【文献】
武田剛典 他,3 B4−13 1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタンとイミダゾール誘導体包接結,日本化学会第89春季年会講演予稿集,社団法人日本化学会,2009年,89(2),p.789,ISSN 0285-7626
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記式(I)で表されるイミダゾール化合物が、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール又は2−エチル−4−メチルイミダゾールである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【背景技術】
【0002】
イミダゾール化合物は、医薬や農薬原料として、又は金属表面処理剤、エポキシ樹脂の硬化剤、硬化促進剤として広く用いられている。
【0003】
エポキシ樹脂の硬化剤、硬化促進剤としてイミダゾール化合物を用いた場合、低温かつ短時間で硬化でき、硬化物の機械特性、電気特性等がよい利点がある一方で、室温から硬化反応が開始してしまって保存安定性が低下する問題があった。そこでこれまでに、イミダゾール化合物を包接化することにより潜在性を持たせる試みがなされており、イミダゾール化合物を含む包接化合物の製造方法として以下のような方法が知られている。
【0004】
特許文献1には、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(以下、TEPともいう)と、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール(以下、2P4MHZともいう)とを含む包接化合物の製造方法として、酢酸エチル中にTEPと2P4MHZを懸濁させ、3時間加熱還流した後、室温まで冷却すると、包接化合物の結晶が得られることが記載されている。
【0005】
また、イソフタル酸化合物とイミダゾール化合物とを少なくとも含む包接化合物が知られており、特許文献2にはその製造方法として、5−ニトロイソフタル酸(以下、NIPAともいう)のメタノール溶液に、2−エチル−4−メチルイミダゾール(以下、2E4MZともいう)のメタノール溶液を、加熱還流下、攪拌しながら加え、加熱後に室温で一晩冷却することで、包接化合物の結晶が得られることが記載されている。
【0006】
特許文献3には、(A)エポキシ樹脂及び(B)5−ヒドロキシイソフタル酸と2−エチル−4−メチルイミダゾールを含有する包接錯体とを含有することを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物において、5−ヒドロキシイソフタル酸(以下、HIPAともいう)と酢酸エチルの混合物に、加熱しながら2E4MZの酢酸エチル溶液を滴下し、加熱還流を2時間行うと包接錯体の結晶が得られることが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、熱力学的に安定な包接化合物の結晶を高純度で得ることのできる、新規で工業的に有利な包接化合物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、プロトン性溶媒を含む混合溶媒と、TEP又は特定のイソフタル酸と、イミダゾール化合物とを混合して加熱することにより、従来の製造方法で得られた包接化合物と比して熱力学的に安定な結晶の包接化合物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、
(1)下記成分(A)、成分(B)、及び成分(C)を混合する混合工程と、加熱工程とを含む包接化合物の製造方法、
(A)プロトン性溶媒を含む混合溶媒
(B)1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、5−ヒドロキシイソフタル酸、及び5−ニトロイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種
(C)下記式(I)
【化1】
[式中、R
1は、水素原子、C1〜C10のアルキル基、アリール基、アラルキル基又はシアノエチル基を表し、R
2〜R
4は、水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、C1〜C20のアルキル基、ヒドロキシ基で置換されたC1〜C20のアルキル基、アリール基、アラルキル基又はC1〜C20のアシル基を表す。]
で表されるイミダゾール化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種
(2)下記成分(A)及び成分(D)を混合する混合工程と、加熱工程とを含む、結晶変換による包接化合物の製造方法、
(A)プロトン性溶媒を含む混合溶媒
(D)1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、5−ヒドロキシイソフタル酸、及び5−ニトロイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種及び下記式(I)で表されるイミダゾール化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種とを含む包接化合物
