特許第6302140号(P6302140)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6302140
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイシステム
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/01 20060101AFI20180319BHJP
   B60K 35/00 20060101ALI20180319BHJP
【FI】
   G02B27/01
   B60K35/00 A
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-519229(P2017-519229)
(86)(22)【出願日】2015年9月24日
(65)【公表番号】特表2017-538141(P2017-538141A)
(43)【公表日】2017年12月21日
(86)【国際出願番号】CN2015090520
(87)【国際公開番号】WO2016058474
(87)【国際公開日】20160421
【審査請求日】2017年4月7日
(31)【優先権主張番号】201410540150.1
(32)【優先日】2014年10月14日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】516151818
【氏名又は名称】フーイャォ グラス インダストリー グループ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】チョ ファイ
(72)【発明者】
【氏名】ユィエン ジュンリン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ドン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン ペンフェイ
(72)【発明者】
【氏名】リン ジュ
(72)【発明者】
【氏名】リュ グオシュ
(72)【発明者】
【氏名】ペン インハオ
(72)【発明者】
【氏名】フクハラ コウタ
【審査官】 佐藤 洋允
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−512622(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/190959(WO,A1)
【文献】 特開2005−37733(JP,A)
【文献】 特開2011−227281(JP,A)
【文献】 特開平11−271665(JP,A)
【文献】 特開平10−115802(JP,A)
【文献】 特開平8−292393(JP,A)
【文献】 特開2013−127489(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B27/00−27/64
B60K35/00−37/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
投影光源および合わせガラスを備え、前記合わせガラスが、内側ガラス板と、外側ガラス板と、内側ガラス板と外側ガラス板との間に挟まれた中間膜と、を備えるヘッドアップディスプレイシステムであって、
透明ナノ膜を更に備え、前記透明ナノ膜が少なくとも二つの誘電体層及び少なくとも一つの金属層を備え、それぞれの金属層が二つの誘電体層の間に位置し、
前記内側ガラス板及び前記外側ガラス板のそれぞれは前記中間膜との屈折率差が0.1以下であり、
前記投影光源がP偏光を発生するためのものであり、
前記P偏光は、前記内側ガラス板における前記中間膜から離れた方の表面に入射し、入射角が42〜72度であり、
前記透明ナノ膜が、入射した前記P偏光の一部を反射できることを特徴とするヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項2】
前記金属層が銀層または銀を含む合金層であることを特徴する請求項1に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項3】
前記P偏光は、入射角が55〜70度であることを特徴する請求項1に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項4】
前記内側ガラス板及び前記外側ガラス板のそれぞれは前記中間膜との屈折率差が0.05以下であることを特徴する請求項1に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項5】
前記透明ナノ膜が、前記内側ガラス板における前記中間膜に接触した表面または前記外側ガラス板における前記中間膜に接触した表面に設置されることを特徴する請求項1に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項6】
前記透明ナノ膜がポリマー膜に設置され、前記ポリマー膜と前記内側ガラス板及び前記外側ガラス板のそれぞれとの屈折率差が0.1以下であり、前記透明ナノ膜が設置されたポリマー膜は前記内側ガラス板と前記外側ガラス板との間に位置し、或いは、前記内側ガラス板における前記中間膜から離れた方の表面に位置することを特徴する請求項1に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項7】
前記投影光源が発生するP偏光の色が、赤色、緑色および青色から少なくとも一つ選択されることを特徴する請求項1に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項8】
前記透明ナノ膜が二つの金属層を備える場合、前記投影光源が発生するP偏光の色が、緑色および青色から少なくとも一つ選択されることを特徴する請求項7に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項9】
