(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
更に液状油(C)及び極度硬化油(D)から選ばれる少なくとも1種を含む油脂を混合して得られることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の層状食品用油脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明について詳細に説明する。
1.層状食品用油脂組成物
本発明の層状食品用油脂組成物は、構成脂肪酸として飽和脂肪酸(S)を2個、不飽和脂肪酸(U)を1個含む2飽和トリグリセリドと、構成脂肪酸として飽和脂肪酸(S)を3個含む3飽和トリグリセリドとの合計割合が油脂全体の質量に対して40〜65質量%の範囲内であり、好ましくは40〜60質量%の範囲内である。この範囲内であると、層状食品用油脂組成物を用いた層状食品用可塑性油脂の生地との伸展性が良くベタツキも少ないため作業性が良好で、ソフトな食感で、口溶けや呈味性も良好な焼成品を得ることができる。この合計割合が40質量%以上であると、生地のベタツキが少なく、焼成品はソフトな食感で口溶けも良い。この合計割合が65質量%以下であると、生地との伸展性が良く、焼成品の風味が持続し呈味性が良く、焼成品はソフトな食感が得られる。
【0025】
本発明の層状食品用油脂組成物は、2飽和トリグリセリドのうち、対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)が1.2超〜3.0の範囲内、好ましくは1.2超〜2.7の範囲内である。この範囲内であると、層状食品用可塑性油脂の生地との伸展性が良くベタツキも少ないため作業性が良好で、ソフトな食感で、口溶けや呈味性も良好な焼成品を得ることができる。この質量比が1.2を超えると、焼成品はソフトな食感で呈味性も良く、この質量比が3.0以下であると、生地との伸展性が良く、焼成品はソフトな食感で口溶けと呈味性も良い。
【0026】
本発明の層状食品用油脂組成物は、構成脂肪酸の総炭素数が40〜48であるトリグリセリドの割合が油脂全体の質量に対して10〜30質量%の範囲内、好ましくは10〜25質量%の範囲内である。この範囲内であると、層状食品用可塑性油脂の生地との伸展性が良くベタツキも少ないため作業性が良好で、ソフトな食感で、口溶けや呈味性も良好な焼成品を得ることができる。この割合が10質量%以上であると、焼成品の口溶けと呈味性が良好で、生地のベタツキも少なく、この割合が30質量%以下であると、層状食品用可塑性油脂の生地との伸展性が良く、焼成品はソフトな食感で口溶けと呈味性も良い。
【0027】
そして本発明の層状食品用油脂組成物は、後述のラウリン系油脂(A1)とパーム系油脂(A2)とのエステル交換油脂であるエステル交換油脂(A)を含む油脂を混合して得られることを特徴としている。このエステル交換油脂(A)を原料に用いて他の油脂と混合し、油脂のトリグリセリド組成を前記の範囲内に調整することにより、ソフトな食感で、口溶けや呈味性も良好な焼成品を得ることができ、生地を作製する際の作業性も良好である。このエステル交換油脂(A)を原料に用いて得られた本発明の層状食品用油脂組成物は、低温から高温までの広温度域において可塑性を有する層状食品用可塑性油脂を調製することができ、そして特に、他の油脂との相溶性が良いため前記したような食感や作業性が向上する。
【0028】
トランス型脂肪酸は動脈硬化症のリスクを増加させると言われており、健康への影響が懸念される点を考慮し、本発明の層状食品用油脂組成物は、トランス酸量が0.1〜5質量%の範囲内であることが好ましい。
【0029】
以上のような構成を有する本発明の層状食品用油脂組成物は、3飽和トリグリセリドの割合が油脂全体の質量に対して5〜30質量%の範囲内であることが好ましく、2飽和トリグリセリド及び3飽和トリグリセリドの合計量と、3飽和トリグリセリドとの質量比(2飽和トリグリセリド+3飽和トリグリセリド/3飽和トリグリセリド)が1.2〜5の範囲内であることが好ましく、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの質量比(2飽和トリグリセリド/3飽和トリグリセリド)が0.4〜4の範囲内であることが好ましい。
