ。このパッキンがカラム内壁に接触することにより、可動栓とカラム内壁とがシールされる。
【0006】
しかしながら、様々なシール構造によっても、充填剤の漏出を完全に防止することは極めて困難である。また、カラム内壁に沿って可動栓が摺動していく過程などで、カラム内壁と可動栓との間に充填剤や液体が入り込むと、毛細管現象によって液漏れが助長されることも知られている。
【0007】
可動栓を押圧する手段としては、ガス圧シリンダや油圧シリンダを用いることが知られている。例えば特許文献3では、カラム下方に備えられた可動栓を、下から上へ移動することによって加圧を行う例(図1)、カラム上方に備えられた可動栓を上から下へ移動することによって加圧を行う例(図2)を開示している。いずれの場合も、油圧シリンダがロッドを介して可動栓と接続されており、油圧シリンダによって可動栓を押圧する。特許文献3の可動栓式カラムは、可動栓の先端側(カラム内部側)が充填剤と対面し、可動栓の基端側は外部に露出する構造である。
【0008】
また、両端に固定栓(フランジ)を備えた閉鎖カラムの内部に、可動栓が挿入された可動栓式カラムもある。例えば特許文献4では、クロマトグラフィーカラムにおいて、上部フランジ115と底部フランジ116とを有する円筒状のハウジング103(カラム本体筒)に、移動可能なアダプタ102(可動栓)が挿入されており、クロマトグラフィー媒体のベッド(充填剤)は、液圧チャンバ120によって駆動されるアダプタ102(可動栓)によって充填されることが開示されている。このカラムでは、アダプタ(可動栓)の先端側は充填剤と対面し、アダプタの基端側は液圧媒体と対面している。つまり、カラム内で、可動栓を挟んで充填剤と液圧媒体とが隣り合っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3929407号公報
【特許文献2】特開2011−191256号公報
【特許文献3】特開2006−78231号公報
【特許文献4】特表2010−540926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3のような、可動栓の基端側が外部に露出したカラム(本明細書では、開放系可動栓式カラムという。)では、加圧されたカラム内部から充填剤の漏れが生じた場合、カラム外部に漏出物が排出される。
一方、特許文献4のような、両端に固定栓を有するカラム内に、充填剤と加圧媒体とが存在し、可動栓を挟んで充填剤と加圧媒体とが隣り合う可動栓式カラム(本明細書では、閉鎖系可動栓式カラムという。)においては、可動栓での漏れが生じると、充填剤が加圧媒体へ漏出するだけでなく、加圧媒体が充填剤に混入することもある。加圧媒体の充填剤への混入は、カラム性能の低下だけでなく、分離精製する物質の汚染や変質を招く可能性もあるため、深刻な問題である。それゆえ、充填剤と加圧媒体との液絡を防止し、充填剤と加圧媒体とを確実に分離することが必要である。
すなわち本発明の課題は、可動栓での漏れを防止し、また漏れが生じても、充填剤の汚染が生じることのない、可動栓式カラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は、上記課題を解決するために検討する中で、可動栓の外周に先端側パッキン、基端側パッキンという少なくとも2箇所に分離されたパッキンを設けて、少なくとも2段階で液漏れを防止する構造を採用するとともに、先端側パッキンと基端側パッキンとの間に、可動栓の外周の全周にわたるセパレート溝を設けることに着想した。さらに、セパレート溝とカラム外部とを連通する連絡流路を設けることで、充填剤や加圧媒体が先端側パッキン及び/又は基端側パッキンを越えて漏出した場合でも、漏出物はセパレート溝に溜まり、連絡流路を経て外部に排出されるため、両液の混合を防止できること、また、当該連絡流路に液体を流通することで、カラム内壁を洗浄することが可能となり、密閉性とカラムの長寿命化に極めて有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は以下の構成を有する。