前記透明ナノ膜が二つの金属層または三つの金属層を備える場合、補助膜が更に増設され、前記補助膜が少なくとも一つの補助ポリマー膜と、該補助ポリマー膜に設置され且つ金属層を備える補助透明ナノ膜とを備え、前記補助膜が前記P偏光の入射領域に位置し、前記補助膜の補助透明ナノ膜と二つの金属層または三つの金属層を備える前記透明ナノ膜との間の距離が350μm以下であることを特徴する請求項1に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【請求項10】
前記補助膜の補助透明ナノ膜と二つの金属層または三つの金属層を備える前記透明ナノ膜との間の距離が100μm以下であることを特徴する請求項9に記載のヘッドアップディスプレイシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2014年10月14日に中国特許庁に提出された、「ヘッドアップディスプレイシステム」と題する中国特許出願第201410540150.1号の優先権を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ヘッドアップディスプレイ技術分野に関し、特に、自動車用ヘッドアップディスプレイシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
科学技術の発展に伴い、ヘッドアップディスプレイ(HUD、Head Up Display)システムは自動車にますます多く用いられている。自動車用ヘッドアップディスプレイシステムは、例えば、速度、エンジンの回転数、油消費量、タイヤ空気圧、ナビゲーション及び外付けスマートデバイスの情報等の重要な運転情報をフロント風防ガラスにおけるドライバーの視野にリアルタイムに表示することができ、これによって、ドライバーは、頭を低くする必要なく、運転情報を見ることができ、前方の道に対する注意を逸らすことがなくなる。これと共に、ドライバーは、遠くの道と近くのメーターとの間に、目線を調整する必要がなく、目の疲労を回避することができ、運転安全性を大幅に向上させ、運転体験を改善することができる。
【0004】
従来のヘッドアップディスプレイは、主に発光結像と投影結像の2種類の方法により、実現される。投影結像は、自動車のフロント風防ガラス又は別設された光学素子を利用して投影表示を行うものであり、且つ、フロント風防ガラスを利用して投影画像を反射することは、構造的に最も簡単である方式である。一般的に、フロント風防ガラスは、いずれも、一定の曲率を備えた少なくとも二つのガラス基板の間に熱可塑性ポリマー膜(ポリビニールブチラール)が挟まれたことにより構造される合わせガラスである。ヘッドアップディスプレイシステムの投影光源が発生する光は、合わせガラスにおける空気に接触した二つの表面を経る際にそれぞれ反射され、これらの二つの表面における反射像がずれるため、互いに干渉する二重像(ゴースト)は形成され、特に、合わせガラスの厚さが比較的に厚い(一般的に、3mmを超え)場合、一層顕著に形成され、投影表示画像の鮮明さが大幅に制限される。
【0005】
自動車のフロント風防ガラスにおけるヘッドアップディスプレイシステムの二重像の問題を解決するために、従来技術には、若干の手段が開示される。例えば、特許文献CN101038349A、US2002172804A1及びUS2007148472A1には、楔形のポリマー膜が合わせガラスの中間層として用いられるため、合わせガラスが上方から下方へ薄くなる楔形断面を備えることにより、ドライバーが見る二つの表面における反射像がほぼ重なり合い、ついに、二重像が大幅に防止されるという手段が開示される。上述手段と同様に、ガラス基板の一部が楔形断面を備えるという手段は、特許US6414796B1に開示される。しかしながら、これらの技術手段においては、(1)二重像が完全に防止されることができないため、高解像度画像表示に適合しなく、(2)価格が普通のPVB膜の7〜10倍である特殊な仕様のPVB膜を使用する必要があり、且つ、プロセスの難度が高いため、材料とプロセスのコストが非常に高くなり、(3)車の形状の光学的な設計から影響が及ぼされやすくため、特定の車の形状のフロント風防ガラスに関して改めて設計する必要がある、という欠点があった。
【0006】
もう一つの技術手段では、合わせガラスの表面又は内部に、偏光方向を変えることができる光学機能層、または、P偏光またはs偏光を反射できる反射偏光子が設置され、且つ、ヘッドアップディスプレイシステムの投影光源から発光されたP偏光またはs偏光が特定角(例えば、ブリュースター角)で入射することにより、合わせガラスの異なる偏光に対する反射特性によって、ある表面における反射像ができるだけ解消され、ついに、二重像が防止される。このような技術手段は、特許文献EP0836108(A2)、EP0844507(A1)、US6327089(B1)、CN1969219(A)、US7355796(B2)、CN101151568(A)、US7839574(B2)、CN1732404(A)及びCN102256910(A)等に開示される。しかしながら、このような技術手段の実現は、合わせガラスの一部(つまり、ヘッドアップディスプレイ投影領域)に付加的な光学機能層または反射偏光子を増設することを前提とするため、これは必ず材料コスト及びプロセス難度を向上させる。例えば、CN1732404(A)に開示されたP偏光反射偏光子は数十乃至数百層のポリマーを備えるとともに、フロント風防ガラスは全体の均一性が壊され、美観性が低減される。なお、合わせガラスの一部における光学機能層または反射偏光子が設置された領域での接着強度が低減される恐れがあるため、隠れた危険が生じる。且つ、光学機能層または反射偏光子の一部の可視光透過率が比較的に低いため、ドライバーの視野やフロント風防ガラスの外観に影響を及ぼす。
【0007】
