【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らはエチルエステル化されたω3系脂肪酸を含む油脂中のEPAやDHAなどの高度不飽和脂肪酸を高純度に精製する場合(例えば、尿素付加法、硝酸銀錯体法、真空精密蒸留法、クロマト法などの1種類以上の組み合わせ法により高純度に精製する場合)、予め脂質分解酵素によって油脂を処理し、グリセリド画分(グリセリン脂肪酸エステルを多く含む画分)と遊離脂肪酸画分(遊離脂肪酸画分は、エチルエステル化した画分であっても、エチルエステル化していない画分であってもよい)に分け、必要に応じてそれぞれの画分をエチルエステル化し、さらに精製して目的物質(目的とする脂肪酸エチルエステルまたはグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸部分がエチルエステル化した物質)に対するその他の脂肪酸エステルまたはグリセリン脂肪酸エステルの割合が小さい画分を調製することにより、従来法よりも高い回収率で目的物質を得ることが可能であることを見出し、本発明に至ったものである。例えば、本発明では、脂質分解酵素によって油脂を処理し、必要に応じてエチルエステル化を行い、エチルエステル化グリセリド画分(主にグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸部分がエチルエステル化されている)とエチルエステル化遊離脂肪酸画分に分け、エチルエステル化したグリセリド画分を(1)DHAをEPAよりも多く含む画分と(2)EPAをDHAよりも多く含む画分に分け、エチルエステル化した遊離脂肪酸画分を(3)DHAをEPAよりも多く含む画分と(4)EPAをDHAよりも多く含む画分に分け、(1)と(3)を合わせた混合物、(2)と(4)を合わせた混合物をそれぞれ調製し、これら混合物をさらに精製することによって、高純度のEPA精製物、および、高純度のDHA精製物を得ることができる。例えば、本発明では、脂肪酸をエチルエステル化する条件下(主に遊離脂肪酸がエチルエステル化される条件下)で脂質分解酵素によって予め油脂を処理し、グリセリド画分とエチルエステル化遊離脂肪酸画分に分け、グリセリド画分をエチルエステル化し、エチルエステル化したグリセリド画分(主にグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸部分がエチルエステル化されている)を(1)DHAをEPAよりも多く含む画分と(2)EPAをDHAよりも多く含む画分に分け、エチルエステル化した遊離脂肪酸画分を(3)DHAをEPAよりも多く含む画分と(4)EPAをDHAよりも多く含む画分に分け、(1)と(3)を合わせた混合物、(2)と(4)を合わせた混合物をそれぞれ調製し、これら混合物をさらに精製することによって、高純度のEPA精製物、および、高純度のDHA精製物を得ることができる。例えば、本発明では、予め脂質分解酵素によって油脂を処理し、グリセリド画分と遊離脂肪酸画分に分け、それぞれの画分をエチルエステル化し、エチルエステル化したグリセリド画分(主にグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸部分がエチルエステル化されている)を(1)DHAをEPAよりも多く含む画分と(2)EPAをDHAよりも多く含む画分に分け、エチルエステル化した遊離脂肪酸画分を(3)DHAをEPAよりも多く含む画分と(4)EPAをDHAよりも多く含む画分に分け、(1)と(3)を合わせた混合物、(2)と(4)を合わせた混合物をそれぞれ調製し、これら混合物をさらに精製することによって、高純度のEPA精製物、および、高純度のDHA精製物を得ることができる。
【0016】
