(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のような状態監視装置では、監視に用いるデータのノイズを考慮し、一の監視対象につき一の状態パラメータの監視が行われていた。そして、監視対象項目ごとに監視装置がユニット化されており、各演算を上位の制御装置で統括する形態が採られていた。このため、各演算が独自のアルゴリズムを有しており、演算間の接続のために各車両間を通す配線(引き通し線)を鉄道車両に配備する必要があった。このような形態では、状態監視装置の構成が複雑化し、車載スペースを圧迫するほか、配線の複雑化による故障・誤作動を招くことが考えられる。
【0005】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、簡単な構成で精度良く鉄道車両の状態を監視できる状態監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決のため、本発明に係る状態監視装置は、複数の車両が連結された鉄道車両に用いられる状態監視装置であって、鉄道車両の各車両に配置される演算ユニットを備え、演算ユニットは、車両の状態に関する状態パラメータを検出する状態パラメータ検出手段と、状態パラメータ検出手段によって検出された状態パラメータに基づいてマハラノビスの距離を算出し、マハラノビスの距離と閾値との比較によって車両の状態に異常があるか否かを判断する状態判断手段と、状態判断手段による判断結果を近距離無線通信によって隣接する車両の演算ユニットに送信する判断結果送信手段と、を備える。
【0007】
この状態監視装置では、車両で検出された状態パラメータに基づいてマハラノビスの距離を算出し、マハラノビスの距離と閾値との比較によって車両の状態に異常があるか否かを判断する。そして、判断結果を近距離無線通信によって隣接する車両の演算ユニットに送信する。この状態監視装置では、状態パラメータ検出手段によって検出された状態パラメータを多変量解析することにより、多変量解析結果であるマハラノビスの距離のみが単一の変量として扱われる。このため、隣接する車両の演算ユニット間でやり取りされる情報量が軽減され、近距離無線通信による迅速な通信を実行できる。したがって、この状態監視装置では、演算間の接続のために各車両間を通す配線(引き通し線)を車両に配備する必要がなくなり、簡単な構成で精度良く鉄道車両の状態を監視できる。
【0008】
また、判断結果送信手段による判断結果を中継する中継ユニットを更に備え、演算ユニットが車両の一方の妻部に配置され、中継ユニットが車両の他方の妻部に配置されていてもよい。この場合、隣接する車両の演算ユニット間での判断結果の通信を十分な信号強度で実施できる。
【0009】
また、同一車両内での演算ユニットと中継ユニットとの間の判断結果の送信は、近距離無線通信によって行われてもよい。この場合、状態監視装置の構成を一層の簡単化が図られる。
【0010】
また、同一車両内での演算ユニットと中継ユニットとの間の判断結果の送信は、有線通信によって行われてもよい。この場合、車両の長さが長い場合であっても、演算ユニットと中継ユニットとの間の判断結果の通信を十分な信号強度で実施できる。
【0011】
また、状態パラメータ検出手段は、近距離無線通信によって状態判断手段に状態パラメータを送信してもよい。この場合、状態監視装置の構成の一層の簡単化が図られる。
【0012】
また、状態パラメータ検出手段は、有線通信によって状態判断手段に状態パラメータを送信してもよい。この場合、状態パラメータ検出手段によって検出された状態パラメータにノイズが含まれることを抑制できる。
【0013】
また、マハラノビスの距離の算出に用いる基準用の単位空間が鉄道車両毎及び路線毎に格納された単位空間データベースと、鉄道車両を示す鉄道車両ID及び鉄道車両が走行する路線を示す路線IDを基地局から受信するID受信手段と、を更に備え、状態判断手段は、ID受信手段によって受信された鉄道車両ID及び路線IDによって特定される基準用の単位空間を単位空間データベースから抽出してマハラノビスの距離を算出してもよい。この場合、鉄道車両の編成及び鉄道車両の走行路線が変更された場合でも、精度良く鉄道車両の状態を監視できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡単な構成で精度良く鉄道車両の状態を監視できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る状態監視装置の全体構成を示す概要図である。
【
図2】演算及び中継ユニットの機能的な構成要素を示すブロック図である。
【
図3】基準用の単位空間の生成に用いられる状態パラメータの信号の一例を示す図である。
【