また、従来技術においては、合わせガラスの表面に反射防止(AR)膜が増設されることにより、一つの界面に形成された反射像の輝度が低減されるという手段はある。例えば、特許US7864431(B2)には、合わせガラスにおける空気に接触した表面に反射防止膜が設置され、或いは、反射防止膜が設置されない表面に低放射率めっき層が増設されるという技術手段が開示される。しかしながら、このような技術手段においては、(1)反射防止膜は、合わせガラスにおける空気に接触した表面に形成され、特に、合わせガラスの外側表面に形成される場合、悪い利用環境、例えば、酸性雨、粉塵、窓ふき器の摩擦またはアルカリ洗浄剤等に耐えにくくなり、(2)反射防止膜は、比較的に複雑な構造を有しており、特に、良い広帯域反射防止性および略ゼロの反射率を有し且つ小さい角と大きい角のそれぞれでの良い外観性を有する反射防止膜は、一般的に、多層形成されるべきであり、数百のナノメートルの合計厚さを有するため、自動車のフロント風防ガラスでの大面積成膜に適合しなく、(3)反射防止膜においては、二重像が完全に防止されにくく、特に、大きい角で観察する場合、淡青色または淡紫色の反射光がまだ見え、(4)合わせガラスの外側表面に形成される反射防止膜は、雨の場合、水層で覆われ、反射防止効果が大幅に低減され、ついに、二重像現象がひどくなり、(5)反射防止膜は、合わせガラスにおける空気に接触した表面に設置されるため、増設された低放射率めっき層に生じる反射像が解消されることができなく、ある程度の二重像がまだ見える、という欠点があった。
【0008】
同様に、合わせガラスにおける空気に接触した表面に形成される反射光を補強することにより、肉眼で見える二重像を低減することができる。例えば、部品市場でありふれた膜式のHUD投影器では、HUD投影領域に半透明の反射膜が予め貼り付く。或いは、特許文献US6137630(A)に開示されるように、高い屈折率の材料と低い屈折率の材料が交替する複数の誘電体層が合わせガラスにおける空気に接触した一方の表面に形成されることにより、この表面での反射光強度が補強され、他方の表面での反射光強度が殆ど変らないため、肉眼で見える反射像は、主に、めっき層表面での反射光からなる。明らかに、このような技術手段は、自動車のフロント風防ガラスの全体の均一性または外観の美観性を壊す一方、二重像を完全に防止することができない。
【0009】
自動車のヘッドアップディスプレイシステムにおいては、上記の二重像問題を解決すべきである以外、多種の異なる情報画像を表示できるために、ディスプレイシステムはできるだけ多くの色を表示できる能力を有する。例えば、中国実用新案CN2694293(Y)に開示されるように、複数の異なる屈折率の膜が基板にめっきされることにより、ヘッドアップ表示装置が赤、緑、青の三原色の狭波長反射帯域を有する。或いは、特許US6137630(A)に開示されるように、高い屈折率の材料と低い屈折率の材料が交替する複数の誘電体層が合わせガラスにおける空気に接触した一方の表面に形成されることにより、フルカラー表示を実現する。実際には、フルカラー表示の要求が満たされない場合、肉眼が最も敏感な緑光の反射ができるだけ保証される。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、従来技術の上記欠点に鑑み、ゴースト画像なしにはっきりとし、多色表示を実現し、且つ、構造およびプロセスが簡単で、コストが低いヘッドアップディスプレイシステムを提供する。
【0011】
上記欠点を克服するための本発明の技術手段は、投影光源および合わせガラスを備え、前記合わせガラスが、内側ガラス板と、外側ガラス板と、内側ガラス板と外側ガラス板との間に挟まれた中間膜と、を備えるヘッドアップディスプレイシステムであって、透明ナノ膜をさらに備え、前記透明ナノ膜が少なくとも二つの誘電体層及び少なくとも一つの金属層を備え、それぞれの金属層が二つの誘電体層の間に位置し、前記内側ガラス板及び前記外側ガラス板のそれぞれは前記中間膜との屈折率差が0.1以下であり、前記投影光源がP偏光を発生するためのものであり、前記P偏光は、前記内側ガラス板における前記中間膜から離れた方の表面に入射し、入射角が42〜72度であり、前記透明ナノ膜が、入射した前記P偏光の一部を反射できることを特徴とするヘッドアップディスプレイシステム。
【0012】
更に、前記金属層が銀層または銀を含む合金層である。
【0013】
更に、前記P偏光は、入射角が55〜70度である。
【0014】
更に、前記内側ガラス板及び前記外側ガラス板のそれぞれは前記中間膜との屈折率差が0.05以下である。
【0015】
更に、前記透明ナノ膜が、前記内側ガラス板における前記中間膜に接触した表面または前記外側ガラス板における前記中間膜に接触した表面に設置される。
【0016】
更に、前記透明ナノ膜がポリマー膜に設置され、前記ポリマー膜と前記内側ガラス板及び前記外側ガラス板のそれぞれとの屈折率差が0.1以下であり、前記透明ナノ膜が設置されたポリマー膜が前記内側ガラス板と前記外側ガラス板との間に位置し、或いは、前記内側ガラス板における前記中間膜から離れた方の表面に位置する。
【0017】
更に、前記投影光源が発生するP偏光の色が、赤色、緑色および青色から少なくとも一つ選択される。
【0018】
好ましくは、前記透明ナノ膜が二つの金属層を備える場合、前記投影光源が発生するP偏光の色が、緑色および青色から少なくとも一つ選択される。
【0019】
更に、前記透明ナノ膜が二つの金属層または三つの金属層を備える場合、補助膜が更に増設され、前記補助膜が少なくとも一つの補助ポリマー膜と該補助ポリマー膜に設置され且つ金属層を備える補助透明ナノ膜とを備え、前記補助膜が前記P偏光の入射領域に位置し、前記補助膜の補助透明ナノ膜と二つの金属層または三つの金属層を備える前記透明ナノ膜との間の距離が350μm以下である。
【0020】
好ましくは、前記補助膜の補助透明ナノ膜と二つの金属層または三つの金属層を備える前記透明ナノ膜との間の距離が100μm以下である。
【0021】