【化2】
[式中、R
1は、水素原子、C1〜C10のアルキル基、アリール基、アラルキル基又はシアノエチル基を表し、R
2〜R
4は、水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、C1〜C20のアルキル基、ヒドロキシ基で置換されたC1〜C20のアルキル基、アリール基、アラルキル基又はC1〜C20のアシル基を表す。]
(3)前記混合溶媒が、水及びメタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種である第一の溶媒と、アルコール系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、及び芳香族炭化水素系溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、かつ前記第一の溶媒とは異なる種類の溶媒である第二の溶媒と、を含む(1)又は(2)に記載の製造方法、及び
(4)前記式(I)で表されるイミダゾール化合物が、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール又は2−エチル−4−メチルイミダゾールである、(1)又は(2)に記載の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る製造方法は、低品位な原料を使用しても高純度の包接化合物を得ることができるため、工業上の利用価値が高い方法である。本発明に係る製造方法で得られる包接化合物は、従来の製造方法で得られる包接化合物より安定な結晶形であるため、エポキシ樹脂の硬化剤又は硬化促進剤として用いたときに優れた硬化特性を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本発明の包接化合物の製造方法)
本発明の包接化合物の製造方法は、以下の成分(A)、成分(B)及び成分(C)を混合する混合工程と、加熱工程とを含む方法であれば、特に制限されるものではない。
(A)プロトン性溶媒を含む混合溶媒
(B)1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、5−ヒドロキシイソフタル酸、及び5−ニトロイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種
(C)式(I)で表されるイミダゾール化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種
【0013】
ここで包接化合物とは、単独で安定に存在することのできる2種以上の化学種により構成される化合物で、そのうちの一方の化学種が分子規模の空間をつくり、その空間に形状と寸法が適合することを第一要件として、他方の化学種を取り込む(包接する)ことにより特定の結晶構造をなしている化合物である。空間を提供する側の化学種をホスト、包接される側の化学種をゲストと言う。ホストとゲスト間は、水素結合、ファンデルワールス力、イオン結合等の共有結合以外の相互作用により結合している。イオン結合性の包接化合物であれば、イオン結晶、塩構造を形成しているとも言える。
【0014】
(プロトン性溶媒を含む混合溶媒)
本発明の成分(A)は、少なくとも1種の溶媒がプロトン性である混合溶媒であれば、特に制限されるものではないが、第一の溶媒と第二の溶媒を含む混合溶媒であることが好ましい。
ここで、前記第一の溶媒は水及びメタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種で、第二の溶媒はアルコール系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、及び芳香族炭化水素系溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0015】
前記第二の溶媒に用いられる溶媒として、具体的には、メタノール、2−プロパノール等のアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;メチルエチルケトン、アセトン等のケトン系溶媒;ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒等を例示することができる。
好ましい第一の溶媒と第二の溶媒の組み合わせとして、水とメタノール、水とメチルエチルケトン、メタノールとメチルエチルケトン、メタノールと酢酸エチル、水と酢酸エチル、水とヘキサン等を例示できる。
【0016】
前記第一の溶媒と前記第二の溶媒は異種溶媒であり、ホスト化合物とゲスト化合物の溶媒への溶解性、生成する包接化合物の結晶性、溶媒同士の混和性等を考慮して、適宜溶媒の組み合わせや比率を選択することができる。ただし、第一の溶媒がメタノールの場合は、第二の溶媒はアルコール溶媒以外の溶媒を選択することが好ましい。
【0017】
混合溶媒における第一の溶媒と第二の溶媒の比率は、特に制限されるものではないが、反応開始時に該第一の溶媒/該第二の溶媒の質量比が、1/99〜99/1であり、好ましくは、2/98〜80/20であり、より好ましくは2/98〜70/30である。本実施の形態においては、この混合溶媒を用い、反応液の加熱・撹拌下に反応を行う。
