(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6301997
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】摩擦材
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20180319BHJP
F16D 69/02 20060101ALN20180319BHJP
【FI】
C09K3/14 520C
C09K3/14 520M
!F16D69/02 G
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-83851(P2016-83851)
(22)【出願日】2016年4月19日
(65)【公開番号】特開2017-193612(P2017-193612A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2017年12月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】309014573
【氏名又は名称】日清紡ブレーキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146927
【弁理士】
【氏名又は名称】船越 巧子
(74)【代理人】
【識別番号】100188640
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 圭次
(72)【発明者】
【氏名】田中 崇生
(72)【発明者】
【氏名】岩井 友美
(72)【発明者】
【氏名】矢口 光明
【審査官】
上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−147913(JP,A)
【文献】
特開2014−189612(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/185307(WO,A1)
【文献】
特開2000−160135(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/098215(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/066964(WO,A1)
【文献】
特開2002−371266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
F16D 69/02
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、摩擦調整材、潤滑材、pH調整材、充填材を含むNAO材の摩擦材組成物から成る摩擦材であり、前記摩擦材組成物は、摩擦調整材としてアルカリ溶出率が0.1質量%以上2.5質量%以下の層状結晶構造のチタン酸塩を摩擦材組成物全量に対し5〜30質量%含有することを特徴とする摩擦材。
【請求項2】
前記層状結晶構造のチタン酸塩のアルカリ溶出率が0.5質量%以上1.5質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の摩擦材。
【請求項3】
前記層状結晶構造のチタン酸塩がチタン酸マグネシウムカリウムであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の摩擦材。
【請求項4】
前記摩擦材組成物は、摩擦調整材として単斜晶の酸化ジルコニウムを摩擦材組成物全量に対し5〜25質量%と、繊維基材としてフィブリル化された有機繊維を摩擦材組成物全量に対し1〜5質量%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の摩擦材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等のディスクブレーキパッドに使用される、NAO(Non-Asbestos-Organic)材の摩擦材組成物から成る摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の制動装置として、ディスクブレーキが使用されており、その摩擦部材として、金属製のベース部材に摩擦材が貼り付けられたディスクブレーキパッドが使用されている。
【0003】
近年においてはブレーキの静寂性が求められており、鳴きの発生が少ないことからNAO材の摩擦材組成物から成る摩擦材が広く使用されるようになってきている。
【0004】
NAO材の摩擦材組成物は、結合材、スチール繊維やステンレス繊維等のスチール系繊維以外の繊維基材、摩擦調整材、潤滑材、pH調整材、充填材を含むものである。近年では、摩擦調整材としてチタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム等のチタン酸塩が広く使用されるようになってきている。
【0005】
特許文献1には、金属繊維および銅成分を含有しない摩擦材であって、複数の凸部形状を有するチタン酸カリウムを10〜35体積%、モース硬度7以上の研削材を3〜10体積%、およびエラストマー変性フェノール樹脂を10〜30体積%含有する摩擦材が記載されている。
【0006】