【0030】
2−1.エステル交換油脂(A)
本発明の層状食品用油脂組成物に原料として使用されるエステル交換油脂(A)は、全構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が30質量%以上であるラウリン系油脂(A1)と、全構成脂肪酸中の炭素数16以上の脂肪酸含有量が35質量%以上であるパーム系油脂(A2)とのエステル交換油脂である。
【0031】
そしてエステル交換油脂(A)は、ヨウ素価が20〜45の範囲内であることが好ましい。この範囲内であると、他の油脂との相溶性が良く、そして他の油脂に対して核となりやすく、核発生を誘発し、その結果として固化が遅れることを抑制することができるため、前記したような作業性や食感が向上する。ヨウ素価が20以上であると、他の油脂との相溶性が良く、前記したような作業性や食感が向上する。ヨウ素価が45以下であると、他の油脂に対して核となりやすく、核発生を誘発し、その結果として固化が遅れることを抑制することができるため、前記したような作業性や食感が向上する。
【0032】
そしてエステル交換油脂(A)は、ラウリン系油脂(A1)5質量%以上30質量%未満と、パーム系油脂(A2)70質量%超95質量%以下とをエステル交換して得られたものである。好ましくはラウリン系油脂(A1)10質量%以上30質量%未満と、パーム系油脂(A2)70質量%超90質量%以下とをエステル交換して得られたものであり、より好ましくは、ラウリン系油脂(A1)10〜28質量%と、パーム系油脂(A2)72〜90質量%とをエステル交換して得られたものである。ラウリン系油脂(A1)とパーム系油脂(A2)をこの質量範囲で使用することで、ソフトな食感で、口溶けや呈味性も良好な焼成品を得ることができ、生地を作製する際の作業性も良好である。これらの点を考慮すると、その中でもエステル交換油脂(A)は、全構成脂肪酸中の炭素数12〜14の飽和脂肪酸の含有量が7〜20質量%の範囲内であることが好ましい。また、全構成脂肪酸中の炭素数18の不飽和脂肪酸の含有量が18〜40質量%の範囲内であることが好ましい。
【0033】
またエステル交換油脂(A)は、全構成脂肪酸中の炭素数16〜18の飽和脂肪酸の含有量が好ましくは40〜60質量%の範囲内である。
【0034】
以上の他に、前記したような作業性や食感が良好となる点を考慮すると、ラウリン系油脂(A1)とパーム系油脂(A2)とを前記の質量範囲でエステル交換して得られるエステル交換油脂(A)は、次のものが好ましい。
【0035】
エステル交換油脂(A)は、構成脂肪酸の総炭素数が40〜46であるトリグリセリドの割合が15〜35質量%の範囲内であることが好ましく、20〜35質量%の範囲内であることがより好ましい。これらの範囲内であると、他の油脂との相溶性が良好になる。
【0036】
エステル交換油脂(A)は、構成脂肪酸として飽和脂肪酸(S)を2個、不飽和脂肪酸(U)を1個含む2飽和トリグリセリドのうち、対称トリグリセリド(SUS)と非対称トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)が0.45〜0.55の範囲内であることが好ましい。これにより結晶性が良くなるため、他の油脂と混合した際に相溶性が良好になる。
【0037】
エステル交換油脂(A)は、トリグリセリドの全構成脂肪酸中、ラウリン酸量のステアリン酸量に対する質量比(ラウリン酸量/ステアリン酸量)が好ましくは0.2〜0.7の範囲内、より好ましくは0.4〜0.6の範囲内であり、かつ炭素数18の不飽和脂肪酸量の炭素数18の飽和脂肪酸量に対する比率(C18の不飽和脂肪酸量/C18の飽和脂肪酸量)が好ましくは0.5〜4.0の範囲内、より好ましくは1.0〜2.0の範囲内である。この範囲内であると、層状食品用可塑性油脂の保型性が良好となる。
【0038】