[1]液体クロマトグラフィー用のカラムであって、
当該カラムは、カラム本体筒の内壁に沿って移動可能に設けられた可動栓を有し、
当該可動栓は、基端側から先端側へ押圧され、
当該可動栓の先端側の外周に外嵌される環状の先端側パッキンと、
当該可動栓の基端側の外周に外嵌される環状の基端側パッキンと、を備えてなり、
前記先端側パッキンと前記基端側パッキンの間に、可動栓の外周全周にわたって形成されたセパレート溝を有し、
前記セパレート溝は、前記可動栓の内部に設けられた連絡流路を介して、カラム外部と連通していることを特徴とする、液体クロマトグラフィー用のカラム。
【0013】
[2]前記セパレート溝と前記連絡流路との接続部は、可動栓の外周の直径方向に対向する2箇所に設けられており、
前記連絡流路は、
カラム外部から第一の接続部に至る第一の連絡流路と、
第二の接続部からカラム外部に至る第二の連絡流路と、を備えてなる、[1]に記載のカラム。
【0014】
[3]前記セパレート溝が、前記先端側パッキンと前記基端側パッキンとの間で、可動栓の外周に外嵌される環状のパッキンに形成された溝である、[1]又は[2]に記載のカラム。
【0015】
[4]前記可動栓の軸芯部には、カラム内部から液体を取り出すための取り出し配管が設けられており、
前記連絡流路は、前記可動栓内部及び前記取り出し配管を通って、前記セパレート溝とカラム外部とを連通していることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載のカラム。
【0016】
[5]前記連絡流路が、前記可動栓内部及び前記取り出し配管に挿通されたチューブである、[1]〜[4]のいずれかに記載のカラム。
【0017】
[6]前記カラムが、両端に固定栓を有するとともに、カラム内に可動栓が挿入されたカラムであって、
当該可動栓の先端側には充填剤が充填され、当該可動栓の基端側には加圧媒体が充填される、[1]〜[5]のいずれかに記載のカラム。
【0018】
[7]前記カラムが、一端に固定栓を有し、他端は開放であり、カラム内に可動栓が挿入されたカラムである、[1]〜[3]のいずれかに記載のカラム。
【0019】
[8]液体クロマトグラフィー用カラムの洗浄方法であって、
当該カラムは、カラム本体筒の内壁に沿って移動可能に設けられた可動栓を有し、
当該可動栓は、基端側から先端側へ押圧され、
当該可動栓の先端側の外周に外嵌される環状の先端側パッキンと、
当該可動栓の基端側の外周に外嵌される環状の基端側パッキンと、を備えてなり、
前記先端側パッキンと前記基端側パッキンの間に、可動栓の外周全周にわたって形成されたセパレート溝を有し、
前記セパレート溝は、前記可動栓の内部に設けられた連絡流路を介して、カラム外部と連通しており、
カラム外部から、前記連絡流路を通じて前記セパレート溝に液体を送入する工程を含む、洗浄方法。
【0020】
[9]前記セパレート溝と前記連絡流路との接続部は、可動栓の外周の直径方向に対向する2箇所に設けられており、
前記連絡流路は、
カラム外部から第一の接続部に至る第一の連絡流路と、
第二の接続部からカラム外部に至る第二の連絡流路と、を備えてなり、
前記第一の連絡流路から液体を送入し、前記セパレート溝を経て前記第二の連絡流路から当該液体を排出させる工程を含む、[8]に記載の洗浄方法。
【0021】
[10]前記可動栓が所定の位置に静止した状態で、前記液体の送入を行うことを特徴とする、[8]又は[9]に記載の洗浄方法。
【0022】
[11]前記可動栓を前記カラムの内壁に沿って移動させながら、前記液体の送入を行うことを特徴とする、[8]又は[9]に記載の洗浄方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、可動栓式カラムにおいて、可動栓とカラム内壁との間をシールして漏れを抑えるとともに、漏れが生じた場合であっても、漏出物をセパレート溝からカラム外部に排出することができる。特に、可動栓を挟んで充填剤と加圧媒体が隣り合っている場合に、両液の液絡の発生を防止できる。また、セパレート溝に流体を通してカラム内壁を洗浄することによって、密閉性及びカラム寿命の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明のカラムを含む液体クロマトグラフィー装置を表す概要図である。
