(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6302311
(24)【登録日】2018年3月9日
(45)【発行日】2018年3月28日
(54)【発明の名称】球状ハイドロタルサイトとその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 7/00 20060101AFI20180319BHJP
【FI】
C01F7/00 C
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-59179(P2014-59179)
(22)【出願日】2014年3月20日
(65)【公開番号】特開2015-182908(P2015-182908A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2017年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【弁理士】
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】横川 善之
【審査官】
森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−228987(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/099378(WO,A1)
【文献】
特開2005−288259(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/084958(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 7/00 − 7/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キレート剤に、金属塩水溶液を加え第1水溶液を得る工程と、
前記第1水溶液に炭酸塩水溶液を加え第2水溶液を得る工程と、
前記第2水溶液を反応させ反応物を得る工程と、
前記反応物を乾燥処理し生成物を得る工程を有することを特徴とする球状ハイドロタルサイトの製造方法。
【請求項2】
前記キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸であることを特徴とする請求項1に記載された球状ハイドロタルサイトの製造方法。
【請求項3】
前記第1水溶液を得る工程では前記エチレンジアミン四酢酸水溶液のpHを7.5〜8.5に調整する工程を含むことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の球状ハイドロタルサイトの製造方法。
【請求項4】
前記第2水溶液を得る工程では、前記第1水溶液のpHを10〜11に調整する工程を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかの請求項に記載された球状ハイドロタルサイトの製造方法。
【請求項5】
前記反応物を得る工程は、前記第2水溶液に過酸化水素水を加え、加熱する工程であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかの請求項に記載された球状ハイドロタルサイトの製造方法。
【請求項6】
前記金属塩水溶液は、硝酸マグネシウムと硝酸アルミニウムの混合水溶液であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかの請求項に記載された球状ハイドロタルサイトの製造方法。
【請求項7】
前記炭酸塩水溶液は、炭酸ナトリウム水溶液であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかの請求項に記載された球状ハイドロタルサイトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は球状のハイドロタルサイトおよびその製造方法に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
ハイドロタルサイトは、アニオン交換機能を有する層状複水酸化物で一般式は、(1)式のように表される。
[M
m2+M
n3+(OH)
2m+2n]X
n/zZ− bH
2O (1)
【0003】
ここで、M
mは、Mg、Ca、Sr、Cu、Ba、Zn、Cd、Pb、NiおよびSnから選択される少なくとも1つの2価の金属であり、M
nはAl、Fe、Cr、Ga、Ni、Co、Mn、V、Ti、Inから選択される少なくとも1つの3価の金属であり、m、nは実数であり、X
Z−はZ価アニオンであり、bは実数である。
【0004】
ハイドロタルサイトは、天然にも産出されるが、合成によっても得ることができる。合成で作製される場合は、M