本発明に係るヘッドアップディスプレイシステムは、ガラスと空気との界面に入射するP偏光に関する反射率が比較的に低く、透明ナノ膜がP偏光の一部を反射できるため、肉眼で見える二重像が完全に防止され、表示品質を大幅に向上させることができ、高解像度画像表示に適合する。また、構造およびプロセスが非常に簡単であり、つまり、特定の光学素子が別設される必要がなく、透明ナノ膜が設置されたフロント風防ガラスを備える自動車にP偏光を発光できる投影光源を取り付けることのみにより、高品質のヘッドアップディスプレイ機能を実現することができるため、コストが非常に低くなる。また、異なる透明ナノ膜の構造によって、単色表示、多色表示、さらにはフルカラー表示を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明に係るヘッドアップディスプレイシステムの部分断面図である。
図2図2A、2Bは、ヘッドアップディスプレイシステムにおける第三表面または第四表面に位置する透明ナノ膜の部分断面図である。
図3図3A、3B、3C、3Dは、ヘッドアップディスプレイシステムにおける、合わせガラスにおける異なる個所に位置する、透明ナノ膜が設置されたポリマー膜の部分断面図である。
図4図4は、本発明に係る、異なるヘッドアップディスプレイシステムのそれぞれに入射するP偏光に関する反射率スペクトルである。
図5図5は、本発明に係る、雨の場合の運転環境を模擬した条件下でのヘッドアップディスプレイシステムのP偏光反射率スペクトルである。
図6図6は、本発明に係る、補助膜が増設されたヘッドアップディスプレイシステムの部分断面図である。
図7図7は、本発明に係る、補助膜が増設されたヘッドアップディスプレイシステムのP偏光反射率スペクトルである。
図8図8A、8Bは、本発明に係る、57度と66度のそれぞれで入射するP偏光に関するヘッドアップディスプレイ画像である。図8Cは、普通の合わせガラスを備えるヘッドアップディスプレイシステムに表示される画像である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の内容について詳細に説明する。
【0024】
図1に示すように、本発明に係るヘッドアップディスプレイシステムは、投影光源1および合わせガラス2を備える。前記合わせガラス2は、内側ガラス板21と、外側ガラス板22と、内側ガラス板21と外側ガラス板22との間に挟まれた中間膜23を備える。二重像を防止するために、前記ヘッドアップディスプレイシステムは更に透明ナノ膜3を備える。前記透明ナノ膜3は、少なくとも二つの誘電体層及び少なくとも一つの金属層を備える。それぞれの金属層は、二つの誘電体層の間に位置する。前記投影光源1は、P偏光11を発生するためのものである。前記P偏光11は、内側ガラス板21における中間膜23から離れた方の表面211、即ち、第一表面211に入射し、入射角が42〜72度である。前記透明ナノ膜3は、入射する前記P偏光11の一部を反射できる。且つ、合わせガラス2内部が入射するP偏光11に及ぼす影響を防止するために、好ましくは、前記内側ガラス板21及び外側ガラス板22のそれぞれは前記中間膜23との屈折率差が0.1以下である。本発明においては、ガラスと空気との界面に入射するP偏光11に関する反射率が比較的に低く、特に、P偏光11がブリュースター角θ(57度)で入射する際に反射されなく、且つ、透明ナノ膜3がP偏光11の一部を反射できるため、肉眼で見える二重像が完全に防止される。
【0025】
図1においては、投影光源1が発生するP偏光11は、ブリュースター角θ(57度)で、内側ガラス板21における中間膜23から離れた方の表面211に入射する。P偏光11の特性に応じて、P偏光11は、第一表面211で反射されることなく、合わせガラス2内に入る第一屈折光12だけ形成する。合わせガラス2内部には、中間膜23と前記内側ガラス板21及び外側ガラス板22のそれぞれとの屈折率差が0.1以下であり、つまり、それらの屈折率が大体同じであるため、前記第一屈折光12は、前記透明ナノ膜3に到達するまで、中間膜23における内側ガラス板21または外側ガラス板22に接触した表面で反射されることなく、伝播方向が殆ど変わらない。前記透明ナノ膜3の金属層が第一屈折光12の一部を反射しており、第一反射光13が形成される。また、第一屈折光12の残りは、前記透明ナノ膜3を透過して、外側ガラス板22における中間膜23から離れた方の表面221、即ち、第二表面221に伝播して到達する。前記透明ナノ膜3が非常に薄いため、第一屈折光12の、前記透明ナノ膜3を透過した部分の伝播方向が殆ど変わらない。光伝播の可逆性に応じて、第一屈折光12の、外側ガラス板22における中間膜23から離れた方の表面221に到達する部分は、第二表面221で反射されることなく、空気に入る第二屈折光14だけ形成する。第一反射光13は、第一表面211に伝播して到達する。光伝播の可逆性に応じて、第一反射光13は、第一表面211で反射されることなく、観察者16が識別できる第三屈折光15だけ形成する。前記P偏光11の伝播経路を検討して分かるように、観察者16が識別できる表示画像は、第三屈折光15だけからのものである。これによって、二重像を完全に防止し、表示品質を大幅に向上させ、高解像度画像表示に適合する。
【0026】
前記投影光源1は、文字、画像等の情報の表示装置として、自動車に関するインストルメント、外付けセンザー又は外付けスマートデバイス等に接続され、且つ、関連する文字や画像情報、例えば、速度、エンジンの回転数、油消費量、タイヤ空気圧、ナビゲーション及び暗視等をP偏光で合わせガラス2に投影するため、これらの情報が自動車内の観察者16に観察されることが可能になる。前記投影光源1は、当業者にとって周知の素子であり、レーザー、発光ダイオード(LED)、液晶ディスプレイ(LCD)、電界発光(EL)、陰極線管(CRT)、蛍光表示管(VFD)、コリメーティングミラー、球面ミラー、凸レンズ、凹レンズ、反射ミラー及び/又は偏光子などを含むが、これらに限定されない。なお、投影光源1は、車内の異なる位置または高度に位置する観察者16に適応するように、位置と入射角度を調節することができる。
【0027】