【0018】
混合溶媒の使用量は、混合溶媒の種類や比率によっても異なり特に制限されるものではないが、成分(B)及び成分(C)の合計量の1重量部に対して、もしくは成分(D)1重量部に対して、0.5〜50重量部である。
【0019】
(ホスト化合物)
ホスト化合物は、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、5−ヒドロキシイソフタル酸、及び5−ニトロイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分(B)である。成分(B)の化合物がカルボン酸基を有する化合物の場合、水酸基を有する化合物よりも水素結合が強いため、包接化合物として強固な結晶構造になる。ホスト化合物の違いにより得られる包接化合物の熱特性等が異なることから、使用様態に応じて適宜選択することができる。
【0020】
(ゲスト化合物)
ゲスト化合物は、下記式(I)で表されるイミダゾール化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分(C)である。
【0022】
[式中、R
1は、水素原子、C1〜C10のアルキル基、アリール基、アラルキル基又はシアノエチル基を表し、R
2〜R
4は、水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、C1〜C20のアルキル基、ヒドロキシ基で置換されたC1〜C20のアルキル基、アリール基、アラルキル基又はC1〜C20のアシル基を表す。]
【0023】
R
1のC1〜C10のアルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、シクロプロピルメチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2−メチルブチル基、ネオペンチル基、1−エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、4−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
R
2〜R
4のC1〜C20のアルキル基としては、R
1のアルキル基として挙げたもののほか、ウンデシル基、ラウリル基、パルミチル基、ステアリル基等が挙げられる。
R
2〜R
4のヒドロキシ基で置換されたC1〜C20のアルキル基としては、ヒドロキシメチル基又はヒドロキシエチル基等が挙げられる。
R
2〜R
4のC1〜C20のアシル基としては、ホルミル基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基などのアルキル置換アシル基;アクリロイル基、メタクリロイル基などのアルケニル置換アシル基;ベンゾイル基、トルオイル基、ナフトイル基などのアリール置換のアシル基;シクロヘキシルカルボニル基等のシクロアルキル置換アシル基;クロロホルミル基等のハロゲン原子を有するアシル基等が挙げられる。
R
2〜R
4のアリール基は、単環又は多環のアリール基を意味する。ここで、多環アリール基の場合は、完全不飽和に加え、部分飽和の基も包含する。例えばフェニル基、ナフチル基、アズレニル基、インデニル基、インダニル基、テトラリニル基等のC6−10アリール基が挙げられる。
R
2〜R
4のアラルキル基は、上記アリール基とアルキル基が結合した基であり、 ベンジル基、フェネチル基、3−フェニル−n−プロピル基、1−フェニル−n−へキシル基、ナフタレン−1−イルメチル基、ナフタレン−2−イルエチル基、1−ナフタレン−2−イル−n−プロピル基、インデン−1−イルメチル基等のC6−10アリールC1−6アルキル基が挙げられる。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子が挙げられる。
R
1〜R
4のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基は置換基を有していてもよく、置換基としてはアルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン原子を挙げることができる。
置換基としてのこれらの基の具体例としては、上記と同様の基を挙げることができる。なお、アルコキシ基のアルキル基部分の具体例としては、上記アルキル基と同じものを挙げることができる。
【0024】
イミダゾール化合物として具体的に例えば、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、3−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、5−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、3−エチルイミダゾール、4−エチルイミダゾール、5−エチルイミダゾール、1−n−プロピルイミダゾール、2−n−プロピルイミダゾール、1−イソプロピルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、1−n−ブチルイミダゾール、2−n−ブチルイミダゾール、1−イソブチルイミダゾール、2−イソブチルイミダゾール、2−ウンデシル−1H−イミダゾール、2−ヘプタデシル−1H−イミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1,3−ジメチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−フェニルイミダゾール、2−フェニル−1H−イミダゾール、4−メチル−2−フェニル−1H−イミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニル−4,5−ジ(2−シアノエトキシ)メチルイミダゾール等が挙げられる。