図2】本発明の可動栓式カラムの断面を表す概要図である。
図3】本発明のカラムの可動栓のシール構造の拡大図である。
図4】左図は本発明のカラムの可動栓及び取り出し配管の断面図、右図は流路を抽出した図である。
図5】本発明の別の可動栓式カラムの断面を表す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に基づいて本発明を説明するが、本発明は図示された例に限定されるものではない。また複数の図面にわたって同様の構成には同様の符号を付し、説明を省略する場合がある。
図1は本発明のカラムを含む液体クロマトグラフィー装置の概要図である。カラム1は、回転駆動装置2から延在する回転軸(不図示)及び支持枠3によって、架台4に懸架されている。カラム1は、回転駆動装置2の駆動によって回転軸を中心に回転可能である。カラム本体筒5の上端及び下端はそれぞれ、上部固定栓6及び下部固定栓7によって閉止されている。カラムを使用するときには、上部固定栓6の中央に設けられた供給口8に配管を取り付け、当該配管を通じて、分離精製対象の液体や溶離液を供給する。取り出し配管9は、カラム内に挿入されている可動栓から、下部固定栓7を貫通して下方に延在している。取り出し配管9の中には2本の細径パイプ10が挿通されており、細径パイプ10は、取り出し配管9の下端で屈曲して横方向に伸びている。
【0026】
図2はカラム1の概要断面図である。カラム1の上端は上部固定栓6で閉止され、上部固定栓6とカラム本体筒5はクランプ21で固定されている。上部固定栓6の詳細な構造は、公知の構成を用いることができ特に制限されないが、図示の例では、フィルター22、テーパー型フランジ23(これらは焼結された一体物である)及び上蓋フランジ24等が積層され、互いに密着するようにボルトで係止される。周縁はパッキンで封止されている。パッキンの構造は特に制限されないが、特許第3929407号に開示されるシール構造を用いることが好ましい。
【0027】
カラム1の下端は下部固定栓7で閉止され、クランプ25で固定されている。下部固定栓7も、公知の構成を用いればよく、特に制限されないが、図示の例では、テーパー型フランジ26、下蓋フランジ27等が積層され、互いに密着するようにボルトで係止されている。下部固定栓7の中央には貫通孔が設けられて、取り出し配管9が貫通している。下部固定栓7には、カラム外部から加圧室30に加圧媒体を供給及び排出するための、加圧媒体供給口28及び加圧媒体排出口29が設けられている。加圧媒体供給口28に加圧媒体の供給配管を、加圧媒体排出口29に加圧媒体の排出配管を、それぞれ接続する。それぞれの配管にはバルブを備えるとよい。供給口28のバルブを開、排出口29のバルブを閉として、ポンプを用いて加圧媒体をカラム内に送入することで、可動栓を上方に動かし、加圧する。次いで、供給口28及び排出口29のバルブを両方閉とすることによって、加圧状態を維持できる。また、排出口29のバブルを開とすることで、加圧媒体を排出させて、圧力を下げ、可動栓を下方に動かすことができる。
【0028】
加圧媒体は液体であれば特に制限されないが、油、有機溶媒、水等が使用でき、水を主成分とすることが好ましい。加圧媒体が水である場合、殺菌や腐敗防止の目的で、アルコール類、具体的にはエタノールやメタノールが混合されていてもよい。また、殺菌剤や粘度調整剤等の任意の物質を含んでもよい。
【0029】
カラム内の圧力は、カラムの体積、充填剤の種類や目的によって適切に選択することができるが、例えば、0MPa〜10MPa(ゲージ圧)とすることができる。
【0030】
