(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6301412
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】ハプティク・アクチュエータ、電子機器、および触覚フィードバックの生成方法
(51)【国際特許分類】
B06B 1/04 20060101AFI20180319BHJP
H02K 33/04 20060101ALI20180319BHJP
B06B 1/16 20060101ALI20180319BHJP
【FI】
B06B1/04 S
H02K33/04 A
B06B1/16
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-167472(P2016-167472)
(22)【出願日】2016年8月30日
(65)【公開番号】特開2018-34084(P2018-34084A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2016年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】505205731
【氏名又は名称】レノボ・シンガポール・プライベート・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106699
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 弘道
(72)【発明者】
【氏名】中村 聡伸
(72)【発明者】
【氏名】山▲ざき▼ 充弘
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 厚
(72)【発明者】
【氏名】山村 一則
【審査官】
土田 嘉一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−260044(JP,A)
【文献】
特開2014−193451(JP,A)
【文献】
特開2015−157277(JP,A)
【文献】
特開2011−097747(JP,A)
【文献】
特開2007−122501(JP,A)
【文献】
特表2015−527030(JP,A)
【文献】
特開2004−181305(JP,A)
【文献】
特開2015−083305(JP,A)
【文献】
特開平11−128838(JP,A)
【文献】
特開平03−042079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B06B 1/04
B06B 1/16
H02K 33/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動体に触覚フィードバックを提供するハプティク・アクチュエータであって、
コイルと、前記コイルの周囲に磁界を形成するマグネットと、前記コイルに第1の駆動電圧を印加したときに振動軸の方向に往復動作をする可動子とを含み前記振動体に定常的な振動を与える振動機構と、
前記コイルに前記第1の駆動電圧より大きい第2の駆動電圧を印加したときに前記可動子の動作に連動して前記振動軸の方向と異なる方向に変位して前記振動体を打撃する打撃機構と
を有するハプティク・アクチュエータ。
【請求項2】
前記打撃機構を前記振動軸の方向における前記可動子の両側に設けた請求項1に記載のハプティク・アクチュエータ。
【請求項3】
前記第2の駆動電圧の印加を停止したあとに前記打撃機構をホーム・ポジションに復帰させる復帰機構を含む請求項1に記載のハプティク・アクチュエータ。
【請求項4】
振動体に触覚フィードバックを提供するハプティク・アクチュエータであって、
コイルと、前記コイルの周囲に磁界を形成するマグネットと、前記コイルに第1の駆動電圧を印加したときに所定の回転速度で回転する偏心錘とを含み前記振動体に定常的な振動を与える振動機構と、
前記コイルに前記第1の駆動電圧より大きい第2の駆動電圧を印加したときに前記偏心錘の回転に連動して変位して前記振動体を打撃する打撃機構と
を有するハプティク・アクチュエータ。
【請求項5】
振動体に触覚フィードバックを提供するハプティク・アクチュエータであって、
コイルと、前記コイルの周囲に磁界を形成するマグネットと、前記コイルに第1の駆動電圧を印加したときに所定の回転角で回動する偏心錘とを含み前記振動体に定常的な振動を与える振動機構と、
前記コイルに前記第1の駆動電圧より大きい第2の駆動電圧を印加したときに前記偏心錘の回動に連動して変位して前記振動体を打撃する打撃機構と
を有するハプティク・アクチュエータ。
【請求項6】
タッチスクリーンとハプティク・アクチュエータを搭載した電子機器であって、前記ハプティク・アクチュエータが、
