特許第6301981号(P6301981)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アートフォルム有限会社の特許一覧

<>
  • 特許6301981-加工木材の製造方法 図000002
  • 特許6301981-加工木材の製造方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6301981
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】加工木材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B27K 5/00 20060101AFI20180319BHJP
   B27K 3/36 20060101ALI20180319BHJP
【FI】
   B27K5/00 F
   B27K3/36
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-25146(P2016-25146)
(22)【出願日】2016年2月12日
(65)【公開番号】特開2017-140800(P2017-140800A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2017年5月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514146601
【氏名又は名称】アートフォルム有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131026
【弁理士】
【氏名又は名称】藤木 博
(74)【代理人】
【識別番号】100194124
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 まゆみ
(72)【発明者】
【氏名】橋野 浩行
【審査官】 田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−160730(JP,A)
【文献】 特開平03−097503(JP,A)
【文献】 特開平11−349950(JP,A)
【文献】 特開2003−053705(JP,A)
【文献】 特開平11−255631(JP,A)
【文献】 特開2001−129805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 3/36,5/00
B27M 1/00−1/02
A61L 9/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香を有する木、又は、香木よりなる原料木材を加熱したのち圧縮する加熱圧縮工程を含み、
前記加熱圧縮工程において、原料木材を加湿することなく高周波により誘電加熱したのち圧縮し、
前記加熱圧縮工程の前に、原料木材を加湿状態に保持する工程又は原料木材に吸水させる工程を含まない
ことを特徴とする請求項1記載の加工木材の製造方法。
【請求項2】
油を含浸させる油含浸工程を含むことを特徴とする請求項1記載の加工木材の製造方法。
【請求項3】
前記油含浸工程は、原料木材を圧縮する前、又は、圧縮した後の少なくとも一方において行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の加工木材の製造方法。
【請求項4】
前記油含浸工程では、不乾性油を用いることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1に記載の加工木材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材を圧縮する加工木材の製造方法及びそれにより得られた加工木材に関する。
【背景技術】
【0002】
スギやヒノキ等の芳香を有する木材は、その香りの成分の有する作用、例えば、鎮静作用や殺菌作用などを利用した用途に用いられることも多い。よって、この香りをより高めたり、香りの持続時間を長くすることができれば、より高い効果を得ることができると共に、用途を広げることもできる。また、香りを楽しむ木材としては香木があるが、香木は稀少であり、価格も高いので、用いることは難しく、香りを高めたり、香りの持続時間を長くすることができれば好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−255631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、香りを高め、かつ、香りの持続時間を長くすることができる加工木材の製造方法及びそれにより得られた加工木材を提供することを目的とする。
【0005】