カラム本体筒5の内部には、その内壁に沿って上下に摺動可能である可動栓31が挿入されている。可動栓31の先端側(図2の上方)は充填剤室32であり、充填剤が充填されて、分離床が形成される。可動栓31は、フィルター33、テーパー型フランジ34、可動栓本体35等が積層され、互いに密着するようにボルトで係止される。可動栓31の最も先端に位置するフィルター33は、充填剤と対面する。一方、可動栓31の基端側は加圧媒体に対面する。
【0031】
取り出し配管9は可動栓本体35から延在している。フィルター33の下部から、取り出し配管9の中にカラム流出管36が挿通されている。カラム上方から充填剤室32に供給された液体は、分離床を経て、カラム流出管36を通じてカラム外に排出され、分取・回収される。
【0032】
可動栓31の外周には、先端側パッキン、基端側パッキン、及び、先端側パッキンと基端側パッキンの間にある、溝付きパッキンが外嵌されている。また、溝付きパッキンから、可動栓の内部を貫通し、取り出し配管を通って延在する連絡流路が設けられている。可動栓のシール構造と連絡流路について、次の図面において詳しく説明する。
【0033】
図3は、可動栓31の断面概略図である。可動栓本体35は、3枚のフランジを組み合わせて形成されている。可動栓本体35の上部には、先端がテーパー状で、外周に5連の凹凸部を有する先端側パッキン38が外嵌されている。可動栓本体35の上部には、フィルター33と一体化されたテーパーフランジ34が積層されており、当該テーパーフランジ34と先端側パッキン38とは、互いに組み合うテーパー形状を有する。先端側パッキンの構造は特に制限されないが、特許第3929407号に記載されたシール構造を用いれば、充填剤の漏れを最小化できるため好ましい。
【0034】
可動栓31の下部には、逆V字型の基端側パッキン39が外嵌されている。基端側パッキン39の形状は特に制限されないが、逆V字型のパッキンを用いれば、可動栓31が下方から押圧されると、パッキンの一部が拡径してカラム内壁と密着するため、優れたシール性能を得られる。
【0035】
可動栓本体35の外周、先端側パッキン38と基端側パッキン39との間に、セパレート溝を有する溝付きパッキン40が外嵌されている。セパレート溝の幅や深さは、カラムの直径や長さによって適切に設定され、特に制限されないが、例えば、幅1〜20mm、深さ1〜10mm程度とすることができる。またセパレート溝は、連絡部41で連絡流路42と接続している。連絡流路42は、可動栓本体35及び取り出し配管9の内部に挿通されてカラム外部に至る細径チューブである。連絡流路42の末端は開放されている。すなわち、セパレート溝及び連絡流路42は、常圧である。なお、図3の連絡流路及びセパレート溝には、液体の流れが模式的に示されている。
【0036】
フィルター33及びテーパーフランジ34に、カラム流出管36が接続されている。カラム流出管36は取り出し配管9の内部に挿通されている。取り出し配管9の中にカラム流出管36を収容した二重構造とすることで、万一、取り出し配管9が破損した場合でも、カラム流出液が汚染されるリスクが低減される。
【0037】
カラム中の充填剤や加圧媒体が、先端側パッキン又は基端側パッキンを越えて漏出した時、漏出物は、溝付きパッキン40のセパレート溝に溜まり、連絡流路を経て外部に排出される。カラム内が加圧状態であるのに対して、セパレート溝及び連絡流路は大気圧に維持されているため、一旦セパレート溝に漏出した漏出物はカラム内に戻らない。すなわち本発明のカラムでは、パッキンを越えてカラム内容物の漏出が生じたとしても、充填剤と加圧媒体の液絡が生じない。
【0038】
図4(左)は可動栓及び連絡流路全体の断面図、図4(右)は流路全体を模式的に示した図である。図4(右)に示されるように、連絡流路の一方端aから液体を送入すると、液体は、第一の連絡流路bを通じて、当該連絡流路とセパレート溝との第一の接続部cに至る。液体は、当該接続部cを経てセパレート溝に達すると、左右に分かれ、セパレート溝に沿ってカラムの内壁面を周回する。直径方向に対向する位置にある第二の接続部dに至ると、液体は合流し、第二の連絡流路eを経て他方端fから排出される。