図4】判定用の信号空間の生成に用いられる状態パラメータの信号の一例を示す図である。
【
図5】
図4に示した状態パラメータから算出されたマハラノビスの距離を示す図である。
【
図6】判定用の信号空間の生成に用いられる状態パラメータの信号の別の例を示す図である。
【
図7】
図6に示した状態パラメータから算出されたマハラノビスの距離を示す図である。
【
図8】統括ユニットの機能的な構成要素を示すブロック図である。
【
図9】比較例に係る状態監視装置の全体構成を示す概要図である。
【
図10】本発明の変形例に係る状態監視装置の全体構成を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る状態監視装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る状態監視装置の全体構成を示す概要図である。同図に示す状態監視装置1は、複数の車両Cが連結されてなる鉄道車両Tに適用され、脱線や蛇行動といった走行状態の異常の有無や台車部品の劣化などを監視することによって鉄道車両Tの走行時の安全性を担保する装置として構成されている。
【0018】
状態監視装置1は、鉄道車両Tの各車両Cに配置される演算ユニット2と、各車両C,C間の演算ユニット2を中継する中継ユニット3と、これらの演算ユニット2及び中継ユニット3を統括する上位の統括ユニット4とを備えている。演算ユニット2は、主として車両Cの状態に異常が生じているか否かを判断する部分であり、中継ユニット3は、各演算ユニット2の判断結果を統括ユニット4に向けて中継する部分である。また、統括ユニット4は、各演算ユニット2から受信した判断結果の報知や記録を行う部分である。
【0019】
演算ユニット2は、例えば車両Cの一方の妻部(車両Cの長手方向の端部を構成する妻構体によって構成される部分)に配置され、中継ユニット3は、例えば車両Cの他方の妻部に配置されている。一の車両Cの演算ユニット2と、隣接する車両Cの中継ユニット3とは、例えばBluetooth(登録商標)などの近距離無線通信によって互いに情報通信可能に接続されている。また、同一車両における演算ユニット2と、中継ユニット3とについても同様に、例えばBluetoothなどの近距離無線通信によって互いに情報通信可能に接続されている。
【0020】
統括ユニット4は、鉄道車両Tの先頭車両C及び後尾車両C(すなわち運転台5を備えた車両)にそれぞれ配置されている。統括ユニット4は、先頭車両C及び後尾車両Cに配置された中継ユニット3に対して、例えばBluetoothなどの近距離無線通信によって互いに情報通信可能に接続されている。
【0021】
図2は、演算ユニット2及び中継ユニット3の機能的な構成要素を示すブロック図である。同図に示すように、演算ユニット2は、例えば複数の状態パラメータ検出センサ(状態パラメータ検出手段)11(11A〜11C)と、状態判断部(状態判断手段)12と、単位空間データベース13と、通信部(判断結果送信手段)14とを有している。
【0022】
状態パラメータ検出センサ11は、例えば加速度を状態パラメータとして検出する加速度検出センサである。状態パラメータ検出センサ11Aは、例えば車両Cの妻部に配置され、状態パラメータ検出センサ11Bは、例えば車両Cの心皿の上方位置(車両Cの床上、床中、又は床下における台車の回転中心に対応する位置)に配置されている。また、状態パラメータ検出センサ11Cは、例えば車両Cの床上、床中、又は床下の中心位置に配置されている。このような状態パラメータ検出センサ11A〜11Cの配置は、車両Cにおける車輪とレールの接触状態の異常や、ダンパ・バネといった車両Cの台車部分の異常の総合的な監視に対応するものである。状態パラメータ検出センサ11は、検出結果を示す信号を状態判断部12に出力する。
【0023】
なお、状態パラメータ検出センサ11の他の設置場所としては、例えば台車枠や軸箱の近傍などが挙げられる。また、状態パラメータ検出センサ11としては、上述した加速度検出センサのほか、空気ばねの内圧を検出する圧力検出センサ、軸箱の温度を検出する温度検出センサ、輪重や横圧を検出する歪みゲージなどを用いてもよい。
【0024】
状態判断部12は、車両Cの状態に異常があるか否かを判断する部分である。状態判断部12は、状態パラメータ検出センサ11によって検出された状態パラメータに基づいてマハラノビスの距離を算出し、マハラノビスの距離と閾値との比較によって車両Cの状態に異常があるか否かを判断する。
【0025】
状態判断部12は、鉄道車両Tの走行開始前に統括ユニット4から送信される鉄道車両ID及び路線IDを通信部14から受け取り、これらの鉄道車両ID及び路線IDに基づいて単位空間データベース13を参照する。鉄道車両IDは、状態監視装置1が配備される鉄道車両Tを特定する情報であり、例えば先頭車両C側の統括ユニット4の管理ナンバーなどが宛がわれる。路線IDは、状態監視装置1が配備される鉄道車両Tが走行する路線を特定する情報であり、例えば路線中の主要駅或いは路線が属する電車区に割り振られたナンバーなどが宛がわれる。