所定の電力が供給されたときに前記タッチスクリーンの面方向に定常的な振動を与える振動機構と、
前記所定の電力より大きい電力が供給されたときに前記タッチスクリーンを打撃して上下方向の振動を与える打撃機構と
を有する電子機器。
【請求項7】
前記タッチスクリーンを、前記電子機器の筐体に対して面方向の振動が可能なように取り付ける弾力部材を有する請求項6に記載の電子機器。
【請求項8】
タッチスクリーンとハプティク・アクチュエータを搭載した電子機器であって、前記ハプティク・アクチュエータが、
所定の電力が供給されたときに前記タッチスクリーンの面方向に定常的な振動を与える振動機構と、
前記所定の電力より大きい電力が供給されたときに前記電子機器の筐体を打撃して上下方向の振動を与える打撃機構と
を有する電子機器。
【請求項9】
ハプティク・アクチュエータを搭載した電子機器であって、前記ハプティク・アクチュエータが、
所定の電力が供給されたときに前記電子機器の筐体の第1の面に面方向の定常的な振動を与える振動機構と、
前記所定の電力より大きい電力が供給されたときに前記筐体の第2の面を打撃して上下方向の振動を与える打撃機構と
を有する電子機器。
【請求項10】
ハプティク・アクチュエータが振動体に触覚フィードバックを提供する方法であって、
前記ハプティク・アクチュエータに所定の電力を供給して可動子を振動させるステップと、
前記可動子の振動で前記振動体を定常的に振動させるステップと、
前記ハプティク・アクチュエータに前記所定の電力より大きい電力を供給して前記可動子を変位させるステップと、
前記可動子の変位に連動するハンマーで前記振動体を打撃して前記定常的な振動とは異なる方向に振動させるステップと
を有する方法。
【請求項11】
前記所定の電力の供給時間より、前記所定の電力より大きい電力の供給時間が短い請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、性質の異なる複数の知覚をもたらす触覚フィードバックを生成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
タブレット端末、スマートフォンおよび携帯電話のような使用時にユーザが筐体やタッチスクリーンに触れる電子機器は、人体に触覚フィードバック(ハプティク・フィードバック)を付与するアクチュエータ(ハプティク・アクチュエータ)を搭載することがある。ハプティク・アクチュエータは、システムが生成するイベントに応じて、タッチスクリーンや筐体のような振動体に振動を伝える。ユーザは振動を振動体に接触した人体の部位で知覚したり音として知覚したりする。ハプティク・アクチュエータは駆動源に電力を使用しており、振動の性質から衝撃型と振動型に大別することができる。
【0003】
衝撃型は代表例として、形状記憶合金を利用するSIA(Shape Memory metal Impact Actuator)を挙げることできる。衝撃型は振動素子が振動体を打撃して一過性の振動を与える。振動型は代表例として偏心モータを利用するERM(Eccentric Rotating Mass)型アクチュエータ、磁界中のコイルに交流電流を流して可動子を振動させるリニア共振型アクチュエータ(LRA:Linear Resonant Actuator)やピエゾ素子を利用した圧電アクチュエータなどを挙げることができる。振動型は、所定の時間、振動体に一定の振幅の振動を与える。
【0004】
特許文献1は、ヨーク板が軸方向に往復振動する薄型の振動アクチュエータを開示する。特許文献2は、磁石と分銅を含む可動子が軸廻りに往復振動する振動アクチュエータを開示する。特許文献3は、圧電アクチュエータに触覚振動の振動パターンに応じた電圧を印加するアクチュエータ駆動回路について記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−97747号公報
【特許文献2】特開2015−157277号公報
【特許文献3】特開2007−122501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
触覚フィードバックは、用途に応じて性質の異なる知覚をもたらすことができれば便利である。たとえば、ソフトウェア・キーボードの打鍵に対しては、連続打鍵に適応できるようにタッチスクリーンに短時間で終了する一過性の強い振動を与えることが適しており、メールの着信やWebサイトからのプッシュ通知を知らせたりする場合はユーザが気づくまでに必要な比較的長い時間筐体を振動させることが適している。
【0007】
