(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のような圧粉磁心は、軟磁性粉末を金型内に充填し、高圧力でプレス加工することによって構成されるため、成型完了時において、金型表面と成型されたコアの表面とは強い力で接触している。そのため、金型内から成型されたコアを取り出す場合に、コアの表面と金型表面とが摺動すると、コアの表面が強く擦られ、その部分の軟磁性粉末の表面に形成した絶縁被膜が削り取られる現象が生じる。軟磁性粉末の絶縁被膜が失われると、軟磁性粉末同士が直接接触し、コアの表面に金属の薄い層が形成されることになり、コアを通過する磁束によってその部分で渦電流損が発生し、リアクトルの損失が増加する原因となる。
【0006】
このような問題点を解決するため、摺動により損傷した接続面に、切削加工やエッチング処理を施して損失悪化を抑制することも可能であるが、工程処理数の増大および生産コストの増大となり量産性の観点で望ましくなかった。
【0007】
一方、成型されたコアを取り出す際に、金型表面と摺動しない部分、具体的には、コア表面の内、金型からの取り出し方向と直交する面は、取り出し時に金型表面とコアの表面とが圧着しているだけであるから、そのような問題が生じない。そのため、複数のコアを接続して環状のコアを作成する場合、このような金型表面と摺動しない表面を他のコアとの接続面とすることにより、環状コアを通過する磁束が金型との摺動面を通過しないようにすることが好ましい。
【0008】
この場合、I字型コアを構成する分割コアは、全体が略立方体若しくは直方体をしていることから、コアのどちらの方向からでもプレス加工を行うことができ、取り出しも可能である。しかし、
図8に示すように、ヨーク部を構成するU字型コアは、コアの両端が中央部に対して突出しているため、U字型コアの厚み方向(コア両端に形成されるI字型コアとの接続面101と平行な方向)からプレス加工及び金型の取り出しを行わざるを得ない。仮に、U字型コアを、I字型コアとの接続面101と直交する方向からプレスするには、中央が突出した凸型の金型を使用する必要があり、金型内に充填した軟磁性粉末に加わる圧力が中央の突出部とその周囲で異なってしまい、成型されたコアの密度が各部で不均等になって、リアクトルの磁気特性の低下を招くことになる。
【0009】
前記の様に、ヨーク部を構成するU字型コアは、密度の均一化などの目的から、扁平な形状をしたU字型コアの上下表面(U字型をした面)に対して、U字型コアの厚み方向からプレス加工を行っていたため、次のような問題点もあった。すなわち、作製されたU字型コアは、樹脂製のコイルボビンに対してインサート成型され、その後、コイルボビン内部にI字型コアが挿入されると共に、コイルボビンの外周にコイルが装着されて、リアクトル本体が形成される。このリアクトル本体は、アルミニウム製のケース内に固定されるが、コイルボビンに対するU字型コアのインサート成型時に、リアクトル本体をケースに固定するための金具(一般に、ステイと呼ばれる)も、同時にインサート成型される。
【0010】
このステイは、インサート成型時において、U字型コアの上方にわずかな隙間を保って配置されるが、前記の様にU字型コアの上下表面が扁平であると、ステイとコア上面との間にステイを下から支持する部材を配置することができない。その結果、ステイを上からしか保持することができず、樹脂モールドの際の射出圧によりステイが変形し、リアクトルを収容するケースへのリアクトルの正確な固定ができない問題を招いていた。
【0011】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものである。第1の目的は、コアに金型との摺動によって形成された摺動面があっても、磁気特性を損なうことなく良好な磁気特性を有するリアクトル及びその製造方法を提供することにある。第2の目的は、コアと固定具をインサート品として樹脂モールドする際に、固定具の変形を防止し、固定具を高精度に設置することのできるリアクトル及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のリアクトルは、次の構成を有することを特徴とする。
