【実施例】
【0033】
[インスリン抵抗性改善剤の有効成分の調製]
イエローコーンスターチ2.3kg、大豆ペプトン0.5kg、米糠汁0.5kg、塩化カルシウム80g、食塩150gに精製水50kgを加え、加熱して溶解した。次いでこれを冷却し、アミラーゼ40gを加えて充分に糖化させた。糖化終了後、グラニュー糖1.5kg、グルコース(ブドウ糖)1.5kg、酵母エキス450g、水飴1.5kg、リン酸ナトリウム80g、野菜の圧搾汁(キャベツ、ニンジン、セロリ、パセリの合計)5kg、および精製水を加えて全量を150kgにした。
【0034】
そして、水酸化ナトリウムを添加してpHを7.3〜7.8の範囲内に調整し、これを培養缶に入れて120℃で20分間高圧滅菌した。これを冷却した後、バチルス・ズブチリスAK株を接種し、温度30±2℃の恒温室でpH4.5〜6.5で60日間発酵させ、次いで温度15±2℃の恒温室でpH4.0〜6.0の条件下で180日間熟成させて培養液を透明化させた。これをフィルターによってろ過し、125リットルの液状の保健栄養食品の原液(以下、培養濾液と称する。)を得た。
得られたインスリン抵抗性改善剤の液状有効成分の原液100g中の一般分析結果を以下の表1中に示す。なお、表中の記号φは、検出限界以下の微量を示している。
【0035】
【表1】
【0036】
また、得られた液状成分または同成分のエンザミン(登録商標)が含まれる食品の経口安全性については、特許第3902015公報の段落0031にも記載されているように、ウィスター系ラットを用いた経口LD50値が雄雌共に42.0ml/kg以上と高いものであり、この発明に用いる有効成分は高い安全性を有していることが明らかである。
【0037】
次に、上記の液状成分の原液の20倍濃縮液(エンザミン研究所社製:ENM−HL、以下の実施例1、2、比較例、これらの試験の説明および図表中の説明において、これをエンザミンと称する。)を有効成分とする実施例1、2、比較例(コントロール)の各インスリン抵抗性改善剤を調製し、それらを以下の試験によって評価した。
なお、以下の試験結果は、平均値±標準誤差で示し、%の記載は質量%であり、有意差検定は、一元配置分散分析法(one-way ANOVA)を用い、特に示さない限りp<0.05を有意差ありとした。また、統計解析は全て StatView version 5.0 software (米国SAS Institute社製)を用いて行なった。
【0038】
[実施例1、2、比較例]
<脂質代謝異常のインスリン抵抗性改善剤、糖代謝異常のインスリン抵抗性改善剤>
上記のようにして得られた有効成分のエンザミンを0.1質量%濃度で含有する飲料水(実施例1)、エンザミンの1.0質量%濃度の飲料水(実施例2)、エンザミンを全く含まない水(比較例)を調製し、マウスへの経口摂取による実施例1、2の脂質代謝異常または糖代謝異常のインスリン抵抗性改善剤としての適性を評価した。
【0039】
[マウスの経口摂取]
日本チャールス・リバー社より購入した5週齢の雄性db/dbマウスとヘテロのdb/+mマウスのうち、db/dbマウスに標準固形食とエンザミンを0.1%(平均0.5mg/kg体重/日/マウス)および1.0%(平均5.0mg/kg体重/日/マウス)で混ぜた飲水(実施例1、2)を6週齢より8週間与えた。比較例(コントロール)として、エンザミンを全く含まない水を与えた。
【0040】
なお、餌および飲水は自由摂取とし、やせのコントロールとしてdb/+mマウスを用い、これに標準固形食と飲水を同じ期間、自由に摂取させた。これらのマウスは、12時間の明暗サイクルで飼育し、すべての動物実験は、学校法人近畿大学医学部動物実験指針に従って行なった。
【0041】
上記した実施例、比較例の発明の効果を評価するに当たり、その前提として、エンザミン投与によりdb/dbマウスの体重および体脂肪量に影響がないことを確認するため、供試マウスに対する実施例1、2の経口摂取と全く同じ条件で経口摂取したマウスについて、体重、体脂肪率、皮下脂肪率の増減を調べ、その結果を