【0026】
単位空間データベース13には、例えばm個の鉄道車両IDと基準用の単位空間とが路線ID毎及び時刻毎に予め格納されている。基準用の単位空間は、鉄道車両Tが正常な状態で走行した場合の状態パラメータ検出センサ11からの信号(例えば
図3参照)を予め取得しておくことで、当該信号に含まれるn個の測定値(x
1〜x
n)によって構成される。これらの測定値に基づくMT(Mahalanobis−Taguchi)システムの単位空間が基準用の単位空間となる。
【0027】
状態判断部12は、鉄道車両Tの走行時に状態パラメータ検出センサ11から検出結果を示す信号を受け取ると、鉄道車両ID及び路線IDに基づいて単位空間データベース13から基準用の単位空間を抽出する。そして、信号に含まれるn個の測定値(Y
1〜Y
n)に基づき判定用の信号空間を生成し、判定用の信号空間と抽出した基準用の単位空間とを用いてマハラノビスの距離を算出する。状態判断部12は、算出されたマハラノビスの距離と閾値との比較によって車両Cの状態に異常があるか否かを判断する。
【0028】
図4は、判定用の信号空間の生成に用いられる状態パラメータの信号の一例を示す図である。同図に示す信号は、鉄道車両が正常な状態で走行した場合に状態パラメータ検出センサ11で検出された信号である。この場合、
図5に示すように、算出されるマハラノビスの距離は、平均値で1程度となっており、全時間帯にわたってピークも検出されない。
【0029】
一方、
図6は、判定用の信号空間の生成に用いられる状態パラメータの信号の他の例を示す図である。同図に示す信号は、鉄道車両が10km/時以下の低速で脱線した場合に状態パラメータ検出センサ11で検出された信号である。この場合、
図7に示すように、算出されるマハラノビスの距離は、ピーク値で600程度となっており、脱線が生じた時刻を中心に複数のピークが検出される。したがって、例えばマハラノビスの距離の閾値を4程度に設定しておくことで、車両Cの状態に異常があるか否かを好適に判断できる。状態判断部12は、判断結果を通信部14に出力する。
【0030】
なお、基準用の単位空間の生成及び判定用の信号空間の生成に、車両ID、路線ID、及び時刻の値をそれぞれ含めたm行×(n+3)列の行列を用いてもよい。MTシステムの特徴として、列ごとの相違が相関行列の値として顕著に表れるため、車両ID、路線ID、及び時刻の値を含めることで、データ入力の誤り等を防止することが可能となる。
【0031】
通信部14は、
図2に示すように、隣接する中継ユニット3との間で情報の送受信を行う部分である。通信部14は、隣接する統括ユニット4側の中継ユニット3から車両ID及び路線IDを受信した場合には、これらの車両ID及び路線IDを状態判断部12に出力する。通信部14は、状態判断部12から判断結果を受け取った場合には、当該判断結果を隣接する統括ユニット4側の中継ユニット3に判断結果を送信する。さらに、通信部14は、隣接する中継ユニット3から他の演算ユニット2における判断結果を受信した場合には、当該判断結果を隣接する統括ユニット4側の中継ユニット3に送信する。
【0032】
中継ユニット3は、
図2に示すように、機能的な構成要素として、例えば通信部21を有している。通信部21は、隣接する統括ユニット4側の演算ユニット2から車両ID及び路線IDを受信した場合には、これらの車両ID及び路線IDを反対側の演算ユニット2に送信する。また、通信部21は、隣接する演算ユニット2から判断結果を受信した場合には、当該判断結果を隣接する統括ユニット4側の演算ユニット2に送信する。
【0033】
図8は、統括ユニット4の機能的な構成要素を示すブロック図である。同図に示すように、統括ユニット4は、例えば通信部31と、報知部32と、判断結果格納部33とを有している。
【0034】
通信部31は、隣接する中継ユニット3との間で情報の送受信を行う部分であり、例えば判断結果受信部34と、ID受信部(ID受信手段)35とを含んでいる。判断結果受信部34は、隣接する中継ユニット3から受け取った判断結果を報知部32と判断結果格納部33とにそれぞれ出力する。また、ID受信部35は、鉄道車両IDと路線IDとを基地局から受信し、中継ユニット3を介して各演算ユニット2にそれぞれ送信する。鉄道車両IDと路線IDとを送信する基地局は、例えば駅構内や各電車区内に設定されている。
【0035】