(1)複数の脚部と、前記脚部の両端を接続する一対のヨーク部とからなる環状コア。
(2)前記環状コアの少なくとも一部に装着されたコイル。
(3)
ヨーク部とともに樹脂モールドされた固定具
(
4)前記脚部とヨーク部が、軟磁性粉末をプレス成型して成る圧粉磁心によって構成さ
れている。
(
5)前記ヨーク部は、プレスすることで形成された略扁平な面と、金型との摺動によって形成され面と、前記略扁平な面と直交する摺動を有している。
(
6)前記略扁平な面は、前記脚部との接続面を含んでいる。
(
7)前記ヨーク部は、前記接続面が、前記コイルの巻軸方向と直交するように配置されている。
(
8)前記摺動面には、前記接続面と直交する方向に溝状に延びる切欠き部が設けられている。
(
9)記切欠き部は、その両端が前記接続面と前記接続面と対向する面と繋がり開口している。
(10)前記固定具は、前記切欠き部の上方に位置している。
【0013】
本発明において、前記ヨーク部は、前記略扁平な面と直交する面に、切欠き部が設けられていても良い。
【0014】
また、上記のようなリアクトルの製造方法も本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、損失を抑制することができ、良好な磁気特性を有するリアクトルを得ることができる。また、ヨーク部に切欠き部を設けた場合には、樹脂モールドの際に固定具の変形を防止し、固定具を高精度に設置することができるリアクトルを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態のリアクトル及びその製造方法について説明する。
【0018】
[第1の実施形態]
[1−1.構成]
図1は、本実施形態に係るリアクトルの全体構成を示す斜視図であり、
図2は、その分解斜視図である。リアクトル1は、例えばハイブリッド自動車や電気自動車の駆動システム等で使用される大容量のリアクトルである。リアクトル1は、熱伝導性が高く軽量な金属(例えばアルミニウム合金)で形成された略直方体の収容スペースを有する放熱ケース(不図示)内に固定される。リアクトル1と放熱ケースとの隙間には充填剤が充填される。充填剤には、リアクトル1の放熱性能の確保及びリアクトル1から放熱ケースへの振動伝搬の軽減のため、比較的柔らかく熱伝導性の高い樹脂が適している。
【0019】
図1および2に示すように、本実施形態のリアクトル1は、コア部10とコイル20とコイルボビン30と固定具40とを備える。なお、以下の説明では、Z軸正方向を「上」、Z軸負方向を「下」と呼び、X、Y方向を「左右方向」と呼ぶ場合がある。
【0020】
(1)コア部10
図3はコア部10を示す図である。
図2および
図3に示すように、コア部10は、平行に並んだ2本の脚部11と、当該2本の脚部11をその両端で接続する一対のヨーク部12とを備える。すなわち、コア部10は、一対の脚部11の端部が一対のヨーク部12に突き合わされることで環状の閉磁路を構成している。脚部11は、略直方体状の分割コア11aと、板状のスペーサ11bとを複数備えている。脚部11は、複数の分割コア11aの間にスペーサ11bが挟まれて、一方向に延びるI字形状になっている。本実施形態では、4つの分割コア11aの間にスペーサ11bがそれぞれ配置され、それぞれ接着剤で固定されている。脚部11は、
図2および
図3において、Y軸方向に延びている。
【0021】
分割コア11aは、圧粉磁心からなる磁性体粉末成形体である。すなわち、磁性体粉末の周りに絶縁被膜を被覆してなる圧粉磁心を金型によって矢印Pの方向にプレスして成型したものである。分割コア11aの面のうち、Y軸方向と直交する面(X軸方向と平行な面)がプレスによって形成されたプレス面である。このプレス面が他の分割コア11a又はヨーク部12との接続面となる。磁性体粉末としては、純鉄粉や非晶質軟磁性粉末(以下、単に、「軟磁性粉末」という。)を用いることができる。