このとき筐体の内部に、衝撃型と振動型の2つのハプティク・アクチュエータを設けることは、スペースの確保やコストの面で不利である。したがって、1個のハプティク・アクチュエータが、電源を制御するだけで衝撃型と振動型の2つの動作モードで動作できれば都合がよい。さらに衝撃型の振動は、振動体が振動する時間が短いためできるだけ大きな振動を付与できることが望ましい。
【0008】
また、タッチスクリーンに対する操作のときに、打鍵には衝撃を利用しジェスチャ操作には振動を利用した触覚フィードバックを生成したい場合がある。細長の形状のハプティク・アクチュエータでは、スマートフォンやタブレット端末のような薄型の筐体の中に収納する場合にその形状により取り付け方向がきまるため、これまでのハプティク・アクチュエータを組み合わせてタッチスクリーンに対して振動と衝撃を付与することは困難である。本発明の目的は、性質の異なる知覚をもたらす触覚フィードバックを生成することが可能なハプティク・アクチュエータに関する諸課題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のハプティク・アクチュエータは、所定の電力が供給されたときに振動体に定常的な振動を与える振動機構と、所定の電力より大きい電力が供給されたときに振動体を打撃する打撃機構とを有し、振動体に触覚フィードバックを提供する。ハプティク・アクチュエータは、振動体に振動機構による振動と打撃機構による振動を与えることができる。打撃機構は、振動体を打撃することで強い振動を与えることができる。
【0010】
振動機構は、コイルと、コイルの周囲に磁界を形成するマグネットと、コイルに第1の駆動電圧を印加したときに振動軸の方向に往復動作をする可動子とを含んで構成してもよい。このとき打撃機構は、コイルに第1の駆動電圧より大きい第2の駆動電圧を印加したときの可動子の動作に連動して変位して振動体を打撃するように構成することができる。
【0011】
振動機構は、コイルと、コイルの周囲に磁界を形成するマグネットと、コイルに第1の駆動電圧を印加したときに所定の回転速度で回転する偏心錘とを含んで構成してもよい。このとき打撃機構は、コイルに第1の駆動電圧より大きい第2の駆動電圧を印加したときに偏心錘の回転に連動して変位して振動体を打撃するように構成することができる。
【0012】
振動機構は、コイルと、コイルの周囲に磁界を形成するマグネットと、コイルに第1の駆動電圧を印加したときに所定の回動角で回動する偏心錘とを含んで構成してもよい。このとき打撃機構は、コイルに第1の駆動電圧より大きい第2の駆動電圧を印加したときに偏心錘の変位に連動して変位して振動体を打撃するように構成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、性質の異なる知覚をもたらす触覚フィードバックを生成することが可能なハプティク・アクチュエータを提供することができた。さらに本発明により、振動体に強い振動を与えることが可能なハプティク・アクチュエータを提供することができた。さらに本発明により狭い空間に配置して、同一面を面方向と上下方向に振動させることが可能なハプティク・アクチュエータを提供することができた。さらに本発明により、電子機器に搭載する際に、振動体と取り付け位置を柔軟に選択できるハプティク・アクチュエータを提供することができた。さらに本発明により、そのようなハプティク・アクチュエータに適応する電子機器および触覚フィードバックの生成方法を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】電子機器の一例としてのスマートフォン10の平面図である。
【
図2】アクチュエータ100の外形を示す斜視図である。
【
図3】アクチュエータ100の構造を説明するための平面図および断面図である。
【
図5】振動モードで動作するアクチュエータ100の駆動電流301とタッチスクリーン13に発生する振動加速度を説明するための図である。
【
図6】打撃モードで動作するアクチュエータ100の駆動電流305とタッチスクリーン13に発生する振動加速度307、309を説明するための図である。
【
図7】アクチュエータ100aの他の取り付け方法を説明する図である。
【
図8】アクチュエータ100bの構造を説明するための平面図である。
【
図9】回動型のアクチュエータを説明するための図である。
【
図10】回転型のアクチュエータを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、電子機器の一例としてのスマートフォン10に、本実施の形態にかかるデュアル・モード・ハプティク・アクチュエータ(アクチュエータ)100を搭載した様子を示す平面図である。筐体11の内部には、タッチスクリーン13に裏面から触覚フィードバックを付与するアクチュエータ100を配置している。
図2は、アクチュエータ100の外形を示す斜視図である。