mをMg(マグネシウム)、MnをAl(アルミニウム)、X
Z−をCO
32−(炭酸イオン)が用いられる場合が多い。ハイドロタルサイトは、層状構造を有し、その層間にアニオンイオンを出し入れする(インターカーレーション)ことができる。そこで、制酸剤、吸着剤、ポリオレフィン系樹脂の触媒残分の中和剤や塩化ビニル樹脂の熱安定剤として利用されている。
【0005】
このハイドロタルサイトをより効率よく利用するために、ハイドロタルサイトの形状を球状にして作製することが提案されている。球状にすることで、粒度分布を急峻に制御することが可能になる。粒度分布のそろったハイドロタルサイトを用いた場合、局所的な反応(インターカーレーションを含む)を均一にすることができるという効果が期待できる。
【0006】
特許文献1では、ハイドロタルサイトを球状にすることで嵩を低くすることができるとされている。ここでは、塩基性炭酸マグネシウムと水酸化アルミニウムの混合液に苛性アルカリを加えて共沈させ、それを加熱することで球状ハイドロタルサイトを得る方法が開示されている。
【0007】
より具体的には、6L容ステンレス製反応容器に水道水3.8Lを投入し、攪拌下に、特開昭60−54915号公報により得た、粒径27μm、球形度0.9の塩基性炭酸マグネシウムを424g(MgOとして4.5モル)投入し、炭酸マグネシウム懸濁液を作成する。続いて攪拌下に、乾燥水酸化アルミニウムゲル140g(Al
2O
3として0.74モル)および3.35mol/L水酸化ナトリウム水溶液1.79Lを投入した。得られた混合液の液温は25℃、液pHは11.65であった。続いて、液温を50℃に昇温し、50℃で24時間熟成した。冷後、固液分離、洗浄、脱水、乾燥、粉砕することにより、ハイドロタルサイト粒子を得ている。
【0008】
また、特許文献2には、封止剤中の不純物イオンを除去し、かつ流動性を維持できる樹脂材として球状ハイドロタルサイトが紹介されている。
【0009】
ここでは、塩化マグネシウムと硫酸アルミニウムの水溶液に炭酸イオン含有の水酸化アルカリ金属を加えて沈殿物を得て、この沈殿物を加熱熟成させスラリーとし、このスラリーを高温化で噴霧することで球状ハイドロタルサイトを得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−228987号公報
【特許文献2】国際公開第2011/099378号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
球状形状をしたハイドロタルサイト自体は、上記のようにすでに提案されている。しかし、これらの球状ハイドロタルサイトは、2価金属塩および3価金属塩をアルカリ中で沈殿させる所謂共沈法を利用している。この方法では、反応を溶液全体で均一に行わせることが容易でないため、どうしても粒子分布はブロードになってしまうという課題が生じる。また、粒度分布を急峻にするために、溶液同士の混合方法や反応方法に特別な手法若しくは装置などが必要になるという課題も生じる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記の課題に鑑みて想到されたものであり、容易な手順によって、微小粒径であって粒度分布の急峻な球状ハイドロタルサイトを得る製造方法を提供する。本発明に係る球状ハイドロタルサイトの製造方法は、金属塩水溶液をアルカリ中で共沈させるに先立って、金属イオンをキレート化しておき、共沈の際の核晶形成に大きな差が生じないようにする。
【0013】
より具体的に本発明に係る球状ハイドロタルサイトの製造方法は、
キレート剤(エチレンジアミン四酢酸溶液)に、金属塩水溶液を加え第1水溶液を得る工程と、
前記第1水溶液に炭酸塩水溶液を加え第2水溶液を得る工程と、
前記第2水溶液を反応させ反応物を得る工程と、
前記反応物を乾燥処理し生成物を得る工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る球状ハイドロタルサイトの製造方法は、金属塩水溶液を共沈させる際に予め金属イオンをキレート化しておくので、特別な操作を行う必要なく、容易に微小で粒度分布の急峻な球状ハイドロタルサイトを得ることができる。
【0016】
また、本発明に係る球状ハイドロタルサイトは、アニオンの吸着能力が非常に高い特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】吸着性を測定する検査装置の構成を示す図である。
【
図2】本発明に係る球状ハイドロタルサイトのSEM写真である。
【
図3】本発明に係る球状ハイドロタルサイトの粒度分布を示す図である。
【
図4】本発明に係る球状ハイドロタルサイトのEDS測定の結果を示す図である。
【