【0022】
絶縁被膜は、例えばガラスおよび結着性樹脂から形成することができる。ガラスとしては、ビスマス系、リン酸系、アルカリ系、バナジウム系の低融点ガラスが使用できる。結着性樹脂としては、シリコーン系樹脂、ワックスなどが挙げられる。
【0023】
スペーサ11bは、例えば非磁性体(アルミナ等の各種セラミックスや樹脂等)の板材である。分割コア11a間に所定幅の磁気的なギャップを持たせ、リアクトルのインダクタンス低下の防止を図っている。なお、エアギャップでも良く、スペーサ11bが無くても良い。
【0024】
ヨーク部12は、四角いブロック状の部材で、脚部11を接続する面と反対側の隅部が面取りされた形状を有するコアであり、分割コア11aと同様に圧粉磁心によって構成されている。ヨーク部12は、金型を用いて成型され、プレスによって形成されるプレス面と、金型から取り出すときに金型内面と摺動して形成される摺動面とを有する。ヨーク部12は、脚部11の分割コア11aとの接続面12aと、溝状の切欠き部12bとを備える。接続面12aはプレス面のうちの一面であり、略扁平になっており、当該接続面12aに一対の脚部11の端部が接続されている。ヨーク部12は、
図3に示すように、その扁平な接続面12aが磁路方向Aと垂直になるように配置されている。なお、接続面12aは扁平であることが望ましい。
【0025】
切欠き部12bは、接続面12aと垂直な摺動面に形成されている。
図3では、ヨーク部12の上面および下面にそれぞれ形成されている。この切欠き部12bは、接続面12aと直交する方向(
図3ではY方向)に延びる溝状の部分で、その両端が接続面12a及び接続面12aと対向する面と繋がり開口している。この切欠き部12bは、コア部10と固定具40を一緒に樹脂モールドしコイルボビン30を形成する際に、固定具40を高精度に設置するために用いられる。切欠き部12bの形状、溝の深さ、数は自由であり、樹脂モールドの際に使用するスライダ62の形状に合わせて適宜変更することができる。
【0026】
(2)コイル20
コイル20は、エナメル被覆した銅線である。コイル20はコア部10の脚部11にコイルボビン30を介して巻回されている。具体的には、コイル20は、同一構造の直線コイル部21、22を平行に並べて一端同士を連結線25で連結した構成を有している。なお、コイル20はアルミニウムであっても良い。また、直線コイル部21、22が連結線25で連結されない場合もコイル20に含まれる。
【0027】
直線コイル部21、22は、例えば平角線を一巻き当たり4箇所で直角方向に折り曲げて略正方形状に巻いたエッジワイズコイルである。
図2に示されるように、直線コイル部21、22の空芯部は、巻軸方向と直交する方向に切断されたときに現れる形状(以下、空芯部形状という。)が四隅にRの付いた略矩形状となっている。直線コイル部21、22の一端である端子23、24は、負荷と接続される。
【0028】
直線コイル部21、22の空芯部には、前述の脚部11が挿入されて配置され、直線コイル部21、22の外側にはヨーク部12が配置されている。直線コイル部21、22の巻線方向(X軸方向)と、分割コア11a及びヨーク部12のプレス面は平行になっている。換言すると、直線コイル部21、22の巻軸方向(磁路方向)と、分割コア11a及びヨーク部12のプレス面とは直交している。
【0029】
(3)コイルボビン30
図2に示すように、コイルボビン30は、コア部10を内部に配置するべく、コア部10に倣って筒形形状を有し、断面が略矩形となっている。このコイルボビン30は、コア部10とコイル20とを絶縁するものである。主材料としては、例えば、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、BMC(Bulk Molding Compound)、PPS(Polyphenylene Sulfide)、PBT(Polybutylene Terephthalate)等が挙げられる。