報知部32は、通信部31から受け取った判断結果を報知する部分である。報知部32は、例えばディスプレイを備え、鉄道車両Tの走行時に車両C毎の判断結果を表示する。また、報知部32は、車両Cの状態に異常がある旨の判断結果を受け取った場合には、スピーカによって警告音を出力する。
【0036】
判断結果格納部33は、判断結果を格納する部分である。判断結果格納部33には、例えば通信部31が判断結果を受け取った時刻と判断結果とが関連付けられて格納される。
【0037】
続いて、上述した構成を有する状態監視装置1の作用効果について説明する。
【0038】
従来の状態監視装置では、一の監視対象につき一の状態パラメータの監視が行われており、監視対象項目ごとに監視装置がユニット化されており、各演算を上位の制御装置で統括する形態が採られていた。このため、各演算が独自のアルゴリズムを有しており、例えば
図9に示す状態監視装置100のように、各車両Cに配備される演算ユニット102,102の接続及び演算ユニット102と統括ユニット104との接続のために各車両C,C間を通す引き通し線105を鉄道車両Tに配備する必要があった。このような形態では、状態監視装置100の構成が複雑化し、車載スペースを圧迫するほか、配線の複雑化による故障・誤作動を招くことが考えられる。
【0039】
これに対し、本実施形態に係る状態監視装置1では、車両Cで検出された状態パラメータに基づいてマハラノビスの距離を算出し、マハラノビスの距離と閾値との比較によって車両Cの状態に異常があるか否かを判断する。そして、判断結果を近距離無線通信によって隣接する車両Cの演算ユニット2に送信する。この状態監視装置1では、状態パラメータ検出センサ11によって検出された状態パラメータを多変量解析することにより、多変量解析結果であるマハラノビスの距離のみが単一の変量として扱われる。このため、隣接する車両Cの演算ユニット2,2間でやり取りされる情報量が軽減され、近距離無線通信による迅速な通信を実行できる。したがって、この状態監視装置1では、演算ユニット2,2間の接続のために各車両C,C間を通す引き通し線を鉄道車両Tに配備する必要がなくなり、簡単な構成で精度良く鉄道車両Tの状態を監視できる。
【0040】
また、状態監視装置1では、演算ユニット2から送信された判断結果を中継する中継ユニット3を更に備え、演算ユニット2が車両Cの一方の妻部に配置され、中継ユニット3が車両Cの他方の妻部に配置されている。これにより、隣接する車両Cの演算ユニット2,2間での判断結果の通信を十分な信号強度で実施できる。
【0041】
また、状態監視装置1では、同一車両C内での演算ユニット2と中継ユニット3との間の判断結果の送信、及び状態パラメータ検出センサ11から状態判断部12への状態パラメータの送信が近距離無線通信によって行われている。これにより、状態監視装置1の構成の一層の簡単化が図られる。
【0042】
また、状態監視装置1では、基地局から受信した鉄道車両ID及び路線IDによって特定される基準用の単位空間を単位空間データベース13から抽出してマハラノビスの距離を算出している。これにより、鉄道車両Tの編成及び鉄道車両Tの走行路線が変更された場合でも、精度良く鉄道車両Tの状態を監視できる。
【0043】
本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上述した実施形態では、演算ユニット2,2間に中継ユニット3を配置しているが、近距離無線通信の通信強度が十分に確保される環境下では、中継ユニット3を配置しなくてもよい。また、例えば状態パラメータ検出センサ11を多数配置する場合には、状態パラメータ検出センサ11の一部と、状態判断部12と、単位空間データベース13とを中継ユニット3にも配置し、車両Cの状態に異常があるか否かの判断に関する処理を演算ユニット2と中継ユニット3とで分担させるようにしてもよい。
【0044】
また、上述した実施形態では、同一車両Cでの演算ユニット2と中継ユニット3との間の通信を近距離無線通信によって行っているが、例えば
図10に示す状態監視装置41のように、同一車両Cでの演算ユニット2と中継ユニット3との間の通信を有線通信によって行ってもよい。この場合、車両Cの長さが長い場合であっても、演算ユニット2と中継ユニット3との間の判断結果の通信を十分な信号強度で実施できる。この場合でも、車両C,C間を跨ぐ配線は存在しないので、状態監視装置41の構成が複雑化することを回避できる。
【0045】
また、上述した実施形態では、状態パラメータ検出センサ11から状態判断部12への状態パラメータの送信が近距離無線通信によって行われているが、状態パラメータ検出センサ11から状態判断部12への状態パラメータの送信を有線通信によって行ってもよい。この場合、状態パラメータ検出センサ11によって検出された状態パラメータにノイズが含まれることを抑制できる。したがって、通信環境に依らずに精度良く鉄道車両Tの状態を監視できる。