合わせガラス2は、内側ガラス板21と、外側ガラス板22と、内側ガラス板21と外側ガラス板22との間に挟まれた中間膜23を備える。内側ガラス板21は、自動車の内部を向く一方、外側ガラス板22は、自動車の外部を向く。前記中間膜23は、熱可塑性ポリマー膜である。中間膜23が第一屈折光12に及ぼす影響を低減するために、中間膜23は、屈折率がガラスの屈折率に近いように選択され、つまり、中間膜23と前記内側ガラス板21及び外側ガラス板22のそれぞれとの屈折率差が0.1以下であり、好ましくは、中間膜23と前記内側ガラス板21及び外側ガラス板22のそれぞれとの屈折率差が0.05以下であり、例えば、よく使用されているPVB膜である。図1に示される合わせガラス2は、製図の便利のために、平坦に描かられるが、実際に、合わせガラス2は湾曲する。湾曲した合わせガラス2が本発明の好適な実施形態であるが、これに限定されないことは理解されるべきである。他の透明部材、例えば、単層または多層積層された、平坦または湾曲(曲率が均一または変化である)の、無色または有色の、普通ガラス及び/又はプラスチックからなる透明部材は、合わせガラス2に代わってもよい。
【0028】
本発明に係るP偏光11が、57度(つまり、ブリュースター角θ)で空気から内側ガラス板21における中間膜23から離れた方の表面211に入射することにより、第一表面211での反射が防止できる。ここでのブリュースター角θは、特定の光学材料の屈折率に関するが、本発明では、自動車のための普通のフロント風防ガラス材料にとっては、前記ブリュースター角θは略57度である。厳密に言えば、前記ブリュースター角θがP偏光の波長に関するが、本発明では、一般的に、このような影響が小さいため、普通の場合、可視光波長(380〜780nm)範囲内で、前記ブリュースター角θが常数と見なされてもよい。図8Aに示すように、P偏光11の入射角度がブリュースター角である57度であるため、本発明に係るヘッドアップディスプレイシステムにおいては、HUD画像(速度情報)がゴースト画像なしにはっきりとする。また、実際の投影結像の過程においては、光源と投影虚像のサイズ関係、及びフロント風防ガラスの取り付け構造、光源の位置などに起因して、P偏光の入射角度がブリュースター角θからずれる可能性があるが、ずれ角度は15度以下であり、即ち、入射角度は42〜72度、好ましくは55〜70度、より好ましくは55〜64度、さらに好ましくは56〜59度である。この場合、第一表面211と第二表面221からの反射光は、完全に解消されることができないが、透明ナノ膜3に生じる反射光に比べて、強度が依然としてかなり低いである。図8Bに示すように、P偏光の入射角度がブリュースター角から9度ずれたものであり、即ち、入射角度が66度である場合、ゴースト反射像は、主反射像に比べて、輝度が十分に低いため、主反射像に隣接する比較的に弱い光暈を呈しており、実際に、ゴースト画像が肉眼で見られにくいため、ゴースト画像が肉眼で依然として見えない。図8A図8Bに比べて、図8Cは、普通の合わせガラスのヘッドアップディスプレイ画像であり、ゴースト画像反射率が主反射像の略60%であるため、ゴースト画像がはっきりと見え、実際の使用効果は明らかに本発明の図8Aと8Bに示すものに劣る。
【0029】
前記透明ナノ膜3は、入射した前記P偏光11の一部を反射できる。透明ナノ膜3の金属層の材料は、P偏光11を反射できる任意の材料、例えば、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)等であるが、これらに限定されない。本発明においては、銀または銀を含む合金が好ましい。本発明においては、銀を含む合金は、好ましくは、銀と金、アルミニウム、銅の少なくとも一つとからなる合金である。本発明の実施形態のそれぞれにおいては、銀が選択されるが、実施形態に係る銀の厚さは本発明の範囲を限定しない。
【0030】
透明ナノ膜3の利用環境を保証し、且つ、酸性雨、粉塵、窓ふき器の摩擦またはアルカリ洗浄剤等の悪い環境から透明ナノ膜3を保護するために、図2Aに示すように、好ましくは、前記透明ナノ膜3は、内側ガラス板21における中間膜23に接触した表面212、即ち、第三表面212に設置され、或いは、図2Bに示すように、好ましくは、前記透明ナノ膜3は、外側ガラス板22における中間膜23に接触した表面222、即ち、第四表面222に設置される。この設置のプロセスは、当分野で周知されたマグネトロンスパッタリングプロセスであってもよく、つまり、前記透明ナノ膜3に含まれた層は、スパッタリングによって、内側ガラス板21の第三表面212または外側ガラス板22の第四表面222に直接形成される。
【0031】
同様に、透明ナノ膜3の利用環境を保証し、且つ、酸性雨、粉塵、窓ふき器の摩擦またはアルカリ洗浄剤等の悪い環境から透明ナノ膜3を保護するために、図3A、3B、3C及び3Dに示すように、更に、透明ナノ膜3は一つのポリマー膜4に設置されてもよく、このポリマー膜4は、透明ナノ膜3を支持し且つ保護するためのものである。ポリマー膜4が第一屈折光12に及ぼす影響を低減するために、好ましくは、前記ポリマー膜4と前記内側ガラス板21及び外側ガラス板22のそれぞれとの屈折率差が0.1以下であり、例えば、よく使用されているPET膜である。図3Aに示すように、透明ナノ膜3が設置されたポリマー膜4は、内側ガラス板21と中間膜23との間に位置し、且つ、透明ナノ膜3は中間膜23に隣接し、ポリマー膜4は内側ガラス板21に隣接する。或いは、図3Bに示すように、透明ナノ膜3が設置されたポリマー膜4は、外側ガラス板22と中間膜23との間に位置し、且つ、透明ナノ膜3は中間膜23に隣接し、ポリマー膜4は外側ガラス板22に隣接する。或いは、図3Cに示すように、透明ナノ膜3が設置されたポリマー膜4は、内側ガラス板21における中間膜23から離れた方の表面211、即ち、第一表面211に位置し、且つ、透明ナノ膜3と第一表面211との間に、透明ナノ膜3と第一表面211との間の接着強度を補強するための一つの同様なポリマー膜4は更に増設される。或いは、図3Dに示すように、透明ナノ膜3が設置されたポリマー膜4は、二つの中間膜23の間に位置する。図3A、3B及び3Dに示す実施形態においては、透明ナノ膜3と中間膜23との間に、透明ナノ膜3の保護層としての少なくとも一つの透明ポリマー膜が増設されてもよく、図3Aに示す実施形態においては、ポリマー膜4と内側ガラス板21との間に少なくとも一つの透明ポリマー接着層が増設されてもよく、図3Bに示す実施形態においては、ポリマー膜4と外側ガラス板22との間に少なくとも一つの透明ポリマー接着層が増設されてもよいことは理解されるべきである。