【0030】
コイルボビン30は、脚部11の軸方向と直交する方向で、2分割されている。すなわち、一対の筒状部31aを有する略U字型の第1ヨーク側ボビン31と、略T字型をした第2ヨーク側ボビン32とから構成される。第1、第2ヨーク側ボビン31、32は、それぞれインサート部31b、32bを備えている。インサート部31b、32b内には、射出成型などの手法でヨーク部12と固定具40とが埋め込まれる。第1ヨーク側ボビン31の筒状部31a内には、リアクトルの組立時において脚部11を構成する分割コア11aが挿入され、当該筒状部31aの周囲にはコイル20が嵌め込まれる。
【0031】
なお、第1ヨーク側ボビン31および第2ヨーク側ボビン32の上面には、複数の穴33が形成されている。また、第1ヨーク側ボビン32には穴34が形成されている。後述するように、これらの穴33、34は、樹脂モールド過程において固定具40を上下方向から押さえる金型により形成される。穴34は、ヨーク部12の切欠き部12bと連通している。
【0032】
(4)固定具40
固定具40は、金属板であり、コイルボビン30の金型内にインサート品としてセットされ、金型内に樹脂が充填されることにより、コイルボビン30と一体的に構成される。すなわち、
図1および
図2に示すように、固定具40は、その中央部がコイルボビン30を形成する樹脂内に埋め込まれ、両端がコイルボビン30の四隅から外方に突出している。固定具40の両端にはボルト穴41が形成されている。リアクトル1は、このボルト穴41を介してボルトで放熱ケースに締結固定される。
【0033】
固定具40は、
図4に示すように、ヨーク部12上面より2mm上方に固定されている。すなわち、コイルボビン30を形成する際に、固定具40は、ヨーク部12とともにインサート品とされ、ヨーク部12上面の上方に固定具40を固定した状態で射出成型されて、その位置が固定されている。なお、ここでは例として、ヨーク部12上面より2mm上方に固定されているとしたが、ヨーク部12上面からどれだけ上方に位置するかは、切欠き部12bの深さや、後述するスライダ62の形状等によって決まるものであり、特に2mmに限定されない。
【0034】
次に、上記のような構成を有するリアクトルの製造工程について説明する。本実施形態のリアクトルの製造工程は、以下の(a)〜(d)の工程を備える。
(a)分割コア形成工程
(b)ヨーク部形成工程
(c)樹脂モールド形成工程
(d)閉磁路形成工程
【0035】
以下、各工程について、詳細に説明する。
(a)(b)分割コア形成工程およびヨーク部形成工程
分割コア形成工程およびヨーク部形成工程について説明する。コア部10を構成する分割コア11aとヨーク部12はプレス成形によって形成される。両者は形状が異なるだけで、ともにプレス方向は同じである。分割コア11aとヨーク部12の形成工程は同様であるので、以下では代表してヨーク部12のプレス成形について説明する。
【0036】
図5は、プレス成形型によるヨーク部12のプレス成形を概略的に示す図である。
図5(a)は、Z方向(上方向)から見たプレス成形型の断面図、
図5(b)は、Y方向から見たプレス成形型の断面図、
図5(c)は成形されたヨーク部12の斜視図である。
図5(a)に示すように、プレス成形型50は、一方向軸(Y軸)を取り囲む筒状の固定型51と、固定型51の両端の開口を塞ぐ一対の可動型52とを備えている。固定型51と一対の可動型52とによって規定されるキャビティに成形素材である、絶縁被覆された軟磁性粉末が充填される。この軟磁性粉末の充填後、一対の可動型52が互いに近づく方向(矢印P方向)に相対移動されると、キャビティ内の圧粉磁心が圧縮プレスされてヨーク部12が成形される。なお、固定型51と可動型52との嵌め合いは、例えば隙間嵌めである。
【0037】