特許文献2には、結合材、有機充填材、無機充填材及び繊維基材を含む摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として5質量%以下であり、銅及び銅合金以外の金属繊維の含有量が0.5質量%以下であり、チタン酸塩及び三硫化アンチモンを含有し、該チタン酸塩が、チタン酸リチウムカリウム又はチタン酸マグネシウムカリウムであり、該チタン酸塩の含有量が14〜20質量%であり、該三硫化アンチモンの含有量が2〜6質量%であるノンアスベスト摩擦材組成物及び、該摩擦材組成物を成型した摩擦材が記載されている。
【0007】
しかし、特許文献1や特許文献2の摩擦材では、ブレーキの効き、耐クラック性、耐フェード性の要求性能を満足できないという問題がある。
【0008】
また、摩擦材に使用されるチタン酸塩には、トンネル状結晶構造のチタン酸塩と層状結晶構造のチタン酸塩があり、トンネル型結晶構造のチタン酸塩としては、6チタン酸カリウム、8チタン酸カリウム、6チタン酸ナトリウム等が、層状結晶構造のチタン酸塩としては、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム等が使用されている。
そして、チタン酸塩はアルカリを溶出するという特性を持つことが知られている。
【0009】
特許文献3にはチタン酸塩のアルカリ溶出率について次のような記載がある。
「チタン酸塩化合物のアルカリ溶出率は15質量%以下であればよく、好ましくは0.1〜15質量% 、より好ましくは0.1〜10質量% 、さらに好ましくは0.1〜6質量%である。このようなチタン酸塩化合物を用いることによりフェード現象を抑制し、耐摩耗性を向上することができる。チタン酸塩化合物の摩滅破壊により生ずるアルカリ成分が、有機成分の分解ガスやトランスファーフィルム(移着膜)の生成に作用しているものと推測される。」
なお、アルカリ溶出率とは、80℃の水中においてチタン酸塩化合物から水中に溶出したアルカリ金属及びアルカリ土類金属の質量割合のことをいう。
【0010】
特許文献3にはチタン酸塩のアルカリ溶出率の数値について、層状結晶構造のチタン酸塩とトンネル状結晶構造のチタン酸塩を区別することなく記載されているが、アルカリが溶出しにくいトンネル型結晶構造のチタン酸塩と、アルカリが溶出しやすい層状結晶構造のチタン酸塩ではアルカリ溶出率の数値が異なることが知られている。
【0011】
現在、一般的に摩擦材に使用されているチタン酸塩のアルカリ溶出率は、トンネル状結晶構造のチタン酸塩で2.0質量%未満であり、層状結晶構造のチタン酸塩で2.6質量%以上である。
【0012】
特許文献3と特許文献4に記載されているチタン酸塩の結晶構造とアルカリ溶出率の数値は表1の通りである。
【0013】
【表1】
【0014】
表1からは、従来は層状結晶構造のチタン酸塩として、アルカリ溶出率が2.6質量%未満のものは使用されていなかったことが理解できる。
【0015】
また、チタン酸塩のアルカリ溶出率を低減すると、高温高負荷制動時において、アルカリ成分による有機物の分解促進効果が低下し、耐フェード性が低下すると考えられていることから、アルカリ溶出率を低減した層状結晶構造のチタン酸塩の使用はこれまで検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2014−122314号公報
【特許文献2】特開2016−824号公報
【特許文献3】特開2014−224175号公報
【特許文献4】特開2014−189612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、摩擦調整材、潤滑材、pH調整材、充填材を含むNAO材の摩擦材組成物から成る摩擦材において、ブレーキの効き、耐クラック性、耐フェード性の要求性能を満足する摩擦材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、摩擦調整材、潤滑材、pH調整材、充填材を含むNAO材の摩擦材組成物から成る摩擦材において、層状結晶構造のチタン酸塩のアルカリ溶出率を0.1質量%以上2.5質量%以下、好ましくは0.5質量%以上1.5質量%以下とし、そのような層状結晶構造のチタン酸塩を摩擦調整材として摩擦材組成物に特定量含有させることにより、ブレーキの効き、耐クラック性、耐フェード性の要求性能を満足でき、更に摩擦調整材として単斜晶の酸化ジルコニウムと、繊維基材としてフィブリル化された有機繊維を摩擦材組成物に特定量含有させることにより、ブレーキの効き、耐クラック性、耐フェード性がより向上することを知見した。
【0019】
本発明は、ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、摩擦調整材、潤滑材、pH調整材、充填材を含むNAO材の摩擦材組成物から成る摩擦材であって、以下の技術を基礎とするものである。
【0020】
(1)ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、摩擦調整材、潤滑材、pH調整材、充填材を含むNAO材の摩擦材組成物から成る摩擦材であり、前記摩擦材組成物は、摩擦調整材としてアルカリ溶出率が0.1質量%以上2.5質量%以下の層状結晶構造のチタン酸塩を摩擦材組成物全量に対し5〜30質量%含有する摩擦材。
【0021】
(2)前記層状結晶構造のチタン酸塩のアルカリ溶出率が0.5質量%以上1.5質量%以下である(1)の摩擦材。
【0022】
(3)前記層状結晶構造のチタン酸塩がチタン酸マグネシウムカリウムである(1)又は(2)の摩擦材。
【0023】