【0032】
本発明に係る前記透明ナノ膜3は、少なくとも二つの誘電体層及び少なくとも一つの金属層を備え、更にバリア層及び/又は保護層等を備えてもよい。それぞれの金属層が二つの誘電体層の間に位置する。前記膜の特定構造は、本発明の範囲に影響を及ぼさないため、ここで、詳しい説明は省略される。実際応用の要求に応じて、前記透明ナノ膜の金属層は、数がある程度異なり、特に、よく使用されている銀層または銀を含む合金層が金属層とする場合、一般的に、一つ、二つ、または三つの銀層、さらに、三つ以上の銀層が含まれてもよい。前記誘電体層は、ZnSnMgOx、ZnSnOx、ZnO、SnO、TiO、Si、またはAlN等から形成される。本発明に係る透明ナノ膜は、材料及び厚さが好適に設計されることにより、後の高温熱処理または他の製造プロセスに耐えることができるとともに、仕上げられたヘッドアップディスプレイシステムの光学性能が自動車ガラスの規格を満たすことができるため、純粋な金属薄層における良くない耐久性、悪い光学外観等の問題を完全に解決する。本発明に係るヘッドアップディスプレイシステムは、一つの銀層を備えた透明ナノ膜3を備える場合、可視光透過率TLが70%以上であり、太陽エネルギー直接透過率TEは50%以下である。また、本発明に係るヘッドアップディスプレイシステムは、二つの銀層を備えた透明ナノ膜3を備える場合、可視光透過率TLが75%以上であり、太陽エネルギー直接透過率TEは47%以下である。また、本発明に係るヘッドアップディスプレイシステムは、三つの銀層を備えた透明ナノ膜3を備える場合、可視光透過率TLが70%以上であり、太陽エネルギー直接透過率TEは34%以下であり、太陽エネルギー合計透過率Ttsは40%以下である。また、外観色は、必要に応じて、人の好きな中間色、淡青色、淡青緑色または淡紫色に調節されてもよい。
【0033】
図4に示すように、A0は、57度(ブリュースター角θ)で普通の合わせガラスに入射するP偏光に関する反射率スペクトルであり、A1は、57度(ブリュースター角θ)で一つの銀層を備えた透明ナノ膜を備えるヘッドアップディスプレイシステムに入射するP偏光に関する反射率スペクトルであり、A2は、57度(ブリュースター角θ)で二つの銀層を備えた透明ナノ膜を備えるヘッドアップディスプレイシステムに入射するP偏光に関する反射率スペクトルであり、A3は、57度(ブリュースター角θ)で三つの銀層を備えた透明ナノ膜を備えるヘッドアップディスプレイシステムに入射するP偏光に関する反射率スペクトルである。
【0034】
A0曲線は、ゼロに極めて近いものであり、つまり、めっき層がないガラスは、入射するP偏光に対する反射に非常に弱いである。A1曲線は、一つの銀層を備えた透明ナノ膜を備えるヘッドアップディスプレイシステムの、肉眼で見える可視光波長(400〜700nm)範囲内でのP偏光反射率スペクトル曲線が比較的に平坦であり、その反射率は10%を超えることを示す。これから分かるように、A1曲線と肉眼のP偏光波長に対する敏感性および快適性とに従って、好ましくは、前記透明ナノ膜3が一つの金属層(例えば、銀層)を備える場合、前記投影光源1が発生するP偏光11の色は、赤色、緑色および青色から少なくとも一つ選択され、例えば、フルカラー表示を実現できる、赤色、緑色および青色の組み合わせである。
【0035】
A2曲線は、二つの銀層を備えた透明ナノ膜を備えるヘッドアップディスプレイシステムのP偏光反射率が青色(450〜500nm)と緑色(500〜550nm)の領域に主にあることを示す。このため、適切なP偏光波長を選択することのみにより、単色(青色または緑色)表示または二色(青色および緑色)表示を実現することができる。また、A1曲線に比べて、A2曲線におけるP偏光反射率は、青色および緑色の領域において比較的に低いである。昼間に太陽光の下で表示画像がはっきりと見えるために、投影光源1の発光輝度を補強することにより補償を行うことができる。これから分かるように、A2曲線と肉眼のP偏光波長に対する敏感性および快適性とに従って、好ましくは、前記透明ナノ膜3が二つの金属層(例えば、銀層)を備える場合、前記投影光源1が発生するP偏光11の色は、緑色および青色から少なくとも一つ選択される。例えば、前記投影光源1が広域スペクトル光源(例えば、LEDバックライト付きのTFT‐LCD)である場合、緑色および青色の二色の表示を実現することができる。
【0036】
A3曲線は、三つの銀層を備えた透明ナノ膜を備えるヘッドアップディスプレイシステムのP偏光反射率スペクトル曲線が平坦ではないことを示す。しかしながら、肉眼で見える可視光波長(400〜700nm)範囲内で適切な波長範囲、例えば、青光波長450〜500nm、緑光波長500〜550nm及び赤光波長630〜680nmを選択することにより、ヘッドアップディスプレイを実現することができる。同様に、A1曲線に比べて、A3曲線におけるP偏光反射率は比較的に低いである。昼間に太陽光の下で表示画像がはっきりと見えるために、投影光源1の発光輝度を補強することにより補償を行うことができる。これから分かるように、A3曲線と肉眼のP偏光波長に対する敏感性および快適性とに従って、好ましくは、前記透明ナノ膜3が三つの金属層(例えば、銀層)を備える場合、前記投影光源1が発生するP偏光11の色は、赤色、緑色および青色から少なくとも一つ選択され、例えば、フルカラー表示を実現できる、赤色、緑色および青色の組み合わせである。
【0037】