図5(b)に示すように、固定型51には内側(Z方向)に突出した凸部51aがあり、当該凸部51aの形状が切欠き部12bの形状を決定する。換言すると、切欠き部12は凸部51aの形状によって形成されるものであり、Z方向のプレスによって形成されるものではない。凸部51aの形状や数を適宜変更することで所望形状および数の切欠き部12bを形成することができる。
図5(c)においては、凸部51aは、凸形状がY方向に延びている。
【0038】
図5(c)に示すように、成形されたヨーク部12には、摺動面S1とプレス面Spとが形成される。すなわち、プレス成形によってヨーク部12が成形されると、成形体となったヨーク部12を固定型51から抜く必要がある。その際、ヨーク部12の固定型51と接する摺動面S1では、固定型51と擦れるため、当該摺動面S1における磁性体粉末の周囲の絶縁被膜が損傷する。一方、プレス面Spは可動型52によってプレスされて形成される面であり、略扁平な面である。このプレス面Spは固定型51に面していない。すなわち、ヨーク部12のプレス方向と脱型方向とが同じであるため、プレス面Spが固定型51から脱型する際に擦れることはない。従って、プレス面Spにある磁性体粉末の周囲の絶縁被膜は損傷しないで済む。なお、分割コア11aにおいても、固定型と接する面が摺動面S1となり、可動型と接する面がプレス面Spとなる。また、分割コア11a、ヨーク部12のプレス面Spは扁平であることが望ましい。
【0039】
図6は、固定型51から脱型した後のヨーク部12の写真である。
図6の写真は、400μm×576μmの範囲を示す。このヨーク部12は、周囲にSiO被膜を有する平均粒径40μmの純鉄粉末に対し、シリコーン樹脂(1.8wt%)を添加して混合し、得られた混合物をプレス成型型50内に充填し、常温の金型で7ton/cm
2〜9ton/cm
2の圧力でプレスして成型されたものである。
図6(a)は摺動面S1の写真であり、
図6(b)はプレス面Spの写真である。
図6において、大別すると、白く見える部分と黒く見える部分とがある。白く見える部分は純鉄粉末を示し(例えば符号B)、黒く見える部分は絶縁被膜又は空間を示す。黒く見える部分のうち、純鉄粉末B同士の境界の比較的狭い部分が絶縁被膜(例えば符号C)であり、比較的大きい部分が空間(例えば符号D)である。摺動面S1では、固定型51との摺動によって絶縁被膜Cが損傷していることが分かる。すなわち、摺動面S1で純鉄粉末同士が直接接触し、薄い層が形成されていることが分かる。そのため、この摺動面S1においては損失が発生し、磁気特性が劣化する。なお、例えば符号Eに示すように、写真の上下に亘ってキズが付いており、ヨーク部12がこの方向に取り出されたことが分かる。一方、プレス面Spでは、固定型51と摺動しないため、絶縁被膜Cはそのまま残っており、磁気特性が良好なままである。
【0040】
(c)樹脂モールド成型工程
図7を参照しながら切欠き部12bを使った樹脂モールド成型工程について説明する。
図7(a)及び(b)は、ヨーク部12と固定具40をインサート品として金型内にセットして、樹脂の射出成型を行う工程を説明するための模式図である。なお、金型は、上型の金型と下型の金型とを有している。下型の金型にはスライダ62が、上型の金型には突起64が一体的に構成されている。
図7(a)及び(b)においては、図が煩雑になるためこれらの金型の図示を省略し、説明に必要なスライダ62と突起64のみを明示的に図示している。
【0041】
コイルボビン30は、上型の金型と下型の金型との間に樹脂を充填させて固化することで形成される。固定具40はこの工程において固定して設置される。なお、第1、第2ヨーク側ボビン31、32は、形状が異なるだけで、工程自体同様であるので、以下の説明はその両方に当てはまる。樹脂モールド成型工程は以下の(c1)〜(c4)の通りである。
【0042】
(c1)下型の金型内にヨーク部12をセットするとともに、ヨーク部12上面の切欠き部12bに下側の金型のスライダ62が位置するようにセットする。
