特許第6302105号(P6302105)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6302105
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】打音装置およびこれを用いた点検方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/04 20060101AFI20180319BHJP
   G01N 29/22 20060101ALI20180319BHJP
【FI】
   G01N29/04
   G01N29/22
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-13039(P2017-13039)
(22)【出願日】2017年1月27日
【審査請求日】2017年1月30日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年10月28日、東急建設株式会社(技術研究所)内、「技術展2016」にて公開。
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26〜30年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)インフラ維持管理・更新・マネジメント技術/維持管理ロボット・災害対応ロボットの開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】308007228
【氏名又は名称】株式会社小川優機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(72)【発明者】
【氏名】高橋 悠輔
(72)【発明者】
【氏名】小川 安一
(72)【発明者】
【氏名】小松 忠弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友哉
【審査官】 越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−254948(JP,A)
【文献】 特開2000−055894(JP,A)
【文献】 特開平11−014605(JP,A)
【文献】 特開昭48−030983(JP,A)
【文献】 特開昭54−036753(JP,A)
【文献】 特開昭57−008094(JP,A)
【文献】 特開2017−020867(JP,A)
【文献】 特開平02−183168(JP,A)
【文献】 特開昭62−024068(JP,A)
【文献】 米国特許第04446734(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00−29/52
G01H 1/00−17/00
G01M 5/00−7/08
G01B 17/00−17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータの回転によって駆動する揺動スライダクランク機構と、
前記モータを支持する支持体と、
前記揺動スライダクランク機構を支持する基台と、からなり、
前記揺動スライダクランク機構は、
前記モータにより回転するクランクと、
前記基台に軸支するてこと、
前記てこに揺動可能に軸支するハンマーと、
前記クランクに連結し、前記てこに沿って形成したスライド溝内をスライドするスライドローラーと、
を有する、打音装置。
【請求項2】
請求項1に記載の打音装置において、
前記支持体は、
前記クランクの回転軸位置を上下動して、前記スライドローラーの前記スライド溝内のスライド位置を調節するスライドモータと連結することを特徴とする、打音装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の打音装置において、
前記モータの回転軸に取り付ける第一歯車と、
前記第一歯車と噛み合う第二歯車と、を有し、
前記第一歯車と前記第二歯車は略楕円形状であり、
前記クランクを前記第二歯車の回転軸に取り付けることを特徴とする、打音装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の打音装置において、
前記ハンマーが打撃した点周辺を撮影するためのカメラと、
音を集音するためのマイクを有することを特徴とする、打音装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の打音装置を用いて構造物表面を点検する、点検方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打音検査を行うための打音装置およびこれを用いた点検方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種構造物の躯体コンクリートまたはトンネルの覆工コンクリート等のコンクリートの状態を検査する方法の一つとして、打音法がある。この打音法は、ハンマー等によりコンクリート面を打撃し、その打音を聴くことでコンクリート内部の状態(変状)を評価するものである。
【0003】
この検査は点検員により実施されるが、点検員の習熟度により打撃の技巧に差があるため、検査結果にばらつきが生じる。また人力による打音検査には多大な労力を要するため、長時間連続して検査することはできない。このため、近年は打撃動作を人から装置に代替させる取り組みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願2016−032022
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば特許文献1の発明は、モータにより駆動するてこクランク機構と、クランクの先端に揺動可能にハンマーを取り付けたハンマー揺動機構によって、ハンマーを揺動して慣性により打撃する打音装置である。
【0006】