図5】本発明に係る球状ハイドロタルサイトの吸着特性の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明に係る球状ハイドロタルサイトの製造方法について、図面を参照しながら説明を行う。なお、以下の説明は本発明の一実施形態を示すものであり、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、以下の説明は改変することができる。
【0019】
本発明に係る球状ハイドロタルサイトの製造方法は、
キレート剤(エチレンジアミン四酢酸溶液)に、金属塩水溶液を加え第1水溶液を得る工程と、
前記第1水溶液に炭酸塩水溶液を加え第2水溶液を得る工程と、
前記第2水溶液を反応させ反応物を得る工程と、
前記反応物を乾燥処理し生成物を得る工程を有することを特徴とする。
【0020】
キレート剤は、一般的な有機系のアミノカルボン酸塩若しくはホスホン酸系キレート剤を利用することができる。具体的には、アミノカルボン酸塩系キレート剤として、エチレンジアミン四酢酸(EDTA:Ethylene Diamine Tetraacetic Acid)、ニトリロ三酢酸(NTA:Nitrilo Triacetic Acid)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA:Diethylene Triamine Pentaacetic Acid)、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン−N,N’,N’−三酢酸(HEDTA:Hydroxyethyl Ethylene Diamine Triacetic Acid)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA:Glycol Ether Diamine Tetraacetic Acid)、トリエチレンテトラミン−N,N,N’,N’’,N’’’,N’’’−六酢酸(TTHA:Triethylene Tetramine Hexaacetic Acid)、ヒドロキシエチルイミノニ酢酸(HIDA:Hydroxyethyl Imino Diacetic Acid)、N−(1,2−ジヒドロキシエチル)グリシン(DHEG:Dihydroxyethyl Glycine)、トリメチレンジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸(PDTA:1,3−Propanediamine Tetraacetic Acid)等が利用できる。
【0021】
また、ホスホン酸系キレート剤として、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP:Hydroxyethylidene Diphosphonic Acid)、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)(NTMP:Nitrilotris (Methylene Phosphonic Acid))、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(PBTC:Phosphonobutane Tricarboxylic Acid)、N,N,N’,N’−エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)(EDTMP:Ethylene Diamine Tetra(Methylene Phosphonic Acid))等が利用できる。特にエチレンジアミン四酢酸は好適に利用することができる。
【0022】
金属塩水溶液としては、2価の金属塩と、3価の金属塩の水溶液を用いる。利用できる金属元素としては、上述したハイドロタルサイトを構成する元素である。具体的には、2価の金属元素としては、Mg、Ca、Sr、Cu、Ba、Zn、Cd、Pb、NiおよびSnから選択される少なくとも1つの金属元素である。また3価の金属元素としては、Al、Fe、Cr、Ga、Ni、Co、Mn、V、Ti、Inから選択される少なくとも1つの金属元素である。特に、2価の金属元素としてMg、3価の金属元素としてAlが好適に利用することができる。
【0023】
炭酸塩水溶液としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸アンモニウム等が利用できる。特に炭酸ナトリウムは好適に利用することができる。
【0024】
次に本発明に係る製造方法について説明する。本発明に係る球状ハイドロタルサイトの製造方法では、まずキレート剤溶液に金属塩水溶液を加え第1水溶液を調製する。キレート剤溶液は、0.01mol/200mL〜0.1mol/200mL、より好ましくは0.01mol/200mL〜0.05mol/200mLの濃度のものを用意する。溶媒は純水若しくは超純水が望ましい。不純物(特に金属元素)が含まれると、その元素を核とする粒子ができる可能性があるからである。なお、上記の表示中の分母は仕込み時の全体量である。