【0039】
上記のように連絡流路に液体を流通することによって、カラム内壁を洗浄できる。可動栓が静止した状態で洗浄してもよいし、また、可動栓を上下に動かしながら液体を流通することによって、カラム内壁の一部又は全体を洗浄することも可能である。本発明の可動栓を備えるカラムは、可動栓を取り外すことなくカラム内壁を洗浄することができるため、閉鎖系可動栓式カラムにおいても、充填剤を加圧充填した状態でカラム内壁を洗浄できる。また開放系可動栓式カラムにおいても、カラムを架台にセッティングした状態でカラム内壁を洗浄することが可能であり、より簡単にカラムの洗浄を行える。
【0040】
連絡流路に流通する液体は、水、有機溶媒等を用いることができ、特に制限されない。また、目的に応じて、界面活性剤や殺菌剤等の任意の成分を含んでもよい。液体の送入方法は特に制限されないが、高い洗浄効果を得るためには、ポンプを用いて液体を圧入することが好ましい。
【0041】
本発明の洗浄方法によれば、セパレート溝に溜まった漏出物を洗浄除去することができるほか、カラム内壁に付着した充填剤の細片や酸等を除去して、パッキンへの充填剤の噛み込みを防止してカラムの密閉性を保つこと、カラム内壁の汚れや腐食を防止すること、カラム内部を清浄に保つこと等が可能で、カラムを良好な状態で長期間、使用することができる。
【0042】
図5は開放系可動栓式カラムにおける、本発明の実施例を示している。カラム1の上部固定栓は、図2の実施例とほぼ同様の構造であり、説明を省略する。カラム1の上端には、カラム内に溶離液等を送入するための供給配管50が取り付けられている。カラム1の下端は開放である。カラム本体筒5は、下端近傍でアーム51と接続され、アーム51によって支持されている。カラム本体筒5に、カラム下方から可動栓52が挿入されている。可動栓52は油圧シリンダ(不図示)のロッド53と接続され、ロッド53によって支持されている。可動栓52は油圧シリンダによって押圧される。可動栓52とロッド53はクランプ54で取り外し可能に接続されている。
【0043】
可動栓52は、フィルターと一体化されたテーパーフランジ55と、可動栓本体56とが密着して積層されている。フィルターの下方から、カラム内部からの流出液の取り出し配管57が延設されている。
【0044】
可動栓52の外周に、先端側パッキン60と基端側パッキン61とが外嵌されている。そして、先端側パッキン60と基端側パッキン61との間に、可動栓の外周全周にわたる、セパレート溝62が形成されている。セパレート溝62は、可動栓の内部を通ってカラム外に連通する連絡流路63、64と接続している。カラム内の充填剤が、先端側パッキン60から漏出した場合、セパレート溝62に溜まり、連絡流路63、64を通じて排出される。
【0045】
開放系可動栓式カラムにおいて、可動栓外周にセパレート溝を有することで、充填剤の漏れが生じた場合であっても、漏出した充填剤を効率よく回収することが可能となり、漏出物によってカラム設置場所の床面を汚すことがない。また、前述と同様に、連絡流路63、64及びセパレート溝62に液体を流通することで、カラムの内壁を洗浄することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の可動栓式カラムは、充填剤のコンタミネーションが防止され、またカラム内壁を簡単に洗浄することができる。本発明は、小径から大径のいずれのカラムにも適用可能であるが、直径が50mmを超える大型カラムにおいて特に有用である。本発明のカラムは特に、医薬品、食品、精密有機材料、天然物質からの抽出等の工業生産の現場で用いられる大型カラムとして有用である。
【符号の説明】
【0047】
1 カラム
5 カラム本体筒
6 上部固定栓
7 下部固定栓
9 取り出し配管
30 加圧室
31、52 可動栓
32 充填剤室
38、60 先端側パッキン
39、61 基端側パッキン
40 溝付きパッキン
42、63、64 連絡流路
62 セパレート溝
図1
図2
図3
図4
図5