図1に示した。なお、図中に記した%は質量%である。また、体脂肪率、内臓脂肪量、皮下脂肪量の測定については、以下の体組成解析試験を行なった。
【0042】
[体組成解析試験]
体脂肪組成の解析をコンピュータ断層撮影法(CT解析)で行なった。すなわち、マウスをイソフルランで麻酔した後、実験動物CT解析装置(日立アロカメディカル社製:ラシータ LCT-200)を用いて体脂肪組成を測定した。その際、実験動物の第1腰椎から第5腰椎の間を1mmの間隔でスキャンし、連続したスライス断層画像を作成した後、ラシータソフトウェア(version 3.40)を用いて定量化した。内臓脂肪と皮下脂肪は、腹筋の位置により区別し、総脂肪量、内臓脂肪重量および皮下脂肪重量は、全スライス画像を積算することで算出した。
【0043】
図1に示された結果からも明らかなように、0.1%濃度および1%濃度のエンザミン投与による体重への影響は認められず、CT画像から計算した体脂肪率、内臓脂肪量および皮下脂肪量、肝脂肪量においてもエンザミン投与による変化は認められなかった。
次に、脂質代謝異常または糖代謝異常のインスリン抵抗性改善剤による所期した直接的なインスリン抵抗性による効果を調べるため、実施例1、2、比較例に対し、以下の代謝マーカーによる解析試験を行ない、その結果を
図2、3に示した。なお、図中、%は質量%である。
【0044】
[代謝マーカーによる解析試験(1)]
db/dbマウスを用いた実施例1、2、比較例、およびdb/+mマウスを用いたコントロールについて、血清トリグリセロール、血清総コレステロール、血漿グルコース、血漿インスリンの濃度は、それぞれトリグリセライドEテスト(和光純薬工業社製)、コレステロールEテスト(和光純薬工業社製)、グルテストエース(三和化学研究所製)、超高感度マウスインスリン測定キット(森永生科学研究所製)を用いて測定した。
【0045】
[脂質代謝異常によるインスリン抵抗性の改善]
図2(a)に示した結果からも明らかなように、db/dbマウスにおける血清トリグリセリドの測定結果から、db/dbマウスの空腹時の血清トリグリセリド濃度(158.1±12.4mg/ml)は、db/+mマウス(コントロール群:図中mで示す。)の血清トリグリセリド濃度(59.9±6.7mg/dl)に比べて、有意(p<0.01)な高値を示した。
【0046】
また
図2(a)から、0.1%濃度のエンザミン投与により、db/dbマウスにおける血清トリグリセリド濃度は137.0±8.0mg/dlであり、コントロール群の158.1±12.4mg/dlに比べて有意差はないが減少傾向を示し、さらに1%濃度のエンザミン投与群(122.0 ± 8.4 mg/dl)では、エンザミン非投与のdb/dbマウス群に比べて有意(p<0.05、図中に*印を付す。)な減少が認められた。
【0047】
同様に
図2(b)からも明らかなように、db/dbマウスの空腹時の血清総コレステロール濃度(217.9±8.7mg/dl)と比べて、0.1%濃度のエンザミン投与群(181.4±8.3mg/dl)には減少傾向が認められ、1%濃度エンザミン投与群には有意(p<0.05)な減少が認められた。
【0048】
これらの結果から、有効成分のエンザミンは、血清トリグリセリドおよび総コレステロール濃度を投与濃度依存的に減少させており、有効成分の摂取によってdb/dbマウスにおける脂質代謝が改善されることが明らかになった。
【0049】
<糖代謝異常によるインスリン抵抗性の改善剤>
次に、db/dbマウスの糖代謝異常に対するエンザミンの効果を検討した。
図2(c)に示す結果からも明らかなように、db/dbマウスの空腹時血漿グルコース濃度(758.7±24.7mg/dl)は、db/+mマウス(コントロール群54.6±1.5mg/dl:図中mで示す)に比べて、著明な増加を示した(p<0.01)。
また、0.1%濃度のエンザミン投与群のdb/dbマウスの血漿グルコース濃度は減少傾向を示し、1.0%濃度のエンザミン投与群(643.0±34.0mg/dl)は有意(p<0.05)な減少を示した。