雨またはスモッグの場合、自動車のフロント風防ガラスの内表面や外表面に水層が付着しやすいである。水とガラスとは、屈折率が一定程度異なるため、P偏光は水層におけるガラスに接触した界面で反射される可能性がある。図5に示すように、一つの銀層を備えた透明ナノ膜を備えるヘッドアップディスプレイシステムを例として、この図におけるB1曲線は、外側ガラス板が水層で覆われる、一つの銀層を備えた透明ナノ膜を備えるヘッドアップディスプレイシステムの反射率スペクトル曲線である。B1曲線とA1曲線とを比較して分かるように、B1曲線におけるP偏光反射率が僅かに増加するため、水層のP偏光に対する反射強度がかなり低く、金属層のP偏光に対する反射強度に影響が及ぼさないことを意味しており、視覚干渉および二重像現象が生じない。
【0038】
図4に示すように、二つの銀層を備えた透明ナノ膜を備えるヘッドアップディスプレイシステムは、P偏光に対する反射率が比較的に低く、フルカラー表示ができなく、また、三つの銀層を備えた透明ナノ膜を備えるヘッドアップディスプレイシステムは、P偏光に対する反射率が比較的に低く、フルカラー表示ができないという欠点については、図6に示すように、本発明においては、好ましくは、ヘッドアップディスプレイシステムにおける透明ナノ膜3が二つの金属層(例えば、二つの銀層)または三つの金属層(例えば、三つの銀層)を備える場合、一つの補助膜5が更に増設される。前記補助膜5は、少なくとも一つの補助ポリマー膜51と補助ポリマー膜51に設置され且つ一つの金属層を備える補助透明ナノ膜52とを備える。補助ポリマー膜51は、前記内側ガラス板21及び外側ガラス板22のそれぞれとの屈折率差が0.1以下であることが好ましく、例えば、PET膜である。図6においては、前記補助膜5は、一つの補助ポリマー膜51を備え、補助ポリマー膜51が透明ナノ膜3に隣接し、補助透明ナノ膜52が中間膜23に隣接する。なお、補助透明ナノ膜52と中間膜23との間に透明ポリマー保護層が更に増設され、或いは、補助ポリマー膜51が中間膜23に隣接して設置され、且つ、補助透明ナノ膜52と透明ナノ膜3との間に接着性を有するポリマー層が設置され、前記保護層および接着性ポリマー層の屈折率と前記内側ガラス板21および外側ガラス板22のそれぞれとの屈折率差が0.1以下であることが理解されるべきである。前記補助膜5は、前記P偏光11の入射領域、つまり、ヘッドアップディスプレイシステムの投影表示領域に位置し、前記補助膜5の補助透明ナノ膜52と二つの金属層または三つの金属層を備える前記透明ナノ膜3との間の距離が350μm以下である。前記補助透明ナノ膜52は、構造が一つの金属層を有する透明ナノ膜3(例えば、一つの銀層を備えた透明ナノ膜)と同じであってもよいが、異なってもよいことが理解されるべきである。増設された前記補助膜5がP偏光を反射するが、はっきりと見える二重像現象が生じない。これは、前記補助透明ナノ膜52と二つの金属層または三つの金属層を備える前記透明ナノ膜3との間の距離が非常に小さいため、これらの二つの膜で生じる反射像がほぼ重なり合うからである。一層良い表示効果を達成するために、前記補助膜5の補助透明ナノ膜52と二つの金属層または三つの金属層を備える前記透明ナノ膜3との間の距離は、好ましく、100μm以下、より好ましくは、50μm以下である。また、図7に示すように、B2曲線は、補助膜5が増設された、二つの銀層を備えた透明ナノ膜を備えるヘッドアップディスプレイシステムのP偏光反射率スペクトル曲線を示し、B3曲線は、補助膜5が増設された、三つの銀層を備えた透明ナノ膜を備えるヘッドアップディスプレイシステムのP偏光反射率スペクトル曲線を示す。比較して分かるように、補助膜5が増設されないA2またはA3曲線に比べて、B2またはB3に示された反射率は顕著に一層高いである。これは、補助膜5が増設されたヘッドアップディスプレイシステムのP偏光反射率が一層高く、且つ、フルカラー高解像度投影表示を実現できることを意味する。
【0039】
本発明の発想を一層詳しく説明し且つ説得力を一層持って支持するために、若干の実施例を挙げて詳しく説明する。
(実施例1〜3および比較例1)
【0040】
福耀ガラス産業グループ株式会社により製造された、厚さが2.1ミリメートルであるソ-ダ石灰珪酸塩フロートガラス(soda lime silicate float glass)を基板として、切断、エッジング、洗浄および乾燥などの工程を経て、マグネトロンスパッタリングラインで成膜する。誘電体層および銀層は、以下に示される構造のように基板に形成される。
【0041】
実施例1:ガラス基板/Si 30nm/TiO 5nm/ZnO 8nm/Ag 11.9nm/NiCrO 3nm/ZnSnMgO 38nm/Si 5nm;
【0042】
実施例2:ガラス基板/Si 23nm/ZnO 7nm/Ag 10nm/NiCrO 2nm/ZnO 7nm/Si 63nm/ZnO 7nm/Ag 10nm/NiCrO 2nm/ZnO 8nm/ZnSnMgO 31nm/Si 4nm;
【0043】
実施例3:ガラス基板/Si 22nm/ZnO 7nm/Ag 10nm/Zr 1nm/ZnO 7nm/Si 58nm/ZnO 7nm/Ag 10nm/Zr 1nm/ZnO 7nm/Si 62nm/ZnO 7nm/Ag 10nm/Zr 1nm/ZnO 9nm/ZnSnMgO 30nm/Si 4nm。
【0044】
成膜が完了した後、このガラスは、相手基板としての、福耀ガラス産業グループ株式会社により製造された、厚さが2.1ミリメートルであるもう一つのソ-ダ石灰珪酸塩フロートガラスと共に、自動車ガラス高温成型プロセスで成型される。そして、これらのガラスは、厚さが0.76ミリメートルである無色PVB膜を間に挟み、高圧オートクレーブ内に高圧で合わせられる。他のプロセス、例えば、アクセサリの装着を経た後、透明ナノ膜を備える合わせガラスが仕上げられる。
【0045】
比較例1は、めっき層がない普通のフラット合わせガラスであり、構造は、二つの2.1ミリメートルのフロートガラスの間に一つの0.76ミリメートルの無色PVB膜が挟まれたものである。成膜以外、他のプロセスは上記と同じである。
【0046】