エステル交換油脂(A)は、5℃におけるSFCが55〜80%の範囲内であることが好ましい。この範囲内であると、高温や経時による液状油に起因するベタツキや長期保存時における硬さ変化を抑制でき、安定性に優れている。また35℃におけるSFCが15%以上の範囲内であることが好ましく、15〜30%の範囲内であることがより好ましい。この範囲内であると、層状食品用可塑性油脂の保型性が良好となる。なお、5℃及び35℃のSFCは、基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.2.9−2003 固体脂含量(NMR法)」により測定することができる。
【0039】
2−2.ラウリン系油脂(A1)
以上のようなエステル交換油脂(A)の原料であるラウリン系油脂(A1)は、全構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が30質量%以上、好ましくは40〜55質量%の範囲内、より好ましくは45〜50質量%の範囲内である。このようなラウリン系油脂(A1)としては、パーム核油、ヤシ油、これらの分別油、硬化油等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。これらのうち、ヤシ油に比べて融点が高く、高融点のエステル交換油脂(A)を容易に得ることができる点を考慮すると、パーム核油及びその分別油や硬化油が好ましい。硬化油の場合、水素添加量によってトランス酸の含有量が増加する虞があるため、硬化油を用いる場合には部分硬化油、低温硬化油、あるいは完全水素添加した極度硬化油が好ましい。
【0040】
ラウリン系油脂(A1)は、ヨウ素価が2以下であることが好ましい。ヨウ素価が2以下のラウリン系油脂(A1)を用いると、エステル交換油脂(A)を他の油脂と混合する際に結晶核となり固化し易く、ベタツキが少なくなり生地を作製する際の作業性が良好である。またトランス酸の生成の虞も少ない。ヨウ素価が2以下のラウリン系油脂(A1)としては、極度硬化油を用いることができる。
【0041】
2−3.パーム系油脂(A2)
全構成脂肪酸中の炭素数16以上の脂肪酸含有量が35質量%以上であるパーム系油脂(A2)としては、パーム油、パーム分別油、これらの硬化油、エステル交換油脂等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。パーム分別油としては、硬質部、軟質部、中融点部等を用いることができる。パーム系油脂(A2)として硬化油を使用する場合、部分硬化油、低温硬化油、極度硬化油等を用いることができるが、中でも極度硬化油が好ましい。
【0042】
パーム系油脂(A2)は、ヨウ素価が30〜55の範囲内であることが好ましく、30〜40の範囲内であることがより好ましい。この範囲内であると、口溶けが低下することなくベタツキを抑制することができる。
【0043】
パーム系油脂(A2)は、極度硬化油を5〜45質量%の範囲内で含有することが好ましく、20〜45質量%の範囲内で含有することがより好ましい。極度硬化油をこの範囲内で含有すると、長期保存時における層状食品用可塑性油脂の硬さ変化を抑制でき、またベタツキが少なくなり生地を作製する際の作業性が良好である。
【0044】
ラウリン系油脂(A1)と、パーム系油脂(A2)とのエステル交換反応には、エステル交換触媒として化学触媒や酵素触媒が用いられる。化学触媒としてはナトリウムメチラートや水酸化ナトリウム等が用いられ、酵素触媒としてはリパーゼ等が用いられる。リパーゼとしてはアスペルギルス属、アルカリゲネス属等のリパーゼが挙げられ、イオン交換樹脂、ケイ藻土、セラミック等の担体上に固定し固定化したものを用いても、粉末の形態として用いても良い。また位置選択性のあるリパーゼ、位置選択性のないリパーゼのいずれも用いることができるが、位置選択性のないリパーゼを用いることが好ましい。エステル交換触媒として化学触媒や位置選択性のない酵素触媒を用いた場合、ラウリン系油脂(A1)とパーム系油脂(A2)とのエステル交換反応が完了すると、構成脂肪酸として飽和脂肪酸(S)を2個、不飽和脂肪酸(U)を1個含む2飽和トリグリセリドのうち、対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)とのエステル交換油脂(A)中における質量比率が、SUS/SSU=0.45〜0.55の範囲内となる。
【0045】