【0025】
中でも、2−エチル−4−メチルイミダゾール、及び、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールからなる群から選ばれる少なくとも1種のイミダゾール化合物がより好ましい。
【0026】
(混合工程)
本発明の混合工程は、成分(A)に記載の混合溶媒、成分(B)に記載の化合物(以下、ホスト化合物ともいう)、及び成分(C)に記載の化合物(以下、ゲスト化合物ともいう)を混合するのであれば特に制限はなく、例えば、以下のような方法を例示できる。
(a)混合溶媒に、ホスト化合物とゲスト化合物とを加える
(b)混合溶媒にホスト化合物を加えた後、ゲスト化合物を加える
(c)混合溶媒にゲスト化合物を加えた後、ホスト化合物を加える
(d)混合溶媒にホスト化合物を加えた後、溶媒に溶解させたゲスト化合物を加える(ただし、ゲスト化合物の溶解に用いる溶媒は、混合溶媒を構成する溶媒成分のうちの少なくとも1種と同一であることが好ましい)
(e)混合溶媒にホスト化合物を加えた後、加熱溶融させたゲスト化合物を加える(ただし、ゲスト化合物が固体の場合)
(f)混合溶媒とホスト化合物を混合した後、該混合物を加熱しながらゲスト化合物を加える
(g)ゲスト化合物に、混合溶媒に溶解したホスト化合物を加える
【0027】
ホスト化合物及びゲスト化合物は混合溶媒に溶解又は懸濁するが、両方とも溶媒に溶解することが好ましい。溶媒に溶解する場合、その全量が溶媒に溶解する必要はなく、少なくともごく一部が溶媒に溶解すればよい。また、ゲスト化合物が固体の場合、溶融させてからゲスト化合物及び/又は混合溶媒と混合してもよい。
包接化合物の製造時におけるホスト化合物とゲスト化合物との混合割合としては、ホスト化合物1モルに対して、ゲスト化合物が、0.1〜10モルであることが好ましく、0.5〜5.0モルであることがより好ましい。
【0028】
(加熱工程)
本発明の加熱工程とは、製造工程のどこかに加熱処理を行う工程が含まれていれば特に制限はないが、前記混合工程時及び/又は前記混合工程後に加熱処理を行うことが好ましい。
加熱温度は、用いる溶媒の種類によっても異なるが、例えば40〜150℃の範囲内であり、好ましくは加熱還流することである。加熱時間は5分〜12時間、好ましくは1〜3時間である。
【0029】
(その他の工程)
本発明の包接化合物の製造方法は、本発明の効果が損なわれない範囲で、上記混合工程又は上記加熱工程のいずれかの工程の前後に、他の工程を有していてもよい。他の工程として例えば、
前記加熱工程の後に混合物を冷却する工程;
冷却した混合物を濾過する工程;
濾過して得られた物質を乾燥させて、包接化合物の結晶を得る工程;
ホスト化合物やゲスト化合物が固体の場合、前記混合工程の前に、該ホスト化合物や該ゲスト化合物を粉砕する工程;
等が挙げられる。
ここで、ホスト化合物やゲスト化合物の粒径は、本発明の効果が得られる限り特に制限されないが、平均粒径を50μm以下とすることが好ましく、20μm以下とすることがより好ましい。
【0030】
(包接化合物)
包接化合物に含まれるホスト化合物及びゲスト化合物の割合は、包接化合物を形成しうる限り特に制限はないが、ホスト化合物1モルに対して、ゲスト化合物が、0.1〜10モルであることが好ましく、0.5〜5.0モルであることがより好ましい。
第3成分を含有する場合には、第3成分は包接化合物全量に対して40モル%以下であることが好ましく、さらには10モル%以下が好ましく、特に、第3成分を含まないことが最も好ましい。また、ホスト化合物に対して、二種類以上のゲスト化合物を反応させることにより、三成分以上の多成分からなる包接化合物を得ることもできる。
【0031】
(結晶変換による包接化合物の製造方法)
公知の製造方法で得られる包接化合物を結晶変換することにより、前述した方法で得られる包接化合物と同等のものを得る方法も、本発明に含まれる。
その場合の包接化合物の製造方法は、成分(A)及び成分(D)を混合する混合工程と、加熱工程とを含む方法であれば特に制限されるものではない。
(A)プロトン性溶媒を含む混合溶媒
(D)1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、5−ヒドロキシイソフタル酸、及び5−ニトロイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種及び下記式(I)で表されるイミダゾール化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む包接化合物
【0033】