例えば、本発明において、尿素付加法、硝酸銀錯体法、真空精密蒸留法、クロマト法などの1種類以上の組み合わせ法により更に高純度に精製するより前の工程において、酵素処理によりEPA純度又はDHA純度を高め、SDAを含むその他の脂肪酸の割合を少なくした水産油脂由来グリセリド画分または遊離脂肪酸画分を出発原料とすることによって、製品回収率を高めることができる。例えば、本発明において、高純度EPA取得のために、EPAに対するDHAやSDAの割合を小さくし、また、高純度DHA精製のためにはDHAに対するEPAやSDAの割合を小さくすることにより目的成分の回収率を高めることが本発明の特徴の一つである。
【0017】
本発明は例えば以下を提供する。
(項目1)
エイコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸を含む原料油脂からエイコサペンタエン酸エチルエステルおよびドコサヘキサエン酸エチルエステルを調製する方法であって、以下の工程:
(a)原料油脂を、脂質分解酵素によって処理する工程;
(b)工程(a)の処理物を分画する工程;
(c)必要に応じて(例えば、工程(b)で得られた画分がエチルエステル化されていない画分の場合)工程(b)で得られた画分を、エチルエステル化する工程;
(d)エチルエステル化したグリセリド画分を精製して、
(1)ドコサヘキサエン酸エチルエステルを精製前のエチルエステル化したグリセリド画分より多く含み、かつ、エイコサペンタエン酸エチルエステルを精製前のエチルエステル化したグリセリド画分より少なく含む画分と、
(2)エイコサペンタエン酸エチルエステルを精製前のエチルエステル化したグリセリド画分より多く含み、かつ、ドコサヘキサエン酸エチルエステルを精製前のエチルエステル化したグリセリド画分より少なく含む画分に分画する工程;
(e)エチルエステル化した遊離脂肪酸画分を精製して、
(3)ドコサヘキサエン酸エチルエステルを精製前のエチルエステル化した遊離脂肪酸画分より多く含み、かつ、エイコサペンタエン酸エチルエステルを精製前のエチルエステル化した遊離脂肪酸画分より少なく含む画分と、
(4)エイコサペンタエン酸エチルエステルを精製前のエチルエステル化した遊離脂肪酸画分より多く含み、かつ、ドコサヘキサエン酸エチルエステルを精製前のエチルエステル化した遊離脂肪酸画分より少なく含む画分に分画する工程;
(f)工程(d)の(1)の画分と工程(e)の(3)の画分を混合する工程;
(g)工程(d)の(2)の画分と工程(e)の(4)の画分を混合する工程;
(h)工程(f)の混合物をさらに精製して、ドコサヘキサエン酸エチルエステルを含む精製物を得る工程;
(i)工程(g)の混合物をさらに精製して、エイコサペンタエン酸エチルエステルを含む精製物を得る工程;
を包含する方法。
(項目2)
エイコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸を含む原料油脂からエイコサペンタエン酸エチルエステルおよびドコサヘキサエン酸エチルエステルを調製する方法であって、以下の工程:
(a)原料油脂を、脂肪酸をエチルエステル化する条件下で脂質分解酵素によって処理する工程;
(b)工程(a)の処理物を、グリセリド画分とエチルエステル化した遊離脂肪酸画分に分画する工程;
(c)工程(b)で得られたグリセリド画分を、エチルエステル化する工程;
(d)工程(c)で得られたエチルエステル化したグリセリド画分を精製して、
(1)ドコサヘキサエン酸エチルエステルを工程(c)のグリセリド画分のエチルエステル化物より多く含み、かつ、エイコサペンタエン酸エチルエステルを工程(c)のグリセリド画分のエチルエステル化物より少なく含む画分と、
(2)エイコサペンタエン酸エチルエステルを工程(c)のグリセリド画分のエチルエステル化物より多く含み、かつ、ドコサヘキサエン酸エチルエステルを工程(c)のグリセリド画分のエチルエステル化物より少なく含む画分に分画する工程;
(e)工程(b)で得られたエチルエステル化した遊離脂肪酸画分を精製して、