エステル交換に化学触媒を用いる場合、触媒を油脂質量の0.05〜0.15質量%添加し、減圧下で80〜120℃に加熱し、0.5〜1.0時間攪拌することでラウリン系油脂(A1)とパーム系油脂(A2)とのエステル交換反応が平衡状態となって完了し、エステル交換油脂(A)を得ることができる。また酵素触媒を用いる場合、リパーゼ等の酵素触媒を油脂質量の0.01〜10質量%添加し、40〜80℃でエステル交換反応を行うことによりエステル交換反応が平衡状態となって完了し、エステル交換油脂(A)を得ることができる。エステル交換反応はカラムによる連続反応、バッチ反応のいずれの方法で行うこともできる。エステル交換反応後、必要に応じて脱色、脱臭等の精製を行うことができる。
【0046】
ラウリン系油脂(A1)における全構成脂肪酸中のラウリン酸の割合、パーム系油脂(A2)における全構成脂肪酸中の炭素数16以上の脂肪酸含有量、エステル交換反応の終了は、ガスクロマトグラフ法により確認することができる。
【0047】
3.油脂(B)
本発明の層状食品用油脂組成物は、特に、以上に説明したようなエステル交換油脂(A)と、構成脂肪酸の総炭素数が46であるトリグリセリドと構成脂肪酸の総炭素数が48であるトリグリセリドとの合計割合が1〜25質量%の範囲内である油脂(B)とを含む油脂を混合して得ることができる。
【0048】
これらの特定のエステル交換油脂(A)と油脂(B)とを混合し、層状食品用油脂組成物の前述のトリグリセリドの各組成を前述の本発明の範囲内に調整することにより、ソフトな食感で、口溶けや呈味性も良好な焼成品を得ることができ、生地を作製する際の作業性も良好である。構成脂肪酸の総炭素数が46であるトリグリセリドと構成脂肪酸の総炭素数が48であるトリグリセリドとの合計割合が1〜25質量%の範囲内である油脂(B)を使用すると、エステル交換油脂(A)を用いて層状食品用油脂組成物の前述のトリグリセリドの各組成を前述の本発明の範囲内に調整することが容易であり、かつ、エステル交換油脂(A)との相溶性が良いため、前記したような作業性や食感が向上する。
【0049】
油脂(B)は、飽和脂肪酸(S)を2個、不飽和脂肪酸(U)を1個含む2飽和トリグリセリドのうち、対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)が1.3〜6.5の範囲内であることが好ましい。この範囲内であると、エステル交換油脂(A)と混合して得られる層状食品用油脂組成物における、前述の対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)を1.2超〜3.0の範囲内に調整することができる。
【0050】
油脂(B)としては、パーム系油脂、パーム軟質油のエステル交換油脂、ラード、乳脂、ヤシ油、パーム核油、これらの分別油、部分硬化油、菜種部分硬化油等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。これらの中でも、パーム系油脂、パーム軟質油のエステル交換油脂、及びラードから選ばれる少なくとも1種の油脂を用いることが好ましい。
【0051】
パーム系油脂としては、パーム油、パーム分別油、これらの硬化油等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。パーム分別油としては、硬質部(パームステアリン等)、軟質部(パームオレイン、パームダブルオレイン等)、中融点部等を用いることができる。
【0052】
パーム系油脂は、特に相溶性と口溶けの点から、ヨウ素価45〜65のパーム系油脂を使用することが好ましく、このようなパーム系油脂としては、パーム油、パーム軟質油(パームオレイン)、パーム中融点油等が挙げられる。
【0053】
その中でも、相溶性が特に良い点から、ヨウ素価45〜65のパーム系油脂と共に、パーム軟質油のエステル交換油脂を使用し、パーム軟質油のエステル交換油脂とパーム系油脂との比率を質量比で1:0.1〜5の範囲内とすること、ヨウ素価45〜65のパーム系油脂と共に、ラードを使用し、ラードとパーム系油脂との比率を質量比で1:0.05〜5の範囲内とすること、ヨウ素価45〜65のパーム系油脂と共に、パーム軟質油のエステル交換油脂及びラードを使用し、パーム軟質油のエステル交換油脂とラードとパーム系油脂との比率を質量比で1:0.1〜7:0.1〜12の範囲内とすることが好ましい。各油脂の比率をこの範囲内にすると油脂(B)自体の相溶性も良好で、層状食品用油脂組成物全体としての相溶性も特に良好である。