(c2)スライダ62の平面62a上に固定具40をセットする。すなわち、
図7(a)及び(b)に示すように、スライダ62は階段形状になっており、1段下がった平面62aが固定具40の裏面と接するようにセットする。
(c3)上型の金型を、上型の金型の2つの突起64が固定具40の上面に位置するようにセットする。
(c4)固定具40を、上から突起64によって2箇所、下からスライダ62によって1箇所で上下方向にしっかり挟んだ状態で、樹脂を充填し固化させる。
コイルボビン30の穴33、34は、突起64、スライダ62で固定具40を押さえつけたために樹脂が充填されずに形成された穴である。すなわち、穴33と突起64の形状は一致し、穴34とスライダ62の形状は一致する。なお、上記説明では、スライダ62と突起64は、上型及び下型の金型と一体的であるとしたが、上型及び下型の金型と別体としても良い。
【0043】
第1ヨーク側ボビン31と第2ヨーク側ボビン32は、上記(c1)〜(c4)の工程を経て形成される。第1ヨーク側ボビン31と第2ヨーク側ボビン32が形成された後、第1ヨーク側ボビン31の筒状部31aの内部に、分割コア11aとスペーサ11bで構成される脚部11を収容するとともに、当該筒状部31aの周囲にコイル20を嵌め込む。その後、第1ヨーク側ボビン31と第2ヨーク側ボビン32の互いの端部を突き合わせ、コイルボビン30を構成する。
【0044】
(d)閉磁路形成工程
次に、閉磁路形成工程について説明する。この工程は、平行に並んだ2本のI字型の脚部11の両端を一対のヨーク部12を突き合わせて環状の閉磁路を形成する工程である。
【0045】
本実施形態の分割コア11aとヨーク部12は、プレス成形型50の形状が異なるだけで上記工程(a)及び(b)のように製造されており、プレス方向が同じになっている。分割コア11aとヨーク部12を、互いのプレス面Spが平行になるように配置して、プレス面Sp同士で接続する。換言すると、分割コア11aとヨーク部12は、接続されるプレス面Spが磁路方向Aと垂直になるように配置して接続される。分割コア11aのプレス面Spが他の分割コア11a又はヨーク部12と接続される接続面である。ヨーク部12のプレス面Spのうち、分割コア11aと対面するプレス面Spが接続面12aである。2本のI字型の脚部11の端部が一対のヨーク部12の接続面12aに突き合わされることで閉磁路が構成される。
【0046】
[1−2.作用効果]
(1)本実施形態のリアクトル1は、脚部11のプレス面Spとヨーク部12のプレス面Spのうち、互いに接続される接続面が、コイル20の巻軸方向(磁路方向)と直交するように配置するとともに、平行に配置された脚部11の接続面をヨーク部12の一の接続面12aに突き合わせて閉磁路を構成した。これにより、脚部11及びヨーク部12のプレスにより形成された扁平な接続面がコイルの巻軸方向(磁路方向)と直交し、摺動面S1が磁路方向と交わらないので、損失の増大を抑制することができ、良好な磁気特性を有するリアクトルを得ることができる。
【0047】
(2)また、摺動面S1が閉磁路と交わることがないので、摺動面S1に切削加工やエッチング処理を行う必要がない。さらには、プレス成形型50の内面への潤滑性樹脂の添加を省略することができる。そのため、低コストかつ工程数の少ない量産性の高いリアクトルを提供することができる。
【0048】
(3)ヨーク部12の脚部11と突き合わされるプレス面Spと直交する面に溝状の切欠き部12bを設けた。これにより、コイルボビン30の形成の際、ヨーク部12と固定具40をインサート品として金型内にセットし、固定具40をその表面と裏面からスライダ62と突起64で挟み込むことができるので、固定具40を高精度に固定し設置することができる。その結果、リアクトル1の放熱ケースへの位置固定の正確性が向上する。また、従来では、スペースの関係上、固定具40を上からしか押さえることができず、樹脂モールドの過程で固定具40が下方向に変形していたが、切欠き部12bを形成したことにより、下からも固定具40を押さえることができるようになったので、固定具40の変形を防止することができる。