【0025】
またキレート剤は、一部が1価金属塩の形態であってもよい。金属塩の形態であれば、水溶性が高くなるからである。例えば、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウムや、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムは好適に利用することができる。
【0026】
キレート剤溶液は、NaOH等の強アルカリによって、pHを7.0〜9.0、より好ましくは、pH7.5から8.5に調整するのが望ましい。
【0027】
金属塩水溶液は、2価の金属塩と3価の金属塩の溶液の混合液を調製する。2価および3価の金属塩水溶液は、それぞれ0.01mol/200mL〜0.03mol/200mL程度の濃度のものを用意する。これらは混合され金属塩水溶液となる。
【0028】
金属塩水溶液は、pHが調節されたキレート剤溶液に添加される。この際、NaOH等の強アルカリで、キレート剤溶液のpHが常に7.5〜8.5、好ましくは7.8〜8.3の間の所定値に維持されるようにする。pHがずれるとキレート剤による錯イオンの生成が均一でなくなるからである。キレート剤溶液に金属塩水溶液を滴下し終わった溶液を第1水溶液と呼ぶ。
【0029】
次に別の容器に炭酸塩水溶液を調製する。炭酸塩水溶液は0.03〜0.07mol/100mLの濃度の物を用いる。溶媒は、純水若しくは超純水が望ましい。この炭酸塩水溶液を第1水溶液に添加する。pHは9.5〜11.5、より好ましくは、pH10〜11に調整することが望ましい。第1水溶液に炭酸塩水溶液を添加した溶液を第2水溶液と呼ぶ。
【0030】
次に第2水溶液を反応させる。反応は急速に行わせることが望ましい。ここで反応とは酸化反応である。また、反応を急速に行わせるには、過酸化水素水を加え、スタラーで攪拌しながら煮沸させるのが望ましい。反応操作の終了は、溶液が淡黄色に変化することで判定してよい。
【0031】
反応操作を終了したら反応物を回収する。回収は吸引ろ過で好適に行うことができる。フィルタープレスといった方法を用いてもよい。また、反応物は洗浄を行っておくことが望ましい。
【0032】
得られた反応物は、加温下で十分に乾燥させる。加温条件としては、空気中60〜100℃で半日から1日程度、望ましくは、80℃で12時間程度乾燥処理を行う。乾燥処理が終了したら、最終の生成物(球状ハイドロタルサイト)とする。
【0033】
次に生成物の特性の測定方法を説明する。生成物の粒径は、SEM(Scanning Electron Microscopy)によって観察した。また、結晶性については、X線回折装置によって調べた。粒度分布については、レーザー回折式粒子径分布測定装置を用いて調べた。
【0034】
吸着性については、液中の硫化水素の吸着性について測定を行った。
図1には、吸着性を測定する検査装置1を示す。検査装置1は、ねじ口6付きガラスフラスコ2に、コック4付き漏斗3を密着させたものである。ねじ口6からは、シリンジ5の針をガラスフラスコ2内に浸入させ、内部の気体もしくは液体を抽出することができる。この検査装置1は以下のようにして用いた。
【0035】
まず、200mLねじ口6付きガラスフラスコ2には、硫化水素水溶液150mLを満たした(符号10)。硫化水素水溶液は、硫化水素ガスをバブリングし、初期濃度を30ppmに調整した。後述する実施例および比較例の試料毎に検査装置1を準備した。試料各々0.2gを硫化水素水溶液に導入し、1時間、2時間、3時間、4時間、6時間、18時間後の液相の濃度を調べた。
【0036】
濃度は、ガラスフラスコ2内の液相(水溶液)から、液体2μlをシリンジ5で採取してFPD/GCにより硫化水素(H
2S)を定量した。
【実施例】
【0037】
<実施例1>
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA・2Na)0.03molを超純水200mLに溶解しキレート溶液とした。このキレート剤溶液は、pHが8.00になるまで、0.5MのNaOHを添加した。
【0038】
硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO
3)
2・6H
2O)の0.02molと、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO
3)
3・9H
2O)の0.01molを超純水100mLに溶解し、金属塩水溶液とした。
【0039】
金属塩水溶液をキレート剤溶液に滴下した。この際、0.5MのNaOHを用いてpHが8.00に維持するようにした。金属塩水溶液を滴下し終わった溶液を第1水溶液とした。