【0054】
本発明の層状食品用油脂組成物は、エステル交換油脂(A)の添加量が5〜65質量%の範囲内、油脂(B)の添加量が35〜95質量%の範囲内であることが好ましい。
【0055】
4.液状油(C)及び極度硬化油(D)
本発明の層状食品用油脂組成物は、エステル交換油脂(A)を必須成分として、液状油(C)を混合して得ることもできる。液状油(C)は、エステル交換油脂(A)及び油脂(B)と共に使用することで、層状食品用油脂組成物の前述のトリグリセリドの各組成を前述の本発明の範囲内に調整することができる。
【0056】
液状油(C)は、5℃で流動状を呈する油脂であり、菜種油、大豆油、コーン油、米油、綿実油、ひまわり油、ゴマ油、オリーブ油等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
【0057】
液状油(C)の添加量は、層状食品用油脂組成物全量に対して5〜40質量%の範囲内が好ましい。
【0058】
本発明の層状食品用油脂組成物は、エステル交換油脂(A)を必須成分として、植物油脂の極度硬化油(D)を混合して得ることもできる。植物油脂の極度硬化油(D)は、エステル交換油脂(A)及び油脂(B)等と共に使用することで、油脂組成物の前述のトリグリセリドの各組成を前述の本発明の範囲内に調整することができる。
【0059】
極度硬化油(D)としては、パーム極度硬化油、パーム核極度硬化油、ヤシ極度硬化油、菜種極度硬化油等が挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。
【0060】
極度硬化油(D)の添加量は、層状食品用油脂組成物全量に対して30質量%以下の範囲内が好ましく、液状油(C)と併用する場合には、層状食品用油脂組成物全量に対して液状油(C)及び極度硬化油(D)の合計で50質量%以下の範囲内が好ましい。
【0061】
5.層状食品用可塑性油脂
本発明の層状食品用油脂組成物は、油相中に本発明の層状食品用油脂組成物を含有する層状食品用可塑性油脂を調製し、これを原料として焼成品を得ることができる。
【0062】
この層状食品用可塑性油脂は、油相中に本発明の層状食品用油脂組成物を含有するものである。
【0063】
層状食品用可塑性油脂における本発明の層状食品用油脂組成物の含有量としては、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%である。
【0064】
この層状食品用可塑性油脂は、水相を実質的に含有しない形態と、水相を含有する形態をとることができる。水相を含有する形態としては油中水型、油中水中油型が挙げられ、油相の含有量は、好ましくは60〜99.4質量%、より好ましくは65〜98質量%であり、水相の含有量は、好ましくは0.6〜40質量%、より好ましくは2〜35質量%である。水相を含有する形態としては油中水型が好ましく、マーガリンが挙げられる。
【0065】
また水相を実質的に含有しない形態としてはショートニングが挙げられる。ここで「実質的に含有しない」とは水相の含有量が0.5質量%以下のことであり、日本農林規格のショートニングに該当するものである。
【0066】
この層状食品用可塑性油脂には、乳化剤、酸化防止剤、動植物蛋白、乳、乳製品、澱粉、糖類、塩類、増粘多糖類、酸味料、酵素、pH調整剤等の安定剤、香辛料、呈味素材、フレーバー等のこれらの分野で通常使用される添加剤を配合してもよい。
【0067】
この層状食品用可塑性油脂は、公知の方法により製造することができる。例えば水相を含有する形態のものは、本発明の層状食品用油脂組成物を含む油相と水相とを、適宜に加熱し混合して乳化した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター等の冷却混合機により急冷捏和し得ることができる。水相を含有しない形態のものは、本発明の層状食品用油脂組成物を含む油相を加熱した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター等の冷却混合機により急冷捏和し、必要により熟成(テンパリング)し得ることができる。