【0050】
図2(d)に示す結果からも明らかなように、血漿インスリン濃度は、db/+mマウス(図中mで示す。0.12±0.04ng/ml)に比較し、db/dbコントロール群で2.05±0.22ng/mlであり、著明な高値を示したが(p<0.01)、0.1%エンザミン投与群(2.72±0.27ng/ml)、1.0%エンザミン投与群(2.72±0.30ng/ml)であり、エンザミン投与による血漿インスリン値に対する影響が認められなかった。
【0051】
さらに、エンザミンの糖代謝に対する効果を詳細に検討するため、グルコース負荷テスト(intraperitoneal glucose tolerance test (IPGTT))およびインスリン負荷テスト(intraperitoneal insulin tolerance test (IPITT))を行ない、それらの結果を
図3(a)(b)に示した。
【0052】
先ず、グルコース負荷テストを行うために、マウスを16時間絶食させ、その後、腹腔にグルコースを1.5mg/kg体重の濃度で投与した。この結果を
図3(a)に示した。
また、インスリン負荷テストを行うためには、マウスを6時間絶食させた後、腹腔にレギュラーヒトインスリンを1U/kg体重の濃度で腹腔に投与した。この結果を
図3(b)に示した。血液サンプルは、投与前と投与後に採取し、血中グルコース濃度はグルテストエース(三和化学研究所製)を用いて測定し、投与前(0分)と投与後(30〜90分)の結果を
図3(b)に示した。
【0053】
なお、
図3の折れ線グラフ中の記号については、○:db/+mマウス、●:エンザミン非投与db/dbマウス(コントロール)、△:0.1%エンザミン投与db/dbマウス、□:1.0%エンザミン投与db/dbマウスの各群の結果を示している。
【0054】
図3(a)の結果からも明らかなように、腹腔内へのグルコース投与後の血漿グルコース濃度は、db/dbマウスにおいてdb/+mマウスに比較して著明に上昇しており、著明な耐糖能異常を示した。1.0%濃度のエンザミン投与により、db/dbマウスにおけるグルコース注入30分後、60分後および90分後の血漿グルコース濃度の上昇が有意に抑制された。なお、0.1%濃度のエンザミン投与では有意差はなかったが、血漿グルコース濃度の上昇の抑制傾向が認められた。これらのことから、エンザミン投与により、db/dbマウスにおける耐糖能異常が改善されていることがわかる。
【0055】
また、
図3(b)の結果からも明らかなように、db/dbマウスでは、耐糖能異常と共に、インスリン感受性が著明な障害が認められた。すなわち、db/+mマウスに比較して、db/dbマウスではインスリン投与後の血漿グルコース濃度の低下が著しく抑制されていた。0.1%濃度のエンザミン投与では効果は認められなかったが、1.0%濃度のエンザミンの投与(□印)では、インスリン投与後のdb/dbマウスにおける血漿グルコース濃度の低下が30分、60分、90分および120分後がコントロール群(●印)に比べて有意に亢進していた。これらのことから、エンザミンの投与がdb/dbマウスにおけるインスリン抵抗性を改善させることがわかる。
【0056】
<脂肪組織における炎症性アディポサイトカインの産生亢進または抗炎症性アディポサイトカインの産生低下によるインスリン抵抗性改善剤>
実施例1、2のアディポサイトカイン発現・分泌に対するエンザミンの効果を調べ、これらの効果を奏するインスリン抵抗性改善剤としての適性を評価した。
すなわち、前記同様のマウスへの経口摂取試験を行ない、db/dbマウスを用いた実施例1、2、比較例、およびdb/+mマウスを用いたコントロールについて、以下の試験を行ない、その結果を
図4に示した。
【0057】
[代謝マーカーの解析試験(2)]
エンザミン投与(8週間)によるインスリン抵抗性改善効果の機序を検討するために、実施例1、2、比較例のdb/dbマウスの脂肪組織における炎症性アディポサイトカインと抗炎症性アディポサイトカインの発現および分泌に対するエンザミンの効果を検討した。