図3は、アクチュエータ100の構造を説明するための平面図および断面図である。
【0016】
図2においてアクチュエータ100は、扁平で振動軸の方向に細長い形状をしており、システムからのイベントに応じて可動子150(
図3)が所定の振幅で振動する振動モードと振動体に打撃を加える打撃モードで動作する。振動モードのハプティクは、可動子150の定常状態の振動を利用し、打撃モードのハプティクは可動子150の過渡的な振動を利用して生成する。
【0017】
アクチュエータ100は、下部筐体101aと上部筐体101bの内部に可動子150を含む振動機構を収納している。上部筐体101bの長手方向の両端からは、ハンマー171a、171bが上側に突き出ている。ハンマー171a、171bは、いずれか一方だけを設けるようにしてもよい。ハンマー171a、171bは、板バネ175a、175bで弾力的に支持されている。
【0018】
板バネ175a、175bは、アクチュエータ100が停止状態のときに、ハンマー171a、171bをホーム・ポジションに位置付けるとともに、打撃モードのときに大きく変位する可動子150に対して弾力を付与しながらハンマー171a、171bを打撃位置まで図の上方向に移動させる。上部筐体101bの中央部には、アクチュエータ100をタッチスクリーン13の裏面に貼り付けるためのスペーサ173を設けている。
【0019】
図3(A)は、アクチュエータ100から上部筐体101b、ハンマー171a、171b、板バネ175a、175b、およびスペーサ173を取り除いた状態を示す平面図で、
図3(B)は
図3(A)の長手方向の中心線で切断した断面図である。シャフト103a、103bは、それぞれ両端が固定部105a〜105dで下部筐体101aに固定されている。
【0020】
シャフト103a、103bは、錘107a、107bの両端を錘107a、107bが往復直線運動をできるように貫通している。固定部105a〜105dと錘107a、107bの間には、圧縮コイル・バネ109a〜109dを設けている。上部ヨーク111bの下面には、磁極の方向が異なるマグネット113a、113bを貼り付けている。上部ヨーク111bと下部ヨーク111aが形成するコイル空間にはコイル115を配置している。
【0021】
コイル115は、図示しない固定部材で下部筐体101aに固定している。マグネット113a、113bが放射した磁束は、上部ヨーク111b、下部ヨーク111a、およびコイル空間で構成した磁路を流れる。下部ヨーク111aには、振動方向の端面にシャフト117a、117bを固定している。下部筐体101aに固定されたバネ固定部177a、177bは、板バネ175a、175bを固定する。
【0022】
シャフト117a、117bはバネ固定部177a、177bを貫通する。上部ヨーク111b、下部ヨーク111a、錘107a、107b、マグネット113a、113b、およびシャフト117a、117bは可動子150を構成する。なお、アクチュエータ100は、可動子がコイルを含み、マグネットおよびヨークを下部筐体101aに固定するように構成してもよい。
【0023】
図4は、
図1の断面図である。
図4(A)は、タッチスクリーン13に対するアクチュエータ100の取り付け状態を示し、
図4(B)、(C)は筐体11に対するタッチスクリーン13の取り付け部を拡大した状態を示している。
図4(A)において、タッチスクリーン13の面に垂直な方向を上下方向として定義し、水平な方向を面方向として定義する。アクチュエータ100は、筐体11の上下方向のスペースが小さいため振動軸が面方向に沿うように配置して、スペーサ173をタッチスクリーン13の裏面に貼り付けている。
【0024】
タッチスクリーン13は、筐体11に両面テープ15で固定している。両面テープ15は、両面に粘着剤が塗布された本体をポリウレタン・フォームやポリエチレン・フォームのようなクッション性の材料で形成している。タッチスクリーン13は、周囲だけを固定すれば上下方向に振動し易い。
図4(B)、(C)に示すように、両面テープ15はタッチスクリーン13に面方向への変位の自由度を与えることができるため、タッチスクリーン13は上下方向に加えて面方向にも振動することができる。
【0025】
つぎに、スマートフォン10に搭載したアクチュエータ100の動作を説明する。コイル115に駆動電圧を印加しない状態では、可動子150が中立位置に位置付けられシャフト117a、117bと板バネ175a、175bは接触しない。ハンマー171a、171bはホーム・ポジションに位置しており、タッチスクリーン13に接触しない。アクチュエータ100を振動モードで動作させるために、駆動回路50はコイル115に可動子150の共振周波数に相当する周波数の方形波の駆動電圧をハプティクに必要な所定の時間印加する。
【0026】