特許文献1の打音装置は、自由な向きの面を点検可能であるが、向きに応じて重力の影響を受けるため、横向きに打撃する場合と上向きに打撃する場合とでは、上向きで打撃する場合の方が打撃エネルギーは小さくなる。このため、特許文献1の打音装置はモータの回転数を制御する回転数制御器を有しており、重力方向に応じて手動または自動によりモータの回転数を制御し、打撃エネルギーを一定にすることが可能である。
【0007】
しかし、特許文献1の打音装置では、打撃方向によってモータの回転数が変わるため、打撃の間隔が変わり、点検が困難な場合がある。
また、横向きの場合はモータの回転数を小さくする必要があるため打撃の間隔が大きくなり、点検速度が著しく低下してしまうおそれがある。
【0008】
本発明は、打撃の間隔を変えることなく、一定の打撃エネルギーで点検を行うことが可能となる打音装置と、これを用いた点検方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本願の第1発明は、モータと、前記モータの回転によって駆動する揺動スライダクランク機構と、前記モータを支持する支持体と、前記揺動スライダクランク機構を支持する基台と、からなり、前記揺動スライダクランク機構は、前記モータにより回転するクランクと、前記基台に軸支するてこと、前記てこに揺動可能に軸支するハンマーと、前記クランクに連結し、前記てこに沿って形成したスライド溝内をスライドするスライドローラーと、を有する、打音装置を提供する。
本願の第2発明は、第1発明の打音装置において、前記支持体は、前記クランクの回転軸位置を上下動して、前記スライドローラーの前記スライド溝内のスライド位置を調節するスライドモータと連結することを特徴とする、打音装置を提供する。
本願の第3発明は、第1発明または第2発明の打音装置において、前記モータの回転軸に取り付ける第一歯車と、前記第一歯車と噛み合う第二歯車と、を有し、前記第一歯車と前記第二歯車は略楕円形状であり、前記クランクを前記第二歯車の回転軸に取り付けることを特徴とする、打音装置を提供する。
本願の第4発明は、第1乃至第3発明のいずれかの打音装置において、前記ハンマーが打撃した点周辺を撮影するためのカメラと、打音を集音するためのマイクを有することを特徴とする、打音装置を提供する。
本願の第5発明は、第1乃至第4発明のいずれかの打音装置を用いて構造物表面を点検する、点検方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上記した課題を解決するための手段により、次のような効果の少なくとも一つを得ることができる。
(1)揺動スライダクランク機構にハンマーを揺動可能に軸支することによって、ハンマーが加速し、大きな打撃力が得られる。
(2)揺動スライダクランク機構にハンマーを揺動可能に軸支することによって、ハンマーが打撃後にコンクリート面から打撃の反発力により離れるため、二度叩きが発生しない。
(3)ハンマーが打撃後にコンクリート面から打撃の反発力により離れるため、打撃によって生じるコンクリートの振動を阻害しない
(4)揺動スライダクランク機構に略楕円形状の歯車を組み合わせることによって、加速したハンマーを打撃の直前に急減速することにより打撃時に大きな打撃力を得られる。
(5)揺動スライダクランク機構のスライドローラーのスライド位置を調節することでハンマーによる打撃エネルギーを調節可能であるため、打撃間隔が変わることなく、正確な点検が可能となる。
(6)ハンマーがコンクリート面を打撃した点周辺を撮影するためのカメラと、打音を集音するためのマイクを有することで、有線または無線を用いた遠隔操作によって点検を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の打音装置の説明図
図2】本発明の打音装置の平面図
図3】揺動スライダクランク機構の説明図
図4】本発明の打音装置の動作の説明図
図5】第一歯車、第二歯車およびクランクの動作の説明図
図6】クランクの減速比の説明図
図7】打撃エネルギーの調整の説明図(1)
図8】打撃エネルギーの調整の説明図(2)
図9】カメラおよびマイクの設置図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
[1]打音装置。
<1>打音装置の構成。
本発明の打音装置は、モータ1と、モータ1の回転によって揺動運動する揺動スライダクランク機構2と、揺動スライダクランク機構2の揺動運動に合わせて揺動するハンマー3と、モータ1を支持する支持体4と、揺動スライダクランク機構2を支持する基台5からなる。(図1、2)
【0014】
<2>揺動スライダクランク機構。
揺動スライダクランク機構2は、モータ1の回転によっててこ21を揺動するものである。
揺動スライダクランク機構2は、てこ21、モータ1の回転軸に取り付ける第一歯車22、第一歯車22と噛み合う第二歯車23、第二歯車23の回転軸(クランク回転軸241)に取り付けるクランク24、およびクランク24に取り付けるスライドローラー25を有する。
てこ21は、てこ回転軸211によって一方の端部付近を軸支する。他方の端部にはハンマー3をハンマー揺動回転軸31によって軸支する。
てこ21には、長さ方向に沿ってスライド溝212を形成し、スライド溝212内部にスライドローラー25を配置する。
【0015】
<2.1>てこの揺動。
クランク24をクランク回転軸241を中心に回転させると、クランク24に固定したスライドローラー25がスライド溝212内をスライドし、てこ21が揺動する(図3)。
【0016】
<3>ハンマー。
ハンマー3は、てこ21の揺動に追従して揺動する。
ハンマー揺動回転軸31は自由回転であり、てこ21にはハンマー3の回転する角度を制限するためのストッパー26を設ける。
ストッパー26には衝撃吸収材261を取り付ける。
【0017】
<4>支持体。
支持体4は2枚の板体41を保持材42によって平行に保持して構成する。
支持体4にはモータ1を取り付けるとともに、2枚の板体41の間に第一歯車22と第二歯車23を収容する。
【0018】
<5>基台。
基台5は、てこ21をてこ回転軸211で支持する部材である。
基台5は、スライドモータ6を介して支持体4と連結して一体となる。
【0019】
<6>ハンマーの動き。
<6.1>復帰状態。