(3)ドコサヘキサエン酸エチルエステルを工程(b)のエチルエステル化した遊離脂肪酸画分より多く含み、かつ、エイコサペンタエン酸エチルエステルを工程(b)のエチルエステル化した遊離脂肪酸画分より少なく含む画分と、
(4)エイコサペンタエン酸エチルエステルを工程(b)のエチルエステル化した遊離脂肪酸画分より多く含み、かつ、ドコサヘキサエン酸エチルエステルを工程(b)のエチルエステル化した遊離脂肪酸画分より少なく含む画分に分画する工程;
(f)工程(d)の(1)の画分と工程(e)の(3)の画分を混合する工程;
(g)工程(d)の(2)の画分と工程(e)の(4)の画分を混合する工程;
(h)工程(f)の混合物をさらに精製して、ドコサヘキサエン酸エチルエステルを含む精製物を得る工程;
(i)工程(g)の混合物をさらに精製して、エイコサペンタエン酸エチルエステルを含む精製物を得る工程;
を包含する方法。
(項目3)
エイコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸を含む原料油脂からエイコサペンタエン酸エチルエステルおよびドコサヘキサエン酸エチルエステルを調製する方法であって、以下の工程:
(a)原料油脂を、脂質分解酵素によって処理する工程;
(b)工程(a)の処理物を、グリセリド画分と遊離脂肪酸画分に分画する工程;
(c)工程(b)で得られたグリセリド画分および遊離脂肪酸画分のそれぞれを、エチルエステル化する工程;
(d)工程(c)で得られたエチルエステル化したグリセリド画分を精製して、
(1)ドコサヘキサエン酸エチルエステルを工程(c)のグリセリド画分のエチルエステル化物より多く含み、かつ、エイコサペンタエン酸エチルエステルを工程(c)のグリセリド画分のエチルエステル化物より少なく含む画分と、
(2)エイコサペンタエン酸エチルエステルを工程(c)のグリセリド画分のエチルエステル化物より多く含み、かつ、ドコサヘキサエン酸エチルエステルを工程(c)のグリセリド画分のエチルエステル化物より少なく含む画分に分画する工程;
(e)工程(c)で得られたエチルエステル化した遊離脂肪酸画分を精製して、
(3)ドコサヘキサエン酸エチルエステルを工程(c)の遊離脂肪酸画分のエチルエステル化物より多く含み、かつ、エイコサペンタエン酸エチルエステルを工程(c)の遊離脂肪酸画分のエチルエステル化物より少なく含む画分と、
(4)エイコサペンタエン酸エチルエステルを工程(c)の遊離脂肪酸画分のエチルエステル化物より多く含み、かつ、ドコサヘキサエン酸エチルエステルを工程(c)の遊離脂肪酸画分のエチルエステル化物より少なく含む画分に分画する工程;
(f)工程(d)の(1)の画分と工程(e)の(3)の画分を混合する工程;
(g)工程(d)の(2)の画分と工程(e)の(4)の画分を混合する工程;
(h)工程(f)の混合物をさらに精製して、ドコサヘキサエン酸エチルエステルを含む精製物を得る工程;
(i)工程(g)の混合物をさらに精製して、エイコサペンタエン酸エチルエステルを含む精製物を得る工程;
を包含する方法。
(項目4)
項目1〜3のいずれか一項に記載の方法であって、ここで、前記原料油脂が脱酸処理された原料油脂である、方法。
(項目5)
項目4に記載の方法であって、ここで、前記脱酸処理された原料油脂の酸価が3以下である、方法。
(項目6)
項目1〜3のいずれか一項に記載の方法であって、ここで、前記原料油脂が4wt%以上のエイコサペンタエン酸および4wt%以上のドコサヘキサエン酸を含む、方法。
(項目7)
項目1〜3のいずれか一項に記載の方法であって、ここで、前記脂質分解酵素がトリグリセリドの1位及び3位を選択的に加水分解する微生物由来リパーゼである、方法。
(項目8)
項目1〜3のいずれか一項に記載の方法であって、ここで、工程(b)の分画が、流下薄膜式分子蒸留法、遠心式分子蒸留法、および、溶出法からなる群から選択される方法によって行われる、方法。