【0040】
炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)の0.047molを超純水100mLに溶解し炭酸塩水溶液とした。この炭酸塩水溶液を第1水溶液に加え第2水溶液とした。第2水溶液はpHが10.5程度に変化した。
【0041】
第2水溶液に35%過酸化水素水(H
2O
2)の100mLを加え、ホットスタラーで攪拌しながら煮沸させた。第2水溶液は淡黄色に変化したら、第2水溶液中の反応物を吸引ろ過した。この反応物を洗浄液のpHが7.5程度になるまで洗浄した。
【0042】
洗浄された反応物は、空気中80℃の環境で12時間乾燥させ、解砕した。これを実施例1の試料(サンプル)とした。
【0043】
<比較例1>
硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO
3)
2・6H
2O)の0.02molと、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO
3)
3・9H
2O)の0.01molを超純水100mLに溶解し、水溶液Aとした。炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)の0.047molを超純水300mLに溶解し水溶液Bとした。0.05molのNaOHを100mLの超純水に溶解し水溶液Cとした。
【0044】
水溶液Bを70℃に保持し、攪拌しながら水溶液Aを加えた。さらに、水溶液CをpHが10になるまで添加した。その後さらに温度を維持しながら攪拌を24時間継続し、熟成させた。熟成させた水容液中の生成物を遠心分離で回収した。そして洗浄液のpHが7.5になるまで洗浄した。さらに空気中80℃の環境で12時間乾燥させ、解砕した。これを比較例1の試料(サンプル)とした。
【0045】
図2に実施例1の試料のSEM写真を示す。
図2(a)は、3,000倍、
図2(b)は、10,000倍、
図2(c)は20,000倍の写真である。
図2(a)の写真より、視野中ほぼ全部の粒子が約3μm程度の直径の球状で形成されていることがわかる。また、
図2(b)、(c)の写真より、本発明に係る球状ハイドロタルサイトは、表面が毛糸玉様に形成されているように見える。
【0046】
図3には、粒度分布の測定結果を示す。横軸は粒子径(μm)左縦軸は体積(%)、右縦軸は累積体積(%)を表す。比較例1の粒度分布は、およそ1μmから100μmまでの間にブロードに分布している。一方、実施例1は、10μm付近に粒度分布は集中していた。これより、本発明に係る球状ハイドロタルサイトは、粒度分布が急峻に形成されていることがわかった。
【0047】
図4には、EDS(Energy Dispersive X−ray Spectrometer)の検出結果を示す。横軸はエネルギー(keV)、縦軸はカウント数である。このようなEDSの測定を試料の任意の箇所(5か所)について測定し、MgとAlの原子数比率を求めた。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1を参照して、MgとAlの比率はほぼ1.5であり、[Mg
1−xAl
x(OH)
2][A
n−x/n・mH
2O](A
n−=CO
2−,x=0.33)組成のものが得られたと考えられた。
【0050】
図5には、吸着性の測定結果を示す。実施例1は四角(■)印であり、比較例1は丸(○)印である。横軸は時間(h)であり、縦軸は硫化水素濃度(%)を示す。
図5を参照して、本発明に係る製造方法で作製された実施例1の球状ハイドロタルサイトは、最初の1時間で液相中の硫化水素のおよそ半分を吸着してしまい、その後の硫化水素の濃度の変化はなかった。
【0051】
これは、硫化水素を急速にインターカーレーションによって取込み、その後取込んだまま維持していることを示している。一方、比較例1の試料では、時間の経過と共に液相中の硫化水素を吸収していった。また18時間経過しても、液相中の硫化水素の約1/4程度を吸着できるだけであった。
【0052】
図5の結果より、本発明に係る製造方法で作製された球状ハイドロタルサイトは、吸着性が非常に高く、また吸収速度も速いという特性を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係る製造方法で作製された球状ハイドロタルサイトは、アニオンの吸着性が高く、また吸収速度も速い。したがって、医薬品や樹脂材料中の組成安定性のために用いることができるのはもとより、硫化水素やメチルメルカプタンといった不快臭の吸着剤といった広い用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 検査装置
2 ガラスフラスコ
3 漏斗
4 コック
5 シリンジ
6 ねじ口
10 硫化水素水溶液