ハンマー3はストッパー26によって一定角度以上回転しないように支えられる(図4a)。
ストッパー26に衝撃吸収材261を取り付けることにより、ハンマー3とストッパー26の接触音は低減される。
【0020】
<6.2>てことハンマーの揺動。
モータ1を回転すると第一歯車22、第二歯車23が回転し、第二歯車23に取り付けたクランク24が回転する。
第一歯車22と第二歯車23はいずれも略楕円形状であり(図5)、クランク24は一回転する間に連続的に減速比が変化する(図6
クランク24が回転することで、クランク24に固定したスライドローラー25がスライド溝212内をスライドしててこ21を揺動する。
てこ21は、復帰位置から打撃に向けて加速し打撃前に急減速するため、てこ21の揺動のエネルギーがてこ21からハンマー3に遷移し、ハンマー3の揺動が速くなる(図4b)。
【0021】
<6.3>打撃。
てこ21は減速し上死点でてこ21が止まることで、ハンマー3がハンマー揺動回転軸31を中心として回転して打撃を行う(図4c)。
この打撃時にハンマー3の速度が最大となるように、復帰状態(図4a)でのストッパー26の高さを設定して、てこ21とハンマー3のなす角度を決定する。例えば、100gのハンマー3を使用する際には、復帰状態でのてこ21とハンマー3のなす角度は20°で、クランク回転軸241の回転角は290°である。
このように、揺動スライダクランク機構2にハンマー3を揺動可能に取り付けることによって、ハンマー3が加速して大きな打撃力を得られる。
【0022】
<6.4>打撃後。
打撃後は、打撃の反発力によりハンマー3が打撃面から離れるためハンマー3による二度叩きが発生しない。また、ハンマー3が打撃面に押し付けられることによるコンクリートの振動の阻害もない。
また、打撃後にはてこ21が打撃面と逆方向に回転を始めるため、打撃による反発力が小さい場合でも二度叩きは発生しない。
そして、クランク24が回転することで、てこ21が復帰状態にもどる(図4a)。
ストッパー26には衝撃吸収材261を取り付けるため、ストッパー26とハンマー3の接触音は低減される。また、繰り返し動作に対応するため、衝撃吸収材261は交換可能とする。
【0023】
以上の工程が、モータ1の回転によって繰り返される。
そして、ハンマー3を揺動可能に軸支した揺動スライダクランク機構2に略楕円形状の第一歯車22、第二歯車23を組み合わせることにより、人の打撃動作に近い動きで、長時間繰り返して点検作業を行うことができる。
【0024】
<7>打撃方向による打撃エネルギーの調整。
点検する面は壁面や天井などであるが、天井を叩く動作になるほど、重力の影響により打撃エネルギーが小さくなる。
このため、スライドモータ6により、てこ21やハンマー3に対するクランク回転軸241の位置を調節する。
揺動スライダクランク機構2は、クランク回転軸241を中心に一定の速度で回転するスライドローラー25によっててこ21をてこ回転軸211を中心に揺動させる。
クランク回転軸241の位置をてこ回転軸211に近づけると、てこ21の揺動角度が大きくなる。てこ21が一往復するのにかかる時間は一定であるため、てこ21の先端速度が大きくなり、打撃間隔が変わることなく、ハンマー3による打撃エネルギーを大きくすることができる(図7)。
具体的には、上向きになるほど重力の影響を受けて打撃エネルギーが小さくなるため、クランク回転軸241をてこ回転軸211に近づけることで重力の影響を補正し、打撃エネルギーを維持することができる。
本発明の打音装置は、スライドモータ6により支持体4により支持されているモータ1、第一歯車22、第二歯車23、クランク24およびスライドローラー25の全体を上下動させることにより、クランク回転軸241の位置を調節する(図8)。
クランク回転軸241の位置は手動で設定してもよいし、装置に角度センサを設けて角度センサにより打撃方向を検知して自動で変更してもよい。
【0025】
<8>遠隔による点検。
高所作業では、移動機構に本発明の装置を取り付けて、遠隔操作によって壁面を移動しながら打撃を行うことができる。
このとき、本発明の打音装置は、ハンマー3がコンクリート表面を打撃した点周辺を確認できるカメラ71と、打音を集音するマイク72を取り付けた打音点検ユニット7に取り付け(図9)、有線または無線により点検員がカメラ71による映像とマイク72からの打音によって点検を行う。
打音点検ユニット7に水平移動機構を設けることにより、打音点検ユニット7内部で打音装置が移動可能であり、打音点検ユニット7を移動することなく所定範囲の点検することができる。
【0026】
[その他実施例]
<1>本発明の打音装置の適用。
上記実施例においては、本発明の打音装置をコンクリートの状態を検査に適用して説明したが、コンクリートに限らず、例えばタイルの浮きやボルトの締め付けなど、打音検査の対象物に合わせたハンマー3を用いることで、あらゆる打音検査に適用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 モータ
2 揺動スライダクランク機構
21 てこ
211 てこ回転軸
22 第一歯車
23 第二歯車
24 クランク
25 スライドローラー
26 ストッパー
261 衝撃吸収材
3 ハンマー
31 ハンマー揺動回転軸
4 支持体
41 板体
42 保持材
5 基台
6 スライドモータ
7 打音点検ユニット
71 カメラ
72 マイク
【要約】
【課題】打撃の間隔を変えることなく、一定の打撃エネルギーで点検を行うことが可能となる打音装置を提供する。
【解決手段】モータと、前記モータの回転によって駆動する揺動スライダクランク機構と、前記モータを支持する支持体と、前記揺動スライダクランク機構を支持する基台と、からなり、前記揺動スライダクランク機構は、前記モータにより回転するクランクと、前記基台に軸支するてこと、前記てこに揺動可能に軸支するハンマーと、前記クランクに連結し、前記てこに沿って形成したスライド溝内をスライドするスライドローラーと、を有する、打音装置。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9