(4)前記摩擦材組成物は、摩擦調整材として単斜晶の酸化ジルコニウムを摩擦材組成物全量に対し5〜25質量%と、繊維基材としてフィブリル化された有機繊維を摩擦材組成物全量に対し1〜5質量%含有する(1)〜(3)のいずれかの摩擦材。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、摩擦調整材、潤滑材、pH調整材、充填材を含むNAO材の摩擦材組成物から成る摩擦材において、ブレーキの効き、耐クラック性、耐フェード性の要求性能を満足する摩擦材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本願発明では、ディスクブレーキパッドに使用される、結合材、繊維基材、摩擦調整材、潤滑材、pH調整材、充填材を含むNAO材の摩擦材組成物から成る摩擦材において、摩擦調整材として、アルカリ溶出率が0.1質量%以上2.5質量%以下の層状結晶構造のチタン酸塩を摩擦材組成物全量に対し5〜30質量%含有する摩擦材組成物を使用する。
【0026】
層状結晶構造のチタン酸塩は、トンネル型結晶構造のチタン酸塩と比較し、相手材の摺動面に安定した被膜を形成しやすい。そのような層状結晶構造のチタン酸塩を摩擦材組成物に対し5〜30質量%添加することにより、ブレーキの効きの要求性を満足できる。
【0027】
また、アルカリ溶出率が0.1質量%以上2.5質量%以下の層状結晶構造のチタン酸塩を使用することで、加熱加圧成型時に結合材である熱硬化性樹脂の硬化反応が阻害されることがなくなり、その結果、摩擦材の機械的強度が増し、高温高負荷時の耐クラック性が向上する。
層状結晶構造のチタン酸塩のアルカリ溶出率は0.5〜1.5質量%の範囲が特に好ましい。
【0028】
層状結晶構造のチタン酸塩としては、チタン酸マグネシウムカリウム、チタン酸リチウムカリウムから選ばれる1種または2種の組合せを使用することができる。耐フェード性をより向上させるため、耐熱性の高いチタン酸マグネシウムカリウムを単独で使用するのが好ましい。
【0029】
更に、摩擦調整材として、単斜晶の酸化ジルコニウムを摩擦材組成物全量に対し5〜25質量%と、繊維基材として、フィブリル化された有機繊維を摩擦材組成物全量に対し1〜5質量%添加することにより、耐フェード性をより向上させることができる。
【0030】
単斜晶の酸化ジルコニウムは高温時に体積収縮を伴い正方晶に相転移する特性を持っている。
そのため、高温高負荷時、酸化ジルコニウムは相転移して体積が収縮し、マトリックスから脱落しやすくなる。
脱落した酸化ジルコニウムが摩擦面に供給され、酸化ジルコニウムの研削作用により、層状結晶構造のチタン酸塩の摩滅破壊が促進され、チタン酸塩からアルカリ成分が放出される。
【0031】
また、フィブリル化された有機繊維を添加することにより、摩擦材に適度な吸水性が付与され、大気中の水分が摩擦材の内部に吸収されやすくなる。
摩擦材内部に吸収された水分によって層状結晶構造のチタン酸塩のアルカリ成分が溶出しやすくなる。
【0032】
アルカリ溶出率が比較的低い層状結晶構造のチタン酸塩を使用した場合でも、上記した作用の相乗効果により、高温高負荷制動時において充分なアルカリ成分を摩擦面に供給することができ、有機物の分解を促進することができる。その結果、耐フェード性が向上する。
【0033】
単斜晶の酸化ジルコニウムは、平均粒子径が1.0〜3.0μmのものを使用することにより、耐摩耗性を向上させ、対面攻撃性を低減することができる。
なお、平均粒子径は、レーザー回折粒度分布法により測定した50%粒径の数値である。
【0034】
フィブリル化された有機繊維としては、アラミド繊維、セルロース繊維、ポリアクリロニトリル繊維から選ばれる1種または2種以上の組合せを使用することができる。耐クラック性をより向上させるため、補強効果の高いアラミド繊維を単独で使用するのが好ましい。
【0035】
本発明の摩擦材は、上記の層状結晶構造のチタン酸塩、単斜晶の酸化ジルコニウム、フィブリル化された有機繊維の他に、通常摩擦材に使用される結合材、繊維基材、摩擦調整材、潤滑材、pH調整材、充填材を含む摩擦材組成物から成る。
【0036】
結合材としては、ストレートフェノール樹脂、フェノール樹脂をカシューオイル、アクリルゴム、シリコーンゴム等の各種エラストマーで変性した樹脂、フェノール類とアラルキルエーテル類とアルデヒド類とを反応させて得られるアラルキル変性フェノール樹脂、フェノール樹脂に各種エラストマーやフルオロポリマーを分散させた熱硬化性樹脂等の摩擦材に通常用いられる結合材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
結合材の含有量は、充分な機械的強度、耐摩耗性を確保するため、摩擦材組成物全量に対して7〜15質量%とするのが好ましく、8〜12質量%とするのがより好ましい。
【0038】
繊維基材としては、上記のフィブリル化された有機繊維の他に、銅繊維、青銅繊維、真鍮繊維、アルミニウム繊維、アルミニウム合金繊維などの金属繊維等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0039】
金属繊維を使用する場合、繊維基材の含有量は上記フィブリル化された有機繊維と合わせて摩擦材組成物全量に対して2〜20質量%とするのが好ましく、3〜15質量%とするのがより好ましい。
【0040】