なお、特許文献1には、香木に電磁場を印加することにより芳香性を改善することが記載されている。しかし、本願発明は圧縮することにより芳香性を改善するものであり、具体的な手段が全く異なっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の加工木材の製造方法は、芳香を有する木、又は、香木よりなる原料木材を加熱して圧縮する加熱圧縮工程を含み、原料木材の芳香性を向上させるものである。
【0007】
本発明の加工木材は、本発明の加工木材の製造方法により得られ、原料木材の芳香が向上されたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、原料木材を加熱して圧縮するようにしたので、原料木材に含まれる成分が凝縮され、香りが高まると共に、香りの持続時間を長くすることができる。よって、原料木材が有する鎮静作用や殺菌作用などを高めることができ、用途を広げることができる。また、香木の場合には、燃やさなくても高い香りを得ることができ、かつ、香りの持続時間も長くすることができるので、経済的であり、かつ、各種用途に応用することができる。更に、圧縮することにより、強度も向上させることができると共に、目が詰まり高級感も高めることができる。
【0009】
加えて、油を含浸させるようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施の形態に係る加工木材の製造方法の工程を表す流れ図である。
図2図1に示した加工木材の製造方法の一工程を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施の形態に係る加工木材の製造方法の流れを表すものであり、図2は、その一工程を表すものである。本実施の形態に係る加工木材の製造方法は、芳香を有する木、又は、香木よりなる原料木材を加熱して圧縮する加熱圧縮工程(ステップS110)を含んでいる。圧縮することにより、原料木材に含まれる成分が凝縮され、香りを高めることができると共に、香りの持続時間を長くすることができるからである。
【0013】
原料木材としては、針葉樹であれば、例えば、スギ、ヒノキ、あるいは、ヒバが挙げられる。これらには、鎮静作用や殺菌作用などがある。また、広葉樹であれば、クスノキ、あるいは、桜が挙げられる。クスノキは防虫効果があり、香料・殺虫剤・防腐剤等に使用されることから「薬の木」と呼ばれている。桜はチップにして燃やし、その香りを燻製に利用して保存用に使用されている。香木としては、例えば、伽羅・沈水香木、あるいは、白檀が挙げられる。伽羅は、テンペルアルコール分を含有するためか、ほのかに芳香を発する。
【0014】
加熱圧縮工程は、原料木材を加熱したのち圧縮してもよく、また、加熱しつつ圧縮してもよい。例えば、原料木材をマイクロ波等の高周波により誘電加熱したのち、所定の温度以上でコールドプレス等により圧縮するようにしてもよく、また、原料木材を所定の温度以上で熱プレスするようにしてもよい。加熱温度は原料木材の種類により異なるが、炭化しない温度の範囲内で、80℃以上とすることが好ましい。より高い効果を得ることができるからである。
【0015】
圧縮をする際には、例えば、上下方向のみでなく、横方向からも圧力を加えることが好ましい。例えば、図2に示したように、上プレス部材11の内側に上凹部11Aを設けると共に、上凹部11Aに対向するように下ブレス部材12の内側に下凹部12Aを設けて、その間に原料木材Mを挟み、上プレス部材11と下プレス部材12とを近づけるように押圧することが好ましい。このようにすれば、上下方向のみでなく、下凹部12Aの側部、又は、上凹部11Aの側部により横方向からも圧力を加えることができるので、簡単な装置で圧力を均一に加えることができるからである。その際、上プレス部材11の上凹部11Aの内側面が下プレス部材12の下凹部12Aの外側面の外側に位置し、下凹部12Aの外側面の少なくとも一部を覆うように構成するようにすればより好ましい。
【0016】
また、本実施の形態に係る加工木材の製造方法は、油を含浸させる油含浸工程を含んでいることが好ましい。より香りを高め、かつ、香りの持続時間を長くすることができるからである。また、圧縮後の圧縮木材は、水分を吸収すると膨張してしまい、圧縮の効果を得ることができないが、油を含浸させることにより、水分の吸収を防止することができ、膨張を抑制することができるからである。
【0017】
油の含浸は、原料木材を圧縮する前に原料木材に対して行ってもよく(ステップS121)、原料木材を圧縮した後に原料木材を圧縮した圧縮木材に対して行ってもよく(ステップS122)、また、その両方で行ってもよい。なお、圧縮前に原料木材に油を含浸させるようにすれば、熱伝導性が向上し、原料木材を均一に加熱することができるのでより好ましい。
【0018】