血清アディポネクチンおよび血清TNFα濃度は、それぞれアディポネクチンELISAキット(大塚製薬社製)およびQuantikine TNF-alpha ELISA kit (米国R&Dシステムズ社製)を用いて測定した。
【0058】
図4の(a)〜(f)は、順にTNF-α, MCP-1, IL-6 , PAI-1 のmRNA発現量、各群のマウスにおける血清TNF-α濃度、血清アディポネクチン濃度を示し、各図中のm印はdb/+mマウス(やせのコントロール(n=6))の脂肪組織、−印はエンザミン非投与(n=10)db/dbマウスの脂肪組織、0.1はエンザミン投与0.1%(n=9)の実施例1のdb/dbマウスの脂肪組織であり、1.0は、エンザミン投与1.0%(n=8)の実施例2のdb/dbマウスの脂肪組織である。これらの結果は平均値±標準誤差で表し、エンザミン非投与 db/dbマウスに対してp<0.05で有意差のあるものは*印で示し、p<0.01で有意差のあるものは**印で示した。)なお、図中、%は質量%を示している。
【0059】
図4(a)の結果からも明らかなように、db/dbマウスの脂肪組織におけるTNFαの発現はdb/+mマウスのそれに比較して、5倍に増加しており、db/dbマウスの脂肪組織において炎症が誘発されていることを確認した。
特筆すべきことは、投与したエンザミンの濃度依存的にdb/dbマウスの脂肪組織におけるTNF-αのmRNAの発現量の抑制が認められたことである。特に、1.0%濃度のエンザミン投与では、コントロール群に比較して、TNF-αのmRNAの発現を40%抑制した。
【0060】
また、
図4(b)、(c)の結果からも明らかなように、1.0%濃度のエンザミン投与によって、単球走化因子(Monocyte chemoattractant protein 1(MCP-1))とインターロイキン6(IL-6)の発現が、コントロール群に比較してそれぞれ50%、60%抑制された。
【0061】
また、
図4(d)の結果からも明らかなように、プラスミノゲンアクチベータインヒビター1(Plasminogen activator inhibitor-1 (PAI-1))の発現は、0.1%および1.0%濃度のエンザミン投与の両方で有意な抑制が認められた。
これらの結果から、エンザミンの投与はdb/dbマウスの脂肪組織における炎症を抑制するものと認められる。
【0062】
さらに、全身の炎症状態に対するエンザミンを有効成分とするインスリン抵抗性改善剤の効果を検討するために、db/dbマウスにおける血中TNF-α濃度を測定した。
図4(e)の結果からも明らかなように、コントロール群(−印)の45.2±6.5pg/mlに比べて1.0%濃度のエンザミン投与をした実施例2では、血中TNF-α濃度が27.2±6.4pg/mlになるという有意な抑制が認められた(p<0.05)。従って、エンザミンを有効成分とするインスリン抵抗性改善剤は、脂肪組織の炎症抑制効果と同様に、全身の炎症も抑制することがわかる。
【0063】
図4(f)の結果からも明らかなように、抗炎症性アディポサイトカインである血中アディポネクチン濃度は、エンザミンの投与濃度依存的に増加し、特に1.0%濃度のエンザミンの投与においては、11.4±0.8μg/mとなっており、db/dbコントロール群の8.1±0.7μg/mlに対してl1.4倍の増加が認められた。これらのことから、エンザミンを有効成分とするインスリン抵抗性改善剤が、肥満マウスにおけるアディポサイトカインの産生破綻を改善していることがわかる。
【0064】
<脂肪組織におけるマクロファージの浸潤によるインスリン抵抗性の改善剤>
次に、エンザミンを有効成分とするインスリン抵抗性改善剤の脂肪組織へのマクロファージ浸潤に対するインスリン抵抗性の効果を検討するために、肥満マウスの脂肪組織におけるF4/80(成熟マクロファージのマーカー)に対する組織免疫学的解析を行なった。