【0068】
この層状食品用可塑性油脂は、シート状、ブロック状、円柱状、直方体状、ペンシル状等の様々な形状とすることができる。その中でも、加工が容易である点等から、シート状とすることが好ましい。層状食品用可塑性油脂をシート状とした場合のサイズは、特に限定されないが、例えば、幅50〜1000mm、長さ50〜1000mm、厚さ1〜50mmとすることができる。
【0069】
6.生地及び焼成品
本発明の層状食品用油脂組成物は、層状食品用可塑性油脂としてパンや菓子等の焼成品の生地に折り込んで使用することができる。例えば、生地の間に本発明の層状食品用油脂組成物を用いたシート状の層状食品用可塑性油脂を挟み込み、その後、伸展と折り畳みを繰り返すことによって生地中に層状食品用可塑性油脂を層状に折り込んで、生地と層状食品用可塑性油脂の薄い層を何層にも作り上げる。そして、この本発明の層状食品用油脂組成物を含有する生地を焼成することによってデニッシュ、クロワッサン、パイ等の焼成品が得られる。生地への本発明の層状食品用可塑性油脂の折り込みや、焼成は、例えば公知の条件及び方法に従って行うことができる。
【0070】
生地は穀粉を主成分とし、穀粉としては、通常、焼成品の生地に配合されるものであれば、特に限定されないが、例えば、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉等)、大麦粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、そば粉、大豆粉等が挙げられる。
【0071】
生地における本発明の層状食品用油脂組成物の配合量は、焼成品の種類によっても異なり特に限定されないが、生地に配合される穀粉100質量部に対して、層状食品用可塑性油脂量として好ましくは20〜120質量部であり、より好ましくは20〜100質量部である。
【0072】
生地には、穀粉と本発明の層状食品用油脂組成物以外にも、通常、焼成品の生地に配合されるものであれば、特に制限なく配合することができる。また、これらの配合量も、通常、焼成品の生地に配合される範囲を考慮して特に制限なく配合することができる。具体的には、例えば、水、糖、糖アルコール、卵、卵加工品、澱粉、食塩、乳化剤、乳化起泡剤(乳化油脂)、チーズ、生クリーム、合成クリーム、ヨーグルト、全脂粉乳、脱脂粉乳、バターミルク、ホエー、カゼイン、牛乳、濃縮乳、合成乳、可塑性油脂、イースト、イーストフード、カカオマス、ココアパウダー、チョコレート、コーヒー、紅茶、抹茶、野菜類、果物類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、肉類、魚介類、豆類、きな粉、豆腐、豆乳、大豆蛋白、膨張剤、甘味料、調味料、香辛料、着色料、フレーバー等が挙げられる。
【0073】
焼成品としては、例えば、デニッシュ、クロワッサン、パイなどのペストリー等が挙げられる。
【実施例】
【0074】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
(1)測定方法
(油脂組成物)
2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの合計割合、3飽和トリグリセリドの含有量、2飽和トリグリセリド及び3飽和トリグリセリドの合計量と3飽和トリグリセリドとの質量比、2飽和トリグリセリドと3飽和トリグリセリドとの質量比は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−1996 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「暫7-2003 2位脂肪酸組成」)で測定し、それぞれ脂肪酸量を用いて計算にて求めた。
【0075】
対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)との質量比(SUS/SSU)は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−1996 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「暫7-2003 2位脂肪酸組成」)により求めたSUS型トリグリセリドとSSU型トリグリセリドの質量より算出した。