実施例1〜3および比較例1のヘッドアップディスプレイシステムの投影光源は、LEDバックライト付きの、P偏光を発光できるTFT‐LCD投影機であり、複数の反射ミラーを備え、投影機の位置および出射光の入射方向は、観察者が見る表示画像が最もはっきりするように調節される。比較例1のガラスで結像する場合、結像輝度を向上させるために、投影機とガラスとの間に、偏光方向をs偏光方向に変えるための樹脂製の1/2波長板が添付される。実施例1〜3においては、相変わらず、P偏光が入射する。実施例1〜3および比較例1のヘッドアップディスプレイシステムにおいては、投影光源から発光された偏光はブリュースター角θである57度で入射する。他の設定パラメーターおよび表示画像品質は、表1に示される。
【0047】
【表1】
【0048】
表1から分かるように、実施例1〜3のヘッドアップディスプレイシステムは、二重像を防止することができ、且つ、画像をはっきりと表示することができる。さらに、P偏光は、入射角が57度(ブリュースター角θ)から離れてもよく、例えば、実施例1においては、P偏光の入射角が68度に増加してもよいが、画像が依然としてはっきりしており、ゴースト画像が肉眼で見えない。実施例2および実施例3においては、P偏光の入射角が62度に設定されてもよいが、画像が依然としてはっきりしており、ゴースト画像が肉眼で見えない。
(実施例4〜6)
【0049】
福耀ガラス産業グループ株式会社により製造された、厚さが2.1ミリメートルであるソ-ダ石灰珪酸塩フロートガラスは、基板として、切断、エッジング、洗浄および乾燥などの工程を経て、相手基板としての、福耀ガラス産業グループ株式会社により製造された、厚さが2.1ミリメートルであるもう一つのソ-ダ石灰珪酸塩フロートガラスと共に、自動車ガラス高温成型プロセスで成型される。合わせられる前に、一つの銀層を備えた透明ナノ膜を備える高透明ポリエステル(PET)膜は、成型されたフロント風防ガラスの少なくとも一部に設置される。実施例4においては、図3Aまたは図3Bに示すように、一つの銀層を備えた透明ナノ膜を備える高透明ポリエステル(PET)膜は、内側ガラス板21と中間膜23との間、または、外側ガラス板22と中間膜23との間に設置される。実施例5においては、図3Cに示すように、一つの銀層を備えた透明ナノ膜を備える高透明ポリエステル(PET)膜は、内側ガラス板21における中間膜23から離れた方の表面211、即ち、第一表面211に設置される。実施例6においては、図3Dに示すように、一つの銀層を備えた透明ナノ膜を備える高透明ポリエステル(PET)膜は、二つの中間膜23の間に設置される。そして、高透明ポリエステル(PET)膜が設置された上記ガラスは、それぞれ、後のプロセス、例えば、合わせ、アクセサリの装着を経て、合わせガラスが仕上げられる。
【0050】
実施例4〜6のP偏光光源は、LEDバックライト付きの、P偏光を発光できるTFT‐LCD投影機である。実施例4〜6のヘッドアップディスプレイシステムにおいては、投影光源から発光されたP偏光はブリュースター角θである57度で入射する。透明ナノ膜の種類および位置と、P偏光の色と、結果としての表示画像品質は、表2に示される。
【0051】
【表2】
【0052】
表2から分かるように、実施例4〜6のヘッドアップディスプレイシステムは、二重像を防止することができ、且つ、画像をはっきりと表示することができる。
(実施例7〜8)
【0053】
実施例7および8は、それぞれ、実施例2および3とほぼ同様であるが、図6に示すように、前記P偏光の入射領域、つまり、ヘッドアップディスプレイシステムの投影表示領域に補助膜5が増設されるという点で、相違している。前記補助膜5は、一つの厚さが50μmであるPET膜と該PET膜に形成された補助透明ナノ膜52とを備える。
【0054】
実施例7における補助膜5の補助透明ナノ膜52の構造:PET膜/ZnSnO 27nm/ZnO 7nm/Ag 10nm/Ti 1nm/ZnO 8nm/ZnSnO 21nm;
【0055】
実施例8における補助膜5の補助透明ナノ膜52の構造:PET膜/ZnSnO 26nm/ZnO 10nm/Ag 10nm/Ti 1nm/ZnO 9nm/ZnSnO 39nm。
【0056】
実施例7〜8のヘッドアップディスプレイシステムにおいては、投影光源から発光されたP偏光はブリュースター角θである57度で入射し、且つ、P偏光はフルカラー表示である。自然光が垂直入射角と60度の角とのそれぞれで入射する場合の関連技術パラメーターは、表3に示される。また、図7は、実施例7〜8のヘッドアップディスプレイシステムのP偏光反射率スペクトルを示す。
【0057】
【表3】
【0058】
表3および図7から分かるように、実施例7〜8のヘッドアップディスプレイシステムは、二重像を防止することができ、且つ、フルカラー画像をはっきりと表示することができる。且つ、補助膜の、一つの銀層を備えた透明ナノ膜の構造および厚さを最適化することにより、補助膜が設置された領域および補助膜がない領域には、色がほぼ一致する。また、補助膜がない領域に比べて、補助膜が設置された領域は、可視光透過率(TL%)が僅かに低減されるが、P偏光反射率が(RL%)が二倍に増加するため、投影画像が一層はっきりする。
【0059】
上記に挙げられた本発明の実施例のそれぞれにおいては、ヘッドアップディスプレイシステムの構造が開示されたが、具体的な成膜プロセスおよびパラメーターと、合わせガラス製品の具体的な製造プロセスおよびパラメーターとが開示されない。しかしながら、開示されない内容は、当業者にとって周知のものであるため、特許請求の範囲に影響を及ぼさないことが理解されるべきである。
【0060】
上記内容は、本発明に係るヘッドアップディスプレイシステムを具体的に開示すると共に、若干の実施例を挙げて説明する。しかしながら、本発明は、上記開示された実施形態および対応した実施例に限定されるものではないため、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において行われる改良、修正および変更等は、特許請求の範囲に属するものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8