【0065】
[組織免疫学的解析]
マウスの精巣上体白色脂肪組織を4℃の条件下で12〜16時間、4%パラホルムアルデヒドを用いて固定し、4μm厚のパラフィン切片を作製し、ラットモノクローナル抗F4/80抗体(米国AbD Serotec社製)と反応させた。そして、西洋ワサビペルオキシダーゼを結合した二次抗体と反応させた。チラミドシグナル増幅システム(米国パーキンエルマー社製)を用いて、陽性シグナルを可視化した。また、切片を4′,6-ジアミノ-2-フェニルインドール(DAPI)で後染色し、蛍光顕微鏡(キャノン社製:E800)とCCDカメラ(キーエンス社製)を用いて観察した。それぞれのマウス個体より作製したパラフィン切片中の10視野を観察し、F4/80発現陽性細胞の核の数とすべての細胞の核の数を、画像解析ソフト(NIHイメージ)を用いてカウントし、全細胞数対するF4/80陽性細胞の割合を算出した。
【0066】
図5の免疫染色像が示すように、まず、db/+mマウス(
図5(a))に比較して、db/dbマウス(
図5(b))では、脂肪組織におけるF4/80陽性細胞の数が著明に増加しており、これはマクロファージの脂肪組織への浸潤が著明に増加していることを示している。
そして、
図5(c)、(d)からも明らかなように、エンザミンを有効成分とするインスリン抵抗性改善剤の0.1%、1.0%投与により、濃度依存的にF4/80陽性細胞の数の減少が観察された。
【0067】
また
図6(a)に示すように、F4/80陽性細胞の数をカウントし、全体の細胞に対する割合を算出したところ、0.1%のエンザミンの投与(47.4±5.1%)では、db/dbコントロール群(54.5±2.4%)に比べて有意差(p<0.05)は認められなかったが、脂肪組織へのマクロファージ浸潤を抑制する傾向が認められ、さらに1.0%のエンザミン投与(42.8±2.3%)では、マクロファージ浸潤の有意な抑制が認められた。
さらに、マクロファージの活性化および脂肪組織の炎症を確認するため、以下のように
「細胞培養」を行ない、「定量リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応」による遺伝子発現定量解析を行なった。
【0068】
[細胞培養]
マウスマクロファージ培養細胞のRAW264.7細胞(ATCC)を10%ウシ胎児血清(FBS)および100mg/mLのペニシリンストレプトマイシンを含むダルベッコ変法培地で37℃、5%CO
2条件下で培養維持した。RAW264.7細胞を1×10
6cells/ウェルで6ウェルプレートに播主し、24時間培養後、0.01%および0.1%のエンザミンをそれぞれ添加し、さらに1μg/mlの濃度でリポポリサッカライド(LPS)を添加し、12時間反応させた。リン酸生理食塩緩衝液(PBS)で2回洗浄後、細胞からRNAを抽出し、定量リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(定量RT-PCR反応)による遺伝子発現解析を行なった。
【0069】
[定量リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応]
マウスの精巣上体白色脂肪組織(100mg)およびRAW264.7細胞よりRNAをRNeasy Mini kit (キアゲン社製)を用いて抽出した。そして、cDNA(環状DNA)をSuper Script III逆転写キット(ライフテクノロジーズ社製)を用いて合成した。発光試薬としてSYBR GREEN PCR Master Mixを用い、StepOne PlusリアルタイムPCR装置(ライフテクノロジーズ社製)にて、遺伝子発現定量解析を行なった。遺伝子発現解析により定量化されたmRNA量は、内部標準として18sリボソーマルRNAにより標準化し、単位は任意単位で表した。
【0070】
図6(b)に示すように、上記のマーカー遺伝子の発現定量解析の結果は、1.0%濃度のエンザミン投与群では、コントロール群に比較して、脂肪組織におけるEmr1(F4/80)mRNAの発現が40%抑制されていた。