【0076】
構成脂肪酸の総炭素数が40〜48であるトリグリセリド含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.6.1−1996 トリアシルグリセリン組成(ガスクロマトグラフ法)」)により測定した。
【0077】
表4及び表5に示す1,3−ジパルミトイル−2−オレオイルグリセリン(POP)と1,2−ジパルミトイル−3−オレオイルグリセリン(PPO)との質量比(POP/PPO)は、上記と同様の方法で測定した。
【0078】
トランス酸量はガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−1996 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」)で測定した。
【0079】
(エステル交換油脂1〜4)
ヨウ素価は基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.3.4.1−1996 ヨウ素価(ウィイス−シクロヘキサン法)」で測定した。
【0080】
全構成脂肪酸中の炭素数14〜16の飽和脂肪酸の割合、炭素数16〜18の飽和脂肪酸の割合、炭素数18の不飽和脂肪酸の割合、全構成脂肪酸中のラウリン酸のステアリン酸に対する比率(ラウリン酸量/ステアリン酸量)は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−1996 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)で測定した。
【0081】
構成脂肪酸の総炭素数が40〜46であるトリグリセリド含有量は、前記の油脂組成物における構成脂肪酸の総炭素数が40〜48であるトリグリセリド含有量と同様の方法で測定した。
【0082】
(油脂(B))
ヨウ素価は前記のエステル交換油脂における測定方法と同様の方法で測定した。
【0083】
構成脂肪酸の総炭素数が46であるトリグリセリドと構成脂肪酸の総炭素数が48であるトリグリセリドとの合計割合は、前記の油脂組成物における構成脂肪酸の総炭素数が40〜48であるトリグリセリド含有量と同様の方法で測定した。
【0084】
(2)油脂組成物の調製
(エステル交換油脂1〜4)
エステル交換油脂1〜3は次の方法で調製した。表1に示す割合でラウリン系油脂(A1)とパーム系油脂(A2)とを混合して110℃に加熱し、十分に脱水させた後、化学触媒としてナトリウムメチラートを油脂量の0.08質量%添加し、減圧下、100℃で0.5時間攪拌しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗して触媒を除去し、活性白土を用いて脱色し、更に脱臭を行ってエステル交換油脂を得た。
【0085】
エステル交換油脂4は、エステル交換油脂1〜3の製法に準じて調製した。
【0086】
エステル交換に用いたラウリン系油脂(A1)、パーム系油脂(A2)を以下に示す。
ラウリン系油脂(A1)
パーム核極度硬化油:ラウリン酸含有量45.7質量%(ヨウ素価2)
パーム系油脂(A2)
パーム油:C16以上の脂肪酸含有量97.9質量%(ヨウ素価53)
パーム極度硬化油:C16以上の脂肪酸含有量97.9質量%(ヨウ素価2)
【0087】
得られたエステル交換油脂1〜4の分析結果を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
(油脂組成物)
表2及び表3に示す配合比にてエステル交換油脂を含む各油脂を混合し、実施例及び比較例の油脂組成物を得た。
【0090】
(3)評価
実施例及び比較例の各試料について次の評価を行った。
【0091】
(マーガリンの製造)
表2及び表3に示す、実施例1〜13及び比較例1〜8の油脂組成物82質量部に乳化剤を0.5質量部添加し、70℃に調温して油相とした。一方、水14.9質量部に脱脂粉乳1.5質量部及び食塩1.0質量部を添加し、85℃で加熱殺菌して水相を得た。
【0092】