可動子150はマグネット113a、113bが形成する磁界によりコイル115に発生したローレンツ力と圧縮コイル・バネ109a〜109dの弾力で、矢印Aで示した振動軸の方向に一定の周波数と振幅で定常的な往復直線動作をする。可動子150の定常的な振動は、下部筐体101aと上部筐体101bに伝搬し、さらにスペーサ173を通じてタッチスクリーン13に伝搬する。上部筐体101bの振動方向は面方向であるため、振動モードではタッチスクリーン13が面方向に振動する。
【0027】
振動モードでの可動子150の振幅は、シャフト117a、117bが、板バネ175a、175bに衝突しないように設定している。したがって振動モードでは、ハンマー171a、171bは変位しない。
図5は、このときコイル115に流れる駆動電流301とタッチスクリーン13に発生する面方向の振動加速度303を示している。つぎに、アクチュエータ100を打撃モードで動作させるために、駆動回路50はコイル115に振動モードのときより大きい駆動電圧を、振動モードの印加時間より短い時間印加する。
【0028】
図6は、このときコイル115に流れる駆動電流305とタッチスクリーン13に発生する面方向の振動加速度307、およびタッチスクリーン13に発生する上下方向の振動加速度309を示している。方形波の駆動電圧を時刻t0でコイル115に印加してから振動が安定するまでの過渡状態では、コイル115に駆動電流305が流れて面方向の振動加速度307が徐々に増加する。駆動回路50は所定の時間が経過した時刻t2または所定数のパルスをカウントした後の時刻t2で駆動電圧を停止する。打撃モードの駆動電圧は振動モードの駆動電圧より大きいため、時刻t2に至るまでの間に振動加速度307の最大値は、振動加速度303の最大値より大きい値に到達している。
【0029】
可動子150の振幅は、時刻t2に至るまでの間に最大値に到達し、シャフト117a、117bのいずれか一方が時刻t01で板バネ175a、175bに衝突して、ハンマー171a、171bの一方を上方向に変位させる。変位した一方のハンマーは、タッチスクリーン13の裏面に打撃を加える。打撃を加えた一方のハンマーは、圧縮コイル・バネ109a〜109cの弾力で可動子150が反対方向に移動したときに、板バネ171a、171bの弾力でホーム・ポジションに戻る。打撃を加えられたタッチスクリーン13は、時刻t01から上下方向の振動加速度309で振動する。ハンマー171a、171bの打撃により発生した振動加速度309のピーク値は面方向の振動加速度307のピーク値より大きくすることができる。
【0030】
時刻t2以降は、加振力がなくなるため可動子150の振動は自由振動で減衰して振動加速度307は時刻t3で人間が感じない状態になる。また、時刻t2以降は可動子150の振幅が小さくなるため、ハンマー171a、171bは、タッチスクリーン13に繰り返し打撃を加えることはなく、上下方向の振動も自由振動で減衰する。他の例において、打撃モードで印加する駆動電圧の時間を長くして、ハンマー171a、171bで交互に複数回の打撃を加えるようにしてもよい。
【0031】
駆動電圧を停止するまでの時間または印加パルス数は、あらかじめ実験で求めておくことができる。アクチュエータ100は、可動子150の振動の自由度は1であるが、タッチスクリーン13に面方向の比較的時間が長い定常的な振動と、上下方向の一過性の強い振動を与えることができる。したがって、タッチスクリーン13において、ソフトウェア・キーボードに対する打鍵に対して打撃モードで動作させ、ドラッグのようなジェスチャ操作に対して振動モードで動作させれば、ユーザは指先で操作に応じて異質な触覚フィードバックを知覚することができる。
【0032】
アクチュエータ100は、タッチスクリーン13に定常的な振動と打撃による振動を付与することができるが、アクチュエータ100はスマートフォン10に対してさまざまな態様で取り付けて、異質な触覚フィードバックを実現することができる。
図7は、アクチュエータ100aの取り付け方法を説明する図である。アクチュエータ100aは、
図3、
図4に示したアクチュエータ100に対して、下部筐体101aに取り付けたスペーサ173aで筐体11に取り付けられている点だけが異なる。
【0033】
スペーサ173aは、筐体11の底面を振動モードで面方向に振動させ、
タッチスクリーン13を打撃モードで上下方向に振動させる。ユーザは、スマートフォン10を左手に保持し、右手でタッチスクリーン13を操作する際に、ソフトウェア・キーボードの操作では打撃モードによるタッチスクリーン13の振動を指先で知覚し、ジェスチャ操作では振動モードによる筐体11の振動を左手で知覚することができる。また、アクチュエータ100は、スペーサ173、173aを設けないで、下部筐体101aを直接筐体11の内面に貼り付けてもよい。