(項目9)
項目8に記載の方法であって、ここで、工程(b)の分画が溶出法によって行われ、ここで、ヘキサンによる溶出液がエチルエステル化遊離脂肪酸画分として回収され、そして、ジエチルエーテルによる溶出液がグリセリド画分として回収される、方法。
(項目10)
項目1〜3のいずれか一項に記載の方法であって、ここで、工程(c)のグリセリド画分のエチルエステル化が、アルカリ触媒法又は酵素法によって行われる、方法。
(項目11)
項目1または3に記載の方法であって、ここで、工程(c)の遊離脂肪酸画分のエチルエステル化が、酸触媒法又は酵素法によって行われる、方法。
(項目12)
項目1〜3のいずれか一項に記載の方法であって、ここで、工程(d)の精製が、真空精密蒸留法、尿素附加法、硝酸銀錯体法、固定層クロマトグラフィー法、および、SMBクロマトグラフィー法からなる群から選択される方法によって行われる、方法。
(項目13)
項目1〜3のいずれか一項に記載の方法であって、ここで、工程(e)の精製が、真空精密蒸留法、尿素附加法、硝酸銀錯体法、固定層クロマトグラフィー法、および、SMBクロマトグラフィー法からなる群から選択される方法によって行われる、方法。
(項目14)
項目1〜3のいずれか一項に記載の方法であって、ここで、工程(h)の精製が、真空精密蒸留法、尿素附加法、硝酸銀錯体法、固定層クロマトグラフィー法、および、SMBクロマトグラフィー法からなる群から選択される方法によって行われる、方法。
(項目15)
項目1〜3のいずれか一項に記載の方法であって、ここで、工程(i)の精製が、真空精密蒸留法、尿素附加法、硝酸銀錯体法、固定層クロマトグラフィー法、および、SMBクロマトグラフィー法からなる群から選択される方法によって行われる、方法。
(項目16)
項目1〜3のいずれか一項に記載の方法であって、ここで、
工程(d)の画分(1)のドコサヘキサエン酸エチルエステル濃度が15w%以上であり、
工程(d)の画分(2)のエイコサペンタエン酸エチルエステル濃度が15w%以上であり、
工程(e)の画分(3)のドコサヘキサエン酸エチルエステル濃度が15w%以上であり、
工程(e)の画分(4)のエイコサペンタエン酸エチルエステル濃度が15w%以上である、
方法。
(項目17)
項目1〜3のいずれか一項に記載の方法であって、ここで、
工程(f)の混合物のドコサヘキサエン酸エチルエステル濃度が15w%以上であり、かつ、エイコサペンタエン酸エチルエステル濃度が15w%以下であり、
工程(g)の混合物のエイコサペンタエン酸エチルエステル濃度が15w%以上であり、ドコサヘキサエン酸エチルエステル濃度が15w%以下である、
方法。
(項目18)
項目1〜3のいずれか一項に記載の方法であって、ここで、
工程(h)の精製物におけるドコサヘキサエン酸エチルエステル濃度が70w%以上であり、
工程(i)の精製物におけるエイコサペンタエン酸エチルエステル濃度が70w%以上である、
方法。
(項目19)
項目1〜3のいずれか一項に記載の方法であって、さらに、以下の工程:
(j)工程(h)で得られた精製物を吸着剤処理して、不純物を除去する工程;および、(k)工程(i)で得られた精製物を吸着剤処理して、不純物を除去する工程、
を包含する方法。
(項目20)
項目19に記載の方法であって、前記吸着剤が、酸性白土、活性白土、活性炭、ケイ酸、および、アルミナからなる群から選択され、そして、吸着剤処理後の過酸化物価が3以下である、方法。
(項目21)
項目19に記載の方法であって、さらに、以下の工程:
(l)工程(j)で得られた物質に抗酸化剤を添加する工程;および、
(m)工程(k)で得られた物質に抗酸化剤を添加する工程、
を包含する方法。
(項目22)
項目21に記載の方法であって、ここで、前記抗酸化剤がトコフェロール、アスコルビン酸パルミテート、カテキン、および、ローズマリー抽出物からなる群から選択される、方法。