次に、該油相に該水相を添加し、プロペラ撹拌機で撹拌して、油中水型に乳化した後にバターフレーバーを0.1質量部添加し、コンビネーターによって急冷捏和し、25cm×21cm×1cmのシート状に成型した下記の配合割合の層状食品用マーガリンを得た。
〈層状食品用マーガリンの配合〉
油脂組成物 82質量部
乳化剤 0.5質量部
水 14.9質量部
脱脂粉乳 1.5質量部
食塩 1.0質量部
バターフレーバー 0.1質量部
【0093】
上記層状食品用マーガリンを10℃で5日保存した後、下記の評価を行った。
【0094】
(デニッシュの製造)
下記の配合および製造条件でデニッシュを製造した。具体的には、パン練り込み用マーガリンおよび層状食品用マーガリン以外の材料をミキサーに投入し、低速3分、中低速5分ミキシングを行った後、パン練り込み用マーガリンを入れ低速2分、中低速4分ミキシングを行い、生地を得た。この生地を、フロアタイムをとった後、0℃で一晩リタードさせた。この生地に層状食品用マーガリンを折り込み、3折り2回を加え−10℃にて20分リタードし、3折り1回を加え−10℃にて60分リタードさせた。その後ゲージ厚3mmとした後、10cm角(10cm×10cm)にカットし、ホイロ後、焼成してデニッシュを得た。
〈デニッシュの配合〉
強力粉 100質量部
上白糖 10質量部
食塩 1.6質量部
脱脂粉乳 4質量部
パン練り込み用マーガリン
(アドフリー440ミヨシ油脂製乳化剤無添加マーガリン) 10質量部
イースト 4質量部
水 63質量部
層状食品用マーガリン 生地100質量部に対して20質量部
【0095】
〈デニッシュ生地の製造条件〉
ミキシング: 低速3分、中低速5分、(練り込み用マーガリン投入)、低速2分、
中低速4分
捏上温度: 25℃
フロアタイム:27℃ 75% 30分
リタード: 0℃ 一晩
ロールイン: 3折×2回 −10℃にてリタード20分
3折×1回 −10℃にてリタード60分
成型: シーターゲージ厚3mm
ホイロ: 35℃ 75% 60分
【0096】
[ゴリツキ]
層状食品用マーガリンを4cm×4cmにカットし、手で揉んだ際の感触で、ゴリツキを以下の基準で評価した。なお、ゴリツキが少ない層状食品用マーガリンは生地との伸展性が良好である。
評価基準
◎:均一な抵抗感で、とてもスムーズで繋がりがある。
○:均一な抵抗感で、繋がりがある。
△:若干不均一な抵抗感で、やや繋がりに欠ける。
×:不均一な抵抗感で、繋がりに欠ける。
【0097】
[ベタツキ]
層状食品用マーガリンを折り込む際の生地のベタツキを以下の基準で評価した。
評価基準
◎:全くベタツキがない。
○:若干ベタツキがある。
△:ベタツキがあり扱いにくい。
×:非常にベタツキがあり扱いにくい。
【0098】
[焼成品の口溶け]
デニッシュの口溶けについて、パネル10名により以下の基準で評価した。
評価基準
◎:10名中8名以上が良好であると評価した。
○:10名中7〜5名が良好であると評価した。
△:10名中4〜3名が良好であると評価した。
×:10名中2名以下が良好であると評価した。
【0099】
[焼成品のソフトさ]
デニッシュのソフトさについて、パネル10名により以下の基準で評価した。
評価基準
◎:10名中8名以上が良好であると評価した。
○:10名中7〜5名が良好であると評価した。
△:10名中4〜3名が良好であると評価した。
×:10名中2名以下が良好であると評価した。
【0100】
[焼成品の呈味性(バターフレーバーリリース)]
パネル10名によりデニッシュの呈味性を以下の基準で評価し、その平均点により評価した。
評価基準
点数
4点:フレーバーリリースが非常に速く、風味を強く感じる
3点:フレーバーリリースが速く、風味を強く感じる。
2点:フレーバーリリースがやや遅く、風味が若干薄れる。
1点:フレーバーリリースが遅く、風味が弱い。
平均点
◎:平均点が3.5以上4以下
〇:平均点が3以上3.5未満
△:平均点が2以上3未満
×:平均点が2未満
【0101】
[トランス酸量]
油脂組成物のトランス酸含有量を前記の方法で測定し、以下の基準で評価した。
評価基準
○:トランス酸量が0.1〜5質量%
×:トランス酸量が5質量%超
【0102】
上記の評価結果を表4及び表5に示す。
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
【表5】