油含浸工程において含浸させる油としては、例えば、不乾性油が好ましい。油が固まらないので、香りを引き出すことができ、また、揮発しにくいので、香りの持続時間を長くすることができるからである。不乾性油は、例えば、植物油のうちヨウ素価100以下のものをいい、具体的には、オレイン酸、リノール酸などの含有量の多いつばき油、オリーブ油、グレープシードル、又は、ひまし油等が挙げられる。最後に、例えば、蜜蝋で仕上げるとよりコーティングされて香りが保たれるので好ましい。
【0019】
これにより、本実施の形態に係る加工木材が得られる。この加工木材は、原料木材の芳香が向上されているので、その作用を利用した各種用途に用いることができる。殺菌作用を利用したものとしては、例えば、ヒバやヒノキのまな板が挙げられ、保存するものとして、例えば、弁当箱、曲げわっぱの容器、木の器、あるいは、酒樽が挙げられる。鎮静作用を利用したものとしては、例えば、クスノキの仏像彫刻や置物が挙げられる。香りを利用したものとしては、例えば、浴槽や芳香剤、あるいは、伽羅の線香(香道)が挙げられる。衛生道具としては、例えば、リラクゼーション効果のくし、あるいは、木のブラシが挙げられる。
【0020】
このように本実施の形態によれば、原料木材を加熱して圧縮するようにしたので、原料木材に含まれる成分が凝縮され、香りが高まると共に、香りの持続時間を長くすることができる。よって、原料木材が有する鎮静作用や殺菌作用などを高めることができ、用途を広げることができる。また、香木の場合には、燃やさなくても高い香りを得ることができ、かつ、香りの持続時間も長くすることができるので、経済的であり、かつ、各種用途に応用することができる。更に、圧縮することにより、強度も向上させることができると共に、目が詰まり高級感も高めることができる。
【0021】
加えて、油を含浸させるようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
原料木材として、ヒバ、スギ、及び、桜の木片を用意した。各木片の大きさは、それぞれ、長さ15cm×幅10cm×厚み5cmとした。各原料木材について、それぞれ、マイクロ波で180秒間加熱したのち、原料木材の温度が80℃以上の状態において、10トンプレスで圧縮コールドプレスをし、各原料木材の厚みを2cmとした。これにより、各原料木材について各加工木材を得た。そののち、得られた各加工木材を常温常圧の状態で放置したところ、各加工木材の厚みは3cmまで戻った。
【0023】
(実施例2)
実施例1と同様の原料木材を用意し、実施例1と同様にしてマイクロ波加熱及び圧縮コールドプレスをし、各原料木材の厚みを2cmとしたのち、不乾性油を含浸させた。そののち、得られた各加工木材を常温常圧の状態で放置したところ、各加工木材の厚みは2.5cmまでしか戻らなかった。
【0024】
(実施例3)
実施例1と同様の原料木材を用意し、原料木材に不乾性油を含浸させたのち、実施例1と同様にしてマイクロ波加熱及び圧縮コールドプレスをし、各原料木材の厚みを2cmとした。そののち、得られた各加工木材を常温常圧の状態で放置したところ、各加工木材の厚みは2.5cmまでしか戻らなかった。
【0025】
(比較例1)
実施例1と同様の原料木材を用意し、マイクロ波加熱をせずに、圧縮コールドプレスをし、各原料木材の厚みを2cmとした。そののち、得られた各加工木材を常温常圧の状態で放置したところ、元の厚みの5cmまで戻ってしまった。
【0026】
(実施例1〜3及び比較例1の評価)
実施例1〜3及び比較例1の各加工木材をテーブルに置き、テーブルから離れた位置から香りを確認できるかどうかを調べた。その結果、実施例1〜2の各加工木材については、香りを確認することができたのに対して、比較例1の各加工木材については、香りを感じることができなかった。なお、加工前の原料木材について香りを確認したところ、鼻につけて嗅がないと香りを確認することができなかった。また、実施例1の各加工木材に比べて、実施例2,3の各加工木材の方がより強い香りを感じることができた。更に、実施例1〜3の各加工木材については、テーブルに置いてしばらく放置したところ、テーブルを置いた部屋に入った時点で香りを感じることができた。
【0027】
すなわち、加熱圧縮すれば、原料木材に含まれる成分が凝縮され、香りを高めることができることが分かった。また、油を含浸させるようにすれば、より高い効果を得られることが分かった。
【0028】
以上、実施の形態及び実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、製造工程について具体的に説明したが、すべての工程を含んでいなくてもよく、また、他の工程を含んでいてもよい。
【符号の説明】
【0029】
11…上プレス部材、11A…上凹部、12…下プレス部材、11A…下凹部、M…原料木材
図1
図2