[式中、R
1は、水素原子、C1〜C10のアルキル基、アリール基、アラルキル基又はシアノエチル基を表し、R
2〜R
4は、水素原子、ニトロ基、ハロゲン原子、C1〜C20のアルキル基、ヒドロキシ基で置換されたC1〜C20のアルキル基、アリール基、アラルキル基又はC1〜C20のアシル基を表す。]
【0034】
前記成分(A)は前述したとおりである。
前記成分(D)に記載の包接化合物は、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、ホスト化合物とゲスト化合物を溶媒に添加後、必要に応じて攪拌しながら加熱処理又は加熱還流処理を行った後、析出させることにより得る方法や、前記ホスト化合物及びゲスト化合物を溶媒にいったん溶解させた後、該溶媒を冷却して結晶を析出させる晶析法等を例示することができるが、これらの方法に限定されるものではない。なお、前記成分(D)に含まれるイミダゾール化合物は前述のとおりである。
前記混合工程及び前記加熱工程は、前述の混合工程及び加熱工程と同様に行うことができる。
【0035】
本発明に係る方法で製造した包接化合物は、エポキシ樹脂を硬化させる用途、例えば、エポキシ樹脂系接着剤、半導体封止材、プリント配線板用積層板、ワニス、粉体塗料、インク、繊維強化複合材料等の用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
[実施例1]〜[実施例8]
フラスコに表1に示す量のTEP(製品名:TEP−DF、旭有機材工業(株)製)、2P4MHZ(製品名:2P4MHZ−PW、四国化成工業(株)製)、及び混合溶媒を加え、攪拌しながら加熱還流を3時間行った。冷却後、ろ過、乾燥を行い、包接比(TEP:2P4MHZ)=1:2の包接化合物(結晶B)を得た。
実施例1で得られた包接化合物につき、熱重量測定・示差走査熱量測定(TG−DSC)を行った。TG−DSCは、熱重量測定装置(製品名:TGA−DSC1、メトラー・トレド社製)を用いて、アルミ容器内に約3mgの結晶を設置し、窒素パージ下(流速50mL/分)昇温速度20℃/分、30〜500℃の温度範囲で測定した。その結果、得られた包接化合物の2P4MHZの放出温度は231℃であった。実施例2〜8についても同じ測定結果を得た。
【0037】
【表1】
【0038】
[比較例1]
特許文献1に記載の方法に準じてTEPと2P4MHZの包接化合物を製造して包接化合物(結晶A)を得た。
得られた包接化合物のTG−DSCを、実施例1と同様の装置及び条件で測定した。その結果、得られた包接化合物の2P4MHZの放出温度は223℃であった。結晶Bは結晶Aと比して前記放出温度が高く、結晶Bの方が熱力学的に安定な結晶形であることがわかった。
【0039】
[実施例9]〜[実施例11]
フラスコに表2に示す量の包接化合物(結晶A)及び混合溶媒を加え、攪拌しながら加熱還流を3時間行った。冷却後、ろ過、乾燥を行うことで包接化合物(結晶B)を得た。それぞれの包接化合物のTG−DSCを測定し、実施例1と同じ結果を得た。
【0040】
【表2】
【0041】
[実施例12]〜[実施例16]
フラスコに、3.04g(16.7mmol)のHIPAと表3に記載の量の混合溶媒を加え、攪拌した。そこへ予め酢酸エチル又はメチルエチルケトンに溶解させた1.84g(16.7mmol)の2E4MZ(製品名:2E4MZ、四国化成工業(株)製)を滴下した後、攪拌しながら加熱還流を3時間行った。冷却後、ろ過、乾燥を行い、包接比(HIPA:2E4MZ)=1:1の包接化合物(結晶D)を得た。
実施例12で得られた包接化合物のTG−DSCを、実施例1と同様の装置及び条件で測定した。その結果、得られた包接化合物の2E4MZの放出温度は189℃であった。実施例13〜16についても同じ測定結果を得た。
【0042】
【表3】
【0043】
[比較例2]
特許文献3に記載の方法に準じてHIPAと2E4MZの包接化合物を製造して包接化合物(結晶C)を得た。
得られた包接化合物のTG−DSCを、実施例1と同様の装置及び条件で測定した。その結果、得られた包接化合物の2E4MZの放出温度は173℃であった。結晶Dは結晶Cと比して前記放出温度が高く、結晶Dの方が熱力学的に安定な結晶形であることがわかった。
【0044】
[実施例17]〜[実施例23]
フラスコに表4に示す量の包接化合物(結晶C)及び混合溶媒を加え、攪拌しながら加熱還流を3時間行った。冷却後、ろ過、乾燥を行うことで、包接化合物(結晶D)を得た。それぞれの包接化合物のTG−DSCを測定し、実施例12と同じ結果を得た。
【0045】
【表4】
【0046】
[実施例24]
表5に示す量の、ナトリウム成分を多く含む低品位TEP、2P4MHZ、及び混合溶媒を加え、攪拌しながら加熱還流を3時間行った。冷却後、ろ過、乾燥を行い、包接化合物を得た。
各成分に含まれるナトリウム元素濃度を、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)にて測定した結果を表5に示す。この結果より、低品位TEPに含まれるナトリウム元素はろ過後のろ液中に溶出し、得られる包接化合物に残存しないことから、本発明の製造方法を用いると、低品位原料を用いた場合でも高純度の包接化合物を得ることができることがわかった。
【0047】
【表5】