【0049】
(4)本実施形態のリアクトルの製造方法によれば、分割コア11aとヨーク部12のプレス方向が同じであることにより、ヨーク部12の上面および下面に切欠き部12bを形成することができる。すなわち、従来でも切欠き部を形成することは理論上可能であったが、従来のヨーク部はU字型コアであり、そのプレス方向は分割コア11のプレス方向と直交する上下方向であった。そのためU字型コアの上面および下面に切欠き部を設けようとすると、段差を付けるために、突起の付いた複雑でコストのかかる多段金型によってプレスすることが一般的であるが、突起の付いた部分と付いていない部分とで成形素材に加わる圧力が違ってくる。そのため、U字型コアの密度が不均一となり使用可能な製品として成立しにくい問題があった。一方、本発明では、U字型コアの一対の脚部をなくして、分割コア11aとヨーク部12のプレス方向を同じにした。これにより、切欠き部12bをプレスではなく固定型51の形状によって形成することが可能になり、従来のようにヨーク部12は密度が不均一になることはない。
【0050】
[他の実施形態]
(1)第1実施形態の脚部11は、複数の分割コア11aを有するとしたが、脚部11の分割コア11aは一つでも良い。
(2)第1実施形態の
図3に示したヨーク部12は、その断面が略六角形であるが、これに限定されず、断面が半円状又は四角形状等の多角形状にしても良い。
(3)分割コア11aやヨーク部12の角をR状にし、丸みを付けるようにしても良い。
【0051】
(4)ヨーク部12の溝状の切欠き部12bは、溝が、接続面12a及び当該面と対面するプレス面まで通じ、溝の両端が開口していても良いし、溝の一端のみが接続面12aと対面するプレス面まで通じ開口していても良い。スライダ62が固定具40の下側に滑り込めれば良い。
(5)切欠き部12bは、固定具40と対面するヨーク部12の面に設けていれば良く、上面又は下面の何れか一方のみとすることもできる。
(6)固定具40の位置、形状は、図示したものと違っていても良いし、第1ヨーク側ボビン31と第2ヨーク側ボビン32とで異なる固定具40を使用しても良い。
【0052】
(7)脚部11とヨーク部12とは、接着剤により接着しても良いし、接着ではなく第1、第2ヨーク側ボビン31、32によって圧着保持されて接続しても良い。
(8)第1実施形態では、脚部11とヨーク部12との間にスペーサを配置していないが、スペーサを介して接続しても良い。
【0053】
(9)第1の実施形態では、コア部10は、平行に並んだ2本の脚部11を、その両端側から一対のヨーク部12を突き合わせることで略矩形の環状形状を有していたが、これに限られない。3本以上の脚部11を平行に並べ、その両端側から一対のヨーク部12を突き合わせることでコア部10を構成しても良い。
【0054】
例えば脚部11が3本の場合、一方のヨーク部12の接続面12aに各脚部11の一端が接続され、他方のヨーク部12の接続面12aに各脚部11の他端が接続されてコア部10が構成される。この場合、例えば、中央の脚部11にコイルを装着することで、2つの閉磁路が形成される。すなわち、一つは、中央の脚部11→一方のヨーク部12→一方の外側の脚部11→他方のヨーク部12→中央の脚部11の方向へ磁束が向かう閉磁路である。もう一つは、中央の脚部11→一方のヨーク部12→他方の外側の脚部11→他方のヨーク部12→中央の脚部11の方向へ磁束が向かう閉磁路である。また、外側の2つの脚部11にそれぞれコイルを装着して2つの閉磁路を形成する構成にしても良い。さらに、各脚部11のそれぞれにコイルを装着して2つの閉磁路を形成する構成にしても良い。なお、脚部11においてコイルを装着する箇所は、仕様に合わせてユーザー側で適宜変更可能である。また、コイルはヨーク部12に装着してもよく、その装着箇所は仕様に合わせて適宜変更可能である。