【0034】
アクチュエータ100、100aは、駆動電圧の印加時間と大きさを調整して振動軸の方向に下部筐体101aと上部筐体101bを振動させ、振動軸に直角な方向にハンマー171a、171bを変位させているが、振動軸と打撃の方向はこれに限定されない。
図8は、下部筐体101aと上部筐体101bおよびハンマーをともに振動軸の方向に振動させるアクチュエータ100bを説明するための平面図である。アクチュエータ100bは、アクチュエータ100のシャフト117a、117aに代えて、ハンマーを兼用するシャフト118a、118bを設けている。
【0035】
シャフト118a、118bは、振幅の大きい衝撃モードでは一方が下部筐体101aの側壁を貫通して外に飛び出るように構成し、振幅の小さい振動モードではいずれも外に飛び出ないように構成している。アクチュエータ100bは、下部筐体101aのシャフト118a、118bが飛び出る側面をスマートフォン10の筐体11の側面に貼り付けることで、振動軸の方向に筐体11に振動と打撃を付与することができる。このとき同時に、上部筐体101bをタッチスクリーン13の裏面に貼り付けるか、下部筐体101aを筐体11の底面に貼り付けるようにしてもよい。
【0036】
アクチュエータ100、100a、100bは、可動子150が往復直線運動をするが可動子の運動方向はこれに限定されない。本発明はERMのように偏心錘を含む可動子が回転運動をする回転型のアクチュエータに適用することもできる。
図9は、振り子のように偏心錘401を双方向に回動させて振動を生成するアクチュエータ400を軸方向からみた平面図である。アクチュエータ400は、本体が振動体70に固定されている。
【0037】
偏心錘401の両側には、それぞれハンマー405a、405bを備えるアーム403a、403bを設けている。モータは電流が流れるコイルとマグネットの協働で回動動作をする。
図9(A)は、モータのコイルに駆動電圧を印加しないときに、偏心錘401が静止している状態を示している。
図9(B)は、振動モードに設定した駆動電圧を印加したときに偏心錘401が所定の回動角αで回動する様子を示している。
【0038】
振動モードでは本体の振動が振動体70に伝搬するが、回動角αが小さいためハンマー405a、405bは振動体70に打撃を加えない。
図9(C)は、打撃モードにおいて振動モードの駆動電圧より大きな駆動電圧を印加したときに偏心錘401が回動する様子を示している。打撃モードでは、振動モードよりも偏心錘401に発生する角加速度が大きくなって回動角βが大きくなり、ハンマー405a、405bのいずれかが振動体70に打撃を加える。
【0039】
図10は、偏心錘501を一方向に回転させて振動を生成するアクチュエータ500を軸方向からみた平面図である。アクチュエータ500は、本体が振動体70に固定されている。偏心錘501の周辺には、板バネ503でハンマー505を固定している。モータは電流が流れるコイルとマグネットの協働で回転動作をする。
図10(A)は、モータのコイルに駆動電圧を印加しない状態を示している。板バネ503は、ハンマー505を、最も軸に近いホーム・ポジションに位置付けるように付勢している。
【0040】
図10(B)は、振動モードに設定した駆動電圧を印加したときに偏心錘501が所定の回転速度で回転する様子を示している。振動モードでは偏心錘501が回転して発生した本体の振動が振動体70に伝搬する。ハンマー505は遠心力でわずかにホーム・ポジションから離れることがあっても、振動体70に打撃を加える位置までは変位しない。
【0041】
図10(C)は、打撃モードにおいて、振動モードの駆動電圧より大きい駆動電圧を印加したときに偏心錘501が回転する様子を示している。打撃モードでは回転速度が振動モードよりも速くなるため、遠心力によるハンマー505の変位が大きくなり振動体70に打撃を加えることができる。駆動電圧の印加を停止すると回転速度が低下するため、ハンマー505は板バネ503の弾力でホーム・ポジションに復帰する。
【0042】
これまで本発明について図面に示した特定の実施の形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができることはいうまでもないことである。
【符号の説明】
【0043】
10 スマートフォン
11 筐体
13 タッチスクリーン
15 両面テープ
50 駆動回路
100、100a、100b、400、500 ハプティク・アクチュエータ
118a、118b ハンマー兼用シャフト
171a、171b、405a、405b、505 ハンマー
175a、175b 板バネ
173、173a スペーサ
301、305 駆動電流
303、307 面方向の振動加速度
309 上下方向の振動加速度