さらに
図6(c)(d)に示すように、マクロファージの活性化マーカーおよび炎症状態のマーカーであるCD68およびToll like receptor 4(TLR4)の発現もそれぞれ40%抑制されていた。
これらの結果から、エンザミンを有効成分とするインスリン抵抗性改善剤がdb/dbマウスの脂肪組織への炎症性マクロファージの浸潤を抑制していることがわかる。
【0071】
<脂肪組織における酸化ストレスによるインスリン抵抗性の改善剤>
脂肪組織における酸化ストレスに対するエンザミンを有効成分とするインスリン抵抗性改善剤の効果を評価するため、db/dbマウスの精巣上体白色脂肪組織におけるニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)オキシダーゼのサブユニット(Nox2, p22phox 及び p47phox)の遺伝子(mRNA)発現量を検討した。
【0072】
細胞培養試験および定量リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応についは、上記した「脂肪組織におけるマクロファージの浸潤によるインスリン抵抗性の改善」についての実験操作と同じ手順で行ない、Nox2、p22phox およびp47phox mRNAの発現量を調べた。
【0073】
図7(a)(b)(c)に示す結果からも明らかなように、Nox2、p22phox およびp47phox の各mRNAの発現量は、db/dbマウスにおいてdb/+mマウスに比較して、顕著に増加しており、db/dbマウスの脂肪組織における酸化ストレスが亢進していることがわかる。
【0074】
0.1%濃度のエンザミン投与では、エンザミン非投与に対する有意差(P<0.05)は認められなかったが、これらNADPHオキシダーゼサブユニットの発現量を抑制する傾向が認められた。さらに1.0%濃度のエンザミン投与では、Nox2, p22phox およびp47phoxの遺伝子発現上昇をそれぞれ40%、30%および40%ほど有意に抑制した。
これらの結果から、エンザミンを有効成分とするインスリン抵抗性改善剤が、db/dbマウスの脂肪組織における酸化ストレスを抑制することがわかる。
【0075】
<脂肪組織におけるLPS誘導性の炎症反応によるインスリン抵抗性の改善剤>
次に、マクロファージにおける炎症反応に対するエンザミンを有効成分とするインスリン抵抗性改善剤のLPS誘導性の炎症反応の効果を検討するために、マウスマクロファージ培養細胞のRAW264.7細胞を用いて、LPS刺激時のTNF-αの発現上昇に対するエンザミンを有効成分とするインスリン抵抗性改善剤添加効果を検討した。
【0076】
細胞培養試験および定量リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応についは、上記した「脂肪組織におけるマクロファージの浸潤によるインスリン抵抗性の改善」についての実験操作と同じ手順で行ない、TNF-αのmRNAの発現量を調べた。
すなわち、RAW264.7細胞におけるLPS(1μg/ml)の存在下、非存在下における0.01%および0.1%エンザミンを有効成分とするインスリン抵抗性改善剤の12時間の添加効果を調べ、その結果は、
図8に平均値±標準誤差で示し、図中の**はp<0.01(各群n=3)での有意差があることを示している。
【0077】
図8の結果からも明らかなように、LPS非存在下(−印)においては、0.1%のエンザミンの添加により、RAW264.7細胞におけるTNF-αの発現量をわずかに増加した。
しかし、LPSにより著明に発現が誘導されたTNF-αmRNAを0.01%および0.1%濃度のエンザミンを有効成分とするインスリン抵抗性改善剤の添加群では有意に抑制された。これらのことから、エンザミンを有効成分とするインスリン抵抗性改善剤がマクロファージにおける炎症反応を抑制することがわかる。