無機系の摩擦調整材としては、上記層状結晶構造のチタン酸塩、単斜晶の酸化ジルコニウムの他に、安定化酸化ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム、酸化マグネシウム、α−アルミナ、γ−アルミナ、タルク、マイカ、バーミキュライト、亜鉛粒子、銅粒子、真鍮粒子、アルミニウム粒子、アルミニウム合金粒子、トンネル状結晶構造のチタン酸塩等の粒子状無機摩擦調整材や、ウォラストナイト、セピオライト、バサルト繊維、ガラス繊維、生体溶解性セラミック繊維、ロックウール等の繊維状無機摩擦調整材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
無機系の摩擦調整材の含有量は上記層状結晶構造のチタン酸塩、単斜晶の酸化ジルコニウムと合わせて摩擦材組成物全量に対して30〜70質量%とするのが好ましく、40〜60質量%とするのがより好ましい。
【0042】
有機系の摩擦調整材としては、カシューダスト、タイヤトレッドゴムの粉砕粉や、ニトリルゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム等の加硫ゴム粉末または未加硫ゴム粉末等の摩擦材に通常使用される有機摩擦調整材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
有機摩擦調整材の含有量は摩擦材組成物全量に対して3〜8質量%とするのが好ましく、4〜7質量%とするのがより好ましい。
【0044】
潤滑材としては、硫化亜鉛、二硫化モリブデン、硫化スズ、硫化鉄、複合金属硫化物等の金属硫化物系潤滑材や、人造黒鉛、天然黒鉛、薄片状黒鉛、石油コークス、弾性黒鉛化カーボン、酸化ポリアクリロニトリル繊維粉砕粉等の炭素質系潤滑材等の摩擦材に通常使用される潤滑材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
潤滑材の含有量は摩擦材組成物全量に対して3〜8質量%とするのが好ましく、4〜6質量%とするのがより好ましい。
【0046】
pH調整材として水酸化カルシウム等の通常摩擦材に使用されるpH調整材を使用することができる。
pH調整材は、摩擦材組成物全量に対して2〜6質量%とするのが好ましく、2〜3質量%とするのがより好ましい。
【0047】
充填材としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等を使用する。
【0048】
また、摩擦材に含まれる銅成分に関しては、アメリカのカリフォルニア州、ワシントン州では、2021年以降、銅成分を5.0質量%以上含有する摩擦材を使用した摩擦部材の販売及び新車への組み付けを禁止し、2025年以降、銅成分を0.5質量%以上含有する摩擦材を使用した摩擦部材の販売及び新車への組み付けを禁止する法案が可決していることから、銅を含む繊維や粒子等の銅成分はこれらの法規に適合するよう摩擦材組成物に添加するのが好ましく、銅成分は摩擦材組成物に添加しないことがより好ましい。
【0049】
本発明の摩擦材は、所定量配合した摩擦材組成物を、混合機を用いて均一に混合する混合工程、得られた摩擦材原料混合物と、別途、予め洗浄、表面処理し、接着材を塗布したバックプレートとを重ねて熱成形型に投入し、加熱加圧して成型する加熱加圧成型工程、得られた成型品を加熱して結合材の硬化反応を完了させる熱処理工程、スプレー塗装や静電粉体塗装により塗料を塗装する塗装工程、塗料を焼き付ける塗装焼き付け工程、回転砥石により摩擦面を形成する研磨工程を経て製造される。
【0050】
なお、加熱加圧成型工程の後、塗装工程、塗料焼き付けを兼ねた熱処理工程、研磨工程の順で製造する場合もある。
必要に応じて、加熱加圧成型工程の前に、摩擦材原料混合物を造粒する造粒工程、摩擦材原料混合物を混練する混練工程、摩擦材原料混合物又は造粒工程で得られた造粒物、混練工程で得られた混練物を予備成型型に投入し、予備成型物を成型する予備成型工程が実施され、加熱加圧成型工程の後にスコーチ工程が実施される。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0052】
[実施例1〜19・比較例1〜4の摩擦材の製造方法]
表2〜表4に示す組成の摩擦材組成物をレディゲミキサーにて5分間混合し、成型金型内で30MPaにて10秒間加圧して予備成型をした。この予備成型物を、予め洗浄、表面処理、接着材を塗布した鋼鉄製のバックプレート上に重ね、熱成型型内で成型温度150℃、成型圧力40MPaの条件下で10分間成型した後、200℃で5時間熱処理(後硬化)を行い、研磨して摩擦面を形成し、乗用車用ディスクブレーキパッドを作製した(実施例1〜19、比較例1〜4)。
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
これらのディスクブレーキパッドのブレーキの効き、耐クラック性、耐フェード性について表5の条件で評価を行った。評価基準を表5に、評価結果を表6〜表8に示す。
【0057】
【表5】
【0058】
【表6】
【0059】
【表7】
【0060】
【表8】
【0061】
各表より、本発明の条件を満足する摩擦材が、ブレーキの効き、耐クラック性、耐フェード性が良好であることが見てとれる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、ディスクブレーキパッドに使用される、NAO材の摩擦材組成物を成型した摩擦材において、銅成分の含有量に関する法規を満足しながら、ブレーキの効き、耐クラック性、耐フェード性の要求性能を満足する摩擦材を提供することができ、きわめて実用的価値の高いものである。